夏休み直前のある日、僕は生徒会室に居た。夏休みにミッドに戻ったり恋人である三人との時間を作るために出来る限り仕事は進めておきたい。
今日は珍しく、僕と刀奈さんしかいない。虚さんは後輩たちを教えに、本音はクラスメイトの訓練のお手伝いに行っている。
「あの、刀奈さん」
「何かしら、八雲君」
「実は臨海学校の時、本音に刀奈さんの妹の簪さんを紹介されたんですよ」
「……そうなの?」
「はい。本音は僕にとっての刀奈さんの立ち位置に僕を置きたかったみたいです」
「そっか。……私の話、聞いてくれる?」
「もちろん」
そこから刀奈さんが話してくれた事とこの前簪さんに聞いた話を纏めると、なんて言うか、不器用な姉妹のすれ違いの物語って感じの話だった。
刀奈さん側から言うと、自分が対暗部用暗部である『更識』(この辺は付き合いだした時に刀奈さん、虚さん、本音の三人が教えてくれた)の業を全て自分で背負う為に努力し続けた。その結果が自由国籍を取得してのロシアの国家代表という結果だ。
しかし、それが簪さんとってはそれがプレッシャーであって、コンプレックスの元にしかならなかった。
そして、決定的なすれ違いが生まれる。
「それで、私は言っちゃったの。『私が全部してあげるから、何もしなくていい。無能で居なさい』って。……楯無を継いだばかりで精神的にも余裕が無かったとか、簪ちゃんには何も知って欲しく無かったとか色々あるけど、私は最悪の表現で言ってしまった。それだけが事実で残って、そこから何年もまともに話してない。……ホント、最低の姉よ」
「……それで、刀奈さんはどうしたいんですか?」
「出来る事なら、仲直りがしたい。でも、最低な言葉を言ってしまった私をあの子が許してくれるわけないし、私も自分自身を許せないもの。……この状態は罰みたいな物よ。私自身への」
「そうですか……。と、このように言ってるけど、どうしますか?」
そう僕は入口のドアの向こうに声を掛ける。すると、ドアが開き、その向こう側から現れたのは、話題の人物であり、刀奈さんの妹でもある簪さんだった。
実はこれは僕達何人かが仕組んだ事だった。
話は今から数日前、刀奈さんが国家代表の仕事で学園を離れていた時の事だ。僕がアリサ、すずかとご飯を食べていた時の事。虚さんと本音と一緒に簪さんがやって来た。
簪さんは布仏姉妹の二人に仲直りの協力を求めて、虚さんが「それなら、八雲さん達の力もお借りしましょう」と言ったので来たらしい。
そこでアリサとすずかが「それなら、八雲に生徒会室で二人っきりの状態で簪の話を刀奈にさせて、頃合いを見て簪が入ればお膳立ては出来るんじゃない?」と意見を出した。
何で僕なのか? と聞くと「虚さんと本音ちゃんじゃ警戒されるし、私達が切り出すのも知らないから変でしょ? でも、八雲君は話を聞くきっかけを持ってるから、良いかなって思って」とすずかが。
生徒会室の理由は「一番簡単に二人っきりになれて、逃げ場も少ないでしょ?」とアリサに言われた。
……なんていうか、二人とも手馴れてんなあ……。
「わ、私! ちょっと用事を思い出したわ」
そう言って立ち上がり部屋を出ようとする刀奈さん。僕はその彼女の腕を掴み、そして抱き寄せる。
「八雲君、離して!」
「離しませんよ。たとえ、刀奈の言葉でも。この場から逃げないでください」
「でも……」
そう言う刀奈の体は震えている。……多分、怖いのだろう。あの言葉を『自分勝手な物』として簪さんに捉えられたと思っていると思う。僕は少しだけ抱きしめている腕の力を強くする。
「勇気が無いのなら、僕があげます。ただ、貴女の後悔しない選択をしてください」
刀奈さんは自分が数年前言った言葉を後悔している。その言葉を言った事を責めている。それが理由で今、臆病になっている。でも、彼女が後悔しない選択はここで向き合って話す事のはずだ。その一歩が踏み出せない、踏み出す勇気が無いのなら僕がその勇気をあげれば良い。なにせ、『勇気は夢を叶える魔法』なんだから。
僕が刀奈さんに出来る事はこれ位であとは刀奈さん次第。
「ありがとう、八雲君」
そう言った刀奈さんの声には力が戻っていた。僕は彼女を抱きしめていた腕を緩めて離す。向き合う二人。
「簪ちゃん、あの時はごめんなさい! 簪ちゃんの事を何も考えずに私の考えだけを押し付けて、簪ちゃんを傷付けてしまって……」
「お姉ちゃんのせいだけじゃないよ。私だってあの後すぐに自分の考えを話してたら、ここまで拗れなかったと思う。だから、私の方もごめんなさい」
人の気持ちは言葉に出さなければ、決して相手に伝わる事は無い。そりゃ、自分と近しい人の気持ちは表情や雰囲気で察する時もあるけど、やっぱり正確には分からない。
しかし、言葉という物は難しい物で言い方によっては自分の思った事がちゃんと伝わらないって事が良くある。ならばどうすれば良いか? 答えは簡単。ストレートに言えば良い。今の刀奈さんと簪さんの二人みたいに。
「でも、こうなったのは私のせいだし……」
「ここまでなったのは私のせいだよ」
……この二人、案外似たもの同士なんじゃないのかな? 少し、手助けしますか。
「お互いが悪いって思ってるなら、お互いが謝ってるんだし、それで良いじゃないですか。喧嘩両成敗……は少し違うけど、そんな感じでね。それで、二人はこれからどうしたいの?」
「「仲直りしたい!」」
二人とも同じタイミングで同じ事を言う。
「ほら、お互いの気持ちも分かったし、これで良いじゃん。話さなかった間のわだかまりはあるかもしれないけど、それは時間が解決してくれるよ」
お互いが謝ってすぐ元通りの状態になれるかといえば決してそんな事は無い。怪我と同じで時間を掛けて元通りに戻っていくものだ。その時間の過ごし方によってより強い物になるかどうかも似ていると思う。
「積もる話もあるでしょうし、お茶を用意して、僕は席を外しますよ」
そう言って僕は紅茶を用意する。生徒会室に置いてある茶葉は学園一の紅茶マイスター(刀奈さん調べ)、虚さんセレクトの物なのでとても美味しい。アリサやすずかも太鼓判を押すほどだ。最近僕は昔の趣味を思い出して、美味しい淹れ方を虚さんに教えてもらったり、お茶菓子を作ったりしている。
「八雲君、ありがとうね」
「いえいえ、頼まれた事をやっただけですから」
一番お礼を言うべきなのはこれを考えたアリサとすずかだと思う。
「……そう言えばさ、お姉ちゃん」
「何、簪ちゃん?」
「今、学園内で『二人目の男性操縦者が生徒会長と最近来た転入生二人の三股かけてる』って噂が流れてるけど、本当なの?」
……マジですか?
「本当よ。IS委員会と国連が男性操縦者である八雲君が何故動かせるか分からないから、その子供を含めて調べるみたい。言い方は悪いけど、そのサンプルの為にたくさんの子供、色々な人の子供が欲しいから一夫多妻制を認めたのよ。私もアリサもすずかもそれを受け入れて、八雲君に認めさせた形ね」
「つまり、合法的って事? しかも、認めさせたって、お姉ちゃんたちが押し切ったの?」
「まあ、そうね」
あの時に恋する女の子の強さを知ったよ。
「聞いた時は驚いたけど、お姉ちゃんたちがそれで良いのなら、私は良いと思うよ。……それなら、八雲君の事お義兄ちゃんって呼んだ方が良いかな?」
「⁉ けほっけほっ」
簪さんの驚きの発言にむせる刀奈さん。まあ……驚くよね。
「な、何を言っちゃってるのかな⁉ 簪ちゃんは!」
「だって、私から見たらそうなるでしょ?」
まあ、確かにそうなる。しかし、それは『将来的に』って言う言葉が頭に付く。簪さんやそれはちょいと気が早いってもんですよ。
「二人とも否定しないって事で、これは予行演習って事で。……でも、お父さんにどうやって説明するの?」
「あー、お母さんはともかく、お父さんは……ねえ」
何なんだろ、この姉妹の実の父親に対する共通認識。
「何かあるんですか?」
「私達から見てかなりの溺愛っぷりだからね。だから、お義兄ちゃん」
「八雲君」
「「死なないで」」
「って、僕、死ぬの⁉」
夏休みは良い機会だと思ったから、全部の家に事情説明に行こうと思ってたけど……、二学期、生きて迎えられるかなあ。
現在、IFルートについてのアンケートを活動報告でしています。良ければ見ていってください。