グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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18 第287期ハンター試験 最終試験

 

 

 ハンター試験最終試験会場となる、審査委員会経営のホテル。

 1次試験会場から飛行船で前入りして、待つこと一週間。受験者の到着を待っていると、ハンター協会のロゴが入った飛行船が降りてくるのが見えた。

 

 

「やっと最終試験か……ビノールトはこのまま部屋でゆっくりしてて。試験官も集まってるし、そう物騒なことにはならないと思うから」

 

「わかったよユウさん。一人じゃ流々舞もできないし、“点”をしながら待ってるぜ」

 

 

 ここで休むという発想がないあたり、つくづく律儀というかなんというか。

 

 ともあれ、ホテルの入り口に行って、そこで待っていると、来た。

 ネテロ会長を先頭に、試験官たち、続いて受験者たちがぞろぞろと歩いてくる。

 

 1年ぶりに会うネテロ会長。

 そのなにげない身のこなしに、寒気がする。

 1年間で研ぎ澄まされた俺の感覚が、この老人の強さをより明確に捉えている。まあ、まだ上限が見えないってのが本当だけど。

 

 

「会長、先輩方、お疲れさまです。私事で前入りして申し訳ない」

 

「ええよ。いまから最終試験じゃて、ついてきなさい」

 

 

 会長の言葉に従い、一団についていく。

 と、背後から舐め回すような視線(さつい)。振り返るまでもない。ヒソカだ。

 

 

 ──こうなるのが読めてたから来たくなかったんだけど……そういうわけにもいかないしなあ。

 

 

 と、くノ一的なセクシー衣装に身を包んだ女性──美食ハンターのメンチが、こちらを肘でつついてきた。

 

 なにかと視線を向けると、こちらに向けて親指を立てる(サムズアップ)

 

 

「いやーありがと。さっきからずっとアレに殺気向けられてて、ホントウザったかったんだ」

 

 

 本当に。大人しく会長に喧嘩売ってりゃいいのに、なんでこっちに来るのか。

 出てきそうになる仮面(ペルソナ)抑え込むのも、けっこうしんどいんだけど。

 

 

「メンチ、言い方ー」

 

「いえ、お役に立てたなら光栄です、先輩」

 

 

 巨漢の美食ハンター、ブハラがメンチをたしなめるが、言っても仕方ない。

 

 

「──ただ、あの殺気のせいで、いま沸点極端に低くなってるんで、暴走したら遠慮なくぶっ叩いてください」

 

「よくわからないけど──わかったわ。任せて」

 

「ゆっても、新人(ルーキー)とはいえ完全武闘派のキミ相手だと、オレらじゃ取り押さえるのはキツいかもだけどねー」

 

 

 自信満々に請け負うメンチと、頬をかきながら応じるブハラ。

 

 やば。

 このふたりからそんな評価貰えるなんてうれしすぎる。

 

 

(ねぇねぇブハラ。この子情緒不安定なのかしら)

 

(失礼だよメンチー)

 

 

 喜んでいると、そんなささやき声が。

 聞こえてるからね!?

 

 

 

 

 

 

「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。その組み合わせは──こうじゃ」

 

 

 最終試験会場となるホテルの大広間。

 会長の話を聞きながら、居並ぶ受験生を吟味する。

 

 残った受験生は11名。

 その多くはよく知る最終試験のメンツだが……2名ほど知らない顔がある。

 

 432番の仏頂面でブレザーを着た少年。

 460番の、黒い長髪で長身の、軍服姿の青年。

 他にも念能力者──推定プレイヤーが一次試験合格してたはずだけど……5次試験のナンバープレート集めあたりで潰しあいになったか。

 

 仏頂面の学生は、腕っぷしはそこそこ。

 それほど強くは見えないが……なにか隠し玉を持ってそう。

 ぼっちオーラというか、話しかけんなと全身で主張してる。

 

 長髪軍服の男はシンプルに強い。

 心技体、それにオーラのパラメーターがまんべんなく高い感じ。

 軍服を着崩してハンドポケット。俺様オーラをこれでもかってくらい放射している。

 

 奇しくも双方ソロ気質……落差がひどいけど。

 

 

「それでは第1試合、ハンゾー対ゴン!」

 

 

 そして最終試験が始まった。

 試合は、おおむね俺が知る通りに進む。

 拷問されるゴンを見守るしかないのは、かなり辛かった。ゴン好きだし。

 だがハンゾーも間違ったことしてるわけじゃないし、審査委員会側として、介入するわけにはいかない。

 

 ゴンがぶっ飛ばされて、ハンゾーが自ら降伏したことで、ようやく一息つけた。

 ゴンが腕を折られて気絶してるのに、こう言うのもなんだけど……事故が起きずにホッとした。

 その後も、トーナメントは予想を裏切ることなく進行してくが……ギタラクルが長髪軍服に勝ちを譲ったのが不穏すぎる。

 

 あ、いまさら気づいた。

 キルアに殺された老武術家、ボドロが居ない。

 トーナメント表を見るにレオリオと戦うのは……ヒソカ相手に速攻で負けを宣言した仏頂面の学生か。不吉な予感しかしない。

 

 

「久しぶりだね、キル」

 

 

 考えている間に、キルア対ギタラクル戦が始まる。

 といっても、戦いにはならない。針による変装を解いたギタラクル──キルアの兄、イルミは、キルアが口にする望みを徹底的に否定する。

 

 お前は熱を持たない闇人形だと。

 お前に友達なんて出来っこないよと。

 

 

 ──静まれ。

 

 

 ゴン対ハンゾーの戦いも、見ていて辛いものがあったが、心を折り砕くイルミのやり方に、仮面(ペルソナ)が暴れだす。

 というかヒソカの殺気がほんとに邪魔。それさえなけりゃ“殺意(わたし)”も、こんな暴れ馬みたいになってないんだよ。

 

 

「ゴンと友達になりだいだと? 寝ぼけんな!! とっくにお前ら友達同士(ダチどうし)だろーがよ! 少なくともゴンはそう思ってるはずだぜ!!」

 

 

 レオリオがキルアを叱咤するが、イルミはさらに畳み掛ける。

 ゴンを殺そう、と。さらに、お前自身の命とゴンの命、どちらを取るのかと。

 

 キルアの心を、丁寧に、丹念に、折り砕いた。

 

 痛ましい。

 だが、俺は知っている。

 一ヶ月後から始まる、ゴンとキルアの冒険を。

 その末に、キルアは苦しみもがきながら、兄の軛から脱することを。

 

 

 ──だから、俺の立場で心配すべきは、この後の試合。

 

 

 続く試合は、レオリオ対仏頂面の学生。

 本来ならボドロがキルアに殺される場面だが……相手は念能力者だ。

 そしてプレイヤーならば全員、この後のキルアの行動を知っている。

 

 試合開始と同時、複数の人間が動いた。

 キルアが仏頂面の学生を殺さんと手刀を繰り出す。

 そのことを知っていたであろう少年は、レオリオを無視して振り返る。

 

 

 ──防げるのか──違う。確証が持てない以上、確実に止める!

 

 

 掌で、顔を覆う。

 まるで仮面のように。

 殺意の仮面(ペルソナ)を引きずり出す。

 死角の恐怖(わたし)の殺意をキルアに集中──しようとした、瞬間。

 

 横合いから強烈な殺気──その主はイルミ。

 キルアに手を出せば殺すとでも言うように、凄まじい殺意を叩きつけてくる。

 さっきあれだけキルアの心ぶち折っといて、と思うが、イルミの歪んだ愛情に理屈など通じない。だから。

 

 

 ──()()()()()()()

 

 

 気を吐いて、委細構わず殺気を叩き込む。

 この場で人死には絶対に出さない。出させない。

 俺の殺気に、突っ込んでいたキルアは急ブレーキをかけ。

 

 だから、最終試験立会人、マスタの制止が間に合った。

 黒背広の男は、すんでのところで少年とキルアの間に体をねじ込んだ。

 

 

「──降伏だ。試合を止めてくれ」

 

 

 仏頂面の学生が急いで宣言する。

 

 この試合の敗者は、キルアと戦うことになる。

 不合格になるためには、キルアは対戦相手を殺さなくてはならない。

 いまのキルアに、この上レオリオと戦わせるわけにはいかないって判断だったら……いい覚悟だ。それだけ自信があるのかもしれないが。

 

 レオリオが、クラピカが、キルアの身を案じて駆け寄る。

 キルアは、動かない。ただ荒い息をつくばかりだ。

 

 窮地を脱した。

 仮面(ペルソナ)を剥がし、息を吐き出す俺に、メンチが声をかけてきた。

 

 

「大丈夫? 一瞬ヤバいの漏れてたけど、ぶん殴らなくていい?」

 

「ありがとうございます。大丈夫です。これは制御できてるやつなので」

 

 

 俺が答えると、メンチが変人を見るような目をこちらに向ける。

 

 そりゃあね、あんな殺意モード出したら、変な目で見られるかもとは思ってたけど……いざ引かれるとつらい。

 かといってヒソカみたいに最高に昂ぶった、みたいな顔されても嫌だけど。こっちみんな。

 

 ともあれ、会場がざわつきながらも、次の試合が始まる。

 クラピカが、キルアの異常行動を理由に休憩を挟むよう意見するが、他ならぬキルアが首を横に振った。

 

 そして、試合開始と同時。

 構える学生を尻目に、キルアは下を向いたまま、降伏を宣言した。

 

 

「……参った」

 

 

 この瞬間、キルアの不合格と、それ以外の受験生の合格が確定した。

 

 第287期ハンター試験の合格者は10名。

 

 44番  ヒソカ

 53番  ポックル

 294番 ハンゾー

 301番 ギタラクル(イルミ)

 403番 レオリオ

 404番 クラピカ

 405番 ゴン

 432番 ミケゾー

 460番 ダーク

 

 

 

 

 

 

 最終試験は終わった。

 翌日の講習を控えて、その日はみなホテルに宿泊することになった。

 ネテロ会長に誘われて、ほかの試験官といっしょに食事をすることになったので、ビノールトにその件を伝えておく。

 

 ついでに食事はルームサービスで済ませるよう言っておいた。

 ヒソカといつ出くわすかわからない、ホテル内の移動とか、危険すぎる。

 

 部屋に集合し、同じ卓を囲んで食事を始める。

 なんというか、品数が多い。そして豪華。会長に出す食事なんだから当然なのかもしれないけど。

 

 

「お疲れ様。無事に終わって安心したわ。よく99番(キルア)を止めてくれたわね」

 

 

 食事が始まって、メンチがねぎらいの言葉をかけてくる。

 ちょっと意外だ。ハンター試験って受験生の死亡上等だから、俺がやったことは、余計な手出しだと思ってた。

 

 俺の内心を察したのか、ネテロ会長がヒゲをしごいて語る。

 

 

「試験の中での事故ならともかくのう。あの状況では手出しもやむなし──ってことでええよ。最終試験立会人(マスタ)も感謝しておったしの」

 

「そう言ってもらえると……ホッとします」

 

 

 その後は、合格者たちに関する雑談になった。

 ヒソカの話。イルミの話。推定プレイヤーの2人の話。ハンゾーの話。ゴンの話。

 

 あとはハンター試験について。

 なんでかと思ったら……そういえば俺脱会長派の一角、ブシドラの派閥だった。

 まあ恩がある以上ブシドラに歩調は合わせるつもりだけど、脱会長派が本格的に動く頃には、俺もうこの世界に居ない可能性が高いんだよなあ。

 

 ともあれ、その後も色々話して。

 歓談の時も終わり、その日はゆっくりと眠った。

 

 翌日は、合格者に対するプロハンターに関する講習。

 途中、目を覚ましたゴンがイルミに食ってかかった事も含めて、さしたる波乱なく終わった。

 強いて言うならゴンのブチ切れ方が若干マイルドだった気がする。たぶん人死にが出なかったからだろう。

 

 そして講習が終わり、合格者にハンター認定が与えられたのを見届けてから、こっそり会場を辞去した。

 

 ホテルの庭には、すでに飛行船が廻してある。

 ビノールトに頼んでチャーターして貰ったものだ。

 もたもたしてると、ヒソカにつけ回されそうだし、その前にとっとと逃げ出す算段だ。

 

 

「ユウさん。待ってたぜ」

 

「うん。ビノールト。ありがとう。出発させてくれ」

 

 

 船が浮き上がる。

 さきほどまで居たホテルが、みるみる離れていく。

 その様を、感慨をもってながめる。

 

 

 ──ゴンたちが、ハンター試験に合格した。

 

 

 それは、彼らの物語が大きく動き始めたということだ。

 彼らはいずれ天空闘技場に来る。グリードアイランドに来る。

 ツェズゲラたちがバッテラ氏に雇われ、プレイを始め、爆弾魔(ボマー)も、活動を活発化させ始める。

 

 それまでに。

 

 

「──行こうか。グリードアイランド攻略」

 

 

 目標を言葉に乗せる。

 日本に帰る。そのための最大の目標。

 

 そのために、帰ろう。

 俺の第二の故郷、天空闘技場に。

 

 

 

 

◇ネテロ

 

 

「会長。御覧ください」

 

 

 貴賓室でくつろいでいると、ビーンズが報告書を持ってきた。

 報告書は2つ。どちらもそれなりに厚い。

 

 

「ほほう……ビーンズよ、要約してくれんか?」

 

 

 そう頼むと、ビーンズはため息をついて。

 いつものことだとあきらめて、説明を始めた。

 

 

「報告書は2つ。前者は、先に上がりました予言に関するもの、その内容です。後者は、実際ハンター試験で起こった出来事と予言との比較。ご覧いただければわかりますが、見過ごせない差異はありますが、多くの点で一致を見ています……会長が試験に変更を加えなければ、もっとはっきりした結果が出たはずですが」

 

「ほっほっほ。未来が見えてございってモンがあれば、それに抗うのはハンターの本能ってもんじゃ……が、まあ、本物と信じてよかろうな」

 

 

 予言。

 ビーンズとの間でそう呼ぶものが、手元に舞い込んできたのは、半年ほど前のこと。

 

 自分はこれから起こる未来を知っている。

 今より1年と9ヶ月後、バルサ諸島の南端に災厄が流れ着く。

 災厄の名はキメラアント。奴らは人を食らい念能力者を食らい、やがて災厄と化す。

 

 信じてもらえないかもしれない。

 だから証拠として、半年後に行われる第287期ハンター試験の内容、出来事、合格者を知る限り記す。

 

 差出人はわかっている。だがその素性はわからなかった。

 理由は、手紙の主が、あらゆる社会的存在証明を持たない人間だったからだ。

 

 流星街の人間、ではない。

 今から1年と少し前、そのような人間が何百人と現れたのだ。

 

 驚くべきことに、全員が念能力者だという。

 つい先日、ジンの奴がふらっと遊びに来た時、そんなことを話してくれた。パリストンの奴が彼らに接触していることも。

 

 

「いかがいたしますか?」

 

「場所が悪い。事前に火消しは難しかろう……が、探索の手は出しておく。動ける人間の手配もしておく。そのあたりが限度じゃろうな」

 

 

 協会に許された権限で取れる最善ではある。

 が、それすら、実行がおぼつかない。

 

 

「パリストンの奴が、悪い遊びを仕掛けてくる匂いがプンプンするぜ……」

 

「そんな人間をなんで副会長に……いや、知ってますけど」

 

 

 ビーンズが半眼になる。

 

 まあ、非難ももっともだが、性分だから仕方ない。

 奴はいい遊び相手だが、だからこそ、こちらが一番困るタイミングを心得ている。

 その対処で身動きが取れなくなれば……災厄への対応、難しいことになりそうだ。

 

 考えていると、自然、口角が上がる。

 ビーンズのこちらを見る目が、また冷たくなった。

 

 

 

 

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