グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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02 エースピッチャー

 

 ──いきなり目の端をよぎった姿に、目を疑った。

 

 

 見間違いか?

 なんか妙な物体が目に入った。

 目をこすって、もう一度見てみる。

 

 

 ……間違いない。

 

 

 ブラボーだ。ブラボーがいる。

 街のど真ん中で、両手を腰につけ、仁王立ち。

 漫画のキャプテンブラボーそのまんまなことを抜きにしてもヤバイやつ――っと、気を取られてどうする! やべぇ!

 

 あわてて数メートルほども飛び退り、建物の影に隠れる。

 遠間だったんで、向こうには見つかっちゃいないと思うが、傍から見りゃ不審者だろ……しゃあないけど。

 

 

「ねーエース。いきなりなにしてるの?」

 

 

 俺の動きに取り残された青髪の幼女が、目を丸くしてる。

 

 

「おい、ボーっと突っ立ってんなよミオ!」

 

 

 あわてて首根っこ引っつかんで、建物の影に身を隠す。

 とりあえずひと安心……って、あれ? 相手がプレイヤーなら隠れなくてもよかったんじゃ……

 

 

「ねぇ。あれ、日本の人じゃないの? 声かけなくていいの?」

 

 

 青髪幼女──ミオが首をかしげる。

 

 そうだよなー。

 お仲間なんだから、わざわざ隠れなくてもいいんだよなー。

 でも、とっさに気づかなくて思わず隠れちまったなんて、言えないよなー。

 

 ミオがじっとこっちを見てくる。

 

 やべえ。

 母親とはぐれたっつーこいつを拾ってから二ヶ月。

 その間に築き上げた信頼とか年上の威厳が崩壊のピンチ。

 

 頬を冷や汗が伝う。

 考えろ、考えるんだ俺! 頭使うのは苦手だが、やれば出来る!

 

 

 ──見えた!

 

 

「……なあ、ミオ。たしかにあいつはプレイヤーで間違いねえだろ。でもな、プレイヤーだからってマトモなやつばっかりじゃねえ。中にはヤベえやつも居る。警戒するのは間違ってねえはずだ」

 

「あ、そうか」

 

 

 言うとミオは、拳で自分の頭をたたいた。

 

 あー、なんとか誤魔化せたか。

 まったく。こいつは年のわりにアタマいいから困る。

 

 

「だろ? だいたいあんなヤベえカッコしてる時点でヤベーやつだって。へたに関わんねえほうがいいぞ――って聞けよ!」

 

 

 なんか覗きこんで様子見てるし!

 俺の話聞いてなかったのかよ!

 

 

「うーん、でも、エース。なんかお友達がいるみたいだよ?」

 

「ん、どれどれ? あー、たしかにあの感じ(オーラ)はプレイヤーっぽいなー」

 

「でしょ?」

 

 

 えっへんと胸を反らす青髪幼女。

 つっても、全身コートの不審者のお仲間って時点で、ヤベーやつなんだろうが。

 

 女顔の鎖少年と、いかにもなお嬢様。

 そろって腕利きなのは、ちらっと見ただけでわかった。

 

 

「……あれ? みんなこっち来るよ?」

 

 

 ミオの言葉に、もう一回様子を見て――うわ、ばっちり目が合っちまった!

 

 

「バッカ見つかってんじゃねーか! ずらかっぞ!」

 

「えー? けっこういい人っぽいけどなー」

 

 

 たわごと抜かすミオの襟首引っつかんで、来た道を全速力で逃げる!

 

 一目散に駆けると同時。

 金属をこすりつけるような音がして、左右からナニカが迫ってくる。

 

 

 

「――って鎖ぃ!?」

 

「うわー」

 

 

 いきなり鎖が巻きついてきて、動けなくなった。

 

 なんだこれ念能力かよ!?

 くそっ! ぜんぜん千切れねぇ!

 

 

「ミオ、お前の馬鹿力で千切れねえか!?」

 

「うーん……ちぎったほうがいい?」

 

「当たり前だ! 早くしないと逃げられなくなるぞ!」

 

「いや、それは困るな」

 

「俺は困らねぇ!」

 

 

 ――って、もう来てるじゃねえか!

 

 

 ブラボー。鎖使い。お嬢様。

 あ、駄目だ。完全に逃げ道塞がれた。

 

 やってきた3人のうち、ブラボーが前に出る。

 

 

「俺はブラボー! キャプテン・ブラボーだ!」

 

 

 うわなんだ変なポーズ取りやがって新種の変態かよ!?

 

 

「アホかあっ! 怯えさせるんじゃない!」

 

 

 トォッコーン、と音が響く。

 鎖使いの、かなりいいのが変態の後頭部に直撃した。

 

 っつーかこいついま“凝”で殴んなかったか?

 仲間にやりすぎだろ。さすが白銀変態の仲間……つっても、突っ込み役ならすこしはまともかも――

 

 

「ごめんなさいね。いきなり逃げ出すから。あなたたち、プレイヤーよね」

 

「カマかよっ!」

 

 

 マトモじゃなかった!

 一番ヤベーやつだった!

 

 

「し、失礼ねっ! 中身と外見の性別が違うだけよ!」

 

「カマはみんなそう言うんだ! 近よんな擦りつくな気色わるい!」

 

「エース? なんかトラウマ?」

 

「やめろミオ言うな思い出させんなそしてカマ消えろ!」

 

「はいはーい。落ち着きなさい、ね」

 

 

 うわっ。鎖が絞まる、絞まってる!

 やべぇカマ顔笑ってねぇ! 半ギレだ!

 

 カマ相手に怖すぎるが、ここは全面降伏しかねえ。

 

 

「わかった。俺の尻を狙わない限り大人しくするので、とりあえず鎖はずしてください」

 

「なんであたしまで……」

 

 

 ミオ、文句言うな。

 相棒は苦難を分かち合うもんだ。

 

 

「よろしい。ちなみに外見と中身の性別が違うってのは、文字通りの意味だから。というか、プレイヤーなら素直に言葉通りに受け取りなさい」

 

 

 ……あー、キャラが男で中が女って意味か。

 ふー。俺の激ヤバトラウマの再来かと思ったぜ――って。

 

 

「……オイあんた。お仲間に、あからさまにホッとされてっぞ」

 

「え? ちょっと……ブラボーにミコ?」

 

 

 やべえ。目つきやべえこいつ怖え。

 

 

「いや。疑っていたわけではないが、そういう可能性も無きにしも非ずというか――うむ、差別はよくないぞ、カミト」

 

 

 煽ってる。煽ってるだろブラボー!

 

 

「わわわわたくしは最初から女のかただと信じておりましたわ! ただやはり疑惑を疑惑のままにしておくのは精神衛生上よろしくなかっただけで」

 

 

 ぜんぜん信じてねぇ! つか説得力ねぇ!

 

 

「……はぁ」

 

 

 あれ、いきなり肩落としたぞ?

 てっきり怒りにまかせた暴走から破壊コンボ発動かと思ったのに。

 

 

「いいのよわたしなんてオカマで。鎖の元ネタも、誰も気づいてくれないし」

 

「ん? クラピカの念能力じゃねぇのか?」

 

 

 うわ!?

 いきなりオーラまで黒くなった!? 暗っ!

 

 

「……あー。その昔、聖闘士星矢という漫画があってだな」

 

 

 あ、ブラボーの言葉が、なんかクリティカルっぽくヒット。

 

 

「たしかにわたしもリアタイ世代じゃないけど……わたしの心のオアシスを太古の昔とか言うなぁーっ!?」

 

 

 吠える女男。魂の絶叫っぽかった。

 

 やべえ。

 みんな徹底的にヒイてる。

 なんかかける言葉もねえって感じ。

 

 つーかミオまで引いてるって。

 初めて見たぞこの幼女が引いてるとこ。

 

 妙な沈黙が流れて。

 いきなり、派手なクラクションが気まずい雰囲気をぶち破った。

 

 

「――何事だ!」

 

「引ったくりだぁ!」

 

 

 ブラボーの問いに答えるように、声が上がる。

 直後、黒のスポーツカーが、目の前をすさまじい勢いで横切ってった。

 

 

「ああ……!」

 

 

 車が来たほうから、悲鳴。

 見たらばあさんだった……あー、引ったくりか。

 

 

「わたしの、わたしのバッグが!」

 

「ご無事ですかご婦人!」

 

 

 うわ速ぇブラボーもう声かけてる。

 

 

「わたしのバッグが奪われたの。あの中には銀行から下ろしてきた大金が!」

 

「わかった。俺に任せろ!」

 

 

 どん、と、胸をたたくブラボー。

 

 いや、安請け合いしすぎだろ。

 どうやってとっ捕まえんだよ。

 

 

「──カミト!」

 

「はーい。そう言うと思って、徴発――借りてきたわよ」

 

 

 うわ! いつの間にか車回してきてるし! 手ぇ早っ!

 つかあっちで半泣きの兄ちゃん、車の持ち主じゃねえのか?

 

 

「ミコ。強盗の位置は」

 

「そうおっしゃると思って、フレンを付かせておりますわ」

 

 

 うわ、密かにこっちも手ぇ早っ!?

 こいつらヤベえ……息ぴったりすぎんだろ!

 

 

「カミト、ご婦人を頼む!」

 

「わかってるわ……大丈夫よおばあさん。わたしの仲間がなんとかするから」

 

 

 運転をブラボーと代わり、降りてきた女男が、おばあさんをやさしく励ます。

 

 ああ。これを見て思っちまった。

 こいつらはバカだ。だけど、信じていいバカだ。

 

 迷わず、車の助手席に飛び乗る。

 

 

「俺も手伝ってやるよ」

 

「……ああ!」

 

 

 気のせいかな。

 ブラボーの声、すこし嬉しそうに聞こえたのは。

 

 

「ミオ、オマエはそっちの女男と待ってろ」

 

「はーい。エース、がんばってきてね!」

 

 

 元気よく返事するミオ。

 後部座席にミコが乗り込み、ドアが閉まる。

 

 

「でも大丈夫か? この車、軽乗用車(けい)じゃねぇか」

 

「安心しろ」

 

 

 ブラボーがアクセルを踏み込んだとたん、強烈なホイールスピン音――って、なんだこの加速は!?

 

 

「――なにを隠そう俺は、車(の運転)の達人だ!!」

 

「嘘つけぜってー念能力だろぉぉぉぉ!」

 

 

 軽の加速じゃねぇぞこれ!

 景色あっという間に吹っ飛んでくし!

 やべぇ! Gやべぇ! コレ何キロ出てんだよ! メーター振り切ってんぞ!?

 

 

「ブラボーさん! まっすぐ西ですわ! ハイウェイに入るようです!」

 

「わかった!」

 

「アクセルベタ踏みなのにそっから加速すんなー!」

 

 

 怖ぇ!

 ジェットコースターなんて目じゃねぇ!

 なんだコレ! 巨大チョロQか!? 死ぬ! 死ぬって!

 うわ直下に曲がんな軽でドリフトすんな10メートル以上空中を飛ぶなぁー!

 

 

「――見えたぞ!」

 

「早ぇ!?」

 

 

 高速に入ってまっすぐ一本道になって、やっと息がつけるかと思ったら、もう追いついたのかよ!?

 

 

「どうする!?」

 

「車を横付けにしよう! 後は任せるぞ!」

 

「よし、わかったぜ!」

 

 

 ブラボーの言葉に、拳を握り込む。

 銃にさえ気をつければ、一般人相手じゃ楽勝だ。

 強盗の車に、軽がぴたりと張りついて――じりじりと減速していく。

 

 違った。あっちがスピードを上げたんだ。

 こっちもスピードを上げるが……ダメだ。離されていく。

 

 

「ブラボー! どうにかならねぇか?」

 

「すまない! コレで限界だ!」

 

 

 アクセルもベタ踏み、念能力による強化も、限界っぽい。

 さすがにスポーツタイプの車と軽じゃ地力が違いすぎるのか。

 

 

 ──どうする?

 

 

 って、考えるまでもねぇか。

 俺の念能力なんて、出し惜しみするもんじゃねぇ。

 

 

「――ブラボー! いまから俺が車を止める! 人質は頼んだ!」

 

「わかった! だが、どうやって止める?」

 

 

 ブラボーの、問いに。

 俺は肌身離さず持ち歩いてる、野球の硬球を見せてやる。

 

 

「――俺の名前はエースだぜ? 決まってるだろ?」

 

「この車から投げるつもりか!? 無茶だぞ!」

 

「心配するな! 俺のボールはロケットエンジン搭載だ!」

 

 

 言いながら、パワーウィンドウを開いて屋根にはい出る。

 

 うわ! やっぱ風すげぇ!

 車間距離は、と、18メートルってとこか――ちょうどいい。

 

 足場も、噛ます余地はあるし、充分だ。

 キャリアのヘリに足をかけて、両手をそろえ、腰だめに構える。

 風のせいで、ずいぶん前のめりに構える形だけど――投げられる。

 

 

「行けるのか! 空気抵抗もある! 仮に時速200キロの球でも、後ろに吹っ飛んでくぞ!」

 

「……へっ、ブラボーさんよ。預けたんなら心配すんな! 俺の球は、風なんぞに負けねぇ!」

 

 

 俺の念は、投げた球の変化を超増幅する能力だ。

 

 そして、俺はあらゆる変化球を投げられる。

 あらゆる変化球が魔球になる。それが【魔球X(ミラクルボール)】。

 

 投げる球は決まりきってる。

 目標は、相手乗用車の左後輪。

 ピッチャー、第一球、振りかぶって――投げました!

 

 

「魔球っ――ジャイロォォッ!!」

 

 

 ジャイロボール。

 弾丸と同じ回転を持つ、極上の速球(ファストボール)

 その性質を強化したこの球は、風の抵抗を貫く!

 強烈な回転のかかった球は、オーラを纏わせ、タイヤに吸い込まれていく。

 

 パン、と言う音とともに、車がスピンしだす。

 それを確認して──俺は後ろにすっ飛ばされた。

 ああ、そういや投げ終わった後のことなんて考えてなかったぜ。

 

 

 ──あ、走馬灯……オーラで防御……

 

 

 ぼふ、と、やわらかいものに包まれた。

 かと思ったらうわ目が! 目が回る!? なんだコレ転がってんのか!?

 

 どん、と、衝撃が来て、やっと止まった。

 と思ったら、俺を包んでたナニカがばさりと解けた。

 

 なんだコレ……布団?

 

 

「――まったく、無茶しすぎですわ」

 

 

 目を回しながら考えていると、お嬢様――ミコだったか、の声が聞こえてくる。

 

 

「いい加減退いて下さらない? 重いですし、背中擦りむいて痛いですし」

 

「え、あ、すまん」

 

 

 わけがわからず、立ち上がる。

 座ってたふわふわの布団が、いきなり鳥に化けた。

 

 あ、コレ念能力か。

 

 

「サンキュ、助かったぜ」

 

「別に――あれで亡くなったら、寝覚めが悪いだけですわ」

 

 

 ふん、と、顔を背けてくる。

 なんだかツンデレという言葉が頭に浮かんだけど――言ったら怒るな、絶対。

 

 

「ブラボーだ! 君のおかげで、ひとりのご婦人が救われた!」

 

 

 いきなり、後ろから声が飛んできた。

 振り返ると、車を止めたブラボーが近くまで来てた。

 その手にあるハンドバッグは、あのおばあさんのだろう。

 

 あの状況で確保してたのか。スゲエ。

 

 

「俺の名はキャプテン・ブラボー……あらためて、名前を聞こうか」

 

 

 言ってブラボーは、迷いなく手を差し出してくる。

 

 ああ。こんなバカとは、関わったが最後だ。

 俺は、腹の底からこいつを――こいつらを信用しちまった。

 

 

「エース。俺の名はエースだ」

 

 

 だから、強く、迷いなく。

 俺は差し出されたブラボーの手を握った。

 

 

 

 

 

 

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