僕は何か月かぶりにミッドチルダに来ていた。正確に言うと「仕事以外で」と言うのが頭に付く。最後に来たのは家を買った時になる。引っ越しする前にISに乗れるように分かってからは、そもそも、ミッドには行けてなかった。
そんな僕がミッドを久しぶりに訪れた理由。それは、
「お待たせ、八雲君」
「いや、そんなに待ってないよ。それに、待つのもデートの一つの楽しみさ。今日ははやてにとことん付き合うよ。誕生日だしね」
僕の彼女、八神はやての16歳の誕生日を祝うデートの為だ。
いやー、デートっていつ以来だっけ? しかも、態々ちゃんとした形でデートしようって言ったのも久しぶりだし。
最近はどっちかが『明日暇?』って聞いて、暇なら、遊びに行くっていう形だった。
だから、改まって「デートしよう」なんて言うのは恥ずかしかった。
中学校の頃は友達達にバカップルと言われる位はやてとイチャイチャしている僕だけど、こんな相手を誘うという初歩的な事に緊張してしまう。自分でもよく分からない。
まあ、そんな事は今はどうでも良い。この最高に幸せな時間を楽しむことが最優先だ。ただでさえ、中々会えないんだから。
「よし、行こうか、はやて」
「せやな」
そう言って、自然に手を繋ぎながら歩き出す僕達。しかし、はやてはそれだけでは満足できなかったらしく、
「えいっ」
の言葉と共に僕の腕に抱き着く。
「ど、どうしたのさ」
「声は聞いてても、やっぱり会えんだんは寂しかったんよ。だから、これくらいは、ね?」
「良いよ。突然で驚いただけだから。それに、寂しかったのは僕も同じさ」
つーか、会えないのが寂しくないとなる事は絶対にありえない。むしろ、IS学園での生活を乗り越えられたのはこの日の為と言っても過言ではない。
「そか。それじゃ、出発しよか」
「うん」
さて、デートと言っても何か目的がある訳では無い。むしろ、今回は何も決めずにいる。
なぜなら、僕達の今回の目的は「二人で一緒の時間を過ごす」だからだ。なので、すでに目的は達成されている。
それに、僕達は小さい頃から一家の家計を預かってきている。幸い稼ぎはかなり多いので、そこまで気にする必要は無いのだが、抑えられる出費は抑えるという、なんとも主婦的な物に近い金銭感覚を持っている。
僕達の出費を無駄だとは僕達の家族たちは思わないだろうけど、本人たちが『別にお金使わなくても楽しいし』と思っているんだから仕方がない。
だから、今日も特に何かをするわけでも無く、二人体を寄せ合いながら街を歩く。
「そういえば」
「ん? どうしたのさ、はやて」
「ちょっと前にな、なのはちゃんとフェイトちゃんと偶然本局で一緒になった事があってな、『もうすぐ誕生日だけど今年もデートするのか』って聞かれたんよ」
なのはとフェイト、と言うより僕達の幼馴染達はこの日に合わせて僕達がデートをしているのを知っている。理由は中学の時、その現場を見られたから。あの時は結構恥ずかしかったなー。
「へえー。つーか、かなりすごい偶然だな」
「それは、私達も会った時、思ったよ」
特別捜査官として飛び回っているはやて、執務官として事件ごとに色々な所に行く必要のあるフェイト、本局勤めだが、場合によってはいろんな部隊に出向する必要のあるなのは。この三人の仕事の行動範囲は全然違う。だから、休みの日以外で三人が揃うのはかなり珍しい。
「話を戻すけど、それで『会うのは久しぶりやから、クラナガンをブラブラ歩くと思うで』って答えたら、意外な顔をされたんよ」
「どこかに出掛けるって言わなかったから?」
「そうなんよ。『なにかしてもらわないし、なにもしないの!?』って言われた」
まあ、世間一般のデートの感覚からはちょっとずれているかもな。やってる事、ただの散歩だし。
「後、『それ、街中のパトロールとやってる事一緒だよ!』とも言われたなー」
「なんだそりゃ」
確かに街中を歩いている事に関しては同じかもしれないけどさ。
「パトロールは、周りに注意して歩くけど、今ははやての事しか注目してないし、はやての事しか考えてないっての」
「……私もそうやって二人に言ったけど、やっぱ面と向かって言われんのは恥ずかしいよ」
「ちなみに、その時の二人の反応は?」
「呆れられた」
「ですよねー」
そりゃそうなるわな。気付いたら惚気られてるんだもん。惚気られた事ないから知らんけど。
僕達が満足しているデートの形だから、これで良い。周りの目なんか気にしない。気にする必要ない。
「おっ、美味しい」
「ホンマやね。当たり引いたねー」
時間が経ち、僕達はお昼ご飯を食べに一軒のお店に入った。こうやってブラブラする時の決め事の一つに「ご飯は知らない所にはいる」と言うのがある。
それの方が面白いし、それで気に入った店があれば皆と来れる。今日は当たりのお店を引いた。
僕達が入った時はお昼ご飯時より少し早めに入ったので、まだ席に余裕が有ったのだが、食べている間にそこそこのペースでお客さんが入って来て、ほとんど満席になった。どうやら、結構評判の良い店だったらしい。
今度は皆で来るかーなんて考えていたら…
「金出しやがれ!」
複数の違法魔導師の犯罪者が、強盗しに現れた。…もう、本当に今年の運勢は悪いなあ。
何で、デートのタイミングでこんな事に巻き込まれるかな。イライラが募る。
『どうしますか、マスター』
『人質が居るから、ここは静観かな』
『そうやね。この分やと、多分すぐに…』
はやての言葉が終わらないうちに、外は管理局が固めていた。
『な? 言った通りやろ』
『だね。解決までのんびりするか。…マジでアリサにお祓い頼もうかな』
『そうやねえ…。今年の八雲君、どうしようもないくらいついてないもんなあ。行っとく方がええんちゃう?』
『はやてもそう思うかあ』
なんて話していると、強盗犯の一人が、
「ちっ、そこの女、こっちに来い!」
とはやてに手を伸ばす。…それは、ちょっと見過ごせないかな。
まずはその手を捻り上げる。
「な、なにしやがる!」
「僕の女に手を出すなよ」
「そこのお前、なにしている!」
他の強盗犯も僕の方に寄ってくる。そして、魔法を放とうとしている。だけど、遅い。
「もうちょっと目の前の相手との実力差を測れるようになれよ」
それだけ言って、僕は強盗の一味を鎮圧していく。この程度の相手に魔法を使う必要などない。数十秒で鎮圧完了。…ああ、やっちまった。こりゃ解放までに時間が掛かるぞ。折角のはやてとのデートの時間が。なんというか、今年は……ついてねえなあ。
さて、めでたく事件は解決した。しかも、事情聴取とかで拘束もほとんどされなかった。
理由は現場の指揮を執っていたのが、たまたま近くにいたシグナムだったから。叢雲が録音していた音声データを渡してそれで解放してもらった。
しかし、時間を取られたのは変わらず、もう別れの時間が近付いていた。
「楽しい時間はあっという間やなー」
「本当だね。…はやて、渡したいものがあるんだ」
そう言って僕はあらかじめ、用意しておいたものをポケットから取り出す。
「これは?」
「今年の誕生日プレゼント」
ちなみに、はやてから僕への今年の誕生日プレゼントは当日ちゃんと送られて来た。毎年、ファッションに興味を全く持たない、僕の為に服を見繕ってくれる。僕より僕を見てくれる人が選ぶものだから、そこに信頼を置いている。
「ありがとうな。でも、これ高かったんちゃう? かなり細かいし」
僕が渡したのは白い石で作られたバラのネックレス。
「確かに高かったねー。と言っても材料費だけだよ」
「…これも作ったん?」
「流石に研磨とかは出来ないから、花びらの形にしてもらったのを僕が組み立てただけなんだけどね。時間もそれなりに有ったし」
「やっぱ、八雲君器用やねー。後、凝り性」
「自覚はしてる」
こういうのを一度始めてしまうと色々作りたくなる性なのだ。趣味の一つで収まれば良いのだけど。
「しかし、八雲君ってば独占欲強いねー」
「はい?」
いや、確かにはやてに対する独占欲は強いけど、何でそんな話に?
「だって、白いバラの花言葉に『私はあなたにふさわしい』って有ったと思ったけど」
「…マジで?」
「マジやで。知らんだん?」
「…うん」
「じゃあ、何でこれにしたん?」
「えーっと、プレゼントをどうするか考えてた時にアリサに相談して、『バラが六月の誕生花だから、それをモチーフにすれば?』って言われて」
「なるほどなー。アクセサリーにしたのは?」
「一緒に居れる時間が少ないから、僕の事をいつでも想ってもらえるように身に付ける物にしようと思ったから。そうしたらアリサが『六月の誕生石にムーンストーンってのが有るから、それを使えば?』って言われて、デザイン考えて、作ったんだけど…」
「な、なるほどなー。アリサちゃんが黒幕か。…それに、そんな事せんでも、私はいつでも八雲君の事想っとるよ」
…なんか、マーキングみたいな感じであれを作っていた僕が恥ずかしい。そして、それほど想われて僕は幸せだ。
「そっか。ありがとうな、はやて。…んじゃ、またな」
「うん」
僕達は口づけを交わす。別れの時を惜しむように。
よし! 明日からまた、頑張りますか!
その2から読まれた方は、時系列的に前作になる『魔法少女リリカルなのは~転生者は魔法剣士~』にその1が有るので良ければどうぞ。