グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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25 災禍の爪痕

 

 

 ゲートから切り替わった、“外”の光景。

 突然目の前に現れた状況は……まるで理解出来ないものだった。

 

 海を望む、レンガ造りの巨大な洋館のテラス。

 厚く垂れた雲の切れ間から、満月が垣間見える。

 青褪めた月の光に照らされて……倒れ伏し、動かなくなった仲間たちの姿が、目に映った。

 

 微塵に刻まれたエース。

 焼け焦げ炭と化したダル。

 心臓を一突きにされたヒョウ。

 

 思考が一瞬、凍てついて。

 溶け出した感情が、一気に煮えたぎる。

 だが、経験と理性が、感情のままに動くことに警鐘を鳴らす。

 無理やりに抑えつけ、感情が軋みをあげるのを自覚しながら、倒れる3人を検める。

 

 エースも、ダルも、見るも無残な姿だ。

 元気だった彼らの笑顔が、見る影もない。

 気を落ち着かせるため、深く、息を吸って。3人目、ヒョウの様子を検める。

 

 

「ユウ、か……遅かった、ね……」

 

 

 と、か細い声が聞こえた。

 見れば、ヒョウの目が開いている。

 心臓を貫く胸の傷は、間違いなく致命傷。だが、生きている!

 

 そうか。ヒョウには【永久なる誓い(イモータルハート)】がある。

 対象の状態を、そのまま保持する彼の念能力なら……致命傷を負っていても命を繋ぎ止めることは可能なんだ!

 

 

「ヒョウ!」

 

 

 感情とともに溢れだした声は、悲鳴に近かった。

 

 

「外に出た瞬間……襲われてね……不意をつかれて……このざまさ」

 

 

 ヒョウの顔は青ざめ、声にも力はない。

 だが、十数秒後に確定した“死”を拒絶するため、瞳だけは、強烈な意思を宿して強く輝いている。

 

 

「誰だ……いったい誰の仕業なんだ!」

 

「……吸血鬼だ……それだけは、間違いない……Dとミオは、吸血鬼にされていた……」

 

 

 充分な情報だ。

 敵の正体は逢魔ヶ災。

 プレイヤーを狩るゲームマスター。

 みんなの仇はあいつら──だが、いまはヒョウの手当が先。

 

 

「待ってろヒョウ。いま病院に連れてく!」

 

「よせ」

 

 

 抱きかかえようとして、しかし、強く拒絶される。

 

 

「心臓を、貫かれてるんだ。【永久なる誓い(イモータルハート)】、それほど長続き、する能力じゃない。いまの、体調なら、なおさらだ。どうやっても、あと数分で、僕は死ぬ……君たちに敵の、存在を、知らせたくて、いままで、命をつないで、きたんだ」

 

 

 死に臨みながら、ヒョウの意思は揺れない。

 

 

「──正直、痛いのは、苦手なんだ。致命傷の激痛を、感じ続ける、ってのは、辛すぎる。だから、最後に……ユウ、君の武器を、貸してくれないか……」

 

「なにを……どうするつもりだ?」

 

()()()()()

 

 

 戸惑いながらも、強い意志の籠もったヒョウの言葉に逆らえない。

 手に馴染んだナイフを取り出して、彼の手に取らせる。

 

 

「……ありがとう。これでお別れだ……君たちは、絶対、日本へ……」

 

「──ヒョウ!? お前っ!?」

 

 

 意図を察して声を上げるが、遅い。

 ヒョウのオーラがナイフに集まり──【永久なる誓い(イモータルハート)】が発動する。

 

 ヒョウの命を、繋ぎ止めるものがなくなる。

 そのままヒョウは、血を吐いて──俺の腕の中で、こと切れた。

 

 ヒョウの体から、温度が失われていく。

 だが、手に残されたナイフ。そこに込められたオーラの輝きは、むしろ増していく。

 

 

 ──まるでヒョウの命の煌きを、そのまま宿したかのように。

 

 

 死後強まる念の力。

永久なる誓い(イモータルハート)】の力で、ヒョウのオーラごと固定されたナイフ。

 ヒョウは、残りわずかな命を手放して、戦う力を託してくれたのだ。俺に、逢魔ヶ災(あくま)と戦う力を。

 

 

「──ユウちゃん……」

 

 

 カミトの声が、背後から聞こえた。

 

 気づいていなかった。

 振り返ると、すでに全員が外に転移していた。

 

 みな、沈痛な面持ち。

 あまりの惨状に耐えかねてだろう。

 ミコは気を失い、カミトに支えられている。

 

 

「……ごめん。冷静じゃなかった。状況は見ての通り。加えてDとミオも吸血鬼にされた。ブラボーも居ない。不意を打たれて囚われたか、陽動にかかって別の敵を追ったか……敵は、逢魔ヶ災」

 

 

 こみあげる怒りを抑え込みながら、情報を伝える。

 

 

「──状況からして、敵は3人以上。1人は吸血鬼の能力者、血の災禍アモン。加えて、エースを微塵に刻んだ能力の主と、ダルを燃やした能力の主。ヒョウの刺し傷は武器によるもので、4人目が居るかどうかは不明」

 

 

 言いたくはないが……ヒョウは吸血鬼となったDかミオに刺された可能性もある。

 ダルを燃やした能力者については……わからない。あの赤髪ウェイター、炎の災禍は殺したはずだが。

 

 

「狙いは……クリア報酬でしょうね」

 

「あるいはプレイヤーの命だ」

 

 

 カミトの推測に、つけ加える。

 逢魔ヶ災との因縁は、俺がもっとも深い。

 後者の推測のほうが、奴らの在り方に馴染む。

 

 

「──奴らはグリードアイランドを入手していた。当然港の位置も把握しているだろう。グリードアイランド島にもっとも近い港に網を張り、現れた者を待ち伏せにする。そういう奴らだ。逢魔ヶ災(あいつら)は」

 

 

 加えて言うなら、おそらくブラボーと逢魔ヶ災には因縁がある。

 ブラボーは言った。逢魔ヶ災がグリードアイランドに姿を現すことは、()()()()()()()()と。

 

 まず間違いなく両者は交戦している。

 ブラボーの口ぶり、そして性格から、逢魔ヶ災はブラボーに撃退され、殺人犯として収監された。

 その後脱獄して、“港”でプレイヤーを待ち伏せ……最初に出てきたブラボーを陽動にかけて、後続の仲間たちを殺していったのだろう。

 

 

「……シュウ」

 

「ああ、ユウ。わかってる」

 

 

 ナイフ(ヒョウ)を手に、立ち上がる。

 プレイヤー(おれたち)の存在を察知したのだろう。いつのまにか、異質な気配があたりに満ちている。

 

 殺気ではなく、オーラでもない。

 この気配には、覚えがある。グリードアイランドを入手した時、宿を取り囲んでいた、吸血鬼の従僕たちの気配。

 

 

「この気配、吸血鬼の従僕(しもべ)っス! 気をつけてください! たいしたことないけど数が多くて厄介っス!」

 

 

 レットさんも、気づいたのだろう。

 短い悲鳴とともに、皆に注意を送る。

 

 ほぼ同時。吸血鬼たちが、群れをなして広間に雪崩込んできた。

 

 

「【正義の拳(ジャスティスフィスト)】ぉ!!」

 

 

 直後、吸血鬼の大群が、シュウの一撃で吹き飛ばされた。

 そのすさまじい威力に、痛いほど理解する。シュウが、どれだけ怒っているのか。

 

 シュウに粉々にされた吸血鬼が、灰塵に帰す。

 吸血鬼アモンの念能力(わざわい)、【血の同胞(ブラッドパーティ)】。やはりその特性は、吸血鬼の完全再現。

 

 先陣を吹き飛ばしたものの、吸血鬼の群れは足を止めない。

 その数は、無尽蔵にも感じられる。このままではジリ貧だ。

 

 

「カミト! この場を頼む! 俺は本体(オリジナル)──血の災禍アモンを狩り(ハント)する!」

 

「待てユウ! ひとりで行くな! オレも行く!」

 

 

 押し寄せる吸血鬼を蹴散らしながら、シュウが叫ぶ。

 

 無理だ。この物量。シュウが抜ければ一気に差し込まれる。

 

 

「わかった──シュウ! 3カウントで入れ替われ! 3、2、1──行けっ!」

 

 

 マッシュの合図に合わせて、シュウが飛び退る。

 かわりに前に出たのは、マッシュとビノールト。

 

 

「ユウさん、シュウ! ここはオレたちに任せろ!」

 

 

 言いながら、ビノールトがハサミを振るう。

 マッシュが、押し寄せる敵を速射砲のごときジャブで止める。

 

 

「ふたりとも! 行きなさい! ミコたちはわたしが守るから、敵の本体を、早く!」

 

 

 そして、カミトが叫んだ。

 言葉とともに、音を立てて鎖が地を這い回る。

 カミト自身とミコ、仲間と、そして遺体(なかま)を守るように。

 

 

「──【鉄鎖の結界(サークルチェーン)】!!」

 

 

 うねるように(うごめ)く鎖は、結界を侵す吸血鬼(もの)を容赦なく蹂躙していく。

 

 だが、敵はとめどなく現れる。

 先ほどの一群も氷山の一角。テラスから外を見れば、地面を埋め尽くすほどの軍勢が、こちらに向かってくる。

 

 鉄鎖の結界すら侵そうかという、吸血鬼の洪水。

 

 

「変──身!!」

 

 

 それに抗うように、レットさんが飛び出て血路を開く。

 

 

「おふたりとも! ここはまかせて行って下さいっス!」

 

 

 変身ヒーロー。

 その名にふさわしい大立ち回り。

 

 道は開かれた。

 あとは行くだけだ。

 

 

「行くぞ、シュウ。思い切り──跳ぶ!」

 

「ああ!」

 

 

 テラスに足をかけ、ジャンプ。

 地を蹴る瞬間に、オーラを足先に一点集中。

 洋館から隣の建物の屋根までは、10mちょっと。余裕で届く。

 

 軍勢の頭上を超え、道路を挟んだ向かいの建物へ。

 高所に立って見下ろすと、あらためて、その異常な数に戦慄を覚える。

 吸血鬼の大群は、この一帯を埋め尽くすように、わらわらと蠢いている。

 

 

「カミト、ミコ、レットさん、マッシュ、ビノールト……きっと、無事でいてくれよ」

 

 

 口の中でつぶやくと、屋根伝いに走り出す。

 屋根から屋根へ高速で走る俺たちに、吸血鬼たちはまったくついてこれない。

 

 

「シュウ! どうやって本体を探す!?」

 

「敵が“港”の洋館を離れて、そう時間は経っていない! くまなく気配を探れ!」

 

「わかった! 俺は西を探す! シュウは東側を!」

 

 

 そう、叫んで。

 俺とシュウは、同時に地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 走りながら、オーラを探る。

 すこしのオーラのゆらぎも逃さないよう、集中する。

 

 だが、どうもおかしい。

 あたりに人の気配が存在しない。

 深夜とはいえ、屋内にすら人の気配を感じないのは異常にすぎる。

 

 この街全体がおかしい。

 なにかとんでもないことが起こっている。そんな予感。

 

 

 ──ひょっとして、この街の住民全員が吸血鬼の従僕に?

 

 

 有り得る。

 この吸血鬼の量を考えれば、そう考えたほうが自然ですらある。

 

 

「……なんて真似を」

 

 

 歯噛みする。

 逢魔ヶ災、血の災禍アモン。

 人の血を吸って従僕を増やす、化け物のような災い。

 あいつが、その力で網をめぐらし……この街を、死で覆ってしまったのか。

 

 歯噛みしながら、街中を駆ける。

 と、前方に強いオーラを感じた。

 その禍々しさは、死の街の中では、ひときわ目立つ。

 

 オーラの主は、逃げてはいない。

 むしろ、こちらに向かってきている。

 彼我の距離は、どんどん近づいていって。

 

 

「──みつけた」

 

「──ブラボーと、あの女かと思えば……貴様か、ユウ」

 

 

 姿を表したのは、見間違うはずがない。血の災禍、吸血鬼アモン。

 真円を描く月の、蒼褪めた光を背負って、マントをはためかせる威容。

 

 その姿は以前より一層禍々しく、この眼に映った。

 あたりに目を配れば、俺を囲うように現れる吸血鬼ども。

 

 後ろに1体、両脇の建物の上に1体ずつ。

 先ほどの吸血鬼達とは違う、おそらく念能力者の吸血鬼。

 オーラ量自体は大したことないが、無視していい相手ではない。

 

 さらに、吸血鬼の横に侍るように、一人の男が立っていた。

 赤く輝く瞳に、長大な犬歯。Dだ。吸血鬼と化してはいたが、間違いなくDだ。

 

 

「D……」

 

 

 声をかけたが、反応はなかった。

 

 

「呼びかけても無駄だ。そいつはもう、我が従僕だ」

 

 

 胸の奥に湧きあがった衝動を、無理やり押し殺す。

 この悪魔相手に、怒りに身を任せて戦うなど無謀に過ぎる。

 

 

「──なぜ、俺の仲間たちを殺した?」

 

「愚かな。災いに理由を問うか……決まっている。我らが貴様らの敵、逢魔ヶ災だからよ! 呼吸をするように、食事をするように、我らは強欲に貴様らを殺すのだ!」

 

 

 その言い草に、あっさりと。

 抑えていたものは決壊した。

 

 もういい。

 命を弄ぶ化け物の言葉など、もはや一秒でも聞いていたくない。

 

 

 ──こいつは【殺す/殺す】。

 

 

 ヒョウのナイフを取り出し、吸血鬼に向かう。

 足にオーラを集め、全力ダッシュ。一気に間合いを詰める。

 迎撃のため、吸血鬼が振り上げた腕に──ナイフを叩き込む。

 ヒョウの(オーラ)が込もったナイフは、ほとんど抵抗なく吸血鬼の太い腕を切断した。

 

 

 ──()れる。

 

 

 確信する。

 不死身なだけあって防御には無頓着だ。

 その分攻撃に関しては戦慄を禁じえないが、体を守るという考えすらない。ヒョウのナイフなら、その甘さを咎めることができる。

 

 

「ほう? やるな、だが」

 

 

 ピクリ、と、吸血鬼の腕が動く。

 そのまま腕が吸血鬼の肩に飛んで行き、ぴたりと元の位置に収まった。

 

 

「我に斬撃は効かない」

 

 

 吸血鬼は得意気に笑う。

 

 驚くほどのことじゃない。予測はしていた。

 ただ、どの程度不死身なのか知りたかったのだ。

 

 

 ──これからの、処刑のためにな。

 

 

 心中つぶやいて、音もなく建物の影に隠れる。

 

 取れる戦術が限られていた、いままでとは違う。

 遮蔽物に事欠かないこの場所こそ、(わたし)の能力を最大限に活かせる環境。

 そのまま【背後の悪魔(ハイドインハイド)】で、別の建物の影に移動する。

 

 吸血鬼は、背後の警戒を怠らないまま、じっと構えている。

 

 

「どうした? 来ないのか?」

 

 

 安い挑発には乗らない。

 確実に、あの吸血鬼を暗殺する。

 

 顔を、手で覆う。

 殺意の仮面(ペルソナ)を被り──能力を発動させる。

 

 

 ──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 

 

 完成した“わたし”の念能力。

“わたし”自身が死角の恐怖と化す異形の力。

死角の恐怖(わたし)”を見た者は、あらゆる死角に“殺意(わたし)”を感じ──虚実に惑わされた対象を、“背後の悪魔(わたし)”が刺す。

 

 血の災禍アモンは、“わたし”を見た。

 ゆえに、あらゆる死角から、殺意が襲いかかる。

 不死性にふさわしい鈍重な危機感しか持たないとはいえ、これは効いた。

 

 恐怖(さつい)の源を探して、吸血鬼は焦った様子であちこち見回す。

 

 

「──ここだ」

 

 

 声を出してやり、転移。

 吸血鬼は、直前まで居た建物の壁を破壊するが、そこには誰もいない。

 その間に、屋上の1体を破壊。隣の一体がオーラを手に集めて殴りかかってくるのをすり抜け、心臓を破壊する。

 

 間近で視てわかった。

 死体の中には核となる異質なオーラが存在する。

 おそらくそれが擬似的な生命活動を行わせているのだろう。

 それなら、死体がオーラを操って攻撃してくることにも納得がいく。

 

 

「──どこを見ている」

 

 

 声をかけて、また移動。

 吸血鬼には影も捕らえさせない。

 

 

「──ここだよ」

 

 

 今度は、吸血鬼の背後に移動。

 ナイフを突き出すが、割って入ったDの腕を抉っただけだった。

 

 敵の意図を理解する。

 吸血鬼とDで死角を消されれば、【背後の悪魔(ハイドインハイド)】が使えなくなる。

 

 だから、Dの目の前に手をかざし、強制的に死角を作り、跳ぶ。

 

 

「こっちだ」

 

 

 姿を、見せてやる。

 そのまま路地裏に逃げたかと思うと建物の上へ。

 化け物達を処理しながら、巧みに吸血鬼を誘導していく。

 

 だが、厄介なDが残っている。

 ()()()、“わたし”は正面から向かった。

 

 まったくの無策。

 ただ、正面から全力で切りかかるだけ。

 だが、吸血鬼の死角には、常に【背後の悪魔(ハイドインハイド)】の恐怖がある。

 だから死角からの攻撃を警戒してDを背中合わせに配置し、ありもしない奇策、奇襲に意識を割いた。

 

 だから、許した。

“わたし”の真正面からの、全力攻撃を。

 ナイフが吸血鬼の腕をかいくぐり、首を掻き切る。

 否、ヒョウの(オーラ)が込もった一撃は、敵の首を両断し、宙に飛ばした。

 

 てん、てんと、首が転がる。

 転がってこちらを向いた首は……口の端を偃月の形につりあげた。

 

 

「──なにを考えている? この程度で我は死なぬぞ」

 

「承知の上だ!」

 

 

 うそぶく吸血鬼の首をすばやく捕らえ、駆ける。

 首を失った体は、首を求め、“わたし”を追いかけてくる。Dもそれに続く。

 

 

「無駄だ! 首を離したぐらいで死ぬ我ではない! そして、この程度で我が身体能力が落ちると思わないことだ!」

 

 

 吸血鬼が、なお傲岸(ごうがん)に叫ぶ。

 こいつの言っていることは、おそらく嘘じゃない。

 首を切り離したぐらいで死ぬのなら、そこを守りすらしないのはおかしい。

 

 

「だろうな。だが、場所が最悪だ」

 

 

 話している内に、目的地にたどり着いた。

 着いた先は、波止場。目の前には海が広がっている。

 

 

「──ここは港街なんだよ」

 

 

 吸血鬼は流水を渡れない。

 切り離されたパーツを繋ぐことはできても、再生はできない。

 

 ならば、こいつを倒す方法は、これだ。

 いまさら気づいた吸血鬼が、顔色を変える。

 

 

「まさか! やめろ! やめてくれ!」

 

「いままで殺してきた奴の、恐怖と無念を存分に味わって……死ね!」

 

 

 そのまま思い切り、首を海に投げ込む。

 絶叫を上げながら、吸血鬼の首は水面に吸い込まれていった。

 

 視界を失ったためだろう。

 胴体は、首を求めてうろうろと彷徨(さまよ)い歩く。

 

 

「朝日が出るまで、そうやってあがいてろ」

 

 

 言い捨ててから……Dに向き直る。

 

 主を失ったためだろう。

 Dは、呆けたようにその場に立ち尽くしている。

 仲間として、ともに戦ってきたD。だが、その身はすでに動く死体と化している。

 

 こいつはもうDじゃない。Dだったものでしかない。

 Dの尊厳を守るためにも、ここで殺さなくてはならない。

 

 留まり続けようとする殺意の仮面(ペルソナ)を、脱ぎ捨てる。

 

 

「……待ってろ、D。いま、介錯してやる」

 

 

 手の震えを、抑える。

 Dは、すでに死んでいる。

 だが、俺は、これから間違いなくDを殺すのだ。

 

 

「──無理するな。手が震えているぞ」

 

 

 声がした。

 それが誰の言葉か、最初わからなかった。

 Dの口が開き、Dの声で発せられた言葉だが、あまりにも意外で、そうと認識できなかった。

 

 

「あいつの支配が解けたようだな。自由に動く」

 

 

 手を握り、開く。

 その動きには、間違いなくDの意思が反映されていた。

 

 

「D、無事なのか?」

 

「無事じゃないな。なんせ今の俺は動く死体だ」

 

 

 自嘲気味に笑うD。パシリ、と乾いた音が聞こえた。

 

 

「D? どうした」

 

 

 不吉な予感を覚え、Dに尋ねる。

 Dは、その顔に透明な笑みを浮かべて、言った。

 

 

「……俺の能力が“波紋”で……【波紋疾走(オーバードライブ)】でよかった。ユウに、いやな役目を押しつけずに済むからな」

 

 

 Dの頬に、ヒビが入った。

 

 太陽の力、波紋。

 吸血鬼にとって天敵とも言える力。

 それを、自らの体に使っているというのか!

 

 

「D! やめろ! やめてくれ! もうすぐ帰れるんだぞ! いっしょに帰ろう、帰るんだ、D!」

 

 

 言う間にも、Dの身体が、どんどん崩れていく。

 

 

「ああ。そうできたら、いいな」

 

 

 Dの乾ききった口の端が、わずかに持ち上がる。

 

 

「──なら」

 

()()()()

 

 

 俺の願いを、誘いを。Dは、この上なく明確に、拒否した。

 

 

「感じるんだ。いま、俺に自我が戻ったのは、ただの偶然。死の間際の一時の奇跡だ。いつ失われるかわからない、不安定なもの……なら、俺は俺の意思で、俺のまま終わる事を選ぶ」

 

 

 その言葉を、否定したかった。

 だが、俺には、それを否定する言葉が、どうしても出て来なかった。

 

 

「だが断る、か……一度リアルで使ってみたかったが、そんな機会があるなんて……な」

 

 

 言いながら、安らかな笑みを浮かべ、Dは崩れていった。

 

 

「生きて帰れよ、ユウ」

 

 

 最後に、声が聞こえて。

 あとに残ったのは、一握の灰と……グリードアイランドの指輪だけ。

 

 灰を掬い取る。

 指輪とともにDの服のポケットに入れて。

 それを羽織って、無言のまま駆け出した。

 

 吸血鬼の言動で察した。

 やつらも、ブラボーを追っている。

 

 ブラボーも、戦っているのだ。

 なら、一刻も早く合流してともに戦う。

 そして──Dやヒョウの無念を晴らして、みんなで日本に帰るんだ。

 

 決意とともに、死の街をひた走る。

 祖たるアモンが倒れ、本当の意味で死の街と化したこの街に、俺の足音だけが高く響いた。

 

 

 




◆アモン=カラット

・H×Hで好きなキャラクター三人

 クロロ、イルミ、王(メルエム)、

・H×Hで好きな念能力三つ

 シャルナークの【携帯する他人の運命(ブラックボイス)】、ゲンスルーの【命の音(カウントダウン)】、ザザンの【審美的転生注射(クイーンショット)

・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ

 No.000支配者の祝福、No.001一坪の密林、No.002一坪の海岸線

・ユウからの第一印象

 創作で見るあの吸血鬼そのものだ……


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