人の未来は光の中に(アムロ ジュドー ロンド・ベルinコズミック・イラ ルナマリアを添えて~ 作:アママサ二次創作
『ルナマリア君、ブライトだ。入っても良いか』
自分に付き添ってくれたアムロではなく、艦長であり、連邦軍の会議に出席していたはずのブライトの声。それにルナマリアが承諾の声を返すと、扉が開いてブライトが入ってきた。
「すまないルナマリアくん、割って入ってしまった。だが状況が変わった。彼と話すのは次の機会を待ってほしい」
ブライトはそう言いながらアスランの方にちらりと目を向けるが、すぐにルナマリアの方を向き直る。彼を尋問したいものの、優先すべきことがあるのだ。
「あの、何か合ったんですか?」
「地球連合という組織から通信が入り、会談を行うことになった。ついては、この組織に関して知っている事を教えてもらいたい。それをまとめて本部に送る必要がある」
先程、アムロ達が艦に戻った後の会談で、様々な設備の確認や警備を厳しくするとともに、外部に向けて、この世界の様々な組織に向けて連絡を取ることが決められた。またその上で対外折衝が必要となった場合、軍部とフォン・ブラウン市の上部の人間を一時的に弁務官という新たな役割に置き、彼らを中心に外部との交渉を行うことになっている。
ここでは弁務官としているが、扱いとしては外務大臣と変わらない。ただ、まだフォン・ブラウンを完全に一個の国として再編すべきか否か、という議論において結論が出ていないので、弁務官という名称を採用しているに過ぎない。しかし、もともとフォン・ブラウンは地球連邦寄りではあるものの中立都市であり、どのような名称であれ国家であることには変わりないのも事実であり、そのための組織も人材も揃っている。このあたりは、中立とはいえ月面各都市が連邦よりだったことの弊害とも言えよう。
ブライトの説明に、アスランは怪訝な表情を浮かべて横から尋ねる。
「地球連合と会談? あなた方は地球連合では無いんですか? いえ、そもそも地球連合を知らない……?」
「悪いがそれを説明している暇はない。地球連合に関する情報の調書ができ次第、説明するからまずは協力してもらいたい」
自分が情報を提供するのが先だ、と断言、要請と言う名の命令をするブライトの言葉に、アスランは少し悩んだものの協力することを承諾する。ただし、条件付きではあるが。
「あのMSのデータベースを読むな、ということか? しかし、我々は少しでも情報を必要としている」
「わかっています。ですがあれには、こちらの重要施設の情報なども載っている。要求されればそれぞれに応じて提供することも考えますが、全てを見られるというのは都合が悪い。代わりに、ジャスティスのデータベースに載っていないことでも俺が協力することを約束します。こちらの軍事以外の情報は、一切ジャスティスには記録されていません」
それはアスラン必死の駆け引きであった。インフィニットジャスティスのデータベースには、オーブ軍のMSの情報やクライン派のターミナルやファクトリーの拠点など、軍事的な情報が様々記録されている一方で、地球連合の戦力やプラントの主張など、要するに自軍の戦力以外のものはほとんど記録されていないと言っていい。
だからこそそれを取引の材料として、データを守る。まだアスランの進む道は不明瞭だ。ならば、出来る選択を取る。
それを聞いたブライトはしばしの黙考の後結論を出す。本来ならば彼一人で判断して良いものではないが、急を要する事態だ。それに今の言葉は記録されており、彼の側に嘘があった場合は反故にする事もできる。
「……了解した。現在保存されたデータは封印することを約束する。ただし、あの機体のスペックはすでに確認してしまっているので許してほしい」
「それは! ……いえ、わかりました。それで結構です。また、取引をするのであれば士官待遇を求めます」
「それは調書作成の後、こちらの状況を説明させてから考える。今開放して逃げられては目も当てられないのはわかるだろう?」
「……わかりました」
結局、情報の提供に協力する代わりにジャスティスのデータベースは守られた。また調書作成ののちには事情を説明し、アスランの対応にはよるが、士官待遇、あるいは監視しながらも独房から出すことを検討すると約束された。
******
アスラン、ルナマリアの説明を全てまとめた所で、ブライトは忙しく艦長室へと戻っていった。フォン・ブラウンは超巨大な都市であり、ラー・カイラムの入港しているドックから中央の庁舎、あるいは街の反対側の基地へと移動すると凄まじく時間がかかるため、回線を繋いで情報の共有を行うのだ。
基本的に地球連合その他の組織との交渉はフォン・ブラウンと基地の参謀クラスの人間が受け持つので、ブライトが関与できるのはここまでなのである。
そのため全ての説明を終えたブライトは、アムロがアスラン・ザラとルナマリアに改めてこちらの事を説明している取調室へと向かった。
入室すると、アムロが話している最中ではあったが、アスラン・ザラの表情が抜けきって顔が強張っているのが見て取れた。
「アムロ、まだ説明は途中か?」
「いや、おおまかな説明は終わった。今は少し、俺達の世界での戦争の話をな」
それでアスラン・ザラの表情が強張っていた理由を理解する。ルナマリアの話はすでに聞いているが、彼女らが経験した戦争よりも、ブライトらの世界で起こった一年戦争というのは、被害の規模も行われた作戦も悲惨なものだったのだ。
無論戦争をしている時点でどちらがより悲惨かなど比べるべきではないが、この世界で特大の被害をもたらしたと言われているエイプリルフール・クライシスですら被害は10億人の人間。一年戦争ではその数倍の被害が出た上に地球に核の冬が訪れたり地球の自転がずれたりと、まさに地球レベルでの被害が出ている。初めて聞けば表情がこわばるのも無理はない。
「アスラン・ザラ。我々の置かれた状況は理解したと思う。その上で君に我々への協力を要請したい」
「……あなた方の軍に所属しろ、という意味ですか?」
「いや、あくまで現地の外部協力者という立場だ。扱いについては様々な例外が認められているがな。ルナマリア君にも説明していなかったが、アスラン君が協力してくれるのであれば2人は同じ立場に置かれることになる」
現地の外部協力者というのは、政府が統合された宇宙世紀では久しく見られていないが、西暦時代の国家が別れているときに、自国領外で活動を行う際に現地住民の協力を受けたりする時に用いられる地位、あるいはそうした協力者を指す言葉である。要するに軍人ではないが、作戦行動に協力する人物ということだ。
「……自分は現在オーブの所属です。オーブの不利になりうることには協力しかねます」
「正直だな。我々は極力どの組織とも敵対するつもりはない。向こうが無理難題をふっかけて来ない限りは、だがな」
通常であれば手を組める組織、手を組むのが困難な組織など判断した上で、特定の組織と手を組み敵対する組織と対立するという選択を取る可能性もあったのだが、ルナマリアの説明の過程で、フォン・ブラウン上層部と軍は、その組織の形態や思想などから、いずれの組織も信頼に足るものではないと判断しており、積極的にいずれかの組織と緊密な関係を構築するという考えを捨てていた。外部に連絡を取るというのも、自分たちを同じ人間であると知らしめ、交渉の余地があると思わせるためである。
こういうのはなんだが、現在のコズミック・イラの各勢力が疲弊している間に自立しうる武力や資源を確保するために動き始めているのである。
「わかりました。ならばいくつか条件をつけさせてもらいたい」
「言ってもらえれば検討する」
「そちらの世界の歴史に関するデータベースの閲覧許可をいただきたい。また今すぐというわけではないが、オーブと交渉を取り持つ際には自分を大使の一人として同行させてもらいたい」
「1つ目はすでに会議で許可を出すことが決定されている。2つ目は君がオーブ軍と合流する事を懸念する意見があるためまだ検討中の段階ではあるが、比較的肯定的な声が多いとだけ言っておく」
あくまで許可するのは歴史的事実に関するデータベースであり、技術的なものは閲覧が禁止されている。これはこの世界の他勢力と交渉するに当たって、他国に見せても問題ないようにフォン・ブラウンと軍が協力して編集しなおしたデータベースであり、技術水準に直接言及するものなどは省かれるようになっている。
それを聞いたアスランは、ブライトに協力する事を宣言した。ルナマリアが地球連邦軍とザフトが戦闘を行ったということを説明してくれたため、一時的に戦線が膠着すると考えたからだ。またこれからもオーブとしてラクスたちとともに戦うとしても、そこから離れるとしても、連邦との協力関係を築いておくことが先決だと考えたのである。それを聞いたブライトがアムロにちらりと目を向けると、彼は小さく頷いていた。それを見たブライトは、再びアスランへと視線を戻す。
「わかった。それではここで少し待っていてくれ。ルナマリア君もだ。すぐに書類を作って持ってこさせる。それと、アスラン君の服もだな。用意させよう」
続けて端的にこれからの事を説明すると、ブライトは一度退室する。書類の作成などの作業はブライトがするものではないが、指示を出す必要があるためだ。
続いてアムロも2人に気を利かせて部屋から出ようとするが、それをルナマリアが引き止めた。
「あの、アムロさん」
「ん、なんだ?」
「その、アムロさんにも意見を聞きたいことがあって……今お時間大丈夫ですか?」
「それはさっきの話か?」
アムロが尋ねると、ルナマリアはコクリと頷く。ルナマリアはアスランと話す前に、外でアムロが話を聞いており記録もしているということを承諾していた。監視というよりはアスランの人となりの調査が主だと言われてしまえば、断る理由はない。
「それなら、俺よりもブライトに聞いたほうが良いと思うがな」
「そうなんですか?」
その言葉にアムロは苦笑する。先程2人が話していたような政治的な話など、自分の知識が及ぶところではないからだ。そういうのは普段から歴史や苦手だと言いながらも政治関係の書籍を呼んでいるブライトの方が詳しい。ブライトのすすめもあって軟禁時代やエゥーゴとして活動した後に地球に回されていた時に多少かじったことがある程度である。
「俺はそういう話は詳しくないからな。2人の望むような答えは得られないさ。ブライトはそれなりに知識もある。まあ少し待つと言い。すぐに戻ってくるはずだ」
「え?」
「ルナマリア君に戦闘中の通信について話したいことがあると言っていたのだろう?」
「あ、そう言えば……」
戦闘中の通信と言うならば、その相手はアスラン・ザラなのだろう。だから恐らくブライトは、2人がいる場で話そうとするに違いない。そのアムロの判断は正しく、すぐにブライトが戻ってきた。
「それじゃあブライト、後は任せたぞ」
「お前はどうするんだ」
「もう一度シミュレーターを見に行く」
「そうか。時間を見て終了させてくれ」
言葉少ななアムロとブライトの会話だが、2人にはそれで通じるのだ。
「ああそれと」
「なんだ?」
「2人の話を聞いてやってくれ」
そう言うとアムロは、返事を待たないままに退室していった。
******
ルナマリアとアスランに戦闘中の通信で話していた内容についていくつか尋ね、また指導しようと考えていたブライトに、丁度いいとばかりにルナマリアは自分たちの疑問を尋ねる。
「……なるほど。2人の言いたいことは理解した」
その上で、とブライトは続ける。
「2人の疑問は、結局的に言えば意味を持たないものだ」
断じたブライトの言葉に片や唖然と、片や疑問の声を上げる2人に、ブライトは話し始める。
「まず前提として、だが、君たちは政治と戦争の関係がうまく捉えられていないように思える」
「どういうことですか?」
そう尋ねるアスランに、ブライトは状況整理を提案する。状況の認識が不正確に過ぎる場合、どれだけ正しく思考しようとも意味がなくなるからだ。
「状況を整理したい。プラントのデュランダル議長がディスティニープランの発表を行うとともに、世界各国にこれに批准するように通達した。そしてこれに従わずに敵意を見せたとして連合の基地を撃ち、それに対してオーブ艦隊が抵抗の意思を見せている。そういう状況であっているな?」
これは事前にルナマリアから説明されたことを、丁寧にまとめ直したものだ。彼女の説明には原因と結果といった、順序がかけた部分があったためそれを補ったのだ。
「……はい、そうです」
「まず、一つ一つ整理しよう。プラントの、というよりは議長の、だろうが、議長の目的は他国のプランへの批准であり、それに従わない連合に対して、連合の戦力を排除するという戦闘行為によって目的の達成を目指している。つまり要求は『プランへの批准』であり、戦闘行為は『脅すことによってそれを達成させる』、あるいは『最終的に統治下においてこれを達成させる』ことにある、と考えられる」
「はあ」
「ではこれに対する各国の対応だが、連合はもともとの戦争、すなわちテロリストを匿うプラントを敵性国家として行った戦争を継続する、という形をとったのだと思う」
もともと、ロゴス討伐において地球連合や各国の世論がデュランダルに集まったとはいえ、地球連合とプラントの戦争は終わっていない。もともと死んだ可能性の高いテロリストを引き渡せという、ほぼ難癖に近い要求ではあるのだが、少なくともこの戦争における地球連合の言い分は論理立てて説明することは出来る。あくまで賠償などではなく、死んでいるテロリストの引き渡し、回収を目的としているというのがプラントにはどうしようも出来ないたちの悪いものではあるのだが。
「つまり、連合とプラントの戦争はまだ終わっていない、で片がつく。では次にオーブだが……目的はなんだと思う? ルナマリアくんの話を聞いた限りでは、それがはっきりしなかった。デュランダル議長を批判しているというのは理解できたが、そこから何を理由に戦闘を行おうとしているか。聞いた話では、デスティニープランそのものを批判し、それを実施することは人の未来を縛るというような事を言っていたらしいが……」
「そうです。我々の目的は、デスティニープランと、それを実行しようとするデュランダル議長の排除、そして大量破壊兵器であるレクイエムとネオジェネシスの破壊です」
「そうか。後者については、政治的にもなんの問題も無いように思う。特に危険兵器の排除を求めて、敵国が手放さなかったという話だ。対話の手段を踏むべきではあるが、ありえない話ではない。だが、前者は論理として危ういように思う」
ブライトの断言する言葉に、ルナマリアもアスランも、驚いた顔をする。
「ここで他国が問題と出来るのは、ディスティニープランへの批准を他国に強制しようとしている点だ。もちろんそれに批准するか、反発するかは国家の選択であり、その手段として戦争がある。だが、少なくともデスティニープランがプラント国内だけで施行されることに関しては、オーブの口を出せることではないと思う」
「それは、どういう……ことですか?」
「あくまでこれは建前上の話であり、あるいはどんな理由の戦争であれデュランダル議長を排除してしまう可能性はある。またどんな理由で戦争をすることも可能だ。だが少なくとも国家としての名目を考えるのであれば、オーブがプラントに求めることが出来るのは、プランの自国への強制を止めさせることだけだ」
「それは……」
「もしかすると、地球の国家群の中にはプランへの賛同を表明している国もあるかもしれない。何より、どのようなプランであれ、それがプラント国内だけで施行される場合にはオーブが口出し出来ないものとなる。それに対する口出しは立派な内政干渉だ」
ブライトの説明した観点を持っていなかった2人は、その言葉に深く考え込む。すなわち、デスティニープランが正しい、過ちであるに関わらず、政治として通すべき筋がある、ということだ。そして今のオーブは、それを怠っている、とも。
「その上で言っておきたいが、戦争が明確な目的を明示した上で行われないことは良くあることだ。例えば、現在地球連合がプラントに宣戦布告したという理由がそれだ。非常に限定的な要求だがその過程においては、どこの基地を攻めることも、どんな戦法を取ることも許される。言ってみれば、他国と世論に示すことの出来る理由があるのであれば戦争は好きなように出来る、という意味でもある。だからオーブが積極的に『ディスティニープランの撤回』を目的にプラントを責めるというのは、目的として理解し難い。何らかの目的で戦争をする必要があるのであれば、大量破壊兵器の破壊で十分なはずだ」
これは簡単な話ではあるが、例えば目的が領土の奪取であったとしても、初めから『おたくの領土くーださい』などということはなく、何らかの難癖を建前とすることで戦争は行われてきた。
逆に言えば、その建前の裏にどれだけの国家としての欲やどす黒い目的を抱えていようと、その建前が成立する以上戦争をすることができる。
無論、西暦の第二次大戦時のナチスドイツがしたように、支配することが目的の戦争もある。だがそれは、他国からの理解を得られるものではない。国際社会の中で道理を通しつつ戦争をするためには、例え建前とわかっているものであれ、それを示す必要があるのだ。
「それは……しかし……」
それはアスランの考えている正しさとは違った観点からの答えである。いや、アスランの中では、正義という意味での正しさと、政治的な道理という意味での正しさが混ざり合ってうまく区別できていないのだ。
正しい、正しくないといった考えは、言ってみれば人の数存在し、正しさと正しさが対立することなど無数にある。だから、その中で国家としての筋を通し、自らの信じる正しさを通す権利を得るために、ブライトの言ったような国家としての建前上の目的が必要となるのだ。
「そこまでを理解してもらった上で、2人の通信にも関わることなのだが」
そう言うブライトにアスランが不思議像な顔をするが、ルナマリアが事情を説明する。自分が連邦軍のMSで出撃したこと。それを認めて貰う代わりに戦闘の記録を取っていたこと。
「まず極論で言えば、自分の正しさを通すために必要な配慮など一切ない。例えオーブがデュランダル議長の排除を求めて行動しようと、それは彼らの勝手だ。あるいは、君の友人たちがテロリズムまがいの行動をしたのも、彼女らの勝手だ」
「でも……!」
声を荒げるルナマリアを、アスランが抑える。それを見たブライトは、更に続けた。
「正当性、あるいは周りから認められる名目。それらが必要となるのは、意思を通す場ではなく、それが周りからどう見られるか、という場面においてだ」
「例えばアスランくんの仲間の行動は、ルナマリア君にはテロリズムと受け取られていた。この言葉を聞いた時、民衆は彼らを認めるのか。そしてそれを鑑みた時、全てが終わった後の彼らの処理、処罰は果たして穏当なものとなるのか。そうしたことと、彼女らの行動の目的は本質的には別のものだ」
つまりは。目的を持って行動することと、その結果による不利益を考慮するのは別のことだと。普通は一緒くたに見えるそれだが、全く別のものとして考えられうるのだ。
それは言い換えれば、後を配慮しないのであれば何でも出来てしまう。
「俺は軍人として、そして一人の人間としていたずらに被害を出すやり方は認めることが出来ない。だが、その上でやるという人間も居るのだと思う」
実際、ブライト達がエゥーゴ時代にしていたことも法的に見ればアウトなことである。例えティターンズのやりようが一般人の目に悪として映っていたとしても、彼らは合法的な組織で、エゥーゴは半非合法的な組織だったのだ。
その上でブライトはエゥーゴに参加した。もちろん民間人を攻撃するようなテロリズムをするつもりは、少なくともブライト個人には無かった。だが、だから許されるというものでもない。ブライトは許されること、自分たちが正しいことをしているのだという証明など求めることなく、変えるために行動したのだ。
そこにあったのは覚悟である。例え否定されようと変えるという覚悟。あるいは、否定されるという状況すら変えるという覚悟。
「……そんな覚悟が、あるんでしょうか」
「それは俺の知るところではないからなんとも言えないが、覚悟が無いのならばやめたほうが良い。そして覚悟があって間違ったことをするものが居るなら、それをこちらも覚悟を持って止めるまでだ」
ブライトは、シャア・アズナブルが、クワトロ・バジーナが許せない。地球に小惑星を落とそうとした行動より何より、彼が、覚悟から逃げたということが許せないのだ。アムロと話したところでは、彼はその覚悟を嫌っていた部分も合ったらしい。
そして彼は、新たな覚悟を持って争いを引き起こした。だから自分たちも、それを止めるために覚悟を決めた。そういう意味では、今回の小惑星落としよりも、エゥーゴでの責任から逃げたことが許せないのである。勿論民間人への被害などは別としてであるが。
「すまない、長く話し過ぎたな。結局の所、テロリズムやクーデターなんてものは得てしてまともなものに見えないことが多い。何故なら体制側は、欠点などはあれどそれなりにまともだからだ。だがそうでなければ、世間的に許容される可能性もある。一つの視点から考えるのではなく、状況やそれぞれの主張、立場と関係などを考えるのが重要だ」
そして最後に、と、ブライトは2人を諭す。2人の軍での立場がわかっていないが、2人は軍人である。ならば、自分が軍人の先輩として、言えること言うべきことがあるのだ。
「君たちも、そして我々も軍人である以上、上からの命令に逆らうことは許されない。もし自ら悩み、決定したいと考えるならば、指揮官クラスまで出世するか、軍人になどならないことだ」
ブライトの言葉を聞いたルナマリアはしばし考え込んだ後、彼に尋ねる。
「じゃあブライトさんは、アークエンジェルのしたことは、正しいことだと思いますか?」
そう言って、大まかな説明からは省かれていた、地球におけるアークエンジェルの活動をルナマリアが説明すると、ブライトはひどく呆れた顔をする。
「戦闘を止めたいという目的自体が状況の見えていない妄言である上に、やり方も明らかに間違えている。誰がそんな馬鹿げたプランを考えたんだ? 」
「さあ……」
わからないと首を傾げるルナマリア。一方である程度実体を知っているアスランは、奇妙な衝動に駆られていた。無性に笑いたくてたまらないのだ。
間違えたことをさも正義であるかのように言う彼女らか、それともそれを信じ考えようとしなかった自分たちか。
わからないが、明確に否定されたことで、何かが自分の中で変わった気がした。
「ブライトさん」
「何だ?」
「あなたなら、戦闘を止めたいと思ったらどうしますか?」
アスランに静かに問いかけられて、ブライトは少し考え込んだ後答える。
「細かいようだが、戦闘と戦争は違う。そして戦争が始まってしまった以上、特定の戦闘は作戦次第では回避できても、戦闘そのものの回避は困難だ。であれば戦争が始まる前に回避するのが必須になるが、俺は政治家ではない。そうである以上、戦争のもっと以前からパトロールを厳格に実施したり、他国との共同軍事演習の提案などをして、火種を減らしておくしか無いように思う」
「戦争は回避できないんですか?」
「それは政治家の判断することだ。政治家連中が常に正しいと言えるわけではないが、彼らは彼らで戦争を回避する、あるいは有利に終わらせるために行動しており、俺達軍人はそれに従うのが仕事だ」
至極簡単な話ではあるのだが、軍人に戦争を始める権利はない。軍人に出来るのは戦うことだけだ。そして一人が全てを達成することなど出来ない以上、ブライトは自分の職務に忠実にあろうとするのだ。
「ふむ、しかし……」
2人がブライトの話に一定の理解を見せる一方で、ブライトはルナマリアから改めて聞いたアークエンジェル時代のラクス一派の行動について考える。
目的は、たしかに傍から見れば妄想としか思えないし、やり方もその目的にはふさわしくない、とブライトは思う。
だが、それほどまでに力のある裏の組織をまとめている人間がそんなやり方をするだろうか。ブライトですらそのやり方は適切ではないと思いつく。
であるならば。
何か、他の目的がある可能性がある。
自分一人で考えるべきことではないし、あるいは異邦人である自分たちには関わりの無いことになる可能性もある。とはいえ、各組織の指導者の思考というのはわかっているに越したことはない。
そのことについても、上層部で共有しておこうとブライトは脳内にメモをした。