「……どうしていきなり?」
僕はすぐにに聞き返した。これは当たり前の反応だろう。
「えーっと、腕試しをしたくて。パパは向こうで私や私の友達たちのストライクアーツや魔法戦技の師匠なんです。その師匠の若い時と戦う経験が出来る機会なんて普通ないですから。だから、戦ってみたいんです」
「理由は分かった。……シグナムの影響、受けてないよね?」
「無いとは言えないかな。でも、パパも人の事言えないよね」
教育上よろしくないよね、やっぱり。こっちではそうならない様に肝に銘じよう。
「自覚があるから、何にも言えないなあ……。それじゃ、やるか。格闘と魔法もあり、どっちがいい?」
「魔法もありかな。色んな連携試したいし」
「OK。叢雲、結界の準備よろしく。皆も見る?」
僕の言葉に頷く三人。
「さて、それじゃ、始めますか。叢雲、合図よろしく」
「よろしくお願いします!」
そう言って、バリアジャケットを纏う咲耶。あのデザインは……TOGfの未来への系譜の時のソフィの衣装に似てるけど……偶然だよな?
「ready……fight!」
叢雲の開始の合図と共に僕と咲耶は同じモーションに入った。
「魔」
「神」
「「拳!」」
僕達の放った衝撃波はほぼ中間地点で相殺される。さて、どう出てくる?
「ていっ!」
相殺された砂煙の中から飛び蹴りで襲い掛かって来る咲耶。
「甘いねえ」
僕はそれをハイキックで迎撃。バランスを崩すかと思ったら、咲耶は上手く態勢を立て直して着地した。ふむ、結構やるね。向こうの僕はしっかり娘を鍛えたっぽいな。
「もう一回!」
もう一度飛びかかってくる咲耶。
僕もそうなんだけど、咲耶も同年代に比べると少し小柄だ。つまりは単純な打撃だと威力が出ない。いや、比較的身体能力が高いから、威力は出るけど、それでもちゃんと格闘技を修めて鍛えれば簡単に抜かれるレベルだ。その威力不足を補う方法はいくつかある。飛び蹴りは勢いを付けつつ、重力を活かせるから、威力を出すための手段の一つとして僕も良く使う。
まあ、もう一度、ハイキックで……いや、軌道が違う。
「崩蹴脚!」
なるほど、下を崩しに来たわけか。上手いね。
「まだまだ! 鷹爪!」
着地してしゃがんだ事を利用して飛び膝蹴りしながら、飛び上がる。その時、顎を狙うとか……えげつない事教えてるなあ。
「襲撃!」
魔力の壁をクッションとして、僕の頭上から踏みつけるような蹴り。連携も上手いな。だけど……。
「残念でした」
僕は転移で咲耶の上空を取る。そして、
「陽炎!」
同じような一撃。
「くっ!」
咄嗟にガードする咲耶。反応も上々。年齢を考えると結構凄いんじゃないかな。さて、着地の隙があるところだけど、ガードで態勢も崩れてるし、ここは距離を取って仕切り直すか。
「よし、今!」
踏み込みながらの正拳突き。ふむ、『幻竜拳』か。僕はバックステップで距離を取ろうとしているから、回避は出来ない。
……読まれたような動きだな。あっちの僕も同じような動きだったのかな?
「ここから、行きます!」
『幻竜拳』は踏込に使っただけの様だ。そこから左足での高速の連続蹴りの『連牙弾』。さらに、そこから連続空中回し蹴りの『飛燕連脚』、さらに連続の回し蹴りからの連牙弾の『爪竜連牙弾』。
威力は年相応って感じだけど、連打の回転が速い。一つ一つの動きも速いし、つなぎも綺麗だ。
「これで、締め! 獅子戦吼!」
ショートバスターで吹き飛ばすあたり、反撃の事も考えてるなあ。
「っと、普通に強くてびっくりだよ」
吹き飛ばされたけど、後ろに跳んで威力は減らしたし、ガードも受け身もちゃんと出来ているから、そこまでのダメージは無い。
「……でも、パパ余裕そうだよ。ほとんど防がれちゃったし」
「そりゃ、娘には簡単に負けられないからね。でも、速さと、連携の上手さは十二分に凄いよ。それは保障する」
「ありがと。でも、私だってまだまだ出来るんだよ?」
魔力を込めて一撃、ガードはしたけど……これはスタンバレットと同じ効果⁉ って事は『点穴縛態』。という事は……。
「これで決める! 1!」
初段、サマーソルトキック。
「2!」
二段目、そこからの飛び蹴り。
「3! 燃えろ、火龍炎舞!」
三段目、連続のサマーソルトからの炎に変換した魔力を叩きつける。
……筋が良いのは分かってたけど、10歳の娘になんて技教えてるんだよ、向こうの僕はさ。
「どう! ……っとと」
そう聞いてくる咲耶。しかし、若干足元がおぼつかない。僕は倒れそうな咲耶を受け止める。
「っと、危ないな。腕試しなのに無理しすぎ。もうちょっと後先の事考えようね」
いくら腕試しと言っても手を抜くことは僕は出来ないし、咲耶もそうなのだろう。そんな所まで似なくて良かったのに。のびのび育ってるのは良いと思うけど、向こうの僕やはやても心配してそうだよ。
「はあい……」
「まあ、それ以外の実力は言う事なしかな。格闘は素人に毛が生えたレベルの僕の言葉だけどね」
僕の戦闘はあくまでも剣がメインで徒手空拳はサブでしかない。それでもそこそこ戦えるのは身体能力のお蔭だ。
「そうみたいだね。陽炎だって、元々は剣で使ってる技だし、立ち回りも経験から来る読みでの防御やカウンターばっかりだもん」
「それまで気付けるから、観察力もあるし、戦っている間も冷静って事だね。……ひょっとしたら、ちょっとISの乗り方教えるだけでここに居る誰よりも強くなるかも」
「あいえす? なにそれ?」
「……えっ?」
なんか、凄い認識の違いが生まれてる気がするんだけど……。
「向こうの僕の最終学歴、分かるかい?」
「地球だと聖祥大付属中学卒になってるんじゃないかな。パパ達は義務教育が終わって、ミッドに来たって聞いたよ。あっちだと、その後、短期で士官学校に通ってるから、そこになると思うんだけど」
……どうやら、咲耶は平行世界の僕の未来の娘らしい。あっちだと、僕達は当初の予定通りに中学卒業後にあっちに完全に地盤を移したみたいだ。
僕はその事をざっくり咲耶に説明する。
「なるほどー。だから、パパはアルバムで見た事の無い制服を着てたのか。ちょっと変だとは思ってたんだよね~」
「といっても、ミッドでの出来事で生まれたんだったら、結局咲耶が僕とはやての娘であることは変わらなさそうだけどね」
ISが無ければ今頃僕はミッドで普通に管理局員として生活していたはずだ。そのありえた世界から咲耶はやって来ただけ。そして、咲耶が生まれたのがあっちの僕が19の時。つまり普通に高卒後の年齢の話って事になる。だから、ここでの時間は彼女の誕生に関係ないはずだ。
「さて、見てた三人はどうでした?」
僕は見学していた三人に話を振ってみる。
「……凄いとしか言えない」
「10歳の子供に勝てる気がしない……」
「私なんかが最強を名乗るのはおこがましいわ……」
皆カルチャーショックを受けている。まあ、本格的な魔法戦見たら、耐性ない内はそうなるよね。
「でも、あれで驚いてたら、パパの本気を見れないですよ?」
「そんなになの?」
「パパの現役時代を知ってる人達がパパの戦いを見て、『人間ハリケーン』『天災を起こせる』『地震、雷、台風、八雲』らしいです。私も映像で見せてもらったんですけど……同じ人間とは思えませんよ」
「……否定できないなあ」
隕石降らせたり、巨大な渦潮起こしたり、海を凍らせたり出来るし。レティ提督には『歩く戦略兵器』『掛け値なしに新鋭艦と同等の戦力』って言われてるし。
「想像もつかん。……しかし、さっき現役時代という言葉を使ったが、八雲は怪我でもしたのか?」
「ああー、私が生まれた頃に管理局を辞めたんですよ」
「子供を一人に出来ないとかそう言う理由だろうさ。……あれ? それじゃ、僕はヒモじゃねえの」
嫌な事に気が付いて、泣きたくなる。
「家の道の方を増築して、そこで喫茶店やってますよー」
「……まんま、士郎さんと同じ人生歩んでるじゃん」
「それ、たまに言ってる」
やっぱりねー。
確かに僕にとって士郎さんは憧れの男性、『理想の父親像』だし、翠屋で士郎さんや桃子さんに「喫茶店やってみない?」って言われてたけどさ。まさか実際にやってるとはね。まあ、向こうの僕が選んだ道なのだから、何も言わないけど。
二日後に束さんが装置の改修を終えて咲耶が帰るまで僕は娘と一緒に過ごした。三人の特訓はメニューを渡して自主トレにしてもらった。
それで、この二日で一つ悟った。自分の娘はすげえカワイイ。はやては僕の中で殿堂入り、別格だから除けておくにしても咲耶はダントツにカワイイ。
だから、アリシアとフェイトを溺愛するプレシアさんや、なのは達を大切にしている桃子さんと士郎さんの気持ちが良く分かった。
向こうの僕も絶対に親バカだな。向こうの僕も僕なんだし。
束がその行動で起こす事の比喩として『天災』なら、八雲は本気の魔法で発生させる物が『天災』なのです。
表現するなら……『天災(結果)』と『天災(物理)』でしょうか?
次から、二学期に入っていきます。