蒼穹の絆 -Infinite Stratos meets FAFNER in the Azure- 作:フィアネン
「要、無理に前に出るな!聞こえているのか、おい!!」
「先生、ジャミングが強力になって通信も効かなくなってます!」
「クソ、こんな事が…!」
管制塔の机を叩く千冬。彼女には、ゴーレムというISが誰から送り込まれたのか…それは概ね想像がついていた。しかしこのタイミングで、しかも怜央のみに集中して攻撃を行う理由がわからなかった。
「教員部隊はまだ到達できないのか!?」
「それが…通信によると、フィールド内に突入しようとすると、突然システムがダウンしてしまうと言っています!」
「っ…!なら、更識姉はどうだ!」
『こちら楯無、物理的妨害は受けていますがもうすぐフィールドに到達します!通信は聞いていました、怜央君の援護を主に行えばいいんですね?』
「いや、まだ避難が終わっていない箇所がある、そこを優先的に頼む!」
『了解!』
「頼むぞ!」
指揮をする事しかできない千冬の拳は固く握り締められていた。
鈴はゴーレムの頭部へと衝撃砲を撃ち込むと、それと同時に一夏はアサルトライフル”ヴェント”へと向かって急降下していく。
(思い出せ、怜央との特訓を!瞬時加速は瞬間的な爆発力はあるけど、長い時間の加速には向いてない。だから―)
「目標の直前で発動させるんだよな!」
地面と平行になり、ヴェントとの距離が近くなった時に瞬時加速を行う。
「よし!」
「一夏、来るわよ!」
「何!?」
ゴーレムが一夏へ砲撃をしようと腕部の銃口を向ける。
(全周視界は必要な時にだけ、状況判断は素早く!)
一夏は自身へと撃たれたビームを避けつつヴェントを回収、そのまま鈴への援護を始めた。雪片のみを持っていた筈の白式からの遠距離攻撃に困惑するゴーレムに対し、彼らは攻撃を続ける。素早く動きながらスラスタや腕部を中心に狙う一夏に、その隙を狙って近接攻撃を行う鈴。二人の変則的な動きに翻弄されつつも、次第に対応を最適化していくゴーレム。
「一夏、こいつ段々動きが良くなってきてるわよ!?」
「んな事言われたって!こっちも残弾が…鈴!」
「ぐっ!?こんの、いい加減落ちろ!」
鈴は振り下ろされた腕を二振りの青龍刀で防ぎ、カウンターを仕掛けた。だが、ゴーレムはそれを難なく回避し、鈴へと銃口を向ける。
「しまっ―」
「いいえ、まだやらせませんわ!」
ゴーレムの破損した頭部へと直撃する青のレーザー。鈴と一夏が顔を上げると、上空にはブルーティアーズを展開しスターライトMkⅢを構えるセシリアがいた。
「セシリア、来てくれたのか!」
「全く、来るならもっと早く来なさいよね!」
「申し訳ございません、クラスメートの避難誘導に時間がかかってしまいましたのよ。しかし、まさかこれ程の数が来ていたとは…。」
「敵…そうだ!怜央がこいつと同じヤツ2機に攻撃されてて、押されてたんだよ!」
「何ですって!?それでは―」
セシリアが言いかけた直後、爆音と共に赤黒いビームが上空を横切っていく。その射出先を見ると、長大な槍を持った紫色の機体がいる。
「一夏、あの機体って…」
「まさか、アレが怜央の専用機…」
「ファフナー・マークニヒト…!」
マークニヒトは背面のスタビライザをオレンジ色に発光させ、静かに浮遊する。そして、ゆっくりとフィールド内へと入っていった。
(敵機が2、内一機は学園側ISと戦闘中。学園側は3機のISを出してきたか。学園側の対応が遅い…シャッターが降りてたのも恐らく外的要因。つまり―)
「邪魔は入らない。」
マークニヒトは自身を警戒しているもう一機のゴーレムへと向き合い、槍を構える。それを敵対行動とみなしたゴーレムは間髪入れずに攻撃を始めるが、ニヒトはそれを避けることはせず、全てを装甲で受ける。ゴーレムは低出力では装甲を貫通出来ないと理解したのか、今度は高収束ビームを撃つ。それらを回避したニヒトは、ルガーランスを前に突き出してゴーレムへと突撃していった。
弾幕を回避しながら背面ユニットから放つホーミングレーザーによる攻撃を行い、敵を牽制するニヒト。だが、その威力は牽制と言うには余りにも高く、自身へと攻撃していた敵だけでなく、こちらへ向かおうとしていた敵にすらダメージを与える。先程までのリヴァイヴで圧倒されていた時とは違い、今度はニヒトがゴーレム達を一方的に蹂躙していた。
グシャリと音を立てながら目の前に居るゴーレムの左肩にルガーランスが突き刺さり、その刀身が展開される。ギリギリと音を立てながら開かれた傷口に、再び赤黒いスパークが迸る。刀身から再び太いビームが放たれると、バラバラになったゴーレムは貫通したビームによって爆発する地面へと落ちていった。
(残り一機…下!)
ニヒトに殴りかかろうと下に潜り込んでいたゴーレムは、そのリーチへと入る目前でレールガンの射撃とミサイルの飽和攻撃に晒される。その攻撃を受け、ゴーレムはニヒトへの攻撃を止め、破壊された観客席へと向き直った。
簪は未だに動けないまま、観客席での戦闘を見ていた。いつの間に上手くなっていた一夏の射撃、彼と鈴・セシリアの即席連携、そして
私にも、あんな力があればいいのに。
そんな羨望を持ちながら戦闘を見つめていると、突然閉ざされていた扉が破壊され、専用ISを身に纏った楯無が姿を現す。
「本当にここだけ避難が…みんな、大丈夫!?」
「お、お姉ちゃん!?どうしてここに!?」
「簪ちゃん!?いえ、今は避難が先よ!みんな、早くこっちに!」
ISを持たない生徒は、やっと助けが来たと言わんばかりに走りながら扉があった場所へと向かう。楯無は雪崩れ込んでくる生徒を落ちつけながら素早く避難させ、中に残った人が居ないかを確認する。
「ほら本音、お姉ちゃんと一緒に行かなきゃ。」
「うん…。かんちゃん、怪我しないでね!」
本音はそれだけ言うと簪の傍から離れ、ドアへと駆けて行く。それを見届けた簪は、今度は楯無へと対峙していた。
「簪ちゃん、怪我はない?ごめんね、私がもっと早く―」
「お姉ちゃん、来ないと思ってた。」
「そんな訳ないでしょ?あんな無茶ぶりの中よく頑張ったわね、簪ちゃん。その勇気は凄いわ。」
「お姉ちゃん…。」
「ふふ。それで、戦況は?」
「え?えっと、要君がさっき出ていってて―」
「あの機体状況で!?まさか…!」
楯無は慌てた様子でフィールド内を見る。そこには、既にもう一機をバラバラにして地面に爆炎を作った紫色の機体が浮遊していた。
「アレが怜央君の専用機…動いてるのは初めて見たわね。」
「っ!?要君!」
ニヒトの死角から接近してくるゴーレム。簪には、怜央がそれに気づいていないように見えていた。彼女は荷電粒子砲”春雷”をゴーレムへと撃ち、続けざまに第三世代技術兵装・マルチロックオンシステム搭載型ミサイルユニット”山嵐”から手動誘導によって多数のミサイルが襲い掛かる。
「装甲があっても、関節を狙えば!」
装甲の脆弱な部分をピンポイントで攻撃していくミサイル。爆炎が晴れた頃には、ゴーレムはボロボロの状態になっていた。やったと歓喜するフィールド内の中、怜央だけは未だに浮遊している敵を警戒していた。ゴーレムは彼の予感通り再起動し、関節の音を立てながら簪へと銃口を向けた。
「嘘、まだ動いて―」
「簪ちゃん!」
ビームが発射される直前、楯無は簪を庇うように前に出て、自身の機体の防御機構を作動させる。しかし、そのビームは突如出現した黒球に阻まれた。その黒球は敵のビームを拡散させ、観客席へと被害を出すことはない。ビームと共に黒球が消滅すると、目の前には遠くにいた筈のニヒトが目の前にいた。
「私達を助けたの?怜央君…。」
その一射を撃ち終わるとゴーレムは地面へと落下し、完全にシステムが停止する。怜央は動かなくなった機体へと向かい、ルガーランスを逆手に持ってコアを完全に破壊した。それでも尚槍を押し込める彼を見て、一夏は顔をしかめながら近づき左腕を掴む。
「もういいだろ怜央!こいつはもう動かないんだぞ!」
「そう言って攻撃をされたばかりだ。完全にぶっ壊しておかないと、またさっきみたいに襲われるよ。」
「お前…!」
「試合ならそうだろうよ。でも、これは試合じゃない。俺は…」
お前らみたいに平和に過ごしてきたワケじゃない。
その言葉は怜央自身の驚きで上書きされていた。微かに聞こえてきた白式からの声。その言葉に、彼は耳を疑った。
〈全く、コイツは…。剣も銃も、千冬にはまだまだ追いつかないな。搭乗者が千冬で、私がまだ白騎士だったのならば、こんな失態は―〉
「お前、そのISは…!」
「え?白式がどうかしたのか?」
怜央はそれに答えず、ニヒトは僅かに俯いて停止する。直後に地面から出現したフィールドによって、怜央が機体と入れ替わりで出現した。倒れ込む怜央を抱える一夏。
「怜央、どうしたんだ怜央!」
「………。」
「千冬姉聞こえるか!怜央の意識がないんだ!俺はどうすれば―」
怜央の虚ろな目は、金色に光っていた。
全てが終わってから来た教員部隊が見たものは、ゴーレムの残骸と荒れ果てたフィールドの地面、そして傷一つない代表候補生たちだった。
「…しかし、あの圧倒的な火力には驚いたよ。あれほどの威力が出る攻撃は、現状のISでは第一世代くらいしか相手にならないのではないのかね?」
「私には返答しかねます。ISはスポーツの為の機器です。決して兵器ではありません。」
「これは失礼。だが、あの機体スペックに搭乗システムが解析されれば、ISというものの安全性は飛躍的に高まるだろう。いつか、再び全身装甲ISが台頭する時代も来るのだろうな。…報告ありがとう、ブリュンヒルデ。時間を取らせて申し訳なかったな。」
「それでは失礼します。」
会長室を後にする千冬。彼女の心境は複雑なものだった。
(未だに目覚めない要に対し、目覚めた途端に尋問をする必要があるのか…。それに、これだけの時間目覚めないという事は、普段から相当なストレス下にあったのだろうか。3組の担任とも相談しなければ…。)
事後処理を考えていると、頭痛がしてくるように感じていた。
暗闇。
海の中には魚の一匹もいなければ、一条の光も差し込んでこない。
(あいつと話してると、おかしな気分になってくる。)
(もう、苦しさも辛さも、喜びも…そんなものをファヴ以外から感じる事は無いと思ってたのに。)
(どうしてあいつは…)
まるで光のような存在に、水上の存在へと手を伸ばそうとする。だが、その腕は何者かの手によって引き止められ、更に多数の手によって身体ごと深海へと引きずり込まれていった。
「オレらを殺しておいて、自分だけいい思いができるなんて思うなよ。」
周囲を見回すと、蜘蛛のような見た目をしたISに搭乗しているパイロット、いつか見た姉妹パイロット…自身が今まで戦い、殺してきた相手の顔が怜央を見つめていた。
「わかってるよ、オータム。」
「俺がそんな高尚なモノを求められるワケが無いなんてことくらい。」
「今日の分の改良型アクティビオンは投与した、後は目覚めるのを待つだけね…。それにしても、これほど症状が進んでいたなんて。起動記録が600を超えているのを加味すると、今まで
保健室で一人呟く教員。彼女は今年になっての新任で、保健室の担当となっていた。ベッドに寝ている怜央を見つめていると、僅かな唸り声と共に彼が目覚める。
「あ、目覚めたわね。おはよう要君。」
「ここは…?」
「保健室よ。もう一週間も寝っぱなしだったんだから。」
初めて話す相手の筈なのに、怜央にはどこか彼女に既視感があった。
「弓子先生…?」
「あら、憶えててくれたの?嬉しいわ。今年からこの学校の保健教員になったの、よろしくね。」
「はあ。それにしても、一週間もですか…。」
「仕方ないわ。あなたには機体搭乗の負荷だけでなく、多分過労ね。今まで毎日のようにISを扱っていたのに、マトモに休息を取れてなかったでしょ?」
「そんな事―」
「そうでなかったら、こんなに眠る事なんてないわ。これからはちゃんと、適切な休息をとってね。そうじゃないと早死にしちゃうわよ。」
「………わかりました。」
怜央の返答と共にチャイムが鳴る。時計を見れば、既に16時である。怜央は上手く回らない頭を動かしながら、これまで何があったか、そして意識が無い間に来た連絡を確認する。ゆっくりとそれをやっていると、突然保健室の扉が開き、一夏が凄い勢いで怜央へと詰め寄っていった。
「怜央、もう平気なのか!?」
「こーら、織斑君。保健室で騒がないの。」
「ご、ごめんなさい日野先生。それで、もう大丈夫なのか?」
「大丈夫…ではないかな。でも、あまり動かしすぎないのもアレだし…。」
上手く返答できずにいると、弓子が話に入ってくる。
「授業自体は問題ないけれど、試合とか模擬戦は暫くはダメよ。急に激しい運動をすると身体にこたえちゃうから。でも、軽い機動訓練くらいなら全然問題ないわ。あと一週間くらいは無理しないようにね。」
「ありがとうございます、弓子先生。という訳なんだ織斑。悪いね、暫く付き合えなさそう。」
「全然、むしろ俺なんかに滅茶苦茶よく教えてくれてありがとな。それじゃ、俺はこれで行くから。しっかり休めよ!」
それだけ言うと、一夏は保健室から出ていく。すると、今度は入れ替わりで女子数人が入ってきた。顔見知りが全然いない中、唯一の見知った顔である本音と少しだけ話した隣の席の女子を見つけると、怜央は彼女らに訊く。
「これは…どういう集まり?」
「何って、お見舞いよ!ほら、この一週間授業出れてなかったでしょ?ノート、貸してあげるから。」
「何でわざわざこんな事を…?」
「何でって、同じクラスメートじゃない。クラスメートは助けあいでしょ?」
「そう…なのかな。ともかく、ありがとう。」
「あと、私達からも…要君にお礼が言いたくて。」
「礼って…悪いけど、そんな事した覚えがないよ。」
「でも、要君はあの時私達を助けてくれたじゃない!」
「あの時って、もしかして俺が観客席に突っ込んだ時?寧ろアレは被害を大きくしかねない事だった。感謝されるような事じゃない。寧ろ、何で敵を連れてきたんだって言われても―」
「でもね、私達にとっては、れおれおが助けてくれたことに変わりはないの。だからお礼を言わせて。ありがとう、みんなを守ってくれて。」
そう言いながら本音は怜央の手を握ろうとする。しかし、触れそうになると怜央はびくりと手を引き、顔を伏せる。
「俺は………」
怜央が応えあぐねている中、弓子は立ち上がり、手を二回叩いて集まった生徒を帰す。
「ほらほら、要君はまだ病み上がりよ?無理させちゃダメ。ほら、帰った帰った。」
「え?でももう少し―」
「いいからいいから。」
半ば無理矢理に保健室から追い出すと彼女はドアを閉め、怜央へと向き直る。
「お疲れ様。でも触られた手をビクッとさせるのは男の子としてはちょっと、ね。」
「触られるの、怖いんですよ。何されるかわからないですから。」
「今までに何かあったの?」
「色々ありましたね。でも、何処か別の場所に行ってさえしまえば逃げれる。ずっとそんな生活でした。人の名前を覚える必要もない、友人を作る必要もない。ただ戦う力さえ持てればよかったんです。前だったら、こんな事なんて考えすらしなかったのに…。」
「それは気持ちに余裕ができ始めたからじゃないかしら?」
「え…?」
「色々な気持ちを考えれるようになったのは、自分自身に余裕を持ち始めたから。話してくれた感じ、以前は転校続きでストレスも心身共に酷かったんじゃないかしら?でも今は、少なくともその心配はないし、目立ったトラブルも起きてない。今回倒れたのは、その急激な環境変化に適応しきれなかったから。これから少しずつ慣れていけばいいのよ。」
「慣れろと言われたって、何をすればいいかわかりませんよ。」
「あら、簡単よ?特訓の時間を減らして、その分を別の時間に使えばいいのよ。例えば部活とか。」
「部活ですか…。」
この間楯無にどうでもいいと切り捨てた話を再びされる。怜央が行くメリットがわからないと言おうとしたその時、再びドアが開かれる音がした。
「今日は来室が多いわねぇ…。どうぞ。」
「失礼します…。」
「ほらかんちゃん、まだ起きてたよ!」
再び本音の声がしたため、顔を上げる怜央。声のする方を見ると、本音の隣には食事を持った簪が立っていた。簪は早足に怜央の近くの机に食事を置くと、彼に話す。
「食事してないんでしょ。ここに置いておくから。」
「何でまた―」
「細かい事はどうだっていいの!それに…まだお礼も言ってなかったし。」
簪は少し顔を背けたまま言葉を続ける。
「あの時はありがとう。私達を助けてくれて。」
「え…」
「じ、じゃあ私はもう行くから!」
「お大事にねーれおれおー。」
簪が早足に出ていった後に、本音が続いて保健室を出ていく。怜央は呆然としたまま扉を向き、その次は目の前の食事に視線が移る。
「おーおー、要君モテモテじゃない。」
「嫌われてると思ったんですけどね…不思議なもんですよ。」
「何でまたそんな事を?」
「第一印象がよくなかったらしいですよ。今となっちゃ、もうわかりませんけど。」
それだけ言うと、怜央はベッドから下り机に向かって座り直す。
「いただきます。」
食事に口をつける怜央。
彼は、まだ自身の変化を自覚することはない。
上手く組み立てられなくて時間かかっちゃいました。