グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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30 エピローグ IF~架空交差点(プレイヤー専用掲示板有り)

「──ああ、いい天気だな」

 

 

 晴れた空を見上げながら、つぶやく。

 

 休日、せっかくの陽気。

 なのに、いったい俺はなにをやっているのか。

 

 

「おニイ、なんで逃避気味?」

 

 

 隣を歩く妹のマークは完璧。逃げようがない。

 

 知り合いにこんなとこ見られたらどうすんだ、とか。

 わざわざ休日つぶして、妹の服選びにつき合わされてる俺の気持ちを察しろ、とか。

 これから何時間も、お前の買い物につき合わされるんだ。逃避ぐらいさせろ、とか。

 

 いろいろ言いたいことはあるけど……

 

 

「仕方ないでしょ。晴美たち、急に来れなくなったんだから……ね、かわりにお昼、ご馳走するからさ」

 

 

 心の内を読まれてて、フォローも欠かさない。

 猫に首根っこ押さえられたネズミの心境だ。

 

 あきらめて、ため息をつく。

 対照的に、友はやたらと上機嫌。

 先日ばっさりと切った髪を揺らしながら、鼻歌など歌っている。

 

 もともと友がベースだったからだろうか。

 髪型まで似せると、本当に“ユウ”に見える。

 どうも“元ユウ”としては、目の前に同じ姿の人間が居るというのは、複雑な心境だ。

 

 

「でも、本当にいい天気だな」

 

 

 場所は、最寄りの繁華街。

 ビルの隙間から見える空は、高く、遠く。

 一炊の夢のようだった、向こうの世界を思い出させる。

 

 

『みんな、どうしてるかな』

 

 

 なぜか、俺と友の言葉が重なった。

 

 

「いや、晴美たちだよ!?」

 

 

 友はあわててつけ加える。

 

 肝が冷えた。

 心の内を言い当てられたのかと思った。

 いくら兄妹で気心が知れてるとはいえ、読心術レベルだといろいろ支障が出る。

 

 なんとなく気まずくなって、繁華街の景色を見回していると。

 

 

「──そりゃないっスよ!」

 

 

 ふいに聞き慣れた口調が耳に入った。

 思わず声の主を探し、あたりに目を配ると──居た。

 

 道を進んだ少し先、家電量販店の前。

 大学生くらいの青年と、中学校入りたてくらいの、長髪の少年が向き合っている。

 

 

「ダメだぜ、皆人(みなと)センセイ。模試で満点とったら、ゲームなんでも買ってくれる約束じゃん」

 

「だからってゲーム本体(ハード)はひどすぎるっス! キミの家庭教師代何ヶ月分だと思ってるんスか!」

 

「約束は約束じゃん。安請け合いしたセンセイが悪いと思って、ここはひとつ……」

 

「せめてソフトに! ソフトにオマケして下さいっス!」

 

「……おニイ、どうしたの?」

 

 

 友が、体を屈めて不審そうに見上げてくる。

 

 しまった。ふたりの掛け合いに、思わず足を止めていた。

 

 

「あ、いや、なんでもない」

 

 

 いくら口調が同じだからって、そんな偶然があるはずがない。

 きっとただの思い過ごし。そう、自分に言い聞かせて、視線を戻す。

 

 

「──母さん、まって!」

 

 

 と、歩道の向こうから、女の子が走ってきた。

 年の頃は、小学校の高学年くらいか。かわいらしい美人さんだ。

 

 きっと、なにかに目を取られてたんだろう。

 先を行く親を追いかけ、女の子は俺の脇を通り過ぎていった。

 

 なんとなくそれを目で追った、その先。

 女の子の母親らしき女性を見て、思わず目を疑った。

 その女性の外見が、“ミコ”をもう少し大人にしたような姿だったのだ。

 

 

美琴(みこと)、ぼうっとしてちゃダメでしょう? もう、来年から中学生のお姉さんになるんだから、しっかりしなきゃ」

 

「だって、ちょっと知ってるかも知れない人がいたから……」

 

「……おニイ?」

 

 

 親子の様子を見ていると、隣から絶対零度の声。

 

 

「わたし、小学生をナチュラルに目で追う兄を持った覚えはないんだけど」

 

 言葉と表情が怖すぎる。

 俺はあわてて視線を戻し、歩き出す。

 休日の繁華街。人通りは次第に多くなってきた。

 

 

「──で、どうだったのよ。グリードアイランド・オンライン」

 

 

 交差点で信号待ちをしていると、そんな声が聞こえてくる。

 

 思わず声の主を探す。

 だが人混みの中、見つけ出すのは容易じゃない。

 その間にも、会話する声だけは、はっきりと聞こえてくる。

 

 

「どうって、まだ始めてないよ」

 

「なんで? お前、帰ったら速攻プレイするって言ってたじゃん」

 

「それがさ、開始時間になって、始めた、はずなんだけど……気がついたら寝ててさ、いつの間にかキャラ、消失(ロスト)になってるし……ひとまず問い合わせ中」

 

 

 信号が青になり、人々が歩き出す。

 声は次第に離れていき、聞こえなくなった。

 

 

「──あ」

 

 

 横断歩道を渡ったところで、急に友が、隣で声を上げた。

 後ろを振り返る友に、釣られて振り返る。

 

 道を挟んだ向こう側。

 信号はすでに青になっている。

 だというのに、横断歩道の前で一人、立っている女性が目に止まった。

 

 20台半ばくらいに見える。

 長身にスーツ姿の似合う女性で、しゃんとした姿に、自然と目がいった。

 

 気のせいかもしれない。

 だけど、ほほえましげな視線は、たしかにこちらに向けられていた。

 

 思わず、魅入ってしまって。

 いきなり横合いから伸びてきた手が、俺の頬をねじりあげる。

 

 

「──っ!!」

 

 

 痛みに、声も出ない。

 

 

「なんで今日に限って女にばかり目が行くかな、おニイは」

 

「誤解もいいとこだ……というか、見てたのはおまえが先だろ」

 

 

 抗弁しながら、痛む頬を押さえる。

 俺たちのやりとりに、女性は笑みをこぼし──その微笑が、カミトのそれと重なった気がした。

 

 思わず二度見するが、瞬きをする間に、彼女の姿はかき消えていた。

 まるで最初から、居なかったかのように。

 

 

「さ、行こ。今日は思い切りつき合ってもらうんだから」

 

 

 なぜか頬を膨らませ、友は強引にこちらの手を引く。

 

 どうも妙な日だ。

 次々と仲間を連想させる人物に行き会う。

 となると、そろそろシュウが出て来てもよさそうなものだが、残念ながらあいつの姿は見当たらなかった。

 

 まあ、あいかわらずツイッターでは、頻繁にやりとりはしてるんだけど。

 

 

「おニイ、行こ」

 

 

 ずるずると引きずられていく俺。

 

 

 ──そういえば、この強引さは、なんだかシュウを連想させるよなあ。

 

 

 そんな事を考えながら、空をながめる。

 

 おなじ空の下に、仲間がいる。

 たとえ会うことがなくても、それだけはたしかで……そんな当たり前のことを、尊いと感じた。

 

 

 

 

◇GIO掲示板

 

 

【総合】プレイヤーの近況を語る61【雑談】

 

 

39:ソックスハンター◆hntysns11

 

 プレイヤーに歌姫がいる件

 【他サイトへのリンクです】

 

 

↑43:カズボウ◆hknetlcdt

 

 だれだ

 マスターAAさんとか非常に怪しいぞ

 

 

↑46:マスターAA◆thy72ksrg

 

 ちゃうわい

 どうせ幼狐さんかパンダ子さんあたりでしょ

 

 

↑49:パンダ子◆onNrnm1l2

 

 うちちゃうよー

 

 

↑53:幼狐◆kmMm35lol

 

 負の信頼はやめておくれ

 

 

↑57:マスターAA◆thy72ksrg

 

 じゃあ誰よ

 こんな悪ノリするのスレの者くらいじゃない?

 

 

↑59:ソックスハンター◆hntysns11

 

 わっかんない

「電波を渡る歌姫」とか呼ばれてるけど……

ハッキング系の念能力者かな?

 

 

↑62:カズボウ◆hknetlcdt

 

 懐かしいよね

 録音して好きな時に聞きたいわ

 

 

↑65:ロック◆bllag0466

 

 うわさだけど今度この歌姫さんの歌が(勝手に)リリースされるとかされないとか

 

 

↑67:カズボウ◆hknetlcdt

 

 まじか

 狐さん出世頭やん

 

 

↑69:幼狐◆kmMm35lol

 

 だから違うと言うとるのに……

 

 

 

 

【総合】プレイヤーの近況を語る63【雑談】

 

 

291:バグジー◆bnjml4gl4

 

  そういえばキャプテン・ブラボー居た

 

 

↑296:カズボウ◆hknetlcdt

 

  隠す気なしシリーズに新たな逸材が!

 

 

↑301:ツキシマ◆wrst87ume

 

  ちなみに隠す気なしシリーズ

 

  伝説の掃除夫ニキ

  ハンター試験に参加してたエルフ

  ハンター試験に参加してた学生服

  ヨークシンで目撃されたシスターでメイドさんなコスプレ美少女

  カキン帝国で目撃された某お嬢様学校の制服姿の金髪ツインテール

  主不明のブルーアイズホワイトドラゴン

  ゲーミングカラーロリ

  キャプテン・ブラボー ←NEW

 

 

↑304:カズボウ◆hknetlcdt

 

  まとめ乙

  さす月

 

 

↑309:バグジー◆bnjml4gl4

 

  カズさんツキシマさん待って欲しい

  俺殺されかけてたとこ助けられたんで

  ネタ枠に入れるのは申し訳ねえ

 

 

↑311:カズボウ◆hknetlcdt

 

  命を助けられた?

  なにがあったんです?

 

 

↑318:バグジー◆bnjml4gl4

 

  一服盛られて殺されかけてたとこを助けられたわ

 

 

↑321:ツキシマ◆wrst87ume

 

  どうやったらそんな状況になるのよさ

 

 

↑328:バグジー◆bnjml4gl4

 

  まあマフィアだし、武闘派として目立ってたし

  ファミリー内の政治闘争に巻き込まれて、的な

  もう駄目だと思った時に、助けてくれて、病院まで運んでくれたわ

 

 

↑331:ヨリゼロ◆km2noy1ba

 

  なにそれヒーロー?

  声かけなかったん?

 

 

↑334:バグジー◆bnjml4gl4

 

  毒盛られてたんだぞ。朦朧として意思疎通できんかったわ

 

 

↑338:カズボウ◆hknetlcdt

 

  おお……大変やったなあ

  生きててよかったな

 

 

↑341:マスターAA◆thy72ksrg

 

  ブラボー見たよ!

  ヤバすぎて遠巻きに見てただけだったけど、なんか人助けしてた!

 

 

↑345:カズボウ◆hknetlcdt

 

  すげえなブラボー

  マジでヒーローやん

 

 

↑348:ヨリゼロ◆km2noy1ba

 

  ブラボー! ブラボー!

 

 

↑249:バグジー◆bnjml4gl4

 

  ブラボー! ブラボー!

 

 

↑252:カズボウ◆hknetlcdt

 

  ブラボー! ブラボー!

 

 

↑254:パンダ子◆onNrnm1l2

 

  もっと愛を込めて!!

 

 

↑257:カズボウ◆hknetlcdt

 

  それはパピヨンなんだわ

 

 

 

 

◇□□□

 

 

 ……さて。

 その後の話をしよう。

 はるか遠い地。遠い国の、遠い街の話。

 

 プレイヤーなら誰もが知るその街を、ひとり歩く男が居る。

 白銀のオーバーコートを身に纏うその男の名は、キャプテン・ブラボー。

 

 いつだって、自分のためじゃない。他の誰かのために戦ってきた男。

 自らが傷つくことを厭わずに、なんの対価も求めず、戦い続けてきた……そしてこれからも戦い続ける戦士。

 

 その道行く先。

 往来の真ん中に、待ち構える者が居ることに、彼はいつ気づくだろうか。

 

 結論から言うと、同時だった。

 彼方を見据える彼の目が、こちらを捉えるのと。

 たまりかねたわたしが、彼に声をかけてしまったのが。

 

 

「──やっと、会えたわね」

 

 

 その声に、姿に。

 よほど驚いたのだろう、ブラボーはしばし無言で立ち尽くした。

 

 

「……カミト。どうしてここに」

 

 

 やがて、ブラボーは言葉を絞り出す。

 その問いに、わたしはとびきりの笑顔で答える。

 

 

「決まってるでしょ。わたしが、あなたの……相棒だからよ」

 

 

 そう。

 歩む道がどれほど険しくとも。

 ともに歩む仲間がいれば、耐えられる。

 なによりもわたし自身、それを知っている。

 

 だからわたしは決めたのだ。

 恩返しでも、別の理由でもない。

 相棒として、そうするのが当たり前だから──この道を、共に歩むと。

 

 空を仰ぐ。

 ユウちゃんたちが見る空とは別の、だけど同じ色の空。

 

 きっと空を見上げる度に、あの子たちのことを思い出す。

 ひょっとして、あの子たちも、空を仰ぐ時、わたしたちのことを思い出すかもしれない。

 

 

 ──だから、きっと想いは交錯(クロス)する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリードアイランド・クロス 了

 

 

 

 




グリードアイランド・クロスに、最後までおつき合いいただき、ありがとうございました!
次回以降、本編を補完する形で外伝となりますが、ひとまず完結ということで、皆様に感謝を。
以降の投稿は不定期となります。これからもおつき合いいただければ幸いです。
本編の重要なネタバレになる、外伝01 「SISTERS」だけは早めに投稿出来たらと思っております!
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