サモナーがダンジョンにいるのは間違っているだろうか? 作:アパオシャ
「はあ、騙そうと思って近づいたのがバカみたいです。しかも念願だったファミリア脱退も叶ったはずなのに全く実感が湧きません…」
そうぼやくリリルカ。謎の攻撃を行うマジックアイテムか魔剣と思わしきものを盗み出すつもりで近づき、数日かけて実行しようとしたら半日もたたないうちにすべてが終わってしまったのだから無理もない。しかもそれには一切自分の意思がかかわっていないのだからなおさらである。
「まあ、運がよかったと思うといいよ。明日のダンジョン攻略に備えて情報交換と行こうか」
そうしてファミリアの食堂で食事しつつ、お互いの能力などを公開していく。
ちなみに、ファミリアの料理人はベヒモス先輩。人を暴食に導く悪魔なだけあって料理の腕は確かで、がっしりした体格の持ち主だが繊細かつ手の込んだ料理をあっという間に作っていく。
召喚対象に対応した魔方陣を用いることで悪魔などを召喚し、その強さに応じて使役して戦うことができること、魔方陣を超える大きさの対象を召喚できず、無理をすると詰まってしまうことや魔方陣を使いまわすことができないこと、魔方陣を描く際のインクなどに指定はなく、魔石製品のコピー機で増やしても問題なく使用可能な点を左門くんが伝え、リリルカはスキルの効果で重量物をほとんどペナルティーなしに持てること、上限は今のところ不明な点を伝える。
食後にお互い実践して実力を確認した後、明日のダンジョンに向けて仕込みを始める。
左門くんは黒いマントに魔方陣を多数仕込み、リリルカは紙に魔方陣を仕込む。と言っても左門くんが用意したハンコで次々と押していくだけなので楽なのは楽だが、自分の身長ほどある仕込み前の紙の束に絶句していた。
途中でハンコが壊れ完全に手作業になったが、左門くんの手伝いもあり就寝時間に何とか間に合った。その結果、リリルカはウィスプとパリカーの魔方陣サイズ限定だが、正円をフリーハンドで描くことが可能になり、次の更新では器用が大きく伸びることとなる。
これは余談だが、いつの間にかホームに保管されていたポーションが一つなくなっていたのを風呂上がりのアンリが発見した。
おそらく、腱鞘炎になったリリルカが使ったのであろう。
ダンジョン第八階層
そこでは新米殺しと名高いキラーアントが多く出る。追い込まれると仲間を呼ぶ性質を持つため確実に仕留めないとレベル2冒険者はもちろん、レベル3冒険者もステータスや潜在値によっては大群に群がられ飲み込まれてしまう。
硬い甲殻をもち下級冒険者が使う比較的安価な武器では倒すのが困難になってしまいがちだが、二人には心強い仲間がいた。
一人はせいぜい近くの出店に行くのが限界の、シンプルでダサ…独特な服装をしている長髪の悪魔、ルキフグス・ロフォカロス。光を避ける者の名に違わず引きこもりをやっているが赤き竜の六柱の第一席の地位を武力だけで勝ち取っただけはあり、その戦闘能力はとても高い。
その能力はあらゆる宝物の管理。時間を操る配下、アガレスの力を借り世界中の、過去未来を問わずに集められたそれはものすごい量になる。
それは神造武器さえも含まれ、伝説の力を持つ様々な武器を次々と切り替えすさまじい技術で敵を殲滅する姿は赤き竜に所属する悪魔の兵のあこがれであるとか。
なぜ引きこもりの大物悪魔を引っ張り出せたかというと、製作者のヘルメスがしばき倒されて生産中止に追い込まれプレミア価格となっている超希少フィギュア、アスフィMrk.2(初回限定:水着換装可能Ver)を渡したことが大きい。
決して切れ味が落ちず、壊れることもない完全なる不壊武器、デュランダル。
それを受け太刀として左手に構えつつ、どこまでも刀身が伸びる伝説の剣、カラドボルグをもってこの階層のモンスターの攻撃範囲外から次々と屠っていく。
そして彼の後ろでは、左門くんたちが戦っている。
身に纏うマントからバルバトスの矢やウィスプを発射しアウトレンジから前線で戦うリリルカを援護する。
前線で戦うリリルカ。先ほどから「リリはサポーターなんですが~」などと叫んではいるものの、総合値こそ劣るものの左門くんとリリルカのどちらが前線に立つべきかと聞かれるとステータス的にリリルカとなる。
そのリリルカの隣には戦闘に参加こそしないものの、治癒の能力を持つブエルが控えている。
そもそも、いくら左門くんより前衛向きとはいえ、なぜキラーアントの大群と戦えているのか。
それはルキフグスが貸し与えた武器の力が大きい。
その武器はミョルニルといい、セットにヤールングレイプルという手袋も身に着けている。
神トールから拝借された槌は雷をまとい、凄まじい熱と電撃が敵と使用者を焼くが、使用者を守る手袋があるため、リリルカが焼かれてしまうなんてことはない。
これらの装備は全能の力を持つ神が使うことを前提として作られており途轍もなく重いが、彼女が持つスキルのおかげで何とか武器として使えている。
とはいえ、その本領ともいえる投擲時の自動追尾・回収機能は使えない。これを投げようとしたらレベル10でもきついだろう。
神話にある通り、その柄は武器として使うには短く、どうしても超近接戦闘をせざるを得なく、負傷が絶えないが逐一ブエルが回復するため、戦闘には支障がない。
「悪魔、悪魔です!!召様は悪魔です!」
まだ余裕はあるのか、叫びながら次々とモンスターを塵にしていく。
「召様、サポーターって何なんでしょうか」
結局数時間ぶっ続けで戦闘していたが、ルキフグスがアニメなるものを見るために帰ってしまい、探索は終了となり、階層を登っていく道中。
「味方からサポートを受けて前線に突っ込む前衛?」
「違いますよ!」
まだまだ元気なリリルカがギャーギャー叫んでいるせいか、その音に気付くことはなかった。普段の彼女ならダンジョンの中でここまで警戒を緩めることは決してないので、疲れがないわけではなかったのであろう。
彼らがその音に気付き振り向くと、そこにいたのは数十のミノタウロス。
すぐにそばに控えていたボティスにバルバトス、ベヒモスが次々と処理していくが5体抜かれた。
即座に逃げ出す二人。緊急時でもルートを把握しているリリルカは迷うことなく上層への最短経路を進むが敏捷のステータスが低い二人では長く逃げられない。
追いつかれそうになるたび左門くんがマントに仕込まれていた魔方陣を使い足止めするがとうとう重ね着したマントの魔方陣が底をつき、逃げるしかなくなってしまう。
「しょしょしょ、召様!何とかしてください!」
「弾切れだ!リリ!バックから予備の魔方陣を…」
「バック開いている間に追いつかれてしまいます!」
「よし!作戦名:ありがとうリリルカ、君のことは忘れない。だ!」
「リリの犠牲が前提じゃないですか!嫌ですよ!」
「最後まで聞け!リリが残り僕が逃げる…つまり挟み撃ちの形になる!大丈夫だ!」
「召様が逃げる形にしかなりませんが!?」
左門くんが逃げながら口に貯めた唾を前に飛ばし、それをインク代わりにして靴底に仕込んだ魔方陣のハンコで次々とウィスプを呼び出し爆撃し、追手は残り一体となったが、突進を避けるために横道に飛び込むことになってしまった。
その道は行き止まり。
咄嗟に左門くんが鋲を取り出して魔方陣を書き、リリスカがバックパックをあさり予備の魔方陣を引っ張り出そうとするが間に合わない。
最悪の未来を悟ったリリルカがバックパックを盾にミノタウロスの前に飛び出す。中身の半分以上が魔方陣の紙とマントのため突進の衝撃をほとんど逃がすことができ、致死の一撃から助かったが体勢が崩れてしまい、それに巻き込まれた左門くんも完成間際の魔方陣から弾き飛ばされてしまい、絶体絶命。
だが。
「大丈夫?」
深刻さをまといながらもどこか明るい声。ミノタウロスは頭頂部から股まで叩き切られていた。
褐色の肌に貧相な胸部、露出の激しい服装。そして何より、人一人より大きい、大剣の柄同士をつなげたような仰々しい武器を携えた第一級冒険者。
ティオナ・ヒリュテその人が、舞い散る灰の中にいた。
用語解説
アスフィMrk.2
ヘルメス監修のフィギュア。1/10サイズですべての関節を動かせ、そのほかの再現度も高い。一応子供の手にわたってもいいようにまずいところだけは再現されていない。ほとんどがオラリオに販売され裏で物凄い人気を博していたがモデルにばれてしまい、本人直々に回収し廃棄され、現存するものはヘルメスがオラリオ外に流した数体のみ。
そのうち一体がアンリに回ってきた。
ヘルメスの口車に乗って結構お高い値段で買ったものであるが、宰相の評価は高く、結果的に非常にお得な買い物になったという。
ちなみに、完全再現されたMrk.3を自分用にだけヘルメスが確保している。彼以外にその存在を知っているのがルルネだけであり、そのルルネは買収されている。とはいえ団長の説得(脅迫)により口を開く未来はそう遠くない。