人の未来は光の中に(アムロ ジュドー ロンド・ベルinコズミック・イラ ルナマリアを添えて~ 作:アママサ二次創作
「甘い!」
アムロは自分用にカスタマイズされたジェガンの性能を最大限に駆使し、フリーダムの攻撃を難なく回避しつつライフルで反撃を返していく。
キラも意図的にSEEDを引き出しているが、相手の動きの起こりをその前に読むニュータイプ能力とアムロの常識外の操縦技術の前には、例えコズミック・イラにおいて敵なしのSEEDと言えど後手に回らざるを得ない。
「っしまった! ライフルが!? ぐっ……!?」
アムロのジェガンが放ったビーム・ライフルがフリーダムの二丁目のライフルを破壊すれば、ジュドーがシールド内臓のミサイルを命中させる。戦闘の主導権は完璧にアムロ達が握っていた。
劣勢に追いやられているキラは、戦闘から逃げるかのように無線に呼びかける。
「くっ……! どうしてあなた方は僕たちを邪魔するんです!」
「ふざけるな! 貴様たちの行っていることはただのテロ行為に過ぎない! それがわからない程馬鹿でもないだろう!」
アムロは機体を操りつつ、無線をオンにして『ハネツキ』(ロンド・ベルがフリーダムにつけた識別用のコードネーム)のパイロットと口論していた。言い合いはジュドーに任せつつアムロは淡々と戦っていたのだが、キラのあまりの言いように黙っている事が出来なかったのだ。
ロンド・ベルにしてみれば、オーブ第2宇宙艦隊は、この場合はフリーダムとジャスティスが主になるが、フォン・ブラウン市を攻撃しようとする『所属不明の集団』である。その部隊が、MSという兵器を用いて連邦の領土であるフォン・ブラウン市の領空で堂々と偵察、戦闘を行うというのは、テロ行為以外の何物でもない。例えオーブ第2宇宙艦隊がその目的を明らかにしていなくとも、行為としてはテロリズムと同等なのである。
「それでも僕たちは戦いを止めなくちゃならないんだ! 力は戦いを呼ぶのに……! なんで……あなたたちは!」
オーブ軍の艦隊に編入される以前から行ってきた『戦場に武力で介入し戦闘を停止させる』行為を言葉で真っ向から否定されたのは初めてのことだった。あるいはそのことこそが、彼らの不幸だったのかも知れない。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。争いを未然に防ぐことこそが理想なのだ。
フリーダムはビーム・サーベルを2本同時に引き抜き、アムロのジェガンへと斬りかかる。
「エゴだよそれは! そんなやり方では戦いは無くならない!」
アムロもジェガンにビーム・サーベルを構えさせ、フリーダムを迎え撃つ。アムロの正確に構えた一刀は、二本のビーム・サーベルを同時に受け止めていた。そしてすぐさま鍔迫り合いを嫌ったアムロは、サーベルを弾いて距離を取りながらバルカンで牽制する。
鍔迫り合いを避けたのは、ジェガンのサーベルではガンダムタイプのそれ相手に出力で大きく負けると考えたからだ。実際は原理も出力も大きく違う相手だったので杞憂に過ぎなかったのだが。
「それならっ!」
アムロがバルカンの牽制で自分に回避させようとしているのだと考えたキラは、あえてバルカン砲をPS装甲で受けながら腹部のビーム砲を放つ。
だがアムロのジェガンは、フリーダムがビームを放とうと構えた時点ですでに回避姿勢に入っており、更に剥き出しの砲口に向けてバルカンを放ってきた。結果、ビームは放たれたものの、ビーム砲の内部がショートする。
「そんな!? あんな的確に当ててくるなんて……!」
今のビーム砲で撃墜するつもりだったキラは、回避されたどころか反撃を食らったことで動揺を深める。
そして、このままでは落とされると動くかわからないドラグーンに一縷の希望を託した。
「頼む、動いてくれ……!」
ミノフスキー粒子によって量子通信が阻害されているため動きは鈍いが、フリーダムの背部ウイングからドラグーンが分離する。オールレンジ攻撃を仕掛けると同時にウイングから俗に言う『光の翼』が出現した。
この効果により、フリーダムは先程までよりもさらに軽快な動きを見せた。しかし、この戦法にもアムロは冷静に対処してみせる。というよりこの兵装は、彼がつい先日対峙したネオ・ジオンのエース機達のそれと非常に類似していたのだ。
「ファンネルか!」
アムロはジェガンを小刻みに動かしながら、連射したビーム・ライフルで接近中のドラグーンを2機撃墜し、更に予備のサーベルのビームを展開させて回転させながら投げる。
続いて空中で回転するサーベルに角度を変えながらライフルを撃つと、サーベルに当たったビームが弾かれて拡散し、接近してくる残りのドラグーンを全て叩き落とした。
「やれたか。カミーユに感謝しないとな」
それはかつてカミーユ・ビダンが使ったという戦法だ。アムロは当時からニュータイプ専用機のファンネルを警戒しており、カミーユの戦闘記録を見ていたのだ。
この光景を目の辺りにしたキラは唖然とした表情を見せた。
「そ、そんな……」
ドラグーンを見切ることは、よほどの空間認識能力がなければほぼ不可能に近い。それをやってのけたとなると、敵のパイロットは自分と同等か、あるいはそれ以上の能力を備えているとしか考えられない。ドラグーンの攻撃すら無効ならどうすれば良いのか。
キラは額から冷や汗が流れるのを感じた。コントロールスティックを握る手が震えているのに今更になって気づく。
自分は、今、『恐怖』を感じているのだろうか。
「僕が一度ならず二度までも落とされる……そんなことは駄目だ!」
キラの脳裏に、幾度四肢を破壊しても挑みかかってくる巨人の陰がちらつく。彼は頭を振って、その悪夢を振り払おうとした。
(あの時はインパルスのガムシャラな動きに翻弄されただけだ! ラクスから受け取ったこの『自由』が2度も落とされるなんて……!)
(プレッシャーが、消えた……?)
アムロは相手のパイロットの焦りと恐怖を感じ取り、『ハネツキ』が今すぐに落とすほどの驚異で無くなったと判断し、バルカンで弾幕を張りつつも相手の様子を伺う。。
「鹵獲出来るか……? ……っ!?」
遠距離からの刺すようなプレッシャーを感じ、アムロはジェガンをフリーダムから引き離す。直後、2機の間を割るように数条のビームが通り抜けた。
「こいつらの母艦か? ……ん?! なんだあれは……」
「なんだなんだぁ!?」
戦場では常に冷静であるアムロですらが唖然とした声を漏らし、ジュドーは大声で驚きを表す。ビームを撃ち込んできた敵の戦艦は通常の常識ではありえない色の塗装をしていたからだ。どこの馬鹿が戦場にピンク色の塗装で出てくるのだろうか。『赤い彗星』も同様に赤一色という非常に目立つ色合いをしていたが、あれはパイロットの腕前が非常に高かった上に戦場であえて目立ち、友軍を鼓舞し敵軍を威圧するという効果があったのだ。それが戦艦にも当てはまるとはとても思えない。
その戦艦『エターナル』は主砲を2機のジェガンに放ちつつMSを放出し、フリーダムの回収に向かう。
「させるか! ジュドー、君はあの艦を抑えろ! MSの相手は俺がする!」
「わかったよアムロさん!」
すでに死に体の『ハネツキ』を逃すまいとアムロはライフルを向けるが、直後に襲いかかる火線から身を躱したために『ハネツキ』を撃墜することは叶わなかった。高速で突入してきたMSと奇抜な塗装の戦艦はまるでフリーダムを守るかのように行動し、戦艦へと向かうジュドーではなくアムロの方へと攻撃を向けてきたのだ。
結果アムロの放ったビームが脚部を吹き飛ばしたものの、フリーダムは撃墜されることなくエターナルに回収された。
******
「フリーダムの収容完了! パイロットの生存を確認! 機体の損傷は酷いものの怪我はないようです!」
「正面突破を試みる! ドムにはフリーダムを狙っていたMSを落とさせろ! 接近中の機体はエターナルで叩く!」
「了解!」
エターナルのブリッジが慌ただしく動き出す一方、アムロは接近する機体に既視感を覚えていた。シールドを持たずバズーカを装備したたくましい体躯の機体。それも3機編成だ。
「あれはドムか? この世界にもドムがあるのか……」
その姿は、アムロが一年戦争時に対峙した黒い三連星の駆ったドムの後継機、リックドムⅡとドム・トローペンを混ぜたような姿をしていた。アムロは3機のMSに対して牽制のライフルを放ちつつ、相手の出方を観察する。アムロの頭に過るものがあったのだ。
「3機のドムと言うと……『あれ』か?」
彼が警戒していたのは、一年戦争時初めてドムと対峙したときに敵の繰り出した『ジェットストリームアタック』という戦法だった。3機のドムが一直線に連なることで敵の目を惑わし、高速で打撃を与える戦法である。何より、この世界のMSは武装の多様さにおいてはかつてのドムを優に超えており、全くそれと同一とは思えなかったのだ。
「ヤロウども! あの緑色の奴に仕掛ける!」
「やるのかよ」
「おう! ドムの恐ろしさ見せてやろうぜ!」
「行くよ!! ジェットストリームアタック!」
彼らは、この戦法に自信があった。この戦法はまさにドムトルーパーの性能の全てを生かしたものであったし、何より彼らはこれで寡兵で持って多数の敵を撃破しているのだ。
だが、彼らは知らない。目の前のパイロットの技量とMSの性能が自分たちの想像の遥か上を行くということを。あるいはそれは、ジェットストリームアタックを持って破れない敵は存在しないという奢りだったのかも知れない。彼らがよく見ていれば、ボロボロにされたフリーダムに気づくことが出来たかも知れないのだ。
何より、アムロはその戦法を、まだ戦い始めて間もない頃に二度見ただけで突破したのだ。
「このフォーメーション……やはり!」
アムロは敵の動きを瞬時に見抜き、その神業とも言える操縦で戦闘のドムのバズーカ攻撃をその場から対して動かずに回避し、続いて突入してくる2機目にシールドからミサイルを見舞う。続いて、ミサイルの直撃を受けたドムが怯んだのを確認すると、腰部グレネードランチャーを牽制代わりに放ち、体勢を立て直す。
体勢を立て直したアムロは、再び一直線に並んで突入してくるドムを見ながらジェットストリームアタックを崩すべく頭の中で戦術を練る。
(あれは隊列による効果を最大限に発揮する戦術だ。隊列を乱せば驚異ではない。しかし、あれを宇宙で使うとはな……)
ジェットストリームアタックの長所は、ドムのホバー移動を生かして他機体の対応できない高速で接近して、一気に攻撃をして突破することになる。他の機体も同レベルの移動力を手にする宇宙空間で実施するのは、ナンセンスなのだ。無論練られた連携攻撃ではあるのだが、地上ほどの驚異ではないのである。とはいえ、このドムにはアムロの知らない装備が存在しているので、一概に言えることではないのだが。
アムロは迫り来るドムトルーパーに対し、ライフルを連射しつつメインスラスターを吹かして接近する。
「なっ……!?」
ドムのパイロットたちは敵の行動に驚愕した。ジェットストリームアタックに真っ向から挑んできた相手は、彼らの戦歴でも初めてのことである。
「ほう、自分から向かってくるとはね。ドムの力を知らないようだな!」
彼らは愛機とその戦術に絶対的な自信を持っていた。故に知らなかったのだ。ジェットストリームアタックを突破するには、下手に撃ち合いに応えるよりも接近して敵のペースを乱すことが重要だということを。
結果、ジェガンの接近を容易く許したことで、彼らは窮地に追い込まれた。アムロは巧みな操縦技術でジェガンの性能を限界まで引き出し、高い機動性を持って弾幕の隙間を縫って敵に肉薄する。
「馬鹿な!? こいつ!?」
ドムのパイロットの一人、マーズ・シメオンがジェガンの動きに本能的に恐怖を覚えて叫びを上げる。それはほとんど悲鳴に近かった。敵機は、弾幕の隙間を掻い潜るようにしながら前に出てくるのだ。しかも、これだけ弾幕を張っているのにシールドに当たることすらないのだ。
まるで見えない何かの力で弾道を捻じ曲げているかのように。
それは、彼らの想像を容易く超えていたのだ。人は、未知のものに恐怖する。
攻撃を全て回避したアムロは、先頭のドムを踏み台にして2機目のドムを狙う。スピードを殺さず、敵の勢いを殺すための行動だ。
「あ、あたしを踏み台にしたっ!?」
この動きは、図らずして一年戦争当時の黒い三連星を打ち破ったときの動きをそのまま再現したものとなった。彼はかつてと同じように、2機目をサーベルで突く。
「……浅いっ!」
だが、装甲が思っていたよりも厚く、致命傷には至らなかった。それでも、最大出力で展開されていたビームシールドを破って、装甲に損傷を与えた。
後方のドムはそれにかっとなったのか、横を通り抜けんとするアムロの方へと向き直り、バズーカを放つ。それがジェガンのシールドに直撃し、ジェガンの姿が爆煙に包まれた。
隊列が―――乱れた。
直後、爆煙の中からサーベルを構えたジェガンが飛び出し、バズーカごと彼の機体の腕を切断する。
ジェガンは、バズーカの直撃を受けてもなおシールドを破損させるにとどめたのだ。
「なめているのか……!」
バズーカを撃ち込んだだけで攻撃の手を緩めたドムの行動は、アムロにそう思わせるものだった。それが操縦に影響するものではないとは言え、気分が良いものではない。例えこの世界ではそれで方がつくのが普通だとしても、そんなことはアムロにとっては知ったことではないのである。
残りの2機のドムがバズーカをジェガンに向けるのに対して、アムロは腕を失ったドムをそちらに向かって蹴り飛ばす。
2機が損傷した機体の援護とアムロへの攻撃で迷った瞬間、彼らの運命は決まった。
だが、そこで敵戦艦から入った広域通信がアムロの意識をそらし、彼らは九死に一生を得る。
『私はラクス・クラインです。この空域で戦っている全ての地球軍は、直ちに戦闘を中止してください』
「戦闘中に何のつもりだ!」
敵艦から賭けられている通信は明らかに場違いなものだった。普通、戦闘中に武器を向けている相手に広域通信で戦闘停止を説くことなどありえない。停戦の申込みでさえ、前線の兵士に聞こえるようにではなく、艦艇に向かって通信し司令官の返答を待つのが筋だ。
それを、敵戦艦はなんと言った。
停戦の申込みですら無く、降伏を訴えるでもなく、ただ軍を退けと。あたかも自分たちの行っている行為が正しいとも勘違いしているような傲慢さを感じさせる物言いだ。
アムロやジュドーだけでなく、後方のラー・カイラムに乗っているものですらがわずかな苛立ちを覚えた。
エターナルへの攻撃に入ったジュドーは、通信機のスイッチを入れ、相手の電波に割り込みをかける。問答無用に攻撃するのではなく敵の言葉に答えようとするのは、彼が良くも悪くも若いことの証左だった。
「ふざけるな! 撤退しろだって!? それはあんたらの方だろう! どれだけ傲慢なんだあんたらは!」
エターナルのブリッジは驚愕に満ちた空気に包まれていた。ラクスの演説に真っ向から反論してきた相手はそれほど多くない。かつてのプラントのザラ派の強硬派やデュランダルがそれに当たるが、それを敵の1パイロットがしたのだ。
その相手は、デュランダルや強硬派のように自分たちの勝手な論理を語るのではなく、ラクス・クラインを『傲慢だ』と言い切ったのである。
「傲慢……? それはどういう意味かお聞かせ願えないでしょうか?」
皆が沈黙する中、ラクスが口を開く。
『あんたがこの艦の艦長さんかい?』
スクリーンから聞こえてくる声は、明らかにキラとほぼ同年代の少年の声だった。
「そのようなものですわ」
『そうなら話は早い。あんた達はなんでこんなことをする?』
「私達は戦いを終わらせなくてはならないのです。今すぐ戦闘行為をやめ、道を開けてください」
ラクスはジュドーを諭すような口調で語りかける。丁寧に言っているようだが、ジュドーが感じたのは命令だ。まるで自分が神であるかの如きその言いようは、ジュドーにハマーンに対する以上の不信感と若干の嫌悪感を抱かせた。
『じゃあ、今のあんた達がやってることは何なんだよ! どこの世界にいきなり現れて、ガンダム持ち出して攻撃してくる奴なんているんだ? 少なくとも俺は見たこと無いね』
ジュドーの言うことはある意味的を得ていた。今回のこの戦闘に関しても、フォン・ブラウンを守らなければならないジュドーたちからすれば、重武装のガンダムが何の連絡も無く接近してきた時点で敵の先制攻撃と同義なのだ。
「では、あなた方は何故私達の邪魔をするのです? 私達はザフトを止め、この戦争を終わらせなくてはならないのです」
『随分虫のいいこと言うけど、あんたらは自分たちの『正義』だけで物事を考えてないか? 確かに戦争を終わらせたいって気持ちはわからないでもないけど、一方的な正義で片付くほど現実は甘くはないんだよ!』
逆に問い返したラクスへのジュドーの答えは、ラクスとの会話からしてみれば自分たちの立場を説明しておらず、飛躍している。何より、相手の言い方へに対する感情の昂りで、知らない単語が出てきたことにも気づかなかった。だがそれは、戦いの中で大人たちの『汚さ』を垣間見てきた一人の『若者』の感情の発露であった。
ラクスもこのジュドーの言葉に感銘を受けたようで、微笑を浮かべる。
(地球連合にも彼のような者がまだいるとは……。まだ連合も捨てたものではないですわね)
連合をなめ過ぎである。あるいはその『侮り』こそが、彼女たちを武力による『正義』の押しつけへと駆り立てていたのかも知れない。
ジュドーの言葉の意味を噛み締めつつ、ラクスは自らの意思をはっきりを示す。
「たしかにそれが現実かも知れません。それでも私達は信念を貫きます。やらねばならないことがあるのですから」
『……そうかい』
ジュドーはそれだけ言うと、悔しさを抑えたような表情を見せ、通信を切ろうとする。
「待ってください。あなたの……あなたのお名前を聞かせてください」
『俺? 俺はジュドー・アーシタだけど』
「ありがとうございます……素敵な方ですわね」
それに応えること無く、ジュドーは通信を切った。
「……良いのか?」
「しかたありません。私達が『自らの正義』を信じて戦っているように、彼らにも信ずるもの、また、道があるのです」
ラクスは悲しげな声で言った。
副官のバルトフェルドは察したような表情を見せ、戦闘再開を命じた。
「あの敵MSの戦闘能力を奪う!! 落とすなよ! お姫様が悲しむからな! ミサイル照準合わせ! 撃て!」
エターナルの各部から無数のミサイルが放たれる。しかしミサイルは、全てミノフスキー粒子の干渉により明後日の方向に逸れていった。
それと同時にジュドーはジェガンにビーム・サーベルを構えさせる。
「そういう勝手な事を言うあんたらの存在そのものが鬱陶しいんだよ!」
ジュドーの咆哮とともに、ジェガンのサーベルがまるでエネルギーを集約させたように巨大化していく。俗に言うハイパー化と呼ばれる現象である。かつてのカミーユ・ビダンのそれと比べれば幾分か規模が小さいものの、サイコミュは愚か、バイオセンサーさえ搭載していない機体にも関わらず摩訶不思議なオーラを纏うというのは驚嘆に値する事であった。
「落ちろぉーーーっ!」
叫びとともにサーベルがエターナルに振り下ろされる。その常識外の光景にエターナルは、一瞬反応が遅れた。
「っ! 機関最大出力! なんとしても避けろ!」
バルトフェルドは攻撃を回避すべく号令を発した。それに応え、操舵手が必死に舵を操作する。しかし、いくらエターナルの足が速いと言っても所詮は『戦艦』であり、戦闘機のような運動性など望めようはずもない。
サーベルのブリッジへの直撃を避けたものの、艦首装甲はまるで紙の様に切り裂かれていった。
そのせいでエターナルのブリッジが激しく揺れ、座席から放り出される兵士も少なからずいる。
「……被害報告!」
「は、はいっ! なっ!? 艦首が付け根から切られています!」
「何!? 馬鹿な、どういう出力だ……!? 主砲、対空機銃を敵MSに向けろ! 取舵20、距離を取れ!」
(見誤ったか……! このままではいずれ落とされる……! ドムは圧倒され、ジャスティスとの連絡は取れず、援軍を呼ぼうにも長距離通信は不調……。まずいな……)
とっさに指示を出しながらもラクスを心配するバルトフェルドに、更なる報告が聞こえる。
「敵の援軍です! 一機だけのようですが……」
「何だと……!」
バルトフェルドはこの援軍に焦りを感じた。一機だけとは言え、船体に重大な損害を負っている今、攻撃されれば撃沈されかねないからである。艦首を切った敵MSは機体を損傷したようで距離を取っているが、戦闘不能にはなっていない。
「あれはMk-Ⅲ? 誰が乗ってるんだ?」
サーベルのハイパー化の影響でジェガンのマニピュレーターを損傷し機体に不具合を来したジュドーは、援軍として現れたガンダムMk-Ⅲに驚きを隠せない様子である。そんなジェガンを尻目に、Mk-Ⅲはエターナルに接近する。
(エターナル……! ラクス・クラインの指揮する艦……!)
ルナマリアは、自分の中で怒りや憎悪が湧き上がるのを感じ、操縦桿を握る手の圧力を自然と強めていた。
自分から大切な妹であるメイリンを奪い、アスランが再び裏切る要因をも作った元凶である人間が乗る艦なのだ。軍人たる事を決意したとは言え、彼女はまだ若い。そのような感情が湧き出るのは仕方ないこととも言える。
そのままCIWSの迎撃をかいくぐり、バルカンでいくつか沈黙させる。そのままブリッジに取り付いて、接触回線を開いた。
「エターナル、聞こえる?」
ルナマリアの問いかけに、息を飲むような気配の後、動揺した声が返ってきた。
『その声……もしかしてお姉ちゃん?』
「やっぱりエターナルに乗ってたのね、メイリン」
彼女はそう言いながらメットを脱ぎ捨て、怒りと悲しみの双方とも取れる表情を見せる。
『そのパイロットスーツ……、お姉ちゃん、まさか連合に!?』
「そんなところよ」
『そんな! どうして!?』
「……今のザフトに正義があるとは思えなかったからよ」
と、一応啖呵を切ったが、本当はそれだけではない。
もっと、自分でも良くわからない、胸のもやもやとしたなにか、それも裏切りの原因の一つである。裏切りと言う意味で言えば、彼女の行為はアスラン・ザラのそれに近いのかも知れない。
だが、彼女はすでに心を決めたのだ。曲がるつもりも、許してもらうつもりもない。
『お姉ちゃんとは戦いたくないよ! だって私達は姉妹でしょ!? 家族でしょ!?』
半泣き状態のメイリンの声が聞こえてくる。しかし、今の自分はもうザフトの人間ではない。割り切れない気持ちを見せつつも、彼女は『一人の軍人』として言葉を発した。
「……ええ。私だって戦いたくない! だけど……ラクス・クラインの言葉を信じる気にはどうしてもなれないのよ。テロ集団もどきであるラクスたちに与するつもりはないし、他人の言うことを聞かず、自分たちの殻に閉じこもっているのはおかしいと思うの」
『お姉ちゃん!』
「メイリン……っ!? ごめんね、大好きよ……」
後方からアムロの追撃を避けつつ、3機のドムが必死でルナマリアのガンダムMk-Ⅲに向かってきた。その火線を避けたルナマリアは、エターナルから距離を取る。
ルナマリアは、Mk-Ⅲの肩部ビームキャノンの砲身をエターナルに向け、トリガーに指をかけた。
「ごめんね……メイリン……あなたを撃ちたくない……。でも……!」
僅かの逡巡を振り切るように、ルナマリアはトリガーを数度押し込む。ブリッジではなく船体後方を狙ったのは、彼女に妹を撃つことが出来なかったからだろう。
発射されたキャノン砲の赤い閃光は月面の上空を駆け、一発目が船体をかすめ、二発目がエターナルの装甲にさらなる穴を穿った。
「当たった……でも、ガンダムのおかげね……」
迷いが出たにも関わらずしっかりと当たったことに、機体の性能としても、戦う意思としてもガンダムに助けられた気がした。
エターナルのブリッジのコンソールは警告表示で真っ赤になっていた。艦内で火災も発生しており、これ以上の戦闘継続はエターナルの『死』を意味する。エターナルが落ちるというのは、非常に重い。たとえ乗組員が全員脱出できたとしても、艦艇を一隻喪失する以上の意味があるのだ。
「ダメージコントロール! 隔壁閉鎖! 消火剤の散布急げ! ラクス、後退するぞ」
「……しかしアスランが……いえ、彼も……覚悟していたでしょうね。撤退します!」
「了解! これ以上の戦闘は無理だ! 後退する! 信号弾を上げろ! ドムは敵MSを牽制した後着艦するように言え!」
各部に重大な損傷を負い、装甲に何箇所も穴を開けられた無残な姿を晒しながら、エターナルは生きている機関を全開にして戦場を離脱する。
「くそっ、撤退かい! 援護を呼べれば……! 野郎ども、撤退するよ!」
「り、了解……!」
「たった2機のダガーごときにやられたのかよ! 俺たちが!」
パイロットたちが口々に捨て台詞を残しながら、3機のドムもエターナルの後を追うようにスラスターを全開にして撤退していった。それは負け惜しみにしか聞こえないものだった。
「どうやら、終わったようだな」
アムロは、敵が撤退していくのを確認するとジェガンに持たせていたサーベルを右腰部のホルダーにしまう。
そしてMk-Ⅲへ通信を開いた。
「Mk-Ⅲ、聞こえるか?」
『は、はい』
「その声……ルナマリア君か。君が乗っていたのか」
Mk-Ⅲの搭乗者が誰だか理解すると、アムロは驚きを見せる。そこにジュドーも合流してきた。
『え、っと、どちらさん? ラー・カイラムにこんな可愛いパイロットいたっけ?』
間の抜けたジュドーの言葉に、アムロが吹き出し、続いてルナマリアも笑い始める。
「ジュドー、彼女はお前の救出したガンダムタイプのパイロットだ」
ジュドーが救出した、つまり、ジュドーが撃破した、ガンダムタイプのパイロット。そう言われて、ジュドーは少し気まずげな雰囲気をだす。
『そ、その節はごめんなさい』
その情けない声が、更に笑いを呼ぶ。
「しかし、誰が君の出撃を許可したんだ?」
『ブライト艦長です』
「何、ブライトが? 思い切ったことをするな」
『ブライトさん俺をZに乗せるときにもすごい強引でしたよ』
憶測を立てていると、タイミング良くラー・カイラムから通信が入る。
『アムロ、敵の撤退を確認した。いったん帰還してくれ』
「ああ、了解した。ところで、何故Mk-Ⅲに彼女が?」
『私が許可した。もっとも、気づいたときには発進体勢に入っていたが。それに昔からこういう時は、下手に止めるよりも、行かせたほうが何かと事がうまく運ぶ事が多いだろう?』
お前然り、カミーユ然り、ジュドー然り、というブライトの言外の意図を感じ取る。
「確かにそうだが。お前らしいな」
『ルナマリア君とアムロは、帰投後艦長室に来てくれ。ジュドーもよくやってくれた』
「了解だ」
『了解しました』
『何、これくらい軽いって。帰還するよ』
3人は編隊を組みつつ、一路ラー・カイラムへの帰路につく。
どうやらラー・カイラムは護衛部隊を引き連れて自分たちを迎えに来てくれたようで、遠くからでも艦影を識別できた。
そこに、直掩部隊のスターク・ジェガンの隊長機からアムロに通信が入る。
『レイ大尉、お疲れさまです。ところで、Mk-Ⅲのお嬢ちゃんが大金星あげたって聞いてますか?』
「いや、まだだが……。どういうことだ?」
『敵のガンダムを一機鹵獲したんですよ』
「なんだって!?」
『首が無い意外は比較的良好な状態でしたのでラー・カイラムに回収しました。単独であれだけの大物、正直言ってたまげましたよ』
「それはすごいな」
『初陣だと聞きましたから、存分にねぎらってやりましょう』
「艦内に居る連中にジュースとデザートを用意させよう。言付けを頼むぞ、曹長」
『了解しました』
通信を終えると、ひとまずため息をついて体をほぐす。
「ふう……。これでひとまず落ち着けるな。俺も胃薬買おうかな……。これからの事を思うと胃潰瘍になりそうだ……」
と愚痴る。
(いよいよ、異世界に来たというのが疑いようが無くなってきたな。行政府やアナハイムとの折衝はブライトに任せられるとはいえ頭が痛い……。フォン・ブラウンの艦隊の練度も心配だ)
――ロンド・ベルはアムロとジュドーの奮戦や、ルナマリアの行動も相まってエターナルを撃退し、フォン・ブラウン市の防衛に成功した。
しかし先の見えないこの事態に、市の行政府から対応を迫られるのは必至である。
はたして彼らの行末はどうなるのであろうか……?
それはまさに神のみぞ知る事であった――
アムロの戦闘シーン書いてるとすぐ相手を殺してしまいそうで困る困る……。
活動報告で『今後の展開に関する相談』という内容を投稿しています。ネタバレになりうるので気にする方は見ないようにしていただきたいですが、少し困っているので皆様の意見をいただきたいです。多少のネタバレは構わん、少しなら見てやる、という方はそちらもお願いします。
また、後書きに投稿していくと前書いた『コズミック・イラと宇宙世紀の技術、概念、用語など』に関してですが、連載の中に一話それらをまとめるための『話(おそらく一番先頭)』を作って、そこに随時追加していくことにします。ご理解お願いします。