未来から来た娘の咲耶が帰って数日、二学期が始まった。
……そういや、夏休み前に話した増援の話ってどうなったんだろ? その後会社からも管理局からも連絡無いんだよなあ。まあ、次何かが起こりそうなのは今月中旬にある文化祭だからそれまでに連絡があれば良いか。
にしても、IS学園行事多いよな。一学期にクラス代表戦に学年別トーナメントに臨海学校。入学式も合わせたら月一でイベントだよ? どんだけ、お祭り好きなんだよ。
ただ、九月はそれを超える。真ん中に学園祭があったと思えば、月末にはISのレース戦『キャノン・ボール・ファスト』がある。他にも二学期もイベントが目白押しだ。生徒会の仕事が多くて困るよ。はあ……。
「きーりん、朝から暗いね~」
「いや、どう考えても二学期は仕事が増える未来しか見えなくてね」
「例年も多いらしいからね~。そうそう、またウチのクラスに転校生が来るみたいだよ~」
「へえー。……出来れば、問題を起こさない子を希望する」
鈴は無断展開、シャルロットは男装編入、ラウラはVT暴走と転校生が問題のカギになってる事が多い。
「今回は大丈夫じゃないかな~」
「何処から来るのさ、その根拠は」
「まあ、見れば分かるよ~。チャイムもなるし私は戻るね~」
そう言い残して本音は自分の席に戻っていった。
少ししてチャイムが鳴ると織斑先生と山田先生が教室に入って来た。
「皆さん、今日から二学期ですね。という訳で、新しいクラスメイトを紹介します。入ってきてください」
山田先生がそう言った。
入って来たのは前のような事も無く普通に女子。長い栗色の髪をサイドテールで一つに結んでいる。……いや、僕が良く知っているとある人に凄く似てるんだけど、アイツがここにいるわ「バニングス社所属テストパイロット、高町なのはです。会社の事情で編入になりましたけど、よろしくお願いします」……めっちゃ、僕が良く知ってる人だったー。
そりゃ、本音も大丈夫って言うわ。
「高町の席は霧島の横だ。同僚だろう? 学園生活で困ったら頼れ」
「分かりました」
そう言って、僕の横(一学期の途中まで居たんだけど、家庭の事情と国の事情の二つで退学する事になった子の空き席)に来るなのは。すかさず僕は、念話を飛ばす。
『いや、なのはが居る理由は分かってるけどさ、どうして言ってくれなかったんだよ』
『八雲君の家で遊んだ後に決まったんだもん。それから、詰め込みで勉強だよ? 言う暇ないよ。アリサちゃんやレティ提督が言ってるものだと思ったよ』
『……なんか、あの二人なら面白そうって理由で黙ってそうだな』
めんどくさい上司を持ったものだよ。はあ……。
『次元航行艦は『アースラ』を廻すって』
『アースラクルーなら面識もあるし、他ならぬクロノも居るから安心だな』
『捜査の指揮ははやてちゃん。クロノ君がそれをフォローする形になるかな。後、フェイトちゃんが執務官として参加してるよ』
『こりゃ、大船に乗ったつもりでいれそうだ』
『といっても、ISには私達で対処しないといけないからね』
『分かってるよ。でも、なのはがいれば100人力さ』
なのはの実力は恐らく僕がこの世で二番目に知っている。一番は多分フェイトだろう。味方として敵として、そして何より身近なライバルとして競い合い高めあって来たんだから。
「さて、今日の午前中は今学期最初の実習で全クラス纏めての物になる。遅刻しないようにな」
急いで授業の準備をしないとね。
普段の実習、つまり二クラス合同の時は基本的な事ばかりだったからアリーナではなく普通にグラウンドを使っていたのだが、今日はアリーナの観客席に集合となった。1つラッキーだったのが、今日空いている更衣室がそのアリーナと同じ場所だったことだ。
「今日はまず専用機持ち達に何回か模擬戦をしてもらう。まずは……高町を除いた全員だ。組み合わせは霧島対残りの全員とする」
……えー。めっちゃしんどいじゃないですか。簪とラウラの実力は訓練を見ていたからある程度把握してるけど、他の5人の実力がどこまで伸びたか分かんないし……どうするかなあ。いつも通り、様子見からの各個撃破でいいかな?
ISの対複数戦は行った事ないしな。まずは戦力分析。他の専用機を魔法戦のポジションで分けよう。
白式は適正的にガードウイング(GW)だと思うけど、一夏の性格上フロントアタッカー(FA)っぽいんだよな。でも、燃費の悪さを突けばいい。
これは紅椿も同様。まだ、紅椿の方がFAの適性があると思う。弱点も似たようなものだ。
ブルーティアーズは典型的なセンターガード(CG)。しかもBT兵器があるから面倒そう。しかし、機体、乗り手共に近接戦がからっきし。
甲龍はISには珍しくFAだと思う。防御力と長期的に戦える能力、鈴の性格も相まってFAっぽさが強い。しかし、イラつけさせれば何とかなるだろう。
ラファール・リヴァイブは……難しいな。ウイングバック(WB)かな。機動力重視の後衛だし。複数戦になると良い感じのサポーターになって結構厄介。ただ、機体性能が若干低めなのが救いだ。
シュヴァルツェア・レーゲンは搭載兵器的にFAだろう。そうじゃないとAICが活きないし。実力も一年トップレベルだけど、連携しての戦いが未知数なんだよね。
打鉄弐式はCG。装備と簪の適性、それに数日の訓練も考えると彼女が司令塔の仕事をしそうだ。問題は他の専用機持ちとあまり交流が無い事からの連携面の隙かな。
ちなみにこの区分出雲に使うとGWになる。とはいう物の、僕自身がオールラウンダーなので一番向いているのはって話だ。その気になればどこでも出来る。
数日間のマルチタスクの訓練で一番適性が高かったのは簪だった。僕は見ていないけど、開発の時に何枚ものディスプレイと複数のキーボードを使っていたと本音が言っていたので、素養は高かったらしい。
なので僕は少し前から簪の事を『魔王候補生』と心の中で呼んでいる。いや、ミサイルがなのはの誘導弾に、荷電粒子砲が直射砲に見えて、まだまだ伸びそうだったからこうやって名付けたんだけど。……なのはが居るし、簪の訓練の教官をしてもらうか。なのははプロだし。
「不満そうだな? だが、私が客観的に見て決めた事だ。それが不満なら、結果を出して見せろ」
たきつけるような事をいう織斑先生。その負担は僕にかかって来るんですけどねえ……。
「……どうしようか、ラウラ」
アリーナのピットに行く道で、簪はラウラに話しかけた。
「嫁を始め、何人かは聞く耳を持たんだろう。私達は私達で動くしかあるまい。まずは様子見に徹しよう。その後の細かい指示は頼む。機体的にも適正的にも簪の方が向いているからな。正直、これでも、勝ち目はほとんど無いと思うがな」
「……悔しいけど、そうだね。現役のIS乗りで今一番『世界最強』に近いのは確実だろうし」
「その人間に何時でも当たれて、師事出来るのだ。それをチャンスと思わないとな」
「ポジティブだね。でも、そうかも」
「二人は何を話してるの?」
前に居た4人から離れてシャルロットが話に入ってくる。
「シャルロットか。八雲とどうやって戦うかを話し合っていたのだ」
「そうなんだ。まあ、確かに八雲の強さを考えたら作戦を考えるべきだよね」
「デュノアさんは怒ってないんだね」
「シャルロットで良いよ、更識さん」
「私も簪で良いよ」
「そう? それで、さっきの事なんだけど、織斑先生の目は確かな物だと思うからね。そう評価されるのは僕達がまだまだだって事でしょ? 実際に八雲は最低でも国家代表レベルの腕の持ち主だしね。客観的に見てここまでの差があるのは少しショックだけど」
自嘲気味に微笑みながらそういうシャルロット。
「実際、ここ数日、簪の姉のロシア代表の更識楯無や八雲と訓練していたが、練習の密度も量も代表候補生とは比べものにならないな」
「私達は井の中の蛙だったんだよね。でも、早い時期に気付けたことは大きいと思う」
「まだ、卒業までに2年半以上残ってるもんね。……その訓練、僕も参加してもいいかな?」
「良いんじゃないか?」
「その辺はコーチ役の八雲に聞かないとね。さて、着いたし、集中しないとね」
さて、アリーナで僕に対するのは各国の技術の粋を凝らした最新鋭の機体たち。壮観だねえ。
『それでは、始め!』
合図とともに、
「「「うおおおおおっ!!!」」」
開始早々突撃してくる一夏、箒、鈴。さらに最初からビット4機+スターライトを展開して攻撃を始めるセシリア……四人は織斑先生の言葉で血が上ってるのかな? シャルロット、ラウラ、簪は様子見から入るらしく、まだ武装は展開していない。
とりあえず、彩雲を二丁呼び出し、Nバレットで弾幕を張る。これは牽制と次への布石としようか。
「お~、さすがきーりん。7人相手でも引けを取らないね~」
「そうだねー。流石は八雲君だよ」
アリーナの後ろの方で並んで観戦しているのはなのはと本音。
「……うん、なんとなく八雲君の狙いも読めたかな」
「分かるの、まっちー?」
「私も聞きたいな」
その声に二人が振り向くと、後ろには織斑先生が居た。
「多分ですけどね。織斑先生や本音ちゃんは八雲君のISでの試合を見て来てますよね?」
「ああ」
「ほとんど見て来たよ~」
「その時、八雲君は彩雲での射撃戦がメインだったと思うけど、今日とは少し違わないですか?」
「うーん……」
「今までより命中率が悪いな」
「その通りです」
織斑先生の指摘を肯定するなのは。
「もっというと、ISはどこでも当てればダメージはほぼ均一に入ります。だから、当てやすいように体の中心やそれに近い所を狙うはずですけど……」
「今の霧島はそうではないな。……なるほど、わざと外しているのか」
「そうです。避けやすくするために弾速をやや遅くして、中心を外すそれは多分……」
「何かに誘導しているって事?」
「狙いは一網打尽か」
「だと思います。出雲は高火力技がいくつもありますし。今の所完全に八雲君の掌の上ですよ」
「他の奴らがそれに気付くかが分かれ目か。……冷静なボーデヴィッヒ、更識辺りに期待だな」
さて、下準備は大体出来たかな。簪とラウラは僕の狙いに気付いたみたいだけど。
僕の狙いは一網打尽。
今撃っているNバレットの誘導弾は普段より弾速も遅く、避けやすいように狙いも体の中心を避けている。何故なら目的はダメージではなく誘導だから。
簪とラウラの二人はそれに気付いたらしく、わざと一番回避しやすい方向に回避しない。
……にしても、ただ突っ込むだけで作戦も何もないな。特にいきなり攻撃をしてきた一夏達4人。シャルロットは僕の動きを見るために最初は様子見でその後、流れが良くないから参戦してきたし、残りの二人は回避方法を変えてから攻撃を本格化させたから、はっきり分かるまでは様子見するつもりだったんだろう。
多対一で多の方は連携を考えて押していく方が良いとは思うし、相手の出方を伺うのも戦闘の出だしとしては間違っていない。僕としては後者の方が安全策だから良いとは思う。
ただ、約二か月訓練も見てないし、どれくらい強くなったか楽しみだったんだけど……期待外れだった。特に一夏。あそこまで誰かを守りたいって言ってたのに、全然成長した感じを見てとれない。
そんなに軟な覚悟と努力で守りたいとか言うなよ。一夏の認識の甘さにイライラが募る。もういいや。これ以上は授業時間がもったいない。僕は精度を上げて、簪、ラウラ以外の一か所に固まっていた五人に誘導弾を命中させて、ぶつからせる。
「Yバレット、コード・エンジェルリング、シュート」
何発も光輪を発射して五人の動きを固める。
「これで、終わりだよ。カートリッジ三発ロード。Fバレット、ジェノサイトシフト」
その言葉と共にアリーナは無数の光球で覆われる。それは密集陣(ファランクス)を超えたいわば殲滅陣とも言うべきもの。その中央にはとらわれた五人。少し離れているけど、残りの二人も攻撃範囲内だ。
「オールファイア」
言葉と共に掲げた右手を振り下ろす。それと共に大量の弾丸が発射される。煙で見えないけど、あの五機は落ちただろう。問題は……来た!
土煙を切り裂いて、砲弾が飛来する。これは……ラウラか!
「一矢報いさせてもらう!」
瞬時加速で一気に切りかかってくるラウラ。
「全員落としたと思ったんだけど!」
「簪が庇ってくれたのさ。その分まで!」
考えられるのは……五人を背中の盾にして、ラウラの前に簪が立って山嵐で防御といった所か。確かに、マルチタスクでは簪が一歩リードといった所だが、ISの実力はラウラが一歩リードと言った所だ。そう言う意味では簪の判断は正しい。
それと直接、ラウラと接近戦をしたのは初めてだけど、結構強い。流石に楯無さんと比べると劣るけど、一夏や箒よりは上手い。流石はドイツの代表候補生といった所だ。
「そう簡単には当たらないよ!」
「くっ……やはり私だけでは無理か。……しかし」
そう言って何故か笑みを浮かべるラウラ。嫌な予感がする。僕はその勘に従って大きく動こうとした、その瞬間、
(マスター、下から来ます!)
その言葉と回避にすでに入っていたから何とか直撃を避けたものの、ダメージを負ってしまう。
「……簪はまだ落ちてなかったか。でも、これで! Nバレット!」
「ここが私達の限界か」
「でも、一矢報いたよ」
最後は完全に読み負けた。ジェノサイトシフトの過信と、その後の攻撃がラウラだけだった事で、完全に簪が落ちたと思ってた。……僕もまだまだだね。
という訳で、白い魔王さんを本編投入です。