八雲君が瀕死の重傷を負った。
私がその連絡を織斑先生から受けたのは、いつも通り虚ちゃんと生徒会の仕事をしている時だった。
急いで病院に駆けつけると、この前の学年別トーナメントの時とは比べものにならないほどの大怪我を負って、ベットの上で眠っている八雲君が居た。
織斑先生によると怪我は、腹部の大穴を始め大小の裂傷が数十か所。そこからの出血で4割ほど血が流れたらしい。病院の先生曰く「後、数分遅れていたら助からなかった。締め付けの強いISスーツのお蔭で繋ぎとめたようなもの」と言っていたとの事だ。
織斑先生が私に後を任せて旅館に帰って行った後、私は彼の枕元に置かれた叢雲に話しかけた。学年別トーナメントの後から、叢雲も時々私達と会話をするようになった。人工的に作られたAIなんだけど、気遣いとかが機械らしくなくて結構面白い存在だ。
「ねえ、叢雲。八雲君はどうしてこんな怪我を?」
「暴走体を止めるためです。あの暴走体はISでは止めれません。と言うより、あれをあの時地球上で止めれたのはマスター一人です」
「八雲君は変わったんじゃないの? もう自分から死ににいくような事をしなくなったんじゃないの?」
八雲君は前回の怪我の時を境にあんな真似をしなくなったはずなのに……。
「マスターは確かに変わりましたよ。結果はこうなりましたけど、マスターには明確に戦う理由がありましたから」
「理由?」
「ええ。マスターにとって、楯無を始めとした生徒会の皆さん、そして関わったクラスメイトの皆さんが危険にさらされているなら、それを黙って見逃すわけにはいかないんです。そしてマスターは止める手段も分かっている。それだけで命を懸けて戦う理由になるんです。管理局員のマスターにとっても個人のマスターにとっても」
それは言うなら八雲君のエゴ。他の人の気持ちも考えない、自分勝手な気持ち。
でも、それが八雲君の根本にあって、どんな時も、自分の命すら価値が見いだせなかった時ですら変わらなかった気持ち。
……本音を言うならこんな事は止めて欲しい。好きな人が傷付く姿なんで見たくない。これは私だけでなく、アリサとすずかちゃんも同じだと思う。
でも、それを止めるという事は多分、彼が彼じゃなくなる。そんな気がする。
……今の私が彼の為に出来る事はあるのだろうか? 分からない。誰でもいい、答えを教えて欲しい。
「楯無! 八雲の容体は!」
病室に駈け込んで来た、アリサちゃん。
「アリサちゃん、病院では静かにね?」
後ろにはすずかちゃんが居る。今の八雲君の身元引受人はアリサのお父さんであり、バニングス社そのものだ。だから、彼女にも連絡がいったのだろう。
「重傷だけど、危ない所は抜け出したみたい。意識を取り戻せば大丈夫だって」
「そう……。ホント、ゴキブリみたいな生命力ね」
「言い過ぎだよ、アリサちゃん」
「そう? ソイツなら聞いて笑いそうだけど? ……それと、楯無。アンタは一度顔を洗ってきなさい」
「えっ?」
アリサに突然そう言われたので、理解が出来なかった。
「その方が良いですよ、楯無さん」
「アンタ、今結構酷い顔してるわよ。そんな顔で目を覚ました八雲に会うつもり? それなら今のうちに顔を洗ってきなさい」
「……そうするわ」
そう言って、部屋を出て近くのトイレに入った。鏡に映った私の顔は確かに酷い物だった。こんな顔で八雲君に会ったら心配かけるわね。
私の幼馴染でもあり、初恋の人でもある霧島八雲君は、本当に一途でまっすぐな人だと思う。そんな人だから私は八雲君の事を好きになったのだと思う。だからはやてちゃんの事を羨ましく思った事もある。
八雲君は大怪我をして、臨死体験……でいいのかな? それではやてちゃんに会う事でやっと前を向いて歩き出す事が出来た。でも、今までの生き方はそう簡単には変えれなかったみたい。
本当の私の気持ちを言うなら、もう、こんな危ない事は止めて欲しい。八雲君は誰よりも傷付いてきたんだから、これ以上傷付いてほしくない。これは私だけじゃなくてアリサちゃんと楯無さんも思っている事だと思う。
でも、それを止めてしまったら多分八雲君は八雲君じゃなくなる。少なくとも私達の好きな八雲君では無くなる。そう思う。ならば、私はどうすれば良いんだろう?
私の幼馴染で初恋の人、霧島八雲は、誰よりも愚直で、不器用。でも、そんな八雲が私はいつの間にか、好きになっていた。だからこそ、アイツが愛する人に、はやてに嫉妬をした事もある。
アイツは死にかけて、アイツの最愛の人に再会した事でようやく前を見て歩き出した。でも、生き方はまだまだかえれないみたい。
本音を言うなら、こんな危ない目に合う様な事は止めて欲しい。もう八雲は十分に傷付いたのだから、これ以上傷付いてほしくない。これは私だけじゃない。すずかも楯無も同じ気持ちだと思う。
でも、それを止めてしまったらきっと霧島八雲じゃなくなる。少なくとも私達の好きなアイツじゃなくなる。そんな気がする。ならばどうすれば良い? 私に出来る事は?
……1つだけ思いついた。じっくり考えればもっと手段はあるだろうけど、今の私にはこれ以上の方法は思いつかない。
色々思う事はあるけれど、後悔はしたくない。これは私のやりたい事なんだから。
僕が目を覚ますと、目に入ったのは蛍光灯の光と白い天井。あの怪我だから、どこかの病院だろう。体中に痛みがあるって事は僕の体は五体満足らしい。……我ながら呆れるほどしぶといよ。自分の生命力に感心するね。
「「「八雲(君)!」」」
僕の視界の中に入って来たのはアリサとすずかと楯無さん。皆一様に心配そうな顔。……やっちまったなあ。
とりあえず、喋りやすいように体を起こす。
「アタタタ……、三人とも心配かけてゴメン」
「ゴメン、じゃないよ! ここまでボロボロになって!」
「ホントだよ。こんな無茶しないでよ。私達がどれだけ心配だと思ってるの」
「……ごめんなさい」
すずかと楯無さんにそう言われて僕は謝る事しか出来ない。それに怒ってくれるって事は本当に僕の事を心配してくれたって事の裏返しだから。
でも、さっきからアリサが一言も喋らないな。……それほど、怒ってんのかな?
「えっと……、アリ」
僕が喋ろうとした時、アリサは僕の来ていた衣服の胸元を引っ張って、自分の方に近付けて……僕にキスをした。
………………えっ? ええっ⁉
「「んな⁉」」
驚きの声を上げたのは見ているすずかと楯無さん。そりゃそうだろう。でも、僕が一番驚いてる。
長いキスの後、離れたアリサは、
「私はねボロボロのアンタなんて見たくないのよ。でも、私が好きな八雲はなによりも自分の意志を貫く八雲よ。アンタが自分の生きる意味が見つからないって言うなら、迷ってるって言うなら、私がその意味になるわ! だから八雲、アンタは意地でも生き抜きなさい!」
そう言った。
答えようとした時、また襟元を引っ張られた。次はすずか。アリサと同じくらい長いキスの後、
「私もね、こんな危ない事して欲しくないよ。でも、それを無くしたら、私の好きな八雲君じゃなくなるって言うのも分かってるんだ。だから、私がこれからの八雲君の帰ってくる場所になるから。それが私の気持ちで、私の出来る事で、私がしたい事だから」
……僕の脳はオーバーヒート寸前ですよ。そう思ってると三度引っ張られる。最後は楯無さん。またまた長いキスの後、
「私は二人ほど長い時間八雲君と居たわけじゃないけど、それでも、こんな体になるまで無茶をして欲しくないのよ。でも、だからと言ってそれで八雲君の意志を否定するつもりもないし、それがらしさなんだから良いと思うし、そのらしさに惹かれたんだと思うの。だから、私は君を支えたい。これからずっと」
オーバーフロウしたから、逆に冷静になった。
これは……プロポーズ紛いの告白って受け取っても良いんだろうか? キスまでされたんだし、皆顔も赤いし多分そうなんだろう。『生きる意味になる』に『帰る場所』に『支えたい』か……。
「……どうして僕なのさ。僕は過去を引きずって、迷って、何かに縋らないと生きれない、弱くて女々しい人間だよ」
「過去を引きずったり、迷ったり、何かに縋る事がそんなに悪い事? 人なんだから、弱い所があるのは当たり前だよ」
「私は、ううん、私達はそんな八雲君も受け止めるよ」
「ていうか、自分を過小評価するのは止めなさい。アンタは誰よりもまっすぐで一途で、やり抜くと決めたらそれを貫き通す強さを持った人間よ」
……はやて、僕にもまた人を好きになるって気持ちは残ってたみたいだよ。あの時ああは言ったけど、僕には貴女くらい好きになれる人が出来るとは思わなかったんだ。
貴女を合わせて4人も僕の強い所も弱い所も纏めて受け止めて好きでいてくれる人がいる。それだけで僕は凄い幸せ者だと思う。
「皆、ありがとうございます。ちゃんと皆の気持ちを受け止めて、自分の納得出来る答えを必ず出します。……それまで待っててくれますか?」
「「うん(ええ)」」
すずかと楯無さんはすぐ返事をくれたけどアリサからは返事が無い。
「……ねえ、八雲。私がなんであんな強硬手段に出たと思う?」
「自分で言うのもなんだけど僕を見かねてじゃないの?」
「そうなんだけど、告白ならこの二人が居ない所で出し抜く事も出来たでしょ?」
「まあ、確かに」
と言うか、そっちの方が普通か。ならなんでだ?
「その答えがこの封筒の中に有るんだけど」
そう言って、持っていた封筒を手渡す。
「何これ?」
「政府、ひいてはIS委員会や国連からのアンタに関する書類。ウチの会社に来たのをパパに渡されたのよ。中身は私とパパしか知らないわ。そこにこの手段に出た大きな理由があるのよ」
なんだろ? 気になったので、僕は封筒を開けた。そこには一枚の紙にワープロで出力された文字が。
内容があまりにも信じられなかったので、何度も読み直す。……それで内容が変わる訳ではないけどさ。
「アリサ、これは正気なのか? これ、要約すると、ハーレムOKって事だろ」
「「ええっ⁉」」
「正気みたいよ。パパは直接問い合わしたみたい。アンタを調べても男がISを動かせる理由が分からなかったから、子供を含めて調査しようって訳ね。……私は八雲が好き。でも、すずかと楯無を裏切って付き合う気も無いわ。だからアンタが誰かを選んだら、それで良いと思ってた。だけど、アンタが無茶して、こんな状態になったって聞いて、この知らせを受けた時に悠長な事をやってるヒマは無いって思ったの。世間的にも私達的にもね。だから……」
「告白した」
「そう。それに、アンタは今まで沢山苦しんできたのよ。だから人の何倍も幸せになる権利があるの。だから、私達がその何倍もの幸せをアンタにあげる。絶対に子供や孫に囲まれて良い人生だったって言えるような人生にしてやるわ」
「えっと……展開が突然過ぎて混乱してるけど、八雲君はずっと自分を殺して来たんだから、わがままになっても良いよ? 私としても三人一緒に見てくれるのは嬉しいよ。これでぎくしゃくしたくないって気持ちもあるもん」
「アリサほどは言えないけど、私達を好きでいてくれるなら、幸せになれると思えるなら、それで良いんじゃないかな」
……何で、三人はこんなにも僕を甘やかしてくれるのかな。
「その気持ちにもたれかかりたくなっちゃうよ……」
「良いわよそれくらい。今まで一人で色々やって来たんだから、これからは私達に頼りなさい。私達はそれが嬉しいんだから」
「何時まで経ってもずっとはやてを想い続けるよ?」
「それも良いわよ。アンタがどれだけはやてを想っていたかなんて、この数年のアンタを見れば一目瞭然なんだから。……それに、そんな八雲だから私達は好きになったのよ」
アリサの言葉に頷く二人。
「そっか。……僕は貴女達三人の笑顔を護るためにこれからを生きます。貴女達の笑顔の為に僕は必ず生き続けます。だから、ずっと僕のそばで笑顔で居てください。それと、一方的な幸せは要りません。僕達が皆で幸せにならなきゃ意味がないんです。僕は僕を含めて皆が幸せになるために頑張りますよ。だからそんな僕の生きる理由になってください。帰る場所になってください」
「「「もちろん、喜んで!」」」
真っ暗で先に何も見えなかった僕の人生はIS学園に入った事で大きく変わった。後で振り返ると多分こういうのを人生の転機だったと思うのだろう。
とりあえず、まずは怪我の治療からだな。身体能力強化の応用で治癒能力の促進も出来るし。その代わり、ずっと魔力を消耗し続けるけど、三人にいつまでも心配かける訳にはいかないからね。桁外れの魔力量を持ってるからこれ位は何とかなる。
これからは……どうしようか? その辺も三人と話し合ってゆっくり決めよう。最終的に決めるのは僕かもしれないけど、それまでの過程で相談が出来る。もう何もかもを背負い込む必要はない。僕には支えてくれる人たちが居るのだから。
はやて、自分で選んだ道だけど、どうやら僕は傍から見たらかなり面白おかしい人生を歩みそうだよ。まあ、それを空の上から楽しんで見守っておいてくれると嬉しい。今度そっちに行った時にちゃんと謝るから、勘弁してくれ。
これにてIFルートとりあえずの完結となります。
これを書き出すきっかけとなったのは本編三十一話にてはやてが八雲の戦う意味を彼女なりの解釈で話している時に「もしも八雲が芯の部分の『大切な人の笑顔を護る』を失ってしまったら?」と思った事が切っ掛けでした。
ISルートの流れ、
世界に絶望した八雲→死にかけてはやてに再会→再び自分の生きる理由を探す→福音戦の負傷での病室で……
というのは一番最初から考えていた事でした。
ただ、二番目の部分ではやてが想像以上にいい女っぷりを見せた事で、「これ……一人で対抗できないんじゃない?」と思い、こういうエンドを迎えました。
当初は楯無かアリサのエンドの予定だったんですけどね。
ここから先、三人とのデートだったり、三股かけている事で起こるであろう、先代楯無との一騎打ちだったり、義妹を思う恭也さんの暴走だったり、夜戦(意味深)でも強さを発揮する八雲だったりと色々想像していますけど、一旦おしまいとさせていただきます。
本編の更新をお楽しみに。