グリードアイランド。
HUNTER×HUNTER作中に登場するゲームであり、物語の舞台。
カードを中心に据えた、独特の世界観。
クリア条件は、指定されたすべてのカードの収集。
最速のクリアを目指して、ハンターたちがしのぎを削る、命がけのゲーム。
なにより、そこで紡がれた物語は、恐ろしくも魅力的で……それを再現したゲームが現実にあったとしたら、誰もがこう思うだろう。
──絶対にプレイしたい! と。
夢だった。
だがその夢は、幸せなことに、叶った。
有志により開発された【グリードアイランド・オンライン】。
そのクローズドβテスターとして、多くのファンに先駆けて、ゲームをプレイ出来ることになったのだ。
テスト開始までの時間は、本当に楽しかった。
事前の心理テストによる念能力の得意系統決定。
そこから念能力の事前申請。それに、キャラクリエイト。
おなじくテスターに当選した、長いつき合いのツイ友とわいわい語り合いながら、自分の分身を作っていった。
そして、テスト開始当日。
ゲームスタートを直前に控えて、最後のチェックを行う。
背景はシソの木内部。
ゲームマスター兼案内人の、特徴的な兜を被った女性、イータさんを前に、キャラクターとその情報が表示されている。
名前は【ユウ】。
ハンドルネームと同じだ。
性別は【女】。
取得条件に性別が関係するカードを想定して、友人と男女で別けようと相談した結果だ。
年齢は【15歳】で、容姿は黒髪セミロング猫目の美少女。
「好みの女の子の容姿でいいんじゃない?」という友人の言葉を真に受けて……ではない。
そんな性癖露出みたいな真似、恥ずかしくて出来るわけないから、妹そっくりに作ってみた。
だから15歳というのも、妹の年齢そのまま。
実は胸だけは、好みを反映して少々盛ったんだけど……当人にバレたら殺されるかもしれない。
戦闘スタイルは【暗殺者/武装】。
ナイフを使い、死角からの攻撃に特化したスタイル。
そして念能力は【
敵の死角に瞬間移動する、放出系念能力。
発動条件は、自分が相手の死角に居ること。
ただし、敵が複数いる場合は、全員からの死角が発動条件となる。
ユウが生来持つ、「死角への恐怖」を念能力として形にしたもの。
死角を恐怖しながら、自身が恐怖そのものと化す、その矛盾から、次第に人格が
長々と設定しているが、ゲーム的には「敵の察知判定にマイナス補正のかかる瞬間移動」で、死角への恐怖だの人格の乖離云々はフレーバーでしかない。でもフレーバーって大事だと思うんですよ。
「……よし、チェック完了。あとは、開始を待つだけ、と」
エントリー操作をすると、待機状態に入った。
スタートまで残り一分。最後に、友人にメッセージを送って──時間が来る。
刹那、音が消えた。
視界が白く染まった。
あらゆる感覚を失って、ただ圧倒的な奔流に、思考まで洗い流されて。
突然、肌が風を感じた。
耳が、かさかさとこすれ合う草の音を聞き取った。
目が、光を感じた。熱を帯びた陽の光──夜の室内なのに!
「──っ!?」
声にならない悲鳴を上げる。
視界は充分に回復していないが、焦って必死に目を凝らす。
そして。見えたのは、空恐ろしくなるほど高い青空。
それから、見渡す限りの大草原。その中に、それぞれ距離を置いて立ち尽くす、数百を数える人の群れ。
「どうなってんだ──なんだコレ?」
発した声の高さに、愕然とする。
耳に残る声は、まるで幼い子供か少女のそれ。
身に纏う衣装は、着た覚えのない黒い外套姿。
とっさに胸に手をやると、たしかに感じる女性らしい膨らみ。
わけがわからない。
なにもかもが異常すぎる状況に、思考がまとまらない。
周りの人達も同じなのだろう。時間の経過とともに、戸惑いと混乱の声は大きくなっていく。
そんな時だ。
ふいに耳が、空から飛来する“なにか”の音を捉えた。
──あれは……あれは駄目だ。出会っちゃいけないものだ。
頭の中で警鐘が鳴るが、逃げる余裕などない。
次の瞬間には、
髪を逆立てた、笑顔の巨漢だった。
でかい。プロレスラーと見紛うサイズ感。
体にフィットした服の下には、筋肉がはちきれんばかりに詰まっている。
「あ、レイザー……」
誰かが言った。
瞬間、ありとあらゆるピースが噛み合った。
ここはグリードアイランド。そのスタート地点、シソの木。
周りに居るのはプレイヤー。俺同様、グリードアイランド・オンラインのテストプレイヤー。
そしてこの姿は、ああ、なぜ気がつかなかったのか。苦心して作ったプレイヤーキャラクター、【ユウ】のものじゃないか。
そして。
天より降り立ったこの巨漢は、レイザー。
グリードアイランドの、外敵対策を担当するゲームマスター。
「これは、大層な数の侵入者だな」
レイザーが、ゆるりと視線を一巡りさせる。
視線が交錯した一瞬で、実力差を
ここに居る全員が、全力で挑みかかっても、瞬殺される。
「こんな所まで、どうやって忍び込んで来たのかはわからんが……ここに来るのなら、正しく入島してもらわないとな」
皆がすくみ上がる中、レイザーはおもむろに一枚のカードを取り出した。
それがなにを意味するのか……おそらく、この場にいる全員が理解しただろう。
「──【
ゲームマスターによる外法。不法侵入者を島から排除する
◆
視界が、再び一変した。
そうなることを予想していたので、さほど動揺はない。
まだ夢の中にいるような、半信半疑ながらも、周辺を見回す。
場所は、背の高い木々が立ち並ぶ林の中。
あたりは静まり返っていて、さきほどまでの喧騒が嘘のようだ。
ひとまず手頃な木陰に腰を落として、気を落ち着かせる。
「……状況を、整理しよう」
耳慣れない自分の声に違和感を覚えながら、独語する。
「ここは、推定HUNTER×HUNTERの世界。場所は、アイジエン大陸のどこかで間違いない」
視界が変わる直前、レイザーが使用したのは【
この
「そして俺は──この体は、ユウ。グリードアイランド・オンラインの、プレイヤーキャラクター」
手を見る。
細く白い指。
その人差し指に、翠緑の石が埋め込まれた銀色の指輪が嵌められている。
グリードアイランドのプレイヤーが持つ指輪だ。
ゲームプレイ時には重要な意味を持つが、いまはただの指輪でしかない。
視線を手にやったまま、試みに目を凝らす。
見ようと意識する。
ただそれだけで、見えた。
体表を流れる、ほの白いオーラが。
念能力の四大行──纏・絶・練・発は、プレイヤーキャラクターの基本能力に設定されている。
初期キャラで練度は最低限。とはいえ、あくまでグリードアイランドをプレイする上での最低限だ。カタログスペックだけなら、下手なアマチュア能力者より上だろう。
そんなことを考えていると、ふいに一枚の木の葉が、手元に舞い落ちてきた。
それを人差し指で貫く。
イメージより圧倒的に早い。
だというのに目は、指先の動きを克明に捉えている。
「……うん。最悪だけど、最悪じゃない」
グリードアイランドの外であっても、危険と隣り合わせ。ここはそんな世界だ。
生身の肉体で放り出されるより、最低限の実力がある現状のほうが、よほど救いがある。
勇気づけられて、立ち上がろうとした、その時──頭上でがさり、と音が鳴った。
枝が揺れる音。
風のせいじゃない。
そこに人為的なものを感じて、思わず見上げる。
──人が、落ちてきた。
舞い落ちる無数の木の葉を突っ切って、落ちてくる。
目と目が合った。
驚きの表情が見えた。
こちらもとっさに身構えて。
そいつは、俺の目の前に着地した。
幼さの残る少年だった。
年の頃は、十代半ばくらいか。ぼさぼさの金髪に、整った顔立ち。
丈夫そうな拳法着は、不自然に真新しい。それに、身に纏ったオーラは、力強く淀みない。
ひょっとして、という予感がある。
問いかけようとして──少年が先に口を開いた。
「わ、わたし? ──じゃなくて、あなた──じゃなくて……名前。あんたの名前、教えてくんない?」
すごい慌てようだが……いよいよそれっぽい。
十中八九俺と同じ境遇──グリードアイランド・オンラインのテストプレイヤーだ。
大陸全土にランダムに飛ばされた人数は、テスターの数を信じるなら最大で300人。似たような場所に飛ばされる可能性は、皆無ではないが、奇跡の類。
「ユウ。ユウ=ミルガン。プレイヤーだ」
「……ユウか。マジか……オレはシュウ=ブラスト……たぶんユウが知ってるシュウだよ」
少年の言葉に、意表を突かれる。
シュウは、いっしょにプレイするはずだったツイ友の名前。口ぶりからして本人だ。
「シュウ? え、え……どんな確率?」
「そう思うよな、いやマジで。いや、速攻で合流できてムチャクチャ助かったし、うれしい奇跡だけど……それにしても」
シュウが、こちらに視線を向けて……笑いそうになるのを我慢するように、肩を小刻みに震わせる。
「……笑えよシュウ。お望みの女キャラだぞ」
「いや、笑わないよ──くくっ。ユウが女になったのは、半分オレのせいみたいなもんだし──くくくっ」
「うん、笑ってるよね。声に出してないだけで、むっちゃ笑ってるよなお前!?」
「いや、ごめんごめん……でも、そうかそうか。ユウの趣味ってそういうのなんだ?」
「違いますー。そう思われるのが嫌だから、妹モデルにして作ったんですー」
「えっ……そうなんだ……」
なぜそこでテンション下がるのか、それがわからない。
……と、よく考えたら、妹の容姿他人に晒すとか、あんまりよくないな。
「うん。まあ、多分に俺の趣味が入ってるのも、否定できないけど」
「あ、そうなんだ!」
だからなぜそこでテンションが上がるのか、それがわからない。
しかしまあ、なんというか。
ツイッターで知り合って、声も聞いたことがなかったけど。
直に会ったシュウの言動が、俺が知るシュウそのままなことに、安心感を覚えてしまう。
「……本当に、まんまシュウなんだな」
「ん? ああ、言動がネットと変わらないってこと……いや、正直キャラ作ってるとこはあるよ? ユウ相手にいまさら素を出すのも気恥ずかしいし」
言われてみれば、最初混乱してた時言動がおかしかったな。
妙に可愛げがあったというか、女の子っぽかったというか……まあ、突っ込むのも無粋か。
「──それを言うならユウこそ素のままじゃん。見た目女の子なのに」
「女の子言うな。元々演じる気もなかったけど、この状況でそんなこと気にしてられるか」
いやマジで。
お風呂どうするとか。トイレどうするとか。
そもそも女の子の構造ちゃんと知らないけどどうしようとか。
わりと切実な問題が山積みのような気がするけど、大丈夫だ。失敗しても死にはしない。
「まあ、その通りか。直近の問題だけ考えても、食事のあても、今晩寝泊まりする場所もない。そもそもここどこだよって感じだし」
あらためて、ひどい状況だと実感させられる。
だけど、と、シュウは言葉を続ける。
「──ユウ、目先の問題に頭を悩ますよりも、まずは大きな目標を決めないか?」
「うん、そうだな。最終的な目的地を決めれば、進むべき道筋も見えてくるかもだ。まあ、この際目標は決まりきってるけどな」
「いや、でも言葉にするのは大事。“
言って、シュウは自分の舌を指で示す。
ウイングさんが語っていた
本物ではないとはいえ、心を鍛えるりっぱな修行で、そこには真実がある。
まずは目標を定め(点)。
想いを言葉にし(舌)。
その意志を高め(錬)。
行動に移す(発)。
大切なことだ。
特に、大きな困難を乗り越えるためには。
「……帰る。元の世界に」
思いを見定めて、言葉にする。
雲をつかむような話だ。
その手段すら、明確じゃない。
道は険しく、遥か彼方に違いない。
だけど。
日本に戻る手段は、きっとある。
念能力がある。魔法じみた生き物がいる。奇跡のような道具もある。
「──妹が居るんだ。二つ下の、生意気だけど、大切な家族が。あいつに寂しい思いはさせたくない」
この世界での生活に、魅力を感じないわけではない。
日本での生活を諦めるには──希望が残りすぎているだけだ。
俺の“舌”に。
ああ、と、シュウはうなずいた。
「いや、いいと思うぜ。オレにも二つ違いのとぼけた、鈍感な、ものすごーく朴念仁の兄貴が居るから、気持ちはわかる……だからオレたちの最終目標は、“元の世界に帰る”だ」
なにやら念入りに前置きしてから、シュウも目標を“舌”に乗せる。
いや、どうでもいいけど兄貴への当たり強いなシュウ。
おなじ兄として、シュウの兄貴に同情するわ。
「帰るためのヒントは、グリードアイランドにある」
「だろうな」
シュウの意見に、同意する。
俺たちが最初に降り立った、そして俺たちがプレイするはずだったゲームの舞台。手がかりは必ずそこにある。
グリードアイランド。
無数の怪物にプレイヤー狩り。命の危険と常に隣り合わせ。
そんな本物をプレイする、と考えると……恐ろしくてたまらない。
──だけど、進む。そう決めた。
正直怖いけど……同時に、胸が高鳴る。
大好きな、愛してると言っていい世界での冒険。
作中で登場した土地を訪れることもあるだろう。一方的によく知る人物と、邂逅することになるかもしれない。そう思うと心が躍る。
シュウも同じ思いなのだろう。
口の端を不敵に釣り上げ、展望を語る。
「さしあたって必要なのは現金と実戦の場。両取りするなら、うってつけの場所がある」
そのキーワードだけで、目論見はわかった。
だから、俺とシュウは、同時に同じ言葉を口にする。
世界中から集った格闘家たちが日々戦い強さを競う、野蛮人の聖地。
『──天空闘技場』
◆ユウ=ミルガン
・H×Hで好きなキャラクター三人
レオリオ、ゼノ、梟
・H×Hで好きな念能力三つ
クラピカの【
・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ
No.016妖精王の忠告、No.067長老の背伸び薬、No.075奇運アレキサンドライト
・シュウからの第一印象
……おニイ?