グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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13 マッシュ・トンプソン

 グリードアイランドから生きて脱出する手段はふたつある。

 

 ひとつは【離脱(リーブ)】の呪文効果での脱出。

 もうひとつは、マサドラ西にある港で、通行チケットを使って国外に出ること。

 

 通行チケットは港の所長から金で買うか、もしくは所長を倒すか。

 今回は後者の手段を使ってゲートを潜り、ナビゲーターのエレナさんに説明を受けてから、天空闘技場に一番近い【港】に出た。

 

“外”は、人気のない建物の中。

 ただ、遠くから聞こえる、車のエンジン音やクラクション。

 文明的な生活の香りを、たしかに嗅ぎ取れる。

 

 

「んー。ひさしぶりの外! って感じだ」

 

 

 解放感に、のびをする。

 グリードアイランドは現実世界で行われるゲームだ。

 とはいえ、常に危険と隣り合わせのプレッシャーがある。

 そこから解放されたと感じた瞬間、一気に気が楽になった。

 

 

「と、重りだ。忘れないうちに頼んどこう」

 

 

 手頃な電脳ネットカフェに入り、以前頼んだ販売サイトで超重装備を発注する。

 

 重さはマックス500kgにしておく。

 レットさんの分は、俺が以前使ってたやつ……と思ったけど、サイズが違うし無理か。あらためて注文し直す。

 

 その後は飛行船で天空闘技場へ。

 思えばこの世界の旅も、慣れたものだ。

 とはいえ、この世界で自宅(ホーム)と感じるのは、天空闘技場だ。

 あそこには住み慣れた部屋がある。マジガンさんを始めとした理解者が居る。なにより相棒のシュウが居る。

 

 

「グリードアイランドに入ってたのは、一月半ほどか……シュウもだいぶ回復してるんだろうなあ」

 

 

 船室から外を見ながら、つぶやく。

 いい風が吹いているのか、ゆっくりと流れていく景色は、こころなしか早い。この分だと、天空闘技場には、予定より早く着きそうだ。

 

 

 

 

 

 

「シュウ、帰ってきた、ぞ……」

 

 

 天空闘技場、シュウのフロア。

 療養中のシュウの部屋に入り、声をかけた姿勢で、固まった。

 ベッドで横になりながら、シュウは静かに目を閉じ、瞑想している。

 

 “点”、念の修行法。

 それを行うシュウから感じられる、恐ろしいまでの意識の集中。

 “纏”すらしていないが……見ただけで分かる。以前のシュウではないと。

 

 

「……ユウか」

 

 

 ゆっくりと目を開いたシュウが、こちらに顔を向ける。

 

 

「ただいま、シュウ。ちょっと必要な物があって、一度帰ってきた。そっちの具合はどうだ?」

 

「ん、おかえり、ユウ。怪我の治りは良好。このままいけば4ヶ月で治るだろう、だと」

 

 

 と、だいぶ薄い物に変わったギプスを振り上げてみせる。

 全治6ヶ月の怪我を4ヶ月。そのあたりはさすが強化系というべきか。

 

 

「俺が居ない間に、ブラボーからなにか連絡はあった?」

 

「あった。仲間探しに手こずってる。プレイヤー狩りが原因で、他のやつらも他プレイヤーとの接触に、慎重になってるみたいだな」

 

 

 思ったよりも状況は動いていないらしい。

 なら、こちらもまだ修行に時間を費やせるか。

 

 

「あとユウ、天空闘技場の準備期間、あんまり残ってないだろ? 戦ってけば?」

 

「やば、忘れてた。申請しとかなきゃ」

 

 

 グリードアイランドに入ってると、時間感覚がおかしくなる。

 200階クラスにあえて残る必要もないんだけど……可能なら、試合はこなしたい。マジガンさんへの恩義もあるし。

 それに、特注の重りができるまで、どうせ待たなくちゃならない。それなら修行の成果を試してみるのもいいだろう。

 

 200階クラスの受付に向かい、届けを申請。

 その日はひさびさに自室で眠った。慣れたベッド、慣れた枕。

 安らかな気持ちで床についた、翌朝。さっそく対戦相手が発表された。

 

 

「マッシュ・トンプソン……」

 

 

 かつて、天空闘技場の一階で戦ったボクサーである。

 勝負は、引き分け。たがいに悔しさの残る勝負で、時期を決めない再戦を約束した仲だ。

 

 

 ──あの時は、攻撃を何度当てても、ダメージを与えられなかった。

 

 

 拳を、握り込む。

 あの時とは、筋力が違う。オーラの運用も段違いだ。

 

 とはいえ相手も同じだろう。

 マッシュは、当時俺に拳を当てられなかった。

 必ず俺に一撃入れる方法を用意してくるはずだ。

 

 

 ──うん、そうじゃなくちゃ。

 

 

 プレイヤー狩りとの戦いのような、殺意と憎しみを伴う戦いじゃない。

 血が(たぎ)るような熱い戦い。そう思うと……やはり天空闘技場はいいと思う。

 

 と、電話がかかってくる。

 週刊天空闘技場の記者、マジガンさんだ。

 

 

「よう。ユウ選手。ひさしぶりだ」

 

「マジガンさん。先日はどうも。おかげで強くなれてます」

 

 

 モタリケ所有のグリードアイランドを手に入れられたのは、彼のおかげだ。

 もし確保に動くのがすこしでも遅れていたら、ゲームはレットさんか逢魔ヶ災──十中八九逢魔ヶ災に確保されていただろう。

 

 

「行方不明情報がどう巡って、ユウ選手の強化に繋がったのかわからんが……そりゃあよかった。ところで、マッシュ選手と戦うらしいな」

 

「耳が早いですね。俺もいま知ったとこですよ」

 

「まあ、そこは記者だからな。因縁の対決だ。ぜひとも話を聞きたい……が、とりあえず一言だけ聞いておきたい──勝てるか?」

 

 

 試すような言葉。

 自然、口の端が吊り上がる。

 

 

「はっきり言って、負ける気がしませんよ」

 

 

 

 

 

 

『注目の一戦です! 200階クラスで4戦4勝! フロアマスターにも勝利している“神速の暗殺者”ユウ選手と、こちらも200階クラス3戦無敗! “ザ・ボクサー”マッシュ選手です!』

 

 

 アナウンスの声。

 

 石造りの舞台に上がったマッシュ。

 その赤褐色の体は、以前より絞られている。

 が、プレッシャーも、身に纏うオーラも、まるで別物。相当鍛えたのが見て取れる……が、手にはグラブ、足にはシューズのボクシングスタイルは相変わらず。

 

 

「会いたかったぜ。夢にまで見た。お前との再戦の日を」

 

「俺も、今度はまともにぶっ飛ばすと、心に決めていた」

 

 

 試合を前に、言葉を交わす。

 そういえば、以前は去り際に一言ずつ交わしただけで、まともに話すのは初めてだ。

 

 あ、審判さんが空気読んで開始を待ってくれてる。

 まあこれもパフォーマンスの一種だし、観客も喜ぶからなあ。

 

 

「あの戦いは……屈辱だった。初めての体験だったぜ。オレのジャブが一発も当たらなかったのは。いいように殴られ続けたのは……ボクシングの世界チャンプ。王者の中の王者、世界に敵なしと言われたこの俺がだ!」

 

 

 燃える瞳でこちらを見据えるマッシュ。

 そりゃこの体格(ナチュラルヘヴィ)で念に覚醒してたら、世界チャンピオンでも納得だ。

 見たところマッシュは二十代後半位か。ボクシングを続けていれば安泰だろうに、それを捨てて天空闘技場まで来るなんて、相当な戦闘狂(バトルジャンキー)だ。

 

 

「許せねえよなあ……許せねえよ。なによりオレ自身の不甲斐なさが、許せねえ!」

 

 

 その怒りは、己の強さへの自負の、裏返し。

 怒りが恨みに転化せず、己を鍛える原動力となったであろうことは、鍛え抜かれた体を見ればわかる。

 超一流の格闘者。彼らが戦う姿にただ憧れていた以前の自分が、同じ土俵に立っている。そのことに、言いようのない喜びを感じる。

 

 

「──目の前にこんなにいい女がいるのに、あんな醜態みせてちゃ恥ずかしくて口説けやしない!」

 

 

 ……ん? なんだか話が妙な方向に?

 

 

 首をかしげる。

 マッシュは、そこで一拍おいて、思いきり息を吸い込んだ。

 

 

「ユウ=ミルガン! この試合、オレが勝ったらつき合ってくれっ!!」

 

 

 最初、言葉の意味が理解できなかった。

 理解して、アタマの中が真っ白になって。

 それから、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。

 

 

『なっ! なんとおっ!! マッシュ選手、試合中に、ユウ選手に交際を申し込んだぁっ!』

 

『27歳のマッシュ選手が15歳のユウ選手をいい女って、それってロリコン──』

 

『言うなっ! 引くなっ! いまはとにかく盛り上げるんだよぉっ!!』

 

 

 アナウンスの声がやけに神経を逆なでする。

 男に告られたという事実に、理不尽だとわかっていても腹が立つ。

 せっかく盛り上がってたテンションを台無しにされて、怒りが沸騰する。

 

 

「さあっ! ユウ! 試合開始だ──」

 

 

 試合開始を知覚。

 直後左足にオーラを集中。

 爆発的なダッシュとともに、“流”。

 瞬時に右足へオーラを移し、手加減なしの蹴りを見舞う。

 ガードはされたが関係ない。マッシュの視界は俺の姿を捉えていない。

 吹き飛ぶマッシュの背後に【背後の悪魔(ハイドインハイド)】──っ、観客の視界が邪魔すぎる!

 一瞬の遅滞。普段に倍する消耗を代償に瞬間移動。マッシュの背後やや上方に周り、思い切り蹴り下ろす。

 運動エネルギーを余すことなく衝撃力に変えて──そのままマッシュの体はリングに衝突。石板を割り砕いた。

 

 マッシュは気絶。

 ピクリとも動かない。

 当然の末路と言える……とはいえ。

 

 

「……俺、めちゃくちゃ強くなってない?」

 

 

 独楽使いのギドとは違う。

 あれよりは、武闘家カストロを比較対象にすべきレベルの強者相手に、この結果。

 一撃で決めてしまったのは、戦闘経験値的にちょっと惜しかった。後悔はしてないけど。

 

 それにしても、修行の成果か、死角の感知精度が一段と上がった。

 そのせいで、観客の詰める試合の場では【背後の悪魔(ハイドインハイド)】が使いにくくて仕方ない。

 もちろん実戦の場でこんな不具合を起こすような状況って、そうはないんだけど……なにか対策を考えといたほうがいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 次の日。

 午前中に超重量装備が届いたので、それを手に、シュウのフロアに向かおうと、部屋を出たところで。

 

 

「──待ってくれ!」

 

 

 マッシュに呼び止められた。

 

 

「なんの用だ?」

 

 

 冷たく言い返す。

 というかこいつ、昨日の今日でよく動けるな。

 俺の修行の集大成みたいな全力攻撃受けたのに、つくづくタフな奴だ。

 ちょっとくやしい。

 

 

「教えてくれ! あんた、どんな修行をした! どうやってそこまで強くなったんだ!?」

 

 

 必死な表情で詰め寄ってくるマッシュ。

 腑に落ちないってわけじゃないけど……なんか昨日より必死じゃありません?

 

 

「オレは……オレはあんたに負けてから、死にものぐるいで鍛えてきた! 限界を軽く3つは超えた! なのに、あんたははるか先に行っていた! 想像していた3倍は強かった!」

 

 

 試合の時はふざけたことをのたまっていたけど、体は嘘をつかない。

 鍛え抜かれた肉体。一回り小さくなったと錯覚するほど締まった筋肉。

 にもかかわらず、蹴り込んでいるようには見えない脛。この男は、ボクサーのまま、なんでもありの天空闘技場で戦ってきたのだ。どこまでも馬鹿正直に。

 

 

 

「オレは、もっと強くなりたい。その方法があるのなら、今まで得たなにに換えてもいい! 頼む! オレを鍛えてくれ!」

 

 

 正面から目を見て、マッシュは頭を下げる。

 

 結局、俺はこの男が嫌いじゃない。

 マッシュの才能と愚直さが嫌いじゃない。

 

 

 ──その年で、その才能で、しかも努力家なんだ……たとえ活動の場を天空闘技場の外に移すとしても、応援したくなる。

 

 

 ふと、月間天空闘技場の記者、マジガンさんの言葉を思い出す。

 この男相手にそう思うのは癪だけど……マジガンさんの気持ちが、わかった気がした。

 

 

「わかった」

 

 

 うなずくと、マッシュはがばっと飛び起きて、詰め寄ってくる。

 

 

「ほ、本当か!?」

 

「ああ──近すぎる! 離れろ! ……そのかわり、交換条件。こっちも手伝ってもらいたいんだ」

 

「ああ! なんでもやる! やってやるさ!」

 

 

 喜んでガッツポーズをするマッシュ。

 鍛える代償に、グリードアイランド攻略を手伝ってもらう。

 プレイ枠を圧迫するなら、バッテラ氏経由でプレイしてもらってもいい。

 世界チャンプのネームバリューなら、おそらく通る。そうなればめっけものだ。

 

 いまでさえマッシュは即戦力。

 鍛えたら頼もしい仲間になるのは間違いない。

 そんな目算で、シュウに相談もせずに決めてしまった。

 

 ……どうやって切り出そう。

 

 

 

 

 

 

 案ずるより産むが易し。

 マッシュの加入を、シュウは素直に喜んでくれた。

 

 

「ほぼ代償無しで、レイザーと戦う15人の枠に入ってくれるんだから、そりゃ喜ぶよ」

 

 

 とはシュウの言。

 

 まあ、かわりに責任持ってそのレベルまで鍛えなきゃいけなくなったけど……言っちゃなんだけど、レットさんよりは鍛えがいがある。

 レットさんを貶すつもりはないし、本人も一生懸命頑張ってるんだけど、どうにも要領の悪さが目立つっていうか。

 といっても変身できれば現状でも俺より強いんだけどね……凄まじく腑に落ちない。

 

 ともあれ。

 マッシュの分の装備を用意してから、再びグリードアイランドへ。

 マッシュには150kgの重りを着せて、俺は自分の重りと、レット氏の重り計650kgを背負って、岩石地帯へ向かった。

“ゲームの中”の世界に、最初マッシュは驚いていたが、生来図太い性格らしく、途中出会った怪物を見て、喜んでいた。

 

 超重量の荷物を抱えての移動だったため、岩石地帯の村にたどり着いたのは3日後のことだった。

 村の宿でレットさんと落ち合い、初対面のふたりは自己紹介。たがいに胡散臭げな目を向けていたのが印象的だった。

 

 

「じゃあ、レットさんは穴掘りと念の基礎修行。マッシュもそこに加わってもらおうかな。重りは自分で加減して」

 

 

 ふたりとも、念については基礎修行の段階。

 安全のためにも、ふたりはいっしょに行動したほうがいい。

 

 

「ユウさんは、いっしょじゃないんスか?」

 

「ん。基本一緒に居るけど、怪物と戦いながらだから、つきっきりにはならないかな。念能力の調整もあるし。レットさんは、マッシュにオーラの運用法を教えること。それも修行」

 

「念能力……調整?」

 

 

 マッシュが首をかしげてる。

 あ、まだ“発”についてよく知らないのか。

 

 

「オーラ量が増えてたし、念についてかなり鍛えてたと思ったんだけど……ひょっとして独学だった?」

 

「オーラってこれだろ?」

 

 

 言って、マッシュは“練”。

 自然で、かつ力強い。独学で覚えたとしたらすごいな。

 

 

「そうそれ。体系的な知識についてはレットさんから教えてもらって。“発”は──これ」

 

 

 言って、オーラの小さな塊を、部屋の壁に放つ。

 系統別修行で練習していたため、全力を出せば威力もそこそこあるが、いまは手加減。

 

 オーラが、乾いた音を立てて壁にぶつかる。

 二人の視線が壁に向いたところで、【背後の悪魔(ハイドインハイド)】で死角に瞬間移動。

 

 さすがにふたりとも、瞬時に振り返った。

 

 

「これが“発”。超能力、特殊能力……まあその類。オーラ運用の最終形だって思っておくといい。マッシュの実力なら、いまでも開発は可能だけど……勧めない。レットさんからどんな“発”が実在するか聞きながら、自分に合った“発”をゆっくり考えるといい」

 

 

 ビスケは言っていた。

 戦闘に向く念能力を持った手練の子供は(まれ)だと。

 理由として、思いつきで短絡的な、あるいは矛盾した“発”を作ってしまう、というのもあるに違いない。

 子供とは違うけど、自分の走る速度より遅い飛び道具を作ってしまった、キメラアントのヂートゥなんかがいい例だ。

 

 レットさんから様々な念能力の情報を聞き、自分の系統と相談しながら、自分に合った能力を開発すれば、相当強い能力になるはずだ。十中八九ボクシング絡みだろうけど。

 

 

「オレの……“発”……」

 

「うん。“発”よりも、まずは筋トレとオーラ運用の基礎修行をやっていこうか」

 

 

 あとは燃える方の“燃”。

 もっとも、一個の格闘技の頂点に立った経験があるマッシュには、釈迦に説法かもしれないけど。

 

 

「よし、じゃあ修行開始!」

 

 

 合図とともに、それぞれ修行場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 二人の修行を見ながら、俺も修行を開始する。

 慣れるまではひとまず300kgの重量を装備して、怪物たちを相手取る。

 

 さすがに動きが鈍いが、ここまで倍以上の重量を抱えて走ってきたのだ。

 それに比べればマシ……といっても、戦闘となると軸がブレまくり、体力の消耗も半端ない。

 

 よりシビアに、動作一つ一つの効率を追求する。

 動きは、最短、最速、最小限で。敵の動きを読み、取りうる選択を制限し、わかっていても避けられない。理想はその境地。

 

背後の悪魔(ハイドインハイド)】も積極的に使う。

 この能力をどう弄るべきか。あらためて見つめ直すために。

 

 複数の人間の視界に死角を潰されると、能力発動が難しい。

 本来条件は「敵の死角」限定なのだが、死角に対する感知精度が上がったせいで、第三者の視界に晒された状態での能力発動に、激しい違和感を覚えるようになった。

 

 はっきり言って、現状戦いの場で使うには信頼性が無さすぎる。

 

 これを使える形にするには、どうすべきか。

 アプローチは二種類ある。特化するか、簡易化するかだ。

 

 特化型は、発動条件を“その場にいる全員からの死角”に強める方向性。

 条件を厳しくすることで、使い勝手は悪くなるが、感知精度に等しい条件になるので、意図せず発動しない危険は避けられる。

 それに、制約が強くなる分、なんらかの能力を付与することも可能だろう……死角の恐怖にふさわしい能力を。

 

 簡易型は、発動条件を軽減し、視線がある中でも使えるようにする方向性。

 おそらくさらなる条件の追加が必須ではあるが、こちらも能力が意図通り発動しない危険は避けられる。

 能力の根っこの部分が死角の恐怖なので、「敵の死角」という条件は必須だが……たとえばマーキングした敵の死角に限定する、というのは、悪くない。瞬間移動とマーキングは定番の組み合わせだし。

 

 両立は、たぶん出来ない。

 改造の方向性が逆であるがゆえに、下手に両取りしようとすると、むちゃくちゃ弱体化する。

 

 下手すりゃ分裂症に……分裂?

 うん、そうだ。ひょっとしたら、可能かもしれない。

 

 死角の恐怖そのものである、殺意の仮面(ペルソナ)でのみ発動する、特化型。

 通常人格でのみ発動する、簡易型。まあ、通常人格でも、もうちょっと条件いじりたいとこだけど。

 

 

「……やってみるか」

 

 

 口の中でつぶやく。

 不思議と、できる、という確信があった。

 

 

 

 

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