さて、食事を終え少し食休みを挟んで僕と一夏、箒は道場に居た。理由は楯無先輩の「もし、何か武術をやっていたのなら、その動きを反復しておく方が良いわ。何事も土台は必要よ。もちろんIS戦にもね。勝手は違うけど、戦いの感覚は同じだからね。それにISと言っても使うのは自分だから、体力も要るしね」との言葉からだった。
勉強はどうしたかって? その後、山田先生に会って、会議が有って、補習は3時くらいになると言っていたから、それまで体を動かそうってなった。
僕は一夏と箒の試合を見ている。
(マスター、どう見ますか?)
(うーん、箒は強いね。全国大会で優勝しただけは有るよ。剣道で僕が勝てるかどうか)
(そうですね。では織斑一夏は?)
(弱い。というより戦いの感覚を全部忘れてるね)
(そこまで分かる物ですか?)
(分かるねー。リハビリ中のなのはを見たからだけど)
今では『エースオブエース』『管理局の白い悪魔』などなどの異名を持っている僕の幼馴染の一人、高町なのは。
彼女はとある事件で重傷を負い、一時期現場を離れていた。それから回復してリハビリを兼ねて模擬戦をしたら、ケガをする前の彼女じゃしなかったような小さなミスをこれでもかというくらいしていた。
まあ、持ち前の負けん気でそれも乗り越えたんだけど。
(なるほど、確かにあの時のなのははその前の彼女に比べると初心者みたいなミスを連発していましたね)
(あの時ほど、積み重ねの重要さと儚さを感じた事は無いね)
努力は嘘を付かない。才能は確かに必要だけど、だからと言って努力によって出来た積み重ねは馬鹿には出来ないし、自分で作って来たものだから、才能というあやふやな物より信頼も置ける。
なんて事を考えていたら、目の前の戦いは終わっていた。結果はやっぱり一夏の負け。
「一夏、どうしてここまで弱くなっている?」
「いや、箒が引っ越してから素振りとかはしてたんだけど、中学に上がってからは家計を助けようと思って、バイトをしてたんだよ。それで、な」
「そうか。…しかし、このままではまずいのではないか?」
「確かに…」
「二人とも、お疲れー。ほい、水」
僕は近くの自販機で買っておいたペットボトルの水(なんと一本50円という激安価格! 流石国立)を二人に投げる。緩やかな放物線を描いたそれを二人は受け取る。
「しかし、箒は強いね。そのせいで相対的に一夏が凄く弱く見えたよ。いや、何もかも忘れてるって感じ?」
「ボロクソ言うな…。でも、忘れてるって?」
「えーっと、僕自身の実体験じゃないから言葉では説明しにくいんだけど、僕の幼馴染の一人がちょっと事故で怪我をした事があったんだ。んで、少しの間その子が今までやってた事から離れたんだよ。怪我が治って、いざもう一度やってみたら、感覚とかそういう物を全部忘れていたんだって。傍から見てるだけで気付く位にね。まあ、その子は負けん気が強いから、努力して昔以上の活躍が出来る様になったんだけどね」
「俗に、剣の道は三日欠かせば七日失うと言う。一夏は戦いの感覚を失っていると思う。土俵に上がるためにも、その感覚を思い出す所から始めないとな」
「しかし、どうしたら良いんだ? そう簡単に思い出せるとは思えないぞ」
「ふふふ、そんな一夏に良い言葉を授けよう。『徹底的にきっちり打ちのめす。その方が教わる側は学ぶことが多い』。今日から毎日箒に絞って貰え」
「ちょっ、勉強は!?」
「んなもん、夜にすればいい」
具体的には夕飯までは体を動かす事をやって、夕飯の後に勉強。どんだけ、夕飯を遅くとっても3時間は勉強時間を取れるし。
「いやいや、詰め込みすぎだろ!」
いやいや、これくらい大した事ないでしょ。そんな事言ったら、つい一月前まで中学校と時空管理局員の二足の草鞋を履いてた僕達はどうなるのさ。中学の勉強に管理局の仕事に家事。それをやりながらでも生活出来たんだし、これくらい何とかなるだろ。
「ISの操縦はともかく、勉強は自業自得でしょうが。先生にも頼まれたし、僕は何とかする手段を考えただけだよ。どうするかは一夏に任せるよ」
そこまでは面倒見きれない。僕が出来るのはこれくらいだ。後は本人のやる気次第。
「…やるしかねえよな。ここまで協力してもらって、それを無しには出来ねえよ」
「そっか。んじゃ箒、後よろしく。好きなだけ痛め…じゃなくて、鍛えてやって」
「ちょっと待て! 何か酷い事言われた気がするんだけど!」
一夏の声を聞き流しながら、僕は道場を後にした。
少し学校の中を歩き回ってみる。何がどこにあるかを一応確認するために。すると、
「あっ、霧島君」
ウチのクラスの副担任、山田先生に出会った。
「山田先生、こんにちは。会議は終わられたんですか?」
「はい。それで織斑君達が道場に居ると聞いたので、補習を始める事を伝えに行こうと」
「そうですか。ご苦労様です」
「霧島君はどうします?」
「今日は、少し会社の方に連絡しないといけない事があるので、辞めときます」
「分かりました。なら…」
山田先生は僕にカギを手渡す。
「これが、霧島君の部屋のカギです。部屋は間に合わず、女の子と相部屋になっちゃいました。苦労を掛けますけど、出来るだけ、早く何とかしますからね」
やっぱり、僕達のせいで、入学前の仕事は増えてたんだろうか? だとしたら、迷惑かけたかな。
「分かりました。…そういや、僕の荷物は?」
「それは、もうすぐバニングス社の人が持ってきてくれるそうです」
「ありがとうございます」
「いいえ、これも教師の仕事ですから。…あの、霧島君」
「? なんでしょうか?」
「霧島君、授業の時眼鏡を掛けてましたよね? でも、どうして今は掛けてないんですか?」
「ああ、それはですね、何でか分かんないんですけど、眼鏡を掛けてた方が集中できるんですよ。だからあれは伊達眼鏡です。僕は眼が悪くないんで」
よく分からないけど、体質かな?
ちなみに、今使っているのは明るめの緑色の細縁の眼鏡。去年の誕生日にはやてに貰った物だ。
「そうなんですか。なんというか…変わった体質ですねー」
「体質で良いんですかね? それじゃ、僕はこのまま、校門に行ってきます。山田先生ありがとうございました」
お礼を言って僕は校門に向かった。
「あら、案外早かったじゃない。連絡入れようと思った所よ」
校門では一台の車が止まっていて、そこにアリサが居た。
「丁度、担任の先生に会ってね。話を聞いたから、その足で来ただけだよ」
「そう。で、どう? 女の園での生活は?」
「針のむしろは有る。視線が刺さるは比喩表現じゃない。もう帰って、はやてに会いたい」
「前の二つはともかく、最後のはいつもの事ね。平常運転で良かったわ。とりあえず、アンタの部屋にあった物を持って来たわ。鮫島」
運転手を務めていた執事の鮫島さんが車から荷物を降ろす。あそこに持って行ったのは着替えばかりなので、そこそこの大きさのエナメルバックに入りきる。
「鮫島さんも態々ありがとうございます」
「いえ、これも仕事ですから」
そういって、運転席に戻っていく。
「そういや、アリサ。一つ報告があるんだけど…」
「何?」
「一週間後、クラス代表を決めるために戦う事になった」
「…やっぱりアンタ、一回お祓いに行った方が良いんじゃない? なんなら手配しとくわよ?」
「遠慮しておくよ。まあ、経験が積めると思って前向きに捉えておくよ」
多分、憑いているのは、神様だし。
「八雲がそれなら良いんだけど。じゃあ、アンタの専用機と対戦相手のデータ取り忘れないでね」
「了解。お仕事だしね。結構給料も貰ってるし、働きますよ。お嬢様」
「…なんか、アンタにお嬢様って言われると、寒気がする」
「酷い言いようだな、オイ!」
「それは冗談だけど、かしこまった言い方は無しね」
「OK。んじゃ、また何かあったら連絡するわ」
「頑張ってね」
アリサは車に乗り込む。僕はその車が見えなくなるまで見送った後、僕は荷物を置くために寮に向かう。
「1089…1089…っと、ここか」
僕は山田先生に貰った部屋番号を探し、見つける。
しかし、じゅうやくって、今年は何か重い厄が有るのか? 重厄?
それは置いておく、というより考え無い事として、僕はドアをノックする。すると、
「はいは~い」
との声の後、ドアが開かれる。
開くと、袖がだぼだぼに改造された制服を着た女の子が。制服改造OKだけど、これはどうなんだろ?
「あー、きーりん」
「き、きーりん?」
「うん、きーりん。霧島だからきーりんだよ。私は…」
「知ってるよ、布仏本音さん。同じクラスだし」
珍しい名前だし、覚えやすいよね。
「覚えてくれたんだねー。でも、どうしてここに?」
「僕が君のルームメイトだから」
「そうなんだー。よろしくね」
良かったー、気難しかったり、女尊男卑の思想の持ち主じゃなくて。
「入って、入って~」
僕は布仏さんに部屋に案内される。
うん、結構広い。ホテルの部屋みたいな感じ。
お互い、ベットに座って向かい合う。
「今日からよろしくねー、きーりん」
「よろしくね、布仏さん」
「本音で良いよー」
「そう? んじゃ、共同生活をするんだし、ルールでも決めようか」
同性同士ならともかく、異性なんだから、ある程度ルールは要るよね。
「うーん、シャワーの事位? 私は大浴場に行ってくるから、あんまり気にしなくても良いよー」
「僕も烏の行水だからね、本音が行っている間にちゃっちゃと済ませるようにするよ」
長風呂は苦手だ。風呂はそこまで好きではないし。
「それくらい?」
「それ以外はその時々で決めれば良いんじゃない?」
「だねー。そういやさ、きーりん」
「何?」
「きーりん、自己紹介の時料理が得意って言ってたよね?」
「うん、言ったね」
まあ、毎日僕とはやてと守護騎士達の分の料理を作ってたからね。
「じゃあさー、お菓子作れる?」
「お菓子? 作れるよ」
「作って作ってー」
子供か! とツッコみたいけど、まあスルーしよう。
「うーん、そうだね…じゃあこうしよう。僕は来週、クラス代表決定戦があるけど、それに協力してくれたら、終わった後お礼に作るよ。協力してくれる?」
「了解だよー。頑張るよー」
こうして僕は協力者をゲットして、初日を終えた。
とりあえずは一週間頑張りますか。
ルームメイトに本音を起用。理由はなんとなくです。