グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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19 最後の試合

 飛行船で天空闘技場に着くと、その足でシュウのフロアに向かう。

 フロアには、ホームコードのメッセージを見て待っていたのだろう。シュウの姿があった。

 

 

「ユウ、ひさしぶり」

 

「うん。ひさしぶり……ひょっとしてシュウ、背が伸びた?」

 

 

 強くなってるのは当然だけど……

 しばらく見ないうちに、一回り大きくなってる気がする。

 以前はおなじくらいの身長だったのに、いまは俺より拳ひとつは高い。

 

 

「あー。周りオレより身長高いヤツばっかだから気づかなかった。たしかに伸びてる……成長期だからかな?」

 

「なにそれ生意気。ちょっと分けてくれよその身長」

 

「ふふーん。無理でーす。まあ、男女で成長期の時期違うし? 背が伸びなくても仕方ないだろ」

 

「くっ、俺だってすこしは成長してるんだからな! えーと、えーと……胸とか!」

 

 

 その言葉に、シュウはアッパーを顎に受けたみたいに、垂直にくずおれ膝をついた。

 

 なんでそんなにダメージ受けてるんだ。

 そしてなんでそんなにダメージの回復が遅いんだ。

 ユウこそ分けろと言われても、物理的に無理というかお前は男だ。

 

 ビノールトがむっちゃ困惑してるけど、そっとしておいてあげてください。

 

 

「そういえば、シュウ。部屋がずいぶんと片付いてないか?」

 

「……ああ、ブラボーとも相談して決めた。これから活動の場をグリードアイランドに移す。このフロアも、いつ明け渡すことになるかわからないからな。家を買った」

 

「家を買った!?」

 

 

 思わず声を上げる。

 うん。必要なのはわかるけど。

 充分に金があるのも知ってるけど。

 やることが豪快過ぎる……

 

 

「で、荷物は全部そっちに移した。いまここにあるのはグリードアイランドくらいだな。ユウも個室から荷物送っといて」

 

「……ちなみに、どれくらい広い家?」

 

「とりあえず、その家を拠点にする5人が泊まれるくらい? リスク分散のため、ブラボーたちは別の国に拠点つくるらしい。あっちもグリードアイランドを手に入れたみたいだしな」

 

 

 ああ、ブラボーたちは別なのか。

 残念なような、シュウが買ったのが10部屋以上あるお屋敷じゃなくてホッとしたような。

 ブラボーには悪いけど……これから拠点にする家が変人ハウスって言われずに済んでちょっと安心したり。

 

 でも、そうか。

 これで本格的に、天空闘技場と別れることになるのか。

 

 思い返す。

 ここで、戦う実力を養った。

 ここで、活動するための金を得た。

 ここで、よき理解者を、仲間を得た。

 

 

「……シュウ、やっぱり最後に一度、ここで戦っていいか?」

 

「変なところで律儀だよな、ユウ。ビノールト連れてきたときも、一戦してたし」

 

「俺を、いまの俺にしてくれたのはこの天空闘技場だ。だから、最後まで誠実でありたい」

 

 

 俺の言葉に、シュウは苦笑を浮かべ。

 

 

「いいぜ。気の済むまで戦って来い」

 

「──うん!」

 

 

 

 

 

 

『さあ、大注目の一戦です! 戦績は6戦6勝! 休みがちながら緩やかに不敗の戦績を積み重ねる“神速の暗殺者”ユウ選手! そして戦績は8勝1敗! 武闘家カストロ選手! ともに人気選手同士! 対戦が決まったのはわずか3日前だというのに、会場は超満員です!』

 

 

 アナウンスの声。

 目前には、ゆったりとした外套を纏った長髪の武闘家カストロ。

 まったく。天空闘技場(ここ)ではいろんなサプライズがあったけど……最後まで驚かされてばかりだ。

 

 武闘家カストロ。

 奇術師ヒソカと因縁を持ち、リベンジを目指す格闘家。

 ヒソカがおもちゃと見定めた才能の持ち主であり……その才能を十全に活かせないまま、殺された青年。

 

 

 ──だが、強い。

 

 

 実力を隠したまま、フロアマスターを射程圏に収めるこの男は、おそらく天空闘技場でも屈指の実力。

 それは、彼の全身から放射される力強いオーラからも見て取れる。

 

 

「……強いね。こうして相対すると、よくわかる。マッシュ=トンプソンと戦った時と比べても、もはや別人の域……素晴らしい」

 

「カストロさんも強い。肌でそれを感じてる……よかった。天空闘技場で最後に戦うのがあなたで」

 

 

 そう言った瞬間、会場から悲鳴の大合唱が上がった。

 

 

『な、なんとーっ! ユウ選手突然の引退宣言? ちょっとまって、ちょっとまって! あたし聞いてない! 聞いてません! ユウちゃーん!?』

 

「……よかったのかい? いまここでそんなことを明かして」

 

「マジガンさんや受付のお姉さんには伝えてたんだけど……まあ雑誌はまだ発売してないし、みんな知らなかったか」

 

 

 頭をかく。

 

 

「しかし、惜しい。君の実力なら、フロアマスターになるのも容易いだろう」

 

「元々、目的があって強くなりたかったんだ。その目的のために、ここを去るだけだよ」

 

「そうか……残念だ」

 

「天空闘技場には恩がある。だから、できるだけ多くのものをここに残したい。もう一度言う。最後の相手があなたでよかった」

 

「それは……光栄だ!」

 

 

 カストロが構える。

 両手を落とし脱力した構え。

 虎咬拳(ほんき)はまだ出さないらしい。

 

 俺も構える。

 こちらも脱力した自然体。

 構えも、ゆったりとした外套も相似形。

 

 たがいに、“練”。

 

 

「始め!!」

 

 

 審判の合図とともに動く。

 

 カストロが地を蹴る。

 片手にオーラを集めての薙ぎ払い。

 攻防力70。おなじ攻防力を腕に集めてガード。

 ダブルはまだ使ってこない。視界がそれを語っている。

 

 重い手応え。いい攻撃だ。

 お返しに左の掌底。肘で受けられる。

 右拳。フェイント。右拳。死角を縫って左掌。俺の攻撃はすべて止められる。

 左手刀。戻しの一撃。右の叩き下ろし。体当たり。カストロの攻撃をすべて受け切る。

 攻防は徐々に早くなっていく。足を止めた打ち合いから、高速移動を混じえての交錯が増えてくる。

 

 リングを縦横無尽に駆け回る攻防戦に、審判がたまらず場外へと避難する。

 

 

「強い、やはり……だがヒソカほどじゃない!」

 

「ヒソカが強いのは知ってるけど、アレと比較されるのはちょっと、不本意、だっ!」

 

 

 カストロの手刀が、徐々に鷲掴みの形に変化する。

 それとともに、打撃の威力が跳ね上がっていく。

 

 

 ──いよいよ本気か。

 

 

 虎咬拳。

 掌を虎の爪や牙に模し、敵を裂く拳法。

 達人なら大木を真っ二つにすることも可能らしいけど……この威力はそれ以上!

 

 

「虎咬拳を苦もなく受けるか……どうやら私は侮っていたようだ。これ以上の手加減は無礼にあたる。ここからは……本気でいかせてもらおう!」

 

 

 ──来るか。【分身(ダブル)】を混じえた虎咬真拳。

 

 

 敵の視線を感じる。

 観客の視線もより明確に感じるが……無視できる。

 攻防の中で、すでにマーキングは済ませている。いつでも転移は可能だ。

 

 

「うん。こっちも本気でいかせてもらう」

 

 

 構える。

 この二ヶ月。ビノールトとの組み手、流々舞、それに賞金首との闘いを重ねてきた。

 それにより、俺の闘い方も変化してきている。基礎能力と身のこなし、オーラの運用まかせじゃない。戦うための理──武術が、格段に進歩した。

 

 拳。

 繰り出す拳と掌の形をした虎咬がぶつかり合う。

 ふわりと舞う双方の外套。その死角から、左掌が、右の牙が繰り出される。

 

 

 ──瞬間、()()()()()()

 

 

 瞬時にオーラを肘に移動。

 ()()()()()()()()()を受け止める。

 

 

「──驚いた。私の虎咬真拳に、初見で対応してくるなんて」

 

「能力のせいでね、俺は視線と死角に敏感なんだ。視線が増えれば警戒もする」

 

「そうか。どうやら君と私はかなり相性が悪いらしい……瞬間移動だね? 君の能力(ちから)は」

 

 

 さすがに映像が出回ってたらバレるか。

 シュウやマッシュとの闘いで、わかりやすく使っちゃったからなあ。

 まあこっちは最初からカストロの分身(ダブル)を知ってるんだ。おあいこってことにしておこう。

 

 

「うん。【背後の悪魔(ハイドインハイド)】という。相手の死角に瞬間移動する能力(ちから)

 

「……なるほど、初見で見破られるはずだ。そんな外套を着ているはずだ。どうやら私と君の能力(ちから)は、まったく別物でありながら──極めて近しい性質を持っているらしい」

 

 

 そう言って、カストロは【分身(ダブル)】を出す。

 

 え、見せちゃっていいのか。

 ちょっと戸惑う。

 

 

『これはどういうことでしょうか、なんとカストロ選手が2人に分裂!? どういうことだー!?』

 

 

 アナウンスの人が混乱の声を上げる。

 

 

「【分身(ダブル)】。(オーラによる)分身体か」

 

「まさしく。ただの分身ではない。【分身(ダブル)】はもう一人の私。実際掌を受けた君ならわかっているだろうが」

 

「なるほど、怖い……けど、返す返すも相性が悪い」

 

「……なに?」

 

 

 俺の言葉に、カストロは不審の表情。

 そして俺の攻撃を皮切りに、闘いが再開される。

 

 念弾を飛ばす。

 直撃すれば岩を砕く威力。

 だが、カストロの虎咬拳は念弾をたやすくかき消す。

 直後、カストロの姿が消える。念弾を消したのは【分身(ダブル)】。

 死角を縫ってカストロが左側面から襲いかかる。

 

 

 ──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 

 

 瞬間、カストロの背後に転移。掌底を繰り出す。

 外套の影からカストロの【分身(ダブル)】。突き出してきた拳が攻撃を受ける。

 念弾を置き土産に、足にオーラを集めて地を蹴る。同時に【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。マークした【分身(ダブル)】の死角──頭上に跳んで本体に蹴り。マーキングの土産を置いていく。

 

 

「クリーンヒットォ!」

 

 

 審判がクリーンヒットを宣言する。

 

 

『こ、これは、なんと申しましょうか、カストロ選手もユウ選手も消えたり現れたり──正直観客席からもその動きを捉えきれません! すごすぎるっ!』

 

 

 アナウンスの声。

 カストロの表情に、わずかに厳しいものが混じる。

 

 

「移動の瞬間、君の姿を認識できなくなった。そういう能力(ちから)……なのだろうな」

 

「修業を重ねるごとに、視線の感知精度が上がり続けてね。そのせいで観衆の前では能力(ちから)が使えなくなった。だから調整したんだ。対象をマーキングした相手に絞り、発動の瞬間、認識阻害を起こすように」

 

「マーキング──くっ!?」

 

 

 カストロは眉をひそめた。

 俺の“隠”は完璧じゃない。肩口に隠されたオーラの痕跡を感知したのだろう。

 

 

「相性が悪いと言ったのはそのせいだ。マーキングのせいで、どちらが本体かわかる。フェイントは通用しない」

 

 

 ──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 

 

 上空に転移。念弾を打ち下ろす。

 背後の死角を警戒したカストロに、直撃。攻撃と同時にマーキングが入る。

 さらに、【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。転移の瞬間は死角だったカストロの真正面に現れる。

 

分身(ダブル)】は背後を警戒。

 自身は頭上を警戒。

 正面は──がら空き。

 

 石版を割り砕く威力で地を蹴り、掌底。

 狙いは腹。インパクトの瞬間、掌の攻防力を80に。

 ハンマーでゴムタイヤをぶっ叩いたような、鈍い衝撃音。

 

 

「ぐ──くっ」

 

 

 横隔膜を打った。

 ダメージも相当だろうが、しばらくまともに呼吸できないだろう。

 

 つまり、【分身(ダブル)】は出せない。

 

 

 ──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 

 

 背後に転移。

 カストロは【分身(ダブル)】を出そうとして、出せない。

 俺の遠慮のない蹴りが、カストロを場外にぶっ飛ばした。

 

 

「クリティカルヒット&ダウン!」

 

 

 審判が宣言する。

分身(ダブル)】を封じられ痛打を食らい、カストロはなお立ち上がる。

 

 だがダメージは深刻。もはやフラフラだ。

 

 

「……なぜ、【分身(ダブル)】が出せない」

 

「たぶん、その原因は俺じゃない。あなた自身にある」

 

「そうか……ダメージで、集中力を保てないから……【分身(ダブル)】にこんな弱点が……」

 

「──俺も、弱点を克服してここに居る。あなたも、きっと弱点を克服出来る」

 

 

 そう言って。かろうじてリング上に戻ったカストロに、蹴り。

 ふたたび吹っ飛んだカストロは、地面に倒れて起き上がってこない。

 

 

「カストロ選手失神によるKOとみなし、勝者ユウ選手!!」

 

『なんと! なんとユウ選手、フロアマスター直前だったカストロ選手に土をつけたーっ! ものすごい試合をありがとう! でもやめないでユウちゃーん!!』

 

 

 悲鳴と拍手の雨のなか、闘技場を後にする。

 これが最後と思うと、五月蝿くなるほどの視線も名残惜しい。

 入場用の通路を戻っていると、髭面でカジュアルスーツ姿の男、週刊天空闘技場の記者、マジガンさんが待っていた。

 

 

「ユウ選手。いい試合だった……本当に、強くなった」

 

「強くなれたのは、天空闘技場のおかげです。この場所が、俺を俺にしてくれた。本当に、感謝してます……もちろん、マジガンさんにも」

 

 

 最後の試合を申し込んだその日に、マジガンさんには説明している。

 俺とシュウの目標、グリードアイランドのクリアに専念するため、天空闘技場を離れることを。その時に、話すべきことは話した。

 

 だから、最後に交わす言葉は、別れの挨拶。

 

 

「マジガンさん、新しい舞台で頑張ってきます」

 

「ああ。行って来い、二人でな。応援してるぜ」

 

 

 その日、俺たちは天空闘技場を後にした。

 

 

 

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