遊戯王世界に転生したら、ラスボス達に懐かれました   作:今こそ一つに

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だが奴は・・・・・・弾けた。あらぬ方向に。

 プロデュエリストとして多忙なズァークだったが、その日は二週間に一度の休日だった。

 プロというのはなにもデュエルするだけではなく、スポンサーである企業のコマーシャルに出たり、デュエル雑誌に掲載される写真の撮影だったり、インタビューだったりと、デュエル以外のことにも時間を割かなければならない。今までの試合で好成績を納め、いくつかの大会でも優勝しているズァークは、期待の新星としてメディアに引っ張りだこだった。

 

 そんな彼だったが、デュエリスト特有の超体力で忙しい日々を乗り切っている。なにより、自分がそういった仕事をこなすことで孤児院が豊かになる。成果が目に見える形で現れる環境は、ズァークのやる気を大いに上げた。

 

 今もつい最近に新しくした掛け時計を見て時間を確認したところだった。

 

「遅いな、キョウジ・・・・・・」

 

 ズァークは未だに起きてこない親友を思う。時刻は十時前、電気代を抑えるために早寝早起きが習慣になっているこの孤児院でこんな時間まで眠ることが許されているのも、ズァークの努力によるものだろう。

 疲れているのかと気にしないでいたが、こうも眠ったままだと心配になる。

 

 一緒に遊んでいた宇里亜(うりあ)がズァークの考えを察してか、口を開いた。

 

「キョウジお兄ちゃん、起こしにいってあげたのに、ぜーんぜん起きなかった」

 

 不満そうに頬を膨らませる宇里亜。ズァークが悪戯心からその頬を両手で押してみると、「ぶー」と空気が吐き出された。

 

「きゃは☆ もー!」

 

 そうして宇里亜とひとしきり戯れた後、やはり心配なのかキョウジは様子を見に行くことにした。

 

「ちょっとキョウジを起こしてくるよ。寝過ぎは身体に良くないしな」

 

 「はーい☆」という宇里亜の返事を背に、親友の部屋へと向かったズァークだったが、扉に手をかけた瞬間、背中に悪寒が走る。

 

「・・・・・・?」

 

 決闘者(デュエリスト)としての直感、だろうか。何か、とてつもなく嫌な予感がしたのだ。扉の中を見てはいけない、という予感が。

 

「・・・・・・いや、気のせいか」

 

 きっと、知らないうちに疲れが貯まっていたのだろう。今度気晴らしにレイと喫茶店にでも行こう、などと考えつつ、ドアノブを引く。

 

「キョウジ、もう十時だ、ぞ・・・・・・!?」

 

 彼の部屋は、いつも通りだった。物が少なく、あるのはせいぜい机と昆虫関連の本の入った本棚、そしてベッド。前に見たときとほとんど変わらない、整理された空間。

 そのはずなのに、何故か空気が重い。まるで他者を拒絶するかのように、鈍く(まと)わり()いてくる。

 

「・・・・・・キョウジ?」

 

 ベッドで眠っている親友は、まるで死んでいるようだった。確かに呼吸はしている。なのに、まるで死人のように動かず、そして静かだった。

 重い身体を動かし、親友の安否を確認するべく近づく。その際に、ベッドの周りに何枚かのカードが落ちていることに気付いた。

 

「・・・・・・?」

 

 大切なカードを落としておくなんてキョウジらしくない、と反射的にズァークはカードを拾おうとする。

 

 カードに触れた瞬間、ズァークは誰かの悲鳴が聞こえた気がした。いや、それはズァーク自身のものだったのかもしれない。

 

 それは、悲しみだった。それは、嘆きだった。それは、怒りだった。それは、苦しみだった。そしてそれは、絶望だった。

 

 カードに触れた瞬間、そのカードの声が聞こえたのだ。呻くような、叫ぶような、言葉にならない声。それでいて感情を直に叩きつけてくる、剥き出しの声が。絶望にもがきながら、救いを求める声が。

 

 カードの枠色である黒が溢れ、ズァークを蝕む。指を伝い、腕を染め、肘までもが黒く侵される。

 

「う、うわぁ!!」

 

 恐怖のままに叫び、ズァークはカードを投げるように手放す。その反動で尻餅を突くも、逃げるように地面を這い後退する。カードから離れたためか、いつのまにか声は止んでいた。

 

 慌てて右腕を確認する。ある。普段から見慣れた、自分の利き腕が、キチンとそこに。

 

「い、今のは・・・・・・」

 

 未だに震える身体を庇うように抱き、ズァークは呆然と呟く。

 

 今まで、カードの声を聞いたことはあった。声、といったでも言語ではなく、カードの意思がなんとなくわかる、といった程度のものだ。相棒である《オッドアイズ・ドラゴン》や先日仲間になった《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》の声は、頻繁に聞こえる。

 だが、今回のは違う。ズァーク自身にもわからないが、彼らの声と、いま聞いた声は、何かが違っていた。まるで、誰かの感情が、カードを通して流れ込んできたかのような──

 

「──まさか」

 

 自分の考えを疑いながら、ズァークはこの部屋の主であるキョウジへと目を向ける。

 

 あの嘆きが、絶望が彼のものだとすれば。世界の全てを呪うかのような思いを、彼が抱いているとすれば。

 

「・・・・・・キョウジ」

 

 そんなにも世界を(うら)んでいるのか、親友(キョウジ)

 

 ならばオレは──。

 

 

『・・・・・・ふむ。こんなものか』

 

 誰かの呟きが聞こえた。浮上する意識に従って、瞼を開く。かなり快適な寝覚めだった。何故だか、とても長く眠っていたような気がする。

 

 上体を起こし、時計を見てみると、既に時刻は十三時──完全に寝過ぎだった。

 

「しまった!? って、何やってるんだe・ラー・・・・・・?」

 

 慌ててベッドから降りようとして、目に入った絶望の神様(e・ラー)の姿に、ボクは思わず動きを止めた。

 

 そこに居たのは、背丈の低い少女だった。長い黒髪と金色の前髪、額や目の下の模様が妖しい印象を抱かせる。胸元や耳の辺りには蝶の羽のような飾りが付いており、身につけているのは腰の辺りからスリットの入った黒いスカートのような意匠。そして小柄になっても主張の激しい(ふく)よかな胸。

 肩にかかっているマントは消えているものの、どう見ても幼女の姿になったe・ラーだった。なぁにこれぇ?

 

「お前・・・・・・何してるんだ?」

 

『我の力がかなり溜まってきたのでな。お前の好みに近い姿を取ってやったのだ』

 

「いや、別にロリ好きでは無いんだけど」

 

『こうして褒美も与えてやるから、今後はもう少し加減して、適度に絶望を我に供給するのだ』

 

 オイオイしようぜ? 言葉のキャッチボールをよォ!

 

 というか、要求が『もっと絶望を寄越せ』じゃなくて『加減しろ』な辺り、また絶望を吐いたのだろうか。軽く周囲の床を見回すと、e・ラーから作り出されたと思わしきカードが何枚か落ちていた。

 

「・・・・・・《デッドリー・シン》、《ラベノス・タランチュラ》に《ペイン・ゲイナー》、そして《ザ・セブン・シンズ》・・・・・・」

 

 『No.(ナンバーズ)』では無くなっているものの、どれも八雲興司の使っていたカード達だ。というか、どうして四枚もあるのだろうか。そんなに寝ている間に絶望したんだろうか、ボク。このカード達について考えると絶望するだけなので、ケースに仕舞って思考から追い出す。

 

『しかし、この姿を維持するのも少々骨が折れるな・・・・・・。

 キョウジ、お前もう少し絶望せぬか? ん?』

 

「いや、しませんけど・・・・・・」

 

 腕を組んでこちらに問うe・ラーに否定を返す。

 背が低くなったためか、ベッドに腰掛けるボクと目線の高さが同じくらいであり、やや違和感を覚える。というか、せっかく力を溜めたのにロリ化して消耗してるんじゃ意味無いんじゃ。指摘するとe・ラーに好都合なだけだから、敢えて黙っておくけど。

 

『しかし、背丈が変わるとこうも見え方が変わるのだな。お前の顔がよく見える』

 

 何やら感心した様子で近づき、ボクを眺めるe・ロー改めe・ローリ。実体が無いんだし、普段の姿で半分ほど埋まれば良いだけじゃ、とは口にしないでおく。こんなのに滅ぼされた世界が幾つもあると考えると、なんとも言えない気持ちになる。

 

『む? ようやく絶望したか。全く、手間のかかるヤツよな』

 

 まるで保護者かのような言い草をするe・ラー。ペロリと唇を舐める姿は、普段の妖艶さが無くなって幼く見える。このまま絶望ロリの相手をしていても気分が落ち込むだけなので、ベッドから立ち上がって話を打ち切る。

 

「取りあえず、ご飯食べるか・・・・・・」

 

 あまりに長く寝ているとまた心配させてしまうし、かなりお腹も空いている。今朝はe・ラーの嘔吐く姿を見ていないからか、それなりに食欲があった。

 

 食事スペースへと向かうと、イシュが座って書類仕事をしていた。集中して周囲が見えなくなっていたのか、書類達は机の上に散らかっているし、多分後で片付けに苦労するんだろうな・・・・・・。

 しかし、居ると思っていたズァークの姿が見えない。今日は久しぶりの休日だから、一緒にお昼を食べようと誘ってくるかと思ったのに、予想は外れたらしい。相手が将来の覇王であることを除けば親友との食事は楽しいし、少し残念だった。

 

「イシュ、ズァークは?」

 

「出かけたわよ? 午後からD‐ホイールの練習をするんだ、って」

 

 休日返上してまで練習とは、相変わらずボクの親友はデュエル馬鹿らしい。その彼がデュエルのせいで悪魔となるのだから、気が滅入る。

 

「それより、随分と遅くまで眠っていたのね。また寝付けなかったの?」

 

 ボクの気落ちを察してかはわからないが、イシュが話題を変えてくれる。視界の隅で表情を綻ばせているe・ローリから意識を逸らしつつ、ボクは答えた。

 

「いや、今日はむしろ眠り過ぎて起きられなかったんだ」

 

 《デッドリー・シン》を始め、カードが創造されたのを鑑みると、悪夢を見た後に熟睡したのだろうか。覚えていないからよくわからないが。

 

「そうなの? それは良かった!」

 

 まるで自分のことのように嬉しそうにするイシュ。漫画5D'sでも彼女は身寄りの無いゴドウィン兄弟を引き取ったりしていたが、やはり優しい人だな、と思う。ラスボスの依り代にされたりしなければ、原作の彼女達にも幸せな生活があったのだろうか。

 

 ただの妄想にしかならない思考に、ボクは自嘲した。ラスボスの依り代、という点で言えば、ボクもそう変わらないのだから。




キョウジ
とても長く(四ヶ月)眠っていた気がする。

e・ラー
e・ラーからe・ローを経てge・ローとなり、今はe・ローリとなった。
姿に引っ張られるためか、只でさえ下がっていた知能が更に下がっている。
ロリになってもお胸は健在。

ズァーク
カードの声が聞こえるのなら、絶望から産み出されたカードの声も聞こえるよね?


お久しぶりです。忙しくて気が付いたら四ヶ月経っていた・・・・・・何を言っているかわからねーと思うが(ry
未だに落ち着けない状況のため更新頻度は高くないと思いますが、よろしければ感想ください。ください。(大事なことなので二回)
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