グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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11 逢魔ヶ災

 プレイヤー狩りの一件から、5日後。

 騒ぎの始末もついたところで、マンション住まいの間出来なかった“練”や攻防力移動の修行に励んでいると、ホームコードに連絡が入った。

 

 差し出し人は、週刊天空闘技場の記者、マジガンさん。

 内容は、「頼んでいた件について、資料を送付する」とのこと。

 

 マジガンさんに頼んでいたのは、1987年以降で、直前までの生活の痕跡を残して行方不明になった事件の調査。

 つまるところは、グリードアイランドから脱出不能になったプレイヤーについての情報だ。

 各地の記者とつながるマジガンさんからの資料は、現地の生の声。得難い情報だ。

 

 

「電脳ページの情報は、すでに調べられてるかもだしなあ。主に大富豪のバッテラ氏に……といっても、この当時、ゲーム内の状況は、まだ充分に把握してないんじゃないかなって気もする」

 

 

 そもそも雇われたプレイヤーにとって、内部の状況を伝えるメリットがない。

 バッテラ氏が内部の状況を知れば、進行不能に陥ってるプレイヤーと精鋭の入れ替えを考える。みすみすライバルを増やすような真似はしないだろう。

 ゲームの内外を頻繁に往復し、内部の情報をそれなりに伝えたであろうツェズゲラが雇われるのは、作中の発言から推定するに1999年の3月頃。約一年後だ。

 

 

「だから、失踪事件として扱われているものより、噂や憶測の類を精査すべきなのかもな。そのあたりもまとめてくれてるマジガンさんマジ感謝だわ」

 

 

 印刷した資料に目を通していく。

 噂の主の素性はまちまち。類似の噂であってもプロ、ないしはアマチュアハンターとなると非常に少ない。

 あきらかにハンターじゃないだろってケースを弾きながら、ライセンスを使って調べる候補を絞っていく。

 

 その中の一件を、調査不要として除外しかけて……見覚えのある名前に、あわてて見返す。

 

 

「モタリケ……あのモタリケか」

 

 

 資料にはそう書いてある。

 場所を移してハンターライセンスで調べると──当たり。

 失踪前は名の知れたデータハンターで、三年前に口座から巨額の金が動いている。

 マジガンさんの情報では、事件にはなっていないものの、地元では失踪の噂もあり、条件に該当するのでは、とのこと。

 

 これは、大当たりの予感。

 急いでシュウのところに駆け込み、相談する。

 

 

「モタリケか……手に入れられれば、中での交渉も楽そうだ。狙い目かもな」

 

 

 一通り資料を読むと、シュウは難しげな表情でつぶやく。

 

 

「となると、早めに盗──抑えに行きたいな」

 

 

 いま盗みに行くって言いかけなかったか? 

 まあ本体を確保、拠点まで持ち帰ってゲーム内へ、モタリケと交渉って流れになるだろうから、“盗む”で正しいんだけど。

 

 

「──でもオレ、4日後に試合があるんだよなあ」

 

 

 シュウが悩ましげに眉をひそめる。

 決まったのは、プレイヤー狩りと戦った翌日のこと。

 フロアマスター挑戦権を手に入れた選手が、対戦相手にシュウを指名したのだ。

 当時は他に予定もなく、最短のスケジュールで試合を組んだのだが……さすがにこれを予測しろというのは酷な話だ。

 

 

「俺が行ってくるよ。今フロアマスターの称号を手放すわけにはいかないだろ? でも、ゲームは一刻も早く確保しなくちゃいけない」

 

 

 なにせモタリケだ。

 バッテラ氏やほかのグリードアイランド狙いのハンターはともかく、プレイヤーなら逆引きで素性を調べ、確保に動いてもおかしくない。

 

 

「すまないな。ユウ、頼む」

 

 

 シュウにそう言われると、うれしくなる。

 

 

「任せとけ。善は急げだ。いまから出る。ゲームを押さえたら、とりあえず連絡するから」

 

 

 こんなときのためのライセンスだ。

 出入国も飛行船の搭乗手続きも不要だから、素早く動ける。

 

 天空闘技場を出た、その足で飛行船に乗り込み、最寄りの都市までは3日。

 そこからバスや列車を乗り継いで半日。片田舎の鉄筋コンクリート住宅がモタリケの家だった。

 近所づきあいはなく、家賃光熱費その他は口座からの自動引き落としにしていたため、失踪の事実自体ほとんど知られていないという悲惨さが、実にモタリケくんらしい。

 

 建物には窓がなく、コンクリートでできたサイコロのような外観。

 周囲に人気がないのを確認して、扉の前に。扉の隙間に“周”でオーラを纏わせたカッターナイフを走らせ、ロック部分を切断。中に入る。

 

 意外に几帳面なのだろう、建物の中はきちんと整頓されている。

 ただ、分厚くつもったホコリの量が、家主が長い間不在である事を物語っていた。

 

 そんな建物の一室で──見つけた。起動中のグリードアイランド。

 モニターには、プレイ中を示す文字とともに、モタリケの顔が映っている。

 

 間違いない。本物だ。

 夢に見るほど焦がれたゲームの実物に、すこしうるっと来る。

 

 ……あ、マルチタップ使ってない。

 もったいないけど、まあいい。ひとまずジョイステⅡごと回収して、リュックサックに詰め込む。

 

 

 ──任務完了だ。

 

 

 その事実を確認するように、心のなかでつぶやく。

 それから。周囲の気配を探りながら建物を出て、現場を離れる。

 充分に距離を置いたところで、シュウに電話。ゲームの回収成功を伝えた。

 

 すぐに帰りたいところだけど……すでに夕刻。

 今日中には、飛行船の発着場まで辿り着けそうにないので、無理せず一泊することにする。

 

 けっこうな田舎で不安だったが、さいわい町外れに旅館があった。

 温泉旅館だが、ゲームから目を離して温泉に入るわけにもいかない。

 あきらめて部屋に引きこもり、食事だけは楽しむことにした。

 

 田舎料理ながら、趣向を凝らした郷土料理の数々。

 ひさしぶりに、お袋の味というやつを思い出し、しんみりする。

 

 そんな時、ふいに渡り廊下のほうが騒がしくなる。

 耳を澄ませば、どうも無理やり押し入ってきた奴がいるらしい。

 

 

「──ちょっと! お客さん! 困ります!」

 

 

 仲居(スタッフ)の声。

 足音が近づいてくる。

 

 

 ──というか、どうやら向かっているのはここか。

 

 

 警戒してリュックサックを手元に引き寄せる。

 直後。

 

 

「すんませんっス!」

 

 

 入ってきたのは、なんというか、“赤い”男だった。

 黒のレザーパンツに、目に痛いほど真っ赤なジャケット、つんつん頭の、二十歳前後の男。

 顔立ちは暑苦しいまでに濃く、ザ・熱血漢って感じ、なんだけど……全身からたちのぼる三下めいたオーラが、全体的に残念な印象を付加している。

 

 

「あんた、今日モタリケの家に行った人っスよね!? プレイヤーっスよね!?」

 

 

 必死な面持ちで詰めてくる男。

 気をつけてはいたが、誰かに見られていたか。

 まあ、侵入時には見られなかった自信があるけど、行き帰りの時は、視線があったし、証言から推測はできるか。

 

 でもさ、もうちょっと間合い測ってから素性明かすとか……やりようがなかったですかね? 

 いきなり全ブッパは正直反応に困ります。

 

 心配そうに部屋の入り口から覗き込んでる仲居さんに、「大丈夫、こっちで収めるから」と伝えて、二人になってから、青年に答える。

 

 

「プレイヤー……? ってのは冗談だから。そんな絶望したような顔するのやめて。そういう貴方もプレイヤーで間違いないんだな?」

 

「ハイっス! レット=レンジャースっス!」

 

「ユウ=ミルガン。察しの通りプレイヤーだ。貴方はなんでここに?」

 

「はい。俺こっちに飛ばされてから、喫茶店でバイトしてたんスけど……」

 

「喫茶店」

 

「ハイっス! マスターがものすごくいい人で、行き倒れてたとこを拾ってもらって、住み込みでバイトさせて貰ってたんス!」

 

「住み込みでバイト」

 

 

 だめだ。会話が通じてるのに理解できない。

 バイトするにしても、なんでプレイヤーの基礎体力も念能力も通用しない職種を選んだのか。

 

 

「……いやこのままじゃ駄目だとは思ってたんスよ!? でもなかなか安定した生活を手放す踏ん切りがつかなくて──じゃなくて、バイトのかたわら、いろいろ調べたり」

 

 

 俺の呆れた視線に気づいたのか、あわてて自己弁護するレットさん。

 ぜんぜん弁護になってないけど。

 

 

「そんな時、たまたまお客さんからモタリケの名前を聞いて……必死で住所調べて、やっとのことでここまで来たんスよ」

 

 

 なんか……いじましくて涙が出てくる。

 まあ、俺もシュウが居なけりゃ……さすがにもうちょっとマシな動きできてたと思う。なにかしらやらかしてたとは思うけど。

 

 

「あー……で、モタリケの家に行ったところで……」

 

「なにも……なかったんス……」

 

 

 可哀想過ぎる。まあ犯人俺なんだけど。

 

 

「ご愁傷さまです……」

 

「いやゲーム持ってったのユウさんスよね!?」

 

「まあこういうのは早いもの勝ちということで……」

 

「いや、よこせとか、そういうんじゃないんス! ただ、俺にもプレイさせて欲しいんスよ!」

 

「あ、それ無理」

 

 

 レットさんの詰め寄りながらの懇願に、拒否。

 どうでもいいけどこの人距離近すぎじゃないだろうか。

 額と額が20cmの距離で不快じゃないやつなんて、妹かシュウくらいなんだけど。

 

 

「なっ!? なんでっスか!? 俺が頼りないからっスか!?」

 

「じゃなくて、俺、仲間がいるから。枠が空いてないんだよ」

 

 

 今回確保したプレイヤー枠が4人分。

 もちろんそこからグリードアイランド内で交渉して、ゲームを手に入れる予定ではあるんだけど、確定してない状況で枠を埋めたくはない。

 

 

「そんな……お願いしまス! 俺、日本に帰りたいんスよ!」

 

「ちょっと、土下座されても困るんだって! 無言で土下座続けられても困るんだって! とにかく! とにかくいっぺん頭上げて! 怖い! 怖いから!」

 

 

 なにを言っても土下座姿勢を維持し続ける赤い人に、懇願してなんとか頭を上げさせる。

 

 

「とにかく、仲間の承諾が要るから──」

 

 

 判断を後回しにするつもりで、そう言いかけて。

 

 突然、部屋の明かりが消えた。

 

 

「──っ!?」

 

 

 視界が薄闇に呑まれる。

 とっさにグリードアイランドの入ったザックを保持。

 念の為レットさんと距離を取りながら、同時に“凝”。

 直後に、部屋の扉を開けて、何者かが襲いかかってきた。

 

 動きはオーラで判別できる。

 何者かは、迷いなくこちらに迫る──速い!? 

 とっさに両腕に攻防力を集め、ガード。

 

 瞬間、視界がブレる。

 とんでもない衝撃。腕に攻防力を集めたため、踏ん張りが利かない。

 ガラス戸を突き破り、庭園の半ばまでふっ飛ばされて、やっと足が地に触れる。

 

 とっさに足にオーラを集め、ブレーキ。

 殺しそこねた勢いを一回転して相殺、同時に太腿のホルダーからナイフを引き抜く。

 

 

「──やるな? なかなかの腕だ」

 

 

 低い、男の声。

 俺を吹き飛ばした何者かが、割れたガラス戸を砕きながら出てくる。

 

 黄昏時。

 人の姿が定かに見えぬ薄暗さ。

 一帯が停電しているらしく、庭園の明かりも落ちている。

 

 だが、視える。

 人の形をした禍々しい悪意(オーラ)が。

 キメラアントと錯覚するほどに、人から外れた気配。

 

 

 ──こいつは、いったい。

 

 

「……何者だ」

 

「──災いよ」

 

 

 男が答える。

 その言葉に、聞き覚えがある。

 その言葉を使った男に、つい最近邂逅した。

 

 偶然ではないと確信する。

 

 

「お前、あの炎の──プレイヤー狩りの仲間か」

 

「ほう。貴様、さては炎の災禍(さいか)を退じた女か」

 

 

 声に喜色をにじませながら、男が歩み来る。

 姿が、おぼろげながら見えてくる。

 

 

 ──吸血鬼。

 

 

 姿を見て、そう思った。

 不吉に濁った紅の瞳。おぞましいまでに長い牙。

 吸血鬼の特徴を持つ、筋肉質の大男は、闇色のマントを(ひるがえ)し、声を上げる。

 

 

「──我が名はアモン。血の災禍。我らは生きた災い。黄昏時に彷徨(さまよ)い歩く殺人鬼……我らこそ逢魔ヶ災(おうまがわざわい)なり!!」

 

 

 禍々しいオーラが膨れ上がる。

 乗せられた殺意が、肌を打ち痺れさせる。

 間違いない、こいつは強い。本能が、経験が、全力で警鐘を鳴らす。

 

 

 ──問答してる余裕はない。こいつは【ヤバい/危険だ】! 

 

 

 強制的に殺意の仮面(ペルソナ)が引き起こされる。

“練”。同時に庭園内の遮蔽物、吸血鬼の視線を意識──なにか、居る。

 

 

 ──だが、黄昏時、身を隠す場所に困らない庭園内、転移するのは容易! 

 

 

 立ち木の影に姿を隠し、【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 追ってくる吸血鬼の背後に瞬間移動し、オーラを纏わせたナイフで首筋に一撃。

 

 だが、首筋を裂かれながら、敵は腕を振り回す。

 裏拳。太い腕が猛スピードで顔面に迫ってくる。

 とっさに発動させた【背後の悪魔(ハイドインハイド)】が間に合い、立ち木の影に戻った。

 

 

「知っているぞ! 瞬間移動能力!」

 

 

 吸血鬼が白い牙を剥き出し笑う。

 

 常人なら致命傷。

 首から大量の鮮血を流しているにもかかわらず、意に介さない。

 それどころか、傷口が急速に塞がっていく。

 

 

「再生能力っ!?」

 

「その通り! 我は血の災禍、真なる吸血鬼! 高貴なる我が体に、そんなちっぽけな刃物で傷を負わせようなど笑止!」

 

 

 マズい。“わたし”の念能力は死角への転移のみ。

 攻撃力を爆発的に増やす正攻法も、操作や具現化系の能力付与による絡め手も持っていない。

 先程の攻撃は、“周”でナイフにオーラを纏わせた一撃。これが通じないなら、あとは“凝”か“硬”しかない。

 

 それで、この吸血鬼を殺せるか。

 

 

「逃げられると思うな! すでにこの一帯は我が支配下にある!」

 

 

 吸血鬼が大喝する。

 その言葉に、視線を走らせる。

 逃走経路となるであろう要所に、無数の人。

 

 念能力者ではない。

 一様に、空ろな瞳をこちらに向けている。

 ぞっとした。感情を宿さぬ赤い瞳から向けられる“視線”には、意思を感じない。死人──違う、こいつらも吸血鬼!? 

 

 

「吸血鬼に噛まれた者はその下僕になる! これぞ我が能力(わざわい)、【血の同胞(ブラッドパーティ)】!!」

 

「くっ、吸血鬼の再現能力か!?」

 

 

 危険すぎる。が、それ以上に、命を弄ぶおぞましい能力。

 だが、これほど強力な念能力なら、相当強い制約があるはず。

 考えるのは、吸血鬼の完全再現。強力であると同時に、弱点も再現されるリスクを負うならば……可能か? 

 

 

 ──試すか。

 

 

 すでに日は沈んでいる。日光は無理。

 旅館の近くには川。だが流水を渡れない弱点は、逃走には使えても滅ぼすためには使えない。

 

 十字架も、銀も、あてはない……白木の杭くらいか。

 遮蔽物として使った立ち木は、杭にするには充分な太さ。

 手頃な太さの立ち木を、オーラを込めたナイフで斜めに二度切断。即席の杭に仕立て──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 

 

「──甘いわ!」

 

 

 転移を読んだか、中段蹴りが飛んで来る。

 圧倒的身長差ゆえに、中段蹴りが顔面の高さ。

 

 だが──好都合。

 回し蹴り気味の蹴り足。

 重心を取るために振るわれた腕。

 そのわずかな死角に、躱しざまに白木の杭を滑り込ませ──脇腹から心臓に叩き込む! 

 

 

 ──()った! 

 

 

 そう確信した、瞬間──衝撃が襲った。

 左肩に激痛。吹き飛ばされ、地面と空が交互に視界に映る。

 

 

「ぐっ!」

 

 

 転がるように吹き飛ばされ、庭石にぶつかってやっと止まる。

 いまのは──状況的に、右拳。体勢が崩れた状態から振るわれた、本来なら苦し紛れの一撃。それが、とてつもなく重い。

 

 とっさに気配を殺し、庭石の陰に身を隠す。

 

 

「“絶”で身を隠そうとも無駄だ!」

 

 

 肩の痛みに耐えながら、思考を走らせる。

 

 いまのは効いた。

 無防備で貰った一撃だ。

 攻撃を受けた肩は、動かすたびに激痛が走る。しばらく使い物にならない。

 

 本気で拙い。

 打開策がまったく見つからない。

 

 

「安心しろ。貴様も我が元にかしずくことになる。下僕として、存分に()()()()()()()()()!」

 

 

 寒気。嫌悪感。

 視線で全身を舐めまわされる感覚に、身震いする。

 

 じりじりと距離をつめてくる吸血鬼もどき。

 押されるようにこちらも退くが……退路には敵の従僕。

 

 状況は絶望的。だけど。

 

 

 ──あきらめてやるもんか。

 

 

殺意(わたし)”を引き剥がして、“俺”が浮かび上がる。

 

 同時に“練”。

 心を昂ぶらせ、オーラを練り上げ放出する。

 

 逃げられないなら戦うのみ。

 絡め手が無理なら正面から行くのみ。

 まだ右手が動く。ナイフも失われていない。

 もう一歩危険に踏み込めば、前に出れば、打てる手はまだある! 

 

 

「むっ」

 

 

 俺の覚悟を感じ取ったか、吸血鬼の表情から侮りの色が消える。

 

 と、その時。

 

 

「ま、まてぇっ!」

 

 

 横合いから、間の抜けた制止の声。

 声の主を探ると、泊まっていた部屋の中からゆっくりと出てくる、赤い人影。

 

 

「それ以上狼藉を働くってのなら、このレットが相手っス!」

 

 

 青年──レットさんが、吸血鬼もどきを指差し啖呵を切る。

 ……うん。よく見ると足が震えてるんですけどね。

 

 

「……なんだね君は?」

 

 

 怪物は、興醒めした様子でレットさんをねめつける。

 

 

「くっ……怖い、怖いっスよ……でも!」

 

 

 なけなしの勇気を振り絞るように。

 赤いジャケットの青年は、拳を握りこむ。

 

 

「敵が強大で、守るべき誰かがいる……いま、この状況なら──俺は強いっ!!」

 

 

 制約と誓約。

 能力の発動、使用に条件をつけることで、能力の威力や精度を飛躍的に高める。

 俺が転移の条件を死角に縛ったように、おそらくレットさんも能力の発動に条件を加えている。それも恐ろしく限定的な。

 

 

「変……身! ──【強化着装(チェンジレッド)】!!」

 

 

 気合の乗った叫び。

 同時に、レットさんの体が輝き、その身が真紅のバトルスーツに鎧われる。

 

 そうか、変身ヒーロー。

 ピンチに駆けつける正義の味方。

 そのために、厳しい制約と誓約を設けたのならば。

 

 この姿の彼は、きっと──強い。

 

 

「レッドキィーック!!」

 

「むっ!?」

 

 

 レットさんの跳び蹴り。

 それをガードした吸血鬼の顔が歪む。

 きっとその威力に、脅威を覚えたのだろう。

 

 

「……お、俺のレッドキックが効いてないっス」

 

 

 着地したレットさんが、声を震わせる。

 

 

「効いてないのは相手がガードしたからだし。充分戦えてるから」

 

 

 レッドさんに駆け寄り、励ます。

 見たところレッドさんと吸血鬼アモンの攻撃力は互角。

 充分戦いになるはずだが、彼はいまの蹴りに相当の自信を持っていたらしく、思いきり及び腰になっている。

 

 

「こうなったら必殺技しか……でも、アレの条件満たすのは厳しいし……」

 

 

 ぶつぶつとつぶやくバトルスーツ。

 えーと。相手がびっくりしてるうちに、畳み掛けたほうがいいと思うんだけど。

 

 

「いま切れない手札なら、考えてる暇なんてない。戦うぞ」

 

「は、はいっス。必殺技を使えれば、あいつなんて倒せるのに……うおっ!?」

 

 

 話している間に、吸血鬼がレットさんに襲いかかる。

 恐ろしい怪力から繰り出される正面からのパンチは、しかし当たらない。

 ばたばたとひどい足さばきだが、レットさんは苦もなく躱した。やはり身体能力が飛躍的に強化されてる。

 

 

「レットさん! とにかく殴れ! 援護する!」

 

 

 蹴りは体勢を崩す。

 見るからに素人のレットさんには、そのほうがいいだろうとアドバイス。

 

 同時にナイフにオーラを纏わせ、斬りかかる。

 狙うは手首か足首。ナイフでも切断しうる末端部位。

 吸血鬼アモンにとって、素人ながら、パワーもスピードも驚異的なレットさんには意識を割かざるを得ない。他方俺の攻撃も無視できまい。

 

 二人がかりの攻撃を、吸血鬼はあきらかに持て余している。

 

 

「くっ、我が下僕共よ! こやつらを襲えっ!!」

 

 

 たまりかねた吸血鬼が、逃走路に張りつかせていた下僕を動かす。

 迫りくる亡者の群れ。その数30を超える。意思を持たぬ人の形をしたナニカが一糸乱れず動く様は、嫌悪感をもよおす──が。

 

 

 ──好機! 

 

 

 格好の逃走機会。

 レットさんに声をかけようとして……彼もまた、顔を輝かせた。

 

 

「いける! この状況なら──必殺、サンライトぉブレードっ!!」

 

 

 声とともに、レットさんの手が輝く。

 直後、握られていたのは、まるで陽光を集約したかのような光の剣。

 

 

 ──うれしい誤算! 

 

 

 内心で快哉を叫ぶ。

 太陽の光(サンライト)の名を持つ剣。

 太陽の光は、吸血鬼の弱点そのものだ。

 

 

「くっ! 日の光……勝負は預けたぞ!」

 

 

 さぞ剣呑なものに映ったのだろう。

 吸血鬼アモンは身を翻し、即座に逃走を選択した。

 波が引くように、他の吸血鬼たちも姿を消していく。その最後のひとつまで、見送って。

 

 安堵の息を吐く。

 助かった。本当に死ぬかと思った。

 死地を脱した実感に、思わずため息が漏れる。

 

 

「レットさん、ありがとう。おかげで助かった」

 

「……ほんとっスか?」

 

 

 礼を言うと、レットさんは、おそるおそる、こっちの顔色を窺う。

 まだバトルスーツ姿のままなので、表情なんかは見えないんだけど、仕草でなんとなくわかる。

 

 

「うん。レットさんが居なかったら、殺されてたかもしれない」

 

「じゃあ、じゃあ、俺もユウさんたちの仲間に入れてくださいっス!」

 

「……え」

 

 

 えーと、一応恩人だし。

 でも、戦闘に関しては素人で、変身前は身体能力も微妙だしなあ。

 こんな人仲間として連れて帰ったら……シュウの反応がちょっと怖い。

 

 

「お願いします! なんでもします! 荷物もちでも肩もみでも! パシリは俺の得意分野っス!」

 

 

 恥も外聞もなく土下座するレットさん。

 というか言ってる内容、限りなく情けない。まだバトルスーツ姿のままなのに。

 

 変身ヒーローの土下座。限りなくシュールだ。

 

 

「お願いしますうぅ!」

 

 

 ……うん。肝心な時の勇気はあるし。

 実力不足は、俺がスパルタ式で鍛えればいいことだし。

 なにより、鍛えた後の変身時の戦闘力考えたら……その超火力にはロマンを感じる。

 

 

「……仲間の承諾を得てからな。紹介はしてやるから」

 

「あああ、ありがとう! ありうございますユウさん! 肩もむっス!」

 

「もむなぁっ!!」

 

 

 恩人とはいえ、さすがに突っ込まずにはいられない。

 俺の拳が、セクハラ変身ヒーローのアゴを貫いた。

 

 

 

 

 




◆レット=レンジャース

・H×Hで好きなキャラクター三人

 ゴン、キルア、シュート

・H×Hで好きな念能力三つ

 パームの【暗黒の鬼婦神(ブラックウィドウ)】、ボノレノフの【戦闘演武曲(バト=レ=カンタービレ)】、フェイタンの【許されざる者(ペインパッカー)

・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ

 No.010黄金るるぶ、No.011黄金天秤、No.074賢者のアクアマリン

・ユウからの第一印象

 熱血漢っぽい外見でヘタレオーラ全開ってどういうことなの……


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