遊戯王世界に転生したら、ラスボス達に懐かれました 作:今こそ一つに
ストック? なんだいそれは。
「ん、ぐ・・・・・・」
首元に圧迫感を覚えて、ボクは目を覚ました。喉の上に乗っかっている腕をどけて、上体を起こした。
「・・・・・・すぅ、すぅ」
ボクの首を絞めるように──というか、抱きついて寝ていたのは、イシュだ。つい先日、究極神に取り付かれ、そして解放された、ボクの姉代わりみたいな存在。
あの後、意識を取り戻したイシュは、ここ一週間の記憶を失っていた。究極神に取り付かれたときの事は──実体化した
『おのれ、本来であれば我がその位置に居たはずだと言うのに・・・・・・!』
そして、e・ラーはそんなイシュに対してよくわからない怒りを向けていた。
「・・・・・・なんで怒ってるんだ、e・ラー。こんな朝っぱらから」
『怒ってなどいないが? 羨ましくなど無いが?
別に我の方が大きいのになーとか思ってないが!?』
「どういうテンションなんだお前・・・・・・」
あの戦いの後あたりから、e・ラーの態度が変だ。前まではだいぶ感情がわかりやすかったのに、急にわからなくなる時が増えた。
ただの情緒不安定なら良いが、これもe・ラーの力が強まっている証左なんだろうか。いや、なんか違う気がするな。
「ぅん、ふぁあ・・・・・・おはよう、キョウジ」
「・・・・・・おはようイシュ。頼むから、寝てるときにボクの首を絞めるのはやめてくれ」
「・・・・・・??」
まだ脳が完全に起きてはいないのか、首を傾げるイシュ。どうしよう。世界が滅ぶとかよりも先に、身内に殺される。
「取り敢えず、起きようか。今日も研究の手伝いがあるんでしょ?」
「そうね。あの遺跡もそうだし・・・・・・私は覚えていないんだけど、地震の影響で色々と見つかっているらしいの」
何が見つかっているんだろうか。
遊戯王シリーズの敵って、古代の存在が多いんだよな・・・・・・。
「なら、そのうちまた手伝わせてよ。資料の整理だけでも良いからさ」
「ふふふ、ありがとう。キョウジがデュエル考古学に興味を持ってくれたみたいで、嬉しいわ。
でも、流石に整理整頓くらいは自分で・・・・・・」
「出来ないでしょ、イシュは。すぐに散らかすんだから」
ボクの指摘に、イシュは露骨に目を逸らした。そして知らん顔して部屋から出ようとする。
「そ、それじゃ私、朝ご飯たべてくるわね」
「イシュ。お願いだから、致命的なことになる前に呼んでね。頼むから」
「うぐっ、わ、わかってるわよ」
イシュは逃げるように部屋を去って行った。ボクはそれを半眼で見送る。
『なぜ我は朝からこんなやり取りを見せられねばならんのだ・・・・・・!?
我はキョウジと契約して距離が近くなったはずでは!? どうして我の方が絶望しかけているのだ!?』
後ろで騒がしいe・ラーの事は、もう放置しておくか。触らぬ神に祟りなしって言うし。いやまぁ、完全に触りきってるし、契約までしてしまったんだけど。
「はぁ・・・・・・契約、したんだよな」
『む、ようやく絶望しだしたか。
そうだぞ? 我はあれだけ忠告したのに、貴様がどーしてもと言うから、契約したのだ』
やや顔を赤くしながら、そのデカい胸を張って腕組みしているe・ラー。
おかしいな、ボクは契約を
『どうしたのだ? ん? 貴様、確か『後悔したくない』とか言いながら我と契約したな。
今の気分はどうだ?』
「後悔しないわけ無いだろ。相手は絶望の神だぞ」
あんなの、ただの強がりだ。e・ラーを説得するためでもあった。
『そ、そうか・・・・・・後悔しているか・・・・・・そうだよな、うん』
何故か沈んだ様子で目を伏せるe・ラー。なんか調子狂うな。
「なんでちょっと悲しそうなんだ。喜ぶところじゃないのか?」
『貴様、我のことを何だと思っているのだ。我は他人の不幸を喜ぶタイプだとでも思っているのか?』
「うん」
『貴様! 確かに我もその自覚はあるが、契約者の不幸を喜ぶほど落ちぶれてはいないわ!』
え、嘘だろ。契約者に力を与える代わりに絶望させてるのに。絶望を己の力にしてるのに。
『ええい、その信じてない眼をこちらに向けるで無いっ!
少なくとも貴様の不幸は普通に悲しいわ!』
「あー、うん。わかった。ありがとうe・ラー。無理させてゴメンな」
『何もわかっていないではないか! ちょ、待てキョウジ! 溜め息をつくな! 額を押さえるな! キョウジ!!!』
ボクは何故か残念さが増した絶望神を放置して、キッチンへと足を向けた。
既にイシュは朝食を済ませたらしく、ボクは一人で食事を摂る。いやまぁ、後ろにふよふよとe・ラーは着いてきているが。
「それにしても。ボクが究極神を倒したなんて、未だに信じられないな・・・・・・」
ボクの呟きに、いつの間にか機嫌を直したらしいe・ラーは霊体のまま隣の席に腰掛ける。
『信じられないも何も、事実だろう。
その証拠もあるのだから』
そう言われ、腰のデッキケースを指さされる。ボクは渋面をしながら、そこから一枚のカードを取り出した。
《アルティマヤ・ツィオルキン》──究極神のカード。不完全な状態だったからか、《究極幻神アルティミトル・ビシバールキン》ではない。究極神を取り込んだe・ラーによって形作られたカード。ボクの手にした、新たな力。
でも、ここで気付いて欲しい。このカード、まず出すのにレベル5以上のチューナーが必要だ。ボクの持ってるカードにチューナーなんて一枚も存在しないし、高レベルのモンスターを出せるほど展開力も無い。
次に、よしんばこのカードを場に出せたとして、このカードから出せるモンスターも当然一枚も所持していない。何なんだレベル7・8のドラゴンシンクロモンスターって。『パワー・ツール』名指しって、持ってる訳ないだろ。
「・・・・・・なぁe・ラー。コレってボクの戦力増強になるのか?
これから先の人生も絶望ばっかりなんだよな? せめて強くなりたいんだけど」
『言っておくが、我のせいでは無いぞ。
恐らく、ヤツの使ったカードはあの場で作られた代物で、本物はこの一枚のみだったのだろうな。
あの女のデッキを調べたが、特に異変は見受けられなかった』
なら、あの《地縛共振》も究極神の作り出したカードだったって事か。ならもっと強いオリカとか作れば良かったのに・・・・・・完全には復活していないから、ということなんだろうか。
カードを作り出した方に関しては、そうだろうなとしか。ラスボスに憑依されたら急にデッキの中身が変わるのはよくある事だし。
『それよりも。気をつけろよ、キョウジ。
先日の戦いによる地震と、貴様が我と契約した事。それによって、更なる強敵が我らの前に現れるだろうからな』
「まぁ、そうだよな・・・・・・そういう契約だし」
ボクとしては勘弁して欲しいけど・・・・・・希望が、無いわけでもない。
こうしてラスボスやそれに連なる存在と戦っていけば、いずれズァークにも勝てるようになるかもしれない。いや、勝てなくてもせめて引き分けくらいで、こう、世界の崩壊を止められたらいいな・・・・・・。
多分、こういう希望も打ち砕かれて絶望になるんだろうけど。
『しかし、キョウジよ。ここ数日、絶望が少ないぞ。
そんな調子では、我が力を取り戻せないだろう』
「それはこっちとしても望むところなんだけどな」
『たわけ。それでは今後のデュエルで全力が出せぬ。
わかったらほどほどに絶望せよ。こう、貴様が沈み込まない程度で、でも我の腹が膨れるような・・・・・・』
「そんな器用に絶望できてたまるか」
なんというか、この先ずっと絶望ばかりだと思うと、諦めに近い感情になってしまうのは、ボクだけなんだろうか。
というか、e・ラーはボクに絶望させたいのかさせたくないのか、どっちなんだ。
『全く、先が思いやられるな。そんな調子では、あの小僧を止められぬぞ?』
「・・・・・・ボクが絶望し過ぎたら吐き出す癖に」
『待て、それは不可抗力というか我のせいでは無いが!?
貴様の絶望が濃くて多すぎるのが悪い!!』
変な言い方するな! ボク朝ご飯の最中なんだけど!?
後日。
「見てみてー、キョウジお兄ちゃん! カード拾ったの! きゃは☆」
『あどーもどーも、お兄さん! この子と結婚する事になりました、ウリアッス。
・・・・・・ん? テメー俺のこと見えてるな?』
宇里亜が拾ってきたカード──《神炎皇ウリア》と、彼女の側に小さな姿で漂うその精霊らしき存在に、キョウジは速攻で絶望を深めることになるのだった。
キョウジ
一難去ってまた一難。救いは無いのですか?
e・ラー
ウリアに絶望するキョウジの後ろで口元を押さえている。
神炎皇ウリア
唐突に現れたラスボス(の一部)。
三幻魔は使用者を若返らせて永遠の命を与える≒ロリコン・ショタコン、というこじつけ設定。
宇里亜
当然、ウリアの姿は見えていない。『凄いカード拾っちゃった~!』というだけ。