グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

5 / 35
05 ハンター試験

 ハンター試験の当日、雨上がりで虹がさす午前10時。

 刻限ギリギリになって、ようやく試験会場にたどり着いた。

 

 

「よかった……案内人巻き込んで道に迷った時は、マジで間に合わないかと思った……」

 

 

 張り切って装備を揃えておいて、会場にもたどり着けなかったら、シュウに指を差されて笑われるとこだった。

 

 試験会場は、超高層マンションの二階フロア。

 会場を埋め尽くす志望者の数は……俺の番号が393番だから、400に少し足りないくらい。

 

 ざっと見渡しただけで、念能力者っぽいのが7、8人居る。

 俺が見抜けないレベルで隠蔽してる奴も居るだろうから、かなり多い。

 なんだかこっちを見てる赤毛の奇術師(ヒソカ)の存在は、見なかったことにするとして……当然この中にも、プレイヤーは紛れ込んでいるだろう。

 

 

 ──ていうか、ブラボーが居る。

 

 

 キャプテン・ブラボー。

 武装錬金の登場人物で、全身くまなく覆う銀色のオーバーコート姿の、最高にブラボーな錬金の戦士。

 

 あれ絶対プレイヤーだろ。

 やば。ブラボー好きだしテンション上がる。

 悪目立ちしまくってるし、間違っても声はかけたくないけど。

 

 

「よ」

 

 

 きょろきょろと、あたりを見回していたのが目立ったのだろうか。

 小太りで背の低い、狸系のおじさんに声をかけられた。

 

 

「──オレはトンパ、よろしく」

 

 

 トンパかよ! 一瞬わからなかったよ! そういやあんたもいるよな当然! 

 

 

「俺はユウ。よろしく」

 

 

 心の中で目いっぱい突っ込んでから、無難に答える。

 俺の心中を知らないトンパは、気さくに話しかけてくる。

 

 

「新顔だろ? 君」

 

「うん。それがわかるトンパはベテランなんだな?」

 

「おう、受験回数30回を超えるベテランだよ。わからないことがあったら、なんでも答えてやるよ」

 

「じゃあ……」

 

 

 と、念能力者達を順番に目で示して、何者なのか尋ねてみる。

 するとトンパは、微妙に疲れたようにため息をついた。

 

 

「それがな、あいつらも新人(ルーキー)らしいんだけど……ヤバ過ぎて近寄れなかったり、なんか知らんがいきなり喧嘩腰だったりでな、まともに会話できたのはあんたくらいだな」

 

 

 そのヤバイやつの中に、ブラボーも入っているに違いない。

 

 

「おっとそうだ。お近づきの印だ、飲みなよ」

 

 

 そう言ってトンパは懐からジュースを取り出して、差し出してくる。

 下剤入りのアレだ。飲むわけにはいかないが、さりとて無下にするのも……変に目をつけられそうで嫌だ。

 

 

「ありがとう。いま緊張でお腹痛いから、あとで飲ませてもらうよ」

 

 

 悩んだ末ひねりだした理由は、我ながらどうなんだってものだった。

 

 

 

 

 

 

『うおおおおおお!!』

 

 

 開始の合図と共に、足音が轟音と化す。

 1次試験の内容は、部屋中に放されたアシハヤネズミを生きたまま捕獲する事。

 平均時速30キロオーバーで、小回りもきくこいつを捕まえるには、反射神経だけでなく、ほんのわずかな仕草から癖を読み取る観察力も要求される……って、ベテランっぽい受験者が言ってた。どこかで見たことあると思ったら、ゴンを吹き矢で痺れさせてた猟師のゲレタさんだった。

 

 

「──っと!」

 

 

 掴んだアシハヤネズミを取り逃がしかけ、両手でしっかり確保する。

 

 これで合格条件は満たした。だけど油断は大敵。

 最後までこいつを確保して、初めて合格となるのだ。

 真っ当に捕まえる以外にも、アシハヤネズミを確保する方法は、いくつか考えられる。それを、他の受験生が考えつかないわけがない。

 

 と、背後に殺気。

 なにかが振り下ろされる気配を感じ、半身(はんみ)になって(さば)く。

 木刀だ。やたらゴツい。木刀を構え直す機会を与えず、狼藉者のアゴに突き。その意識を刈り取る。

 

 

 ──すでに捕獲されたネズミを奪い取る。

 

 

 一見賢い手段のように思えるが、この方法には問題がある。

 アシハヤネズミを捕まえる体術を持つ人間に、技量で劣る人間の不意打ちが通じるだろうか。

 

 答えは否。

 受験生に襲いかかった男たちは、次々に返り討ちにあっていく。

 

 そんな様子を観察しながら、念能力者だろうとあたりをつけた受験者たちに目を配る。

 

 

「フレン! 行って!」

 

 

 ロール入った栗色の髪に、ドレス姿。

 一見してそれとわかる深窓の令嬢が、(わし)を操り、獲物を捕らえる。

 

 

「いけっ!」

 

 

 クラピカのオマージュだろうか。

 先端がそれぞれ丸と三角、二種類の鎖を駆使する、亜麻色の髪の中性的な美少年。

 

 

「ブラボー! おおブラボー!」

 

 

 この人に関しては、もはやなにも言うまい。

 というかあからさまに念能力ですって動きされると警戒して“凝”せざるを得ないので本当にやめてほしい。お嬢様に至っては本当に念能力使ってるし。あれ念獣か。

 

 そして奇術師ヒソカ。

 こいつはトランプを次々と投げ、アシハヤネズミを殺してまわっている。

 試験の合格条件は、アシハヤネズミを生け捕りにすること。殺してしまえば、その分合格者は減る。

 

 こんな作戦を思いつき、迷わず実行するあたり、さすがヒソカと言うべきか。

 

 

「てめえ、なにすん……ぎゃああああっ!」

 

 

 受験者の一人が、ヒソカの肩に手をおいた瞬間──肘から先が切断された。

 

 

「っ、こいつ!」「やっちまえ!」「この野郎、囲め囲め!」

 

 

 血を見て激昂した受験者達が、ヒソカに襲いかかる。

 だが。赤毛の奇術師は、片手にアシハヤネズミを捕らえた状態のまま、もう片方の手に挟んだカード一枚で、一瞬にして全員の頚動脈を掻き切った。

 

 止める間もない。寒気を催す手練の業。

 初めて目の前で見る殺人行為に──

 

 

 ──【血が凍る/血が滾る】。

 

 

 矛盾した感情が湧き上がる。

 

 ヒソカに対する恐れ。

 ヒソカに対する殺意。

 衝動の綱引きに足が止まった、その時。

 

 影が(はし)った。

 翼を広げ飛ぶ荒鷲。さきほどの令嬢の念獣だ。

 

 

「狼藉はおやめなさいっ!」

 

 

 怒りもあらわに、令嬢は念獣を(けしか)ける。

 高速で襲いかかる猛禽を一瞥して。ヒソカはゾッとするほど凄絶な笑みを浮かべ──カードで袈裟懸けに斬り捨てた。

 

 

「くうっ!」

 

 

 令嬢が歯を食いしばる。

 その肩から胸にかけて、鮮血が服を染める。

 負傷箇所は念獣が傷を負った場所とまったく同じだ。

 

 身を庇いながら踏みとどまる令嬢に、トドメを刺すべくヒソカが駆ける。

 

 一瞬、シュウの忠告が、脳裏をよぎる。

 

 だけど彼女はおそらくプレイヤーで。

 おなじ境遇の人間が、殺されようとしている事実に──体が動いていた。

 

 他の受験生(てき)の視線がここまで多いと【背後の悪魔(ハイドインハイド)】を使う死角は皆無。

 地を蹴る瞬間、足元にオーラを集中。爆発的な加速で横合いからヒソカを蹴り飛ばす。

 

 よし、筋トレの成果出てる……ちっともヨシじゃないけど。ばっちりガードされてるけど。

 むしろ吹っ飛んだヒソカに巻き込まれて、受験生が何人か倒れてるけど。

 

 ヒソカが、こちらを見る。

 目が合った、瞬間理解させられた。

【こいつが別種の生き物だと/こいつが同種の人間だと】。

 

 そして、戦う生き物としては、あちらのほうが圧倒的に上。

 この体になって、ずっと強者との戦いを念頭に置いて鍛えてきた。強くなったつもりだった。

 それでも、こいつには絶対に敵わない。100回戦れば100回殺される。偶然が介在する余地がない。

 

 かつてレイザーにも感じた。

 相手が絶対的な捕食者だという感覚。

 だが、血を流し膝をつく同胞を思う。

 彼女の前から逃げるわけにはいかない。

 

 守ると決めた。

 心が、ではない。魂が、だ。

 だから、恐れながらも体は動く。

 

 ヒソカは笑う。

 口の端を三日月のごとく吊り上げて。

 

 

「──そこまでだ! これ以上の狼藉をつづけるというなら、今度は俺が相手だ!」

 

 

 突然、誰かが割って入ってきた。

 目に入ったのは銀色のオーバーコート。

 見間違うはずがない。キャプテン・ブラボーだ。

 その珍妙な格好に気勢を削がれたのか、それとも纏うオーラの力強さのためか、ヒソカの動きが一瞬、止まる。

 

 そこに、ようやく試験官が駆けつけてきて、その場を収めた。

 

 

 

 

 

 

 その後、重傷だった念獣使いの令嬢は、担架で運ばれていった。

 試験官に釘を刺されたヒソカは、不安になるほど素直に従い、アシハヤネズミを確保したまま隅に移動。あとは波乱なく時間が来て、試験終了となった。

 

 でもって。

 

 

「ブラボーなガッツだ、少女よ。君のおかげで同士の命が救われた!」

 

 

 派手にやらかした俺は、結果ブラボーに絡まれる羽目になった。

 

 

「──俺の名はブラボー。キャプテン・ブラボーと呼んでくれたマッ!」

 

 

 え、まで言えず、ブラボーはつんのめった。

 どうやら真後ろにいた、例の鎖使いの少年に、後頭部を蹴られたらしい。

 

 

「なにをする同士・カミト!」

 

「なにをする、じゃないでしょう!? 考えなしに突っ込んでいくなって言ったでしょうが!」

 

 

 ブラボーに説教する少年──カミトは、なぜか女口調。

 ドン引きだ。なまじ美形なだけに、恐ろしく気色悪い。

 ……たぶん、俺も他人(ひと)のこと言えないんだろうけど。

 

 

「だが、ミコを見捨てるわけには……」

 

「それは距離的にも近かったわたしの役目! あなたの役目は本当なら試験官を呼びに行くこと! まるきり逆でしょうが!」

 

 

 ひとしきりブラボーに怒りをぶつけてから。

 鎖使いのカミトは、こちらに目を向けた。

 

 

「仲間を助けてくれてありがとう。あなたも、もしかして()()なの?」

 

 

 カミトが言外に含ませた意味は、おなじ境遇の人間ならよくわかる。

 と言うか、ブラボーの連れってだけで、プレイヤーだってのは丸わかりだ。

 

 

「たぶん、そう」

 

「……うわ、やっぱそうなんだ。ブラボーとミコちゃん以外で始めて見たわ」

 

 

 うなずくと、カミトは珍しそうにこちらを見る。

 ミコ、というのは、たぶんさっきの令嬢のことだろう。

 担架で運ばれていく彼女と声をかけあっていたし、3人は親しい間柄に見える。

 

 

「えーと……2人は、なぜハンター試験に?」

 

「とりあえずは、ライセンス目当てね。わたしもミコちゃんも、ハンター試験会場への旅の途中で、ブラボーを見つけて集まったの」

 

 

 そりゃそうなるよな、という感想しか出てこない。

 見た目インパクトあるし、100%プレイヤーだとわかる外見だから、いい目印すぎるとは思ってた。

 

 

「わたしはカミト=メメント。よろしくね」

 

「ユウ=ミルガン。よろしく」

 

 

 カミトが手を差し出してきたので、握り返す。

 

 こうして。

 俺はこの、とてつもなく濃い二人組と縁を結ぶことになった。

 ほかの念能力者たちは、こちらに関わってこない。というか露骨に目を背けてる。

 

 気持ちはわかる。

 俺もできれば遠巻きに見ていたかった。

 

 ちなみに、1次試験の合格者は158人。

 念能力者たちは、重傷を負ったミコをのぞいて全員合格していた。

 

 

 

 

 

 

『ただいまより、2次試験の内容を発表する!』

 

 

 1次試験が終了から、待つことしばし。

 ビルの館内放送で、そんな声が流れ始めた。

 

 

『15分以内に、このビルの屋上までたどり着くこと。手段は不問とする。それでは──開始!』

 

 

 開始の合図を聞いた瞬間。

 受験生の半数が、どっとエレベーターに詰めかけた。

 30人ほどは階段に直行。残り50人は動かず様子見。

 ヒソカは様子見組に混じってるけど、視線はこっちにロックオン。ブラボーたちも、動かない。

 

 

「……手段は不問、ね」

 

 

 皆の様子を見ながら、カミトが不敵に笑う。

 流れでいっしょに居る俺も、様子を見ながら分析する。

 

 

「エレベーターは止められてるみたいだな。デジタル表示が点いてない。ただ、すし詰めになってるせいで、前の方の受験生は簡単には動けない。たぶん階段先行組、様子見組、エレベーター組が後ろの方から──って感じで動いてくと思う……ただ、地上120階の屋上に15分で行くのに、階段では間に合うかどうか微妙」

 

「なら、こうするまでだ」

 

 

 ブラボーは、そう言って、深く屈伸する。

 

 なにをする気だ。

 そう思った直後、ブラボーはやおら天井に向けて猛烈な勢いで大跳躍(ジャンプ)

 

 

「昇雷! ブラボキック!!」

 

 

 全身を一個の砲弾と化して、ブラボーは天井を次々とぶち抜いていく。

 ありなのかそれ!? 

 

 

「ユウちゃん、お先!」

 

 

 俺に一声かけると、カミトも天井に空いた穴を飛び抜け、登って行く。ちゃっかりしてるなあ。

 あ、ヒソカが無茶苦茶楽しそうな顔してブラボー、カミトのあとに続いていった。2人には悪いけど、同行せずに済んでほっとした。

 

 

「うん……まあ、あれが一番早いか」

 

 

 とはいえ、こういう力技、自分で思いつく分にはいいんだけど、便乗はしたくないんだよなあ。

 

 だから、考える。

 階段ルートで行くと、7、8秒で一階を登らなくてはいけない計算。

 何もなければ不可能ではないが、さて、求められているのは単純な体力なのか。

 

 と、ひらめく。

 エレベーターは、電気が止められているだけなのだ。

 

 だから、移動すべき先は上ではなく、下。

 おなじ考えに至ったのだろう、5、6人ほどがついて来る。その中の1人はトンパ。

 他にも見覚えがある人が混じってる。レスラーのトードーさんだ。巨漢なのに動きが軽快なのすごい。

 

 目指すは地下階の電気設備の制御室。

 そこでエレベーターに電気を通し、稼動させる。

 

 残ったのが俺を合わせて7人。余裕で定員内だ。

 重量級のトードーさんが居たせいで重量制限的には怪しかったけど。

 展望直通の高速エレベーターは、わずか3分で俺たちを屋上階に運んでくれた。

 

 2次試験の合格者は62名。

 内訳は、エレベーター組7人、階段組51人、ブラボールート4人だった。

 階段を登ってくる受験生を見ていると、アモリ三兄弟をはじめとした常連勢の姿を確認できた。

 階段組が3分の1近くに減ってるってことは、やっぱり階段ルートも一筋縄ではいかなかったらしい。

 

 ちなみに念能力者も3人消えていた。マジで何があったんだろう。

 

 

 

 




◆キャプテン・ブラボー

・H×Hで好きなキャラクター三人

 ジン、カイト、ドゥーン

・H×Hで好きな念能力三つ

 ノヴの【4次元マンション(ハイドアンドシーク)】、梟の【不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)】、ビスケの【魔法美容師(まじかるエステ)

・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ

 No.017大天使の息吹、No.047睡眠少女、No.091プラキング

・ユウからの第一印象

ブラボーだ! ブラボーが居る!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。