蒼穹の絆 -Infinite Stratos meets FAFNER in the Azure-   作:フィアネン

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今更ですが書き溜めしてないんで投稿ペース遅めです


第8話

某日、デュノア社ビル。社長室では3人が会談をしている。社長のアルベール・デュノアは目の前にいる二人―成人しているであろう青年は座り、もう一人、16、7歳程度の青年は立っている―に、再び話をする。

 

「つまり、我が社の危機を脱する方法があると?そんな美味しい話が存在するわけがない。」

「それでも、貴方は要求を飲まざるを得ないでしょう。今日我々が話す事は、ファフナーについてなのですから。」

「ファフナー…日本の男子が所有していたというISか。」

「ファフナーは厳密にはISではありませんが、まあそれは問題ではないでしょう。貴方の会社は他のヨーロッパ諸国と比べて第三世代機の開発に出遅れている。その事を加味しても、我々からの要求は喉から手が出る程欲しいのではないのでしょうか。それに…」

 

含みのある止め方に、アルベールは怪訝な表情をする。

 

「それに?何の話だ?」

「貴方の"娘さん"の事は我々も知っています。どうでしょう?彼女を守る為にもここはひとつ、我々と協力しませんか。」

「な、何故その事を!この事は、わが社でもごく一部の者しか知らないのに…。」

 

アルベールが動揺を隠さずにいると、立っていた青年が少し笑いながらこう告げる。

 

「僕らべノンの前じゃあ、普通の人間が隠し事をすることなんてできないよ。」

 

その言葉に唖然とするアルベール。座っていた青年は少しだけ笑った後、表情を硬くして再び話を始める。

 

「貴方は、愛人の娘を男性搭乗者としてIS学園へと転入させるつもりだった。だが、その計画を実行するには、現状は余りにもリスクがある。それはよりによって二人目が、とんでもない隠し玉…ファフナーを持っていたから。確かに男性としての貴重性を取った有効な手ではあるが、それだけでは他企業へのアドバンテージを取る事はできないからね。」

「それは、確かにそうだが…」

「貴方の表向きの目的は、彼女に白式かニヒトの機体データを入手させる事。だが、ニヒトに関しては既に世界規模でのデータ開示が行われているために、白式のデータ欲しさだけにそこまでのリスクは負えない。そうではありませんか?」

「…そうだ。」

「今、世界はファフナーというモノに初めて触れています。これの仕組みが解明されれば、間違いなく今までのIS観全てを壊すものになるでしょう。将来性は十二分にあります。

それに…我々に協力をするのであれば、その対価としてファフナーの製造方法と専用のコア…これらを全て提供しましょう。」

「何だって!?ファフナーのコアは、ISコアを使っていないのか!?」

「そう。それがファフナーをファフナー足らしめている最大の要因です。我々はファフナーを製造する為の技術と、その根幹システムを担うコアを所有している。どうでしょうか?我々に協力すれば全世界に対してリードできるだけでなく、会社と貴方自身も守れる。悪い取引ではないと思いますよ。」

 

アルベールは徐に考える仕草を取る。少し経った頃、彼はその要求に首を縦に振って肯定をしたのだった。

 

「それが賢明です。それでは、我々との協力関係…長いものにしましょう。」

「ああ…ところで、君たちの名前を聞いていなかった。教えてはくれないか?」

 

それに関しては、立っていた青年が先に名乗り出た。

 

「僕はマリス。マリス・エクセルシア。」

「私はマレスペロ。それではデュノア社長、私達はこれで失礼します。」

 

二人の青年は社長室から出ていく。今までにない不気味さを醸し出す二人に、アルベールは冷や汗をかいていた。

 

「べノンという企業…いや、組織か?私達も聞いたことが無い名前だ。ただ、これに裏がある事は間違いない…。」

 

自身の机に置いてある写真を両手で握り締める。

 

「すまない、シャルロット。お前を守るには、こうするしかなかったのだ…。」

 

 

 

 

 

怜央が目覚めてから、彼は不気味なくらい静かな時間を過ごしていた。学校生活で何かがあるという訳でもなく、また夜に襲撃を受ける事もない。彼自身もまだ模擬戦は出来ない状態だったため、妙な空虚感が頭の中にあった。

 

「ノート返すよ。ありがとう、小鳥遊(たかなし)さん。」

「え、もう写し終わったの?早いね。」

「こういうのはすぐ終わらせる性分だし、ずっと借りっぱなしにする訳にもいかないよ。」

「でも、もっとゆっくりやってもよかったんだよ?」

「時間が勿体ない。」

 

こんな雑談をしていると、突然教室の扉が開き、険しい顔の千冬が顔を見せる。

 

「要、少しいいか。」

「…わかりました。」

「要君、何かやったの?」

「何もやっちゃないよ。でも、心当たりはあるけどね。」

 

そう目の前の彼女、 小鳥遊佐紀(さき)に言うと、怜央は千冬の後に続いた。

 

 

 

千冬によって案内されたのは、学園地下の解析施設。そこにはゴーレムの残骸が三体分―胴体が分断されたもの、コアごと木端微塵になったもの、形状は一番保っていてもコアをピンポイントで破壊されたもの―が床に並べてある。薄暗い部屋の中、二人は会話をする。

 

「要、単刀直入に訊こう。こいつらの事を知っていたな?」

「まさか。何でそんな世迷言を?」

「では、何故()()()()()()()のコア位置を正確に特定して破壊できた?貴様が愛用するルガーランスという槍、機構を鑑みるにISコアの破壊に特化した武装だろう。それに、あの時の異常な程に冷静な対応…貴様はこの襲撃の事を知っていた。違うか?」

「違いますね。俺は目の前に来た敵を倒しただけです。この襲撃を知ってて、自演してまで攻撃を受ける?そこまで手の込んだ事、俺一人には無理ですよ。」

「では、最初からファフナーを使わなかった理由は何だ。」

「あの機体を使って何を言われるか…それがわからなかったからですよ。」

「何だと?」

「白騎士事件の日からずっと…俺は学校を転々としてました。その時の事、今でも思い出せます。『お前と同じ所に住んでると、またあの日みたいに街に空から破片が降ってくる』だの、『近づくな疫病神』だの色々言われましたよ。…元はと言えば、あの事件さえ起きなければこんな事にはなっちゃいなかったんですよ。」

「貴様、まさか…」

「あんたが篠ノ之束と結託してあんな事件を起こさなきゃ、俺は住んでた所を失くす事も、穢される事も…あんたらを追ってファフナーに乗る事も無かったんだ!」

 

怜央は左手を突き出しながらルガーランスを展開し、千冬へと突き出した。千冬はその攻撃を避け、彼から離れながら緊急用のISハンガーへと向かう。怜央はその場から動かず、槍の刀身を展開し、彼女へと射撃をする。

 

「やめろ、要!」

「どっちみち、あんたには復讐するつもりだった!あんたが俺から奪ったモノは、あんた自身の命だけじゃ足りないくらいなんだよ!!」

 

射撃をしながら千冬へと迫る怜央。千冬は間一髪で打鉄を身に纏い、近接ブレード”葵”で振り下ろされた槍を受け止めた。

 

「ISを装備していないのに、これ程の力が…!」

「あんたみたいなワケわからない奴らに、父さんは殺されたんだ!」

 

怜央の左薬指を発端に、彼の身体を真っ赤な結晶が覆い尽くしていく。それが砕けマークニヒトの姿が現れた時、千冬は本能的に戦ってはいけない事を察していた。彼女は槍を打ち上げ、瞬時加速でその場から離脱する。警報装置に触れようとしたその時、ニヒトから放たれたアンカーケーブルが機材に突き刺さり、同化結晶を通じてシステムを乗っ取った。

 

「要!」

「ずっとあんたが憎かった!」

 

再びルガーランスを構えて千冬へと攻撃する怜央。

 

「貴様が私を殺したところで立場が悪くなるだけだぞ、要!」

「そんな事どうだっていい!損得勘定だけで俺の感情を計れると思うなよ!」

「私を殺した後、貴様はどうするつもりだ!」

〈あんたら3人を殺した後は、俺もいなくなるさ!ただそのためだけに今まで生きてきたんだから!〉

「いい加減にしろ!私は白騎士などでは―」

〈まだ白を切るつもりかよ!あの日の事は、俺はまだ鮮明に覚えてるぞ!篠ノ之束の宣言、アラート、ミサイル撃墜予測地点や風向きを見て、被害範囲外だと政府から言われた筈の俺の地域!あんたがワザと攻撃範囲の外に破片を落としたのは知っている!〉

「な、何!?そんな事、私はしていない!」

〈あんただって見た筈だ!空色の巨大なロボットが、全身のレーザーで破片を破壊した様を!〉

「まさか、貴様は本当にあの時の…!」

〈父さんの仇だ、死んでしまえよ!〉

 

千冬の一瞬の隙を突き、怜央は超近距離からのホーミングレーザーの斉射を行った上で彼女の首を掴み、力任せに壁へと叩きつける。叩きつけられた打鉄の装甲はひび割れ、関節からはスパークが走る。痛みに呻く千冬の胸に、叩きつけるように槍を突き立て続ける怜央。絶対防御機構による六角形のエネルギーシールドが彼女を守るが、それも段々と減衰していく。彼女を守る最後の盾が壊れた時、怜央は再び槍を大きく振り上げる。その穂先が千冬へと落ちてきた時、彼女は死を覚悟した。だが、その穂先は彼女の喉元で止まり、貫くことはなかった。

 

(切先が震えている?あれだけの気迫を持っていて、何故…?)

 

互いに動かないまま数秒。その沈黙は、”二人の背後に置いてあったモノ”が破る。巨大な腕部を利用して怜央の元へと飛び上がった上半身だけのゴーレムは、怜央へと腕部の銃口を向ける。怜央はそれに対して回避はしない。ただ、彼自身を中心に黒球を出現させた。

その黒球はマークニヒト、範囲に入っていた打鉄の脚部、突撃してきたゴーレムの全てを飲み込み、消滅させる。その場に残るのは、球形に抉り抜かれ赤熱した残骸だけ。

ニヒトが消滅したことにより、乗っ取られていたシステムが復旧する。それと共に扉が破壊され、ISを纏った楯無と真耶が警告灯で赤く照らされた部屋に入ってきた。

 

「織斑先生、大丈夫ですか!?」

「この状況は…!?」

 

部屋の惨状、そして大破した打鉄に乗っている千冬。そこにいなかったのは本来いる筈の怜央、そして接収した一体のゴーレムの上半身だった。

 

 

 

ニヒトとしての姿のまま、自室へと戻ってきた怜央。彼は人としての姿へと戻ると、暗い顔のまま制服から着替え、窓から外へと飛び出す。

今は、誰とも会いたくなかった。

再びニヒトの姿になり、空を駆ける怜央。その行先は少し前に見つけた付近の山ではなく、そのもっと先。目的地に近付くにつれ、市街地はあるのに人気がどんどんなくなっていく。地上に設置された封鎖線を超えた時、彼は静止して眼下を見つめる。そこにあったのは、未だに撤去されていない瓦礫がある住宅地。彼はそこに静かに降りると、ある一か所に向かって歩いていく。彼が立ち止まったところは、家があったであろう一区画。誰もいないそこに向かって彼は呟く。

 

「やっと、父さんの仇が取れると思ったのに…。俺は何でアイツを殺せなかったんだ。仇を、敵を殺すことを何で躊躇したんだ。昔なら、こんな事は絶対になかったのに。」

 

怜央は俯く。

 

「それすらできなくなったら、俺は一体何の為に今まで生きてきたんだ。何の為に、俺はここにいるんだ…。」

「そう、今のままじゃダメだね。だって、今の君はあの場所にいてはいけないから。」

「っ!?」

 

怜央は突然の声に後ろを振り向き、ルガーランスを展開する。目の前にいたのは、黒いコートに身を包んだ、青緑がかった黒髪をした青年。年は怜央より少し上に見えた彼は、武器を向けられている事にも臆さずに話を続ける。

 

「その敵意と憎悪に満ちた目…博士が君に入れ込む理由がよくわかるよ。」

「………。」

「なるほど、それが君の防衛手段と言うことか。でも、君は今とても怯えているね。今までできてきた事が、急に出来なくなったからかな。」

「な…!」

 

初対面にも関わらずまるで頭の中を読まれたかのような的確な指摘に、怜央は動揺を隠すことができなかった。青年はそんな彼を嗤うかのように少しずつ彼へと近付いていく。

 

「考えを読まれた事に動揺しているね?でも、それは本来は君も持っているはずの力だ。」

 

尚も近付く青年を前に、怜央は攻撃が出来ない。動揺もあったが、何故か金縛りにあったかのように身じろぎすらできなかったのだ。彼は少し考える様子をしてから再び話し出す。

 

「そうか、君は無意識にその力を封印したんだね。なら、僕がその力を復活させてあげるよ。」

 

青年の指が怜央の額に触れる。すると、怜央は自身の頭が異常な程冴えわたっていくような感覚に襲われた。無理矢理内側から力を引き出される不快感が来ると同時に、身体の自由も取り戻していく。

 

「勝手な事をするな!」

 

ルガーランスを横薙ぎにして、目の前の青年へと攻撃をする。しかし、その攻撃は呆気なく回避され、目の前の青年は怜央から距離を取った。

 

「な、こんな不完全な状態で僕を弾くなんて…。」

「あんた、何をした…ッ!」

「また会おうね、要怜央君。」

「待て、マリス!マリス?何で、あいつの名前を…俺は…?」

 

姿を消した青年―マリス・エクセルシア―は不敵な笑みをしながら揺れるようにその場から消える。どれだけ探してもマリスの気配を見つけられない怜央は、今だに警戒を解けずにいた。

 

「何だったんだ、今のは…。」

「ちょっと君、ここは立ち入り禁止区域よ!もう、どうやって侵入したのよ全く…。」

 

再び槍を構えていた怜央だったが、彼女の姿を見てやっと警戒を解く。目の前のリヴァイヴのパイロットは面倒そうな表情をしたまま通信をしていたが、彼は不思議と自身への敵意を感じ取れていなかった。

 

「…了解。区域外まで護送します。さて…要怜央君で合ってる?確認したいから身分証明になるものを出して、学生証とか。」

「………確認お願いします。」

「はい、確かに確認したわよ。それにしても、ここから学園はかなり遠いはずよ?もしかしてISを使ってきたの?でも私たちの包囲網やレーダーをすり抜けて来るなんて…。」

「すみませんでした。俺はもう帰るので。」

「あ、待って。ねえ、同じ一年の佐紀ちゃん知ってる?」

「サキ?…ああ、小鳥遊さんの事ですか。同じクラスですよ。」

「そっか。佐紀ちゃん、元気にしてる?」

「まぁ、そんな感じには見えますね。」

「よかった…佐紀ちゃん、たまーに凄く落ち込んじゃう事があるから、私心配で…。」

「はあ…。」

「あ、ごめんね。もう空も暗くなってきたし、私が学園まで送っていってあげる。」

「いえ、でも俺は空から来たんですよ?俺一人でも大丈夫です。この事を大事にさえしてくれなければ、何でもいいですよ。」

「そう?わかったわ。気をつけて帰ってね。あ、あと佐紀ちゃんによろしく伝えておいて。」

「わかりました。それじゃ、ご迷惑おかけました。」

 

怜央は家だった所の前で少しだけ手を合わせてから、マークニヒトへと変化する。薄暗い中で背面スタビライザをオレンジ色に輝かせ、猛烈な加速で学園へと飛び去っていった。

 

「もしかして、あの子って……あ!!私の名前、教えるの忘れちゃった…。」

 

 

 

 

 

〈二人ほどに監視されているぞ。怜央、いいのか?〉

「いいよ別に。あいつら、俺を攻撃しようって気は無いみたいだし。」

〈…怜央、マリスとかいう人間と接触した後何があったんだ?あの時、お前がリヴァイヴの女に攻撃しなかった事も含め、お前らしくない行動だったぞ。〉

「らしくない?…確かにそうかも。」

〈これが日野弓子が言っていた人間の変化というものなのか?機械の私にはどうにも理解が出来ない事だな。〉

「お前だって十分変化はしてきたよ。やっぱり、こういうのって客観的にしかわからない事なんだろうね。」

 

学校の裏にある山、その空き地で夜空を仰ぎながら会話をする二人。怜央の横には赤いビジョンとして映し出された少女が佇む。その姿は彼の目だけに映っていた。

 

 

 

 

 

次の日の放課後、怜央はある部屋の前に来ていた。談笑する声が漏れて聞こえる中、彼は扉を開けようとする。すると、彼は横から話しかけられる。

 

「貴様は、ファフナーの。この時間なら貴様は普段アリーナにいるのではないのか?」

「んなもん俺の勝手だろ?ドイツの代表候補…いや、少佐殿とでも呼べばいい?」

「貴様こそ、男にしては思いのほか勤勉なヤツだと思っていたのだがな。こんな所で何をしている?」

「それは俺が言いたいくらいだよ。それに、あんたのその言い方は気に入らないな。」

 

怜央には言葉自体の棘だけでなく、彼女の自尊心や、敬愛する者の事―彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒにとってそれは織斑千冬であった―が若干ながら伝わってきており、余計にイラつきを覚える。このピリついた空気を壊したのは、会話を聞いていた室内の人だった。

 

「ちょっと二人とも、部室の前で喧嘩とかやめてよね!って、二人は一年の。何、もしかして…?」

「「入部希望です。」」

 

見事にハモった二人。そんなこんなで睨み合っていると、部室から出てきた女子は二人の背中を押し、強引に部屋に押し入れる。

 

「まあまあ、嫌な事あってもお茶飲んでお菓子食べれば忘れちゃうよ。ようこそ、茶道部へ!」

 

 

 

部室の中で、何故か真ん中の方でちょこんと正座させられている怜央とラウラ。二人は他の部員に囲まれながら質問攻めに遭っていた。二人に来る内容と言えば、趣味は何だ、好きな女性(男性)のタイプは、ISを動かすのは得意なのは羨ましいと平凡なものばかり。怜央にとって幸いだったのは、そのどれもに悪意を感じれなかった事だろう。

 

「それで要君、君はどうしてこの部活に?他の部活からも勧誘あったんじゃない?」

「いや、俺は全然覚えはないですけど。だいたい、男ってだけでそんなに拍が着くものなんですか?」

「そうだよ、だって君と織斑君はこの学園で二人だけの男の子なんだよ!」

「そんな二人が部活に来るってだけで滅茶苦茶アドなんだよ!」

「ええ…?」

「そういえば、運動部の友達も『要君はすぐアリーナに籠っちゃってなかなか勧誘できない』ってぼやいてたなぁ。」

 

「でもさ、これってもしかして抜け駆けっていうのじゃあ…。」

 

一人の部員がそのように言った事で、ずっと話していた部員らは静まり返ってしまう。部活同士の間で特別な取り決めがあった訳ではないが、一夏と怜央は一つの部活に独占させてはいけないという空気があったのだ。

 

「まあ、細かいことは後で私が考えておくよ!今は面倒な事は忘れて、みんなでゆっくりしていこ!」

 

 

 

「思ったよりも軟弱な者が多いのだな、この学園は。」

「軟弱者が?」

「ああ。ここはISの訓練を行うための学校なのだろう?それなのに行事だの部活だのと現を抜かす者が多すぎる。」

 

部室を出てから、怜央とラウラの行く進路は同じである。つまり、考えは同じなのだろう。

 

「あんたもその一人じゃないワケ?」

「この学園では部活動に入るのは義務であった筈だ。だから貴様も来ていたのだろう?」

「まあ、確かにね。」

「それに…貴様も物足りなさを感じているのではないのか?この先は第三アリーナだ。言いたいことはわかるな?」

「対戦相手なら幾らでも。丁度今日くらいでリハビリ期間も終わりだしね。」

「決まりだな。」

 

怜央には、ラウラの言葉は戦いの口実を作りたいだけだったという事は伝わっていた。それでも拒まなかったのは、未だに彼が戦いの日々を求めていたからなのだろう。

 

 

 

 

 

「…やっぱり、どれだけシミュレーションしてもマルチロックしてくれない。あの日のログには確かにそれをした形跡があるのに。やっぱり、弐式が私の心に応えてくれたの?はあ…。彼、あの後どうしてるんだろ。」

 

ひとりきりの整備室で一人、簪は自身のIS”打鉄弐式”の手入れをしていた。元々静かな部屋だったが、それでも怜央がいる時はひとりきりではなかった。あれだけ憎まれ口を叩いていた筈だったのに、あの時―彼が、ボロボロの状態のリヴァイヴで不明機を相手にしたとき―の姿を見て、今までの気持ちが揺らいでしまっていた。

 

「あんなの気にならない筈なのに、どうしてこんなに…。最近もあまりアリーナで見ないって聞いてるし、どこにいるんだろう…。」

 

俯いて溜息を吐く簪。たったあれだけの事で意識してしまうなんてと悶々とする。

 

「まさか、そんな事ない!彼が、私のヒーローだなんて…」

「ん、誰かいる?」

「ひゃうっ!?!?」

 

突然聞こえてきた怜央の声とドアの解放音に、簪は軽く飛び上がってしまった。恐る恐る後ろを向くと、怪訝な表情の怜央が立っていた。

 

「…何やってんの?」

「せ、整備!そんな事見ればわかるでしょ!」

「そう。」

 

彼は簪の気もお構いなしに隣のレーンに来て、リヴァイヴらしきものをハンガーに展開する。その機体は元のリヴァイヴの形状とは大幅に異なり、脚部は一般的なISより短く、細いものになっている。他にも腕部は短くなり、延長は拳一つ分程度まで抑えられていた。また、背面ユニットはシールドバインダーから一本のスタビライザになり、その側面に小型のレーザーユニットとアンカーケーブルを搭載したものになっている。

まるで小型のニヒトのような姿に簪は驚き、彼に訊ねる。

 

「これ、どうしたの?」

「今日久しぶりに起動したらこうなってた。自己学習でこうなったんだってさ。」

「これ、一応学校の備品なんだよね?」

「そのはずなんだけど、なんか暫く預かってていいなんてワケわからない事言うんだよ。何なんだろね。」

「そう言われても、私にもわからない。形態移行、初めて実物を見た…。」

 

簪は姿を変えたリヴァイヴを見つめていると、怜央が彼女に話しかけた。

 

「そういえば礼を言ってなかった。この間は夕食ありがとう、簪さん。」

「ふぇ!?ししし下の名前を…!」

「簪さんが言ったんだろ、更識先輩とは違うって。それとも苗字で呼んだ方がいい?」

「そ、そういう訳じゃないし、むしろ嬉しいような…って、そんなんじゃないそんなんじゃないそんなんじゃない…!」

「まあ、そっちがそれでいいならいいんだけど。」

 

怜央はそう言うとどさりと椅子に座る。その顔は、いつか見た時と同じ曇った顔だった。

 

「あのさ…簪さんは何であの時、俺のバカみたいな話に乗ったワケ?」

「バカみたいな話って何。」

「ISの声が聴こえるって事。普通はあんな直ぐに受け入れる言葉なんて言わないよ。真面目に話しても待ってるのは嘲笑だけの筈なのに。」

「何となく、あの時は信じてみたかったの。それに…弐式が私の事を恨んでないって思えたのが嬉しかったから。」

「打鉄弐式が?」

「うん。あの時、まだ構築できてなかったマルチロックができた。多分、弐式が私の思いに応えてくれたんじゃないかなって、そう思ったの。私ね、今までISに乗ってきて、初めてISに意思があるってわかった。」

 

その言葉に、怜央は驚く。

 

「初めてだ、そんな風に言ってくれる人は。ありがとう簪さん、少し楽になった。」

 

怜央はそう言うとリヴァイヴを少しだけ点検してからすぐ部屋を出ようとする。だが、部屋を出る直前に簪に呼び止められた。

 

「点検、それだけでいいの?さっきも模擬戦してきたんじゃあ…。」

「多分、簪さんと話したかったんだと思う。少し早いけど、おやすみ。」

 

彼はそう答えて整備室から出ていった。帰り際に見た、今までのような張り詰めた表情ではない怜央…少しだけ笑みを浮かべた彼の顔を、簪は忘れることができなかった。

 

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