ハンター試験の当日、雨上がりで虹がさす午前10時。
刻限ギリギリになって、ようやく試験会場にたどり着いた。
「よかった……案内人巻き込んで道に迷った時は、マジで間に合わないかと思った……」
張り切って装備を揃えておいて、会場にもたどり着けなかったら、シュウに指を差されて笑われるとこだった。
試験会場は、超高層マンションの二階フロア。
会場を埋め尽くす志望者の数は……俺の番号が393番だから、400に少し足りないくらい。
ざっと見渡しただけで、念能力者っぽいのが7、8人居る。
俺が見抜けないレベルで隠蔽してる奴も居るだろうから、かなり多い。
なんだかこっちを見てる
──ていうか、ブラボーが居る。
キャプテン・ブラボー。
武装錬金の登場人物で、全身くまなく覆う銀色のオーバーコート姿の、最高にブラボーな錬金の戦士。
あれ絶対プレイヤーだろ。
やば。ブラボー好きだしテンション上がる。
悪目立ちしまくってるし、間違っても声はかけたくないけど。
「よ」
きょろきょろと、あたりを見回していたのが目立ったのだろうか。
小太りで背の低い、狸系のおじさんに声をかけられた。
「──オレはトンパ、よろしく」
トンパかよ! 一瞬わからなかったよ! そういやあんたもいるよな当然!
「俺はユウ。よろしく」
心の中で目いっぱい突っ込んでから、無難に答える。
俺の心中を知らないトンパは、気さくに話しかけてくる。
「新顔だろ? 君」
「うん。それがわかるトンパはベテランなんだな?」
「おう、受験回数30回を超えるベテランだよ。わからないことがあったら、なんでも答えてやるよ」
「じゃあ……」
と、念能力者達を順番に目で示して、何者なのか尋ねてみる。
するとトンパは、微妙に疲れたようにため息をついた。
「それがな、あいつらも
そのヤバイやつの中に、ブラボーも入っているに違いない。
「おっとそうだ。お近づきの印だ、飲みなよ」
そう言ってトンパは懐からジュースを取り出して、差し出してくる。
下剤入りのアレだ。飲むわけにはいかないが、さりとて無下にするのも……変に目をつけられそうで嫌だ。
「ありがとう。いま緊張でお腹痛いから、あとで飲ませてもらうよ」
悩んだ末ひねりだした理由は、我ながらどうなんだってものだった。
◆
『うおおおおおお!!』
開始の合図と共に、足音が轟音と化す。
1次試験の内容は、部屋中に放されたアシハヤネズミを生きたまま捕獲する事。
平均時速30キロオーバーで、小回りもきくこいつを捕まえるには、反射神経だけでなく、ほんのわずかな仕草から癖を読み取る観察力も要求される……って、ベテランっぽい受験者が言ってた。どこかで見たことあると思ったら、ゴンを吹き矢で痺れさせてた猟師のゲレタさんだった。
「──っと!」
掴んだアシハヤネズミを取り逃がしかけ、両手でしっかり確保する。
これで合格条件は満たした。だけど油断は大敵。
最後までこいつを確保して、初めて合格となるのだ。
真っ当に捕まえる以外にも、アシハヤネズミを確保する方法は、いくつか考えられる。それを、他の受験生が考えつかないわけがない。
と、背後に殺気。
なにかが振り下ろされる気配を感じ、
木刀だ。やたらゴツい。木刀を構え直す機会を与えず、狼藉者のアゴに突き。その意識を刈り取る。
──すでに捕獲されたネズミを奪い取る。
一見賢い手段のように思えるが、この方法には問題がある。
アシハヤネズミを捕まえる体術を持つ人間に、技量で劣る人間の不意打ちが通じるだろうか。
答えは否。
受験生に襲いかかった男たちは、次々に返り討ちにあっていく。
そんな様子を観察しながら、念能力者だろうとあたりをつけた受験者たちに目を配る。
「フレン! 行って!」
ロール入った栗色の髪に、ドレス姿。
一見してそれとわかる深窓の令嬢が、
「いけっ!」
クラピカのオマージュだろうか。
先端がそれぞれ丸と三角、二種類の鎖を駆使する、亜麻色の髪の中性的な美少年。
「ブラボー! おおブラボー!」
この人に関しては、もはやなにも言うまい。
というかあからさまに念能力ですって動きされると警戒して“凝”せざるを得ないので本当にやめてほしい。お嬢様に至っては本当に念能力使ってるし。あれ念獣か。
そして奇術師ヒソカ。
こいつはトランプを次々と投げ、アシハヤネズミを殺してまわっている。
試験の合格条件は、アシハヤネズミを生け捕りにすること。殺してしまえば、その分合格者は減る。
こんな作戦を思いつき、迷わず実行するあたり、さすがヒソカと言うべきか。
「てめえ、なにすん……ぎゃああああっ!」
受験者の一人が、ヒソカの肩に手をおいた瞬間──肘から先が切断された。
「っ、こいつ!」「やっちまえ!」「この野郎、囲め囲め!」
血を見て激昂した受験者達が、ヒソカに襲いかかる。
だが。赤毛の奇術師は、片手にアシハヤネズミを捕らえた状態のまま、もう片方の手に挟んだカード一枚で、一瞬にして全員の頚動脈を掻き切った。
止める間もない。寒気を催す手練の業。
初めて目の前で見る殺人行為に──
──【血が凍る/血が滾る】。
矛盾した感情が湧き上がる。
ヒソカに対する恐れ。
ヒソカに対する殺意。
衝動の綱引きに足が止まった、その時。
影が
翼を広げ飛ぶ荒鷲。さきほどの令嬢の念獣だ。
「狼藉はおやめなさいっ!」
怒りもあらわに、令嬢は念獣を
高速で襲いかかる猛禽を一瞥して。ヒソカはゾッとするほど凄絶な笑みを浮かべ──カードで袈裟懸けに斬り捨てた。
「くうっ!」
令嬢が歯を食いしばる。
その肩から胸にかけて、鮮血が服を染める。
負傷箇所は念獣が傷を負った場所とまったく同じだ。
身を庇いながら踏みとどまる令嬢に、トドメを刺すべくヒソカが駆ける。
一瞬、シュウの忠告が、脳裏をよぎる。
だけど彼女はおそらくプレイヤーで。
おなじ境遇の人間が、殺されようとしている事実に──体が動いていた。
地を蹴る瞬間、足元にオーラを集中。爆発的な加速で横合いからヒソカを蹴り飛ばす。
よし、筋トレの成果出てる……ちっともヨシじゃないけど。ばっちりガードされてるけど。
むしろ吹っ飛んだヒソカに巻き込まれて、受験生が何人か倒れてるけど。
ヒソカが、こちらを見る。
目が合った、瞬間理解させられた。
【こいつが別種の生き物だと/こいつが同種の人間だと】。
そして、戦う生き物としては、あちらのほうが圧倒的に上。
この体になって、ずっと強者との戦いを念頭に置いて鍛えてきた。強くなったつもりだった。
それでも、こいつには絶対に敵わない。100回戦れば100回殺される。偶然が介在する余地がない。
かつてレイザーにも感じた。
相手が絶対的な捕食者だという感覚。
だが、血を流し膝をつく同胞を思う。
彼女の前から逃げるわけにはいかない。
守ると決めた。
心が、ではない。魂が、だ。
だから、恐れながらも体は動く。
ヒソカは笑う。
口の端を三日月のごとく吊り上げて。
「──そこまでだ! これ以上の狼藉をつづけるというなら、今度は俺が相手だ!」
突然、誰かが割って入ってきた。
目に入ったのは銀色のオーバーコート。
見間違うはずがない。キャプテン・ブラボーだ。
その珍妙な格好に気勢を削がれたのか、それとも纏うオーラの力強さのためか、ヒソカの動きが一瞬、止まる。
そこに、ようやく試験官が駆けつけてきて、その場を収めた。
◆
その後、重傷だった念獣使いの令嬢は、担架で運ばれていった。
試験官に釘を刺されたヒソカは、不安になるほど素直に従い、アシハヤネズミを確保したまま隅に移動。あとは波乱なく時間が来て、試験終了となった。
でもって。
「ブラボーなガッツだ、少女よ。君のおかげで同士の命が救われた!」
派手にやらかした俺は、結果ブラボーに絡まれる羽目になった。
「──俺の名はブラボー。キャプテン・ブラボーと呼んでくれたマッ!」
え、まで言えず、ブラボーはつんのめった。
どうやら真後ろにいた、例の鎖使いの少年に、後頭部を蹴られたらしい。
「なにをする同士・カミト!」
「なにをする、じゃないでしょう!? 考えなしに突っ込んでいくなって言ったでしょうが!」
ブラボーに説教する少年──カミトは、なぜか女口調。
ドン引きだ。なまじ美形なだけに、恐ろしく気色悪い。
……たぶん、俺も
「だが、ミコを見捨てるわけには……」
「それは距離的にも近かったわたしの役目! あなたの役目は本当なら試験官を呼びに行くこと! まるきり逆でしょうが!」
ひとしきりブラボーに怒りをぶつけてから。
鎖使いのカミトは、こちらに目を向けた。
「仲間を助けてくれてありがとう。あなたも、もしかして
カミトが言外に含ませた意味は、おなじ境遇の人間ならよくわかる。
と言うか、ブラボーの連れってだけで、プレイヤーだってのは丸わかりだ。
「たぶん、そう」
「……うわ、やっぱそうなんだ。ブラボーとミコちゃん以外で始めて見たわ」
うなずくと、カミトは珍しそうにこちらを見る。
ミコ、というのは、たぶんさっきの令嬢のことだろう。
担架で運ばれていく彼女と声をかけあっていたし、3人は親しい間柄に見える。
「えーと……2人は、なぜハンター試験に?」
「とりあえずは、ライセンス目当てね。わたしもミコちゃんも、ハンター試験会場への旅の途中で、ブラボーを見つけて集まったの」
そりゃそうなるよな、という感想しか出てこない。
見た目インパクトあるし、100%プレイヤーだとわかる外見だから、いい目印すぎるとは思ってた。
「わたしはカミト=メメント。よろしくね」
「ユウ=ミルガン。よろしく」
カミトが手を差し出してきたので、握り返す。
こうして。
俺はこの、とてつもなく濃い二人組と縁を結ぶことになった。
ほかの念能力者たちは、こちらに関わってこない。というか露骨に目を背けてる。
気持ちはわかる。
俺もできれば遠巻きに見ていたかった。
ちなみに、1次試験の合格者は158人。
念能力者たちは、重傷を負ったミコをのぞいて全員合格していた。
◆
『ただいまより、2次試験の内容を発表する!』
1次試験が終了から、待つことしばし。
ビルの館内放送で、そんな声が流れ始めた。
『15分以内に、このビルの屋上までたどり着くこと。手段は不問とする。それでは──開始!』
開始の合図を聞いた瞬間。
受験生の半数が、どっとエレベーターに詰めかけた。
30人ほどは階段に直行。残り50人は動かず様子見。
ヒソカは様子見組に混じってるけど、視線はこっちにロックオン。ブラボーたちも、動かない。
「……手段は不問、ね」
皆の様子を見ながら、カミトが不敵に笑う。
流れでいっしょに居る俺も、様子を見ながら分析する。
「エレベーターは止められてるみたいだな。デジタル表示が点いてない。ただ、すし詰めになってるせいで、前の方の受験生は簡単には動けない。たぶん階段先行組、様子見組、エレベーター組が後ろの方から──って感じで動いてくと思う……ただ、地上120階の屋上に15分で行くのに、階段では間に合うかどうか微妙」
「なら、こうするまでだ」
ブラボーは、そう言って、深く屈伸する。
なにをする気だ。
そう思った直後、ブラボーはやおら天井に向けて猛烈な勢いで大
「昇雷! ブラボキック!!」
全身を一個の砲弾と化して、ブラボーは天井を次々とぶち抜いていく。
ありなのかそれ!?
「ユウちゃん、お先!」
俺に一声かけると、カミトも天井に空いた穴を飛び抜け、登って行く。ちゃっかりしてるなあ。
あ、ヒソカが無茶苦茶楽しそうな顔してブラボー、カミトのあとに続いていった。2人には悪いけど、同行せずに済んでほっとした。
「うん……まあ、あれが一番早いか」
とはいえ、こういう力技、自分で思いつく分にはいいんだけど、便乗はしたくないんだよなあ。
だから、考える。
階段ルートで行くと、7、8秒で一階を登らなくてはいけない計算。
何もなければ不可能ではないが、さて、求められているのは単純な体力なのか。
と、ひらめく。
エレベーターは、電気が止められているだけなのだ。
だから、移動すべき先は上ではなく、下。
おなじ考えに至ったのだろう、5、6人ほどがついて来る。その中の1人はトンパ。
他にも見覚えがある人が混じってる。レスラーのトードーさんだ。巨漢なのに動きが軽快なのすごい。
目指すは地下階の電気設備の制御室。
そこでエレベーターに電気を通し、稼動させる。
残ったのが俺を合わせて7人。余裕で定員内だ。
重量級のトードーさんが居たせいで重量制限的には怪しかったけど。
展望直通の高速エレベーターは、わずか3分で俺たちを屋上階に運んでくれた。
2次試験の合格者は62名。
内訳は、エレベーター組7人、階段組51人、ブラボールート4人だった。
階段を登ってくる受験生を見ていると、アモリ三兄弟をはじめとした常連勢の姿を確認できた。
階段組が3分の1近くに減ってるってことは、やっぱり階段ルートも一筋縄ではいかなかったらしい。
ちなみに念能力者も3人消えていた。マジで何があったんだろう。
◆キャプテン・ブラボー
・H×Hで好きなキャラクター三人
ジン、カイト、ドゥーン
・H×Hで好きな念能力三つ
ノヴの【
・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ
No.017大天使の息吹、No.047睡眠少女、No.091プラキング
・ユウからの第一印象
ブラボーだ! ブラボーが居る!!