グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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21 大天使の息吹

 魔法都市マサドラでの呪文カード入手は、予想通り困難を極めた。

【ハメ組】のせいでカード化限度枚数が極端に減ったレアカードは、容易に入手できない。

 

 

「いっそ【宝籤(ロトリー)】で出ませんかしら」

 

 

 監視用に借りた宿の一室。

 ミコがうんざりした様子でぼやく。

 残念ながら、【宝籤(ロトリー) 】から出て来るカードは、アイテムカードだけ、とはいえそう言いたくなる気持ちもわかる。

 呪文カード全種コンプリートまであと2枚。その2枚が、まったく手に入らない。最初の一週間こそうっきうきだったミコの表情は、日を追うごとに淀んでいった。

 

 

「おかしい……やることが、やることが多いですわ……なのに全然進捗がありませんわ……せっかくユウさんといっしょ──いえこれは不謹慎ですわ……」

 

 

 大量に購入した呪文カードは、必要に応じて他のチームへ。

 その時みんな高価な換金アイテムをくれるので、実は負担はかなり減ってたりする。

 それでもカードショップや交換ショップに行ったり、他チームと連絡やカードを渡しに行ったりと、やることが多いけど。

 加えてミコはカードショップや周辺の探索をしてくれているのだから、負担も大きい。一人でなんとかなる作業は、なるべく俺が引き受けてる。

 

 待機中は、ミコの部屋で流の修行。

 ビノールトとの賞金首狩り(ハント)の頃から、流々舞を重点的に行なってきた。

 カストロとの戦いでも粗が出ないほどには習熟しているが……まだ足りない。

 

 

「あの……ユウさん、時間が空いた時は、素直に休んでくださいまし」

 

「ありがとう。大丈夫。ミコを働かせておいて、俺だけ休んでるわけにはいかないし……正直楽しくてやってるとこある」

 

「え、楽しい、ですの?」

 

「うん。出来ないことが出来るようになるのって、楽しくない?」

 

「あ、はい、それはわかります! わたくしも、念獣(フレン)を初めて空に飛ばしたとき、感動しました! 普段どおりのなんてことない光景が、高いところから見るとぜんぜん違って!」

 

 

 ミコは興奮気味に語る。

 

 そうだよな。

 知らなかったことがわかるのは楽しい。

 出来なかったことが出来るようになるのは楽しい。

 そうやって、楽しいを積み上げて行って……その上から見える視界で、新たな発見がある。

 

 この世界に来た時、恐ろしく感じた底抜けに蒼い空に、いまは不思議な魅力を感じているように。

 

 

『──他プレイヤーがあなたに対し、【交信(コンタクト)】を使用しました』

 

 

 と、ふいにミコのバインダーが実体化してアナウンスが入る。

 

 

『ミコミコー!』

 

 

 バインダー越しに聞こえてくる声は……青髪怪力童女のミオか。

 めずらしい。いつも連絡してくるのは野球青年、エースのほうなのに。

 ゴム野郎(ダル)? あいつは呪文カードをイタズラに使うので持たされてません。

 

 

「ミオちゃん? どうしたんですの?」

 

『たすけてー。エースが迷子ー』

 

 

 どういう状況なのか。

 とりあえずミオの相手はミコにまかせておいて、俺の方でエースに【交信(コンタクト)】を使う。

 

 

「もしもし、ユウだけど、エース、聞こえる?」

 

『もしもし! ユウか! 悪いがいま取り込み中なんだけどよ!』

 

 

 バインダー越しに聞こえる声からは明確な焦り。

 

 

「なにかあったのか?」

 

『ミオが迷子なんだよ!』

 

 

 ……うん?

 

 

『あー。エースの声だー! エースどこどこ?』

 

『ミオか! 大人しく待ってろって言ってただろうが! いまどこだ!』

 

『昨日お泊りしたお家の前だよー』

 

『おまっ!? なんでそんなとこに!?』

 

『はぐれたら、先にお家に帰っとかないといけないんだよー。ママがそう言ってたもん』

 

『わかった。とにかくすぐ行く! 動くなよ! ──ユウ、悪いが【交信(コンタクト)】は切らさないでおいてくれ!』

 

「……よかったら【同行(アカンパニー)】でいっしょにミオのとこ飛ぼうか?」

 

『いやいい! こんなことでムダに呪文カード使わせるのはもったいねえ──っと居たーっ! サンキューユウッ! 助かった! ミオー!』

 

『あー! エースだー! ありがとーミコミコー!』

 

 

 ミコのほうの【交信(コンタクト)】が切れる。

 俺のバインダーからはエースの説教とエースこそ迷子だと主張する童女の応酬が聞こえてくる。

 

 ……うん、切っとこう。

 

 

「なんというか、年の離れた兄妹みたいでしたわね」

 

「わかる。振り回され気味だけどいいお兄ちゃんって感じ……そういえば、ミコもちょっと懐かれてる?」

 

「ああ、わたくしのほうは、年が近──えーと、なぜか懐かれておりますの」

 

 

 ああ、年が近いから懐かれてるのか。

 ってことは、あの青髪童女、外見に近い実年齢なのかもしれない。

 

 しかしなぜ言葉を濁したのか。

 まあ、二十歳前のお姉さんの演技してて、実年齢はそれよりだいぶ下です、とは言いにくいのかもしれないけど。

 

 

「わっ、わたくしは見た目通りの……つかぬことを伺いますが、ユウさんはおいくつですの?」

 

「ん? 実年齢の方だと17……っと、こっち来て18になってるか」

 

「あ、思ったより年が離れてない──じゃなくて同い年! わたくしユウさんと同い年ですわ!」

 

 

 うん、嘘だよね。俺より5、6歳は下だよね。

 妹は子供の頃から大人びてたから参考にならないけど、12、3歳の頃の、妹の友達と話してる感じがする。

 ……そう言っといて本当に同い年だったらとんでもなく失礼だけど、すくなくともクラスにはこれだけ幼い感じの子はいない。

 

 まあ、指摘するのも野暮だしやらないけど。

 

 

「そっか、じゃあミオにとってはミコも、年の離れたお姉さんって感じなのかな」

 

「……ですわね。わたくしもミオのことを、妹みたいに思ってますわ」

 

 

 ミコが微笑む。

 その時の表情は、不思議と大人びて見えた。

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあって、数日後。

 状況に進展はなく、見張りと連絡とカードの購入と供給。

 窓から空を見ると、家に籠もっているのが嫌になるほどのいい天気。

 

 

「のどかですわねえ……」

 

「そうだね。こんな時にかぎって仲間のみんなからの連絡もないし……ミコ、カードショップの様子は?」

 

「ハメ組っぽい人が何人か、くらいですわね」

 

 

 念獣の視界に意識を向けているのだろう。

 虚空を見上げながら、ミコが答える。

 

 

「……それにしても、見かけないな、他のプレイヤー」

 

 

 ここに来て2週間あまり。

 とはいえ、すべてのプレイヤーが集まるマサドラで、いまのところプレイヤーらしき人間は、一人も見当たらない。あるいは上手く紛れ込んでいるだけなのか。

 

 

「本当ですわね。グリードアイランド内に居るプレイヤーが、わたくしたちだけ、というわけでもないでしょうけれど……」

 

「うん、俺たちは、仲間集めや修行なんかで、グリードアイランドをプレイするまでにかなり寄り道してる。だから、逆に姿を見かけないほうが不自然なんだよな」

 

 

 この世界に来たのが300人。

 逢魔ヶ災を始めとしたゲームマスターを足しても、それほど増えはしないだろう。

 その中で、帰還志望プレイヤーが半分、そのうち半分が実力で、さらに半分がグリードアイランドの入手で振り落とされたとしても、30人以上。

 

 まあこれは乱暴な計算だし、ゴンたちがクリアしてからのプレイ開始を狙ってるプレイヤーも、もちろん居るだろう。

 それにしても、もう2、3組は居てもよさそうなものだけど。

 

 

「じゃあ、たまたまショップに寄っていないだけなのでしょうか」

 

「それか、入れ違いのタイミングでグリードアイランドから出ているか、かな。俺もこっちと外を行ったり来たりしてたし……どうしたの、ミコ」

 

 

 会話の途中で、急にミコの視線が宙を泳ぎだしたので、尋ねる。

 

 

「……いえ、おそらくプレイヤー、ですけれども……ダメですわ。あれに関わっちゃダメです」

 

 

 ぶんぶんと首を振るミコ。

 いったいなにを見たのだろうか。

 

 

「ミコが嫌がるならあえて触れようとは思わないけど……いったいどんな奴なんだ?」

 

「……一言では説明できませんわ……ユウさん。気になるなら、一度生で見てみてください……いえ、ユウさんにあんなものをお見せするのはどうかと思いますけど」

 

 

 ミコがそんなことを言うものだから、怖いもの見たさも手伝って、様子を見にいくことにした。

 ひと目見てわかるヤバイやつとは、いったいどんな奴なのか。慎重に距離を測り、カードショップが見える位置まで詰める。

 

 

「──ぶっ!」

 

 

 見た瞬間、吹いた。

 三人組のプレイヤー。その中に、見覚えのある顔があったのだ。

 

 

「ああ、やっとここまで来れましたな」

 

 

 1人目は、老執事っぽい人。

 この人は、見覚えのないプレイヤーだ。

 

 

「ふっ、マトさん。満身創痍といったところだね」

 

 

 2人目は、同胞狩りの時に会った、あの中二病の人だ。

 2人とも、なぜか全身ぼろぼろだ。

 

 

「それは君もでしょう、セツナ君。運悪く怪物に囲まれたとはいえ、キョウスケ君が居なければ、マサドラにたどり着けもしなかった」

 

 

 老執事──マトが視線を向けた先に居る、3人目。

 たぶんミコが見て固まってたのは、こいつのせいだろう。

 

 

「ふ、気にするな。私も途中から役立たずになったしな」

 

 

 そう応じた男は……なんというか、教育上非常によろしくない格好をしていた。

 半裸というかほぼ全裸というか……水着姿のパピヨン並の露出面積。脳が記憶することを拒むレベルの見苦しさだ。

 

 うん、ぶっちゃけてしまおう。

 まごうことなき「変態仮面」がそこに居た。

 

 

「しかし、岩石地帯を抜けるのにもこの体たらくでは、先行き不安ですな。いえ、先行き不安なのは最初からですが」

 

「本当にね。いや、ボクは順調にグリードアイランド攻略に至る準備を積み重ねていたのだが……あの娘と出会ってから、歯車が狂ってしまったのだ」

 

「ほっほっほ。またセツナ君は適当なことを。ちなみにあの娘とはどなたですかな?」

 

「トモだよ。キミもプレイヤー専用掲示板を見てたなら知ってるだろ?」

 

「ああ、レジェンドには劣りますが、弩級のお方でしたな……ちなみに、美人でしたかな?」

 

「プレイヤーだってわかっててそれ聞く意味あるのかい? ちょっと若いけど黒髪猫目の美少女だったよ」

 

「ほほう。それは興味深い。写真とかありませんかな?」

 

「ないよ! 仮に撮ってたとしても、さすがにあんな酷い目に遭ったんだから消してるよ!」

 

 

 うん。もう帰ろう。

 こいつらと交流を持っても、おたがいにいいことない。というか居たたまれない。

 

 

「むう……しかし、パンツが破れてしまったのは痛いな」

 

「キョウスケ君の念能力は特殊ですからな。美少女のパンツ被ったら超人化する念能力……仲間に女性が居れば、合法的にセクハラ──もとい、戦力を維持できるのですがね」

 

「いまのままじゃ、新しい下着の補給がおぼつかないからね。たしか、15、6歳の、美少女の下着がいいのだったかな」

 

「うむ……まあ条件は、完全にわたしの好みだがな。それゆえ一番パワーアップするのだ」

 

 

 その会話を聞いて、俺は静かに逃げ出した。

 俺とこいつらは会わなかった。そういう事にしておこう。

 

 

 

 

 

 

 マサドラに来てから一ヶ月。

 あまりにも進展がないまま、時間だけが過ぎる。

 そんな俺たちの、最近のささやかな楽しみ。それは。

 

 

「さあ、恒例の、ガチャの時間だぁぁぁぁ!」

 

「いえぇぇぇい! ですわ!」

 

 

宝籤(ロトリー)】である。

 使うとアイテムカードに変身するこの呪文カードは、実質ガチャ。

 何に変化するかは完全ランダムだが、レアカードが出ることもあるから、ちょっと楽しい。

 なんだかんだで、指定ポケットカードも10種ほど入手してるし、そのうち2種は担当チームがまだ入手してないカードだったので、作戦に貢献も出来てる。

 

 

「今回入手した【宝籤(ロトリー) 】は3枚! 前回は俺が多めに引いたから、今回はミコが2回です!」

 

「はいですわ! では、行きますわよ! 【宝籤(ロトリー) 】、使用(オン)! ……【ガルガイダー】と【釣り竿】ですわ!」

 

「おお、【ガルガイダー】はいいな。高く売れるし食べても美味しかったはず」

 

「これは、プチ勝利ですわ!」

 

 

 ミコはぐっとガッツポーズ。

 これは幸先がいい。ワクワクしながら、俺も引く。

 

 

「【宝籤(ロトリー) 】、使用(オン)! ……お? おおおおおっ!?」

 

 

 変化したカードを見て、思わず叫ぶ。

 現れたのは指定ナンバー001【一坪の密林】。入手難度SSのレアカードだった。

 

 

「ゆゆゆゆ、ユウさん」

 

「ああああ、やった、やったぞ」

 

 

 ウソのような幸運に、ふたりして声を震わせる。

 

 

「と、とりあえず、【一坪の密林】担当のシュウたちに連絡しよう」

 

「え、ええ【交信(コンタクト)使用(オン)、シュウ」

 

 

 急いでシュウに連絡を取り、【一坪の密林】を手に入れたことを伝える。

 ひとしきり喜びあってから、ふと、シュウが尋ねてくる。

 

 

『ユウ達はまだ呪文カードコンプしてないのか?』

 

「ええ、未だに2枚とも出ていない状態ですわ」

 

『……なら、考えがある。【一坪の密林】と【複製(クローン)】、あと探知系の呪文カードを持ってきてくれ』

 

 

 言葉通り、アイテムを渡した5日後。

 シュウは【堅牢(プリズン) 】、【聖水(ホーリーウォーター)】を持って現れた。

 

 

「すごいな。どうやって手に入れたんだ?」

 

「交換だよ。【一坪の密林】の【複製(クローン)】と交換したんだ……ツェズゲラとだけど」

 

 

 そういえば……ツェズゲラが入手した【一坪の密林】は、誰かが【宝籤(ロトリー)】で当てたやつだとか言っていた気がする。

 

 図らずもその役目を俺たちが果たしてしまったのか。

 というか、もうツェズゲラがグリードアイランドに入ってるのか。

 カードショップは見張ってたけど、ミコが気づかないってことは、ツェズゲラ本人はショップに来てないっぽいけど……豪運か、交換で手に入れたか、いずれにせよさすがだ。

 

 ともあれ、これで、俺たちは【大天使の息吹】を手に入れることに成功した。

 探知されると怖いので、すぐさま【擬態(トランスフォーム)】で別のカードに変えたけど。

 

 

 

 

 




◆ミオ=アカシ

・H×Hで好きなキャラクター三人

 ゴン、レオリオ、クラピカ、キルア

・H×Hで好きな念能力三つ

 ゴンのジャジャン拳、ウヴォーギンの【超破壊拳(ビッグインパクト)】、フィンクスの【廻天(リッパー・サイクロトロン)

・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ

 No.009豊作の樹、No.063バーチャルレストラン、No.099メイドパンダ

・ユウからの第一印象

 たぶん見た目通りの年齢かな?

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