グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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24 帰還への道

 祭りの翌日。

 朝ちゃんと起きてきたのは、俺、ミコ、ミオの未成年組3人(シュウを除く)と、マッシュ、ビノールト、カミト、ブラボーだけだった。

 残りのメンバーは二日酔いで、みんなが起き出してきたのは、昼も近くなってから。半数近くが行動不能とか、ここが城の中でなかったら、不用心もいいとこだ。

 

 ともあれ、ゆっくりと食事をとり、二日酔い組には体調を整えてもらう。

 残るメンバーは、出立のための準備。特にビノールトには、先発で城下町リーメイロを発ってもらった。

 

 残る全員に招集がかかったのは、夜も更けてからのことだった。

 

 

「これから皆で港に向かう!」

 

 

 中庭に集合したメンバーを見回して、ブラボーが宣言する。

 

 

「夜だぞ。道中危険じゃないか?」

 

「ここに至っても、バッテラに雇われたプレイヤーからの接触がないのが不穏だ! 夜陰に紛れて港から脱出する……そして、断言しよう。()()に危険はない!」

 

 

 エースの問いに、ブラボーは断言する。

 

 なぜ、そこまで断言できるのか。

 二日酔い組の疑問に対して、俺が説明する。

 

 

「港にはあらかじめ、ビノールトが待機している。【同行(アカンパニー)】で一気に行ける……港で網を張られてる可能性があるから、警戒は必要だけど」

 

「その通り。ゆえに全員の体調が戻るのを待った! みな、もしもの時は動けるな!」

 

 

 ブラボーの問いに、全員が「応」の声。

 

 

「ブラボーだ! それでは行くぞ──同士・ユウ!」

 

「了解! 【同行(アカンパニー)】、使用(オン)! ビノールト!」

 

 

 呪文を使用する。

 発動とともに、飛翔感。

 降り立ったのは、もはや見慣れた港の大通り。

 

 

「待ってたぜ。通行券の準備も終わってる……が、気をつけろ。直接見られてはないが、嫌な感じがする」

 

 

 ビノールトが状況を伝える。

 意識を巡らせるが、こちらを監視するような視線は感じない。

 

 

「……うん。俺の感覚でも視線を知覚出来ないから、見られてるってことは絶対ない。ただ、直接見なくても監視する方法はある」

 

「その通りだ。同士・ユウ。先を急ごう」

 

 

 俺の言葉に、ブラボーがうなずいた、その時。

 移動系呪文の高い飛行音が耳に入った。しかも無数の。

 

 最初に降り立ったのは、ツェズゲラ組の4人。

 続いて、ハメ組の主要メンバーの内、ニッケス、ジスパ、ゲンスルーの3名。

 それから、爆弾魔のサブにバラ。ほかにもカヅスール組など、一方的に見覚えのある多数のプレイヤーたち。その数ざっと30人ほどが、一瞬にして集まってきた。

 

 そうか。港かその近郊に身を潜め、外から入ってくるプレイヤーを見張りつつ、移動呪文の軌跡を確認していたんだ。

 ブラボーが短期の内に99枚のカードを集めたことからも、多くの協力プレイヤーが居ると推測するのは容易い。

 港に来たプレイヤーのフリーポケットカードを【念視(サイトビジョン)】などで監視していれば、協力者は確定できる。

 

 ブラボー組が、徒歩で港に来るなら良し。

 移動呪文を使えば協力者の元に呪文で移動。さすが一つ星(シングル)ハンターと言うべきか。

 集まっているのは、全員が大富豪バッテラに雇われている連中。おそらく一時的に共闘しているのだろう。

 

 

「──ここで待っていれば、会えると思っていた」

 

 

 一同を代表してだろう。

 ツェズゲラが前に出て、話しかけてきた。

 同時に抜け目なく視線を巡らせ、俺たちの力量を量っている。

 

 

「我々を倒して、指定カードを奪う腹積もりか」

 

 

 ブラボーが前に出る。

 言われずとも、彼らの焦った表情を見ればわかる。

 大富豪バッテラが、グリードアイランドクリアにかけた懸賞金は500億ジェニー。

 それがいま、まさにかっ攫われようとしているのだ。彼らの視点では。

 

 

「先に言っておくが、俺たちはバッテラに雇われたプレイヤーじゃない」

 

「……信じられんな」

 

 

 俺の言葉に、ツェズゲラがかぶりを振る。

 それはそうだ。あらかじめ伝えていたのならともかく、事ここに至っての発言では信用されるはずがない。

 他プレイヤーとのコミュニケーションを、用心深く避けてきた弊害だ。

 

 

「ブラボー、俺たちが食い止める。先に行ってくれ」

 

 

 シュウに目配せしてから、ブラボーを制して前に出る。

 ここは、奴らを足止めしてブラボーたちを脱出させるしかない。

 

 

「仕方ない。それしかないか。行くぞお前ら」

 

 

 シュウが、そう言って俺の横に並ぶ。

 

 

「お、俺もっスか?」

 

「おいおい相棒。お前さんの能力は、完全にこの状況向きじゃねえか」

 

 

 怖気づくレットさんに、マッシュが呆れたようにため息。

 でも、どちらも足は前に。

 

 

「わたくしも、残りますわ」

 

「ミコ……はぁ。ミコが残るんなら、わたしも残るわ。ブラボー、先に行って」

 

 

 ミコが、前に出る。

 決意に満ちた彼女の表情を見て、カミトもため息をつきながら前に。

 

 

「──―わかった、同士たちよ! 任せたぞ!」

 

「この場はユウさんたちに任せて脱出するぞ! みんなオレについて来い!」

 

 

 ブラボーが、ビノールトが声を上げて駆け出し、残る5人がそれに続く。

 

 

「くっ、逃げたぞ!」「追え追えっ!」

 

念獣(フレン)! 行かせないで!」

 

「行かせるかっ! 【追尾する鉄鎖(スクエアチェーン) 】っ!!」

 

 

 ブラボーたちを追いかけようとした数人が、ミコの念獣に、カミトの鎖に襲われる。

 レットさんとマッシュは、油断なく脇を固め、追跡者を牽制する。

 そして。

 

 

「──―あいつらを追おうってのなら、相手になるぜ」

 

「俺たちがな」

 

 

 先頭に立つのはシュウと俺。

 

 

「……おい、ツェズゲラ、あの娘……ユウだ」

 

賞金首(ブラックリスト)ハンターのユウ=ミルガンか。A級首も挙げた……グリードアイランドに潜っていたか……」

 

 

 仲間の声に、ツェズゲラが表情をこわばらせる。

 

 そうか、ツェズゲラたちは、俺が賞金首狩りをやってた時期、まだバッテラに雇われていなかった。

 外で活動してたなら、俺のことを知っていてもおかしくない。

 

 なら、ありがたい。

 彼のことだ。それを知れば、出方も慎重になるだろう。

 

 

「──ふん、見たとこそんなに強そうには思えねぇがな。あんたらが行かねぇのなら、オレらがいくぜ」

 

 

 と、にらみ合いの中、前に出てきたのは爆弾魔(ボマー)のサブとバラ。

 ゲンスルーが出てこないのは……まだ2人との関係を隠すためか。

 

 皆が見守る中、俺とサブ、シュウとバラが対峙する。

 ツェズゲラがこちらの力量を高く見積もり、警戒している以上、弱みを見せるわけにはいかない。

 

 

 ──苦戦は論外、長引かせても駄目。速攻でけりをつける!

 

 

 発するオーラや動きから見て、俺とサブの実力は、やや俺が有利。

 苦戦が許されない俺にとっては厳しい状況だが……厳しいのは爆弾魔組も同じ。

 

 周りを囲むプレイヤーは、必ずしも味方じゃない。

 一時的に共闘関係にはあるが、本質的には競争相手だ。

 ブラボーに追いつき、カードを奪う段になれば、たちまち敵に変わる。

 

 そんな中で、俺との戦いに集中することなど不可能だ。

 

 集中する。

 バラはシュウ。他の奴らは、きっとカミトたちが抑えてくれる。

 信頼できる仲間がいるから、俺は目の前のサブを倒すことだけを考えられる。

 

 サブが、前に出る。

 速攻を意識してか、サブのパンチはやや大ぶり。

 拳に込められた力は警戒に値するが、読み取れる。狙いも、わずかな焦りも。

 

 

 ──だから、絡め取れる。

 

 

 パンチを紙一重で躱す。

 腕が伸び切ったところを、前へ。

 体格差のせいで、一歩前に出ないと、こちらの攻撃は届かない。

 

 だから、サブの大振りなパンチは、誘い。

 がら空きの脇腹を狙わせ、攻防力を集めて防御。

 懐に入った俺を押し倒してマウントを取り、そのまま殴り倒す腹積もり。

 

 注文通り、右のスウィングブローの死角を縫って、左拳を脇腹に。

 インパクトの瞬間、外套で死角となった右手から、念弾をサブの顎にぶち込む。

 完全に不意をついた一撃。しかも攻防力を脇腹に集めていたため、ダメージも大きい。

 

 そこに、前蹴り。ぶっ飛ばす先は──ゲンスルー。

 サブが念弾を喰らったのを見て、いまにも飛び出しそうな爆弾魔に向かって、サブを蹴り飛ばす。

 とっさのことで、ゲンスルーはサブを受け止めることを選択。彼への牽制のためにそうさせたのだが……そこに、とんでもない勢いでバラがぶっ飛んできた。

 

 原因は、シュウの【正義の拳(ジャスティスフィスト)】。

 シュウは俺と同じ狙いから、俺よりはるかに過激な手段を取ったのだ。

 バラの人間砲弾は、巻き込まれた数人を撥ね飛ばしながら、サブもろともゲンスルーをぶっ飛ばした……えっぐ。

 

 あんまりな惨状を見て、かなりの数が及び腰になってる。

 ねじ込むなら、いまか。

 

 

「あらためて言っておく。俺たちはバッテラに雇われたプレイヤーじゃない。これだけ言ってなお、信じずにかかって来るなら──手加減してもらえると思うなよ」

 

 

 顔を、手で覆う。

 殺意の仮面(ペルソナ)を被る。

 瞬間、膨大な量の殺意(わたし)が、敵を襲う。

 

 これで大部分のプレイヤーが逃げ腰になったが、さすがにツェズゲラたちは、殺意だけでは揺らがない。

 

 

「……いまの話、本当か?」

 

「ああ。俺たちには、どうしても必要なアイテムがあるからな。クリア報酬が欲しいバッテラとは折り合いがつかないんだよ」

 

「それに、あんたもバッテラに頼まれたプレイヤーは、ほとんど把握しているはずだぜ? 2、3人ならともかく、10人以上の人間全員知らない、なんてことはないはずだ」

 

 

 俺と、それに続くシュウの言葉に、ツェズゲラはしばし、思案し。

 

 

「どうやら、嘘ではない。狼藉を詫びよう。では──【同行(アカンパニー)】 、使用(オン)。アントキバへ」

 

 

 この場を去ることを選択した。

 それに従うように、漁夫の利を狙っていたプレイヤーたちは次々と去っていく。

 

 気のせいか、ツェズゲラは去り際に一瞬だけ、シュウに目配せしていた。

 そういえば、シュウは彼と会っているんだったか。ひょっとして、そこで何か話していたのかもしれない。

 もしかして、あわよくばカードをかすめ取ろうとやってきたプレイヤーたちを追い散らすために、ツェズゲラと狂言を仕組んだんだろうか。

 

 

 ──バッテラに頼まれた口じゃない。

 

 

 あの言葉は、他のプレイヤーに聞かせるためのもので。

 それに説得力をつけるために、ツェズゲラを利用したのかもしれない。

 

 シュウならやりかねない。

 そう思って視線をやると、シュウはすべてお見通しだよ、とばかり、微笑み返してきた。ちょっと怖い。

 

 

「すごいですわ、おふたりとも。あのサブとバラを倒すなんて!」

 

「やるわねー。さ、行きましょうか。外に出るまで、気を抜いてられないからね」

 

 

 ミコがはしゃぎ、カミトがたしなめる。カミトも頬は緩んでるけど。

 

 

「よ、よかったっス……無事に生き延びられて……」

 

「いやオレら牽制だけで戦ってなかったからな? くそ、あいつら強そうだったなあ」

 

 

 膝をつくレットさんと、悔しがるマッシュ。

 マッシュだと、サブやバラの相手はちょっとキツかったかもしれない。

 

 

「と、こうしちゃ居られない。急がなきゃな」

 

 

 余計なこと考えている時間が惜しい。

 時間のロスはほんの少し。ブラボー達を追って、外に出るための施設へと急いだ。

 

 

「よう。ユウさんたちのことだから心配はしてなかったが……ずいぶんと早く始末がついたな」

 

 

 施設の前で待っていたビノールトは、俺たちを見て手を挙げる。

 

 

「シュウのおかげでな。ブラボーたちはもう外へ?」

 

「ああ。最終便のヒョウが、5分ほど前に通行チケットを使った」

 

 

 言いながら、ビノールトは(バインダー)を取り出して、外に出るための通行チケットを配る。

 

 

「念の為、オレが最後に出る。ユウから順にカミト、ミコ、レット、マッシュ、ビノールトの順で出てくれ」

 

「わかった。気をつけてくれよ」

 

 

 シュウの決めた順番に文句がなくもなかったが、ここまできて争うようなことでもない。

 

 素直にうなずいて、通行チケットを使い、施設の中に入る。

 前近代的な建物の中は、うって変わって電脳空間めいた場所。幾何学模様が浮かび、中央にはナビゲーターの女性──エレナさん。

 

 ここに来るのは、3度目だ。

 そして、おそらくは最後になる。

 グリードアイランドでの生活は、長いようで短かった。

 二度に渡る岩石地帯での修行に、分担攻略のためのマサドラ暮らし。レイザーとの戦いに城下町リーメイロでのパレード。

 

 キツかったけど……思い返すと、充実していたし、楽しかった。

 本当に……だめだ。うるっと来た。でも泣くにはまだ早い。

 

 

「それでは、どちらの港に向かわれますか?」

 

 

 エレナさんが問いかけてくる。

 あらかじめ決めてあった、ヨルビアン大陸西岸の港の名を告げて。

 

 俺は、グリードアイランドを後にした。

 

 

 

 

◇ダル

 

 

「なんだ? なんで誰も居ないんだ?」

 

 

 ゲームの外。

 さきに出ているはずのブラボーやエース、ミオが居ない。

 

 ミオのトイレに、みんなつき合ってるのか?

 

 ありそうだ……なるほど、覗こう。

 秒で決めて、“港”の出入り口になっている部屋から出ようとして。

 

 入り口から、だれかが顔をのぞかせるのが見えた。

 青髪リボンのハグしたくなるようなかわいいロリ。ミオだ。

 

 

「やあ、ミオちゃん。トイレ行ってたのか? 早かったな。エースとブラボーは?」

 

 

 にこやかに語りかけるが、ミオは答えない。まあいつものことですよ。

 

 しかし……ふと不安になる。

 感情を隠すことを知らないミオが、無表情。

 あの舐めたくなるような、きらっきらの瞳が、赤く濁っている。

 

 

「ミオちゃん? ミオさん? おーい、なにか反応してくれませんかね? 返事してくれないと地面に這いつくばって下から覗いちゃうぞ?」

 

 

 怪しい動きをしながら、距離を詰めようとして。

 

 

 ──いきなり、腹に灼熱感。

 

 

 なんだ。なにが起こった。

 俺はゴム能力者だ。下手な攻撃は通じないはずだ。

 激痛と混乱にもがく。ミオは、ここに至っても無反応。

 

 

 ──駄目だ! これはやばい! なにかやばいことが起こってる!

 

 

 灼熱感が、全身を覆う。

 動けない。体に力が入らない。

 そんな中で、ミオは無表情のまま俺を見下ろしている。

 普段ならご褒美なのに、まったくうれしくない。

 

 朦朧とした意識の中、複数人の声が耳に入った。

 

 

『我らは生きた災い。黄昏時に彷徨(さまよ)い歩く殺人鬼……』

 

 

 ブラボーたちはどうなった。

 いや、心配すべきはヒョウ、それに、ユウちゃんたち……逃げろ! 逃げてくれ!

 

 意識が闇に沈んでいく。

 悲鳴のように祈る、その中で、声は歌うように名乗りを挙げた。

 

 

『──我らこそ逢魔ヶ災(おうまがわざわい)なり!』

 

 

 

 

 




◆ヒョウ=パーネマン

・H×Hで好きなキャラクター三人

 サトツ、ウイング、イルミ

・H×Hで好きな念能力三つ

 ネオンの【天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)】、ビスケの【魔法美容師(まじかるエステ)】、アベンガネの【除念】能力

・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ

 No.031死者への往復葉書、No.036リサイクルーム、No.060失くし物宅配便

・ユウからの第一印象

 自己主張が! 薄い!


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