人の未来は光の中に(アムロ ジュドー ロンド・ベルinコズミック・イラ ルナマリアを添えて~ 作:アママサ二次創作
「俺とジュドーはジェガンで出ろと? ガンダムタイプは出せないのか?」
医務室の館内電話で連絡を受けたアムロは指示を聞くなり疑問の声を出した。
「いずれも整備が終わっていません。最短のMk-Ⅲでも後20分はかかります。すでにGMⅢが先行しているため、お2人には一刻も早く援護に向かっていただく必要があります」
「了解した。敵の数は?」
「ガンダムタイプが2機、翼を持つ白いガンダムと指揮官機とおぼしき赤いガンダムです」
「この間のやつとは違うな。迎撃に出たGMⅢ隊の状況はどうか」
「すでに交戦に入っています」
「わかった。すぐに出撃する」
通信を終えたアムロは艦内を歩きながらGMⅢ隊の身を案じる。
「ガンダムタイプ相手にGMⅢでどれだけ持つか……。Mk-Ⅲを待っている時間はないな」
ガンダムタイプは大抵が高性能機であり、不明機とは言えすでに時代遅れと化しつつあるGMⅢで相手できるようなものだとは思えない。
だが、そんなアムロの予想とは裏腹に、GMⅢは2機のガンダムタイプを相手に奮戦していた。
******
フォン・ブラウン近くの空域
「くっ、こいつら動きが良い!! 連合にまだこんな部隊が!?」
インフィニット・ジャスティスのコックピットでアスラン・ザラは呻いた。未確認の機体、外観からして連合の量産機に見えるMSの部隊に、ジャスティスを操る彼が苦戦を強いられているのだ。彼らからしてみれば、まったく予想外のことだった。
「落ちろ!」
ミーティアのオールレンジ攻撃で一気に決めてしまおうと照準を定める。例え動きがいい相手とは言え、圧倒的な火力で攻撃すれば落とせる。
だが、そのとき異変が起こった。目標をロックオンできずにシステムがエラーを起こしたのだ。
「なっ!? ロックが効かない!? そんな馬鹿な!」
アスランは驚き、その動きが一瞬止まる。フリーダムとジャスティスにはミーティア運用時のために、多数を相手取った『広域殲滅』を目的とした『マルチロックオンシステム』が搭載されている。それが機能しないということは、彼らの戦術の小さくない部分が封じられたことを意味する。もともと寡兵である彼らが、連合、ザフトに対抗するための手段だったのだ。
何故、突如としてロックオンシステムが機能しなくなったのか。その原因は、ラー・カイラムの散布したミノフスキー粒子にあったのだが、アスランにはそれを知る由もない。
ミノフスキー粒子はその特性によってレーダーを撹乱し、電子機器に影響を及ぼす効果を持っている。かつてジオンはこの粒子とその影響下における戦闘に適応したMSによって連邦軍を圧倒した。
C.E.世界にも同様の影響を持つNJは存在しているのだが、戦闘濃度で散布されたミノフスキー粒子の影響はそれを遥かに上回るのだ。
「キラ、聞こえるか、キラ! くっ、通信機も駄目か……!」
C.E.のMSはミノフスキー粒子ほどの電波妨害にさらされることを想定していないため、通信に受ける影響も著しい。キラ・ヤマトの搭乗するストライク・フリーダムもそれなりに近くで戦闘しているはずだが、通信はつながらなかった。
彼らにとって原因不明の計器やシステムの異常は、2人の連携を大きく乱した。通信が出来なければ援護も呼べない。キラがどうなっているのかも確認できない。そのことが更にアスランを焦らせる。
そんな彼の隙を突くかのように、GMⅢのうち1機がビーム・サーベルを抜いて斬りかかった。そのスピードはアスランがGMⅢの量産機然とした見た目に想定していたより遥かに速く、彼の反応を許さずにミーティアの左の砲身を切り裂いた。
さらに別の機体が肩から放ったミサイルが命中し、ミーティアが完全に破壊される。ジャスティスはPS装甲に守られたものの、アスランの動揺は大きかった。
(敵のパイロットの腕前は相当なものだ。連合に協力しているコーディネーターか?)
敵の冷静な動きとかなりの腕から、戦闘中にも関わらずアスランの頭の中を様々な想定が駆け巡る。
敵のパイロットはエクステンデッドやブーステッドマンといった、人工的に改造された人間ではない。それらががむしゃらな力押しで攻めてくるのに対し、目の前のMSのパイロットたちは洗練された連携と戦術でしかけてくるのだ。
となれば、連合のナチュラルのエース、もしくは超エース級か、コーディネーターのエース級で構成された部隊だとしか考えられない。それらが守っている月面の反応は、何か重要なものであるに違いない。
アスランはそう考えた。
しかし、アスランの予想は事実とは異なっていた。確かに月面のフォン・ブラウンはロンド・ベルとその都市の住民にとっては重要なものだが、出撃してきたのはエース部隊でもなんでも無い、ただ戦火の中を生き抜いてきたベテランパイロットであるだけだ。
GMⅢの部隊はアスランを足止めすべく巧みに弾幕を貼って、ジャスティスを何度も牽制する。
「いいか貴様ら! 落とす必要はない! アムロ大尉とジュドーが来るまでなんとしても持たせろ! やられたら給料は無いと思え!」
「わかってますよ! やつにこのGMⅢがそんじょそこらのガンダムタイプより性能が上だってところを思い知らせてやります!」
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戦闘はGMⅢ部隊の優勢で進んでいた。ミノフスキー粒子散布下での戦闘が当たり前になっているU.C.とは違って、NJが存在するとは言えC.E.ではいまだにレーダーを使った『イージスシステム』が現役で運用されている。そんな戦場を想定して開発されたジャスティスとフリーダムがミノフスキー粒子散布下で戦闘したらどうなるか。
まさに目隠しをされたようなものだ。高精度のロックオンが出来ないのはGMⅢも一緒であったが、彼らはそうした戦闘に慣れている。いわば目隠しでの戦いに慣れているのだ。その経験と慣れが、ものを言っていた。
両陣営の機体の性能は、動力源の問題を除けば大きな差はない。GMⅢは量産機ゆえ単純な攻撃力はガンダムタイプに遠く及ばないように思えるが、U.C.とC.E.のMSの間には攻撃力において隔絶した差がある。核融合炉を持つMSのビームは、たとえC.E.世界で最高峰のVPS装甲であろうと簡単に破壊するのだ。
「GMⅢをなめるなよ、ガンダムどもめ!」
3機のGMⅢが息の合った連携でライフルを一斉に放つ。そのビームは、C.E.のビーム兵器よりも遥かに高威力、高速の光の矢となってジャスティスを襲う。MSの携行するライフルから放たれたものでありながら、オルトロスやパラエーナを超えるほどの破壊力が秘められていた。
アスランはジャスティスのスラスターを吹かし、3機の放つビームをなんとか回避した。しかし、背中のファトゥム-01の右の主翼はほとんど融解してしまった。
「なっ!? かすめただけで!? なんて威力なんだ!」
彼は驚きと恐れの入り混じった声を漏らしていた。
共闘していたキラは相手取っていた1機を戦闘不能にしたが、自分の相手取った残りの3機はなんとも手強い。
寡兵であるアスラン達は単機で複数を相手取ることは覚悟していたしその経験も前戦役含めて何度もあったが、これほど手こずったのは初めてだった。しかもブーステッドマンやエクステンデッドの操る高性能機でもエース用のカスタマイズされた機体でもなく、ただの量産機相手に。
「これほどのパイロットが連合にいたとは……」
それはコーディネーターゆえの、ほとんどがナチュラルで構成された連合軍を侮った考えであったかも知れない。だが、その傲慢な思考とは裏腹に、アスランの瞳に鋭い光が宿る。それは激しい戦いを生き抜いてきた、エースパイロットである故のものだった。
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アスランの相棒のキラ・ヤマトは、自分に向かってきていた1機のGMⅢを戦闘不能にし、フォン・ブラウンに肉薄していた。
「あれは……街?」
クレーターを視認する。そこには、地上やコロニーと何ら変わらない、しかも大規模な都市そのものの光景が広がっていた。
キラは己の目を疑う。そこには本来何もないはずだったのだ。それが基地どころか、都市が出来上がっている。
(これほどの都市をいつの間に……?)
より詳しく探るために、彼は機体の高度を下げようとする。その時、遠方から放たれたビームがフリーダムをかすめた。索敵圏外からの攻撃に、キラはあわてて体勢を立て直す。
「うあっ!? ドラグーンがやられた!? 2機、あれはウィンダム……いや、また新型か!」
フリーダムを攻撃した機体はダガー系列の機体に見えたが、同系列に見られるストライカーパックが見受けられない。今の攻撃で背中に装備していたドラグーンの一部が破損しており、とてもただのダガーなどの量産機には思えなかった。
当のMS、ジェガンのコックピットにはアムロとジュドーが乗っていた。
「アムロさん良く当てるなあ。それにしても新型とは言えGM系列でガンダムとやるなんて……ついてないなほんとに」
「文句を言うな。ジェガンは量産機だが性能自体はMk-Ⅱ、百式すら大きく上回るんだ。それにMSの戦力は性能だけで決まるわけじゃないぞ。どこの所属とも知れないガンダムタイプに引けをとるつもりか?」
「それはそうだけど……」
「ガンダムを使いたい気持ちはよくわかる。俺も正直言うとホワイトゼータを使いたかったんだがな。あいにく整備中だ」
「ホワイトゼータって、格納庫で整備を受けてた白いZのこと?」
「ああ。俺がティターンズとの戦争のときに使ってたやつだ。アナハイムが送ってきたんだが、間に合わなかったな。おしゃべりはここまでだ、さあ行くぞ!」
「了解!」
アムロの声に答えるように、ジュドーはスロットルを押し込んだ。アムロは明らかにアウトレンジな位置から敵ガンダムタイプに損傷を与えた。あそこまでのことが自分にできるとは思えないが、自分も出来ることをしなければならない。
「とりあえずやってみるか!」
まずはジュドーが牽制も兼ねてライフルを放った。キラはこれに反応し、即座にレールガンを放つ。
(これで!)
射撃直後に彼の攻撃を避けられる腕を持ったパイロットは、今の地球連合軍にはまず存在しない。またフリーダムの火器に耐えられる通常装甲も無い。まさか量産機にPS装甲は使ってないだろう。
彼の今までの経験からすれば、大抵のMSはこの一撃で戦闘力を失うのだが、この場合は違った。なんと敵は射撃直後にも関わらず攻撃をなんなく躱し、更に反撃を返してきたのだ。
「なっ!?っ、うわっ!」
ジェガンのシールドミサイルの至近弾の爆発がフリーダムを襲う。直撃を躱したにもかかわらず、ミサイルはフリーダムの直近で爆発した。自分が避けることが敵に読まれていたのだ。
そのフリーダムの隙を見逃さず、アムロは格闘戦を仕掛ける。
「このジェガンならやれるはずだ!」
彼のジェガンは通常の機体以上に彼に合わせてカスタマイズされており、運動性を向上させている。
ビーム・サーベルで相手の動きを制限したアムロは体勢の崩れたフリーダムをシールドで殴り、さらにミサイルでメインカメラに追い打ちをかける。
フリーダムはそれを後ろ向きにのけぞることでなんとか回避した。
(つ、強い! でも、出来れば殺したくない!)
キラは歯ぎしりした。ここで落とされるわけにはいかない。しかし、自分は殺したくもないのだ。それは端から見れば呆れるほどの奢りであった。しかし、キラはその信念を絶対に捨てたくなかったのだ。
そのキラの思いが、アムロとジュドーの感性に触れる。
「この感じ……何だ?」
「敵意が薄い……?」
キラの心を読み取ったアムロ達は疑問をいだいていた。敵と言う割には、敵意が感じられないのだ。
キラは戦いに消極的であり、彼自身は『戦いを終わらせる』という名目、目的で戦闘に参加している。彼にとってアムロ達は、止める対象ではあるがはっきりとした敵ではないのだ。それが彼の意思の力を鈍らせ、アムロたちにおかしな印象を与えていた。
だが、アムロとジュドーは敵対しているMSに対して容赦をしない。2人は確実にフリーダムにダメージを与えていった。
しかし、多彩な攻撃手段を誇るフリーダムを相手に彼らも無傷とはいかない。ジュドーのジェガンは肩をえぐられ、下半身に追加装備されたグレネードパックの片方を失っている。
一方のフリーダムも、ジェガンの予想外の強さにレールガンや2丁のライフルのうちの片方を失っていた。
「くっ、なんであなた達は僕たちの邪魔をするんですか!?」
「邪魔だって? そっちが攻めてきたんでしょうが!」
「僕たちは調べに来ただけだ! そこをどいてくれ!」
「調べに来ただって!? ガンダムで!? 冗談はよしてくれ!」
U.C.とC.E.のガンダムに対する認識には大きな差がある。U.C.においては高性能な機体であるだけでなく強さの、もしくは他のなにかの象徴として大きな意味を持つことが多いのに対し、C.E.世界ではMSの外観の一つの種類に過ぎないのだ。例を上げれば、オーブの量産機であるM1アストレイやムラサメすらが、U.C.にとってはガンダムタイプになるのである。
そのガンダムという機体への認識の差異が、2人の会話を噛み合わなくさせていた。
ジュドーはキラと口論をしつつも、一瞬の隙を見せない。それを見たアムロもまた、安心して戦闘に集中することが出来た。
キラは目の前の敵パイロットたちが、今までの敵とは全く違う動きをすることに焦りを覚え始めていた。ハイマット・フルバーストを用いて攻撃しても、全ての火器の攻撃をまるで予知したかのように回避されてしまう。
相手は腕が立つとはいえ、キラにとっては連合の量産機だ。量産機相手にここまで苦戦したのはフリーダム系統の機体に乗ってからは皆無だった。なんとか損傷を与えているものの、自分の方ははるかに大きな損害を受けており、更に2機のうち1機にはまともな損傷を与えられていない。
せめてドラグーンを使えれば状況は変わるかも知れなかったが、キラはそれに頼らざるを得ない自分の腕の未熟さを歯がゆく思った。
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2機のジェガンに追い詰められつつあるキラとは対照的に、アスランはあれからGMⅢの猛攻をおしかえし、さらに2隻のクラップ級の対空砲火を突破しフォン・ブラウンに肉薄していた。ラー・カイラムが抜かれれば、後は後方の基地の部隊とそのすぐ後ろにフォン・ブラウンが広がっている。
「紅いガンダムタイプ、フォン・ブラウンの領空に侵入しました!」
「何だと! GMⅢ隊はどうした!?」
「頑張っていますが、やはり数が足りません!」
「迎撃用意!」
いまだ修理が終わっておらず出来ることならドックを出たくなかったラー・カイラムはドックから出たばかりでフォン・ブラウンからまともに距離を取れていない。対空砲が始動し、護衛についているスタークジェガンがラー・カイラムの上に乗り反撃の準備をした。
「主砲の安全装置を解除しろ! 直掩のスタークジェガンは艦の前面に展開! ガンダムMk-Ⅲをいつでも出せるように準備させろ! 後方の部隊にもMSを発進させ防衛線をはるように伝えろ!」
ラー・カイラムが抜かれたとて、後方にはまだ部隊は残っている。だが、彼らはロンド・ベルの部隊と比べて遥かに戦闘慣れしていないし、その後ろにはフォン・ブラウンが広がっている。またラー・カイラムと言えど、MSに張り付かれては撃沈される可能性が高い。例え最新鋭艦であり、かつC.E.において圧倒的な高性能を誇るラー・カイラムも、機動戦力には弱いのには変わりない。
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ラー・カイラムの医務室はフル稼働の状態であった。戦闘で撃退されたGMⅢのパイロット達が運び込まれてきたからだ。これで第2次ネオ・ジオン戦争からの負傷者と足すと、ロンド・ベルのパイロットの大多数が負傷したことになる。ロンド・ベルは戦闘可能なパイロットのほとんどを喪失し、戦闘継続さえ危うい状態となってしまったことは誰の目にも明らかであった。本来なら他部隊と相談の上補充を受けておくべきだったのだが、そこまで手が回らなかったのだ。
『機体はあってもパイロットがいない』
ロンド・ベルはまさにこの言葉通りの状況に陥っているのである。
医師たちは重症患者の治療に専念するため、比較的軽症のものは処置を受けた後、緊急的に配置についていた。ある者は対空砲座、またある者は医師たちの手助けといった具合である。
そんな中、ルナマリアは一人医務室で考えていた。
アムロが去ってから考えていた彼女は、なんだか目が覚めたような気がしていた。
自分は、何か夢でも見ていたのかも知れない。
恋に恋をし、よく考えもせず掲げられた大義を正義と信じ、妹に対する悲しみのあまり仮初の恋に溺れ……。
感情に流されるだけで何かを必死にしているつもりになっていた自分。
なぜあんなにも幼かったのだろう。
(私はどうすれば良い?)
その答えは、まだ彼女の中には明確には無かった。だが、あと一歩の所まで来ている。そんな、感触。
そんな時ある会話がルナマリアの耳に届いた。
「いいから出させてくれ! この程度の怪我で! 機体があってもパイロットが足りないんだろ!?」
「駄目だ! 歩けもしないくせに! 今お前が出ても的になるだけだ!」
「っっ……くそッ!」
重症のパイロットの悔しさに呻く声がする。痛みに呻いているのではない。何も出来ない自分に嘆いているのだ。
(パイロットが足りない?)
彼は動けない。自分は、歩ける。ケガも、もうほとんど直りかけている。これから何をすべきか、まだわからない。でも、今何をすべきか、わかる。
(格納庫はどこ?)
負傷したパイロットたちの会話を聞く限り、接近中のMSのはフリーダムとジャスティスに間違いない。
「この艦を沈めるわけにはいかない……! 私はやっとわかったような気がするのよ!」
捕虜であるはずの自分に、人間としての待遇を約束してくれたラー・カイラム。怪我の身を押してでも出撃しようとするパイロット。街を守るための盾となろうとしている人たち。
ルナは怪我をしていることも、自分が捕虜であることも完全に忘れていた。
少女は、慣れ親しんだザフトのパイロットスーツではなく、地球連邦軍のパイロットスーツを着る。その行動は無意識のものだった。けれどそのパイロットスーツを着た瞬間、彼女は過去と決別したのだ。
思慕と憎しみの混ざった自分のアスランへの想い。
裏切った妹への悲しみと嫉妬。
すがるための大義と仮初めの恋。
その全てに決着をつけなければ、自分は前に進むことも、しなければならないことを見つけることも出来ない。
彼女は格納庫に近づくと、すでに出撃準備が整っていたガンダムMk-Ⅲに乗り込んだ。
ヴォンッ
ガンダムMk-Ⅲの双眼、デュアルアイセンサーに光が入り、動力源の核融合炉が力強く動き始める。
「な、何よこのパワー……インパルスどころかデスティニーでも比べ物にならない……。すごいわ。それなのに扱いやすい……」
機体のOSに表示されるパワーゲインはインパルスのそれの優に30倍以上の数値を示している。それでいて操縦系は、自分の知るどのMSのよりも動かしやすく、かつ繊細に反応する。
「MSF-007『ガンダムMk-Ⅲ』……? この機体の名前?」
操縦桿を握る。インパルスのそれよりも確かな感触。
突如動き出したMk-Ⅲに、整備兵達が驚きの声を上げる。
「おい、Mk-Ⅲが動いているぞ!」
「馬鹿な! 誰が動かしている!」
整備兵たちの驚きをよそに、ルナマリアはラー・カイラムのカタパルトに通じるハッチをMk-Ⅲの左手で開け、機体をカタパルトに接続させた。
その状況は、ブリッジにも伝わる。
「艦長! Mk-Ⅲが動いています!」
「何だと!? 誰が動かしている!」
「待ってください……ほ、捕虜です! 捕虜がMk-Ⅲに乗っているようです!」
「なにい!?」
「発進体勢に入っています! これでは止められません!」
Mk-Ⅲは発進体勢に入っている。戦艦は外からの攻撃には対処できるが内側からの攻撃にはめっぽう弱い。無理に発進を止めようとしてカタパルトハッチを破壊されるとことだ。それにどちらにしろ現在Mk-Ⅲに乗れるパイロットはいない。アムロたちを戻そうにも、すでに紅いガンダムタイプは目前まで迫っているのだ。
そこでブライトは、一つの決断を下した。
「人手不足だ、捕虜でも構わん! 出せ!」
「艦長! しかし捕虜ですよ? 敵機と合流するかも知れません!」
「どちらにしろ乗られた時点で止められん! オペレータ、Mk-Ⅲと繋いでくれ」
「は、はっ!」
******
「……要はあの2機を撃退、もしくは拿捕ってことですね?」
「そうだ。出来れば鹵獲してほしい。ガンダムタイプを鹵獲すれば詳細なデータが得られるからな」
「……わかりました。でもうまく出来るかは保証できませんよ?」
「かまわん。コックピットのある胴体部が残っていればこちらでデータバンクを解析できる」
(そうよね。単純に敵を倒すことだけを考えてちゃ、勝てる戦争も勝てないわよね……)
改めて自分の考えの浅さを感じたルナマリアは、わずかな逡巡の後にブライトに話しかける。
「……ひとつ、聞いてもいいでしょうか」
「何だ?」
「ブライト艦長……でしたよね。どうして捕虜の私を信用してくれるんですか?」
「……人を見る目はあるつもりだ。それに君のことはアムロから聞いている。……軍に従うべきか、迷っているんだろう?」
まさか、ルナマリアにかつての少年たちに似た何かを感じたとは言えない。ブライト自身はニュータイプではないと知っているし、だからこそ自分の勘が他の者にとって信頼できるものではないと考えているのだ。だから、それらしい答えを返す。
だが、ルナマリアの答えはブライトの予想に反し、力強いものだった。
「いいえ。もう……迷ってはいません。私がしてきたことが何だったのか……わかったような気がするんです」
「そうか」
ブライトは、その言葉に自分の勘が正しかったことを悟る。ルナマリアの瞳は、かつてどこかで見たような真っ直ぐな瞳だった。あれはいつかのアムロだったか、カミーユだったか…。
「よし、発進してくれ」
「了解。ルナマリア・ホーク、ガンダムMk-Ⅲ、行きます!」
彼女は、自らを叱咤するように叫ぶ。『ザフトの人間』としての自分と決別するために。そして、自分のなくした『戦う理由』を取り戻すために。
彼女は、戦場へと舞い戻った。
ジェガンが何回タイプしてもジェンガになる……。
感想でご指摘を頂いたのですが、この小説においては宇宙世紀の核融合炉がコズミック・イラの核分裂型のエンジンの性能を大きく上回るという前提で書いています。設定スペック上は真逆ですが、それはあえて無視する形で。