天空闘技場を中心とした一大都市の、郊外。
シュウが購入した家は、一見なんの変哲もない平屋建ての家屋。
といっても、しっかり広くて、お屋敷と呼ぶべき大きさなんだけど。
「ようこそ我が家へ……つっても、すぐにグリードアイランドに入ってもらうことになるけど」
言ってシュウは中を案内する。
通されたのは、玄関から続く廊下の突き当り、ダイニングキッチンを通り抜けた先の最初の部屋。
いかにもなゲーム部屋で、色んなゲームやゲーム機が転がっている。その中に、ジョイステⅡとグリードアイランドも混じっていた。
「……不用心じゃない?」
「厳重なセキュリティかけると、それはそれで目立つんだよ。そういうのは工事や金の流れで割れるし、そこに網張ってる盗賊も一定数居るからな」
タイプで例えるならシャルナークか。
そういうことやりそうってだけで、シャルナークがどういう盗みをするのかは知らないけど。
「心配しなくても、ジョイステに発信機を仕込んでる。誰か一人でもプレイしてる最中はまず取り出せない」
「なるほど、盗まれないようにするんじゃなく、盗まれても取り返せるように、か……それでレットさんやマッシュをゲーム内に残してきたのか」
「いや、ギリギリまで修行させるためだけど?」
うん。シュウが厳しすぎる。
きっと無茶苦茶しごかれてたんだろうなあ、と思いつつ、そろってグリードアイランドに入った。
◆
「【ブック】──【ゲイン】」
シソの木前で3人が揃うのを待って。
シュウは
「お、聖騎士の首飾り。このタイミングでそれをアイテム化するってことは……」
「その通り」
うなずいて、シュウは指定ポケットから一枚のカードを取り出す。
聖騎士の首飾りには、【
変化したカードの名は──【
「【
魔法都市マサドラに飛ぶ。
降り立ったのは街の入り口。
シュウの先導で、大通りを避け、街外れにある宿に案内される。
宿の大部屋で待っていたのは、レットさんとマッシュのふたりだった。
「──あ! ひさしぶりっス、ユウさん! ……と、えー、人相変わってるけどビノールトさん!」
ひさしぶりに見るレットさんは、身に纏うオーラが数段強くなっている。
なのに、相変わらず三下オーラ全開なのが、非常にアンバランスというかなんというか。
「ユウ。ひさしぶりだな」
マッシュは、俺の顔を見ると、顔を輝かせて抱擁のポーズ。
まあ雰囲気で冗談とわかるけど……腹にツッコミの拳を入れる。
「ぐ、ぐ、ぐ、ひさしぶりだというのにご挨拶な……」
「ツッコミ待ちに乗っただけなのに、その返しは理不尽じゃないかな」
「いや、ツッコミにしても厳しすぎるって……」
前かがみでうめくマッシュ。
でも、叩いた感触から、腹筋が数段発達しているのがわかった。
「ふたりとも、相当鍛えたみたいだな」
「ええ、シュウさんのおかげで……」
言いかけて、レットさんの瞳から光が消える。
「──ちょ、待ってくださいっス! それは拙いっス! シュウさん! パピヨンは、パピヨンのコスプレだけはぁーっ!!」
がたがた震えながら悲鳴を上げるレットさん。
フラッシュバックって奴か。
パピヨンいいよね。
武装錬金に出てくる主人公のライバル。ブラボーと同じくらい好き。
でも黒の全身タイツにパピヨンマスクの格好は……まあ、パピヨン本人がする分にはいいけど、むしろ好きだけど、自分でコスプレする勇気はない。
「巨乳は罪デス。貧乳バンザイ。妹サイキョー」
そしてどうしたマッシュさん。
レットさんのフラッシュバックに共鳴したのか、機械的な口調で変な事を言いだした。
「……シュウ、お前こいつらにナニやったんだ」
「普通に修行しただけだよ。レットの場合、あまりにも肝が小さいから度胸をつけてやっただけ」
「……尋常じゃないトラウマになってるみたいだけど……で、マッシュの方はほんとに遊びだろ。なんだよアレ」
「じっ……啓蒙?」
「洗脳だろう、どう見ても。というか、いま実験って言いかけなかったか?」
横を向くシュウ。
うん。確実に強くなってるし、遊んでたわけじゃないのはわかるけど……なにやってんの本当に。
◆
2日後。マサドラの西にある森。
深い森の奥深くに、誰が切り開いたのか、ぽっかりと開けた空間が存在する。
人目を忍んで俺たちがやってきた時、そこにはすでに、ブラボーを先頭に8人のプレイヤーが集まっていた。
「よく集まってくれた! 早速だが紹介しよう! 同士たちだ!」
並び立つプレイヤーたちを、ブラボーは指差し示す。
その先。並んだプレイヤーたちの一番左にいるのは、野球帽を被った長身のスポーツマン。
「エース=レジェンス! 強力な念を込めた玉を操る、操作系の能力者だ! 戦闘スタイルは【アスリート/武装】!」
「よろしくな。ブラボーからあんた達のことは聞いてるぜ」
言って、青年──エースは爽やかに笑う。
続いてブラボーが指差したのは、その隣。
大きなリボンをつけた、10歳くらいの青髪少女。
「ミオ=アカシ! 筋力強化に特化した、強化系の能力者だ! 戦闘スタイルは【アスリート/徒手】!」
「よろしくねー」
紹介されて、少女はしまりのない表情でふにゃんと笑う。
続けて、ブラボーは少女の隣に居た男を指差す。
中背だが筋肉質。タンクトップにハーフパンツ姿で、頭に唐草模様の風呂敷を巻いている。
「ダル=ゴームズ! 体をゴム状に変化させる特質系の念能力を持つ!
戦闘スタイルは【武道家/徒手】!」
「つーか、あれなんだけどね、ゴムゴム」
言いながら、ダルは手をフニャンとしならせる。
……これは、かなりの生理的嫌悪感だ。
元ネタは好きだけど、生理的にこれは受けつけない。
俺がちょっと引いていると、男はにやりと笑い、手足をフニャフニャとくねらせながら、近づいてくる。
「ほーら、フニャフニャだよー」
「ちょ、マジやめて──」
「成層圏までぶっ飛べぇーっ!!」
俺が悲鳴を上げるより早く、シュウのアッパーカット気味の【
しばらくみんなで上空を眺めていたが、ダルはいつまで経っても落ちてこない。
ブラボーは気を取り直したように紹介を再開した。
指差したのは、直前までダルが居た場所の隣。アクセサリジャラジャラで、独特なファッションセンスをした、筋肉質ながらスマートな金髪の青年。
「
「──よろしく」
と、【奇妙な】ポーズを取るD。
というか「ジョジョの奇妙な冒険」を知ってる事を前提に説明しないでほしい。
まあ、波紋といえば、相手を操ったり、物を手に吸いつけたり、水を固定したりと、いろいろ使い勝手のいい力だ。優秀な念能力なのかもしれないけど。
続けて、ブラボーは隣の少年を指差した。
こちらは、いままでの男衆と違って、淡い髪色の中性的な容姿の主。
「ヒョウ=パーネマン! “変化しない”という変化系の能力の持ち主だ! 戦闘スタイルは【アスリート/徒手】!」
「わかりにくいよな……ま、こう言うこと」
ヒョウは、空を見上げながら、一団を離れるように移動する。
つられて見上げると、上空からなにかが落ちてくる──ダルだ。
ヒョウとダルは鉢合わせにぶつかる。ものすごい衝突音と共に、双方あらぬ方へ吹き飛んだ。
どこまで打ち上がっていたのか知らないが、相手がゴムといえど、その直撃を受けて無事ですむはずがない……が。
「……と、まあ、こんな感じ」
ヒョウは、何事もなかったように立ち上がった。
“堅”すらしていなかったはずだが、ノーダメージっぽい。
「【
これは……かなりすごい能力なんじゃないだろうか。
「以上5名! 信頼できる新たな同士たちだ!」
ブラボーが、びしっとポーズを決める。
なんというか……みんないい目をしてる。
ブラボー、いい仲間を見つけてくれたな。
と、今度はこちらが紹介する番だ。
シュウに目線で伝えてから、俺が一歩前にでた。
本来なら代表のシュウがやるべきなんだろうけど……みんなを、俺の口から紹介したかった。
「うん。みんな、よろしく。こっちからも紹介させてもらう」
言って、まず最初に手で示したのはシュウ。
「シュウ=ブラスト。さっきダルをぶん殴った超強力なパンチが念能力。強化系で、戦闘スタイルは【武道家/徒手】。うちのリーダー格」
「よろしく」
シュウが手短に挨拶する。
「俺はユウ=ミルガン。念能力は瞬間移動。放出系で、戦闘スタイルは【暗殺者/武装】──で、こっちの彼が、レット=レンジャース。条件は厳しいけど変身ヒーローになれる能力を持ってる。具現化系で戦闘スタイルは【武道家/徒手】」
「どうも、レットっス。よろしくお願いしまス」
俺の紹介に、レットさんはぺこりと礼をする。
なんだろう。いまの一瞬で、この人の立ち位置が決まった気がする。
うん、これだけ人数増えても、彼が一番下ってことは変わらなそうだ。動物の優位性的に。
「それから、同郷じゃないけど、同士のマッシュ=トンプソン。天空闘技場の闘士で、元ボクシング世界チャンプ」
「マッシュだ、よろしくな。能力は……空中を蹴る能力で、スタイルは【武道家/徒手】ってとこか」
マッシュが説明を補足する。
なるほど、この数ヶ月で“発”も完成させたのか。
空中を蹴る能力。空中の敵を相手にできる──だけじゃない。
どんな体勢でも地を踏みしめてパンチを放てる。ボクシングをしながら、マッシュにボクシングゆえの死角はなくなった。このこだわりは、本当にすごいと思う。
「同じく、同士のビノールト。条件を満たすと相手の肉体の情報を知る事ができる特質系能力者。戦闘スタイルは【武道家/武装】。重ねて言うが信頼できる大切な仲間だ。偏見なく接してほしい」
「ビノールトだ。いまはユウと組んで働いている。よろしく」
「え、顔むちゃくちゃ優しそうに──むぐむぐ」
青髪リボンの童女、ミオが驚き開いた口を、エースがあわてて塞いだ。ひょっとしてこの子けっこう幼いな?
こちら側の紹介を終え、こっちの新顔3人のために、ブラボー、カミト、ミコが自己紹介をする。
「うむ、あらためてよろしく頼む、同士諸君! この13人で、オペレーション・ハーヴェストを決行する!」
「
直訳すると収穫か。
ひょっとしたらスタンド能力の方から取ってるのかもしれない。
いずれにせよ、集めるのはおそらく指定ポケットカード。
「
なるほど、1チームあたりおおよそ25枚ずつじゃあ、この“チーム”に気づかない限り、警戒されにくい。
加えて短期間での収集が可能になるから、対策を打たれにくいのが利点だろう。いい作戦だ。
「グリードアイランドの地域を4分割し、それぞれ担当する。ほかに、入手難度SSのカードを専門に追うチームが2つ。即ち、6チームに分かれる。一応適性をみてチーム分けを考えてみた。異論があれば言ってくれ!」
そう言って、ブラボーはチームを発表する。
・北東地方チーム
レット、マッシュ組
・北西地方チーム
ブラボー、ヒョウ組
・南東地方チーム
エース、ミオ、ダル組
・南西地方チーム
カミト、D組
・【大天使の息吹】、呪文カード確保チーム
ユウ、ミコ組
・【ブループラネット】【一坪の密林】チーム
シュウ、ビノールト組
「──―といったところだが、誰か意見があるかね」
「……聞きたいんだけど」
不満を隠さず、シュウが手を挙げる。
「なんでオレとユウが別チームなんだ?」
むっちゃ不機嫌だ。
たかが班分け位で怒りすぎだろう。
ブラボーは動じた様子もなく、説明する。
「【大天使の息吹】を手に入れるには、マサドラで呪文カードを集めてもらわなくてはならない。他のプレイヤーと接触するリスクが大きいからな。探査系のミコと、呪文カード有効圏内から即座に逃げられるユウが組むのがベストと考えたのだが」
「仕方ないじゃないか、シュウ。適性を見てのことだし」
「……ユウがそういうなら、いい」
ふてくされ、拗ねたように口を尖らすシュウ。
たしかに、オレもシュウと組んだ方が安心できるが、仕方ない。
見たとこ、俺とシュウの戦闘力は、この中でもトップクラス。
俺もシュウについていくだけじゃない。すでに、リーダーシップを取るべき立場ということだ。
「よ、よろしくお願いしますわ! ユウさんっ!」
「あ、ああ。よろしく、ミコ」
ミコさん、意気込んで挨拶してくれるのはうれしいけど、タイミングを考えてほしかった。シュウの眼がすげー怖いから。
「ブラボー、俺からも質問いいかな?」
「もちろんだ同士・ユウよ!」
シュウが納得したので、手を挙げると、ブラボーは勢いよく応じる。
「逢魔ヶ災──プレイヤーキラー。奴らがグリードアイランドを所有している以上、あまり分散しての行動は危険じゃないだろうか」
悪魔紳士を滅ぼして以降、動きを見せない彼らだが、油断していては危険だ。
「大丈夫だ、同士・ユウ! 彼らがグリードアイランドに姿を現すことは、
ブラボーは断言する。
あ、ひょっとして俺が逢魔ヶ災について伝えたあと、やつらを倒しに行ったな?
話した以上、性格上やりかねないとは思っていたし、だから悪魔紳士を滅ぼすまでは情報を渡してなかったんだけど。
俺が納得するのを見て、ブラボーはうなずいて、話を進める。
「さきにグリードアイランドに入っていたシュウ達が、おおよそのカードの入手法を把握している! それから、彼らの集めた
「ユウ、とりあえず【
ブラボーの言葉をシュウが補足。
その後カードを持っていたレットさんたちがバインダーを開き、みなに配っていく。
聖騎士の首飾りもそうだけど、シュウたち、修行しつつけっこう進めてたみたいだな。
「最後に、ひとつ! ミコとユウ以外は、なるべくマサドラに近づかないように! あそこは全てのプレイヤーが集まる場所だ。後の混乱を避けるため、なるべく他のプレイヤーとの接触は避けてほしい! 呪文カードが必要になれば、同士・ユウたちに調達してもらってくれ──それではみんな、頼んだぞ!」
ブラボーの激励に、皆そろって「応!」の声。
それから、各々声を掛け合って、それぞれ担当する地域を目指して駆け出した。
俺とミコのチームが向かう先は、魔法都市マサドラだ。
「ミコ、マサドラに着くまでに方針を立てときたい。俺たちの役目は呪文カードの収集。これに尽きる。そのためにはカードショップに頻繁に出入りしなくちゃいけない。これは、かなりリスクが高い」
「はい。この場合のリスクというのは、敵に目をつけられるリスク……では、ありませんわよね?」
「その通りだ。真に警戒すべきは俺たちが、もっと多人数のチームの、カード供給源だって疑われる……攻略チームの存在を悟られること。これだけは避けたい。だから人目を避けてカードショップに行く必要がある」
「……難しいですわね。マサドラは最も数多くのプレイヤーが集まる場所です。しかも目当てはカードショップ」
「そこで、ミコに聞いておきたい。カードショップがある通りから、最低20メートル奥まった場所から、念獣で見張るとして、どれくらいのことがわかる?」
通りに近すぎると、すれ違ったプレイヤーの【
これのなにが怖いって、一度登録されたら、呪文カードの効果対象にされる恐れがあるってこと。
もちろん防御呪文で防ぐことも出来るが、多人数に呪文をかけられると防御呪文がいくらあっても足りない。だからこそ呪文カードコンプリートは難しいってハメ組の人も言ってたし。
「それくらいの距離でしたら、目にした光景から会話、匂い、触感に至るまですべて共有できますわ。だいたい100mを超えると視覚と聴覚以外は共有できなくなって、1km以上離れると視覚のみ、それもだんだん不鮮明になっていく感じですわね」
「うん、問題ないな。じゃあまずはこのあたりの怪物を倒して軍資金の調達、その後カードショップを見張れる場所に拠点を作るか」
「はいですわっ!」
ミコが、元気よく返事する。
方針は決まった。
ただ、シュウ達が半年がかりでコンプリートできなかったことからも、【大天使の息吹】入手の難しさがわかる。たぶん、“ハメ組”が呪文カードを買いあさってるせいだろう。
時期を考えれば、まだ状況は煮つまってはいないだろうが、あと2枚を手に入れるには、長期戦を覚悟したほうがいい。
と、ふいに狼の遠吠えが耳に入る。
「──ミコ、群狼だ! 襲ってきたら長を探してぶっ倒す!」
「了解ですわっ!」
時間はかかるかもしれない。
だが、目的のために、止まるつもりはない。
襲いかかってくる群狼の群れに、俺とミコは迷わず飛び込んだ。
◆ダル=ゴームズ
・H×Hで好きなキャラクター三人
ウヴォーギン、ゴレイヌ、ジン
・H×Hで好きな念能力三つ
ヒソカの【
・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ
No.010黄金るるぶ、No.021スケルトンメガネ、No.034なんでもアンケート
・ユウからの第一印象
うん。生理的に厳しい。