グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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03 200階クラス

 天空闘技場に来てから10日目。

 190階クラスの試合も波乱なく勝利し、200階クラス入りを決めた。

 

 すこし拍子抜け、と思うのは、初戦が初戦だったからだろう。

 念能力者同士の、衝突事故のようなマッチング。2度続く可能性もありえる、と警戒していたけど……警戒しすぎだったらしい。

 観戦席で見た同階層クラスの選手にも、念能力者っぽいやつは居なかったことを思えば、200階クラスに居る170人あまりの闘士は、その多くが「洗礼」を受けて念能力者になったのだろう。

 

 念能力は基本秘匿されるものだし、そんなものなのかもしれない。

 

 ともあれ、次は200階クラス。

 幼い頃のキルアがここで登録辞退したように、ひとつの区切りの地点だ。

 

 理由はふたつ。

 ひとつは、この先戦う相手は念能力者のみとなること。

 しかも、俺と違って純粋に技量だけで勝ち抜いてきた猛者たちだ。

 武器の使用も解禁され、試合での死傷率も格段に上がる。それ以前の階層とは危険度が段違いすぎる。

 

 もうひとつは、試合間隔に余裕が出ること。

 ノーダメージなら連日の戦いも強いられるこれまでと違い、申請登録制で90日の戦闘準備期間が用意されている。天空闘技場にあえて張り付きになる理由もなくなるわけだ。

 

 なので、200階クラス登録までに、シュウの部屋で作戦会議を開くことにした。

 

 

「どうする、シュウ? これからは時間に余裕を作れる。ファイトマネーで金の余裕もある。次のことを考えるいい機会だと思うんだけど」

 

 

 金に関しては本気で余裕がある。

 見た目が美少女なおかげか、選手として無駄に人気が出た結果、ファイトマネーが割増しになって、手元の現金は5億を超えている。

 

 それでもグリードアイランドを買おうと思ったら、ぜんぜん足りないんだけど。

 

 

「……いや、出来ればオレは200階でもハイペースで戦い続けたい」

 

「念能力者との、“発”アリでの戦闘経験。しかも実戦よりは危険の低い試合形式で。たしかに魅力的だけど……」

 

 

 グリードアイランドをプレイするために、戦闘力はもちろん必要だ。

 だけど、そっち全振りで他にリソース回さないのも、なんか違うというか……

 

 

「いや、経験積むのも大事だけど、本命はフロアマスター。ネームバリューのためにな」

 

 

 なるほど、と納得する。

 たしかに天空闘技場の最高位闘士ともなれば、立派な名士だ。

 どんなコミュニティでも大手を振って迎えられるだろうし、要人への面会もスムーズになる。

 

 

「俺たちに手が届く称号の中でも屈指のネームバリューか……うん。言われてみれは、たしかに魅力的だ」

 

「……あー。ユウ、違う。そっちも重要だけど、そうじゃない。ネームバリュー……【英雄補正(ネームバリュー)】はオレの念能力だ」

 

 

 食い違いに気づいたのだろう。シュウが訂正する。

 

 

「オレの念能力は2つある。ひとつは心の高ぶりを拳に宿す、必殺のパンチ、【正義の拳(ジャスティスフィスト)】。そしてもうひとつが【英雄補正(ネームバリュー)】だ。効果は、有名になることでオーラが増大する」

 

 

 うん。実にシュウっぽい。

 ヒーローっぽい能力かつ、微妙に捻ってるあたり特に。

 とはいえ、有名になるとオーラが増えるってのは……微妙にピンとこない。

 

 

「あー、わかりにくいか……ユウ、オレは思うんだよ。有名人ってオーラあるよなって。より多くの人に見られて、より多くの人に憧れられて、いろんな思いに磨かれた人間は、より強く輝く。それを念能力化したのが【英雄補正(ネームバリュー)】なんだ」

 

 

 言い終えて、シュウは“練”。力強いオーラを充満させる。

 天空闘技場高層階の人気選手。向けられた思いで強化されたオーラは、スタートラインがおおむね同じな俺の、3割増しといったところ。

 

 独自の価値観を盛り込んだだけあって、本当にシュウと相性のいい能力なんだな、と感じる。

 

 

「──社会的地位。名声によるオーラ増強。戦闘経験。全部いただくために、オレはフロアマスターになる」

 

 

 まっすぐ目標を見定めた、迷いない言葉。

 だったら俺も、負けないように進んでいかなきゃと思う。

 

 

「うん。俺も、ここで何戦かはしときたい。けど、念での戦闘を実際やってみて、足りない部分を鍛える──修行の時間をメインにしたいってのが本音かな」

 

 

 実際、念の行使に関しては、四大行は出来るけど、攻防力移動はお粗末で、“堅”の維持時間も数分が限度。“硬”や“円”は使えないというのが現状だ。

 念能力での戦闘に習熟した相手と戦うには、正直かなり心もとない。

 

 

「あとは、調べ物の類か。グリードアイランドに関係する人のことも、電脳ネットなら手軽に調べられるし……他には、ヒソカとか、ヤバそうな闘士の試合スケジュールとか」

 

 

 ヒソカの映像記録が販売されてたので、あの奇術師が天空闘技場に闘士として在籍しているのはたしかだ。

 直近の試合が二週間ほど前なので、すぐに試合を組むなら、当たることはないと思う。休みがちの死神だし。

 

 

「ここの危険人物に関しては、試合の合間にオレも調べてた。さすがに200人近い闘士全員を個別に調べる時間はなかったから、事情通に聞いたり、コアなファンサイトをチェックしただけだけど……2、3人、避けたほうがいい闘士が居る感じ」

 

 

 シュウが用意周到すぎて俺の仕事がすでにない。

 いや、勝手にやろうと決めてただけだけど、ちょっと焦る。

 

 

「──幸い、ここ数日中なら、厄介な連中とは当たらない。初戦はそのあたりで組むのがいいと思う。オレは試合日、明日で提出するつもりだけど」

 

 

 ──なるほど。じゃあ俺も同じ日に提出しようかな。

 

 

 などと考えた自身の考えのなさを呪いたい。

 二人の闘士が指定日を一緒にすれば、結果はどうなるか。

 よく考えれば分かるはずなのに……なんでこう迂闊なのか、俺というヤツは。

 

 

『さあ今日は大注目の一戦です! 破竹の勢いで勝ちあがってまいりましたシュウ=ブラスト、ユウ=ミルガン両選手が早くも登場! 期待のルーキー同士の対決に期待が高まります!』

 

 

 興奮気味のアナウンスに、観客が歓声を上げる。

 リング上。対戦相手のシュウは、余裕の表情で屈伸している。

 対戦カードが決まったときには動揺しまくったし、シュウには呆れられたけど……こっちだって、戦う覚悟はもう決めた。

 

 これは、テストのようなものだ。

 おたがい戦闘経験を積むため、天空闘技場で戦ってきた。

 その成果を示す時、と考えれば、無様な戦いは見せられない。

 

 軽く体を動かし、緊張をほぐす。

 200階クラスでは武器の使用が許されるが、さすがにナイフを使う気はない。

 かわりに、というわけではないが、持ち込んだのは黒の外套。それも体のラインが完全に隠れるゆったりとしたもの。

 特別な素材ではない……というか、ぶっちゃけ最初から着てた(エディット)衣装で、試合以外では日常使いしてるんだけど、相手からの死角を増やす、立派な武器だ。

 

 シュウも、武器は持ち込んでいない。

 もっとも、こいつの戦闘スタイルは【武道家/徒手】だから、必要ないってのもある。

 

 

「始め!」

 

 

 試合開始の合図。

 同時に、シュウが猛ダッシュで間合いを詰めてくる。

 拳は握り込まずに掌底の形。

 

 

 ──場外に押し出すつもりか! 

 

 

 狙いは腹。

 とっさに半身で躱す。

 掠めた掌には、攻防力70ほどのオーラが集まっていた。

 

 

 ──“流”! 

 

 

 滑らかさを欠いてはいたが、見せ札としては十分怖い。

 だが、同時にうれしくなる。シュウの、貪欲に強さを求める姿勢に。

 

 

 ──俺も、やる。

 

 

 好戦的な意識が這い出てくる。

 能力を使うと決めたいま、その存在をより顕著に自覚する。

 

 ふたたび掌底を繰り出すシュウ。

 その視界を、外套の裾を広げて遮る。

 

 一瞬。

 だが充分。

 俺の全身が、シュウの視界から、死角になった。

 審判の目、観衆の目に晒されている、拭い難い違和感。だが、能力発動の条件は満たしている。

 

 

 ──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。

 

 

 転移の念能力を発動した瞬間、視界が切り替わる。

 移動先は空中。シュウの頭上やや後方。取り残された外套と、シュウの後頭部がよく見える──ベストポジション! 

 

 躊躇なく蹴りを叩き込む。

 さすがに頚椎は避けたが、無防備なこめかみへの一撃は、意識を吹き飛ばすには十分な威力。

 

 だが、蹴った感触は異様。まるで巨大な樹木のそれ。

“練”だ。視界から俺が消えた瞬間、とっさの判断で守りを固めたか。

 

 しかし間に合ったのは防御だけ。

 俺の会心の蹴りは、シュウをリング外にふっとばした。

 

 

『おおっと! 相手を壁面まで吹き飛ばすシュウ選手の掌底は不発! 直後、背後に現れたユウ選手の蹴りがシュウ選手を直撃! シュウ選手吹っ飛んで、これはクリティカルアンドダウンで3ポイント!』

 

 

 アナウンスの声。

 だが、悠長に聞いては居られない。

 そばに落ちている外套を素早く身にまとい、再度転移の準備を整え、ふっとばされたシュウを警戒。

 

 シュウが、ゆっくりと起き上がる。

 その目は全然笑ってない。半ギレだ。

 

 

「うふふふふやってくれるねユウくん」

 

 

 ひとっ飛びにリング上に戻ると、シュウは剣呑な笑みを浮かべる。

 同時に、オーラが、爆発的に膨れ上がり、拳に集まっていく。

 

 

「仮にも女の子をこれでぶん殴るのって、ちょっとどうかなって思ってたけど……ちょうどいい。試すね」

 

 

 口調ー!? 

 なんか素に戻ってませんかシュウさん! 

 ロールプレイ! ロールプレイを大事にして! 

 

 

「……【正義の拳(ジャスティスフィスト)】ぉっ!!」

 

「──っ!」

 

 

 一直線に駆けながらの正拳突き。

 ひっどいテレフォンパンチなのに、恐ろしく速い。

 全力で逃げに徹して、かろうじて回避が間に合って──巻き込まれた外套が半分消し飛んだ!? 

 

 さすが。体格的には俺と似たりよったり。

 小兵なだけあって、ヘヴィ級のマッシュとは比較にならない速さだ。

 

 

「よそ見は禁物だ! 【正義の拳(ジャスティスフィスト)】!」

 

 

 連発できるのか!? 

 退がって躱すのはヤバい。直感的に前へ倒れ込む。

 這うように躱したところに──寒気。とっさに千切れた外套でシュウから身を隠す。

 

 

 ──【背後の悪魔(ハイドインハイド)】! 

 

 

 シュウの背後に転移した、瞬間。

 

 大砲でもぶっ放したような轟音。

 リングの石版が粉々に砕け散った。

 

 ぞっとする。

 当たったら運がよくても病院直行コースだ。

 

 

「殺す気かっ!?」

 

 

 あまりの威力に驚いて、攻撃のタイミングを逸した。

 半ば悲鳴を上げながら、ふたたび【背後の悪魔(ハイドインハイド)】を発動。

 外套を使わずとも、至近で石版の破片が飛び散るシュウの視界は最悪だ。

 

 転移先は、リングの縁。ひとまず距離を取る。

 直前まで居た場所に、シュウが振り向きもせず裏拳を放った。もう対応してきたか。

 

 

『豪腕の名に恥じぬシュウ選手の、石板をも破壊する強烈な一撃! それをすべて躱してユウ選手、高速の移動でリング端に現れたあ! 速すぎるっ! 神速の暗殺者の異名は伊達じゃない!』

 

 

 その呼び方やめろ。その呼び方やめろ。

 なんというか、体がむず痒くなるんだよ! 

 

 

「ふふふふふ」

 

 

 そしてそのふふふ笑いも、怖いからやめてくれませんかねシュウさん! 

 

 困った。

 あの【正義の拳(ジャスティスフィスト)】は攻略出来る気がしない。

 

 連発させてオーラを消耗させれば、とも思うが、あれを躱すために【背後の悪魔(ハイドインハイド)】を使っていたら、こっちが先にガス欠だ。

 感覚的に、転移できるのはあと2回が限度だろう。2回の転移で、シュウを倒せるか。不安だが……覚悟を決める。

 

 シュウの戦い方は、直線的で力づくな部分が多い。

 200階クラスに登るまでに、強敵と戦う機会がなかったからだろう。

 もちろん俺も似たようなものだが……素人同士、雑な駆け引きといこうじゃないか。

 

 覚悟を決め、外套を外す。

 さながら闘牛士(マタドール)のように。

 外套をはためかせながら、ゆっくりと前へ。

 シュウも、すり足でじりじりと距離を詰めてくる。

 

 死角が、わかる。

 はためく外套が、俺の体を隠す。

 同時に、【背後の悪魔(ハイドインハイド)】。目標はシュウの背後。

 転移と同時、シュウと目が合った。すでに【正義の拳(ジャスティスフィスト)】を放つ準備を終えている。

 

 わかっていた。

 三度目ともなれば、シュウならきちんと合わせてくる。

 だから、半身になりながら前へ。【正義の拳(ジャスティスフィスト)】が背中を吹き抜けていく。

 

 背中に痛みを感じながら、体当たり。

 硬い。重い。だけど、全体重をぶつけた分、手応えはある! 

 

 とっさに上着を破り捨て、シュウに向けて投げつける。

 【正義の拳(ジャスティスフィスト)】を受けたせいだろう。背中部分がごっそり破けた上着は、シュウの視界を遮り。

 

 

 ──今度は、跳ばない。

 

 

“練”。同時に、稚拙ながら攻防力を拳に集め、上着ごとシュウを殴る! 

 

 

 ──異様な手応え。

 

 

 それは、掌の感触。

 布一枚隔てて、シュウは俺の拳を受け止めていた。

 

 

 ── 一点読み? それとも反射神経? とにかくヤバい! 

 

 

 拳を引く前に、腕を掴まれる。

 続けざま、上着を引き裂いて、シュウの【正義の拳(ジャスティスフィスト)】が迫ってくる。

 

 ガードが間に合わない。

 攻防力移動はもっと間に合わない。

 

 

 ──“練”! 

 

 

 これしかないと、全力でオーラを絞り出す。

 すでに詰みだ。命だけは助かりますように、と全力でお祈りして。

 

 ぽこん、と、音が鳴った。

正義の拳(ジャスティスフィスト)】が当たった音だ。

 シュウは信じられないものを見るような表情で、こっちを見ている。

 

 正確には、俺の胸のあたり。

 ちなみに上着を破ったせいで、いまの俺は上半身下着姿だ。

 

正義の拳(ジャスティスフィスト)】は感情で威力が左右される。

 ということは、威力が下がることもありえるわけで。

 

 

「なんだそりゃあっ!?」

 

 

 あんまりな顛末に、全力でアッパーめいたツッコミを入れる。

 

 

「ダウン、勝負あり! 勝者ユウ!」

 

 

 こうしてあまりにも馬鹿らしく、シュウと俺の対戦に決着がついた。

 

 

 




◆シュウ=ブラスト

・H×Hで好きなキャラクター三人

 ゴン、キルア、コルト

・H×Hで好きな念能力三つ

 ゴンの【ジャジャン拳】、ネテロの【百式観音】、フィンクスの【廻天(リッパー・サイクロトロン)

・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ

 No.034なんでもアンケート、No.064魔女の媚薬、No.079レインボーダイヤ

・ユウからの第一印象

 あ、ものすごくシュウっぽい。

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