グリードアイランド・クロス【本編完結】   作:寛喜堂秀介

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06 ハンター試験後半戦

 

 3次試験会場に向かうため、屋上に停泊していた飛行船に乗り、しばし空の旅となった。

 その間、ヒソカへの警戒から、ブラボーたちに声をかけて、いっしょに休憩してたんだけど……さいわい、全身を撫で回すような、嫌な視線を一度感じただけで済んだ。

 

 3時間後、飛行船は洋上の豪華客船に降りた。

 

 

「みなさんご苦労。俺様は3次試験の試験官、ギルダーだ」

 

 

 迎えに出てきた男が名乗る。

 白の背広にちょび髭、ポマードで髪を後ろに撫でつけた、胡散臭い雰囲気の男だ。

 だが、身に纏うオーラに独特の雰囲気がある。なんらかの達人なのは間違いなさそうだ。

 

 

「ここは俺様の主催する海上カジノだ。素人もいれば玄人も混じっている。いまから元手として、君たちに10万ジェニーを渡す。方法は問わない。これを3倍に増やすこと。それが合格条件だ」

 

 

 ギルダーはそう言って指を鳴らす。

 奥からきわどい格好をしたバニーガールが現れ、受験者の手元に、次々と現金が配られていく。

 

 金髪のナイスバディでモロ好み。

 なのにドギマギしない自分が不思議でならない。

 体が女になったせいか、それとも日頃の“燃”の成果か。後者だと思いたい。

 

 

「───ただし、盗みはナシだ。ここでのルールを守った上で、金を増やしてくること。以上だ」

 

 

 ギルダーがルールの説明を終えると、受験者たちが三々五々と散ってゆく。

 

 

 ──と、ぼうっとしてる場合じゃない。

 

 

 気を取り直し、とりあえずカジノの中に入って様子を窺う。

 カジノなんて行ったことはないが、なんとなく参加できそうなゲームもある。

 

 トランプを使ったゲームや、スロットや、ルーレット。

 このあたりは、たぶんわかる。わかったところで勝つ自信はないけど。

 

 ざっと見てみると、数百人居るカジノの客の大半が素人。

 その中に、目の配り方や物腰が只者でないやつが混じっている。

 こいつらは、ギルダーが言っていた玄人──プロのギャンブラーだろう。

 

 受験生達は、まだ大半が様子見。

 ただ、数人はすでにゲームを始めている。

 

 

「心眼! ブラボーアイ!」

 

 

 うち1人がブラボーであることは言うまでもない。

 強運と眼力で、瞬く間にスロットの脇にドル箱が積み上げられていく。

 それに乗せられたのか、様子見していた数人もゲームを始めた。

 

 だが、よく考えたほうがいい。

 ギャンブルの勝率なんて、いいとこ5割だ。

 運の要素が強くて、どうやったって勝率10割にはならない。

 

 そんな試験を、試験官が考えるはずがない。

 確実に、いく通りかの抜け穴が存在するはずだ。

 

 確実に勝つ方法。

 イカサマができればそれも可能かもしれないが、俺にそんな技術はない。

 ヒソカなら、カードのイカサマは自由自在だろう。そもそも素のギャンブラーとしての実力も高そうだし、いざとなれば薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)でロイヤルストレートフラッシュを再現、とか出来そう。

 

 まあ、ヒソカをうらやんでいても仕方ない。

 なにか参考にならないかと、素人がプロのギャンブラーにカモられている様子を見てみる。

 

 ゲームはポーカー。

 急所で上手くすり替えなどをやりながら、相手を熱くさせて身ぐるみを剥ぐ。イカサマはしても、やり過ぎはしない。絶妙な業だ。

 

 

「嬢ちゃん、さっきからずっと見てるけど、どうだい? ちょっとやってみないか?」

 

 

 観察していたのが興味深々と映ったのだろうか。プロの方が話しかけて来る。

 

 

 ──今度はこちらをカモるつもりか。

 

 

 遠慮します、と言いかけて、ふと妙案を思いつく。

 確実に勝つ方法。試してみるのもいいかもしれない。

 

 

「──いいけど、一応カードは替えてね」

 

 

 指先の手練には目を見張るものがあるが、彼は念能力者ではない。普通のギャンブラー。

 そして俺は、死角を観るすべを心得ている。物理的な死角だけでなく、心理的な死角も。

 

 ゆえに、容易なのだ。イカサマを見抜くことは。

 

 

「お、嬢ちゃん、判ってるな。人の触ったカードはカットしろ、封の空いたカードで勝負はするな、ってね」

 

 

 調子のいい事を言いながら、男はディーラーから封のついたカードを貰う。

 封は純正のちゃんとしたもので、カード自体に仕掛けは無いとみた。

 

 

「さっきのヤツとおなじ、ポーカーでいいかい?」

 

「うん。でもひとつ、いいかな」

 

「なんだい?」

 

「わたし、こういうとこ始めてなんだけど……家ではよくポーカーで遊ぶんだ。そのルールでやっていい?」

 

「──興味あるね。どんなルールだい?」

 

 

 男の顔が、一瞬、鋭くなった。

 やはり、ギャンブルに関する嗅覚は鋭い。

 

 

「ワンチェンジでドロップ無し。勝負は3戦。あらかじめ提示した額の3分の1ずつを賭けて勝負するってルール」

 

「……へえ、面白そうだ」

 

 

 男は、一瞬でルールを反芻し。

 問題ないと考えたのだろう、にこりと笑った。

 

 

「あと、重要なんだけど、イカサマの類は一切厳禁。イカサマが見つかったら反則負けで、掛け金を倍づけにして相手に払う。いい?」

 

 

 イカサマ警戒を強調し、それに反して罰則は甘め。

 一瞬、男の気が緩むのを感じた。たぶん舐められたかな。

 半端にギャンブルを齧った素人、くらいに思ってくれてたらありがたい。

 

 男は、甘い顔を作って勝負を諒解した。

 

 

「オーケーお嬢ちゃん。勝負だ」

 

「うん。こっちは()()()()()()()()()()()

 

 

 これが、決め手。

 全勝したほうがおいしく、全額が賭かっているので、手加減も要らない。この状況なら、必ずイカサマを使うだろう。

 

 結果は言うまでもない。

 男のイカサマを見抜き、俺は見事チップを3倍に増やした。

 この試験は皆かなり苦戦したらしく、合格者はたったの17名だった。

 

 ブラボー、カミト、ヒソカの他、念能力者が2名、あとはトンパ、トードーさんなんかも合格している。

 常連勢の半分くらいが、不合格になったのか、姿が見えない。ブラボーの勢いに乗せられ、まともにギャンブルした奴らのほとんどが不合格だったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 3次試験が終わり、合格者は飛行船へ戻った。

 船内で一泊して、翌朝、飛行船は洋上の孤島に停泊する。

 

 停泊所こそあるものの、どうやら無人島らしい。

 そのまま海岸まで連れていかれた俺たちを待っていたのは、巨大な(ピーチ)だった。

 

 正確にはピーチ型の足漕ぎボート。

 それが人数分きちんと用意されている。

 気分は桃太郎……なのはいいとして、海に桃って……漂流するイメージしかない。

 

 この時点で、すでにイヤな予感がしていた。

 

 

「4次試験の内容は、こいつで島を一周すること。無事戻ってこれれば合格だ」

 

 

 どこか見覚えのある試験官の言葉で、不吉な予感は倍増した。

 

 

 ──もちろんその予感は正しかった。

 

 

 潮流の関係上、人を襲うサメが生息していたり。

 潮の目を読まなければ即座礁の暗礁地帯があったり。

 迂回できない絶妙なところに巨大な渦潮地帯があったり。

 なぜか10年に一度の台風が襲ってきたりで、2日がかりで戻ってきたときには、7名が脱落。さらに3人ほどが行方不明になっていた。

 

 というか、いつのまにかトードーさん居ない。トンパもとうに離脱してる。

 身体能力に自信のある、しかも念能力者の俺がぶっ倒れそうになってる時点で、それも不思議じゃないキツさ。

 

 ちょっと難易度設定バグってる。

 というかトドメの一発になった台風は、あきらかに試験の一時中断をアナウンスすべき状況だった。

 

 かろうじて戻ってきた7人の受験生も、みな疲労困憊。

 二本の足で立ってるのは、ブラボーとヒソカくらいだ。

 

 だが試験官は、そんなこちらの様子を見て、耳を疑うような指示を出した。

 

 

「よし次だ。目標は島の中央にそびえる山の頂上だ。制限時間は4時間!」

 

「う……」

 

 

 一周すれば合格、という前言を撤回しての宣言。

 

 試験が終わったと思ったところにこれはキツい。

 というか、いまから山……見れば無人島の内地には森があり、その中央に鋭い岩肌の山がそびえている。

 

 遠い。高い。

 普段の体調でも楽勝とはいかないだろう。

 真剣に休憩が欲しいけど……立ち上がり、足を前へ。

 

 

 ──ハンターになる。

 

 

 目標は、とうに定めている。

 ならばその想いを言葉にして。

 強固な意志を向ければ……体は前に進む! 

 

 ブラボーが、迷わず駆ける。

 カミトが、遅れてついて来る。

 ほかの4人は、動かない。まだ元気なヒソカが動かないことには不吉な予感しかしないが……気にしている余裕などない。

 

 極度の疲労。

 山頂に登ったとしても、次があるんじゃないかという疑念。

 そして……試験がまともな形で終わることはないだろうという確信。

 

 なぜならば。

 身なりこそ違うものの、試験官の野性的な風貌は……ヒソカへの復讐のため、トリックタワーで待ち構えていた男のものだったからだ。

 

 走り始めてから、しばらくして。

 浜辺の方から、絶叫があがった。

 ヒソカが試験官を襲ったのだろうと確信して、しかし足は止めない。

 

 

「ユウちゃん!」

 

「ああ、たぶんヒソカがやった。でも、試験は終わってない。進むのは前にだ!」

 

 

 カミトの声に、言葉を返す。

 さらに、しばらく進んだところで。

 

 

「110番カミト、393番ユウ、そこまでだ。この先の道を左に折れて、飛行船の停泊地へ向かってくれ」

 

 

 黒スーツの案内人に、声をかけられた。

 

 

 ──ひょっとして、試験官が病院送りになって試験が中止に……

 

 

 不安を抱えながら、停泊地へ。

 そこに居たのは、3次試験までの試験官、それに採点官たち。

 そして彼らの前に立って俺たちを出迎えたのは、キャプテン・ブラボー。

 

 ブラボーは、白銀の帽子に手を添えて、高らかに告げる。

 

 

「おめでとう、諸君。とんだハプニングもあったが、ひとまず最終試験、合格だ!」

 

 

 不意打ちに、言葉の内容が理解できなかった。

 

 

「──肉体を極限まで酷使した4次試験直後、不意に襲った想定外の試練。それに立ち向かうブラボーなガッツこそが、ハンターに必要な資質なのだ!」

 

 

 試験の趣旨は理解できる。それにしたって負荷設定バグってたけど。

 だから合格というのも、まあわかる。なんでブラボーが説明してるのかわからないけど。

 

 

「……と、いうわけだ。ハプニングで4次試験の試験官がここに居ないため、俺様が経緯を説明する……先にだいぶ説明されてしまったが」

 

 

 3次試験の試験官、カジノのオーナー、ギルダーが前に出る。

 どうやらこの場のまとめ役は彼……ってことはブラボー、先に聞いてた話を説明しただけなのか──あ、カミトが頭痛そうにしてる。

 

 

「まず、4次試験の試験官だが、134番ヒソカに襲われ、飛行船の医務室で治療中だ。ヒソカは失格。他の失格者とともに、船で帰される」

 

 

 やはり、そうなったか。

 というか失格したヒソカといっしょの船とか、トンパ、罰ゲームでは……

 

 

「──想定外の事態だが、4次試験自体はすでに終了を待つだけになっていたため、試験は有効。この場にいる3人は合格だ」

 

「え、この3人だけ? すこし待ってれば、他の人も来るんじゃ……」

 

「残念だが残りの受験生は浜から動いていない。ここに来る可能性はゼロだ」

 

 

 ──もったいない。

 

 

 と思うが、この合格者を出す気がほとんどない負荷設定では、それも仕方ないのかもしれない。

 というかヒソカが試験官にキレたのって、絶対試験官として抜かりがあったからだろ。

 

 

「そして、諸君たち3名は精神、体力ともプロハンターの資格十分。ゆえにこの4次試験を最終試験とする旨、審査委員会に諮り、会長の承認を得た。108番キャプテン・ブラボー、110番カミト=メメント、393番ユウ=ミルガン。以上三名、ハンター試験合格とする!」

 

 

 その言葉を聞いて。

 思わず地面に大の字に倒れた。

 体力はすでに空っぽ。気力も消耗し尽くしている。

 カミトも似たようなありさまで、ブラボーだけが元気にかっこいいポーズを取っている。

 

 でも。

 色々あったものの、無事ハンター試験に合格した。

 シュウに誇れるものを、手に入れることができたのだ。

 それがうれしくて。俺は大の字になったまま、天に向けて拳を突き上げた。

 

 

 

 

 

 

 試験の合格が決まったあと、そのまま飛行船に乗って、最寄りの協会事務所へ。

 そこで一泊してから、ネテロ会長のお話やら、ビーンズさんによるプロハンターについての説明、最後にライセンスの交付がされた。

 

 それから、カミトに誘われて、三人で喫茶店で話をすることになった。

 もちろん、プレイヤーとしての話だ。

 

 注文したコーヒーがやってくる。

 一口、つけて……香ばしい香りに、ほっとする。

 ハンター試験が終わり、日常が戻ってきた実感がある。まあ、現状非日常(いせかい)の真っただ中なんだけど。二重の意味で。

 

 ウェイトレスさん、笑顔が引きつってたなあ。

 

 

「ユウちゃんは、これからどうするつもり?」

 

 

 コーヒーに口をつけながら、カミトが尋ねてくる。

 

 

「俺は、天空闘技場に連れが居るから。とりあえずそいつの所に戻る予定」

 

「へえ。どんな人なの?」

 

「性格を一言で表すなら……ゴンの皮を被ったキルア?」

 

「二人の関係が目に見えそうな表現ね」

 

 

 カミトがくすりと笑う。

 あらためて、仕草だけは完全に女の人なんだなあと感じる。

 

 

「わたしたちは、入院してるミコちゃんの様子を見に行くわ。退院できるまでは、あの街を拠点にする予定」

 

 

 そういえば、2人にはもうひとり連れがいたのだ。

 その後が一気呵成過ぎて、すっかり忘れていたけど……いやなこと思い出した。

 ヒソカと因縁ができた以上、天空闘技場では絶対出会わないようにしないとなあ。

 

 

「ぶっちゃけるとね、わたし達3人は帰還志望。日本に戻りたくて、その手段を探ってるの」

 

 

 カミトは、胸の内を明かした。

 ともにハンター試験に挑んだ仲だ。人柄に関しては、信頼できる。

 

 だから俺も、胸の内を明かす。

 

 

「俺たちもおなじ、帰還志望。そのためにグリードアイランドの攻略を狙ってる……まだ手探り状態だけど」

 

「それはこちらもいっしょ。ハンターライセンスを手に入れて、ようやくスタートラインって感じ。だから、具体的な話が出来るようになったら……会いに行っていいかしら?」

 

 

 それは、おそらくは共闘のお誘い。

 もちろん、シュウの同意は大前提だけど……悪くないと思う。

 

 

「歓迎するよ。いつでも連絡つくように、携帯番号とホームコードを渡しとく」

 

「うむ。こちらも何かあれば連絡させてもらう。離れていても我々は仲間だ。同士・ユウよ!」

 

 

 ──いきなり同士にされた!? 

 

 

 距離の詰め方急すぎやしませんかブラボーさん!? 

 まあ、なんとなく仲間意識みたいなものもあるし、同士扱いもやぶさかではないんだけど……せめて格好がまともだったらなあ。

 といってもブラボーに他意はない……というか武装錬金のキャプテン・ブラボー本人はむしろ大好きなんだけど、横に立って歩きたいかっていうと正直無理なので。

 

 その後、しばらく2人と雑談して、喫茶店を出た。

 向かう方向は反対。だから、彼らとは、ここで別れることになる。

 

 

「2人とも、また!」

 

 

 寂しくはない。

 たがいに、目的地は同じ。

 だったら、また会える。力を合わせる日が来る。

 その日を楽しみに思いながら、俺は並んで手を振るブラボーとカミトに背を向けた。

 

 

 

 




◆カミト=メメント

・H×Hで好きなキャラクター三人

 キルア、クラピカ、ハンゾー

・H×Hで好きな念能力三つ

 キルアの【神速(カンムル)】、クラピカの【導く薬指の鎖(ダウジングチェーン)】、ビスケの【魔法美容師(まじかるエステ)

・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ

 No.004美肌温泉、No.026 7人の働く小人、No.048発香少女

・ユウからの第一印象

 儚げな外見なのに鎖の自己主張強い。
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