遊戯王世界に転生したら、ラスボス達に懐かれました 作:今こそ一つに
あくまでこの作品は二次創作であって、原作を貶めるような意図はありません。が、展開の都合上不愉快に思われる可能性のある設定があります(ノリと勢いでe・ラーを出した弊害)。ご容赦ください。
あの後、気まずい空気になったボクは、思考を放棄してベッドに戻り、そのまま眠った。e・ラーが出てきた時には本気で焦ったのだが、直後のポンコツっぷりを見て、何か色々どうでもよくなったのだ。ボクに扱えるかどうかはわからないが、《絶望神アンチホープ》という《覇王龍ズァーク》に対して抑止力になり得るカードを得られたのもあるだろう。
本人(本神? 本柱?)は、
『バカな・・・・・・! あの世界で敗北し衰えたとは言え、この我がこんな小僧一人操れぬだと・・・・・・!?』
とかなんとか動揺していた。が、別世界で
タイミング良く睡魔もやって来たので、ぐっすりと眠れた。
しかし、問題は起きてからである。一瞬昨晩のことが夢であれと神に祈りかけたが、視界の端でふよふよと浮いている半透明の
『ふん、ようやく目覚めたか。全く、この我が何度も声をかけたというのに、憎たらしいくらいに熟睡しおって・・・・・・!』
怒りに肩を震わせるe・ラー。そんなことボクに言われても困る。
「というか、何でお前がこの世界に居るんだ、e・ラー。確かにあらゆる次元を超えられるって言われていたけど、お前はアストラルが自分を犠牲にして封印したはずだろ」
睡眠不足と起きたばかりだったこともあって、ボクは迂闊なことに前世でしか知り得ない知識を口にしてしまった。言ってから「ヤバいって!」と思ったが、後の祭り。『ほう?』とe・ラーは興味深そうにその美しい唇の端を持ち上げた。
『我のことを知っているだけではなく、あの世界での出来事まで把握しているのか。実に面白いな』
どうしよう、今のは完全に失言だ。しかも相手は世界を滅ぼせるラスボス、『スケール1(笑)』とか言われていたズァークとは違い、正真正銘、世界の破壊を企む存在である。
『まぁ
あの戦いの後、九十九遊馬とアストラルは、暢気にも互いにデュエルを始めた。その隙に、我の力の一部を逃がしたのよ。ククク、そうとも知らずに平和になったと思い込んでいる奴らの事を思うと、滑稽過ぎて笑いが止まらんな! フハハハハッ!』
呵々大笑するe・ラー。いくらラスボスとは言え、とんでもないことをしてくれる。というか、そうなるとアストラルの犠牲が水の泡だ、酷すぎる。何だろう、感動的なラストを迎えた作品を、後日譚とかスピンオフで台無しにされたのと同じ感覚だ。前世でも似たようなことがあったので、なんとなく言語化することができた。
『ん? こうも簡単に絶望するとはな。やや質が悪いが、それなりの味の絶望だな』
そう言いつつe・ラーが軽く唇を動かすと、ボクの中から負の感情が抜けていく。驚いてe・ラーへと振り向くと、彼女はチロリと妖しく唇を舐めたところだった。
「・・・・・・なるほど、だから昨日は熟睡できたのか」
作中でも、e・ラーは絶望を力にすると言っていた。それがボクにとって良い方向に作用してくれたのだろう。昨晩もそれで不安や恐怖、絶望といった負の感情が消え、安眠することができたようだ。記憶を取り戻してから、こんなに眠ったのは初めてな気がする。
とは言え、だ。
「でもそうすると、e・ラーが力を取り戻しちゃうんだよな・・・・・・」
『ほう、気づいたか。お前が絶望する度に我はそれを食らい、我の力が増したことに再びお前は絶望する。これぞ、絶望の永久機関。フフフ、こうなると、昨夜お前の意識を奪えなかったのは僥倖だったな』
正に無限ループ! 最悪のループだ。なまじ、ボクが知識としてe・ラーを知っている分タチが悪い。
何でこう、詰んだ状態が重なるだろうか。本当に絶望でしかない。
『んぅ、甘美な絶望だ。生きることへの渇望、魂の救いを求めもがき苦しむ姿はやはり八雲興司そのものよな・・・・・・』
両手で腕を抱きながら身体を震わせるe・ラーの姿は、かなり艶っぽい。だからe・ローとか言われるんだよ、とは口に出さないでおこう。
「・・・・・・何か食べよう」
考え事をしても、目の前の存在に力を与えるだけだと察したボクは、思考を止めて本能に従って動くことにした。取りあえず、腹の虫をなだめることにしよう。
『む、もう終わりか。もう少し絶望しても良いのだぞ? ん?』
「ご飯をねだる子供か。というか、お前に力を与えるだけだってわかってるのに、
なるべく脳を使わないようにしてボクがそう言うと、e・ラーはつまらなそうに眉尻を下げた。そしてこちらを絶望させようとしてか、思案するように右手を顎に持って行く。
『ふむ。これは我も口にしたくなかったことだが──小僧、昨日手にしたカードを見てみよ』
「?」
言われてカードを確認してみる。そこに記されていたのは、ボクも良く知っている、《絶望神アンチホープ》の効果が──って、
「効果がOCG版になっている、だと・・・・・・!?」
そこにあったのは、エクシーズ召喚を封じるようなものではなく、レベル1モンスター四体という重すぎる召喚コストと、それに見合わない控えめな効果とデメリット。「ハイレベルな決闘を約束する至高の1枚!!」とか「漫画の超絶効果を再現だ!!」という
『フフ、おーしーじー版、というのは良くわからぬが。希望の一つが潰えた時に生まれる絶望、やはり美味だ・・・・・・
そのカードは我の力が弱まってしまった証でもあるのだが、今となっては些細な問題だろう』
そう、ボクが昨晩手にしたのはエクシーズモンスターメタを持つ原作の《絶望神アンチホープ》ではなく、対戦相手の代わりに使用者に絶望を与える、ウ●チホープとすら揶揄された、OCG版の《絶望神アンチホープ》だった。
やっぱり神ってロクなもんじゃない。
その日、ズァークは茶封筒を前に腕を組んでいた。孤児院の食事スペース、そこにあるテーブルに一人座り、何かを待っている様子だ。
「・・・・・・・・・・・・遅い」
彼が待っているのは当然、無二の友であるキョウジである。朝方部屋まで起こしに行った際に、久しぶりに熟睡しているようだったので、そのまま引き返したのだ。階段から落ちてから、傷が痛むのか余り寝付けていない様子だったので心配していたのだが、どうやら解消されたらしい。こんなとき、病院に連れて行く余裕のない孤児院の現状を恨めしく思う。
だからこそ、彼はプロデュエリストへの道を、ひいてはデュエルチャンピオンとなることを志したのだ。そのための第一歩が、今目の前にある。
ズァークが今睨み付けている茶封筒こそ、彼のプロ試験の結果を通達するものであり、彼がキョウジを待っている理由でもある。どんな結果であれ、自分に一番期待してくれた彼と分かち合いたいという思いからこうしてキョウジを待っているのだが、いくら待っても彼はやってこない。また部屋に行こうかと考えたが、折角ゆっくり眠っている彼を起こすのは気が引ける。故に、ズァークはこうしてキョウジを待ち続けているのだ。
いい加減ズァークが耐えきれずあわや覇王になりかねない、というタイミングで、扉が開いた。
「・・・・・・おはようございます」
ガチャリという音と共に、遅すぎる朝の挨拶が響く。残像すら見えそうなスピードでズァークが振り返ると、声の主であるキョウジも、彼に気づいたようだ。
「おはよう、ズァーク。どうしたんだ、一人で座って」
そう言うキョウジは、どことなく疲れた様子である。顔色は良いのだが、ズァークには何故かそう見えた。
「もうお昼になるぞ、キョウジ。それに、疲れてる様に見える。どうかしたのか?」
「あー、ちょっと夢見が悪くってね」
なるほど、とズァークは納得した。体調は万全だが、精神的に少し疲弊してしまったのだろう。確かに、遊戯王世界のラスボス二柱に挟まれるなど、悪夢と言って差し支えない出来事である。
「なら、枕の下にカードを置いて寝るといい。いい夢が見られるんだ」
ズァークはほぼ毎日のように《オッドアイズ・ドラゴン》を枕の下に敷いて寝ている。そんなことをすれば折れてしまうのではないか、と懸念されるが、この世界のカードは異常なまでに頑丈で、折れにくいのだ。傷が付くようなことも
「ありがとう、今度試してみるよ」
キョウジの脳裏に「《絶望神アンチホープ》を置いたらどんな夢になるんだろう」という興味が湧いたが、無言のまま却下した。ラスボスが使うようなカードである、ほぼ確実に悪夢だろう。半透明の姿でキョウジの側を暇そうに漂っているe・ラーの来歴を鑑みるに、他の惑星を破壊する夢でも見るのだろうか。
「それで、その封筒は?」
「ああ、一緒に開けようと思って待ってたんだ」
キョウジの確認に首肯しつつ、ズァークは茶封筒を手に取り、封を開く。出てきた書類を二人して緊張した面持ちになって開くと、そこには──
「『プロデュエリスト認定試験、合格』──やった! やったぞキョウジ!」
「あ、あぁ。おめでとうズァーク。これで世界チャンピオンに一歩近づいたな」
その場で飛び跳ね、キョウジに抱きつくほどに喜ぶズァーク。だが、キョウジの表情は笑顔ながらも、やや影の差したものになっている。彼にとって、ズァークがプロになるということは、覇王になるための第一歩を踏み出したのと同じなのだから。
キョウジは友を純粋に祝福できない己が、どこまでも恨めしかった。
ズァーク
プロ入りおめでとうございます。
キョウジ
底知れぬ絶望の闇に沈んだ。
e・ラー
弱体化しているが、それなりのスピードで絶望を補充している。とは言え漫画版ZEXAL最終決戦レベルまで回復するには数十年必要な模様(尚、そこまでしなくても世界は滅ぼせる)。