なんか色々有った学年別トーナメントの翌日、僕は教室でのんびりしていた。
「八雲、何で昨日大浴場に来なかったんだ?」
「疲れたから、夕飯早く食べて寝てた」
「きーりん、昨日は爆睡だったね~」
「いやー、ホントに朝のいつもの時間が来るまで一回も目が覚めなかったし」
10時間近くは寝てたかな。ちょっと体が辛い。とは言うものの、今日は…
「あれの事後処理が残ってるからなー」
「会長が放課後に来てって言ってたよー」
書類仕事自体は管理局での仕事で慣れてるから大丈夫だと思うけど、量が多いとやっぱり辛い。
「でもでも、きーりん書類仕事早いよねー」
「要領掴めば、何とかね」
というより、要領良くないと管理局の仕事はやってけないんですよ。
運用部だと、年度末は書類仕事だけで何日も徹夜で職場に缶詰なんて毎年の事なんだよね。
それに比べたら、たかが一つの事件の後始末位なら大したものは無い。
「そういえば、シャルルは? もうすぐ授業始まるのに来ていないけど」
「何か用事があるんだってよ。先行っててと言われた」
なんだろ、用事って?
「み、みなさん、おはようございます……」
疲れてるなー、山田先生。何かあったのかね?
「えーっとですね…今日はですね…皆さんに転校生というか…」
歯切れの悪い山田先生。転校生じゃないのかな?
「とりあえず、紹介します。どうぞ」
山田先生の合図で教室のドアが開き一人の女子生徒が入ってくる。どっかで見たような……。
「シャルロット・デュノアです。皆さん、よろしくお願いします」
ああ、正体をばらしたのね。先生が疲れているのはその為なのねー。お疲れ様です。
なんか教室もざわざわしてるし。
ああ、そうか。昨日の夜、男子の大浴場の解禁して、一夏とシャルロットが一緒に入ってたって事か。
「一夏あ!」
蹴り破るに近い勢い(ドアは引き戸なんだけど)で入って来たのは鈴。
「死ね!」
激怒を隠さず叫ぶ。しかし、行動には移さない。移せない。
「……凰、何をしようとしている」
後ろに鬼、もとい織斑先生が居るからだ。
「霧島、布仏」
入って来た織斑先生に呼ばれる僕と本音。
「何ですか?」
「昨日の事後処理が思ったよりも多そうなので、生徒会のメンバーは全員そちらを優先しろ。生徒会室に行け」
「「分かりました」」
…合法的に授業をさぼれるのは嬉しいけど、仕事があるからなー。微妙な所だね。
「仕事多いですねー」
書類を処理しながら、僕はそう呟いた。もちろん手は止めない。
「ちょっと前まで二人で処理していたから、それに比べると断然楽よ」
僕の呟きに答える楯無さん。彼女も手が止まっていない。
「本音は書類仕事が苦手らしいのでこう言う時戦力になりませんし…」
「ゴメンねー」
「言っても、本音ちゃんも私達が書いた書類の整理したり、お茶を入れてくれたりしているから、ちゃんと力にはなっているわよ。ね、虚ちゃん」
「そうですね」
「……客観的にみると結構凄い絵だねー」
「「「何が?」」」
「三人とも顔を上げずに書類しながら話している事がだよー」
それは、そんなに変な事か? 前からよくやってたんだけど。僕達だとマルチタスクがあって、書類の方に意識をやりつつ、話す事って訓練の一環にもなるから、時間とマルチタスクの有効活用だ。マルチタスクの方に関しては無駄遣いと言う名の有効利用な気もするけど。
「そんなに凄いですかね?」
「さあ?」
「どうなんでしょう? 慣れたら誰でも出来るとは思いますよ」
「そういう物なのかな~」
そういう物だと思う。案外人間慣れたら大概の事は何とかできる物だ。
休みを挟みつつ、僕と楯無さん、虚さんはどんどん仕事を消化していき、放課後に入る少し前にはすべての書類を終える事が出来た。
「やっと終わったー」
机の上に倒れこむ楯無さん。
体中が凝り固まってる気がする。首回すと音鳴るし。
「お疲れ様です、お嬢様。八雲さんに本音も。お茶のおかわり用意しますね」
お茶の用意を始める虚さん。正直、虚さんも同じくらいの量の仕事をしていたはずなのに、そうやって動けるのは凄い。使用人の鏡だね。
「時に、八雲君」
「なんですか、会長?」
「今週末暇?」
「用事がありますけど…何の用ですか?」
「…昨日の事やその前のクラス代表戦みたいな事があって、自分の力不足を実感して特訓しようかと思ってね」
生徒会長としての責任感だろうか? 僕としては、その二つの事件に関してはたとえ織斑先生でもどうしようも無かったから、気にする事は無いと思うんだけど。
「そうですか。時間が合えばお付き合いしますよ?」
「…ありがとう。そういえば、用事はテストパイロットの仕事の方?」
と言うよりは管理局の方の仕事についての話し合いだ。
「三分の一はそうですね」
「って事は後二つ用事があるの?」
「はい。二年の黛先輩がスカウトの答えをくれたので、その日面談するのと、簪がウチの会社に協力して欲しいと正式に言ってきたので、その二人の付添ですね」
「かんちゃんの専属従者だから、私も一緒に行くよー」
日付が被ったのは偶然じゃなくて、まずは黛先輩の一件の日程が決まって、その後簪の話が有った。ここまでは学年別トーナメントの前の出来事だ。最初は二人に地図を渡すか、最寄りの駅まで迎えを寄越してもらうかしようと思っていたのだが、学年別トーナメントの事件が有ったので、じっくり僕の上司のレティ提督と話そうと思って、僕が道案内をする事にしたのだ。
会社の一室を管理局との通信の為に借りているから、そこがこっちの世界で一番安全だ。
「ねえ、それ私も「「ダメだよー(です)」」」
最後まで言わせてもらえない楯無さん。別に付いて行く位良いと思うんだけど…。
「おじょーさまはかんちゃんと仲直りする事が先です」
「本音の言う通りです。一体何年引っ張るつもりですか」
……関係の無い僕はここに居ても良いのでしょうか?
「間に居る私やお姉ちゃんの事も考えて欲しいよー」
「とっとと仲直りしなさい」
虚さんの口調が崩れる位の事らしい。虚さんの場合『使用人として』と言うより、『同じ妹を持つ姉として』の言葉な気がする。
「とりあえず、僕はお先に失礼します…」
この場に長居したくなかった僕はそれだけ言って部屋を後にした。楯無さんが助けを求めていた気がするけど、聞かなかったことにしよう。
その後、部屋に戻ってきた本音は「おじょーさまは観念して今週中に仲直りするってさー。だから、二人追加するかも」と言っていた。
まあ、僕は仕事の方に付きっきりになると思うからあんまり関係ないけど、会社の方には連絡しておこう。
多分、次回も繋ぎの回が入って、その後三巻の臨海学校編に突入します。