祭りの翌日。
朝ちゃんと起きてきたのは、俺、ミコ、ミオの未成年組3人(シュウを除く)と、マッシュ、ビノールト、カミト、ブラボーだけだった。
残りのメンバーは二日酔いで、みんなが起き出してきたのは、昼も近くなってから。半数近くが行動不能とか、ここが城の中でなかったら、不用心もいいとこだ。
ともあれ、ゆっくりと食事をとり、二日酔い組には体調を整えてもらう。
残るメンバーは、出立のための準備。特にビノールトには、先発で城下町リーメイロを発ってもらった。
残る全員に招集がかかったのは、夜も更けてからのことだった。
「これから皆で港に向かう!」
中庭に集合したメンバーを見回して、ブラボーが宣言する。
「夜だぞ。道中危険じゃないか?」
「ここに至っても、バッテラに雇われたプレイヤーからの接触がないのが不穏だ! 夜陰に紛れて港から脱出する……そして、断言しよう。
エースの問いに、ブラボーは断言する。
なぜ、そこまで断言できるのか。
二日酔い組の疑問に対して、俺が説明する。
「港にはあらかじめ、ビノールトが待機している。【
「その通り。ゆえに全員の体調が戻るのを待った! みな、もしもの時は動けるな!」
ブラボーの問いに、全員が「応」の声。
「ブラボーだ! それでは行くぞ──同士・ユウ!」
「了解! 【
呪文を使用する。
発動とともに、飛翔感。
降り立ったのは、もはや見慣れた港の大通り。
「待ってたぜ。通行券の準備も終わってる……が、気をつけろ。直接見られてはないが、嫌な感じがする」
ビノールトが状況を伝える。
意識を巡らせるが、こちらを監視するような視線は感じない。
「……うん。俺の感覚でも視線を知覚出来ないから、見られてるってことは絶対ない。ただ、直接見なくても監視する方法はある」
「その通りだ。同士・ユウ。先を急ごう」
俺の言葉に、ブラボーがうなずいた、その時。
移動系呪文の高い飛行音が耳に入った。しかも無数の。
最初に降り立ったのは、ツェズゲラ組の4人。
続いて、ハメ組の主要メンバーの内、ニッケス、ジスパ、ゲンスルーの3名。
それから、爆弾魔のサブにバラ。ほかにもカヅスール組など、一方的に見覚えのある多数のプレイヤーたち。その数ざっと30人ほどが、一瞬にして集まってきた。
そうか。港かその近郊に身を潜め、外から入ってくるプレイヤーを見張りつつ、移動呪文の軌跡を確認していたんだ。
ブラボーが短期の内に99枚のカードを集めたことからも、多くの協力プレイヤーが居ると推測するのは容易い。
港に来たプレイヤーのフリーポケットカードを【
ブラボー組が、徒歩で港に来るなら良し。
移動呪文を使えば協力者の元に呪文で移動。さすが
集まっているのは、全員が大富豪バッテラに雇われている連中。おそらく一時的に共闘しているのだろう。
「──ここで待っていれば、会えると思っていた」
一同を代表してだろう。
ツェズゲラが前に出て、話しかけてきた。
同時に抜け目なく視線を巡らせ、俺たちの力量を量っている。
「我々を倒して、指定カードを奪う腹積もりか」
ブラボーが前に出る。
言われずとも、彼らの焦った表情を見ればわかる。
大富豪バッテラが、グリードアイランドクリアにかけた懸賞金は500億ジェニー。
それがいま、まさにかっ攫われようとしているのだ。彼らの視点では。
「先に言っておくが、俺たちはバッテラに雇われたプレイヤーじゃない」
「……信じられんな」
俺の言葉に、ツェズゲラがかぶりを振る。
それはそうだ。あらかじめ伝えていたのならともかく、事ここに至っての発言では信用されるはずがない。
他プレイヤーとのコミュニケーションを、用心深く避けてきた弊害だ。
「ブラボー、俺たちが食い止める。先に行ってくれ」
シュウに目配せしてから、ブラボーを制して前に出る。
ここは、奴らを足止めしてブラボーたちを脱出させるしかない。
「仕方ない。それしかないか。行くぞお前ら」
シュウが、そう言って俺の横に並ぶ。
「お、俺もっスか?」
「おいおい相棒。お前さんの能力は、完全にこの状況向きじゃねえか」
怖気づくレットさんに、マッシュが呆れたようにため息。
でも、どちらも足は前に。
「わたくしも、残りますわ」
「ミコ……はぁ。ミコが残るんなら、わたしも残るわ。ブラボー、先に行って」
ミコが、前に出る。
決意に満ちた彼女の表情を見て、カミトもため息をつきながら前に。
「──―わかった、同士たちよ! 任せたぞ!」
「この場はユウさんたちに任せて脱出するぞ! みんなオレについて来い!」
ブラボーが、ビノールトが声を上げて駆け出し、残る5人がそれに続く。
「くっ、逃げたぞ!」「追え追えっ!」
「
「行かせるかっ! 【
ブラボーたちを追いかけようとした数人が、ミコの念獣に、カミトの鎖に襲われる。
レットさんとマッシュは、油断なく脇を固め、追跡者を牽制する。
そして。
「──―あいつらを追おうってのなら、相手になるぜ」
「俺たちがな」
先頭に立つのはシュウと俺。
「……おい、ツェズゲラ、あの娘……ユウだ」
「
仲間の声に、ツェズゲラが表情をこわばらせる。
そうか、ツェズゲラたちは、俺が賞金首狩りをやってた時期、まだバッテラに雇われていなかった。
外で活動してたなら、俺のことを知っていてもおかしくない。
なら、ありがたい。
彼のことだ。それを知れば、出方も慎重になるだろう。
「──ふん、見たとこそんなに強そうには思えねぇがな。あんたらが行かねぇのなら、オレらがいくぜ」
と、にらみ合いの中、前に出てきたのは
ゲンスルーが出てこないのは……まだ2人との関係を隠すためか。
皆が見守る中、俺とサブ、シュウとバラが対峙する。
ツェズゲラがこちらの力量を高く見積もり、警戒している以上、弱みを見せるわけにはいかない。
──苦戦は論外、長引かせても駄目。速攻でけりをつける!
発するオーラや動きから見て、俺とサブの実力は、やや俺が有利。
苦戦が許されない俺にとっては厳しい状況だが……厳しいのは爆弾魔組も同じ。
周りを囲むプレイヤーは、必ずしも味方じゃない。
一時的に共闘関係にはあるが、本質的には競争相手だ。
ブラボーに追いつき、カードを奪う段になれば、たちまち敵に変わる。
そんな中で、俺との戦いに集中することなど不可能だ。
集中する。
バラはシュウ。他の奴らは、きっとカミトたちが抑えてくれる。
信頼できる仲間がいるから、俺は目の前のサブを倒すことだけを考えられる。
サブが、前に出る。
速攻を意識してか、サブのパンチはやや大ぶり。
拳に込められた力は警戒に値するが、読み取れる。狙いも、わずかな焦りも。
──だから、絡め取れる。
パンチを紙一重で躱す。
腕が伸び切ったところを、前へ。
体格差のせいで、一歩前に出ないと、こちらの攻撃は届かない。
だから、サブの大振りなパンチは、誘い。
がら空きの脇腹を狙わせ、攻防力を集めて防御。
懐に入った俺を押し倒してマウントを取り、そのまま殴り倒す腹積もり。
注文通り、右のスウィングブローの死角を縫って、左拳を脇腹に。
インパクトの瞬間、外套で死角となった右手から、念弾をサブの顎にぶち込む。
完全に不意をついた一撃。しかも攻防力を脇腹に集めていたため、ダメージも大きい。
そこに、前蹴り。ぶっ飛ばす先は──ゲンスルー。
サブが念弾を喰らったのを見て、いまにも飛び出しそうな爆弾魔に向かって、サブを蹴り飛ばす。
とっさのことで、ゲンスルーはサブを受け止めることを選択。彼への牽制のためにそうさせたのだが……そこに、とんでもない勢いでバラがぶっ飛んできた。
原因は、シュウの【
シュウは俺と同じ狙いから、俺よりはるかに過激な手段を取ったのだ。
バラの人間砲弾は、巻き込まれた数人を撥ね飛ばしながら、サブもろともゲンスルーをぶっ飛ばした……えっぐ。
あんまりな惨状を見て、かなりの数が及び腰になってる。
ねじ込むなら、いまか。
「あらためて言っておく。俺たちはバッテラに雇われたプレイヤーじゃない。これだけ言ってなお、信じずにかかって来るなら──手加減してもらえると思うなよ」
顔を、手で覆う。
殺意の
瞬間、膨大な量の
これで大部分のプレイヤーが逃げ腰になったが、さすがにツェズゲラたちは、殺意だけでは揺らがない。
「……いまの話、本当か?」
「ああ。俺たちには、どうしても必要なアイテムがあるからな。クリア報酬が欲しいバッテラとは折り合いがつかないんだよ」
「それに、あんたもバッテラに頼まれたプレイヤーは、ほとんど把握しているはずだぜ? 2、3人ならともかく、10人以上の人間全員知らない、なんてことはないはずだ」
俺と、それに続くシュウの言葉に、ツェズゲラはしばし、思案し。
「どうやら、嘘ではない。狼藉を詫びよう。では──【
この場を去ることを選択した。
それに従うように、漁夫の利を狙っていたプレイヤーたちは次々と去っていく。
気のせいか、ツェズゲラは去り際に一瞬だけ、シュウに目配せしていた。
そういえば、シュウは彼と会っているんだったか。ひょっとして、そこで何か話していたのかもしれない。
もしかして、あわよくばカードをかすめ取ろうとやってきたプレイヤーたちを追い散らすために、ツェズゲラと狂言を仕組んだんだろうか。
──バッテラに頼まれた口じゃない。
あの言葉は、他のプレイヤーに聞かせるためのもので。
それに説得力をつけるために、ツェズゲラを利用したのかもしれない。
シュウならやりかねない。
そう思って視線をやると、シュウはすべてお見通しだよ、とばかり、微笑み返してきた。ちょっと怖い。
「すごいですわ、おふたりとも。あのサブとバラを倒すなんて!」
「やるわねー。さ、行きましょうか。外に出るまで、気を抜いてられないからね」
ミコがはしゃぎ、カミトがたしなめる。カミトも頬は緩んでるけど。
「よ、よかったっス……無事に生き延びられて……」
「いやオレら牽制だけで戦ってなかったからな? くそ、あいつら強そうだったなあ」
膝をつくレットさんと、悔しがるマッシュ。
マッシュだと、サブやバラの相手はちょっとキツかったかもしれない。
「と、こうしちゃ居られない。急がなきゃな」
余計なこと考えている時間が惜しい。
時間のロスはほんの少し。ブラボー達を追って、外に出るための施設へと急いだ。
「よう。ユウさんたちのことだから心配はしてなかったが……ずいぶんと早く始末がついたな」
施設の前で待っていたビノールトは、俺たちを見て手を挙げる。
「シュウのおかげでな。ブラボーたちはもう外へ?」
「ああ。最終便のヒョウが、5分ほど前に通行チケットを使った」
言いながら、ビノールトは
「念の為、オレが最後に出る。ユウから順にカミト、ミコ、レット、マッシュ、ビノールトの順で出てくれ」
「わかった。気をつけてくれよ」
シュウの決めた順番に文句がなくもなかったが、ここまできて争うようなことでもない。
素直にうなずいて、通行チケットを使い、施設の中に入る。
前近代的な建物の中は、うって変わって電脳空間めいた場所。幾何学模様が浮かび、中央にはナビゲーターの女性──エレナさん。
ここに来るのは、3度目だ。
そして、おそらくは最後になる。
グリードアイランドでの生活は、長いようで短かった。
二度に渡る岩石地帯での修行に、分担攻略のためのマサドラ暮らし。レイザーとの戦いに城下町リーメイロでのパレード。
キツかったけど……思い返すと、充実していたし、楽しかった。
本当に……だめだ。うるっと来た。でも泣くにはまだ早い。
「それでは、どちらの港に向かわれますか?」
エレナさんが問いかけてくる。
あらかじめ決めてあった、ヨルビアン大陸西岸の港の名を告げて。
俺は、グリードアイランドを後にした。
◇ダル
「なんだ? なんで誰も居ないんだ?」
ゲームの外。
さきに出ているはずのブラボーやエース、ミオが居ない。
ミオのトイレに、みんなつき合ってるのか?
ありそうだ……なるほど、覗こう。
秒で決めて、“港”の出入り口になっている部屋から出ようとして。
入り口から、だれかが顔をのぞかせるのが見えた。
青髪リボンのハグしたくなるようなかわいいロリ。ミオだ。
「やあ、ミオちゃん。トイレ行ってたのか? 早かったな。エースとブラボーは?」
にこやかに語りかけるが、ミオは答えない。まあいつものことですよ。
しかし……ふと不安になる。
感情を隠すことを知らないミオが、無表情。
あの舐めたくなるような、きらっきらの瞳が、赤く濁っている。
「ミオちゃん? ミオさん? おーい、なにか反応してくれませんかね? 返事してくれないと地面に這いつくばって下から覗いちゃうぞ?」
怪しい動きをしながら、距離を詰めようとして。
──いきなり、腹に灼熱感。
なんだ。なにが起こった。
俺はゴム能力者だ。下手な攻撃は通じないはずだ。
激痛と混乱にもがく。ミオは、ここに至っても無反応。
──駄目だ! これはやばい! なにかやばいことが起こってる!
灼熱感が、全身を覆う。
動けない。体に力が入らない。
そんな中で、ミオは無表情のまま俺を見下ろしている。
普段ならご褒美なのに、まったくうれしくない。
朦朧とした意識の中、複数人の声が耳に入った。
『我らは生きた災い。黄昏時に
ブラボーたちはどうなった。
いや、心配すべきはヒョウ、それに、ユウちゃんたち……逃げろ! 逃げてくれ!
意識が闇に沈んでいく。
悲鳴のように祈る、その中で、声は歌うように名乗りを挙げた。
『──我らこそ
◆ヒョウ=パーネマン
・H×Hで好きなキャラクター三人
サトツ、ウイング、イルミ
・H×Hで好きな念能力三つ
ネオンの【
・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ
No.031死者への往復葉書、No.036リサイクルーム、No.060失くし物宅配便
・ユウからの第一印象
自己主張が! 薄い!