その日の夜僕は楯無さんに屋上に呼び出された何でも火急の用事があるとか。
何だろ? こっちで事件の進展でもあったのかな? ……だとしたら、報告書の枚数が増えそうだ。
まあ、とりあえず楯無さんの話を聞こう。
階段を上り屋上へと通じるドアを開けるとすでに楯無さんが居た。
「お待たせしたみたいですね。すみません、遅れて」
「良いわよ。私が呼び出したんだし」
僕はお詫びの言葉を言ったが、楯無さんは気にしていないようだ。
「それで僕に用事って何でしょう? ……というより、何で今日生徒会室でそれ言わなかったんですか?」
喋りながらふと思ったことを僕は口にした。
「そ、それは八雲君以外の誰にも聞かれたくなかったから……」
「そうですか」
誰にも聞かれたくない事ねえ…。あそこにいたのが他人ならともかく、身内で楯無さんにとっては影と言ってもいい虚さんだ。彼女にすら聞かれたくない事って…何だ?
しかし、楯無さんがだんまりなので、事態は一向に進まない。
促すべきなのだろうか? そう思っているとおもむろに楯無さんが話し始めた。
「今日呼んだのはね。夏休みに入る前に八雲君にどうしても伝えたい事があったからなの」
「伝えたい事ですか?」
「うん。…私はね、あなたの事が、霧島八雲君が好きです」
………はい? 聞き間違いじゃなかったら、楯無さんは僕の事を好きと言ったよね?
ああ、中学でも何度かあった告白かー。ってそうじゃなくて! 何故僕に? 客観的に見たらどう考えても一夏の方が優良物件のはずだ。僕が勝てるものはIS戦と給料位だ。
「最初はこう言ってはなんだけど、織斑君に比べると普通の子だなあって思ってたの」
まあ、僕のこっちで分かる経歴ってそこらへんに居る学生と変わらないよなあ。特筆すべき点って大企業の社長令嬢であるアリサとの友人関係位だし。
「でも、ふたを開けてみればIS戦では織斑先生曰く国家代表クラスの実力者で、実務能力も抜群の平行世界の人間だった。戦った頃は憧れだったかもしれないけど、学年別トーナメントで助けられてから、ううん、もしかしたらそれより前からかもしれない。でも私の気持ちは本物よ」
………人の気持ちを正面からぶつけられるのはあんまり好きじゃない。それはその気持ちを受けた僕が全力でそれに応えないといけないと考えているから。
そしてそれが生む結果が必ずしも良い物になるとは限らないから。
「楯無さん、ありがとうございます。でも僕はその気持ちに応えられません。僕にはこの世でたった一人何をしてでも護り抜きたい大切な人が居るんです。だからごめんなさい」
僕の答えはNOしかない。たとえ誰であろうともこの結果は変わらない。
「そう…なの。……少し一人にしてくれないかしら」
「分かりました。では、また明日」
僕はそれだけ言い残して屋上を後にした。
「振られちゃったなあ……」
屋上に一人残った楯無はそう呟いた。八雲の答えは彼女の初恋が終わった瞬間でもあった。
携帯を取り出しとある場所に電話を掛ける。何回かのコールの後、
『もしもし、こんな時間に何の用よ楯無?』
「八雲君に告白して振られた。慰めて」
『ああー…』
「というより、分かってたよね。八雲君に恋人が居るのに! なのにどうして私に告白を勧めたの!」
どんどんヒートアップしていく楯無。
『逆に聞くけど私が「アイツには恋人がいるから諦めろ」って言ってアンタは諦めきれるの?』
「それは…」
アリサの言葉に楯無は冷や水をかけられたように消沈する。
『諦めきれないわよね。分かるわよ、それくらい。私自身もそうだったから』
「アリサも?」
『そうよ。私もアイツに昔告白して振られたの。それを分かっててね』
「ど、どうして?」
疑問を口にする楯無。
『そうじゃないと私自身が振り切れないからよ。無理だと頭で理解していても、それを認めたくない自分が心の奥に居たから、それをどうにかしないと私自身が前に進めないと思ったから。それに…』
「それに?」
『私にとっては八雲もその相手、はやてって言うんだけど、その子も大事な親友だから、このままじゃその関係が崩れそうだったからね。それを防ぐためにもやらないと駄目な事だったのよ。まあ、そのおかげで色々と変われた気がするし』
「変われた?」
『私の心持だけどさ、アイツが私を振った事を後悔するくらい良い女になってアイツを後悔させてやろうってね』
「強いわね…」
『強くないわよ全然。振られたショックを別の事で隠しているだけだし、まだ恋心持ったままだしね』
「そうなの?」
『そうなの。多分これは捨てる必要のない物だし、この気持ちを超える出会いがあるって信じてるから』
「それがアリサの運命の人?」
『陳腐な表現だけど、多分そうね』
「案外ロマンチストなのね」
『そりゃ、花の女子高生だもの。夢位見ても良いじゃない』
「まあ、そうかもしれないけど、自分の将来の経験のために高校生ながら仕事を手伝ってるリアリストらしからぬ言葉だなって思ったのよ」
『それはあくまで私の一面ってだけよ。リアリストな私も、ロマンチストな私も、大人みたいな考えの私も、子供っぽい考えの私も肯定できる私も、否定したい私も全部ひっくるめての私よ。どれかを抜いたらそれは私じゃないわ』
「何と言うか……八雲君もそうだけど、アリサも考え方が子供っぽくないわよね」
『まあ、八雲含め幼馴染の何人かが小学生の頃から半分社会人みたいな感じだし、年上の知り合いが多いから環境が理由じゃない? 八雲は元々だった気がするけれど』
「何か納得だわ。……話し過ぎたから、そろそろ切るわ」
『ん、了解。最後に一つだけ良い?』
「いいけど?」
『辛いなら泣いちゃいなさい。妹……は難しそうだからお付の、虚さんだっけ? その人の胸でも借りてね。これは『更識楯無』の問題じゃなくて、『更識刀奈』の問題なんだし。じゃあね』
そう言って電話を切るアリサ。
「言いたい事だけ言っちゃって…」
一人夜空を見上げて呟く楯無。人工島にあるIS学園は案外しっかりと星が見える。
「お嬢様?」
呼ばれて振り向くと、幼馴染で楯無の従者でもある、虚が居た。
虚の姿を見て楯無の押さえていた感情が決壊した。
虚の元に駆け寄り、抱きつき静かに泣き出す。
「お、お嬢様⁉」
突然の出来事に慌てる虚。
「ゴメン…明日から『更識楯無』に戻るから。…だから、今日、今だけは『更識刀奈』として居させて…」
楯無の言葉に驚く虚。なぜなら、楯無はその名を継いでから、一番近い虚にすら弱い所を見せた事はほとんど無かったからだ。
「分かりました、『刀奈』。今だけは昔と同じ呼び方にさせてもらいます。貴女がすっきりするまでどうぞ」
ぎゅっと楯無を抱きしめる虚。その優しさに楯無はついに声を上げて泣き出す。
長いようで短い時間の後、
「虚ちゃん、ありがと」
「もうよろしいので?」
「うん。もう『楯無』に戻るわ」
その言葉を聞いて二人は離れる。
「そうですか。…1つよろしいですか?」
「? いいわよ?」
「それでは…。お嬢様は頑張りすぎです。仕事でも自分の事でも。少しは周りを頼ってください。私が何故IS学園に居ると思っているんですか?」
「『更識』からの指示じゃ…」
「確かに『更識』から、正確には先代様に言われました。しかし、強制ではありません。『更識としてはこういうが、俺自身は子供は子供の進みたい道を選ぶべきだと思っているだから好きにしろ』と言われたのでここに居ます」
「…どういう事?」
「私にとって『更識刀奈』は共に歩いて行きたい大切な親友です。でも、私にはISを扱う適正はあまりありません。それなら、裏方で支えようと決めたのです。『布仏』は『更識』を支える影かもしれません。でも、私は、『布仏虚』の気持ちはずっと昔から変わりません」
「……ホント、私は良い親友に恵まれてるよ。これからもよろしくね、虚ちゃん」
「もちろんです、お嬢様」
「二人っきりの時や身内しかいない時くらいは私の本当の名前で呼んでほしいな~。私達のお父さんもそうしているんだし」
「…分かりました。これからもよろしくお願いします。刀奈」
一人の少女の恋が終わった日、しかしその日彼女はどんな時も支えてくれる最高の親友を得ることが出来た。
どちらも比べる事の出来ない出来事で、彼女にとっては大きな出来事だった。
それらが、彼女やその周りにどう影響を与えるかは分からない。
しかし、今日という日を彼女は忘れないだろう。
(本当の)名前を呼んで回になりました。
当初はこんな事になる予定ではなかったのですが、書いている内にこうなりました。なのはっぽい要素いれようかなーって考えていた結果だと思います。
楯無さんは好きなキャラなのですが、この作品に関しては辛い役目を背負わせてしまいました。幸せになるようなお話は他の方に書いていただきましょう。僕には余裕がありません。
アリサの話は……気が向いたら何処かで書きます。今は未定で。