グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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22 レイザーと14人の悪魔

“大天使の息吹”を手に入れてから、一週間。

 キャプテン・ブラボーから【交信(コンタクト)】で報せが入った。

 

 内容は、オペレーション・ハーヴェストの達成。

 作戦開始から43日目の出来事だった。

 

 そして3日後。

 俺たちは、再びマサドラ西にある森の中に集まった。

 

 

「ブラボーだ! 我らが同士たちよ! キミたちのブラボーな活躍のおかげで、恐るべき短期の内に98枚のカードが揃った! 残すはひとつ、【一坪の海岸線】のみ!」

 

 

 ブラボーが力強く語る。

 その言葉に、あらためて、ゲームクリアが近いことを実感する。

 

 

「──だが諸君、油断はするな。同志諸君がいかにブラボーな戦士といえども、相手はあのレイザーだ!」

 

 

 緩みがちな気持ちを、ブラボーが引き締めた。

 

 そう、気を緩めるわけにはいかない。

 レイザーとの勝負は、間違いなく最高難度のミッションだ。

 

 

「では行くぞ! 【同行(アカンパニー)使用(オン)! ソウフラビへ!」

 

 

 シュウが連れてきた、人数合わせ2名を加えて、呪文で浜辺の街ソウフラビへ。

 そこから手分けして街中を探索し、「レイザーと14人の悪魔」の情報を収集する。

 

 情報収集を終えた後、全員集合して、海賊の巣食う酒場を訪ねる。

 淀んだ空気の中に、ガラの悪い男たちがたむろしていた。

 その中に、足を踏み入れて。

 

 

「──なんだ? テメェら。今日はオレ達の貸切だ。帰んな」

 

 

 そう言って、こちらをにらみつけたのは、ひどく肥満した大男。

 ボポボだったか。脱走を扇動しようとして、レイザーに殺された死刑囚だ。

 

 ブラボーがみなを制し、一歩前に出て、告げる。

 

 

「この町を出ていきたまえ」

 

 

 一拍置いて、酒場に爆笑が巻き起こった。

 

 うん。ものすごく既視感のある光景だ。

 ブラボーの後ろから、やり取りをながめていると、太った男が酒を撒き散らし、炎の土俵を作る。

 

 

「オレをこの“土俵”から外に出せたら、船長(ボス)に会わせてやるぜ?」

 

「ブラボー! あたしがやるよ!」

 

 

 と青髪の童女、ミオが手を挙げた。

 

 エースに目を向ける。

 止める様子がないってことは、大丈夫だろう。

 頭につけた大きなリボンをぴょこぴょこ揺らしながら、ミオは炎の土俵に入っていく。

 

 

「なんだ? チンチクリンのガキか──泣いても知らねぇぞ?」

 

 

 大笑いするボポボ。

 だが、その笑いは10秒と続かなかった。

 

 

「──―ねえ、それで全力なの?」

 

「ぬおおおっ!!」

 

 

 ボポボは顔を真赤にして押し出そうとするが、ミオは平気な顔して突っ立っている。

 なんか力学とかいろんな物理法則とかを完全に無視した絵面だが、オーラはきっちり足に配分されている。これは純粋にミオの技量だろう。

 

 

「よいしょっと」

 

 

 ミオは男を軽々と持ち上げ、ゆっくりと炎の外に放り出した。

 

 

「んな、バカな……」

 

 

 呆然とするボポボ。

 それを見て、海賊たちのリーダー格らしい男が、立ち上がった。

 

 

「ついて来な。ボスに会わせてやる」

 

 

 みな無言のまま海賊について行く。

 誰も口を開かないのは、緊張のためだろう。

 酒場の裏手には灯台があり、その中に設けられた巨大なトレーニングジムが、目的の場所。

 

 そこに、その男は居た。

 髪を逆立てた、笑顔の巨漢だった。

 でかい。プロレスラーと見紛うサイズ感。

 体にフィットした服の下には、筋肉がはちきれんばかりに詰まっている。

 

 14人の悪魔の主──ゲームマスター、レイザー。

 

 1年半ぶりの再会だ。

 以前の俺は、哀れな被捕食者に過ぎなかった。

 いまなおレイザーとの間には、明確な実力の壁が横たわっている。

 

 

 ──だが、戦う。

 

 

 視線を、まっすぐに返す。

 この一年半、つねに見つめ続けてきた目標。

 日本に帰る。そのためにグリードアイランドをクリアする。

 レイザーは、その最大の障害。戦う覚悟は、一年半も前に定めている。

 

 俺の視線を感じてか、レイザーはこちらに視線を向け──口の端を吊り上げた。

 

 

 

 

 

 

 レイザーの提案で始まった勝負は、スポーツ形式。

 先に8勝したほうが勝ち。そんな条件のもと、試合は始まった。

 

 一番手の海賊が決めた勝負形式は、ボクシング。

 こちらから出るのは、当然元ボクシング世界チャンプのマッシュだ。

 

 

「マッシュ、油断するなよ」

 

「もちろんだ」

 

 

 マッシュは余裕の笑みをたたえ、リングに上がった。

 相手の男も小さくはないが、マッシュはさらに頭ひとつ大きい。

 天然の体重無制限(ナチュラルへヴィ)の肉体に、相手もやや気圧されているようだ。

 

 マッシュが軽くステップを踏むと、海賊の顔色が変わった。

 

 

「てめえ……相当やってやがんな」

 

「ボクシング齧っててオレを知らないなんて傷つくぜ……まあ、17の年にプロデビューして、そこから負けたのは練習試合の1戦だけ、って程度には、やってやがるぜ?」

 

 

 マッシュは軽口を返す。

 まあ、グリードアイランドは外界から隔絶している。

 マッシュの存在を知らないのは、むしろ当然だろう。

 

 それにしても、練習試合とはいえマッシュを負かしたボクサーが居るとは……世界は広いと言うべきか。

 ひょっとして、マッシュが強さを求める理由が、その相手なのかもしれない。

 

 

「──ファイト!」

 

 

 開始の合図とともに、マッシュが前に出る。

 鋭いステップインとともに、砲弾めいた右ジャブ。

 相手はガードしたはずだが、パンチの威力に体が10センチほどズレた。

 俺も天空闘技場で戦った時に体感したけど、ジャブの威力じゃないだろう、あれ。

 

 堅実に、重いジャブで敵をコーナーに追い詰めるマッシュ。

 プロの頂点までキャリアを積んだだけあって、ボクシングがむちゃくちゃ上手い。

 リングの使い方、プレッシャーのかけ方、あらゆる面で相手を凌駕している。その上身体能力やオーラの運用でも上回っている。

 

 

「くっ!」

 

 

 敵がとっさにパンチを飛ばす。

 マッシュの拳を喰らいながらの、相打ち覚悟。

 だが、マッシュはこれを避けた。代償にパンチが中途半端になってしまったが、上出来だ。次は対応できる。

 

 

「パンチを飛ばす……放出系念能力だな。なるほど──面白い!」

 

 

 マッシュは笑い、前に出る。

 

 相手も、一度見せた以上隠す必要はないと判断したのだろう。

 退がりながらショートアッパーを飛ばす。

 

 だが、マッシュの前に出る速度はなお早い。

 地を蹴る足にオーラを集めて瞬時に距離を潰す。

 

 

「オレも見せてやるぜ! 念能力ってやつを!」

 

 

 ──【魔法仕掛けの足(グレイトフット)】!

 

 

 吠えながら、マッシュは、虚空を蹴った。

 飛んだわけじゃない。むしろ逆。軸足はそのままに、蹴り足は、地面から、ほんの20cm上。

 そこから放たれた、打ち下ろしの左ストレートは、未知の角度から敵の顔面に突き刺さった。

 

 ひとたまりもない。相手は意識を手放し、地面に倒れ伏した。

 

 

「よっし!」

 

 

 マッシュがガッツポーズを決める。

 

 強い。強くなった。

 本当に、頼もしい仲間になってくれた。

 マッシュの成長を見せられて、不覚にも、胸に熱いものがこみ上げてきた。

 

 続いての勝負はリフティング。

 こちらから出たのは、ミコだった。

 

 おたがいボールを持って、合図と共にリフティングを開始する。

 だが、ミコのボールは【変幻自在の召使い(サヴァンサーバント)】が変化したもの。地面にボールが落ちるわけがない。

 

 早々に相手のボールを叩き落として、勝利をもぎ取った。

 

 

「やったわね、ミコ」

 

「……辛勝でしたわ」

 

 

 カミトの祝福に、ミコはなぜかおしりを押さえて応える。

 そういえば、念獣と感覚を共有してるって言ってたっけ。

 それを蹴り続けていたら、そりゃあ辛いだろう。わりと自爆覚悟でむちゃするよねこの子。

 

 そして、次の勝負はバレーボール。

 こちらから出るのは、軟体人間のダルと、波紋の戦士D。

 

 

「ゴムゴムの──巨人の(ギガント)アターック!」 「喰らえ、バレーボールによる波紋カッター!」

 

 

 ノリノリな二人は能力をフル活用して勝利を収めた。

 1人1勝だから、2勝分の勝利だ。

 

 続いての勝負、バスケットボールと卓球では、人数あわせを投入した。

 彼らをドッジボールに参加させるわけにはいかないので、どこかで使っておく必要がある。

 

 

「危険を感じたら即座にギブアップしてくれ」

 

 

 試合前にブラボーが言ったのが、よかったのか悪かったのか。

 彼らは実にあっさりと負けてしまった。

 

 これで4勝2敗。

 だが、充分な実力だと見切ったのだろう。

 レイザーが8対8のドッジボール勝負を挑んできた。

 

 残っているのは9人。

 俺、シュウ、レットさん、ビノールト、ブラボー、カミト、ヒョウ、ミオ、エース。1人余ってしまう。

 

 

「じゃあ、残念っスけど俺が引っ込んで……」

 

「ふっざけんなよレット! 1人外すならミオに決まってるだろ!」

 

「あー! エース! ズルい! あたしもドッジやりたいー!」

 

 

 腰抜け(レット)童女(ミオ)、2人候補が挙がったが、ミオ本人はやる気満々だ。

 

 

「うん。とりあえずレットさんは参加確定ね。つーか子供と競うな」

 

「あっ、ユウさん、違うっス! ミオさんのこと失念してただけで、わかってたらさすがにそんなかっこ悪い真似しなかったっス!」

 

 

 はいはい。まあ土壇場の勇気に関しては疑ってないから。

 ……普段は隙あらばヘタれるけど。ビノールト同様“燃”は欠かしてないはずなんだけどなあ。

 

 

「ミオ! 大人しく言うこと聞きなさい! 兄ちゃんミオをそんなふうに育てた覚えはありませんよ!」

 

「エースに育てられた覚えなんてないもん! やだー! あたしもドッジー!」

 

「あぶないんだからメッ!」

 

 

 一方こっちは決着がつきそうにない。

 正直彼女レベルの強化能力者と比べれば、エースのほうがまだ危険なんだけど……まあ、万一がある以上避けたいのは保護者としての人情か。

 

 

「それでは同士・ミオ、こうしようじゃないか! オレとジャンケンで勝負だ! 負けたほうがボウリングに回る!」

 

 

 結局、ブラボーがそう提案して、ミオを納得させた。

 もちろん、心眼・ブラボーアイを持つブラボーにジャンケンで勝てるはずがない。

 

 ミオは大人しく、急遽行われることになったボーリング勝負に出ることに納得した。

 結果は、ミオのパーフェクト勝ち。でもボーリング玉をライナーで投げるのはどうかと思います。

 

 そしてあらためて、8対8のドッジボール対決が始まる。

 

 

「──レイザー、ちょっと確認したいんだけれど、いいかしら」

 

「ん?」

 

 

 開始の前に、カミトがレイザーに声をかける。

 

 

「わたしの鎖、念で実体化したものじゃないんだけど、持ち込んでもいいかしら?」

 

「かまわないさ、そのほうが楽しめそうだしな。ただし、(それ)での攻撃は反則だぜ。それに、鎖も体の一部として判定することになる」

 

「いや、充分よ」

 

 

 カミトは腕を組んで不敵に笑った。

 

 正直無理めかと思ったけど、通ったのならありがたい。

鉄鎖の結界(サークルチェーン)】が使えるなら、カミトの防御力は格段に上がる。

 

 

「ブラボー、外野は俺が行く。【永久なる誓い(イモータルハート)】があっても、相手の投げたボールを受ける技量がないんじゃ壁にしかならないからね」

 

「わかった。同士・ヒョウ、任せる」

 

 

 外野にヒョウが入ることになり、残りは内野へ。

 

 

「スローインと共に試合開始です! レディ─―ゴー!!」

 

 

 審判役の念獣、0番がボールを高く投げ上げる。

 スローインのボールは最初から譲るつもりだったのか、レイザーと念獣はジャンプすらせずに、退がっていく。

 

 

「球技となれば俺の出番だ。任せろ!」

 

 

 ボールをキャッチしたエースが、大きく振りかぶる。

 

 

「──おりゃあっ!!」

 

 

 ボールに込められた強力な念は、さすが操作系。

 強烈な剛球が、4番をコートの外へ吹っ飛ばす。

 

 

「ほう、なかなかの能力者だな」

 

 

 レイザーは余裕の表情。

 外野のヒョウから返されたボールを、再びエースが受け取り、5番を吹っ飛ばす。

 

 

「─―準備OKだな」

 

 

 レイザーの言葉の意味は、わかる。

 外野に3人揃えることこそレイザーの目論見。

 

 

「だが、あんたの出番は永遠に来ないぜ!」

 

 

 エースの投げた球は、7番を吹っ飛ばす。

 だが、7番は吹っ飛びざまにボールをコート内に投げ返し、レイザーがそれを捕球した。

 これは、セーフだ。

 

 

「さて、厄介な奴が居るようだな」

 

 

 言って、レイザーは念を凝らし、投球。

 狙いは──―エース。

 

 

「当たるかよ!」

 

 

 エースは球筋を見切ってギリギリで躱す。

 だが、その影にいたカミトに、ボールが襲いかかる。

 

 直撃する。

 そう見えたセツナ、金属が擦れる音。

 直後、ボールはカミトの鎖に絡め取られている。

 

 

 ──【鉄鎖の結界(サークルチェーン)】。

 

 

 カミトを自動的に守る、鉄壁の防御鎖陣だ。

 

 

「──―ほう? やるな」

 

 

 レイザーは、眼を細めたまま口の端を吊り上げる。

 

 

「お返しだ!」

 

 

 カミトからボールを受け取り、再びエースが全力投球。

 外野に向かうと思われた球は、直角どころかブーメランのように戻ってきて、2番を吹っ飛ばした。

 

 

「どうだ! 変化球の変化を増幅させる【魔球X(ミラクルボール)】の味は!」

 

 

 ガッツポーズを取るエース。

 コートの外からミオが声援を送り、エースもそれに応える。

 

 

「ふむ。どうやら実力も申し分ない様だし……本気でやるか」

 

 

 宣言とともに発せられたオーラに、場の空気が凍りついた。

 レイザーのオーラは、俺たちの中で最大のオーラ量を誇るシュウと比べても数段上。

 

 

「上手く当たってくれよ──当たり所が悪ければ死ぬからな」

 

 

 そう言って投げられたボールは、恐ろしい速度でエースに襲いかかる。

 

 

 ──ヤバイ! 顔面直撃コース!

 

 

 だが、間一髪。エースの体が真横に吹っ飛ぶ。

 ビノールトの蹴りだ。ボールはエースの野球帽を撥ね飛ばし、コートの外に出た。

 

 エースは、起き上がらない。

 頭をかすめただけだというのに、脳震盪を起こしている。

 エースをかろうじて助けたビノールトも、ボールのあまりの威力に、荒い息を吐いている。

 

 

「エース!」

 

「ミオ! 看護を頼む!」

 

 

 気絶したエースを青髪童女に預け、ゲームは再開。

 外野からレイザーに戻されたボールは、ふたたび外野に……ただしレイザーの全力投球で。

 

 外野から外野へ。そこから内野を経由してまた外野へ。

 高速のパス回しは、目では追うのが精一杯。視界と、オーラ感知を併用して、動きを捉える。

 

 直後、3番が飛んだ。

 6番に投げられた3番は、敵コート上空でボールを受け、こちらに投げつけて来る。

 横の動きに眼を慣らされて、縦。まともじゃ捉えられない動き。ボールはブラボーに襲いかかり。

 

 

「直撃! ブラボー拳!!」

 

 

 ブラボーの拳が、ボールを3番に弾き返す。

 空中で身動きがとれないところに、強烈な一撃。

 直撃を受けた3番は為すすべもなくふっ飛ばされる。

 さすがブラボー。初見でその超反射はわりと意味不明だ。

 

 

「さすがブラボーさんですわ!」

 

 

 コート外で応援してるミコが声援を送る。

 うん。さっきのは本当に喝采を送りたいファインプレイ。

 

 ボールは依然こちら。

 残す敵は3人。6番、7番、そしてレイザー。

 こちらは6人。俺とシュウ、レットさん、ビノールト、ブラボー、カミト。

 

 

「行くぞっ! 激投! ブラボーシュート!」

 

 

 ブラボーが投げたボールは6番へ。

 だが6番はボールをキャッチせず、味方に向けて弾き、レイザーがボールを受け止めた。

 

 

「やるな。燃えてくる──ぜっ!」

 

 

 レイザーの全力投球。

 向かう先は。

 

 

「レットさん、避けろ!」

 

 

 視線から狙いを読み取って、叫ぶ。

 言葉に反して、ボールはブラボーに向かい──急カーブでレットさんへ。

 レットさんは反応しきれない。

 

 

「おおっ! 届けっ! ブラボー脚!」

 

 

 とっさに、ブラボーが足を突き出してボールを弾く。

 が、回転のかかったボールは、運悪くレットさんに。

 

 

「ってこっちに──―」

 

 

 直撃。

 レットさんはもんどりうって倒れた。

 なんと言うか、つくづく幸薄い人だ。

 まあ、ブラボーが身を挺して庇ってなかったら、間違いなく重傷だったけど。

 

 

「回転を読みきれないとは、不覚!」

 

 

 ブラボーは拳を強く握り、悔しがる。

 足に直撃を受けたはずなのに、平気そうなのは、防護服(シルバースキン)のおかげだろう。

 顔面直撃とはいえ、クッションボールを受けたレットさんですら気絶しているのだから、大した防御力だ。

 

 だが、これで残ったのはシュウと俺、ビノールト、カミトの4人となった。

 

 仕方ない。この場では使いたくなかったが。

 俺はボールを要求し、貰ったボールにオーラを込める。

 四面を敵に囲まれているこの状態では、【背後の悪魔(ハイドインハイド)】が使えない。

 

 だが。

 

 

「おおっ!」

 

 

 全力投球。狙うは6番。

 ボールは狙い違わず6番を直撃。

 はね飛んだボールを7番がキャッチしようとするが──遅い。マーキングはすでに終わっている。

 

 

 ──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 

 

 6番の背後に瞬間移動してボールをキャッチ。

 オーラを込めて、7番の足に投げる。死角を縫って飛んだボールは、7番の足に当たって──地面につく直前、レイザーが滑り込みで拾い上げた。

 

 

「ふむ。瞬間移動の念能力とは珍しいな」

 

 

 ボールを手に、立ち上がったレイザーは、どこか楽しそうにこちらに近づいてきて。

 

 

 ──そういえば、こいつ外野にも攻撃していた!

 

 

 とっさに念弾を外野のヒョウにぶち当て──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】!

 

 

 次の瞬間、轟音が地面を揺らした。

 レイザーが、ボールを地面に叩きつけたのだ。

 俺がつい先ほどまで居た、その場所に。

 

 ボールは天井でバウンドし、再び地上に落ちてくる。

 それを、一本の鎖がもぎ取った。【追尾する鉄鎖(スクエアチェーン)】。カミトのもう一本の鎖だ。

 

 こちらのボールになったところで、安心して内野に戻る。

 が、内野では、ブチ切れ気味のシュウが待っていた。

 

 

「……ユウ、ちょっと頼めるか」

 

 

 カミトからボールを受け取って、シュウが、こちらを向く。

 その眼は、強烈な怒りをたたえている。

 

 

「……ひょっとして、ジャンケングー?」

 

「ビノールトから聞いた。出来るんだろ? オーラの高速移動」

 

 

 やっぱり、すでに聞いてたのか。

 レイザーとのドッジボール対決で、どう戦うか、ずっと考えてきた。

 シュウの【正義の拳(ジャスティスフィスト)】を使えば、ゴンがやったような超威力の攻撃が可能となる。

 だったら、攻防力の高速移動ができれば。そう思い、いままで練習を続けてきた。シュウと実際試す機会がなかったから、ぶっつけ本番になってしまったけど。

 

 

「出来る。やろう……ふたりでレイザーをぶっ倒してやろう」

 

 

 レイザーを倒す。

 恐るべき敵を、14人の悪魔の主を、俺とシュウで。

 思いを、言葉に乗せて──視線を、レイザーに向けた。

 

 

「来い」

 

 

 笑顔のまま、レイザーが口の端を吊り上げる。

 

 シュウから受け取ったボールを、両の手でしっかり支える。

 角度良し。シュウが、拳を腰溜めに構える。膨大なオーラが、シュウを覆う。

 

 これ、ほんとに防御できるんだろうか。

 脳裏をよぎった弱気な思考を振り払う。

 

 

 ──レイザーを倒す。それを為せるなら、両手が砕かれても本望だ。

 

 

「まってくれ! それをするなら、僕にバックを使わせてくれないか!」

 

 

 と、中性的な容姿の青年──ヒョウが声を上げた。

 そうか、ヒョウの能力なら、無傷で砲台役になれる。

 でも、俺だって役目を譲るつもりはない。たとえ手が砕けても、レイザーを倒す役目は、俺とシュウが担いたい。

 

 その想いは、たぶんシュウも同じ。

 

 

「いや。悪いけど、ボールの持ち手は、ユウ以外に頼むつもりは──」

 

「だからだよ! その威力じゃたとえ攻防力を集めて守っても、負傷は避けられない! 僕の能力なら、ユウの身を守れる!」

 

 

 なるほど。

 ヒョウは説明した。【永久なる誓い(イモータルハート)】は、対象の状態をそのまま保持する念能力だと。

 

 なら、俺を守ることも出来る。

 否やはない。ヒョウを内野に戻し、ふたたび両手でボールを支える。

 肩には、ヒョウの手。そこからオーラが染み込んでくる。干渉されている、というよりは、守られている感覚。

 

 

「いくぞ。ユウ」

 

「ああ、来い」

 

 

 心を落ち着かせ、構える。

 シュウは、腰だめに拳を構え……動かない。

 静かに、ただ静かに、拳を引いて──突き出した。

 

 

「【正義の拳(ジャスティスフィスト)】ぉっ!!」

 

 

 インパクトの瞬間、高速でオーラを拳に集める。

 それでも、腕ごと引っこ抜かれそうな、とんでもない衝撃。

 だが、【永久なる誓い(イモータルハート)】に守られ、痛みはない。

 

 ボールは、影すら追えない。

 気がつけば、レイザーがコートの外に吹き飛ばされていた。

 

 

「バックしろよ。まだオレの気は済んでないぜ」

 

 

 レイザーに向かい、シュウは言葉を叩きつける。

 怒りを含んだ言葉は、恐ろしいまでの圧力を伴っている。

 

 対するレイザーは、楽しげに口の端を吊り上げて。

 

 

「──―いや、参った」

 

「え?」

 

 

 レイザーの言葉に、耳を疑う。

 

 まだ、レイザーの本気を見ていない。

 バックだって残ってる。まだまだやれることはあるはずだ。

 なのに、なぜ。

 

 

「いまのボールは、ちょっと受けられそうにない。お前を怒らせたのは、完全に失策だったな。オレの負けだ。約束通りオレたちは町を出て行く」

 

 

 両手を挙げて、降参のポーズ。

 

 

 ──あ。

 

 

 そこで、ようやく気づく。

 ゴンとの戦いで、レイザーがあれほど本気を出したのは、ゴンがジン=フリークスの息子だったから。

 いまのレイザーに、強いて本気を出すだけの理由はない。だから、ゲーム内での役割演技(ロール)に徹したのだ。

 

 拍子抜けではある。

 本気の彼と戦えなくて、悔しくもある。

 だが、俺たちの勝利条件は──目標は、あくまでグリードアイランドのクリア。

 

 だったら、勝利を喜ぶのに、なんの(やま)しさもない。

 グリードアイランドクリア最大の障害を、俺たちは乗り越えたのだ。

 

 

「シュウ」

 

「ユウ」

 

 

 たがいに笑顔でハイタッチ。

 乾いた音が、ジムに響いた。

 

 

 

 




◆エース=レジェンス

・H×Hで好きなキャラクター三人

 ナックル、シュート、ジャイロ

・H×Hで好きな念能力三つ

 カイトの【気狂いピエロ(クレイジースロット)】、ポックルの【七色弓箭(レインボウ)】、ボノレノフの【戦闘演武曲(バト=レ・カンタービレ)

・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ

 No.021スケルトンメガネ、No.037超一流スポーツ選手の卵、No.070マッド博士の筋肉増強剤

・ユウからの第一印象

 草野球に混ざってる若いにーちゃん。

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