天空闘技場に来てから10日目。
190階クラスの試合も波乱なく勝利し、200階クラス入りを決めた。
すこし拍子抜け、と思うのは、初戦が初戦だったからだろう。
念能力者同士の、衝突事故のようなマッチング。2度続く可能性もありえる、と警戒していたけど……警戒しすぎだったらしい。
観戦席で見た同階層クラスの選手にも、念能力者っぽいやつは居なかったことを思えば、200階クラスに居る170人あまりの闘士は、その多くが「洗礼」を受けて念能力者になったのだろう。
念能力は基本秘匿されるものだし、そんなものなのかもしれない。
ともあれ、次は200階クラス。
幼い頃のキルアがここで登録辞退したように、ひとつの区切りの地点だ。
理由はふたつ。
ひとつは、この先戦う相手は念能力者のみとなること。
しかも、俺と違って純粋に技量だけで勝ち抜いてきた猛者たちだ。
武器の使用も解禁され、試合での死傷率も格段に上がる。それ以前の階層とは危険度が段違いすぎる。
もうひとつは、試合間隔に余裕が出ること。
ノーダメージなら連日の戦いも強いられるこれまでと違い、申請登録制で90日の戦闘準備期間が用意されている。天空闘技場にあえて張り付きになる理由もなくなるわけだ。
なので、200階クラス登録までに、シュウの部屋で作戦会議を開くことにした。
「どうする、シュウ? これからは時間に余裕を作れる。ファイトマネーで金の余裕もある。次のことを考えるいい機会だと思うんだけど」
金に関しては本気で余裕がある。
見た目が美少女なおかげか、選手として無駄に人気が出た結果、ファイトマネーが割増しになって、手元の現金は5億を超えている。
それでもグリードアイランドを買おうと思ったら、ぜんぜん足りないんだけど。
「……いや、出来ればオレは200階でもハイペースで戦い続けたい」
「念能力者との、“発”アリでの戦闘経験。しかも実戦よりは危険の低い試合形式で。たしかに魅力的だけど……」
グリードアイランドをプレイするために、戦闘力はもちろん必要だ。
だけど、そっち全振りで他にリソース回さないのも、なんか違うというか……
「いや、経験積むのも大事だけど、本命はフロアマスター。ネームバリューのためにな」
なるほど、と納得する。
たしかに天空闘技場の最高位闘士ともなれば、立派な名士だ。
どんなコミュニティでも大手を振って迎えられるだろうし、要人への面会もスムーズになる。
「俺たちに手が届く称号の中でも屈指のネームバリューか……うん。言われてみれは、たしかに魅力的だ」
「……あー。ユウ、違う。そっちも重要だけど、そうじゃない。ネームバリュー……【
食い違いに気づいたのだろう。シュウが訂正する。
「オレの念能力は2つある。ひとつは心の高ぶりを拳に宿す、必殺のパンチ、【
うん。実にシュウっぽい。
ヒーローっぽい能力かつ、微妙に捻ってるあたり特に。
とはいえ、有名になるとオーラが増えるってのは……微妙にピンとこない。
「あー、わかりにくいか……ユウ、オレは思うんだよ。有名人ってオーラあるよなって。より多くの人に見られて、より多くの人に憧れられて、いろんな思いに磨かれた人間は、より強く輝く。それを念能力化したのが【
言い終えて、シュウは“練”。力強いオーラを充満させる。
天空闘技場高層階の人気選手。向けられた思いで強化されたオーラは、スタートラインがおおむね同じな俺の、3割増しといったところ。
独自の価値観を盛り込んだだけあって、本当にシュウと相性のいい能力なんだな、と感じる。
「──社会的地位。名声によるオーラ増強。戦闘経験。全部いただくために、オレはフロアマスターになる」
まっすぐ目標を見定めた、迷いない言葉。
だったら俺も、負けないように進んでいかなきゃと思う。
「うん。俺も、ここで何戦かはしときたい。けど、念での戦闘を実際やってみて、足りない部分を鍛える──修行の時間をメインにしたいってのが本音かな」
実際、念の行使に関しては、四大行は出来るけど、攻防力移動はお粗末で、“堅”の維持時間も数分が限度。“硬”や“円”は使えないというのが現状だ。
念能力での戦闘に習熟した相手と戦うには、正直かなり心もとない。
「あとは、調べ物の類か。グリードアイランドに関係する人のことも、電脳ネットなら手軽に調べられるし……他には、ヒソカとか、ヤバそうな闘士の試合スケジュールとか」
ヒソカの映像記録が販売されてたので、あの奇術師が天空闘技場に闘士として在籍しているのはたしかだ。
直近の試合が二週間ほど前なので、すぐに試合を組むなら、当たることはないと思う。休みがちの死神だし。
「ここの危険人物に関しては、試合の合間にオレも調べてた。さすがに200人近い闘士全員を個別に調べる時間はなかったから、事情通に聞いたり、コアなファンサイトをチェックしただけだけど……2、3人、避けたほうがいい闘士が居る感じ」
シュウが用意周到すぎて俺の仕事がすでにない。
いや、勝手にやろうと決めてただけだけど、ちょっと焦る。
「──幸い、ここ数日中なら、厄介な連中とは当たらない。初戦はそのあたりで組むのがいいと思う。オレは試合日、明日で提出するつもりだけど」
──なるほど。じゃあ俺も同じ日に提出しようかな。
などと考えた自身の考えのなさを呪いたい。
二人の闘士が指定日を一緒にすれば、結果はどうなるか。
よく考えれば分かるはずなのに……なんでこう迂闊なのか、俺というヤツは。
『さあ今日は大注目の一戦です! 破竹の勢いで勝ちあがってまいりましたシュウ=ブラスト、ユウ=ミルガン両選手が早くも登場! 期待のルーキー同士の対決に期待が高まります!』
興奮気味のアナウンスに、観客が歓声を上げる。
リング上。対戦相手のシュウは、余裕の表情で屈伸している。
対戦カードが決まったときには動揺しまくったし、シュウには呆れられたけど……こっちだって、戦う覚悟はもう決めた。
これは、テストのようなものだ。
おたがい戦闘経験を積むため、天空闘技場で戦ってきた。
その成果を示す時、と考えれば、無様な戦いは見せられない。
軽く体を動かし、緊張をほぐす。
200階クラスでは武器の使用が許されるが、さすがにナイフを使う気はない。
かわりに、というわけではないが、持ち込んだのは黒の外套。それも体のラインが完全に隠れるゆったりとしたもの。
特別な素材ではない……というか、ぶっちゃけ
シュウも、武器は持ち込んでいない。
もっとも、こいつの戦闘スタイルは【武道家/徒手】だから、必要ないってのもある。
「始め!」
試合開始の合図。
同時に、シュウが猛ダッシュで間合いを詰めてくる。
拳は握り込まずに掌底の形。
──場外に押し出すつもりか!
狙いは腹。
とっさに半身で躱す。
掠めた掌には、攻防力70ほどのオーラが集まっていた。
──“流”!
滑らかさを欠いてはいたが、見せ札としては十分怖い。
だが、同時にうれしくなる。シュウの、貪欲に強さを求める姿勢に。
──俺も、やる。
好戦的な意識が這い出てくる。
能力を使うと決めたいま、その存在をより顕著に自覚する。
ふたたび掌底を繰り出すシュウ。
その視界を、外套の裾を広げて遮る。
一瞬。
だが充分。
俺の全身が、シュウの視界から、死角になった。
審判の目、観衆の目に晒されている、拭い難い違和感。だが、能力発動の条件は満たしている。
──【
転移の念能力を発動した瞬間、視界が切り替わる。
移動先は空中。シュウの頭上やや後方。取り残された外套と、シュウの後頭部がよく見える──ベストポジション!
躊躇なく蹴りを叩き込む。
さすがに頚椎は避けたが、無防備なこめかみへの一撃は、意識を吹き飛ばすには十分な威力。
だが、蹴った感触は異様。まるで巨大な樹木のそれ。
“練”だ。視界から俺が消えた瞬間、とっさの判断で守りを固めたか。
しかし間に合ったのは防御だけ。
俺の会心の蹴りは、シュウをリング外にふっとばした。
『おおっと! 相手を壁面まで吹き飛ばすシュウ選手の掌底は不発! 直後、背後に現れたユウ選手の蹴りがシュウ選手を直撃! シュウ選手吹っ飛んで、これはクリティカルアンドダウンで3ポイント!』
アナウンスの声。
だが、悠長に聞いては居られない。
そばに落ちている外套を素早く身にまとい、再度転移の準備を整え、ふっとばされたシュウを警戒。
シュウが、ゆっくりと起き上がる。
その目は全然笑ってない。半ギレだ。
「うふふふふやってくれるねユウくん」
ひとっ飛びにリング上に戻ると、シュウは剣呑な笑みを浮かべる。
同時に、オーラが、爆発的に膨れ上がり、拳に集まっていく。
「仮にも女の子をこれでぶん殴るのって、ちょっとどうかなって思ってたけど……ちょうどいい。試すね」
口調ー!?
なんか素に戻ってませんかシュウさん!
ロールプレイ! ロールプレイを大事にして!
「……【
「──っ!」
一直線に駆けながらの正拳突き。
ひっどいテレフォンパンチなのに、恐ろしく速い。
全力で逃げに徹して、かろうじて回避が間に合って──巻き込まれた外套が半分消し飛んだ!?
さすが。体格的には俺と似たりよったり。
小兵なだけあって、ヘヴィ級のマッシュとは比較にならない速さだ。
「よそ見は禁物だ! 【
連発できるのか!?
退がって躱すのはヤバい。直感的に前へ倒れ込む。
這うように躱したところに──寒気。とっさに千切れた外套でシュウから身を隠す。
──【
シュウの背後に転移した、瞬間。
大砲でもぶっ放したような轟音。
リングの石版が粉々に砕け散った。
ぞっとする。
当たったら運がよくても病院直行コースだ。
「殺す気かっ!?」
あまりの威力に驚いて、攻撃のタイミングを逸した。
半ば悲鳴を上げながら、ふたたび【
外套を使わずとも、至近で石版の破片が飛び散るシュウの視界は最悪だ。
転移先は、リングの縁。ひとまず距離を取る。
直前まで居た場所に、シュウが振り向きもせず裏拳を放った。もう対応してきたか。
『豪腕の名に恥じぬシュウ選手の、石板をも破壊する強烈な一撃! それをすべて躱してユウ選手、高速の移動でリング端に現れたあ! 速すぎるっ! 神速の暗殺者の異名は伊達じゃない!』
その呼び方やめろ。その呼び方やめろ。
なんというか、体がむず痒くなるんだよ!
「ふふふふふ」
そしてそのふふふ笑いも、怖いからやめてくれませんかねシュウさん!
困った。
あの【
連発させてオーラを消耗させれば、とも思うが、あれを躱すために【
感覚的に、転移できるのはあと2回が限度だろう。2回の転移で、シュウを倒せるか。不安だが……覚悟を決める。
シュウの戦い方は、直線的で力づくな部分が多い。
200階クラスに登るまでに、強敵と戦う機会がなかったからだろう。
もちろん俺も似たようなものだが……素人同士、雑な駆け引きといこうじゃないか。
覚悟を決め、外套を外す。
さながら
外套をはためかせながら、ゆっくりと前へ。
シュウも、すり足でじりじりと距離を詰めてくる。
死角が、わかる。
はためく外套が、俺の体を隠す。
同時に、【
転移と同時、シュウと目が合った。すでに【
わかっていた。
三度目ともなれば、シュウならきちんと合わせてくる。
だから、半身になりながら前へ。【
背中に痛みを感じながら、体当たり。
硬い。重い。だけど、全体重をぶつけた分、手応えはある!
とっさに上着を破り捨て、シュウに向けて投げつける。
【
──今度は、跳ばない。
“練”。同時に、稚拙ながら攻防力を拳に集め、上着ごとシュウを殴る!
──異様な手応え。
それは、掌の感触。
布一枚隔てて、シュウは俺の拳を受け止めていた。
── 一点読み? それとも反射神経? とにかくヤバい!
拳を引く前に、腕を掴まれる。
続けざま、上着を引き裂いて、シュウの【
ガードが間に合わない。
攻防力移動はもっと間に合わない。
──“練”!
これしかないと、全力でオーラを絞り出す。
すでに詰みだ。命だけは助かりますように、と全力でお祈りして。
ぽこん、と、音が鳴った。
【
シュウは信じられないものを見るような表情で、こっちを見ている。
正確には、俺の胸のあたり。
ちなみに上着を破ったせいで、いまの俺は上半身下着姿だ。
【
ということは、威力が下がることもありえるわけで。
「なんだそりゃあっ!?」
あんまりな顛末に、全力でアッパーめいたツッコミを入れる。
「ダウン、勝負あり! 勝者ユウ!」
こうしてあまりにも馬鹿らしく、シュウと俺の対戦に決着がついた。
◆シュウ=ブラスト
・H×Hで好きなキャラクター三人
ゴン、キルア、コルト
・H×Hで好きな念能力三つ
ゴンの【ジャジャン拳】、ネテロの【百式観音】、フィンクスの【
・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ
No.034なんでもアンケート、No.064魔女の媚薬、No.079レインボーダイヤ
・ユウからの第一印象
あ、ものすごくシュウっぽい。