蒼穹の絆 -Infinite Stratos meets FAFNER in the Azure- 作:フィアネン
性格なのかどうかわかりませんけれど、1回目リライト時の怜央君の眼を真っ直ぐみれなくなってしまったのでもう一度だけ。
早朝の電車。その内の一車両の中では、数人の乗客が疎らに座る。まだ少し寒い春先でも、この中は空調が効いており、快適な空間が広がる。
口を大きく広げたまま寝る乗客の耳からは、イヤホンと一緒にアナウンサーの声が漏れ出ている。それは誰も聴こうと思わずとも勝手に音を広げ、聴いているであろう誰かに情報を
伝えていく。
『―先月と比較し、今月の性犯罪の検挙数は例年より増加しており、年々と増加傾向にあるこの問題に…』
これを聞いていたらしい女性二人組は、ワザとらしく声を大きくして言う。
「ほんっと、男とかいう野蛮な奴らってどーにかならないのかなー?」
「そうだよねー、男が何しようとしても、ISには絶対に勝てないのにねー。」
二人は会話をしながら笑っていたが、同席する男性らは諦めたかのような表情をして黙っているか、或いは無関心を貫く。黙っていれば向こうも手を出してこない事を知っているからだ。変に突っかかってしまえば、直ぐに適当な理由をつけて警察沙汰になる。彼らにも自身の生活があるため、それをわざわざ自分から壊しに行くことは無い。
電車が駅に停まるが、人の入れ替わりは起こらなかった。
電車が再び動き出すと、二人組の女性は一人の男子に目をつけ、彼に近付いていく。ボストンバッグを右側に置いた彼は、肩まで伸びた、癖っ毛の黒に近い茶髪。それにYシャツにスラックスといった制服姿。更に両手にグローブをはめた彼は、身じろぎすらせずに座席に座り続ける。外からはその女性らに気付いているのか気付いていないのかは解らない。だが、二人が近づくにつれ今まで閉じていた目が開き、彼女らに向けられていた。
「やあボク、一人?」
「…何ですか。」
「あらぁ、もしかしておねむ?お姉さん達と遊ばない?イイコト、してあげよっか。」
「次の駅で降りるんで。」
「え?次って…あはははは!あ、IS学園前ェ!?ボク、男の子でしょ?そんな所に行ってどうするのよ!?」
「ボクもISを使いたくなっちゃった?もしかしてISの事知らないの?」
彼を馬鹿にするような笑いをする二人。その間にも彼はずっと、冷めた目をして二人を見ている。その態度が気に入らなかったのか、女性らは段々と声を荒げていく。
「どうせあんたみたいな男が行く用なんて、盗撮か何かでしょ!いい小遣い稼ぎをするじゃない、ええ!?」
「あたしらのようなISを持ってないのには見向きもしない癖に!」
一人が彼の腕を掴もうとした時、途端に電車が揺れる。それによってバランスを崩した女性が倒れそうになった瞬間、彼はバランスを保ったまま立ち上がり、左手で彼女の腕を掴んで無理矢理立たせた。
「あ…ち、ちょっと!格好いいトコ見せようたってそうは…」
「別に。あんたたちに騒がれると、俺が不利になるから。」
まるでどうでもいいかのような、無気力な声。丁度電車が止まると、彼は重そうなバッグを持ち上げ、車両から出ていった。
ホームを、改札を、駅舎を抜けると、目の前には人工島を丸々一つ使った巨大な学園が姿を現す。その学園は、厳しい入学試験を経て全世界に400機にも満たない配備数の高性能パワードスーツ”インフィニット・ストラトス”を駆る為の英才教育を行う場所。
その門前に彼は立っていた。
〈遂に来てしまったな。〉
「そうだね。でも、ここに父さんに繋がる何かがあるのなら俺は動きたい。”博士”が言ってた通り、アテもなく動くよりかはいい場所だと思うよ。」
〈それは私もわかっている。だから私もお前と共に行動するのだからな。〉
「…いつもありがとう、ファヴ。お前のお陰で俺は戦い続けてる。」
〈何を今更。これからもだろう?
正面のジップが僅かに開いたボストンバッグの中から聞こえてくる、機械的・女性的な声。それに対して怜央は、先程の冷めきった声とは思えない柔らかい表情、明るい声で答えるのだった。
空は、雲一つない快晴である。
-Infinite Stratos meets FAFNER in the Azure-
「君が
「よろしくお願いします、更識さん。」
「そんな固くなくて、楯無でいいわよ。それじゃ、先生方が待っている場所に行きますか。」
水色の髪色をした、”更識楯無”と名乗る女子が怜央を先導し、話をしながら歩いていく。
「こんな朝早くからごめんね。でも、学園側もこんなギリギリでの入学だって言うからバタついちゃってさ。」
「こちらにも色々事情があったもので。」
「ま、そこはお互い様という事で。ところでこの学校、凄いでしょ。最新鋭の設備がいっぱいあるのよ?」
「そうですか。」
「もう、可愛げがないわねー。」
そう言うと楯無は怜央に視線を合わせ、ぐっと顔を近づける。
「”男の子だから”なんて気にしないで、もっとはしゃいでもいいのよ?」
「はしゃぐ覚えはないですよ。」
ただ淡々と告げる怜央。15歳という年齢だけあって、女子から詰め寄られたのなら普通なら目を背けるか、顔を赤らめる所だろう。だが、彼はそのどれもを行わなかった。互いの赤い目が真っ直ぐに視線を捉え合う。
「…もしかして、むっつり?」
「案内するんじゃなかったんですか。」
「なんか残念なコ。ま、気を取り直して行こっか。」
楯無は顔を離し、振り返って怜央の案内を続ける。その中、彼女は一人思考していた。
(年頃の子にしては余りにもパーソナルスペースが狭い。それに、感情の起伏が本当に小さいわね。彼が表情を変えたのは、私が顔を近づけた時。それも僅かに眉が下がっただけ。それに、声を押さえつけていた。それは私に対してなのか、それとも―)
だが、そのどれもは楯無自身の憶測に過ぎない。彼の表情が何を意味するのか、彼女がそれを予測するには怜央の事を余りにも知らなすぎる。いや、余りにも綺麗な経歴を持っている彼は、間違いなく何者かに何かを隠されていた。それを本格的に調査すべきだと考えていると、二人は検査室へと辿り着く。その前には二人の教員が立っていた。
「お待たせしました、織斑先生、山田先生。」
「こいつが件の”二人目”か。」
「おはようございます、要君。今日の臨時試験や検査をさせてもらう、山田真耶と織斑千冬先生です。よろしくね。」
「よろしくお願いします、山田先生。織斑先生。」
「それではついて来い、要。」
ニュースを人並みに見ていれば知らない人はいない顔が目の前にいる。世界を沸き立たせた
(むしろ、織斑先生を見る目が、私の時と同じだった。やはり、彼はISに対して…。)
教員二人についていく怜央を見て、一人残された楯無は再びそう思う。
「ここに来るしかなかった…。ここまで来た彼が自分で選べる事なんて、限りなく少ないものね。」
更衣室で自身のISスーツへと着替える怜央。こじんまりとした空間だったが、それでも外と隔絶されている事には変わりない。
「怖いもんだね、ここ。あの山田って先生以外、だいたいの眼がギラついてる。」
〈怖いのは向こうも同じだろう。3月も末になった途端に、第二の男性パイロットの出現、それも非公式だ。機関も学園もザワついたに違いない。〉
「駆け引きとかそういう難しい事はどうでもいいよ。俺はお前のコアを守りながら、父さんの情報を探るだけ。それが済めばこんな所にいる理由なんてないんだからね。」
〈…何も思わないのか?〉
「え?」
〈私はお前とはたったの一年の付き合いだ。それでも、学校というものはそこまでつまらない所なのか?お前は私といる時に前の学校の話は何もしなかったぞ。〉
「一般的には楽しいんじゃないの?でも学校で楽しかった事なんてあったかな…。」
〈済まない、余計な事を訊いたな。〉
「それに俺はファヴと………リンが一緒に居た時の方が、充実してた。たとえそれが戦い詰めだったとしてもね。これ以上待たせる訳にはいかないし、行こうか。」
ボストンバッグのジップを開くと、中からは濃紫の機竜が出てくる。怜央はそれに対し微笑み右肩に乗せると、再び表情を消して部屋を出るのであった。
国際IS委員会のメンバーは、学園の監視カメラを介して怜央の検査の様子を見守る。
「適正A-とは、かなりの逸材ですね。女性でもAクラスは早々現れませんよ。」
「しかし、待機状態で自律稼働できるISとは、前代未聞ですよ。名称は確か…」
「
「そんな説明はどうでもいい。あの機体、基礎スペックが現行の第三世代以上のものだ。そんな機体が何処にも所属していないなんて怪しすぎる!」
「スペックだけなら最早第一世代、かの白騎士と似たものを感じますね。これを自由にしていれば、何時どの国に先取りされるか、或いは機体とパイロットが居なくなるのが先か…。」
「奪い合いが行われれば、それだけで戦争が勃発するかもしれません。」
会議が白熱する中、委員長は一旦全員の会話を止めさせ、最も重要な話をする。
「彼が束博士からの差し金かどうか、それすらも不明。しかもよりによって、製造者不明のISを持っているのが民間人だ。扱いを間違えれば、我々が世界からの糾弾を受ける。本案件に関しては慎重に行動するべきだと、私は思う。」
「私も委員長の意見に賛成です。おっと、失礼………はい。…はい。了解です。理事長、日本政府からです。『マークニヒトの調査を倉持技研の方で行いたい』とのことです。」
「承諾する。但し、その結果は我々に公開し、全世界に共有することを条件にしろ。」
「わかりました。後、もう一つ要請があって、それが…『要怜央を日本の代表候補生にしたい』と言ってきてまして…。」
この言葉を聞き、瞬く間に会議の場は荒れる。
「幾ら何でもそれはやり過ぎだろう!」
「これでは日本国政府が全部独り占めではありませんか!」
「織斑一夏に関してはブリュンヒルデへの顔立てがあったが、それ以上の事を独断で行うのは越権行為だ!」
「静粛に!」
見かねた委員長は飛び交う罵詈雑言を無理矢理止めさせる。
「確かにこれはやり過ぎだと言われても仕方が無いだろう。しかし、我々委員会が出張ってしまえばデータの奪い合いが発生してしまう。機体と違って、人間は取り返しがつかないものだ。彼の協力が無ければ、このデータ収集は実現しない。それに、ここまで言うという事は何か政治的な力が働く事が予想される。我々の管轄はあくまでもISというモノの管理だ。それを忘れてはならない。」
この言葉を聞き、幾分か冷静になった場は落ち着きを取り戻した。静かになったところで再び電話をする者を見て、委員長は会議も忘れて思考に落ちる。
(彼は恐らく、篠ノ之束の関係者だ。そうでなければ筋が通らない。そもそも、ただの民間人が世界の名だたる研究機関で厳重に管理されている467個のコアを盗み出し、機体を製造することは不可能に近い。如何なる手を使ってでもその関係性を洗わなければならないな。
しかし、全世界規模で行った男性一斉検査の際にすら、彼の名前は出てこなかった。存在が隠されていたのか、それともあの機体による後天的な因子取得か…我々には想像もつかない。これ以上は研究好きな奴らに任せる他ないな。それに…)
委員長はモニターを見る。他の人が怜央を見ていない時、彼はいつもニヒトの方を向き、微笑んでいるように見えた。
(要怜央は機体に対し、相当な思い入れを持っていると見た。それに、コミュニケーションをとっているとも見れるな。ISコアには自我が存在するという話は聞いたことがあるが、このように視覚的に見れるのは非常に興味深い。これも研究者頼みになるな…。)
長い溜息を吐き、再びうるさい程に議論をしていた者たちを、手を上げて黙らせる。
「要怜央の暫定的な処遇を決める。
彼の所属だが、これも暫定的なものではあるが、要請通り日本国の代表候補生として籍を置かせる。後ろ盾が無い彼にとって、不安定な状態というのは精神的に支障をきたすだろう。彼は民間人だ、他国の代表候補生程の強制力は行使しない。但し週に一回、倉持技研に出向することを義務づける。これは後に彼を我々の味方につける事を考えての処遇だ。彼には今後苦痛になってしまうかもしれないが、彼の要請、また世界情勢の変化によって彼の立ち位置は常に変化させる。彼の存在は我々で保護するべきだ。
これに対して異議のある者はいるか。」
「異議なし。」
「織斑一夏はブリュンヒルデが後ろ盾に居ます。彼女が声を上げれば、ある程度は状況の制御が出来るでしょう。しかし、彼にはそのような身内はいません。私もそれに賛成します。」
「後は彼次第ですね。」
「そうだ。彼が我々の側につくか、それとも協力しないかは我々には予測はつかない。だが、彼の存在と機体は余りにも不明点が多すぎる。それなれば、我々に対し最初から警戒されては話もできない。我々を信頼してもらう事が第一だ。」
その場にいる全員が首肯する。
「彼は確か、今日は一日IS学園に居るのだったな。試験が終わった頃に伝えるように連絡してくれ。」
「わかりました、委員長。」
これを機に解散となり、各々が離席していく。その中、委員長だけは座り続け、背もたれに寄りかかる。
「嵐が来るな。これは、我々への試練か…。」
ISスーツを着たまま、第一アリーナへと移動させられた怜央。彼のISスーツは肩・腰・大腿部の側面一部が露出している、肩当てと背中に大きく突き出た機材が装備された、全身を覆うスーツ。その特異な姿を見る生徒はほぼいない。たまに横切る生徒も、千冬の存在によってじろじろ見る暇がないのだ。ピットに辿り着くと、千冬が話を始める。
「これから行うのは、訓練機を用いた一対一の模擬戦を行う。簡単に言えば入学試験だ。訓練機は打鉄の予定だが…何か要望はあるか?」
「リヴァイヴはありますか?」
「珍しいな、日本人で最初からラファール・リヴァイヴを要求するとは。勿論あるぞ。」
「それでお願いします。」
表情を変えないまま、淡々と話す怜央。千冬が指示を飛ばす間も、怜央はそちらには目もくれずにアリーナの内部を見つめる。正確には、アリーナ上空に広がる空。直射日光も気にせず、目を細めたままじっと見ていた。
「待たせたな、これから試験を始めるが、ISの搭乗方法は…」
「解っています。」
怜央は千冬の言葉を遮ると、ハンガーに鎮座していたリヴァイヴへとこなれた様子で搭乗する。その姿に驚く千冬だったが、すぐ平静を取り戻して試験開始を告げる。
カタパルトへと搭乗し、射出直前となった怜央。ふと、どこからか声が聞こえてきた。
〈わた………話………いて…………〉
「…声?」
〈……え………もし……わ……のこ…………〉
「幻聴?何だこれ…。」
『要、どうした?』
「いえ、何でもありません。出ます。」
リヴァイヴをアリーナ内へと飛翔させる怜央。彼は左手からショートブレード”ブレッド・スライサー”を装備し、右手にアサルトカノン”ガルム”を装備する。彼の相手は真耶であった。遅れて出てきた彼女はあがり症なのか、言葉が途切れ途切れになりながらも試合前の挨拶をする。
「よろっ、よろしくお願いします、要君!」
「よろしくお願いします。」
千冬と楯無は、ピット内で行われている模擬戦を管制塔から監視していた。彼らの戦いを見る中、最初に口を開いたのは楯無であった。
「怜央君、明らかに素人の動きじゃない。ここ数日でISを渡された人が、あんなに慣性制御を使いこなせるとは到底思えませんね。」
「ああ。それに、武装切り替えが素早い。アレは最早
「先生は彼の出自、何処だと思いますか。」
「
「私も先生と同意見です。部屋割り…私が彼の監視を務めます。」
「頼む。要の存在がもたらす事は未知数だ。何を起こすか、何が起きるかが想像できない。警戒するに越した事は無いな。」
「でも、委員会の目論見通り私達の手札として使えるのなら、それに越した事はありません。」
楯無がそう言うと同時に、両手にショットガン”レイン・オブ・サタディ”を装備した怜央は、その面制圧力によって真耶のリヴァイヴを倒していた。
帰り際、楯無に校門まで送って貰っていた怜央は、ふと”声”の事を思い出していた。
(確かに、あのリヴァイヴに乗った時に何か聴こえた。幻聴じゃないのなら、何が―)
―それは、君自身の力だよ。―
「っ!?」
足を止め、周囲を警戒する怜央。その様子を見て、楯無は首を傾げる。
「怜央君、どうしたの?」
それに対して怜央は応えない。今の声は、明らかに自身に対しての声だった。
(頭の中に、声が…?)
―そう。君へと声を送っているんだ。君はまだ受信しかできないけれどね。―
楽しそうに喋る声に、怜央は表情には出さないが困惑した。感情が剥き出しの声は、余りにも無邪気に楽しそうな心を伝えてきたのだ。
―君に会えるのが楽しみだ。…あ、そうそう、僕の名前は
声が聞こえなくなると、怜央は警戒を解く。彼からピリついた空気が消えると、楯無は改めて彼に話しかける。
「大丈夫?とても警戒していた様子だけど。」
「いえ、思い違いでした。」
表情を変えずに怜央は応える。彼が落ち着いた事を確認し、楯無は表情を硬くして話を始める。
「織斑先生から伝えられた通り、君はこの学園に入るにあたり、日本の代表候補生として入学します。これはあなたの家庭環境、身辺調査の結果によるものです。これにより、あなたたち家族の存在は日本政府によって保護されます。そして、この学園に入学と同時に、あなたの存在は全世界で報道されます。あなたの事はマスコミに対しては隠し通してもどうしようもない事だわ、いつか必ずバレるもの。ここまでは理解できた?」
「はい。」
「よろしい。それでは次ね。ここの学校はご存じの通り全寮制よ。部屋割りに関しては貴方の護衛も兼ねて、私が同室になるわ。」
「男子と女子が一緒になるんですか?どうでもいいですけど、外にそれがバレたら面倒になりますよ。男子で固めた方が対外的にもいいような気がしますけど。」
「それならどうにでもなるわ。」
自信があるように楯無は言うが、怜央は表情を変えない。
「それじゃこれが最後。これは個人的な頼みなんだけど…私の妹と仲良くしてあげて。簪って名前なんだけど、怜央君と同じ学年なのよ。」
「そうですか。」
「か、簪ちゃんは可愛い子なのよ!ちょっと内気だけど、あなたと同じで日本の代表候補生だし…」
楯無は慌てて彼女の妹、”更識簪”に関して色々言い始めるが、その大半を怜央は聞き流していた。聞き流すのも飽きてきた彼は、この話をぶった切るように遮った。
「わかりましたから。もし会ったら、挨拶くらいはしますよ。それじゃ、今日はありがとうございました。」
それだけ言うと、怜央はその場から立ち去る。
空は少し雲がかっていたが、鮮やかな朱色となっていた。
遠方からという事で、怜央にはホテルが手配されていた。彼は部屋に入ると、バッグのジップを全開にしてベッドへと俯せに倒れ込む。
〈お疲れ様、怜央。一日でこれだけあった事なんていつぶりだろうな。〉
「お前が生まれた時くらいじゃないかな…。」
〈それ以来か。あの時の事、よく覚えている。〉
「俺もだよ、ファヴ。今でも鮮明にね。…にしても、笑えるよな。」
〈IS欲しさに事件を隠蔽した政府が、今度は怜央を代表候補にすると言うのだ。もしお前が被害に遭ってなかったらどうするつもりだったのか…。〉
「さあね。大方俺の事なんてほっぽったんじゃないの?俺は織斑の人間でも、更識の人間でもないし。」
〈隠蔽に加担した更識の当主が、お前の監視をするというのも納得だな。〉
「でも、強力なコネクションを持つ奴が身近にいるのは利用できると思わない?」
〈ハイリスク・ハイリターンという事だな。無理はするなよ、怜央。〉
「わかってるよ。…もう疲れた。おやすみ、ファヴ。」
〈おやすみ、怜央。〉
怜央は眠りに落ちる。一日の疲労もあり、すぐに意識は遠のいていった。
「早く、避難を!」
「畜生、何で警報機能が止まってやがるんだ!」
「先に落ちた破片のせいで中継所がやられたらしい!だからこんなギリギリに…!」
「父さん、早く!このままじゃ!」
「怜央、お前は先に行け!父さんは必ず後から…っ!?怜央!!」
俺は父さんから突き飛ばされる。それと同時に家へと落下し、爆発する大きな破片。身体を小さくしていたからか、俺は擦り傷だけで済んだ。でも、燃える周囲を見ても、父さんの姿はどこにもない。
恐怖なんかよりも、困惑の方が俺の心を支配する。
「父さん、何処に…」
「怜央君!!」
歩けない俺を母さんが抱え、走ろうとする。しかし、破片の第二波が俺らの頭上へと落下してくる。それを、ただ俺らは見る事しかできなかった。母さんは俺をぎゅっと抱き締める。
でも、俺らが潰される事は無い。
何処からか聞こえてくる爆発音。それと同時に、何かの巨大な影が俺たちの上空へと姿を現す。
それは、空色で人型の、肩に翼を持った大きなロボットらしきモノだった。不思議な関節をしたそれは、巨大な両手を破片へと向ける。その掌から放たれた緑色のビームは破片を粉砕し、俺たちを守ってくれた。更に、全身にある球体状の物体から幾多もの赤いレーザーを放ち、迫りくる破片全てを撃ち落していく。
「何で………何で父さんは守らないで、俺らだけ…。」
俺の口から出た言葉はそれだった。翼を持ったロボットは空へと上昇していくと、上でミサイルを破壊していた白騎士は空色のロボットへと向かっていく。そこからは、格闘戦が始まった。白騎士は剣やビームで攻撃するが、空色のやつはそれら全てを装甲で受け切り、巨大な腕で白騎士を捕まえて更に上空へと運んでいった。
誰もが炎の中でそれに見惚れる中、俺だけは場違いな憎しみを抱いていた。
「返してよ…。」
「父さんを返せよ白騎士!空色のやつも何で父さんだけ見捨てたんだ!答えろよ!!」
「…また、この夢。」
嫌な汗をかいて起きた怜央は、ベッドから起き上がりシャワーを浴びる。浴室から出ると、机の上で欠伸をかいているファヴが目に入った。
「おはよう、ファヴ。」
〈おはよう怜央。その感じ、133回目だな?〉
「そういう所はヤな奴だよな、お前。」
〈朝食を食べに行こう。昨日は何も食べずに寝てしまっただろう?〉
「そいやそうだったね。そんじゃファヴ、行こうか。」
ファヴは自発的にボストンバッグ内に入り、怜央はそのジップを閉める。バッグを持った怜央は、そのまま部屋を後にした。
「ふーん。とうとうファフナーを世の中に出そうと思ったんだ。動き始めたんだね、あいつら。」
兎の耳をつけた女性は、キーボードを素早く打ちながら何かの解析を続ける。
「人間をいじくりまわしてちーちゃん達を造った奴ら、まだ何かしようとするんだ。折角自然受胎能力を殺して絶滅できるようにしたのに…。」
「だが、我々は誰か一人の意志だけで殺される気は無い。お前は見知った頃から危うさがあった。やはり白騎士事件はお前にとって最悪の一手だったな。」
「黙れよ、電池を造って生き残り続けてるお前らが言えた事か。」
「人間を電池と言えるほどに壊れているとは思わなかったな。我々は彼らの言葉を尊重している。我々は全員、人間だ。」
「人間?あはははは!!言葉を使わずに会話する奴らが人間!面白い事言うねぇ!」
高笑いする篠ノ之束の傍で、拘束されていた男は黙って目の前のモニタを見る。そこには、怜央の姿が映っていた。
失速してそのまま失踪したらごめんなさい。
結末とかイベントの大枠は見えても、毎度いつも細部を観測しきれないんです…。