◇カミト
時々思う。
こいつは、真正の馬鹿なんじゃないかと。
場所は、繁華街のど真ん中。
ストリートの東西に別れてにらみ合うグループ。
角材や鉄パイプで武装した物騒な連中の、ど真ん中に割って入った銀色のコート姿の男が一人。
「君達、争い事はやめたまえ! このキャプテン・ブラボーが双方の話を聞こうじゃないか!」
「いちいち厄介ごとに口を突っ込むなぁっ!」
馬鹿の後頭部に蹴りを見舞う。
キャプテン・ブラボー。
外見ブラボー、性格ブラボー。
だがもちろん、こいつは武装錬金に登場する本人ではない。
自分をキャプテン・ブラボーだと思いこんでいる一般プレイヤー。それがこいつ。
いっしょに行動するようになって一ヶ月になるけど、いまだにこいつの暑苦しい言動には慣れない。
最初、こいつの姿を見た時は、本当に嬉しかった。
キャプテン・ブラボーそのままの格好。間違いなくわたしと同じ、プレイヤーの一人。
見知らぬ地にたった一人で飛ばされ、帰れたとしても、もはや職場に席はなくなっているだろう。
それでも帰ろうともがきながら、孤独と絶望に押しつぶされそうだったわたしは、彼の姿に、本当に救われた気がした。
「ほう、君は同胞か。俺の名はキャプテン・ブラボー。ブラボーと呼んでくれ!」
あまりにもそのままだったので、一瞬本気でホンモノなのではと疑ってしまった。
でもまあ、よく話してみると、彼もわたし同様プレイヤーの一人。そして目的も同じ。日本に帰ること。
これが幸運だったと、後で知った。
プレイヤーにもいろんなヤツが居る。
帰ることを諦めたヤツ。こちらでの生活を謳歌するヤツ。
ただ悲嘆に暮れるだけのヤツ。日本に帰ろうと必死すぎるヤツ。
この目で見たこともあるし、電脳ネットではそんな奴らを、非常によく目にする。
実際、本腰を入れて帰還を目指してるのは、おそらく全体の2割程度。
その中でも、わたし達は積極的に動いているほうだろう。
この異常な状況を、共に戦う仲間として、リーダーとして。
キャプテン・ブラボーというプレイヤーは、悔しいけど理想的な資質を持っている。
なにより、孤独なこの世界の中で、心の底から信頼できる仲間がいる。それが、どれだけわたしを救っているか。
「同士・カミト、痛いではないか」
やっぱり行動は馬鹿なんだけど。
呆然と見ているガラの悪い集団を前にして、とぼけたことを言うブラボーに、説教。
「あんたね、やっとこさミコちゃんが退院できるってのに、いちいち厄介ごとに首突っ込まないの」
「しかしだな、目の前で問題が起こっているというのに──」
「おいてめえら! ふざけてんじゃねえぞ!!」
ふいに怒声と共に、銃を撃つ乾いた音。
しかし、あわてる必要はない。
わたしもブラボーも、銃弾程度ものともしない。
構える必要すらない。ブラボーの防護服とわたしの鎖に阻まれ、銃弾は力無く地に落ちた。
「なっ!?」
撃った男は、絶句。
ため息をつく。
数を恃んでの喧嘩なんて、放っておけばいいと思っていたが、気軽に引き金を引いちゃうようでは放っておけない。
このまま喧嘩が始まったら一般人に被害が出るのは目に見えているし……なにより、いまのはちょっとムカっときた。
「ブラボー、手伝ってあげる」
にやりと口の端を吊り上げる。
我ながら凶悪な笑みを浮かべていると自覚しながら、左右の鎖を地に打ちつける。金属がコンクリート舗装に衝突する異音。
「──全員病院送りになれば、喧嘩になる心配はないでしょうしね」
「……同士・カミト。お手柔らかにな」
ブラボーの声は、多少怯えを含んでいる気がした。
睨み合っていたグループ、合わせて約60名。
全員を気絶させるのに、1分もかからなかった。
「──さて、ブラボー。ミコちゃんが退院したら、どうしましょうか」
鎖をしまい込みながら、ブラボーに問いかける。
あの子が退院するまではと、この街を拠点にしていたが、いっしょに動けるようになれば、行動半径は飛躍的に広がる。
「本格的に仲間を集める。グリードアイランドを制覇するチームの中核をなす、信頼のおける実力者が必要だ」
「信頼できることと、実力者であること、両立させなきゃなんないのが辛いところよね」
「ライセンスを取得してから、多くのプレイヤーの動向を掴んできたが……仲間に誘うならば、やはり直接会うべきだな」
「信頼できるといえば……あらためてユウちゃんに声かけとくべきかもねー。ゴンの皮被ったキルアなお友達の方はともかく、ユウちゃんとは方針で対立することもないでしょうし。やっぱり相性って大事だわー」
「ああ、ブラボーなチームの仲間として、まずは彼女たちを誘おう!」
晴れ間の見え始めた曇り空を仰ぐ。
地上251階高さ991mの天空闘技場は、地上からはどう見えるんだろうと思いながら。
◆
ホームコードにメッセージが入ってから、3日。
俺とシュウに会うため、ブラボーたちが天空闘技場にやってきた。
待ち合わせ場所は、天空闘技場263階──フロアマスターのシュウに与えられたフロア。
エレベーターから出てきた時、エレベーターガールのお姉さんが引きつり笑いを浮かべていたけど……そうだろうな、という納得しかない。
「久しいな同士・ユウ! 元気そうでブラボーだ!」
「悪いわね、初対面なのにお家に案内して貰っちゃって」
ブラボーに続く鎖使いの少年、カミトの挨拶に、シュウは渋面になる。
「ユウの部屋には間違っても連れ込めないからな。
「それに関しては、本気でごめんなさい」
存在自体がいい目印ではあるんだけど、不便でもあるんだな。
「あらためて、わたしはカミト=メメント。それからキャプテン・ブラボーに、ミコ=トトコノエ。ユウちゃんとはハンター試験でいっしょだったプレイヤーよ。ユウちゃん、おひさしぶり」
「うん、二人はひさしぶり。そっちの、ミコさんも、大丈夫そうで安心した」
「あ、あの時は、本当にありがとうございますですわ! 本当に、本当に、感謝いたします!」
そう言って、ミコさんは俺の手を取る。
年の頃は二十歳前。ゆるくロールの入った栗色の髪に碧眼の、いかにも深窓のお嬢様、って感じの外見、なんだけど……心なしか言動が幼いような?
「ま、三人ともユウのことは知ってるみたいだし、オレの自己紹介、させてもらおうか。シュウ=ブラスト。ユウとは数年来の友人で相棒だ。今はここのフロアマスターやってる」
「おおー。リア友? 不謹慎かもしれないけど、うらやましいわ」
「ああ、実際救われてる……ま、ここじゃなんだし、応接室に案内するよ」
そろって応接室に行くと、冷蔵庫から缶コーヒーを人数分取ってくる。
フロアマスターにふさわしく、やたらと豪華な調度に目を輝かせていたカミトは、缶コーヒーをみて現実に戻されたような表情。
「いや、俺もこんなとこに缶コーヒーって微妙かなって思うんだけど、俺もシュウも、珈琲や紅茶、淹れ方知らないし……」
「いえ、好きなのよ缶コーヒー? ありがとうユウちゃん」
あわててカミトがプルタブを開け、缶コーヒーに口をつける。
そんなカミトの様子に、シュウは初めて、気を許したような微笑をうかべた。
「三人を歓迎してないわけじゃないんだ。勘違いさせたらすまん。思いの外ここが立派すぎて、まだ生活が馴染んでないというか、そんな感じ」
「いえ、こっちこそ、失礼してごめんなさい……シュウちゃん?」
「シュウでいい。ま、食事なら出前でなんでも頼めるから、埋め合わせはそこでさせてもらうとして、まずは本題に入ろうか」
「ええ」
シュウの言葉に、カミトがうなずく。
そしてブラボーが、素敵にかっこいいポーズをとった。
「我々の目的、それは日本への帰還! そのためにグリードアイランドを攻略する!」
ブラボーが語り、その後カミトが補足した彼らの目的と手段は、俺たちのそれとほぼ同じ。
すなわち、グリードアイランドを攻略し、クリア報酬として№86【挫折の弓】を入手。ゲーム外、ないしは非正規に入島したグリードアイランド内で【挫折の弓】が持つ【
「──攻略のネックになるのは、多数の実力者が必要な№2【一坪の海岸線】。15人……欲を言えばそのうち12人はプレイヤーであることが望ましいわね」
「プレイヤーなら【挫折の弓】が交渉材料に使える。そして【
カミトの説明に、シュウはそう言ってうなずく。
「──ただ、そうすると問題になるのが確保すべきグリードアイランドの数だ。一年半後、ヨークシンのドリームオークション後なら、クリア役のプレイヤー以外は、大富豪バッテラのプレイヤー枠に滑り込むことが可能だが……」
「ええ。
「すると、メモリーカードの空き枠が、両枠のものがあれば2本。片枠ばかりだと3本のグリードアイランドが必要となる……途方もない話だ。ここを解決しなきゃ大人数での攻略も夢物語になると思うけど?」
シュウの指摘は正しい。
目標入手グリードアイランド1つ。
片枠4人、両枠で8人。このあたりが現実的な数字になるはず。
4人で攻略、となると、№2【一坪の海岸線】入手のために、ゲーム内でツェズゲラ並の実力を持つチーム2組との共闘が必須だが、これはこれで困難極まりない。
「グリードアイランドから脱出できなくなった
「なるほど!」
思わず手を打った。
俺は「脱出できなくなったオーナーが所有するグリードアイランド」の入手を考えていたが、逆の発想。
この方法なら、一度でもプレイできれば、多くのグリードアイランドを入手しうる。
「へえ……アンタ、
シュウがカミトに賛辞を送る。
カミトの中の人は女性だと確信してるみたいだけど……どこで見破ったんだろう。まあ、仕草といい言動といい、推定女の人ではあるんだけど。
「
なぜだろう。
二人の間に妙なオーラが見える。
理解できない領域で戦ってる、的な。自然と冷や汗が出てしまう。
というか、否定しないとこみると、やっぱり女の人だったのかカミト。
よかった。これでちょっと安心して、彼女と接することができそうだ。
「いいと思う。その話、オレとしても乗りたい──いいな、ユウ」
「うん……ていうか最初からいっしょに攻略するつもりだった」
「……うん。ユウちゃんはそうでしょうね」
不思議とカミトの視線が生暖かい。
ミコが瞳をきらっきらに輝かせて「よろしくおねがいしますわ!」と詰めてきたので、のけぞりながら握手する。
やっぱりこの子見た目よりだいぶ幼いよね?
「ちょっとまって。話には乗りたいんだけど……先に確認しときたい。実力の方はどうなのか……あんたらの“
どれくらい強いんだ。
シュウの、そんな意味の言葉に、カミトはにやりと口の端を吊り上げた。
「わかったわ、わたしの念能力はこれ」
言いながら、カミトは両手の袖から一本ずつ、鉄の鎖をじゃらりと地面に落とす。
着ている民族衣装調の服とあいまって、そのスタイルはクラピカを彷彿とさせる。
「ユウちゃん、なにか投げてきて」
急にそう言われても。
とりあえず、手近にあったナイフをカミト目がけて投げる。
直後、左手の鎖が波打って跳ね上がり、ナイフを止めた。
「攻撃に対し、自動的にわたしを守る【
そう言われても、ほかにちょうどいいものなかったし、自信ありげだったし……
しかしなるほど。クラピカみたいな能力かと思ってたけど、かなり戦闘に寄せた能力らしい。
「はい! つぎはわたくしですわね!」
今度はミコが名乗り出る。
栗色の髪のお嬢様は、元気よく一礼してから。
「──フレン!」
声とともに、彼女の首に巻かれたスカーフが変化する。
その姿は
「念獣フレン。基本的に鳥型ですが、人や獣、昆虫や無機物に変形できます。わたしはフレンと五感を共有し、最大10kmほど離れても行動可能です。ただし、距離が離れるほど、大きさや力が衰えますけれど。具現化系で、能力名は【
なるほど、戦闘にも使えるけど……どちらかといえば探索向け。
それでヒソカに立ち向かったのは、無謀かもしれないが……その正義感は信頼に値する。
「そして俺の念能力は──」
「はいはい! 俺知ってる! シルバースキン! シルバースキンだよね!? 超かっこいい
外見そのまんまだからわかる。
あの武装錬金超好き。というかキャプテン・ブラボー超好き。
このブラボーはプレイヤーの人だけど。
「……そうだな、俺の能力は実戦でお見せしよう! 何故なら──」
『その方がカッコイイから!!』
俺とブラボーの声が重なる。
しまった。名台詞が出る気配がしたので思わず……
「……うん。ブラボーの実力は俺が保証するから……じゃあ今度はこっちの“練”を。俺の能力は放出系で、敵の死角から死角に瞬間移動する【
無理やり話を引き継いで、注目を集めてから、外套に身を隠して能力発動。ブラボーの背後に転移する。
あらかじめ説明してたからか、みんな興味深げに声を上げるだけで、驚きはない。
しまった、いきなりやってドッキリさせるべきだったか。やったらカミトに叱られそうだけど。
「で、最後。オレは強化系で、能力は、感情の高ぶりに応じて威力を増すパンチ、【
そう言って、シュウは拳を握り込む。
さして感情を高ぶらせているとも思えないが、拳に集まったオーラは強烈。カミトが頬を引きつらせた。
というか【
あの能力あんま伏せる意味ないだろ……と思ったけど、あの能力は、よりシュウの本質に近い。能力自体よりもそっちを掴まれることを警戒してるに違いない。警戒し過ぎだと思うけど。
「よろしくな。ブラボー、カミト、ミコ」
「ブラボーだ。こちらこそよろしく頼む。同士・シュウ!」
本心と裏腹に、シュウは爽やかに手を差し出す。
その手をキャプテン・ブラボーは硬く握りしめた。
カミトやミコ、俺も「よろしく」と握手し合って、俺たち5人は、本格的に攻略チームを結成した。
他称だとブラボーチームになりそうなのが悩ましい所。
キャプテン・ブラボーは好きだけど、いっしょに居るところ見られると恥ずかしいっていうか、変人バーガーの店員さんの心境というか……複雑なのだ。
「で、カミト。これからどう動くんだ?」
握手が終わってから。シュウはカミトに尋ねる。
やるべきことは、仲間集めとグリードアイランドの確保か。
まあ歩く広告塔がいるブラボーたちが仲間集めで、俺たちがゲームを確保するのが順当なところだろう。
「グリードアイランド入手までは、それぞれ個別に。わたし達は並行して仲間集めをするつもり。基準は、レイザーとのドッジボールに参加する意思を持っていること」
「妥当だな」
「定期的に連絡と、グリードアイランド入手時、仲間に入れたいプレイヤーが居た時だけは、すぐに連絡をちょうだい。わたしたちも同様に連絡させてもらうわ」
「わかった」
カミトの言葉を
思ったよりもゆるい連携は、こちらの力を信頼してのことか。とにかく、カミトの提案はかなり意外だった。
まあフリーハンドを貰えるなら、こっちも俺たちが出来る限りのことをやっていこう。可能ならカミトがびっくりするくらい。
……ふと思う。
カミト、ひょっとして人を使うの、慣れてるんじゃないだろうか。
「中の人」の事を考えるのは、この際無粋な話だけど。
それから。
ブラボーたちをシュウのフロアに泊めることにして、色々情報交換を行った。
カミトはこちらに来てからすぐに、心源流に入門したらしく、系統別修行法なんかを教えてくれた。
夕食は、ステーキやら寿司やらふぐ刺しやら、思いつくまま出前で頼んで、ちょっとしたパーティになった。
それぞれ割り振られた部屋で、一泊。
翌日、ブラボーたちは天空闘技場を発っていった。
もうすこし、ゆっくりしてくれてもよかったんだけど……目標に目を向け立ち止まらないその姿は、頼もしい。
天を仰ぐ。
この世界に来たときと同じ、空恐ろしくなるほど高い青空。
でも、同じ天の下に、志を同じくする仲間がいる。そう思うと……怖くなかった。
……あ、シュウさん、しっかりブラボーたちの裏は取るんスね。
◆ミコ=トトコノエ
・H×Hで好きなキャラクター三人
ゴン、レオリオ、ナックル
・H×Hで好きな念能力三つ
シズクの【デメちゃん】、マチの【念糸】、ネオンの【
・グリードアイランドで好きな指定ポケットカード三つ
No.035カメレオンキャット、No.051手乗りドラゴン、No.099メイドパンダ
・ユウからの第一印象
ハンター試験でその格好!?