グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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14 ビノールト

◇ミコ=トトコノエ

 

 

「しっかし居ないわねー、ご同胞(プレイヤー)。どうなってんのかしら」

 

「“プレイヤー狩り”のうわさが流れていたからな。近頃は聞かなくなったとはいえ、みな警戒しているのだろう」

 

 

 アイジエン大陸、オチマ連邦、べン市。

 街を歩きながらぼやくカミトさんに、ブラボーさんが答える。

 そんな二人に、ちょこちょことついていくわたし。

 

 カミトさんは、見た目は男の子なんだけど、中身は女の人みたいで、女の子口調。

 黙ってると美少年なのに、口を開くとみんなものすごい勢いて遠ざかってしまう。

 

 ブラボーさんは、もう“ブラボー”としか言えない。

 ものすごく昔の漫画だけど、お父さんが全巻持ってて、読ませてもらったから知ってる。

 漫画のままの、キャプテン・ブラボー。とっても頼りになる人なんだけど、ちょっとおバカ。

 

 おふたりと出会ったのは、ハンター試験の会場に向かう途中。

 いろんな人にお世話になりながら、試験会場を目指していると、ものすごく見覚えのあるブラボーさんの姿を見つけて、思わず話しかけちゃったのだ。

 

 目的は同じだし、身の上も同じ。

 3人で仲間になって、いっしょにハンター試験を受けた。

 結局わたしは合格できなかったけど、おかげでブラボーさんとカミトさんに会えたんだから、感謝だ。

 わたしが世間知らずなせいで、ふたりの助けになれることは多くないけど、足を引っ張らないよう頑張らなくちゃだ。

 

 わたしの念能力、【変幻自在の召使い(サヴァンサーバント) 】は、感覚を共有する変幻自在の念獣で、探索に向いている。

 いまも、鳥の姿でお空を飛んでいるのだけど……その目が、ちょうどこちらの様子を見てる念能力者(ひと)を見つけた。

 ふたり連れで、野球帽をかぶったスポーツマンのお兄さんと、青い髪の、リボンがかわいい10歳くらいの女の子だ。

 

 

「ブラボーさん。こちらを見ている方が、いらっしゃるみたいですけど……」

 

「それはブラボーだ。ぜひとも話し合ってみよう!」

 

「お仲間かな? 気合入ってる子だといいんだけどねー」

 

 

 おふたりのテンションはまるで違うけど、不思議と息が合ってておもしろい。

 

 

「そうですわね。ユウさんくらいお強い方だと、ありがたいんですけど」

 

 

 ユウさんはわたしたちの仲間で、すごく強くて、わたしの命の恩人でもある人だ。

 女の人なのに、男の子の言葉を使ってる、たぶん本当は男の人。

 

 

「ミコはユウちゃん大好き(ラブ)ねえ」

 

「な!? そんなことっ!?」

 

 

 な、なにを言ってるのかカミトさんは。

 まったくとつぜんいみふめいなことを。

 ユウさんはそんなんじゃないというか命の恩人で女の人で、でも本当は男の人だと思うんだけどかん違いかもしれないし年上だし──じゃなくて。

 

 

「わ、わたしは、ただ理想の使い手として、あの方のお名前を挙げただけでそのようなことは──―」

 

「はいはい、そういうことにしときましょう。実際とんでもなく優秀だしね、ユウちゃんたち。もうグリードアイランドを入手して、仲間を2人も引き入れてるとか……正直焦るわぁ」

 

 

 カミトさんはため息。

 話がかわったので、ちょっとホッとする。

 

 いちおう、10人以上のプレイヤーさんとお話できてるんだけど……

 帰る気がなかったり、レイザーと戦う気がなかったりでムズかしい。

 みんなお母さんと会いたくないのかなあ。

 

 

「──ま、腐ってても仕方ない。やるべきことをやりますか」

 

「うむ! いまはプレイヤー捜索を優先するとしよう!」

 

 

 気合を入れるカミトさん。

 元から気合が入ってるブラボーさん。

 

 

「はい!」

 

 

 わたしも声を上げる。

 日本に帰るためにも、こんなとこでグズグズしてちゃダメなんだから。

 

 空を見る。

 ユウさんは、いまごろなにをしてるんだろう。

 

 

 

 

 

 

「──よし、【マリモッチ】ゲット!」

 

 

 修行開始より二週間。

 岩石地帯の怪物。その最後の一種を手に入れた。

 500kgの重量を筋力的に克服したわけじゃないが、鈍った状態でも戦えるようになった。

 

 そうなると、あとは早い。

 なにせ一度攻略法を確立している上に、オーラ運用に関しては、以前より遥かに上達している。

 超スピードで移動する毛玉、マリモッチの捕獲には時間を取られたが、あとはほとんど苦戦もしなかった。

 

 欲を言えば、【背後の悪魔(ハイドインハイド)】をもう少し練り込みたいところだけど……さすがに疲労もピークだ。体を休めたほうがいい。

 

 レットさんとマッシュの修行も順調。

 元々素質にも恵まれたのだろう。マッシュは各種修行にもすぐに慣れた。

 さすがに“周”を持続させる穴掘りには苦しんだが、レットさんが焦るくらいには上達も早い。

 

 このままいくと、一両日中には、魔法都市(マサドラ)まで到達するだろう。

 

 

「……うん、俺さきに休息するから。レットさんたちは、このままマサドラまで掘り抜いてから、拠点に戻ってきて」

 

「あいよ、すぐに戻ってやるぜ」

 

「えーユウさんだけズル──マッシュには負けないっス!」

 

 

 弱音を吐きかけたレットさんが対抗心を燃やす。いい傾向だ。

 マッシュと修行をし始めてから、レットさんの伸びがあきらかに違う。

 ゴンとキルア然り、やっぱり競い合う相手がいるって大事なんだなと思う。

 

 拠点にしている集落まで、一息に駆け戻り宿へ直行。

 部屋に入った瞬間、重りを脱ぎ散らかして、おもいきりのびをする。

 体が軽い。出来ればこのままベッドに倒れ込みたいところだけど……先に風呂だ。

 

 体の汚れを落としてから、湯気の立つ湯船に身を沈める。

 

 

「あー」

 

 

 あまりの心地よさに、声を上げる。

 疲れが、湯の中に溶け出していくようだ。

 グリードアイランド内では、移動中や修行中、風呂に入りそこねることが多い。

 

 それだけに、修行終わりの風呂は格別だ。

 

 

「……しかし、これだけ鍛えてるのに、体つき変わらないなあ」

 

 

 薄く脂肪の乗った滑らかな肌。

 豊かとは言えないが、形の良い胸。

 これだけ鍛えてるんだから、腹筋バッキバキに割れてくれてもよさそうなものなのに、体のラインも肌理(テクスチャー)もたいして変わっていない。

 

 まあ、筋力的には別モノだ。

 石ころだって握りつぶせるし、いいんだけど。

 

 

「そういえば髪、伸びてきたなあ……こっちは変わらなくていいのに」

 

 

 最初肩口までの長さだった髪は、鎖骨に触れるほどになっている。

 前髪がちょっと邪魔になってきたし、天空闘技場に戻ったらカットしてもらおう。

 

 

「モデルは(トモ)なんだし、美人さんにしといてあげたいんだけどなあ。どうしても修行優先になっちゃう」

 

 

 我ながら、どうしてここまでストイックになったんだか。

 たぶん“燃”を欠かさず行ってるのが原因だろうけど。

 せめて体は清潔にしとこうと、あらためて心に決める。

 

 

「レットさんたちがマサドラから帰ってきたら、岩石地帯の怪物コンプリートしてもらって……その後は修行場をマサドラ西の森に移すか」

 

 

 マッシュは、試合経験豊富とはいえ、オーラ運用が未熟。

 レットさんは戦闘経験が足りてない。ここでの修行が終わるのは、半月近くかかると見た。

 

 その間、俺は“発”を磨いて……

 

 

「うん。それより先に、済ませとくか──宿題」

 

 

 心に決めて。俺は浴槽の中で、拳を手に打ちつけた。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。出発の準備を整えると、【ブック】で(バインダー)を出し、呪文カードを取り出す。

 

 

「【磁力(マグネティックフォース)使用(オン)! レット!」

 

 

 こっちに戻ってきた時、レットさんに返してもらったカードだ。

 

 効果は、指定した他プレイヤーのいる場所への移動。

 俺の瞬間移動にも似た浮遊感。ほどなくして、レットさんとマッシュの居る場所に降り立った。

 

 

「うぉっ!? ユウさん!?」

 

「すげえなそれ。これが呪文(スペル)ってやつか」

 

 

 いきなり飛んできた俺の姿に、驚くレットさん。

 マッシュはさすがに肝が据わってるが……ちょっと危機感が足りないか。

 

 

「ごめん。ちょっと用が出来たんで2、3日留守にする。ふたりは戻ったら怪物のハント。マッシュは、最初は重りなしでいい。それからレットさん、マッシュに呪文(スペル)カードについて説明しといて。とくに移動系、強襲を受ける可能性がある【磁力(マグネティックフォース)】、【衝突(コリジョン)】。別の場所に移動させられる可能性がある【左遷(レルゲイト)】、【初心(デパーチャー)】、【同行(アカンパニー)】、それから【離脱(リーブ)】について」

 

「は、はいっス!」

 

「大丈夫。重りつきで2週間でここまで来れたのなら、成果は確実に出てる。怪物との戦いでそれが実感出来ると思う。頑張って」

 

 

 ふたりに伝えて、目と鼻の先の魔法都市マサドラへ向かった。

 

 目的地は、マサドラを経由して懸賞都市アントキバ。

 マサドラでは、カードショップで呪文カードを買えるだけ買う。

 移動系呪文が盛大に腐ったけど、カードを引いては売ってを繰り返して、なんとか【離脱(リーブ)】が二枚手に入ったので、その足でアントキバに向かう。

 いざとなれば【港】まで護衛して、と考えていたけど、手間が省けた。

 

 アントキバは初めてなので、【再来(リターン)】は使えない。

 岩石地帯を越え山岳地帯に入り、アントキバにたどり着いたのは、夕方になってから。

 

 ……見られてるなあ。

 複数人に見られているけど、まあ観察の段階。

 たぶん見かけない人間(プレイヤー)が街に来たからだろう。

 

 とりあえず害はなさそうなので無視。

 街中を軽くうろついたが、目標は見つからない。

 途中適当に倒した怪物のカードを売って、その日は宿に泊まった。

 

 翌朝から、本格的に捜索活動開始する。

 途中ハメ組っぽい人たちの勧誘を断りつつ、街中をうろうろ。

 情報収集したいところだけど、残念ながらNPCの皆さんはなにも答えてくれない。

 

 昼食を挟んで、日が西に傾き始めた頃。

 

 

 ──見つけた。目標の人物。

 

 

 しょぼくれた顔で街を歩く、ワイシャツベストのオジサン。

 

 

「──すみません。モタリケさん?」

 

 

 モタリケ。

 俺たちが持つグリードアイランドの、本来の所有者。

 実力不足で最初の町(アントキバ)からろくに動けず、後には爆弾魔に(さら)われ下僕生活を強いられる、薄幸のおじさん。

 

 ゲーム内で結婚しているリア充。

 とはいえ、余裕のある生活を送ってるわけでもない。

 交渉に乗ってくれる可能性は高い。そう思っての直球アプローチ。

 

 結果は、成功。

 奥さんの分と合わせて二枚の【離脱(リーブ)】と交換で、グリードアイランドの所有権を得た。

 必須ではないし急ぎでもない案件だったけど、ゲーム盗りっぱなしってのが気になってたので、ちょっとすっきりした。

 

 

 

 

 

 

 夕暮れ時。

 ひと仕事終えて、岩石地帯へと戻る、帰り道。

 日が落ちるまでには帰れるかな、と思っていたのだが……

 

 アントキバからぴったりとついてくる視線がひとつ。

 

 

 ──追われてるな。

 

 

 しかも劇物。

 俺を人でなく獲物として見る、そんな視線。

 

 厄介な性質の狩人(ハンター)だ。

 しかも強い。ともすれば、即座に殺意の仮面(ペルソナ)が顔を出しかねないほどに。

 

 殺し合いに慣れていないマッシュ。

 そもそも戦いに慣れていないレットさん。

 二人を巻き込むと、万が一の事故も起こり得る。

 

 

 ──誘うか?

 

 

 場所は山岳地帯、薄暗い森の中。

 遮蔽物に事欠かないここでなら、負ける気がしない。

 まあ、素直に誘いに乗ってくれるかはわからないけど。

 

 

 ──ええい、当たって砕けろだ。

 

 

 足を止める。

 深呼吸して、敵の動きを探る。

 向けられた視線はこちらに固定したまま。希薄な気配を感じ取れる。

 

 

「そこの人。用があるなら出てきたら?」

 

 

 しばし、静寂。

 気配が、揺れ動いた。

 

 

「くくく」

 

 

 林立する木の陰から出てきたのは、ハサミを手にした痩せぎすの男。

 武器や容姿からして、間違いない。グリードアイランドプレイ初期に、ゴンたちが戦った殺人鬼、ビノールトだ。

 

 

「よく見破ったな、小娘」

 

 

 ゆらりと、痩身を揺らしながら近づいてくる殺人鬼。

 

 

賞金首(ブラックリスト)ハンター、ビノールト」

 

「知っているのか小娘、このオレを」

 

 

 おかしい。

 油断していい相手じゃないが、ビノールトは怪物(モンスター)換算でDランク相当の実力。

 Cランクの【バブルホース】や【群狼の長】を楽に倒せる俺なら、それほど怖い相手じゃないはず……だが、脳内の警鐘は鳴り止まない。

 

 

「──だが違う。いまのオレは賞金首(ブラックリスト)ハンターでも賞金首でもない──災いだ」

 

 

 その言葉に。

 背筋が凍りつく。

 災い。己をそう呼ぶプレイヤー狩りの存在を、俺は知っている。

 

 

「そう、我らは生きた災い。黄昏時に彷徨い歩く殺人鬼。我らこそ逢魔ヶ災(おうまがわざわい)なり!」

 

 

 ビノールトは名乗りを挙げる。

 手に持ち構えるハサミが、十字架を(かたど)る。

 

 この世界での仲間。

 俺たちがマッシュを仲間にしたように、逢魔ヶ災(やつら)もビノールトを仲間に引き入れたのだ。

 

 しかも、肌で感じる強さは、【群狼の長】より上。

 奴らの下で、相当修練を積み上げているに違いない。

 

 

 ──だが、倒せない相手じゃない。

 

 

 静かに、構える。

 オーラを練り上げながら、ビノールトをにらむ。

 

 

「その名を出した以上、ただで済むと思うなよ」

 

「そういう反応をする人間は殺せと言われてるぜ……くくく、切断の災禍ビノールト──行くぜ!」

 

 

 宣言とともに、殺人鬼が飛び込んでくる。

 速い。ハサミに纏わせたオーラは剣呑そのもの。

 

 腰のホルダーからナイフを引き抜きながら、ハサミの刃先を躱す。

 敵の動きが見える。視線が見える。速いが──見切れる。

 

 躱しざま、左手でビノールトを殴る。

 脾腹(リバー)への一撃。ビノールトは悶絶しながらも、ハサミで払い斬り。

 屈んで躱し、足にオーラを集めて距離を取る。同時にビノールトも退がった。

 

 

「くっ、強ぇ……が、切ったぜ。お前の髪」

 

 

 ビノールトの手には、一房の黒髪。

 しまった、屈んで躱したから──纏めとくべきだったか。

 

 殺人鬼は、笑いながら俺の髪を口に入れる。うええ気持ち悪い。

 

 

「オレの能力(わざわい)は【切り裂き美容師(シザーハンズ)】! ハサミで切った髪を食うことで、オレは本人さえ知り得ない肉体の情報を知ることが出来る!!」

 

 

 全身をくまなく“凝”で見つめられるような。

 あるいは全身を撫で回されるような、異様な感覚。

 

 

「実年齢15歳……だが、なんだ、この歪みのない肉体は! まるで生まれたての赤子のような肉!?」

 

 

 あ、なんか勝手に驚愕してる。

 そうか、俺の体はプレイヤーキャラクターが実体化したもの。

 だから「15年間生きた人間」としてはありえないほど、肉体にクセがないのだ。

 

 

「す、素晴らしい!! 是非! とも!! ──食したいっ!!」

 

 

 がぜんオーラを燃え上がらせるビノールト。

 と、そういえば好物は人の肉なんだっけか。

 

 長引かせると危険だ。

 すぐ終わらせることを決める。

 

 

「しゃぁっ!」

 

 

 ハサミを手に突っ込んでくる殺人鬼。

 ぎょろりとしたその眼は、俺を捉えて離さない。

 だが、オレの認識が言っている──使()()()と。

 

 ユウ版【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 オーラでマーキングした敵の死角へと瞬間移動する能力。

 念弾による攻撃でも、殴ったり蹴ったりでも構わない。オーラによる攻撃がマーキングのトリガー。

 

 そう、すでに脾腹打ち(リバーブロー)の時に、マーキングは終わっている!

 

 

 ──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】!

 

 

 発動のごく一瞬、一度限りの認識阻害。

 マーキングにより“敵”の定義を明確にすることで、余計な視線を認識内でふるいにかける。

 

 殺人鬼の背後に瞬間移動。

 同時に攻防力を左拳に集め、ぶん殴る。

 

 ビノールトが跳ねた。

 跳んだのではない。上から殴った勢いで地面にぶつかり、バウンドしたのだ。

 

 そのまま地面に倒れ伏し、ピクリとも動かない。

 死んではいないが……とてもじゃないけど、すぐには起き上がれないだろう。

 にもかかわらず、愛用のハサミを手放していない。その執念は、お見事というべきか。

 

 

「逢魔ヶ災のこと知ってるみたいだし、とりあえず拘束して……しまった。ロープはレットさんが持ってるんだ」

 

 

 ひとまず、そのへんの蔦を使って縛り上げることにする。

 

 

「……目を覚ますには、まだかかるか」

 

 

 彼のことは、起きるまで置いておこう。

 さきにレットさんたちと連絡を取らないと。

 ビノールトは逢魔ヶ災のメンバーになっていた。

 グリードアイランド内で、メンバーから勧誘されたと考えたほうがいい。

 ビノールトが強くなっていることを思えば、それなりに前から、ゲーム内に奴らが居る。危険だ。

 

 

「──【交信(コンタクト)使用(オン)、レット」

 

『あっ、ユウさん!』

 

 

 急ぎ連絡を取ると、(バインダー)から、レットさんの声。

 あわてたような……息を切らしているのか。

 

 

「レットさん。どうしたんだ」

 

『敵っす! ヤバいオーラで、いま逃げてるとこっス!』

 

「──! 逃げ切れそうか?」

 

『わかんないっス! 全力で逃げてるのに、つかず離れずっていうか……』

 

「いまプレイヤー狩り──逢魔ヶ災を自称するビノールトに会った。ひょっとしてその敵もメンバーかもしれない。いま俺は山岳地帯だけど、来れそうなら進路を南にとってくれ。アントキバから岩石地帯に向かう直線上だ。いまから真北に向かって走る」

 

『了解っス! お願いしますっス!』

 

 

 交信を切って、即座に駆け出す。

 ビノールトを放置することになるが、ことは一刻を争う。

 下手をすると二人の命が危ない。【磁力(マグネティックフォース)】か【同行(アカンパニー)】があれば一瞬で合流できたが、あいにく手持ちにはない。

 

 

「──いま行くぞ……待っててくれ!」

 

 

 蹴り足にオーラを乗せながら、全力で北へ。

 夕暮れの空は、不気味な光を大地に落としている。

 

 

 

 

 

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