「何週間かぶりの、地球だ~」
「そうですね。これから、どうなされますか?」
「会社に顔出して、IS学園に戻るかな。四輪免許の教習の間にシグナムとなのはに空戦の訓練……っていうか、短期集中特訓を受けたから、大丈夫だとは思うけど、ISの操縦鈍ってそうだし」
魔法での空戦とIS戦はかなり似通った所がある。完全に両方の経験に互換があるとまでは言わないけど、色々な部分で活かせる。
しかし、ここ3週間ほどISに乗ってすらないから、鈍ってはいるはず。残りの10日位は朝から晩まで出来る限りの訓練をしようと思う。
とはいう物の、僕には念話とマルチタスク、そして叢雲が揃う事で出来る、極めて実戦に近いイメージトレーニングがいつでも、どこでも出来る。これは、他の誰よりもアドバンテージだ。場所を選ばないんだから。
でも、生徒の代表でもある生徒会の役員なんだからしっかり努力もしているって所を見せないとね。
「まずはどれくらい鈍ってるかを調べないとな~」
「比較ならお任せを」
「頼んだよ、叢雲」
会社に寄って、アリサから新しい仕事を渡されて、地球にもどっと早々精神的な疲れを抱えた僕はIS学園に戻って来た。
(いきなり、『新商品のモニターを探して来い』って無茶苦茶だよなあ……あっちの技術を活かして作った物だし、僕に任せるのは分からなくはないんだけど……)
帰りのモノレールで候補を考えた結果、何人か思いついたんだけど……皆、色々仕事がありそうな人達だからなあ。その辺を加味した第一候補は……あの子だな。明日にでも話を持っていこう。
「あっ、きーりん、帰って来てたんだ~」
「おっす、本音。久しぶりだね」
寮の僕の部屋に向かう間にルームメイトの本音に出会った。……そういや、僕の引っ越しはいつになるんだろう? いや、本音の素性を考えたら、彼女は僕に来るはずのスパイ、ハニートラップの防波堤の役割を担ってるんだろう。それに正直、今の状態の一夏よりも数倍、リラックスできるし。本音は癒し系だから。
僕達は一緒に部屋に戻る。
「私はてっきり、夏休みの終わるギリギリまであっちに居るのかと思ってたよ~」
「僕もそのつもりだったんだけどね、はやての方にお仕事が入っちゃってね。忙しくなりそうだし、夏休み中にあっちでやっておきたい事も終わらせてあったから、ちょっと早めに戻って来たんだよ。と言っても2、3日の誤差だし気にしてないよ」
「そっか~。やがみん、忙しいんだね~」
ちなみに、本音が付けた僕の幼馴染達と家族のあだ名は、やがみん(はやて)まっちー(なのは)てすてす(フェイト)
ばにぃ(アリサ)つっきー(すずか)くらー(ユーノ)しぐしぐ(シグナム)ヴィーたん(ヴィータ)しゃーま(シャマル)ざふぃー(ザフィーラ)あいちゃん(アインス)つーちゃん(リイン)って感じ。本音独特のセンス全開って感じだね。
ちょっと、クロノとかに付けるあだ名が気になるね。
「無茶しないで欲しいよホント」
「でも、向こうで、皆の話を聞いた限りだと、きーりんが言えるような事じゃ無いよ~?」
「……自覚はあります。ハイ」
「私も、やがみんにお目付け役を仰せつかったしね~」
……まあ、帰ってきて早々に風邪で倒れたからなあ。その辺を見張っといてもらおうって所か。
「ちなみに報酬は、きーりんのお菓子だよ~」
「僕が作るの⁉」
「うん、『浮気せえへんくらいこき使ってあげてな~』ってやがみんに言われたし~。まあ、客観的に見てもきーりんが浮気するようには見えないけどね~。二人ともラブラブだったもん」
「はは、ありがとね」
ラブラブと他の人に言われるのは、何と言うか……恥ずかしい物があるね。
「そういや、何で本音はここに? 生徒会の仕事でもあったの?」
「違うよ~。かんちゃんが部屋に遊びに来たんだけど、飲み物が無かったから買いに出たんだよ。今はその帰りなの」
「なるほど、って事は部屋には簪が居ると」
「そうだよ~」
なら、丁度良いか。僕が考えていた新商品のモニターの筆頭候補は簪だった。
機体が日本政府の直属の倉持技研から民間のバニングス社に移った事で、政府が強く関われなくなった事と、技術系に強い簪ならこういうのに向いているだろうという考えからだ。
「とうちゃく~。かんちゃんただいま~」
「お帰り、本音。あっ、久しぶり八雲」
「久しぶりだね、簪。いきなりで悪いんだけど、商談があるんだ?」
「商談? 私に?」
首をかしげる簪。
「うん。実はねウチの会社でミッドの技術を使ったものを色々作ってるんだ」
「ミッドの技術って魔法?」
「そうだね。今回のは正確に言うとデバイス関連の物なんだけど。それで、そのモニターを簪に頼もうと思ってね」
「……何で私なの?」
「一番ウチの会社に近い人で、なおかつ専用機持ちだから。今回のはね、僕達魔導師が普通に訓練で使っているデバイスの機能の一つ、マルチタスクを鍛えるイメージトレーニングの部分だけを切り取った物だから、ISの操縦にマルチタスクがどこまで有用かを確かめたいんだよ。僕はそれを使うのに慣れきってるし、先輩方は操縦自体が上手いから分かりにくいし、そもそも交流がない。んで、定期的にデータを取りたいから、専用機持ちが望ましくて、伸び白がありそうな一年生の中でそういうのが向いてそうなのは誰かと考えてたら……」
「私だった」
「その通り。夏休み前のが無かったら、同率でラウラとシャルロットも候補だったんだけど、今はちょっとね」
人間関係の修復にはお互いの歩み寄りが必要だとは思うけど、今回の場合は一方的にあっちが突き放しているので、僕がどうしようもない。いや、真剣に考えるのなら、僕が歩み寄るという方法もありなんだろうけど、今回の場合はそれじゃ意味ないんだよな。
「うん、分かった引き受けるよ」
「ありがとう。ちゃんと会社の方から、報酬は出るみたいだから」
「それは良いや」
「へっ?」
「その代わり、私の訓練のコーチをしてほしいな」
「そんなんで良いの? それくらいなら時間があればするよ。でも、僕も仕事と生徒会があるからいつでもって訳にはいかないから。それでも良い?」
「それで良い」
「よし、契約成立。それじゃ……」
早速、説明をしようとしたら、部屋のドアがノックされた。
「私が出るよ~」
そう言って、本音がドアの方に行った。少しして、
「きーりんにお客さんだったよ~」
戻って来た本音の後ろには予想外の人がいた。
「えーっと、ラウラ。何の用かな?」
「私を鍛えて欲しい!」
そう言って頭を下げる、ラウラ。と、唐突だな。
「と、取りあえず、理由を聞かせて」
「ああ。実は夏休みに本国に戻ったのだ。その時に師匠に会って、例のやり取りを話して相談したんだ。少なくとも私より師匠の方が八雲の事を知っているからな」
「ラウラの師匠が八雲の知り合いなの?」
「うん。なのはのお兄さんで小太刀二刀流の古武術の使い手だよ。んで、めっちゃ強い。今は5分になって来たけど、昔はよく負けたよ。僕にとっては師匠……というより修行仲間って所かな」
師匠は士郎さんの方がしっくりくるし。
「きーりんに勝つなんてすごいね~」
「僕も、まだ修行中の身だからね。っと、話が脱線してる。それで?」
「師匠は『八雲に比べたら、一人目は覚悟と力が足りない。それに、アイツ自身が守る事の難しさを知っているからこそ、否定をしたんだろう』と。個人で守る事と組織で守る事の差を師匠に教えられた」
……恭也さん、やっぱ流石だよなあ。シスコンさえなければ僕の憧れの大人なんだけどな。その面では士郎さんにはまだまだ及ばないね。まあ、僕もだけど。
僕と恭也さんが愛する人を大事にするのは、確実に士郎さんの影響だね。
「……私は軍人で、場合によっては大を救うために小を切り捨てる事もあるだろう。だが、力を付ければ、それを無くせるかもしれない。そのためには強さの意味を理解し、実力もある八雲に頼むのだ」
「……初対面の時の答えは見つかったかい?」
「いや、まだだ。だから、今はがむしゃらに努力をしようと思う」
「分かった。僕で良ければ協力するよ。……しかし、簪も同じタイミングで言うんだよなー」
「そうなのか?」
「うん。……というより、1年最強、いや学園最強の一角にコーチを頼むって普通だと思う」
「まあ、確かにな。これから一緒の事も増えるだろう、よろしく頼む、簪」
「こちらこそ、よろしく、ラウラ」
握手をする二人。
「さて、じゃあ僕の特別メニュー第一弾行ってみようか。二人ともISの待機状態を出して」
僕の言われた通り待機状態のISを机の上に出す。
「これに特別プログラムを入れるよ。これはプライベートチャンネルと同じ方法で起動可能で、極めて実戦的なイメージトレーニングが出来る物で、僕達魔導師にとっては基礎の基礎と言ってもいい並列思考、マルチタスクを鍛えるトレーニングです。これの恩恵は僕の体感だけど、かなり大きいです」
「たとえば?」
「そうだね……まず、思考を分けて全方位見るのと、そこから必要になる物を選ぶのを並列化して、全方位接続をする活用したり、より複雑なマニュアル制御での飛行が出来たり。後、イメージインターフェイスを使う第三世代兵装なんかは抜群の効果を発揮するよ。僕の彩雲のNバレットは正直、マルチタスクありきの武器だからね」
他のバニングス社所属のテストパイロットが実験で使った時は一発を誘導するので手一杯、しかも動けずだった。
「それは……凄いな」
「それに、そもそもISはイメージが結構重要だからね、こういうイメージトレーニングでもかなりの経験を積めるよ。これだとその気になれば一日中出来るし。手始めは夏休みの課題や二学期の予習復習をしながらイメージトレーニングをしてみる事。慣れてきたら、日常生活の色んなところで使ってみる事。基礎トレーニングだから、出来る限り毎日やる事。とりあえず、夏休み中はこれと基本的な機動訓練に費やすとします」
「模擬戦はやらないのか?」
「模擬戦は結果が出ちゃうからね。良い結果が出れば良いけど、悪い結果が出ると気分が乗らないかもしれないし。だから、目標として二学期最初の全クラス合同訓練で他の専用機持ちの勝つ。出来る限り良い内容で。そこで、その後の訓練メニューを僕の独断と偏見で決めます。分かった?」
「「分かりました、先生!」」
「先生はやめてよ……」
こうして『更識簪、ラウラ・ボーデヴィッヒ改造計画』(本音命名)が始動した。
後、例のプログラムは楯無さんにも渡す事になった。そんな事しなくても、十二分に強いのだけど「生徒の長として努力はしないとね」との事だった。
外伝といえばこの作品のIFルートも書いています。暗いです。『もしも、あの日八雲がはやてを助けられなかったら』を前提として書いているので。そこまで長い話ではないので、書き上げたら纏めて上げると思います。