さて、学園的には臨海学校のメインイベント(生徒的には初日の自由時間がメインイベントだろう)、一日通しての装備のテスト、先輩方曰く『デスレース』の始まりだ。
『デスレース』の所以はこのテスト朝の9時に始まり、日が沈んで夜の8時までほぼノンストップで行われる。全員が休憩するのはお昼ご飯の為の30分ほど。後は分かれた班ごとに休憩を合間合間に取る。大体9時間は動かないといけない。
専用機持ちは機体、というよりその国家事の開発事情によるらしいけど、今年は多いので、その分他の企業から送られてきたものも多いらしく、そっちのもしないといけないから、例年より大変だろうと予測していたのは虚さん。
まあ、管理局の装備のテストをやった事も一応あるし、長時間の休みなし労働も得意ではあるから、そこまで問題も無いだろう。
ちなみに、労働の方は言われたからでなく、自主的にだ。
生き方を切り替える事を選んでから、とりあえず、連絡だけでなのはやフェイト、ユーノやクロノなど魔法関係の友人や知人には連絡をしておいた。その時、リンディ提督に「貴方を連れてきたのは私だったから、『有給を取るように』せっつかれたわよ。合計で250日くらいは取ってないもの」と小言を頂いた。
普通の休日すら満足には取ってなかったし、色々迷惑かけて居たんだなあと再認識した。今度、士郎さんと桃子さんにお酒を見繕ってもらおう。お詫びの品として。
なんかよく分からないけど、緊急事態が起こったので、装備のテストは中止になった。
専用機持ち―僕、織斑君、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんについさっきISの生みの親篠ノ之束博士に専用機を貰った篠ノ之さん―は昨日の夕食の場所になった大宴会場に他の教師陣と共に集まり説明を受ける事になった。
纏めると、数時間前ハワイ沖で稼働試験をしていたアメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『銀の福音』が暴走。監視衛星などを駆使して航路を予測、残り一時間ほどでこの付近の海上を通過するらしい。
僕達にはそれの捕獲、もしくは撃墜が命じられた。
……いくつか言いたい事があるんだけど。まず、これを収集するのは在日アメリカ軍だろ。次点は自衛隊。少なくとも学生である僕等のやる事じゃ無い。しかも、日本には被害が無いのに、それをわざわざやらせるなんて意味が分からない。どんだけ、自分のメンツが大事なんだよ。
それと、今の作戦会議。これは必要なのか? やらないといけないのは捕獲か撃墜。時間は一時間も無い。そんな中で悠長に話している暇があるのか甚だ疑問だ。
僕がそんな事を思っている間にも、出撃メンバーやら何やらが決まっていく。
作戦は超高速下での一撃必殺を当てる、一撃離脱。メンバーは……どうやら、織斑君になりそうだ。
ただ、福音は超音速飛行中。織斑君の足になるものが必要だ。
大体のISの最高速度は所謂遷音速、旅客機の飛行速度位の速さで飛行する。音速に少し届かない程度だ。僕達の専用機もそうなっている。
対する福音は現在マッハ2に近い速度で飛行中。単純に倍以上の速度で飛んでいる。この速度差を埋めるのはかなり難しい。
僕はやろうと思えばできるけど、出撃するのは織斑君で、彼は素人だから、無理だろう。
「万全を期すためだ、霧島、お前も普通の速度で良い。付いて行け」
「了解」
もし、第一陣で出るんだったら確実に断っていた。だって、何の利もないのにケンカ売りに行くなんて、絶対に嫌だし、しかも命の危険もあるんだから、断るに決まってる。たとえなんと言われようとも今の僕は理由がない限り命を賭けるつもりは無い。
後詰を引き受けたのは、ここで断って、何かがあると寝覚めが悪いから。ただそれだけだ。
結局、作戦は失敗した。
篠ノ之さんが後先考えずに突っ込んだので、僕の到着が遅れ、その間に織斑君が撃墜、篠ノ之さんはエネルギー切れ。
僕が殿を引き受け、二人を下げたんだけど、こっちが積極的に仕掛け無い事に気付いたのか、すぐに福音は去っていった。
織斑君の撃墜の理由は戦闘海域に密漁船らしきものがやって来てたのが理由での言い合いの末に生まれた篠ノ之さんの隙を庇ったから。ただ、件の密漁船かどうかは怪しいけど。
戦闘海域10キロ四方は先生達が封鎖していたけど、所詮は5機。見落としがあった。しかも、この任務は少し前に下った極秘任務。地方の漁協に情報が流れていると思えない。だから、普通の漁船の可能性も十分にありえる。
(叢雲、福音の位置は掴んでるよね?)
(もちろん。先ほど地点から東南東に10キロの地点に居ます)
(いざとなったら、飛行魔法で飛んで行って、戦闘時にIS纏う方法で行けばいいか)
今僕は昨日から泊まっている部屋でのんびりしている。作戦が失敗したので、待機を命じられたからだ。
昨日買ったお菓子とお茶を飲みながら、次の指示を待っている。……っと、来たな。
「何ですか?」
『お前以外の専用機持ちが無断で出撃した。連れ戻して欲しい』
「了解。……あの、僕以外って事は織斑君も?」
『そうだ』
あの怪我でどうやって? いくら操縦者保護があるって言っても体の負担は半端ない。怪我がある状態で乗って良い物じゃない。
「分かりました、連れ戻してきます。……しかし、どうやって位置を把握したんですかね?」
『大方、ボーデヴィッヒがドイツの軍事衛星を使ったのだろう。そこそこの地位にある軍人だからな』
「なるほど」
職権乱用にもほどがあると思うけど、それは今は良いか。さっさと行こう。
織斑先生に教えてもらった位置に向かうと、もう福音戦は終わっていた。めでたしめでたしだね。さて、皆に……
(マスター、高魔力反応! 福音の地点からです)
(まさか、この前のタッグトーナメントみたいな事?)
福音の残骸は見る見るうちに変化していき、異形の暴走体になった。まるで海坊主だな。……ってそんな事言ってる場合じゃないだろ。とりあえず、全員を逃がさないと……。
そう思った瞬間、暴走体の近くにいた織斑君に鋭い触手が襲い掛かる。織斑君は相手から目を離していたからよけきれない。
「クソッ」
僕は触手と織斑君の間に割って入り、それを受け止める。絶対防御、ISスーツを貫き、僕の体にそれは突き刺さった。
「き、霧島……?」
「やあ、専用機持ちの皆さん。織斑先生の指示で引くように促せと言われて来たから、さっさと退いてくれないかな? どうせ、あの化け物と戦うエネルギーなんてないし、そこにいる福音のパイロットさんも連れてかないと駄目でしょ?」」
「でも、お前のその傷!」
「これ? 見た目ほど痛くないから、大丈夫。それより、さっさと退いて。仕事が出来ない」
無論、痛くないってのは嘘だ。メチャクチャ痛いし、今この瞬間も血は流れている。
「お前を放っておいて下がれるか!」
「そう言う問題じゃないんだよ。ここから先は僕の管轄。たとえ。織斑先生がなんと言おうとも、これを何とか出来るのは今は僕だけなんだよ」
「でも!」
「……ああ、めんどくせえ。叢雲、僕と、アイツだけを切り取った結界を頼む」
「了解」
「なにを……」
全ての言葉を聞かぬまま、結界が展開される。これでこの結界内には僕と暴走体のみ。
「とりあえず、応急処置するか。キュア」
と言っても、傷が大きすぎるから、ほとんど効果がない。……何時まで持つかな?
「といっても、ここから先で暴走させるわけにはいかないよなあ」
この先には本音や簪さんを始めとした無関係な同級生たちが居る。なら、僕は持てるすべてを使って、守り抜こう。それが僕の選択だ。
「叢雲、オーバーリミッツで片を付ける」
「マスター、体の負担が大きすぎますし、隙も生まれます。今の状態ではあまりにも危険です」
「んなもん、知ってるけど知った事か。僕がやらないで、誰がやるっていうのさ。僕の魔と剣を以って人々を守る。これが今の僕の選択だ」
「……了解」
「ゴメンね、叢雲。こんな無茶しいのマスターでさ。……カートリッジフルロード。オーバーリミッツ強制解放!」
「Mode Release Over Limit」
オーバーリミッツの強制解放で、体が悲鳴を上げる。でも、この程度!
「天光満ところに我はあり」
膨大な魔力を感知したのか、暴走体は僕に向けて攻撃を激しくする。隙だらけの僕はそれを受けるしかない。
「黄泉の門開くところに汝あり」
正直、血の流し過ぎで意識が朦朧とするけど、それを意地と気合で堪える。
「出でよ神の雷! ……この勝負、僕の勝ちだ! インディグネイション!」
僕の最大級の魔法を発射する。これで、沈んでくれよ。
「魔力反応なし。封印を確認」
よ……かった……。
「叢雲、後はま…かせ……」
最後まで言い終わらず、僕は意識を失った。
この後の話も出来る限り早く上げたいです。