六月四日、まだ日が昇らない内に僕は部屋を出た。
(叢雲、いつもの場所にお願い)
(了解)
僕は学園から姿を消した。
転移魔法でやって来たのは海鳴市の小高い丘にある墓地。僕の目的はそこにある一つの小さなお墓。僕はその前にしゃがんで、手を合わせる。
「……久しぶりだね、はやて。それと誕生日おめでとう。この数か月少し色々あったから、いつものようには来れなかったけど、これからはちゃんと来るよ」
僕は最低でも毎月24日にはここに来ていた。ここは僕が今背負っている物を思い出させてくれる場所で、今の僕の唯一の心の拠り所でもある。
……ここにははやての物は何もない。あの日、闇の書ごとはやてはこの世から消えたから。
傍から見たら、ただの石にすがるバカなガキだろう。でも、僕にはもうこれしかないから。
「二か月ちょっと来てなかったけど、綺麗だ。アイツらも来てくれてたんだな。さて、もう行くよ。……またな、はやて」
僕は墓地を後にした。
もし今の僕をはやてが見てたらなんて思うだろう。守れなかった僕に対してだから、苦しめって思うのかな? この答えはこの世のどこにもないんだけど……。
なんかまた、学校に編入生が来た。今度はフランスとドイツから。
僕や一人目のデータが欲しいという国の意向かな。まあ、関わる気は無いから気にしない。
片方のフランス人は男子という触れ込みだけど、体格的に女子っぽい。叢雲の生体スキャンでも女子らしい。何人だろうが、男子だろうが女子だろうが、男装女子だろうが女装男子だろうが関係ない。
もう一方の転校生、ドイツ人は意外な所から情報が来た。あの事の後もなにかと僕を気にかけてくれる人の二人、高町恭也さんと月村忍さん。二人からのメールにはドイツで知り合った軍人で、一人目を個人的な感情で恨んでいるとの事。たとえどんな感情を抱いていてもそれが僕に関係しなければどうでもいい。
学園に今年二度目の編入生が来た。今度はフランスとドイツの二か国から。
目的は恐らく、織斑君と霧島君のデータ収集。
学園ではIS委員会を通して各国に男性操縦者二人の操縦データを彼らの専用機の情報が漏れない様に注意しながら、発表はしている。しかし、何処の国も他国を出し抜きたいのだろう。だから、訓練で相対しやすい専用機持ちを送る。事実私もそういう事を若干であるが期待されている節がある。まあ、この前担当者に正直IS学園の発表しているデータ以上の事は分からないというのを詳しく話して納得してもらった。
むしろ、ISの母国日本が作った新鋭機と世界トップの技術を持つバニングス社の機体のデータの方が有用だと私は思っている。
しかし……どうして、両国ともこんな面倒な人間を送って来るかな。
フランスは代表候補生でフランスのIS業界のトップ企業デュノア社の子息、シャルル・デュノア。性別は男性……なわけでなく、我が家の総力で調べた結果は女性。本名はシャルロット・デュノア。理由など私にとってはどうでもいいが、仕事を増やすという意味でやっかいな人物だ。
厄介という意味ではドイツの方も同じだ。代表候補生で、ドイツ軍人のラウラ・ボーデヴィッヒ。国家代表や候補生が軍人と兼ねているのはそこまで珍しい事ではない。現に、今のアメリカ代表なんかはバリバリの軍人だし。
だた、彼女はIS学園で教師をする前の織斑先生に教えてもらっていたらしい。私も噂でしか知らなかったけど、今回の件で二人の素行調査をした際に事実を知った。
その件で彼女は織斑先生を敬愛……いや、狂信と言っても良いレベルで尊敬しているとの事。こちらは、事件を起こしそうな人物といった所だ。
普通なら霧島君に注意しておいてと言うべきところなんだろうけど、彼はどちらとも関わらないだろう。だから、私が心配することも無い。
入学から二か月と少し経ったので、そろそろISを使った実習が増えてきた。そこで僕的に困る事が二つある。
それは『人付き合いをしたくない』っていう僕のスタンス。それと、『人に教える事』の難しさだ。
人付き合いの方は僕ではなく他の人が困るから僕が我慢すれば良いのだは、人に教える事は御免したい。教える事って難しいし、僕には向いていないと思う。というか、そもそも僕なんかに態々教えてと言う人がいるのか? そう思うのだが……
「きーりん、教えて~」
……そうだった、この子がいた。
「……なんで、僕に?」
「だって、きーりんが一年生で一番強いし、真面目だから教えてもらうには一番いいと思ったからだよ~」
案外ちゃんと見ている子だな。のほほんとしたイメージとは合わないけど。後ろに居た何人かも頷いている。
「教えるのが上手いとは限らないし、教科書通りの事しか出来ないと思うけど、それでも良い?」
「それを判断するのは私達だよ~。だから、お願いね~」
それからの実習はこの一回目のメンバーが固定となった。
新学期が始まって二か月ちょっと、そろそろ一年生にもISを使う実習が始まってくる頃になった。
ふと、私は真面目だけど人付き合いを避けている霧島君は実習をどうするかが気になった。
どうなのか、本音ちゃんに聞いてみると、「普通に上手に丁寧に教えてくれたよ~」と言っていた。
責任感が強いのか、それとも面倒見がいいのか……。前者っぽいかな。
時間が出来たから、私はアリサに会いに行った。霧島君の事を知るために。
アリサは「あくまで私のは又聞きだし、私の主観も入っているからすべてが真実じゃない」と前置きした上で話してくれた。
霧島君がああなるまでは、どこにでもいるような普通の子供だったらしい。まあ、ビックリするくらい料理が上手かったり、運動神経抜群だったりはしたけど、それは個性の範疇だと彼女は言っていた。
そんな彼には人とは違う能力を持っていた。それは平行世界では『魔法』と呼ばれている物。聞いた時は何を言っているか理解できなかったけど、アリサの真剣な表情でその事が事実だと思った。
それと同時に霧島君は初めての恋をしたらしい。
しかし、彼が恋をした女の子、八神はやてさんは重い病気でしかもそれは魔法が関係していて地球ではどうしようもなかったものだったらしい。
彼と彼女を守るための騎士と呼ばれる人達はそんな未来を否定するために動きだした。手段を選ばず、それが罪になると理解していても、その結果を決して彼女が喜ばないとしてもだ。そして、彼は戦う力を持っていた。とても大きな力を。
でも、いくら力を持っていても彼はその当時小学生で、毎日朝から晩まで命がけの戦いに身を投じていたのだから、ついに限界が来て倒れてしまった。そして、その間に全てが終わった。彼一人を残して。
その後彼は全ての責任を背負って、自分の身を顧みず、ひたすら他の人の為に戦い続けている。贖罪の為に。学校への不登校はそのため。
……想像できない位、彼の背負っている物は大きく重かった。軽い気持ちじゃなかったけど、聞くべきじゃなかったとまで思ってしまう。
「アイツほど私ははやてとの付き合いがあった訳じゃないけど、あの子は絶対に八雲を責めてないし、身も心もボロボロのアイツなんて見たくないと思ってるはずよ。でも、私や私の幼馴染達の言葉はアイツには届かないのよ。どんだけ踏み込んでも、アイツがそれを拒んでいるから。今の環境じゃ、これ以上は望めないのよ。だから、ある意味ではIS学園に行くことが切っ掛けでまた歩き出してくれれば良いと思っているわ。今日、楯無に話したのもその一環よ。……私達の幼馴染をお願いね」
「……私に何かが出来るか分からないけど、協力したいと思うよ。なんていうか、放っておけない感じがするし」
とりあえず、少しでも話しかけていこう。多分、今私にできる唯一の事だから。
今回は纏めて三話投稿します。