月明かり照らす死の街を駆ける。
求める相手はブラボー。いや、逢魔ヶ災でもいい。
奴らと戦っていれば、いずれブラボーと合流できる。
「どこだ……っ!?」
口の中でつぶやいた、直後。
突如、地を震わす轟音が、月明かり照らす死の街を揺るがした。
「なんだ!?」
あわてて足を止め、高所に登って異変の発生源を探る。
探すまでも無かった。
見れば、河を挟んで向こう側にある工場地帯が燃えている。
夜の闇を朱に染める炎は、天を焦がす。
あそこに逢魔ヶ災がいる。直感的に判断し、屋根伝いに駆け出した。
◆
「──オオッ!」
「──くそったれええ!!」
目の前に展開されている光景に、思わず固まった。
工場地帯のど真ん中。
焼け焦げぽっかりと開いた大地は、朱に染まっている。
戦うは2人の超人。キャプテン・ブラボーと、炎を使う赤髪の災。
殺したはずの男が生きていた。その驚きより、超常なる戦闘に魅入られたことで、とっさに動けない。
「燃え上がれ! 【
男の全身から、炎が放射される。
その熱は、離れた場所に居る俺の頬すら焼く。
この凶悪な熱が、工場の引火物に着火して大爆発が起きたんだろう。
「喰らいやがれええっ!!」
男が拳に纏わせた炎が、パンチとともに、ブラボー目掛けて一直線に襲いかかる。
「破ッ!!」
その炎を、ブラボーは腕を突き出し、真っ向から受け止めた。
「ちいっ!」
男は舌打ちして、ポケットからカプセルのようなものをジャラリと取り出した。
狙いを定めたとも思えない。無造作に投げられた大量のカプセルは、あらゆる場所に着弾し、炎を撒き散らす。
おそらく、男の血液で出来た爆弾だ。
その物量に、2つ3つ、ブラボーにも当たったが、鉄壁の装甲を破るほどではなかった。
「──レイズ、諦めなさい」
第三者の声が聞こえた。
ひどく温度の低い、女性の声。
「あなたでは、彼には敵わないわ」
その声に、聞き覚えはない。
ただ、彼女がブラボーの味方だと察することはできる。
「──チイっくしょう!! くそくそクソクソクソ喰らいやがれええぇ!!」
炎の災禍──レイズの身体から、炎が迸る。
いや、すでに彼自身が炎と化したかのような、すさまじい炎。
「おおっ──直撃、ブラボー拳っ!!」
ブラボーのパンチがレイズを捉える。
拳は、拍子抜けするほどあっさり、男の腹を貫いた。
──違う! 貫いたんじゃない。
体から炎が発しているんじゃない。
レイズ自身が、炎と化しているんだ。
これが炎の災禍の、本当の力。
以前の戦いで、頸動脈を切ったにもかかわらず生きていたのは、体を炎と化して無力化していたからか。
と、我に返る。
思わず魅入ってしまったが、ブラボーに加勢すべきだ。
とはいえ、炎と化した奴に有効な攻撃手段がない。
そもそも、炎があちこちに飛び火していて、ろくに動き回れない。
どこかに貯水槽でもないか。
周囲を見渡していて、思いつく。
──工場地帯なら、消火のための強力な機材があるに違いない。
そう考えて、手近な施設の中を探しまわり、見つけた。
粉末消化剤と書かれた、巨大なボンベ。
四苦八苦しながら、なんとか装置からボンベを取り外し、再び戦場に駆けもどる。
「──はああああっ!!」
「──おおおおおっ!!」
炎化による物理攻撃無効のレイズ。
絶対的と言ってもいい防御力を持つブラボー。
おたがい有効打を与えることができない膠着状態。
──
Dの上着を置き、殺意の
──【
レイズの直上に転移して、ボンベの栓を開ける。
強烈な反動と共に、すさまじい勢いで薄桃色の粉末がぶちまけられた。
「──くっそ、なんだこりゃあ!!」
消化剤にまみれ、レイズの体から炎が消える。
おそらく、実際の効果は一瞬。
だが、「消火剤により火が消された」という事実は、レイズの能力を深刻なレベルで阻害する。
俺が、能力発動とは関係ない観客の視線まで感知してしまい、【
消化剤の目隠しがあるうちに、素早く離れた地点に転移し、空になったボンベを置き捨てる。
「くそっ! またてめぇか!」
「粉砕! ブラボラッシュ!!」
レイズの目がこちらに向いた一瞬の隙。
それを見逃さず、ブラボーの連撃がレイズに直撃した。
今度はまともに入った。
レイズは人身事故のような勢いで吹っ飛んでいく。
「……ぐ、畜生」
ふらふらと、レイズが立ち上がる。
だが、消化剤にまみれた体では、炎が上手く出せない様子。
「残念ね、炎になれないのなら、こちらのもの」
──【
女の声とともに、レイズは黒い
後にはなにも残らない。
思わず、それを成した人物を見る。
美しい女性だった。
白磁で作られたかのように、冷たく、整った顔立ち。
腰まで伸びるほど黒く長い髪。服装は、黒のゴシックロリータ。
「ありがとう、助かったわ。あなたは、彼の仲間……で合ってるかしら?」
女性が、こちらに顔を向ける。
声にも、表情にも、ぞっとするほど温度がない。
そのことに不安を感じながら、女性の問いにうなずく。
「そうだ。ユウ=ミルガン。ブラボーの仲間で間違いない……あなたは?」
「アマネよ。わたしも似たようなもの。あらためて御礼を言わせてくれる? ありがとう。彼を助けてくれて」
美しい顔を崩すことなく、彼女はこちらに歩み来る。
不安から、視線をブラボーに送る。
だが、ブラボーに反応はない。ただこちらを向いているだけ。
ふと、気になる。ブラボーの手には、手袋の上から指輪がはめられている。
グリードアイランドの指輪じゃない。
金色の、不吉な輝きを持つ指輪だ。
アマネは俺に、握手を求めて手を差し伸べてくる。
身長差から、見下される形。虚ろな瞳に、引き込まれるように手を伸ばそうとした、瞬間。
「──がっ!?」
横合いから、何者かにタックルを受け、吹き飛ばされた。
視界がズレ、受身を取る暇もなく、地面に押さえ込まれる。
見れば、俺を抑えているのは、シュウだ。
文句を言う前に、目の前を黒い
あれは、アマネの念能力。先ほどレイズを飲み込んだものだ。
「な、なにを!?」
「あちゃ、失敗か」
何事もなかったかのように、アマネはつぶやいた。
その顔が、あまりにも平坦すぎて……逆に恐ろしい。
「油断するな、ユウ。
その言葉の意味を理解するより早く。
アマネの背中で、白い
ぼとり、と、その中から落ちてきたのは、寸刻みにされた肉片。
エースと同じ殺され方。その意味が、わからないはずがない。
「仕方ない。
理解が遅れた。
だからわずかに反応が間に合わない。
気がついたときには、眼前にブラボーが迫っていた。
ガードは間に合わない。
とっさに肩にオーラを集め、受け止める。
それでもなお、受けきれない。体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ぐっ」
詰まる息を、無理やり吐き出し、呼吸を整える。
いま戦闘体勢を崩せば致命傷だと、経験が告げていた。
「ユウになにしやがる──ブラボーっ!!」
ブラボーと、シュウの拳がぶつかり合う。
おたがい手加減などない。
「【
「流星……ブラボー脚!!」
ブラボーのキックとシュウの必殺技が宙で衝突する。
オーラが迸り、大気が震える。そんな光景に気を取られて。
「あなたは、わたしがお相手しましょう」
気がつけば、俺の体は黒い
◆
視界を覆う闇が消えた時、目の前の光景は一変していた。
古い洋館。
そんな言葉がぴったりくる、石造りの屋敷。
俺がいつのまにか立っていたのは、広間の中央。
カチ、カチと、やけにゆっくりとした振り子時計の音が、異様に耳に障る。
「ここは……」
「ようこそ。わたしの【
赤絨毯の引かれた階段。
階下を見下ろすように、アマネは立っていた。
「お前は……何者だ! ブラボーになにをした! 目的はなんなんだ!」
俺の叫びに、アマネは艶麗に口の端を綻ばせた。
「わたしが、あの人になにかしたと?」
「決まっている! そうじゃなきゃブラボーが、お前なんかの言うことを聞くはずがない!」
当たり前だ。
どんな理由があっても、あのブラボーが、エースを殺すような人間に従うはずがない。
アマネは、俺の言葉に、冷たい微笑を返して。
「ふふ、あなたはなにも知らないのね……せっかくだから、教えてあげましょうか」
そう言いながら、階段の手すりにしなだれかかる。
「あの人は、ブラボーは、もうわたしのもの。わたしを一番に想い、わたしの言うことならなんでも聞いてくれる。本当の恋人同士になったの」
言って、アマネは愛おしげに指輪を撫でる。
指輪。ブラボーの薬指にも、同じ指輪が嵌められていた。
「……念能力か」
「【
「なぜ、それほどブラボーに執着する」
「決まってるじゃない。わたしがあの人を──兄さんを愛しているからよ」
理解からほど遠い言葉に、なぜか動揺する。
「──兄妹だからと、結ばれることが許されない。そんな日本になんて興味ない……だけど、あの人は、責任感から、あなたたちプレイヤーを見捨てられない。だから殺すのよ。すべてのプレイヤーを」
「責任感?」
この女の思考は理解出来ない。いや、理解したくない。
だが、責任感という言葉が、心に引っかかる。
「あなたは、あの人がなぜ皆を助けようとしていると思ったのかしら。善人だから? キャプテン・ブラボーだから? ──違う。そうじゃない。あの人は後悔から、皆を助けようとしている。
そして女は決定的な言葉を吐いた。
動揺する。心が乱れる。だが、無理矢理に押さえつける。
「開発者──ゲームマスター。【逢魔ヶ災】と同じ」
「そう。違いがあるとすれば、あの人は一般プレイヤーとして参加した、301人目のプレイヤーということだけ。あの人は、【逢魔ヶ災】のような宿業を持たなかった。だから彼らの虐殺を止めるために戦い……でも、かつての仲間を、殺すことが出来なかった。収監するに留めて、わたしが彼らを解放する余地を残した」
「なんのために、あんな奴らを」
「決まってるわ。
人質。エースのことだと気づく。
おそらくこの女はエースを人質にとり、ブラボーに指輪をはめさせ……そして、裏切ったのだ。
理解できない。生物として違いすぎる。
思いの強さは伝わるが、この女は常人が心に引いた一線を、正義を、倫理観を、
「……そんなことのために、【逢魔ヶ災】を解放して、俺たちの仲間を殺したのか」
「ええ。【
仲間割れしていたのは、それでか。
ブラボーが襲ってきた理由は、それか。
ブラボーがキャプテン・ブラボーたろうとしていたのは、それでか。
「なら、問題ないな」
つぶやくように言葉を落とす。
「俺が、お前を
「出来るかしら? あなたが、あなたごときが」
「
見下すようなアマネの問いに、俺は見定めた目標を言葉にする。
「なら、まずはここから出てみなさいな。万が一生き残れたら……相手してあげるわ。まあ、無理でしょうけれど」
──【
女はつぶやくように言った。
その言葉に応えるように、突如館が蠢きだした。
「──っ!?」
頭上の空気が揺れるのを察知し、跳び退る。
轟音とともに、鼻先をかすめてシャンデリアが地面に落ち、四散した。
「さあて、あなたはどこで死んじゃうのかな?」
無邪気な口調でそう言って。
アマネは奥へと退がっていく。
追いかけようとして──悪寒。無理やり足を止める。
直後、地面から、無数の槍が飛び出してきた。
「まてっ!」
とっさに足元のオーラを爆発させ、アマネに迫る。
だが、それを阻むように。
俺とアマネの間を、振り子仕掛けの刃が横切った。
もはやこちらに視線もくれず、アマネは奥に引いていく。
「心配しなくても、もうひとりの男の子も、ここに送ってあげるわ。いっしょに死ねば、寂しくないでしょ?」
「ま、まて! シュウをどうする気──」
俺の鼻先で、扉が閉じられた。
押しても引いても、扉は開かない。
ふと、気づく。
振り子時計が時を刻む音。
それに混じって、なにかが風を切る音が、後ろから聞こえてくる。
振り返って見れば、機械仕掛けの人形が、刃を手に、回転しながら近づいて来ていた。
ゆっくりと、ゆっくりと。だが、確実に迫ってくる。
あの、異常に遅い振り子時計の音に合わせるように、ゆっくりと、道幅いっぱいに刃を振り回す人形。
逃げ場は、ない。
──俺以外には。
外套に身を隠し、殺意の
──【
人形の背後に瞬間移動し、続けざまに転移。一気に階段の傍まで跳ぶ。
そのまま階段を飛び降り、広間に戻った。人形は、まだ顔をこちらに向けたばかり。
玄関の扉は──開かない。
それどころか、上からギロチンの刃が落ちてきた。
かろうじて躱し、広間から通じる扉を片端から開けていく。
客間では、重厚な高級調度品が、群れをなしてこちらを挟み殺そうと迫ってきた。
キッチンでは、無数の包丁が群れをなし、俺を食材にしようと容赦なく襲ってくる。
この館の部屋一つ一つが死のトラップ。
なんとか逃げおおせ、扉を閉じた俺は、やっとその事実に気づいた。
──考えろ。
思考を巡らせる。
アマネの入っていった部屋、あれが出入り口だろう。
たぶん、あの扉を開くには、なにか条件が必要なはずだ。
死ぬまで出られない。
そんな致命的な念能力の発動条件が、あの黒い物体に触れるだけ、なんて軽いものですむはずがない。
どうすればいい。
ホラー物の小説なんて、読んだことない。
この手の展開の、定番の謎解きってなんだ。
考えているうちにも、殺人人形が、時を刻むように、じりじりと迫ってくる。
──あれか?
だが、殺人人形を倒すことぐらい、誰もが考えついたはずだ。
しかし炎の災禍は死んだ。
あれ程の実力者がだ。単純な暴力では、おそらく脱出できない。
館中を観察する。
よく見れば、かすかにだが、館の壁や床に焦げ付いたような跡が残っている。
レイズが足掻いた痕跡。
その爪痕が、ひとつの扉に向かって続いていた。
アマネが出ていった扉とは逆。階段を登った左に見える扉だ。
あそこに向かっていたのか、逆にあそこから逃げてきたのか。
どちらにせよ、他の扉を選ぶより、状況を打破できる可能性は高い。
また追い詰められても厄介なので、人形をギリギリまで引きつけ、二階に駆け上がる。
部屋の前にたどりつき、慎重に、ドアノブに手をかける。鍵はかかっていないようで、あっさりと扉が開いた。
そこは寝室だった。
天蓋つきの豪奢なベッドに、高価な調度品の数々。
その中で目を引いたのは、テーブルの上に広げられた、豪華な装丁の本。
なにかヒントになればと、目を通してみる。
どうやら日記のようで、悪趣味なことに、この屋敷が化け物屋敷へと変貌を遂げて行く過程と、屋敷の主人の苦悩が書き綴られていた。
読み進んでいくと、日記に一枚の紙片が挟んであった。
“この先を読むな! かぎとけいのなか──A”
走り書きでそう書いてあった。
罠、ではない。
A……エース。彼が残したヒントだ。
おそらく、この本を読み進めると、致命的な罠が発動する。それを伝えたかったのだろう。
エース。
彼は、こんな場所に取り残されて。
自分の死が間近に迫った絶望の中で。
それでも仲間のために、このメモを残してくれたのか。
「エース……ありがとう」
こみ上げる感情を抑えて。
紙片をポケットに入れ、部屋を出る。
鍵は時計の中。
この部屋にある時計ではないだろう。
鍵を隠すには小さすぎる。たぶん、広間の大時計だ。
部屋を出ると、殺人人形は二階に上がってきていた。
扉の影から、【
大時計を開き、振り子を止める。
振り子の裏側を探ると、金色の鍵が嵌っていた。
それをもぎ取った、瞬間。
館全体が震えたように感じた。
カチ、カチと、大時計が正常に時を刻み始める。
異様な気配とともに、鈍い光が目に入った。
見れば、殺人人形が、危険なオーラを纏い、階段の上からこちらを睨んでいる。
おそらく、鍵を取ったことで、なんらかの仕掛けが発動したのだ。
トン、と、階段から飛び下りて来る殺人人形。その動きは、今までとは比べ物にならないほど速い。
ここは逃げの一手だ。
人形の脇をすり抜け、階段に向かい、駆ける。
人のように滑らかな動きで追ってくる人形を、階段を登ったところで蹴落とし、そのまま右手奥の部屋に鍵を差し込む。
真っ暗な部屋の中に、白い
あの黒い
後ろから、殺人人形がすさまじい勢いで迫って来る。
俺は覚悟を決め、思いきって白い
◆レイズ=ブレイム
・H×Hで好きなキャラクター三人
ゴン、ヒソカ、ウヴォーギン
・H×Hで好きな念能力三つ
ヒソカの【
・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ
No.005神隠しの洞、No.070マッド博士の筋肉増強剤、No.075奇運アレキサンドライ
・ユウからの第一印象
気のいい兄ちゃんっぽいけど……目がやばい。