魔法都市マサドラでの呪文カード入手は、予想通り困難を極めた。
【ハメ組】のせいでカード化限度枚数が極端に減ったレアカードは、容易に入手できない。
「いっそ【
監視用に借りた宿の一室。
ミコがうんざりした様子でぼやく。
残念ながら、【
呪文カード全種コンプリートまであと2枚。その2枚が、まったく手に入らない。最初の一週間こそうっきうきだったミコの表情は、日を追うごとに淀んでいった。
「おかしい……やることが、やることが多いですわ……なのに全然進捗がありませんわ……せっかくユウさんといっしょ──いえこれは不謹慎ですわ……」
大量に購入した呪文カードは、必要に応じて他のチームへ。
その時みんな高価な換金アイテムをくれるので、実は負担はかなり減ってたりする。
それでもカードショップや交換ショップに行ったり、他チームと連絡やカードを渡しに行ったりと、やることが多いけど。
加えてミコはカードショップや周辺の探索をしてくれているのだから、負担も大きい。一人でなんとかなる作業は、なるべく俺が引き受けてる。
待機中は、ミコの部屋で流の修行。
ビノールトとの賞金首
カストロとの戦いでも粗が出ないほどには習熟しているが……まだ足りない。
「あの……ユウさん、時間が空いた時は、素直に休んでくださいまし」
「ありがとう。大丈夫。ミコを働かせておいて、俺だけ休んでるわけにはいかないし……正直楽しくてやってるとこある」
「え、楽しい、ですの?」
「うん。出来ないことが出来るようになるのって、楽しくない?」
「あ、はい、それはわかります! わたくしも、
ミコは興奮気味に語る。
そうだよな。
知らなかったことがわかるのは楽しい。
出来なかったことが出来るようになるのは楽しい。
そうやって、楽しいを積み上げて行って……その上から見える視界で、新たな発見がある。
この世界に来た時、恐ろしく感じた底抜けに蒼い空に、いまは不思議な魅力を感じているように。
『──他プレイヤーがあなたに対し、【
と、ふいにミコのバインダーが実体化してアナウンスが入る。
『ミコミコー!』
バインダー越しに聞こえてくる声は……青髪怪力童女のミオか。
めずらしい。いつも連絡してくるのは野球青年、エースのほうなのに。
「ミオちゃん? どうしたんですの?」
『たすけてー。エースが迷子ー』
どういう状況なのか。
とりあえずミオの相手はミコにまかせておいて、俺の方でエースに【
「もしもし、ユウだけど、エース、聞こえる?」
『もしもし! ユウか! 悪いがいま取り込み中なんだけどよ!』
バインダー越しに聞こえる声からは明確な焦り。
「なにかあったのか?」
『ミオが迷子なんだよ!』
……うん?
『あー。エースの声だー! エースどこどこ?』
『ミオか! 大人しく待ってろって言ってただろうが! いまどこだ!』
『昨日お泊りしたお家の前だよー』
『おまっ!? なんでそんなとこに!?』
『はぐれたら、先にお家に帰っとかないといけないんだよー。ママがそう言ってたもん』
『わかった。とにかくすぐ行く! 動くなよ! ──ユウ、悪いが【
「……よかったら【
『いやいい! こんなことでムダに呪文カード使わせるのはもったいねえ──っと居たーっ! サンキューユウッ! 助かった! ミオー!』
『あー! エースだー! ありがとーミコミコー!』
ミコのほうの【
俺のバインダーからはエースの説教とエースこそ迷子だと主張する童女の応酬が聞こえてくる。
……うん、切っとこう。
「なんというか、年の離れた兄妹みたいでしたわね」
「わかる。振り回され気味だけどいいお兄ちゃんって感じ……そういえば、ミコもちょっと懐かれてる?」
「ああ、わたくしのほうは、年が近──えーと、なぜか懐かれておりますの」
ああ、年が近いから懐かれてるのか。
ってことは、あの青髪童女、外見に近い実年齢なのかもしれない。
しかしなぜ言葉を濁したのか。
まあ、二十歳前のお姉さんの演技してて、実年齢はそれよりだいぶ下です、とは言いにくいのかもしれないけど。
「わっ、わたくしは見た目通りの……つかぬことを伺いますが、ユウさんはおいくつですの?」
「ん? 実年齢の方だと17……っと、こっち来て18になってるか」
「あ、思ったより年が離れてない──じゃなくて同い年! わたくしユウさんと同い年ですわ!」
うん、嘘だよね。俺より5、6歳は下だよね。
妹は子供の頃から大人びてたから参考にならないけど、12、3歳の頃の、妹の友達と話してる感じがする。
……そう言っといて本当に同い年だったらとんでもなく失礼だけど、すくなくともクラスにはこれだけ幼い感じの子はいない。
まあ、指摘するのも野暮だしやらないけど。
「そっか、じゃあミオにとってはミコも、年の離れたお姉さんって感じなのかな」
「……ですわね。わたくしもミオのことを、妹みたいに思ってますわ」
ミコが微笑む。
その時の表情は、不思議と大人びて見えた。
◆
そんなことがあって、数日後。
状況に進展はなく、見張りと連絡とカードの購入と供給。
窓から空を見ると、家に籠もっているのが嫌になるほどのいい天気。
「のどかですわねえ……」
「そうだね。こんな時にかぎって仲間のみんなからの連絡もないし……ミコ、カードショップの様子は?」
「ハメ組っぽい人が何人か、くらいですわね」
念獣の視界に意識を向けているのだろう。
虚空を見上げながら、ミコが答える。
「……それにしても、見かけないな、他のプレイヤー」
ここに来て2週間あまり。
とはいえ、すべてのプレイヤーが集まるマサドラで、いまのところプレイヤーらしき人間は、一人も見当たらない。あるいは上手く紛れ込んでいるだけなのか。
「本当ですわね。グリードアイランド内に居るプレイヤーが、わたくしたちだけ、というわけでもないでしょうけれど……」
「うん、俺たちは、仲間集めや修行なんかで、グリードアイランドをプレイするまでにかなり寄り道してる。だから、逆に姿を見かけないほうが不自然なんだよな」
この世界に来たのが300人。
逢魔ヶ災を始めとしたゲームマスターを足しても、それほど増えはしないだろう。
その中で、帰還志望プレイヤーが半分、そのうち半分が実力で、さらに半分がグリードアイランドの入手で振り落とされたとしても、30人以上。
まあこれは乱暴な計算だし、ゴンたちがクリアしてからのプレイ開始を狙ってるプレイヤーも、もちろん居るだろう。
それにしても、もう2、3組は居てもよさそうなものだけど。
「じゃあ、たまたまショップに寄っていないだけなのでしょうか」
「それか、入れ違いのタイミングでグリードアイランドから出ているか、かな。俺もこっちと外を行ったり来たりしてたし……どうしたの、ミコ」
会話の途中で、急にミコの視線が宙を泳ぎだしたので、尋ねる。
「……いえ、おそらくプレイヤー、ですけれども……ダメですわ。あれに関わっちゃダメです」
ぶんぶんと首を振るミコ。
いったいなにを見たのだろうか。
「ミコが嫌がるならあえて触れようとは思わないけど……いったいどんな奴なんだ?」
「……一言では説明できませんわ……ユウさん。気になるなら、一度生で見てみてください……いえ、ユウさんにあんなものをお見せするのはどうかと思いますけど」
ミコがそんなことを言うものだから、怖いもの見たさも手伝って、様子を見にいくことにした。
ひと目見てわかるヤバイやつとは、いったいどんな奴なのか。慎重に距離を測り、カードショップが見える位置まで詰める。
「──ぶっ!」
見た瞬間、吹いた。
三人組のプレイヤー。その中に、見覚えのある顔があったのだ。
「ああ、やっとここまで来れましたな」
1人目は、老執事っぽい人。
この人は、見覚えのないプレイヤーだ。
「ふっ、マトさん。満身創痍といったところだね」
2人目は、同胞狩りの時に会った、あの中二病の人だ。
2人とも、なぜか全身ぼろぼろだ。
「それは君もでしょう、セツナ君。運悪く怪物に囲まれたとはいえ、キョウスケ君が居なければ、マサドラにたどり着けもしなかった」
老執事──マトが視線を向けた先に居る、3人目。
たぶんミコが見て固まってたのは、こいつのせいだろう。
「ふ、気にするな。私も途中から役立たずになったしな」
そう応じた男は……なんというか、教育上非常によろしくない格好をしていた。
半裸というかほぼ全裸というか……水着姿のパピヨン並の露出面積。脳が記憶することを拒むレベルの見苦しさだ。
うん、ぶっちゃけてしまおう。
まごうことなき「変態仮面」がそこに居た。
「しかし、岩石地帯を抜けるのにもこの体たらくでは、先行き不安ですな。いえ、先行き不安なのは最初からですが」
「本当にね。いや、ボクは順調にグリードアイランド攻略に至る準備を積み重ねていたのだが……あの娘と出会ってから、歯車が狂ってしまったのだ」
「ほっほっほ。またセツナ君は適当なことを。ちなみにあの娘とはどなたですかな?」
「トモだよ。キミもプレイヤー専用掲示板を見てたなら知ってるだろ?」
「ああ、レジェンドには劣りますが、弩級のお方でしたな……ちなみに、美人でしたかな?」
「プレイヤーだってわかっててそれ聞く意味あるのかい? ちょっと若いけど黒髪猫目の美少女だったよ」
「ほほう。それは興味深い。写真とかありませんかな?」
「ないよ! 仮に撮ってたとしても、さすがにあんな酷い目に遭ったんだから消してるよ!」
うん。もう帰ろう。
こいつらと交流を持っても、おたがいにいいことない。というか居たたまれない。
「むう……しかし、パンツが破れてしまったのは痛いな」
「キョウスケ君の念能力は特殊ですからな。美少女のパンツ被ったら超人化する念能力……仲間に女性が居れば、合法的にセクハラ──もとい、戦力を維持できるのですがね」
「いまのままじゃ、新しい下着の補給がおぼつかないからね。たしか、15、6歳の、美少女の下着がいいのだったかな」
「うむ……まあ条件は、完全にわたしの好みだがな。それゆえ一番パワーアップするのだ」
その会話を聞いて、俺は静かに逃げ出した。
俺とこいつらは会わなかった。そういう事にしておこう。
◆
マサドラに来てから一ヶ月。
あまりにも進展がないまま、時間だけが過ぎる。
そんな俺たちの、最近のささやかな楽しみ。それは。
「さあ、恒例の、ガチャの時間だぁぁぁぁ!」
「いえぇぇぇい! ですわ!」
【
使うとアイテムカードに変身するこの呪文カードは、実質ガチャ。
何に変化するかは完全ランダムだが、レアカードが出ることもあるから、ちょっと楽しい。
なんだかんだで、指定ポケットカードも10種ほど入手してるし、そのうち2種は担当チームがまだ入手してないカードだったので、作戦に貢献も出来てる。
「今回入手した【
「はいですわ! では、行きますわよ! 【
「おお、【ガルガイダー】はいいな。高く売れるし食べても美味しかったはず」
「これは、プチ勝利ですわ!」
ミコはぐっとガッツポーズ。
これは幸先がいい。ワクワクしながら、俺も引く。
「【
変化したカードを見て、思わず叫ぶ。
現れたのは指定ナンバー001【一坪の密林】。入手難度SSのレアカードだった。
「ゆゆゆゆ、ユウさん」
「ああああ、やった、やったぞ」
ウソのような幸運に、ふたりして声を震わせる。
「と、とりあえず、【一坪の密林】担当のシュウたちに連絡しよう」
「え、ええ【
急いでシュウに連絡を取り、【一坪の密林】を手に入れたことを伝える。
ひとしきり喜びあってから、ふと、シュウが尋ねてくる。
『ユウ達はまだ呪文カードコンプしてないのか?』
「ええ、未だに2枚とも出ていない状態ですわ」
『……なら、考えがある。【一坪の密林】と【
言葉通り、アイテムを渡した5日後。
シュウは【
「すごいな。どうやって手に入れたんだ?」
「交換だよ。【一坪の密林】の【
そういえば……ツェズゲラが入手した【一坪の密林】は、誰かが【
図らずもその役目を俺たちが果たしてしまったのか。
というか、もうツェズゲラがグリードアイランドに入ってるのか。
カードショップは見張ってたけど、ミコが気づかないってことは、ツェズゲラ本人はショップに来てないっぽいけど……豪運か、交換で手に入れたか、いずれにせよさすがだ。
ともあれ、これで、俺たちは【大天使の息吹】を手に入れることに成功した。
探知されると怖いので、すぐさま【
◆ミオ=アカシ
・H×Hで好きなキャラクター三人
ゴン、レオリオ、クラピカ、キルア
・H×Hで好きな念能力三つ
ゴンのジャジャン拳、ウヴォーギンの【
・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ
No.009豊作の樹、No.063バーチャルレストラン、No.099メイドパンダ
・ユウからの第一印象
たぶん見た目通りの年齢かな?