人の未来は光の中に(アムロ ジュドー ロンド・ベルinコズミック・イラ ルナマリアを添えて~ 作:アママサ二次創作
アスランが外部協力者として扱われるようになってからの最初の任務は、このコズミック・イラ世界における宇宙の航海図の譲渡であった。
フォン・ブラウンは現状どの組織も信頼に値しないということで手を結ぶという方針に踏み切っていない。そのため資源など必要となるもの全てを自分たちで入手する必要がある。その中でも最も重要となるが、小惑星からの資源確保。そして続いて核融合炉の燃料となるヘリウム3の入手であった。いずれも、他のコロニーや地球圏の都市にまで大量の物資を輸出していたフォン・ブラウンには十分すぎるほどの備蓄があったが、それも十年もあれば底をつく。
それだけでなく。仮に戦闘になった場合、その消費は更に激しいものとなる。この世界の組織がフォン・ブラウンの出現に戸惑っている今こそ、準備を整えるチャンスなのである。
「オーブの極秘施設に関する情報のみ削除しています」
「了解した。それで構わない。ついては、今後の君の身の振り方だが……」
情報をまとめた端末を受け取ったブライトは、それを簡単に確認しながらアスランに話しかける。受け取った情報はそのまま扱うことは出来ない。少なくともフォン・ブラウンから無人の探査艇を複数出して、情報が改竄されていないか確認する必要があった。
「ルナマリアは今何を?」
アスランが着替えてインフィニットジャスティスのデータベースを整理している間に、ルナマリアはアムロと呼ばれた男に連れられていなくなってしまった。仲間意識、というわけではないが、この異世界人だという人々の中で、ルナマリアだけがアスランにとって身近と呼べる存在であった。たとえ自分が裏切ってしまった相手だとしても。
「彼女はシミュレーターでMSの操縦訓練を行っている」
「それは……! 彼女をパイロットとして戦場に出す、ということですか?」
「あくまで彼女自身の意思だ。戦闘になった場合の配置は君の関与できるところではない」
「矢面に立たせることもありえる、ということですか」
ブライトの返答に、アスランは冷たい視線で応じる。アスラン自身は、まだ連邦軍という組織を信用していない。だからこそ、ルナマリアを危険に晒そうというのであれば見逃せなかった。
だが。そんな決意を秘めたアスランの言葉に対し、ブライトはクスリと笑う。
「君とルナマリア君は、同じ部隊のパイロットだったと聞いた。心配するのはその誼かな?」
「……そう、です」
「そうか。君はもう少し、大局的に物事を見るということを覚えた方が良い」
「は?」
ブライトの突然の言葉に、アスランはどもる。それに対し、立ったままアスランと会話していたブライトは艦長の席に座り込んだ。そしてアスランにも席を勧める。ルナマリア曰く素手で数名のSPを制圧するアスランがおかしな動きをしないようにとMPに見張られながらではあるが、アスランもソファーに腰を下ろした。
「今我々の置かれた立場は、まさしく異邦人という言葉がふさわしい。翻って、君たちはまさしく現地人だ」
「ええ、それはそうです」
「ならば、話は簡単だと思うんだがな。我々は、自分たちが君たちと同じ人間であると証明していかなければならない立場にある。そんな中で、君たちを危険に晒すようなことが出来ると思うか?」
例えルナマリア自身が戦場に出たいと望んだとしても、現状の情勢ではそれもかなわない。仮に各組織の代表者が『奴らは、我々の同胞の命を軽く扱い殺した』などと言われた時に、それを黙らせるだけのものが必要なのだ。そしてその黙らせるためのものこそ、『連邦内で普通に生活しているあちら側の人間』なのである。
「失礼、しました。危険に晒すつもりはない、ということですね」
「それは断言しかねるな。君はあくまで外部の人間だ。我々の方針に関して全てを共有するわけにはいかない。だが、少なくとも我々は君たちこちら側の世界の人間と結ぶための手は持っている、ということは伝えておく」
「……わかりました」
「そこで、というわけでもないが。君にもルナマリア君と同様に、出来る限りの範囲で望むことを用意する事となっている。ただし安全保障の観点から認められないこともあるが」
例えば。現在特に警備を増員している工場や備蓄倉庫周りの業務にルナマリアやアスランを近づけることは出来ない。一方で、普通に街のレストランでウェイターやシェフを行うというのであれば、監視の上ではあるがそれに対応する用意がフォン・ブラウンにはある。
「俺は……。なぜルナマリアは、パイロットの訓練を?」
自分はどうすべきか。それを考える中で、アスランはルナマリアからブライトが何か話を聞いていないかと尋ねてみる。だが、ブライトもそこまで深くルナマリアの内面に踏み込んでいるわけではない。ただ、彼女の状態には見覚えがあった。
「あくまで俺の推測だが、彼女は悩んでいるのだろうな」
「悩んでいる?」
それは一年戦争時のアムロしかり。グリプス戦役時のカミーユしかり。新しい、それもけして穏やかとは言えない環境に放り込まれた彼らは、それぞれに悩んでいたのだろう。今のルナマリアの状態がそれに近いブライトは感じていた。
「自分が何をすべきか、何がしたいのか、ということにだ。だからこそ、彼女がこれまで行ってきたMSの操縦訓練をしながら、それに向き合うための心を作っている、と俺は思っている」
「はあ……」
「特段したいことが無いと言うならば部屋で休んで思いついた時に言ってくれて構わない」
そう言われて、アスランは当面の自分がすべきことを決めた。
「俺は……開示していただいた情報を精査します。また俺が知る限りの情報をまとめて提出します。互いを知ることが、平和への近道になる、と考えます」
「了解した。では君の居室まで案内させる」
立ち上がったブライトと遅れて立ち上がったアスランは、互いに敬礼をし、MPに案内されたアスランは退室した。
一方残されたブライトは、現在行われているであろう連合とフォン・ブラウン上層部の会談に思いを馳せる。
アスラン、ルナマリア2名を丁重に扱っているのは、先程アスランに伝えたとおりこちらの世界の人間に敵対視されないため、という目的もあるが、2人がそれぞれの組織を繋ぐ架け橋となる可能性を考えてのことでもある。現在連合を除いた2つの組織からは、今のところ連絡は無い。複数の周波数を用いてパトロール艦から呼びかけを行わせているが、反応が無いのが現状だ。だからこそ、こちら側からより積極的に連絡を取ろうとする場合、2人の存在というのは相手に絶対的に反応させるためのキーになりうる。
「異邦人だけでなく未来人、か」
アナハイムの工場では、急ピッチで製造ラインの変更が行われていると報告があった。自分たちより未来から来たというネェル・アーガマとゼネラル・レビルからの事情聴取は既に行われているが、彼らが未来人であると確定させる情報もいくつか上がっている。
それは例えば、ゼネラル・レビルやネェル・アーガマに搭載されていたMS群だ。リゼルというZタイプのMSは、現在のアナハイムで開発されている機体の完成形であることが、情報、機体解析の両面から確認されている。ジェガンの上位機種であるジェスタやガンダムタイプであるユニコーン、バンシィもデータベースには無いものの、現状の機体や試作機の発展型であることは間違いないらしい。
それらと加えて、所有がフォン・ブラウンである一部の試験艦や新造艦などもいざという時に使えるように整備が進んでいるようだ。
ともあれ。情報の精査と整理が現在のフォン・ブラウンにとって急務であった。そういう意味では、アスランが自主的に情報を提供してくれるのはありがたいとしか言いようがない。
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一方のフォン・ブラウン議会臨時大使館。港からすぐ近くのビルを借り上げたことで、会談にやってきた連合の人間がフォン・ブラウン市内を見ることが無いよう外部との会談の準備が整っていた。
そこで待ち受けるのはフォン・ブラウン市長と議会の人間、それに基地司令とその補佐である。通例であれば外交官レベルから始まるべき国交ではあるが、この非常事態に市長、基地司令ともに自分たちが自ら会談の場に出ることを決めていた。
そして彼らの待つ部屋に、初老の、というには少しばかり若い40代ほどの男性を先頭に、連絡艇でやってきた地球連合軍の代表がやってきた。
「お初にお目にかかります。私はアダム・クラークス准将であります。アルザヘル基地艦隊司令代行の任についております」
「こちらこそお初にお目にかかる。フォン・ブラウン市長をつとめているアーサー・ヤイーガです」
「フォン・ブラウン基地司令カリス・マグダネル中将だ。以後よろしく頼む」
3人の代表が挨拶を交わしたあと、その他の記録員や補佐官の紹介を終え、会談が始まった。
まず行われるのは、連合側からの『一体お前たちは誰だ』という誰何と、それに対するフォン・ブラウンからの解答である。
「端的に申し上げるなら、私達はあなた方にとって異世界人です」
「異星人、ですか? 火星から来た、と?」
あくまで自分たちの常識の範囲内で、火星移住民が月にやってきたのかと尋ねるアダムに対して、アーサーは簡潔な言葉で説明を繰り返す。
「いえ、異なる星、ではなく、異なる世界の人間です」
「冗談……では無いようですね」
フォン・ブラウン側の人間の顔を見ながら問い返したアダムは、意外や意外、すんなりとフォン・ブラウン側の説明に理解を示した。補佐官や連合側の記録員らが絶句している中で、一人だけ立ち直りが早いのである。
「信用していただける、と?」
「これに関しては信用するしないの問題ではないでしょう。あなた方が異星人だろうが異世界人だろうが、私達にとっては未知の勢力であることに変わりはありません。仮に嘘をついているとしても、それで損を被るのはそちらでしょう。まあうちの軍はもはや壊滅状態ですがね」
アダムという男は、こういう人物であった。重要なことを選択できる、といえば聞こえは良いが、ある種の適当さを持っている。
げんに。特に駆け引きもない中で自軍が壊滅状態であるとばらしてしまっている。
「なるほど。では我々を異世界人として扱ってくださる、と」
「ええまあ」
「では、先程おっしゃった壊滅状態、というのは?」
「文字通りです。現在我が軍の数は本来の3割に満たない程度です。レクイエムに撃たれましたからね」
淡々と、レクエイムに撃たれて壊滅状態となった自軍の状態についてアダムは説明した。それを聞き終えたフォン・ブラウン側は、代表して基地司令が明確な要求の内容について言及する。
「そのような状況をもって接触してきた要件は、なんですかな?」
「一時的な同盟の提案です」
「同盟、ですか?」
「ええ」
簡単に答えたアダムは、部下に指示して作成した図をモニターに表示させる。
「この世界の事情をある程度理解されている様子ですので細かい説明を省きます。現在我が地球連合は、プラントと戦争状態にあります。プラントの指導者デュランダル議長の目的は、ディスティニープランとやらへの批准とプラントへの無抵抗です。これはご理解していただけますか?」
「理解しています」
「では続けます。えー我がアルザヘル基地艦隊は、これに対して抵抗するために軍を送ったところ、レクイエムというプラント側に接収された大規模破壊兵器によって薙ぎ払われました。結果、我軍は壊滅状態」
レクイエムの射程や破壊規模に言及したアダムの説明に、フォン・ブラウン側は無言で答える。相手のペースにのってやることはないのだ。
「こちらからの一時的同盟の提案は、レクイエム、そしておそらくは後ろに控えているだろう別の大量破壊兵器の破壊までのものです」
「……つまり、その兵器を破壊するのに力を貸せ、と?」
「そうです」
「こちら側のメリットは? まだ伝えていなかったが、我々はあくまでフォン・ブラウンという都市、そして我々の世界の人間の安全を求めている。不用意に戦闘に参加するつもりはない」
そう。不用意に戦闘に参加するつもりはない。だが。
コロニーレーザーもどきが突きつけられるまで待ってやるほど、愚かではない。今フォン・ブラウンという都市は、ただ月にぽつんと存在しており、その存在は一般市民の目には触れていない。
撃とうと思えばいつでも撃たれうる。
ただ。それを自らさらけ出して相手に弱みを見せることもしない。
「わかってると思いますが。レクイエム、そして存在した場合にはジェネシスはここフォン・ブラウンに対しても放たれる可能性が高いです。ディスティニープランの概要はご存知ですか?」
「知っています」
「であるならば、あれが一般市民の目から見て賛同できなものだというのは自明のことでしょう。そうである以上、我々もあなた方も、あれを破壊する以外にも道はない」
つまり、これは協力の要請ではない。『そちらも危ないから協力しようね。しないと死ぬよ』という脅しなのである。
「……先程からおっしゃっている別の大量破壊兵器、ジェネシスとやらか? それはどういうものだ? 何故それが存在すると考えられる」
「ジェネシスというのは2年前の前大戦においてプラント側が使用した巨大ガンマ線レーザー砲です。破壊力はレクイエムに匹敵します。レクイエムはもともと、連合軍の兵器なんですよ。プラントはそれを奪ったに過ぎない。だが、このような『超兵器で脅す』という形の作戦を取っている以上、プラントがもともと持っていない、という可能性は考えづらい」
「だから隠し持っている可能性が高い、ということか」
「はい」
「しかし、まだ未確認であるならそちらの所在は判明していないのではないか?」
「していません。おそらくレクイエムを破壊しようと攻撃を仕掛けた場合、ジェネシスをもってその部隊を排除しようと試みてくるはずです」
そう言ってアダムは、異なる図を表示する。その図内では、1部隊が月軌道上からレクイエムへ攻撃をしかけ、そして横合いからの別の攻撃によって壊滅させられる。
「正面の部隊を囮にするわけか……」
「はい。そして後詰めの部隊で、レクイエム、そしてジェネシスを破壊します」
秘匿されているジェネシスの居場所を暴くために、部隊を1つ犠牲にする。そうアダムは言っているのだ。
アダムの提案に乗るか、反るか。フォン・ブラウンは、重大な局面に立たされていた。