「は、ハメられた……」
文化祭当日の朝、そう呟く僕の格好は……メイド服だった。
こうなったのは30分ほど前に遡る。
僕は前日に仕込みを済ませておいた模擬店に出すお菓子を朝早くから片っ端から仕上げていた。
「これで全部っと。まあ、流石にこんだけあれば無くならないだろ。一夏をだしにしたセットもあって、そっちに流れるお客さんも居るだろうし」
模擬店の柱となるメニューは執事である一夏とのゲームや彼に奉仕させるものと、僕のお菓子類の二つに分かれる。
一人で作れる量はしれているので、一夏関係の注文とお菓子を一緒に注文する事は出来ない様になっている。その辺は気を利かせてくれたクラスの皆に感謝だ。
「八雲君発見! なのはちゃん、本音ちゃん!」
「「イエス、マム!」」
完成の達成感に浸っていたら、突然、楯無さんとなのはと本音が現れた。それで楯無さんは二人に命じて僕を連行させる。
「い、いや、ちょっと楯無さん⁉ 一体何なんですか!」
「理由は後で分かるわ」
「今教えてくださいよ!」
「なのはちゃん、抵抗できない様にしちゃいなさい」
「了解です。勘弁してね、八雲君。バインド」
「ちょっ、なのは⁉」
なのはのバインドで動きを止められた僕はそのまま引きずられ、どこかの部屋に連行され、着替えさせられ、メイクまでバッチリとなった。
「しかも、中学の時とデザイン違うし……。誰だよこれを用意したの」
「アリサよ」
……外部からも手が伸びてたのかよ。
「ちなみにアリサに頼んだのははやてちゃんらしいわ」
「僕に味方は居ないのか……」
この件に関しては恐らく敵しかいないと思う。
「にしても八雲君細いわね。ちゃんとメイクして服を変えたら完全に女の子よ?」
「細いのはよく言われますね。身長も平均ちょい下なんで、普通にレディースの大き目の物なら着れますし」
冬のコート類は大体レディースなんだよな。男物はちょっと大きいから。
「きーりん、体型維持の秘訣は?」
「良く食べて、良く動いて、良く寝るだね。特別な事する必要なし!」
「その通りだね~。私も女子にしては食べる方で中学の時良く聞かれたけど、特に何もしてなかったし」
ていうか、ぶっちゃけ管理局員と学生の二重生活は食べないと体が持たない。慣れないとどんどん体重が減ってく。一般的な女子からしたら嬉しいかもしれないけど、過労ダイエットは体に悪い。体力も落ちるしね。しっかり動いてある程度筋肉があれば代謝が良くなって、太りにくくもなるし。
「まあ、八雲君位の運動してれば食べてても太らないよね」
「ていうか、僕の場合、体質的に食べないとすぐに筋肉が落ちて体重に出ますからね~。戦闘職としてはその辺の維持が大事ですから。僕とはやての為にも」
「……さらっと、のろけるね」
「コーヒー飲みたいよ~。時間もあるし、今朝きーりんの作った奴飲みに戻ろうかな~」
「あははは……、これに慣れてしまった私はどうなんだろ?」
さて、楯無さんに制服を人質(服質?)に取られてしまったので、本音となのはの口利き……と言うより、この格好で教室に行く羽目になって、接客もする事になった。……予備の制服、先週末にクリーニング出したんだよな。というより、アリサに『もうすぐ衣替えなんだから、夏服クリーニング出そうか? 一着あれば何とかなるでしょ?』って言われて。上はワイシャツがあるから良いけど、下のスラックスが無いからこの格好で行くしか無かった。
……今思うとこのための布石だったんだな、アレ。
そんなこんなでメイド服にて接客をしているんだが、今の所僕の事はばれていない。恰好だけでなく、意図的に色々しているから。そのもっとも顕著な物は声を高くするという物。
元々僕は地声が結構高いし、声変わりの時期を迎えてもあまり変わらなかった。いつもより気持ち高めで喋ると低めの声の女子に聞こえない事も無い。特に今は恰好が恰好なので、それも相まって気付かれていないって訳だ。
ちなみにこれを初めてやってみたのは中一の時クリスマスパーティー兼忘年会を翠屋でやった時の事、一発芸でやってみた事から始まる。最初は皆のものまねだったけどね。
「真由子ちゃん、三番テーブルにご指名よ~」
今、僕の名前は源氏名(仮)の真由子になっている。
「……は~い」
「テンション低いよ、や、真由子ちゃん」
「テンション上げろって方が無理だよ、なのは」
……こうなったら、何としてもばれない方向で頑張るしかない。
「ご注文はお決まりでしょうか、お嬢……様」
指名のあったテーブルに行くとめっちゃ知ってる人がいて言葉が詰まった。誰かと言うと、
「久しぶりやね、や、真由子ちゃん」
「夏休みの終わり以来ね、やく、真由子」
「私は家に遊びにいった以来だね、やくm、真由子ちゃん」
はやて、アリサ、すずかの三人だった。……っていうか、危ないな! 皆危うく僕の名前言いそうだったじゃん!
「……お嬢様方、ご注文をお聞きしても?」
「メイドさんのお勧めはなんなの?」
「そうですね、二人目の男性操縦者が作ったお菓子類はどれもお勧めできます。クラスの皆さん絶賛でしたので」
「そう。なら私はシュークリームと紅茶を」
「私も同じのを」
「私は、ショートケーキとコーヒーをお願いな~」
「かしこまりました」
そう言って立ち去ろうとすると、
「まあ、久しぶりなんだし、少しくらい付き合いなさいよ。そこの、メイドさん頼んだもののほう、宜しく」
「分かりました、お嬢様」
アリサが掴んでそう、なのはに頼んだ。二人がサムズアップしてたって事は……アイツら、ハメやがったな。
諦めて、僕は三人の席に座った。
ていうか、アリサはやっぱりこういった使用人の扱いが堂に入ってるな~。
「んで、どうよ。私が特注で作らせたメイド服は?」
「特注って……。サイズがぴったり過ぎて怖い」
「でも、似合っとるよ? なあ、すずかちゃん」
「うん。違和感ないもん」
「嬉しくねえ……」
とこんな感じで普通の会話を四人でしているが、その裏で僕とはやてとなのはは、
『アースラは学園から半径10キロ圏にサーチャーをばらまいて、監視中。何か動きがあったら、連絡入れれるような体制にしてあるよ』
来るかもしれない、魔法関係の敵に対しての対処を話していた。この辺は念話とマルチタスクの非常に便利な点だよね。
『校舎内には僕がサーチャーを準備しておいたから、対処する。校舎外で何かが起こったら、楯無さんや先生達と協力して事に当たると思う』
『まあ、管理外世界の地球で私らが出来る事って少ないからなあ』
『受け身になっちゃうけど、出来る事をするしかないよ』
『多分やけど、ここに来る人はこっちの世界の組織の人やと思うから、管理局が大きく介入は出来ん。だから、ゴーレムの流出に関して聞ければ儲けものって感じやね』
これが管理世界での事件なら、介入して、細かく取り調べとか出来るんだけど。
『んじゃ、逃走したら、一応そいつを追跡して? 本拠地に証拠があるかもだし』
『といっても、一回だと一時的な拠点か、本拠地かは分からないから、踏み込むのは次回以降になりそうだけど』
すぐにキャノンボール・ファストがあるから、ある意味チャンスではある。
『そやね。追跡自体は私も賛成やし、クロノ君やフェイトちゃんも賛成してくれるやろ。それ以降の事はクロノ君判断になると思う。その辺クロノ君に伝えて、私らで相談しとくわ。まあ、そのまま採用になるやろうけど』
はやて、フェイト、クロノ、そしてアースラのクルーとは今まで何度も仕事をしてきた。だからこそ、その能力には信頼が置ける。彼ら彼女らがバックアップをしてくれる。だから僕は安心して自分の仕事に専念できる。
『うーん、とりあえずはこんな所やな』
『了解。まあ、はやて達は大船に乗ったつもりでいてくれよ。なんてったって、僕となのはが前線に居るんだぜ?』
『はやてちゃんが乗ってるのは次元航行船だけどね~。後、いつも八雲君が言ってるけど、油断大敵だよ?』
『分かってる。戦いの場で油断するほど素人じゃないよ』
『大怪我だけはせんといてな、二人とも』
『『了解』』
大事な話は終わったから念話を終える。時計を確認すると、もう結構な時間が経っている。
「お嬢様方、そろそろお出かけの時間ですよ」
このお店はお客さんの回転率を上げるためにお店に入れる時間が決まっている。さっきの言葉はその合図だ。
「もう、そんな時間? 早いわね~」
「それだけ楽しい時間だったって事だよ、アリサちゃん」
「んじゃ、私達は出るわ。あ、そうや真由子ちゃん」
「何ですか、お嬢様?」
そう言ってはやては僕に近付いて、頬に口づけを一つ落としていった。
「カワイイメイドさんにはつば付けとかんとな」
『八雲君は私の物って見せとかんとな』
口と念話で理由を言ってるけど、どっちも似たような理由だなあ。前者はともかく、後者は凄い嬉しいけど。
……でもさ、この後根掘り葉掘り聞かれる気がするんだよなあ。逃げ……られないよな、絶対。
このお話のタイトルは書いている途中に何度も学園祭を文化祭と書いたところから思いつきました。
文化祭前編にして黒歴史回となりました。