グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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01 グリードアイランド・オンライン

 

 

 グリードアイランド。

 HUNTER×HUNTER作中に登場するゲームであり、物語の舞台。

 

 カードを中心に据えた、独特の世界観。

 クリア条件は、指定されたすべてのカードの収集。

 最速のクリアを目指して、ハンターたちがしのぎを削る、命がけのゲーム。

 なにより、そこで紡がれた物語は、恐ろしくも魅力的で……それを再現したゲームが現実にあったとしたら、誰もがこう思うだろう。

 

 

 ──絶対にプレイしたい! と。

 

 

 夢だった。

 だがその夢は、幸せなことに、叶った。

 有志により開発された【グリードアイランド・オンライン】。

 そのクローズドβテスターとして、多くのファンに先駆けて、ゲームをプレイ出来ることになったのだ。

 

 テスト開始までの時間は、本当に楽しかった。

 事前の心理テストによる念能力の得意系統決定。

 そこから念能力の事前申請。それに、キャラクリエイト。

 おなじくテスターに当選した、長いつき合いのツイ友とわいわい語り合いながら、自分の分身を作っていった。

 

 そして、テスト開始当日。

 ゲームスタートを直前に控えて、最後のチェックを行う。

 

 背景はシソの木内部。

 ゲームマスター兼案内人の、特徴的な兜を被った女性、イータさんを前に、キャラクターとその情報が表示されている。

 

 名前は【ユウ】。

 ハンドルネームと同じだ。

 

 性別は【女】。

 取得条件に性別が関係するカードを想定して、友人と男女で別けようと相談した結果だ。

 

 年齢は【15歳】で、容姿は黒髪セミロング猫目の美少女。

「好みの女の子の容姿でいいんじゃない?」という友人の言葉を真に受けて……ではない。

 そんな性癖露出みたいな真似、恥ずかしくて出来るわけないから、妹そっくりに作ってみた。

 

 だから15歳というのも、妹の年齢そのまま。

 実は胸だけは、好みを反映して少々盛ったんだけど……当人にバレたら殺されるかもしれない。

 

 戦闘スタイルは【暗殺者/武装】。

 ナイフを使い、死角からの攻撃に特化したスタイル。

 

 そして念能力は【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 敵の死角に瞬間移動する、放出系念能力。

 発動条件は、自分が相手の死角に居ること。

 ただし、敵が複数いる場合は、全員からの死角が発動条件となる。

 

 ユウが生来持つ、「死角への恐怖」を念能力として形にしたもの。

 死角を恐怖しながら、自身が恐怖そのものと化す、その矛盾から、次第に人格が乖離(かいり)していく。

 

 長々と設定しているが、ゲーム的には「敵の察知判定にマイナス補正のかかる瞬間移動」で、死角への恐怖だの人格の乖離云々はフレーバーでしかない。でもフレーバーって大事だと思うんですよ。

 

 

「……よし、チェック完了。あとは、開始を待つだけ、と」

 

 

 エントリー操作をすると、待機状態に入った。

 スタートまで残り一分。最後に、友人にメッセージを送って──時間が来る。

 

 刹那、音が消えた。

 視界が白く染まった。

 あらゆる感覚を失って、ただ圧倒的な奔流に、思考まで洗い流されて。

 

 突然、肌が風を感じた。

 耳が、かさかさとこすれ合う草の音を聞き取った。

 目が、光を感じた。熱を帯びた陽の光──夜の室内なのに! 

 

 

「──っ!?」

 

 

 声にならない悲鳴を上げる。

 視界は充分に回復していないが、焦って必死に目を凝らす。

 

 そして。見えたのは、空恐ろしくなるほど高い青空。

 それから、見渡す限りの大草原。その中に、それぞれ距離を置いて立ち尽くす、数百を数える人の群れ。

 

 

「どうなってんだ──なんだコレ?」

 

 

 発した声の高さに、愕然とする。

 耳に残る声は、まるで幼い子供か少女のそれ。

 身に纏う衣装は、着た覚えのない黒い外套姿。

 とっさに胸に手をやると、たしかに感じる女性らしい膨らみ。

 

 わけがわからない。

 なにもかもが異常すぎる状況に、思考がまとまらない。

 周りの人達も同じなのだろう。時間の経過とともに、戸惑いと混乱の声は大きくなっていく。

 

 そんな時だ。

 ふいに耳が、空から飛来する“なにか”の音を捉えた。

 

 

 ──あれは……あれは駄目だ。出会っちゃいけないものだ。

 

 

 頭の中で警鐘が鳴るが、逃げる余裕などない。

 次の瞬間には、()()は群衆の中に降り立っていた。

 

 髪を逆立てた、笑顔の巨漢だった。

 でかい。プロレスラーと見紛うサイズ感。

 体にフィットした服の下には、筋肉がはちきれんばかりに詰まっている。

 

 

「あ、レイザー……」

 

 

 誰かが言った。

 瞬間、ありとあらゆるピースが噛み合った。

 

 ここはグリードアイランド。そのスタート地点、シソの木。

 周りに居るのはプレイヤー。俺同様、グリードアイランド・オンラインのテストプレイヤー。

 そしてこの姿は、ああ、なぜ気がつかなかったのか。苦心して作ったプレイヤーキャラクター、【ユウ】のものじゃないか。

 

 そして。(おそ)れとともに目を向ける。

 天より降り立ったこの巨漢は、レイザー。

 グリードアイランドの、外敵対策を担当するゲームマスター。

 

 

「これは、大層な数の侵入者だな」

 

 

 レイザーが、ゆるりと視線を一巡りさせる。

 視線が交錯した一瞬で、実力差を理解(わか)らされた。

 ここに居る全員が、全力で挑みかかっても、瞬殺される。

 

 

「こんな所まで、どうやって忍び込んで来たのかはわからんが……ここに来るのなら、正しく入島してもらわないとな」

 

 

 皆がすくみ上がる中、レイザーはおもむろに一枚のカードを取り出した。

 それがなにを意味するのか……おそらく、この場にいる全員が理解しただろう。

 

 

「──【排除(エリミネイト)】、使用(オン)

 

 

 ゲームマスターによる外法。不法侵入者を島から排除する呪文(スペル)が、発動した。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 視界が、再び一変した。

 そうなることを予想していたので、さほど動揺はない。

 まだ夢の中にいるような、半信半疑ながらも、周辺を見回す。

 

 場所は、背の高い木々が立ち並ぶ林の中。

 あたりは静まり返っていて、さきほどまでの喧騒が嘘のようだ。

 ひとまず手頃な木陰に腰を落として、気を落ち着かせる。

 

 

「……状況を、整理しよう」

 

 

 耳慣れない自分の声に違和感を覚えながら、独語する。

 

 

「ここは、推定HUNTER×HUNTERの世界。場所は、アイジエン大陸のどこかで間違いない」

 

 

 視界が変わる直前、レイザーが使用したのは【排除(エリミネイト)】。

 この呪文(スペル)カードは、不法侵入者をアイジエン大陸のどこかへ、ランダムに転移させる効果を持つ。

 

 

「そして俺は──この体は、ユウ。グリードアイランド・オンラインの、プレイヤーキャラクター」

 

 

 手を見る。

 細く白い指。

 その人差し指に、翠緑の石が埋め込まれた銀色の指輪が嵌められている。

 

 グリードアイランドのプレイヤーが持つ指輪だ。

 ゲームプレイ時には重要な意味を持つが、いまはただの指輪でしかない。

 

 視線を手にやったまま、試みに目を凝らす。

 

 見ようと意識する。

 ただそれだけで、見えた。

 体表を流れる、ほの白いオーラが。

 

 念能力の四大行──纏・絶・練・発は、プレイヤーキャラクターの基本能力に設定されている。

 初期キャラで練度は最低限。とはいえ、あくまでグリードアイランドをプレイする上での最低限だ。カタログスペックだけなら、下手なアマチュア能力者より上だろう。

 

 そんなことを考えていると、ふいに一枚の木の葉が、手元に舞い落ちてきた。

 

 それを人差し指で貫く。

 イメージより圧倒的に早い。

 だというのに目は、指先の動きを克明に捉えている。

 

 

「……うん。最悪だけど、最悪じゃない」

 

 

 グリードアイランドの外であっても、危険と隣り合わせ。ここはそんな世界だ。

 生身の肉体で放り出されるより、最低限の実力がある現状のほうが、よほど救いがある。

 

 勇気づけられて、立ち上がろうとした、その時──頭上でがさり、と音が鳴った。

 

 枝が揺れる音。

 風のせいじゃない。

 そこに人為的なものを感じて、思わず見上げる。

 

 

 ──人が、落ちてきた。 

 

 

 舞い落ちる無数の木の葉を突っ切って、落ちてくる。

 

 目と目が合った。 

 驚きの表情が見えた。 

 こちらもとっさに身構えて。

 そいつは、俺の目の前に着地した。

 

 幼さの残る少年だった。

 年の頃は、十代半ばくらいか。ぼさぼさの金髪に、整った顔立ち。

 丈夫そうな拳法着は、不自然に真新しい。それに、身に纏ったオーラは、力強く淀みない。

 

 ひょっとして、という予感がある。

 問いかけようとして──少年が先に口を開いた。

 

 

「わ、わたし? ──じゃなくて、あなた──じゃなくて……名前。あんたの名前、教えてくんない?」

 

 

 すごい慌てようだが……いよいよそれっぽい。

 十中八九俺と同じ境遇──グリードアイランド・オンラインのテストプレイヤーだ。

 大陸全土にランダムに飛ばされた人数は、テスターの数を信じるなら最大で300人。似たような場所に飛ばされる可能性は、皆無ではないが、奇跡の類。

 

 

「ユウ。ユウ=ミルガン。プレイヤーだ」

 

「……ユウか。マジか……オレはシュウ=ブラスト……たぶんユウが知ってるシュウだよ」

 

 

 少年の言葉に、意表を突かれる。

 シュウは、いっしょにプレイするはずだったツイ友の名前。口ぶりからして本人だ。

 

 

「シュウ? え、え……どんな確率?」

 

「そう思うよな、いやマジで。いや、速攻で合流できてムチャクチャ助かったし、うれしい奇跡だけど……それにしても」

 

 

 シュウが、こちらに視線を向けて……笑いそうになるのを我慢するように、肩を小刻みに震わせる。

 

 

「……笑えよシュウ。お望みの女キャラだぞ」

 

「いや、笑わないよ──くくっ。ユウが女になったのは、半分オレのせいみたいなもんだし──くくくっ」

 

「うん、笑ってるよね。声に出してないだけで、むっちゃ笑ってるよなお前!?」

 

「いや、ごめんごめん……でも、そうかそうか。ユウの趣味ってそういうのなんだ?」

 

「違いますー。そう思われるのが嫌だから、妹モデルにして作ったんですー」

 

「えっ……そうなんだ……」

 

 

 なぜそこでテンション下がるのか、それがわからない。

 ……と、よく考えたら、妹の容姿他人に晒すとか、あんまりよくないな。

 

 

「うん。まあ、多分に俺の趣味が入ってるのも、否定できないけど」

 

「あ、そうなんだ!」

 

 

 だからなぜそこでテンションが上がるのか、それがわからない。

 

 しかしまあ、なんというか。

 ツイッターで知り合って、声も聞いたことがなかったけど。

 直に会ったシュウの言動が、俺が知るシュウそのままなことに、安心感を覚えてしまう。

 

 

「……本当に、まんまシュウなんだな」

 

「ん? ああ、言動がネットと変わらないってこと……いや、正直キャラ作ってるとこはあるよ? ユウ相手にいまさら素を出すのも気恥ずかしいし」

 

 

 言われてみれば、最初混乱してた時言動がおかしかったな。

 妙に可愛げがあったというか、女の子っぽかったというか……まあ、突っ込むのも無粋か。

 

 

「──それを言うならユウこそ素のままじゃん。見た目女の子なのに」

 

「女の子言うな。元々演じる気もなかったけど、この状況でそんなこと気にしてられるか」

 

 

 いやマジで。

 お風呂どうするとか。トイレどうするとか。

 そもそも女の子の構造ちゃんと知らないけどどうしようとか。

 わりと切実な問題が山積みのような気がするけど、大丈夫だ。失敗しても死にはしない。

 

 

「まあ、その通りか。直近の問題だけ考えても、食事のあても、今晩寝泊まりする場所もない。そもそもここどこだよって感じだし」

 

 

 あらためて、ひどい状況だと実感させられる。

 だけど、と、シュウは言葉を続ける。

 

 

「──ユウ、目先の問題に頭を悩ますよりも、まずは大きな目標を決めないか?」

 

「うん、そうだな。最終的な目的地を決めれば、進むべき道筋も見えてくるかもだ。まあ、この際目標は決まりきってるけどな」

 

「いや、でも言葉にするのは大事。“(ぜつ)”ってやつだ」

 

 

 言って、シュウは自分の舌を指で示す。

 ウイングさんが語っていた方便(うそ)の四大行。

 本物ではないとはいえ、心を鍛えるりっぱな修行で、そこには真実がある。

 

 まずは目標を定め(点)。

 想いを言葉にし(舌)。

 その意志を高め(錬)。

 行動に移す(発)。

 

 大切なことだ。

 特に、大きな困難を乗り越えるためには。

 

 

「……帰る。元の世界に」

 

 

 思いを見定めて、言葉にする。

 

 雲をつかむような話だ。

 その手段すら、明確じゃない。

 道は険しく、遥か彼方に違いない。

 

 だけど。

 日本に戻る手段は、きっとある。

 念能力がある。魔法じみた生き物がいる。奇跡のような道具もある。

 

 

「──妹が居るんだ。二つ下の、生意気だけど、大切な家族が。あいつに寂しい思いはさせたくない」

 

 

 この世界での生活に、魅力を感じないわけではない。

 日本での生活を諦めるには──希望が残りすぎているだけだ。

 

 俺の“舌”に。

 ああ、と、シュウはうなずいた。

 

 

「いや、いいと思うぜ。オレにも二つ違いのとぼけた、鈍感な、ものすごーく朴念仁の兄貴が居るから、気持ちはわかる……だからオレたちの最終目標は、“元の世界に帰る”だ」

 

 

 なにやら念入りに前置きしてから、シュウも目標を“舌”に乗せる。

 

 いや、どうでもいいけど兄貴への当たり強いなシュウ。

 おなじ兄として、シュウの兄貴に同情するわ。

 

 

「帰るためのヒントは、グリードアイランドにある」

 

「だろうな」

 

 

 シュウの意見に、同意する。

 俺たちが最初に降り立った、そして俺たちがプレイするはずだったゲームの舞台。手がかりは必ずそこにある。

 

 グリードアイランド。

 無数の怪物にプレイヤー狩り。命の危険と常に隣り合わせ。

 そんな本物をプレイする、と考えると……恐ろしくてたまらない。

 

 

 ──だけど、進む。そう決めた。

 

 

 正直怖いけど……同時に、胸が高鳴る。

 大好きな、愛してると言っていい世界での冒険。

 作中で登場した土地を訪れることもあるだろう。一方的によく知る人物と、邂逅することになるかもしれない。そう思うと心が躍る。

 

 シュウも同じ思いなのだろう。

 口の端を不敵に釣り上げ、展望を語る。

 

 

「さしあたって必要なのは現金と実戦の場。両取りするなら、うってつけの場所がある」

 

 

 そのキーワードだけで、目論見はわかった。

 だから、俺とシュウは、同時に同じ言葉を口にする。

 世界中から集った格闘家たちが日々戦い強さを競う、野蛮人の聖地。

 

 

『──天空闘技場』

 

 

 

 

 




◆ユウ=ミルガン

・H×Hで好きなキャラクター三人

 レオリオ、ゼノ、梟

・H×Hで好きな念能力三つ

 クラピカの【束縛する中指の鎖(チェーンジェイル)】、ゼノの【龍頭戯画(ドラゴンヘッド)】、カストロの【分身(ダブル)

・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ

 No.016妖精王の忠告、No.067長老の背伸び薬、No.075奇運アレキサンドライト

・シュウからの第一印象

 ……おニイ?

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