視界が変わる。
念空間から現実へ。
爆心地のような工場地帯へ。
戻った──刹那。
至近に殺意の込もった視線を受けて、とっさにオーラを集中。
直後、頭部に衝撃を受け、ふっ飛ばされる。
危ない。オーラ移動が間に合ってなかったら、首を折られてた。
オーラを集中した足で無理やり体勢を立て直し、視線を敵に向ける。
攻撃したのは、やはりアマネ。
「あら残念、戻ってこれたのね」
余裕の表情を崩さないまま。
漆黒のドレスに身を包んだ美女は、こちらに視線を向ける。
不覚。予想して然るべきだった。
無事に出てこれた時、それがわかるような条件をつけておくのは、当然の備え。
「ユウ!」
「シュウ、無事だったか!」
横合いから投げられた声だけで判断し、返答する。
視線を横にやると、シュウは体に無数の傷を負っている。
対するブラボーも、無傷ではない。銀色のオーバーコート──無敵の
「──状況は?」
「互角だよ。腹立つことにな」
シュウの視線はブラボーに固定されたまま。
俺も視線をアマネに戻す。黒い女は、構えもせず、悠然と佇んでいる。
「残念ね、下手に戻らなかったら、いっしょに死ねたのに。一度館から生還したら、もう【
嘲弄するようなアマネの言葉は、無視。
視線を敵に向けたまま、シュウに語りかける。
「シュウ。ブラボーはあいつに操られてる。媒体は指にはめた金の指輪。効果は、たがいがたがいを最優先にする」
「なるほど、うらやましい──じゃない。面倒くさい能力だ。ユウ、倒せるか?」
「無理だな。俺一人では」
「奇遇だな。オレも、一人じゃブラボーを倒すのは無理だ」
俺の意図が通じたのだろう。
シュウがおなじ言葉を返す。
「だから、シュウ。ふたりでやろう」
「ああ、オレたちが最高のコンビだってとこを見せてやろうぜ、相棒」
肩を並べ、敵に向かう。
応じて、ブラボーとアマネも“練”。戦闘態勢に入った。
状況は悪い。
グリードアイランドからこちら、ほとんど休み無しの連戦だ。
肉体的にも精神的にもオーラ的にも消耗していて、万全とは程遠い。
加えてアマネの放つオーラの量は規格外。
ブラボーやシュウ──プレイヤーとして最高峰をすら凌駕するオーラ量は、まともな手段で得たものではありえない。
おそらくは、念能力によるオーラの収奪。【
圧倒的劣勢。だけど。
泣きたいくらい悲惨な状況でも、顔が自然と綻ぶ。
シュウが居れば、シュウといっしょなら、なんでも出来る。そう信じられる。
意識をシフトする。
迷いは禁物。ためらいは命に関わる。
だから、敵を──エースたちの仇を、プレイヤーにとっての絶対悪を、ブラボーの妹、アマネを、一直線に殺すと見定めて……視線が、
──アマネの狙いは俺か。望むところだ。
殺意の
敵の死角──背後から、圧倒的な殺意を向ける。
ブラボーとアマネが瞬時に振り返るが、そこには誰も居ない。
振り返ったことで、“わたし”が居るこの場所が、敵の死角と化した。
──【
転移先はアマネの背後、至近距離。
ヒョウのナイフで、心臓を狙う。
──
そう思った、瞬間。
ブラボーの蹴りが、ナイフを持つ手を強かに打った。
とっさにオーラで防御。攻防力移動が間に合い、衝撃で回転しながらも、ナイフを手放さずに済む。
「このっ!」
遅まきながら“わたし”の攻撃に気づいたアマネが、拳を放つ。
動作はぎこちない。だが恐るべき速度、込められたオーラは凶悪そのもの。
その、拳を。
「【
シュウの拳が迎え撃つ。
拳と拳が噛み合う異音。攻防は互角。
練度と筋力は段違い。“発”による威力強化も加わっている。
にもかかわらず、隔絶したオーラ量が、威力を同等に引き上げた。
この結果を見て、ブラボーが加勢に入る。
その動きを捉えて、背後の死角から殺意を飛ばす。
フェイントにはかからなかったが、一瞬、ブラボーの意識が逸れる。
そこに、前蹴り。
ブラボーは拳で迎撃。
蹴りと拳がぶつかり合う。
シュウとアマネ、俺とブラボー。
噛み合う2対の攻撃は
蹴り足がしびれる。
やはり強い。そのことに、敬意を覚える。
あの理不尽な強さは、
その力を俺たちに振るっているのだ。
どれほど辛いだろう。どれほど苦痛だろう。
他ならぬ家族が、妹が、それを強いているという事実に、いいようのない苛立ちを覚え──
「キャプテン・ブラボー!」
しかし、【俺/わたし】はブラボーに、なお戦うことを強いる。
重い拳に削られながら、あらゆる攻撃を跳ね返されながら、ブラボーに思いを叩きつける!
「お前も、兄貴なら……妹に、いいようにやられてるんじゃないっ!」
理不尽だとわかっている。
仲間と、実の妹、どちらに味方しようと地獄。
「せめて自分の意思で選べ! 俺たちとアマネ、どちらを失うかを!」
「雑音を──さえずるなぁっ!」
シュウと交戦していたアマネが怒声をあげる。
【
だが、好都合。
シュウのフォローを期待して、意識をアマネに全力集中。
複数の角度から“
直後。
パン、と、乾いた音が聞こえた。
鈍い痛みとともに、ヒョウのナイフが弾き飛ばされた。
やったのは……ブラボー。
ブラボーは、シュウの拳を体で受けながら、こちらに銃口を向けていた。
ありえない。
ブラボーがこちらを撃ったのは、アマネの命の危機だったのだから、不思議じゃない。
だが、ヒョウの
「……あ、あはは、あははは! やっぱり、やっぱり、わたしを選んでくださったのですねお兄さま! お兄さま! お兄さま!」
アマネは表情に喜悦を滲ませて、蹴りを放つ。
受けるは肘。オーラを集中。
ふっ飛ばされたが、アマネの右脛もただでは済んでない。
肘受け。防御技にして、敵の蹴り足を痛める痛め技だ。とはいえ、威力の違いにこちらの肘も傷んでいる。ダメージは五分。
「くっ──かわいげのない娘ね!」
「……くっ」
銃で飛ばされたヒョウのナイフは、別方向。
取りに行きたいが、シュウを2対1のままにするわけにはいかない。
即座に踏み込んでシュウと肩を並べる。
彼我の距離は、5メートル。一足一刀の間合いだ。
「……そうか」
対峙しながら、シュウが口を開く。
「
「……【
シュウの推測に。
手にした銃を捨てながら、ブラボーは答えた。
熱を持たぬその声に、わずかな苦痛の色が混じっている。
「なるほどな。あの異常な防御は、防護服の性能を極限まで高めていたからか」
おかしい。
せっかくの銃をなぜ捨てるのか。
自らの能力を、なぜ明かしてしまうのか。
気づいた。その理由。
ブラボーも、戦っているのだと。
“わたし”たちでも、アマネでもない。
──なら、
シュウに目配せする。
それだけで、こちらの意図は通じた。
脚に、心もとなくなったオーラを集中し、前へ。
狙うはブラボー。【俺/わたし】とシュウ、双方が、掛け値なしの全力でブラボーの命を取りに行く!
「兄さまを──このっ!?」
アマネがシュウに向けて出した黒い
【
「【
シュウの拳が、ブラボーを襲う。
凄まじいオーラ。おそらく全霊を絞り尽くした一撃なのだろう。
その、凄まじい攻撃に。
ブラボーは──自ら身を投げだして。
直後、アマネが、ブラボーを押しのけた。
「くっ、狙いは──」
アマネの言葉を遮って、シュウの【
アマネは吹き飛ばされて──だが、倒れない。攻防力移動でさえない。凶悪なオーラが、アマネの命を守ったのだ。
だが、ダメージは深刻。
おそらく肋骨は折れているだろう。
片足のダメージもある。もうろくに動けないはず。
だが、シュウもまた、動けない。
掛け値なしにオーラを絞り尽くしたのだ。立つことすらままならない様子。
俺もすでにギリギリの状態。
【
だが、アマネの切り札、【
──殺す。
殺意の
なけなしのオーラを、足に集める。
前へ。ただ前へ──疾走る!
狙いは、ブラボー。
最後の力を振り絞るからこそ。
攻撃は小さく、細かく、急所を狙う!
アマネは、動けない。だが、来る。
その歪んだ妄念は、醜悪な愛は、必ず動かない体を動かす!
俺とブラボーの間に、アマネが割って入る。
体を崩しながらの、無茶な迎撃。その速度は、俺の攻撃を理不尽に凌駕して──吹き飛ばされる。
「よくも……やってくれたわね」
吐き捨てながら、アマネが近づいてくる。
脚を引きずりながら。氷の美貌に怒りをたたえて。
届かないのか。
俺は、こいつに届かないのか。
殺された仲間たちの無念を晴らす事はできないのか。
このまま為すすべもなく、俺は死ぬのか。
──負けるな!
不意に、誰かの声が聞こえた気がした。
それが、かろうじて意識をつなぎ止める。
指先に、硬い感触。ヒョウのナイフだった。
そうだ。死の激痛を維持してまで、俺達に忠告をくれたヒョウ。
自分であることを望み、自分のまま死んで行くことを選んだD。
死の恐怖と戦いながら、後に続くものを助けようとしたエース。
──あいつらに胸を張るためにも、俺は最後まであがくのをやめたりしない!
魂で叫ぶ。
応じるように、力がわいてきた。
スズメの涙ほどの、それでも、一撃を放つには充分な力。
体が、なにかに突き動かされるように動く。
勝利を確信した。そんな表情のアマネの胸を、ヒョウのナイフが貫いた。
「か、は……」
掛け値なしに力を絞り尽くした。
もう、自分の体を支える気力もない。
だが、この手がアマネの命に届いたことだけは、確信出来た。
「さんきゅ……“
最後の最後。
己の存在そのものを絞ってオーラを生み出した
「そ、ん、な……」
アマネは、ゆっくりとくずおれる。
「いやだ、死にたくない。せっかく、いっしょに、なれるのに……いやだ。いやだよう」
血反吐を吐きながら、涙を流すアマネ。
「兄さま、お声を聞かせて。兄さま、こちらを向いてください。兄さま、どうか、わたしを、わたしだけを見ていてください。兄さま、兄さま、兄さま、兄さま、兄さま兄さま兄さまにいさまにいさまにいさまにいさまにいさま……」
すでに瞳はなにも映していない。
振り絞るような声が次第に弱くなっていき、ついには途切れた。
同時に、アマネの指にはまっていた黄金の指輪が、異様な輝きを帯びる。
死後強まる念。
だが、優先すべき者が死んでいたなら……ブラボーを縛るものはないはずだ。
「アマネ……」
ひどく疲れた声。ブラボーがこちらに近づいて来る。
「ブラボー」
動けないながらも、名を呼ぶ。
なんと声をかけていいかわからない。
たしかにブラボーは心を操られていた。
だが操っていたのは実の妹だ。その妹を殺したのは俺だ。「よかったね」とは言えるわけがない。
たとえその妹が、逢魔ヶ災を利用してかけがえのない仲間たちを殺した狂人だったとしても。ブラボーにとって俺は妹の仇。
だが。
「すまない……すべて、オレの責任だ……」
ブラボーはまず謝った。
なにを謝るというのか。
グリードアイランド・オンラインの開発者だから?
なるほど、おかげでとんでもない目にあった。だけど、おかげで、かけがえのない体験ができた。
妹が仲間を殺したから?
たしかにアマネは憎い。だが妹は妹、ブラボーはブラボーだ。
逢魔ヶ災を殺さずに収監するに留めたから?
日本での仲間を殺せるブラボーじゃないことは、俺が知ってる。
ブラボーが謝るべきことなんて、何ひとつない。
「うん──」
「ユウ。それ以上は駄目だ。オレを絶対に──許さないでくれ」
ああ。
その言葉で、気づかされた。
ブラボーは、裁かれたいのだと。
ブラボーが欲しいのは、許しではなく罵倒なのだと。
ふと、ブシドラの言葉を思い出す。
ビノールトがふたたび犯罪に手を染めた時、俺ごときが償いきれると思うな。
妹の犯した罪を、ブラボーは兄として背負っているのだ。償いきれないことを承知で。
「許さないさ。だから、俺はブラボーの望みを叶えない。罵らないし、裁かない」
「ユウ……」
「だけど、ブラボーがブラボーらしさを失ったとしたら……俺は悲しい。ものすごく」
「ユウ……」
ほかに掛ける言葉がないのだろう。
ブラボーは、俺の名を重ねて呼んで。
「──【ブック】」
しばらくして、やおら
取り出したカードは、【挫折の弓】。それを【ゲイン】して、ブラボーは俺のそばに置く。
「……ブラボー?」
「アマネの遺骸を葬る。その後は……もとより、ユウたちとは別の道を歩むつもりだった。だから……カミトたちには、オレは死んだと伝えてくれ」
その言葉に、俺は黙ってうなずいた。
カミトたちに嘘をつくことになるけど……無理に会わせれば、ブラボーはきっと、壊れてしまう。
ブラボーは、去っていく。
闇の中に消えていくその背中に、どんな声をかけるべきかわからず、俺はただ手を振った。
◆
ブラボーは去った。
だが、力を使い尽くした俺はまだ動けない。
それはシュウもいっしょらしく、身を引きずって俺の無事を確認したあとは、隣に寝転がってしまった。
「──なあ、ユウ」
ふいにシュウが話しかけてきた。
「あいつら、兄妹だったんだな」
「そうだな」
シュウの言葉に、つぶやくように応じる。
俺には妹が居る。
世間一般で見れば可愛い容姿の、性格はあまり可愛くない妹だ。
もし、妹と、仲間たちを天秤にかけなくてはならないなら……俺は妹を選ぶかもしれない。
だが、妹が過ちを犯そうとしたなら……ぶん殴ってでも止める。妹のために。これは絶対だ。
「……オレ、あの女の気持ち、ちょっとわかるかな」
「シュウ」
かまわず、口を開くシュウを止めようとして……あきらめる。
俺にとっては理解不能の生物でしかないが、シュウにとってはそうじゃないらしい。
そういえば、シュウには兄がいると言っていた。シュウが弟か、それとも妹なのかはわからない。だが、同じ年下の兄弟同士、共感する部分があるのかもしれない。
「兄妹で愛し合うなんて許されない……でも、こんなことが起こって、不意に、それが許される状況になったら、何に換えても手放したくない。そう思っちゃっても、仕方ないんじゃないかな」
「……思うだけならな。実際やったらただの犯罪者だ」
俺は、吐き捨てるように言った。
あの女に同情の余地などない。
あったとしても、仲間たちの命を奪った憎むべき敵だ。
シュウは、倒れたまま空を仰ぐ。
暗い闇に何を見ているのか、俺にはわからない。
「……そうだね。それが当たり前、なんだよね……」
その言葉からも、感情は読み取れなかった。
シュウと共に空を見上げて、ふと思った。
この空に、あとどれほどの同胞が生き残っているのだろうか。
この異邦の地で、彼らはどのようにして生きていくのだろうか。
──
あらためて、そう思った。
◆アマネ
・H×Hで好きなキャラクター三人
レオリオ、キルア、コルト
・H×Hで好きな念能力三つ
ヴェーゼの【
・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ
No.017大天使の息吹、No.024もしもテレビ、No.079レインボーダイヤ
・ユウからの第一印象
空恐ろしいほどの美人。危険な存在。