週末、僕は楯無さん、虚さん、黛さん、簪、本音と一緒にバニングス社の研究所に来ていた。
一緒に来たという事で、一応楯無さんと簪は仲直りしたらしい。とはいっても本音が見た所、昔に近付いただけで、まだまだ距離があるんだと。
到着して早々、黛さんは技術部の主任さんと人事の人にさらわれ、残った四人は別の技術部の人に案内されていった。
僕は、会社から僕達管理局に貸し出されている部屋に入った。
『早いわね、八雲君』
「遅れるわけにはいきませんからね。お久しぶりです、レティ提督」
僕が入学する前だから大体3か月ぶりくらいだ。
『早速お仕事の話をしましょうか。昨日事件があったって聞いたけど』
「はい。無人機か有人機かの差がありましたけど、ISの中にロストロギア、ゴーレムの中枢を移植したものが暴れました」
『ゴーレムなのは少し厄介なのよね…』
「古代ベルカ関係の遺跡から結構見つかるってユーノに聞きましたから、どこからの密輸が発見しにくそうですね…」
今回の二つの事件に使用されたゴーレムは古代ベルカの機動兵器の一つでかなりのベストセラーだったらしく、色々な所から見つかる。
外装ごとなら、時代や場所によってデザインが変わってくるから、分かるが、中枢部だけでは判断が難しい。出力で前期型か後期型か位の判断が出来るが、それだけだ。
『細かく調べれば、どこからか分かるとは思うんだけど、それも出来無さそうね。IS学園に保管されているんでしょ?』
「恐らくですけど」
『今の所、盗掘組織と密輸組織は機動二課と五課が合同で捜査中よ。現在手掛けている案件が終わり次第他の機動課も動く予定よ』
「…とんでもなく、大きな規模になりそうですね」
機動課とは、時空管理局本局に所属する古代遺物、つまりロストロギアに関する事件を専門に広域捜査を行う専門の課で一課から五課まである。
『いくつもの世界を掛けて調べないといけないから規模は大きくなるのよ。正直、機動課全部を当てても足りないわ。それ以外にも各地の陸士部隊にも捜査依頼を出してあるわ』
「こっちの方はどうしますか?」
『地球は管理外世界で、魔法文化が無いから、元さえ絶てればいずれ事件は終息していくでしょう。…言ってはなんだけど、あなたには囮をやってもらうわ』
「了解です。どの道三年は学校に通わないといけないですし。一ついいですか?」
『良いわよ』
「次元航行艦部隊を一つ地球に回してください。転移反応の調査から逆探知できる可能性もありますし」
『ふむ…そうね、用意するわ。ただ、一番早く動かせるのが整備中だから、少しかかるわよ』
「それは仕方ないですよ。まだ、調査の段階で別の任務中のを引き抜くのは無理でしょうし」
これが非常事態なら違うんだろうけど、まだ密輸と違法所持ってレベルだ。それに、『ゴーレム』自体も強力だけど、所詮は機動兵器、僕が今まで関わったジュエルシードや闇の書と呼ばれていた頃の夜天の魔導書みたいに星ひとつを滅ぼす可能性は全くない。だから無理やり他の部隊を引き抜けるような事態ではない。
『後、まだ本決まりじゃないけど、こっちからも人員を送るわ』
「IS学園にですか?」
『そうよ。こっちで人を決めて、バニングス社と話し合ってからだから休み明け位になると思うけど』
「そうですか。正直ありがたいです。今は単機で来ていますけど、増えたらまずいと思っていましたし」
一応、僕は自分の腕に自信はあるんだけど、それはあくまで個人の力だけだ。
ロストロギア関係の事件なのだから、僕が責任を持って何とかしないと、と思う。
流石に一人で学園を護るのは無理だ。誰か来てくれるのは嬉しい。
『それで、学園生活はどう?』
「中学時代に比べて学園生活を満喫できてますね」
これははっきり言える。管理局の仕事が無い分学校生活に力を入れられている。
ただ、はやてが居ないのがかなり不満ではあるんだけど。
「まあ、女子校なんで気を付けないといけない事も結構ありますけど」
『異性との共同生活だからねー。いくらあなたが子どもの頃からはやてさんと同棲しているといっても、勝手は違うわよね』
「ルームメイトがかなり良い子なんで楽は出来ていますよ」
『それは良かったわね。寮生活でのルームメイトが性格的に合わなかったら、結構きついらしいわよ』
管理局の士官学校や陸士校などは全部全寮制なので、僕みたいな感じでの入局でない限り、一度は寮生活を送っている。多分、レティ提督もそうだったんだろう。
『そろそろ、次の仕事に向かわないと。…多分、事件はまだ終わらないから気を付けてね』
「了解です。まあ、泣かせたくない人も居ますしね」
『なら、その人に心配掛けない為にも怪我とかしちゃダメね』
「はは、そうですね。お疲れ様でした、レティ提督」
通信を終え、静かになった部屋で一人今後の事を考える。
まず、相手の手口。有人、無人を問わずISの中にゴーレムのコアを仕込む。もしかしたら、それ以外の物も持っている可能性もあるし、どれだけあるかは分からない。
ゴーレムの入手ルートは不明。地球には魔法文化が無いから、恐らくは密輸。ロストロギアの発掘される場所は大体が管理世界だから、管理局が調査を始めたけど、そういう組織を見つけて叩くのは結構時間が掛かる。
「つーか、組織の規模とか分からない事ばっかりだな……」
手探り状態での捜査が続きそうだな。いや、大体捜査ってそういう物だけど。一番情報を得られそうなものをIS学園に抑えられているしなー。
次の事件が起こるタイミングさえ分かれば良いんだけど…。傾向として行事中、しかも、一夏が戦っている時に来ている。その条件を満たす次の機会は……臨海学校か。
とりあえず、今僕が出来る事は、何があっても対応できるように、準備しておく事。幸い近接刀『瑞雲』は来週に完成するらしいので、『出雲』の、僕自身の100%の力を発揮できる。
「そういや臨海学校の準備してないや。買い物行かないと。はやては……無理だろうなあ、忙しそうだったし」
今年の春に三佐に昇進してからというもの彼女はかなり忙しそうだ。そばにアインスやシャマルが居るから大丈夫だとは思うけど、心配だ。……そばに居れない辛さだね。仕方の無い事なんだけど、そう簡単に割り切れない。
なら、一人で行けばいいか。時間掛からないし。
来週末は一日は『瑞雲』を受け取って試すとして、それとは違う日を買い物に当てよう。
水着とか引っ越しの荷物を減らすために捨てたしな。……いや、別に買わなくていいか。臨海学校だからって泳ぐ必要ないし。そのお金で古本を買いに行こう。決めた。今決めた。
所変わって、バニングス社の研究所の一室。そこには更識姉妹と布仏姉妹がいた。
「バニングス社…凄いわね」
「…技術力は日本、いや世界トップかもしれない。私の打鉄弐式の完成のめどがあっという間に経ったし」
「でもでも~、会社の人もかんちゃんがしっかり機体を作っていたからって言ってたよ?」
「実質、開発が止まっていたのはマルチロックオンシステムでしたから」
一段落付いたので、今はのんびりお茶を飲みながら話している。
「ここに来たら、きーりんの強さが分かった気がするよー」
「卓越した技術力の結晶ですからね」
「それだけじゃない……気がする」
「私も簪ちゃんと同じ考えだわ。八雲君の強さは技術力からくる機体の強さだけじゃない。何かあるわ」
「何かとは?」
「それが分からないのよねー。あくまで私の勘だし。ただ、八雲君の身体能力と戦闘の技術は本物。それは間違いないと思う」
「身体能力はともかく戦闘技術は?」
「それも分かんないわね。家で身辺調査しても、変わった所は無かったのよ。親が居ないらしいけど、それも事故らしいわ。学校休む事が多かったみたいだけど、それも、家の事情が何かあるんでしょう。子供の一人暮らしなんだし」
実はかなり確信に迫ってはいるのだが、それに気付く人間はいない。
そこに別の部屋にいた、薫子が合流したので、話はここでいったん終わりになる。
「おっす、たっちゃん。それに虚先輩。それに簪ちゃんに本音ちゃん。何の話をしていたの?」
楯無の横に座る薫子。
「ちょっと、内緒の話をね。薫子ちゃんの方はどうだったの? スカウトの方」
「受けるよー。だって、給料良いし、学校で勉強している事活かせるし、行きたければ大学の方も会社がお金出してくれるって言うし。そこまで評価してもらってるんだもん、受けない選択肢は無いわよ」
「黛さんは2年ですでに整備課トップレベルの実力を持っていますし、評価されるのは分かりますが…」
「かなりの好条件ね。国家レベルでも、そこまで出さないわよ」
驚きの声を上げる楯無と虚。
「みたいだねー。いろんな国からの引き抜きの話がここの人に来るみたいだけど、大体ここまで待遇良くないって言ってたよ。技術職は評価されにくくて買い叩かれやすいって」
「ISはまだ若い物ですから、専門の技術者の絶対数は少ないですが、それでも、先輩方の話を聞くと悪い所は悪いみたいですからね。特に第三世代の開発に手間取っている国の研究機関はブラック企業並みにブラックらしいですし」
「……私って凄いついていたんですね」
「まず、間違いなく」
「……もっと、ちゃんと勉強しよ。せっかく先を気にする必要無くなったんだし、お仕事もあるし」
「お仕事?」
「そうだよ。各国から開発の協力要請があって、ウチが協力したISの整備と勉強。それが私の最初のお仕事。アフターサービスみたいなものだよ。後は霧島君の専用機『出雲』の専属整備士かな。とりあえずスペックカタログを見たけど…あれ、かなり凄いよ。社外秘にできない事が多すぎる。スペックカタログ持ち出し厳禁だし」
「そうなの?」
「うん。詳しい事は霧島君に聞いてだって。その勉強もしなきゃだから、はあー忙しくなりそうだ」
言葉とは裏腹に薫子の表情は楽しそうだった。
「嬉しそうね、薫子ちゃん」
「そうかな? まあ、今まで勉強して来た事が認められたし、嬉しいのは嬉しいよ。これも霧島君のお蔭ね」
「そうね。薫子ちゃんから見て八雲君はどう?」
「そうねー…」
結局五人はそのまま八雲が来るまでそのままおしゃべりを続けた。
ちなみに、八雲が話題になった時、別の部屋にいた八雲がくしゃみをしたとか、していないとか…。
三人称は難しいですね。今回の所を書いていてしみじみ思いました。