サモナーがダンジョンにいるのは間違っているだろうか?   作:アパオシャ

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改宗

アンリファミリアの本拠地において、彼女は相変わらず騒いでいた。

 

「いきなりなんてことをするのですか!いくら同性でもやっていいことと悪いことがありますよ!常識を知らないんですか!?」

 

半泣きの彼女は応接間のソファーの上で、マントにくるまっている。

それは左門くんからはぎ取ったものである。ステイタスが伸びずに燻っていたリリルカといえども、さすがに力がI3の左門くんに負けるはずもなかったのである。

 

「まあまあ、すまなかったと何度も言っておるだろう。水に流して神の恩恵を刻もうではないか!」

 

明らかに形でしか謝っていないアンリであったが、悪気を一切感じられない笑顔を見て、リリルカはひとしきりうなった後口を開く。

 

「リリは既にソーマファミリアに所属していまして、その上ファミリアの性質上改宗も難しくて…」

 

その言葉に一瞬残念そうな顔をするアンリだが、ソーマか、と呟くと一言。

 

「召介」

 

「オーライ」

 

長い付き合いの二人はたったの一言で互いの言わんとすることが大体伝わる。

腰のホルスターから抜き放ったチョークで、あっという間に二つの魔方陣を描き上げた。

 

「えっと…さるがたなす、とあがりあれぷと?何をしているのですか?左門様?」

共通語に似た謎の文字列が外周に書かれた円状の文様を見て、何をしたいのか全く分からないリリルカだったが、左門くんが指を鳴らすと同時に、チョークの粉でできた魔方陣が光を放ち、二柱の大悪魔が呼び出される。

 

一柱は赤き竜の六柱の末席にして旅団長のサルガタナス。シルクハットを、頭をすっぽり隠すように被りスーツにスカートを纏う女悪魔。

鍵開けや瞬間移動、透明化や盗聴など暗殺や隠密、泥棒に特化した多彩なスキルを持つ。

末席ではあるものの荒事への強さはナンバー2。

 

もう一柱は赤き竜の六柱の第三席にして司令のアガリアレプト。ハードボイルドながらもどこか気さくな雰囲気を放つ中年男性の姿を持つ悪魔。

その能力は秘密の知覚。それはどんな事柄も瞬時に解明し、事実上未来予知でもある。

その力の発動に何らかの動作を必要とせず、彼がそれを知りたいと思った時点ですでに彼が把握している事実として認識する。

 

彼らは泥棒コンビとして天界・地獄問わずに有名であり、地上天界地獄を問わず派遣されることが多く、神々にも広く知られている。

ここ最近の活躍は、ラキアからクロッゾの魔剣を拝借しルキフグスに渡したことで、現在ラキアでは上から下への大騒ぎとなっている。

 

驚きのあまり目を見開くことしかできないリリルカに落ち着くための時間は訪れず、効果を果たした魔方陣が光を失うと同時に二人が口を開く。

 

「おお、左門くん。この前はレティっちに怒られなくて済んだよ…と、もしかしなくても泥棒かい?このコンビってことは」

 

左門くんとアンリがアガリアレプトに説明をしている最中、サルガタナスは完全にフリーズしてしまったリリルカの前で手品を披露しているが全く反応はない。

 

「よし、いくぞ!サル」

 

「あ、はーいアガっち様!行きますよーリリルカ様―」

 

話はついたらしく、サルガタナスに使うように声をかけるアガっち。

そうして応接間から五つの人影が掻き消える。

 

 

少し後

誰もいなくなったはずのインフルキャッスルの応接間の扉が勢いよく開かれる。

「おーす、遊びに来たで!アンリたん!ってあれ?」

 

鍵がかかっていなければ入ってくださいと言うとるようなもんやという主神の号令の下堂々と入ってきたロキとその眷属たち、その中でも素手での戦闘が得意な二人。

 

「あれ?ねえ、ロキ。誰もいないよ?話し声はしてたよね?」

 

そう主神に尋ねるのは貧乳アマゾネス、ティオナ。

 

「おいロキ!匂いは二つだ!本当に四人なんだろうな!」

 

銀髪の狼人、ベートの鼻が捉えた匂いは二つ。部屋の中から聞こえてきた声の数は四つなので合わない。

 

「せや。声は四つ。ただ一人の女の声は話の内容的に反応しない女へのもんや。つまり五人いるはずなんや。一人はアンリやろうから匂いがせんのはなんら不思議やないが…」

 

「ああ、そういえば神って不変の存在だから体臭とは無縁なんだっけ。あ、ねーねー、そもそもなんで誰もいないの?まずはそこからじゃない?」

 

それからしばらく謎解きしていたロキファミリアだったがせいぜい踏み荒らされて何が書かれていたかわからなくなっていたチョークの粉が見つかった程度で、トラブルを避けるために引き上げることとなった。

 

 

ところ変わってソーマファミリア所有の酒造所。ここに神ソーマが引きこもり、日夜酒造りに励んでおり、神酒に飢えた団員たちがガネーシャファミリアもびっくりの警備態勢を敷いており、国賓がいると言われても違和感を覚えることはないであろう。

 

「おーい、ソーマ!遊びに来たぞ!」

 

そうアンリが門の前で叫ぶと門番が腰を抜かすこととなった。

無理もない。何せ目の前に五人もの人数が突然現れたのだ。

 

そうして数十秒待つと、ソーマ自らが出てきて、主神の出不精さを知っている団員たちをさらに困惑させた。

 

「何しに来た。アンリ。」

 

引きこもりを司る神と言われてもおかしくない風貌の神だが、長い髪で隠れる顔はほかの神々に劣らない好青年。

ただ、少ない言葉数と無気力さを醸し出す声がその容姿を台無しにしている。

 

「久しぶりだなソーマ。ぼっ友(ぼっち友達の略)のよしみだ。手早く済まそうではないか。そこのリリルカ・アーデの改宗を認めてほしいのだ…」

 

「わかった」

 

アンリの要求に内心ビビっていたソーマだが、はっきり言って全く覚えていなかった眷属の改宗を要求されたため、無茶な要求をされないうちに承諾した。

 

「ソーマ様!?」

 

主神がいつもの部屋にいないことに気づき慌ててやってきたザニスが驚きの声を上げる。

 

「ザニス。アンリに逆らうのはまずい。これは決定事項だ」

 

ザニスが何かを言う前にわずかに神威を放ち黙らせる。

 

そして、復活するなり瞬間移動を目の当たりにして再びフリーズしたリリルカを連れてソーマがこじんまりとした休憩室に移動し、数分と立たずに恩恵が改宗可能状態へと編纂され、新たに神の血を背に受け、恩恵が書き換わる。

二つの酒杯が描かれた神の権能は炎を纏った蛇が円環を成し自らの尾を喰らう、厄災の権能へと置き換わる。

 

「ちょっと、ちょっと。ソーマ君、耳を貸してほしいんだ」

 

アガリアレプトがそうソーマにいうと、耳元でささやき始める。

ソーマは地獄の、アンリの領地でその気候に適した酒を造っていた関係上、神の中では悪魔と交流があり、それがアンリに逆らえない理由でもある。

 

特に今回の泥棒コンビは、ほかの神に盗まれた神酒の奪還の際にかなりお世話になっており、ソーマの信頼は厚い。

 

最初はいつも通りどこか軽薄ながらも人付き合いのよさそうな表情のアガリアレプトであったが、段々と真面目な無表情に変わっていき、ソーマも表情こそ変わらないものの、猫背が伸びていき、神の威厳を取り戻しつつあった。

 

 

「リリルカ・アーデ。今まですまなかった。体には気をつけなさい」

 

「えっ」

 

ソーマの発言に理解が追い付かないリリルカ。改宗の時に何とか理性を取り戻したが、まだ混乱は抜けきれず眷属を顧みない元主神の変化の原因を理解することはできなか…いや。

少し前にシルクハットの人にアガっち様と呼ばれる人が耳打ちしていたのを思い出し、それが理由だと理解したが、そのアガっち様を見ると微笑むだけで教えてくれないと悟り、諦めたように口を綻ばせる。

 

「はい!」

 

そう返すとソーマは満足げに鼻を鳴らし、酒蔵へ引き返していく。

そして目の前の光景が瞬時に切り替わり、新たなホームのそれへとなった。

 




悪魔は基本、人には見ることができないが、悪魔自身が見せようとすれば見ることができる。
また、悪魔は体臭がある悪魔とない悪魔に分かれる。ある悪魔も、悪魔を見ない限りはその匂いを知覚することができない。
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