蒼穹の絆 -Infinite Stratos meets FAFNER in the Azure-   作:フィアネン

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色々考えてたら前回の投稿から滅茶苦茶時間が経ってました。純粋に色々忙しかったです。
もうすぐBEYOND最終章が劇場公開されますね。それを観て既に決めている結末を変えてしまいそうで怖いと思っている自分がいます。


第9話

生徒会室で、楯無は思案していた。

 

「ここ数日、彼は特別何か行動を起こそうとした形跡は無し。合同授業の時も、不気味なくらい普段通り…。それに、あれだけ冷めた反応をしていた部活にも行こうとしているだなんて、一体何があったの、怜央君…。」

 

怜央が千冬への復讐を果たそうとしたあの日以来、楯無は彼の行動が読めなくなっていた。ただの行動の変化ではなく、深夜の外出の頻度が減ったという事もあったのだ。今までは一人でいることで心の安定を図っていた彼が、傍から見れば急にその行動を止め始めている。何か裏があるのか、それとも生活の中で何か変化があったのか。

 

「もうそろそろ、私もちゃんと動かないとダメかしらね…。」

「珍しいですね、楯無様がそこまで険しい顔をするのは。」

「虚。あなたも”彼”の事、知ってるでしょ?ずっと拒絶されていた事もあるけど、やっぱりよくわからなくなってきちゃったのよ。それに、あの日以来まるで心変わりをしたかのような行動の変化…私の考えが甘かったのかしらね。」

「私は彼の事を直接見たことはありませんが、何かの要因によって心理的安定を求める先を変えたというのが妥当な考えではないでしょうか。」

「それがすぐわかれば苦労はしないわよ。」

「ですが、人は何をキッカケにして相手への思いを変えるか…それを一番よく知っているのは楯無様も同じ筈です。」

「簪ちゃんの事ね…。でも、これに関しては余りにも唐突過ぎるわ。何か予兆があったわけでもない。いや、私が見逃していただけ…?どっちみち、今の私には判断材料が少なすぎるわ。」

「月並な回答ですが…もしかしたら、恋かもしれませんよ。」

「あの彼が?それこそあり得ないわよ。」

 

生徒会室で、楯無は目の前にいる生徒会書記である三年の布仏虚にそう言う。彼女は何処かへと電話をしてから、自身も行動を起こすために動き出した。

 

 

 

 

 

放課後の整備室。再び同級生の特訓の付き添いを始めた怜央は、それが終わるとすぐここに来ていた。部屋に入ると、だいたいは簪がそこで作業をしていた。

 

「あれ、今日はもう終わったの?」

「今日は合同授業の復習をしただけだからね。それより、授業の時に織斑先生に押し付けられた方が困ったよ。」

「え?それってまさか授業をって事?」

「そ。曰く『お前が関わった人の成績が高かったから何を教えてるのか知りたい』ってさ。あんた教員でしょ?それでいいのかよ、って。」

「なんだか災難だったね…。」

「ほんとにね。あの人ってセンスで勝ってきたのが公式試合でもわかるし、教えるのは案外苦手なのかも。」

「でも、そういうのも楽しそう。一度くらい行ってみたいな…。」

「そうかな…いや、案外楽しいかも。明日もやるらしいし、簪さんも一緒に来る?」

「え?今でも10人くらいいるって聞いてるのに、私が加わっていいの?」

「今更一人くらい加わったって変わらないよ。俺はそんな程度気にしないし、寧ろ簪さんは教える側になるだろうし。人手は多い方が助かるかな。」

「あー、そういう事なの?」

「別にそんなつもりで言ったワケじゃないよ。」

「ふふ、冗談。」

 

困った顔をする怜央と、それを見て笑う簪。また、その様子を陰から見る2つの影があった。

 

「何、怜央が最近尖ってないって思ったらそういう事?」

「かんちゃん、最近れおれおと楽しそうにしてるんだよー。」

「あんなカタブツが、いつの間に…。」

 

鈴と本音の二人は、未だに隠れながら二人の会話を盗み聞きしている。

 

「ところで、要君はタッグマッチの話はもう聞いた?」

「授業の時にね。」

「じゃあ、タッグ相手はもう決めた?」

「正直、どうでもいいかなって思ってる。どうせ決めても決めなくても文句は出るだろうし。」

「そっか…。」

「………?」

 

「あーもう、アイツって何でこう尽く最悪の一手を打つのかしら!見てる側なのに腹立ってきたじゃない!」

「前より話すようになったんだけどね、それでもれおれお、距離を取りがちなんだよ。」

「ワザとやってんのかしら。それはそれで腹立つわね。」

 

こうやって数分話していると、怜央は話を終えて立ち上がり、鈴たちの方へ―もっとも、その方向は出入り口付近だったが―と歩いてくる。思わず隠れる二人だが、当然怜央は彼女らの事は最初から察知している。部屋を出る直前、二人に向かって小声で言った。

 

「こそこそと盗み聞きするのは嫌いだ。勝手な事を言うのも。」

「悪かったわね!」

「ごめんねー。」

 

「要君、どうかした?」

「何でもないよ、簪さん。」

 

そう言って部屋を出る怜央。今のやり取りを聞いていた二人は数秒フリーズしていた。

 

「聞いた?」

「うん。」

「アイツが『簪さん』って…。」

「これってー、そういうことー?」

 

 

 

 

 

「あ、要君!これから夕食?」

「まあ、そうだけど。」

「ご一緒してもいい?」

「別にいいけど…?」

 

そう言ってついてくるのは佐紀だった。彼女と怜央は隣の席というのもあり、何かと話すことが多い。二人で食事をしている事もあり、女子高というのも手伝って様々な憶測が飛び交っていた。

 

「それでさ?けっこう訊かれるのよ、『佐紀ちゃんて要君のこと好きなの?』って。迷惑な話よねぇ。」

「そんなにしょっちゅう?」

「ほら、学校が学校じゃない。」

「そんなもんなのかな…あ、そういえば。こないだ小鳥遊さんの姉さんに会ったよ。」

「え、お姉ちゃんに!?何処で会ったの!?」

「何処でって、それは―」

 

そこまで言って怜央は口を噤む。この事を言って散々な目に遭ってきた彼はこれ以上言う事を怖く感じていた。

 

「あ、もしかして言えないような所?大丈夫大丈夫、お姉ちゃんもそういう所で働いてるって言ってたし!要君も代表候補で色々そういう所行ってそうだしさ。」

「…悪いね。」

「そんな事。それで、元気だった?」

「けっこうね。明るい人みたいだったけど。」

「そうそう!お姉ちゃんたら、いつもノーテンキで、でもしっかりしてて…。次はいつ会えるかなぁ…。」

 

怜央は食事に手を付けながらも、そこまで会うのが待ち遠しいのかと考えていた。最早今の住所になっている家に執着はない。この学校自体も帰る場所ではない。もう、最初に住んでいた場所には戻れない―

 

「いいな、そういうの。」

「どうしたの?」

「本当に帰りたい場所なんて、俺にはないから。」

「あ…ごめん、変な話題出しちゃって。」

「気にしてないよ。」

「それでも謝らせて、ごめんね、要君。」

「んな事、別にいいのに…。」

 

佐紀は悲しそうな目をするが、怜央はそんな事も気にせずに食事を続ける。

 

 

そうやって心配する奴ほど、本当の事を知った時に手の平を返す癖に。

 

 

喉元まで出かかったその言葉を食事ごと飲み込み、彼は席を立った。食器を返し、食堂を離れようとした時。上級生3人から彼は引き止められた。

 

「待ちな、要怜央クン。」

「…何です。」

「気に入らないね、そういう『自分は何も関係ないです』ってカオ。」

「用は何でしょうか。」

「そりゃあ一発…殴らせて貰いに!」

 

顔へと振るわれた拳を怜央は避けるが、目の前の女子のラッシュは止まらない。

 

「こんの、大人しく!」

「そんな覚えありませんけど。」

「てめぇにはなくても、アタシにゃあるんだ!」

 

怜央は取り巻きの方をちらりと見ると、一人はカメラを構えている。二人から悪意を、目の前からは怒気を感じた怜央は、早々にここを離れようと動き始める。

 

「逃げんな、男だろ!」

「都合がいい人ですね。」

「何を!」

 

怜央は攻撃をかわしながらも食堂を離れようとするが、それは一人の女子の言葉によって引き止められた。

 

「待ちな、私らはアンタの事を知ってるんだよ、要クン。君がかの土地に住んでたって事もね。」

「…!」

「待てよチサト、ここで言う気?」

「仕返ししたいって言ったのはアケミじゃない。…みんな、よーく聞いておきなさい!ここに立ってる要怜央ってコはね、10年前の大事件”白騎士事件”の時に、その被害に遭ったって言われてる所に住んでたのよ!」

 

その一言で周囲がザワつき始める。

 

「その土地の謂れは知ってるよねぇ?本来はそんな土地は存在していないのに、その被害に遭ったって申告をして国からお金を盗んだ奴らだって!そんな奴らの出身がISを使えるようになったって?そんなの決まってるわよねぇ、コイツは人間でも何でもない、そのお金で生み出されたモルモットよ!」

 

「この話、どこかで聞いたことある。」

「小学生くらいだっけ?私も噂程度だったけど…。」

 

次々に話していく生徒たちにより、食堂の中には同調による悪意というモノがこれでもかと濃く漂っていた。ダメ押しにチサトと言われた生徒は更に言葉を重ねる。

 

「こいつの乗ってるファフナーっていうのも、このモルモットの為の機体だよ!身体から結晶を生やしながら展開されるなんて気持ち悪い。アレを見て確信したんだ、コイツは人間じゃないんだって!

それにね、アケミのダチはこいつのせいでIS学園に入れなかった!千冬様の弟君は兎も角、こんなワケの解らない、素性もわからない奴のせいで入学枠を潰されたんだ!アケミにはこいつを殴る権利がある!」

 

喋っていた女子とカメラを構えていた女子は怜央に対しニヤリと笑う。彼はその顔に既視感を覚えていた。それはまるで、自分が小中学生の時と同じようで、顔には出さずとも不快感を確実に溜めていく。

 

「怜央、大丈夫か!?」

「織斑、聞いてたんだな。」

 

振り返ると一夏と箒が並んで立っており、一夏は怜央の元へと駆けて来ていた。

 

「お前、今の話って本当なのか!?」

「本当だったら、どうするんだ。」

「え…?そんな事、俺は信じない!だってお前は―」

「信じる根拠は?お前の事だから『何となく』だろ。そんな言葉、俺を悪だと決めつけてる奴の前じゃ詭弁になるんだよ。覚えとけ織斑、こういう場所で一度落とされた人間ってな、もう二度と上がってこれないんだよ。」

「あ…っ、待ってくれ怜央!」

 

言うだけ言った怜央はその場から立ち去る。その後を追おうとした一夏だったが、それは箒に止められた。

 

「一夏!」

「何で止めるんだ箒、俺は…」

「ここの空気を感じれないのか!?今お前が動けば、一夏まで要の味方をすると思われるんだぞ!」

「でも俺は…!」

 

「貴様ら、何の騒ぎだ!」

 

一夏が箒に反論をしようとする前に、騒ぎを聞きつけた千冬が食堂へと現れる。だが、その時には既に怜央も騒ぎを起こした3人組もいなかった。彼女は溜息を吐きながら声を上げる。

 

「貴様ら、よく聞いておけ。ここは貴様らが生活する場所だが、同時に公共の場でもある。みだりに騒ぐ輩は追い出されると思え。いいな!」

 

注意するだけして立ち去る千冬。一時的に生徒を震え上がらせることはできても、それは長続きはしない。一人残された佐紀は、怜央の事を案じているのだった。

 

 

 

 

 

「要君、昨日の話聞いたよ。その、災難だったね。」

「別に心配しないでもいいんですよ、気にしてないですから。」

「でも、何でわざわざあんな所で…。」

「パフォーマンスでしょう。昔もよくされましたしね。」

 

茶道部の部室で話をする部員たち。この空間にいる人たちは、誰一人として怜央の事を疑ってはいない。だが、思う事があったのかそれまで黙っていたラウラが話に入ってくる。

 

「しかし要、貴様はあの時一方的に言われただけだったと聞いたぞ。ただやられっぱなしとは情けないな。」

「あいつらをつけあがらせるだけで、無策に突っ込むのはバカだよ。」

「その口ぶり…考えはあるのだな。」

「そうだけど、俺には無理。要領良くないし。」

 

こんな会話を聞いていると、部員の一人が声を上げる。

 

「それなら、先生方に協力してもらおう、担任の先生だけじゃなくて、織斑先生も一緒にして!」

「いいね、織斑先生が言ったのなら強制力は高いだろうし!」

「教官なら私は顔馴染みだ、口添えはできるぞ?」

「いいや、それはやめた方がいいと思います。教師の力って、想像以上に弱いですから…。」

 

僅かに苦い顔をする怜央に、それまで逆転ムードだった部屋の中は静まってしまった。だが、その中の誰もがどうやったら怜央を助けることができるかを考えている。そんな考えを持っている彼女らに、怜央はただただ困惑するしかなかった。

 

 

 

怜央とラウラの二人は、いつの間にか部活終わりにアリーナで訓練を行う事が習慣になっていた。一通り訓練をして少しだけ休憩をしていると、不意に怜央が口を開く。

 

「あんたはどうして俺にそんな入れ込むワケ?」

「貴様の噂が、私の生まれに似ていたからだ。」

「ふーん…。」

「私には両親というものがいない。所謂アドヴァンスドと呼ばれる存在だ。」

「聞いたことがある、ドイツは国際的にも相当危険なラインで強化人間部隊を編成しているって話。」

「私も昔…丁度ISが公表された時期に、この左目のせいで貴様みたいな迫害を受けた事がある。だが、存在意義を見失っていた私をもう一度立ち上がらせてくれたのが教官だ。」

 

だからあれほど織斑千冬に入れ込んでいたのかと怜央は思っていると、徐にラウラがこちらを向く。ISを纏ったままの怜央と、一時的に解除しているラウラ。彼女は彼を見上げるように言う。

 

「私でも人の善意を汲み取ることくらいできる。何故貴様はそれを無下にする?」

「そんなもの、すぐ崩れるからね。信用するだけ無駄だよ。」

「だが私は…!」

「あんたはそうだったとしても、俺もそうだとは限らない。他人(ひと)が自分と同じだと思うなよ。」

「要!」

「人の風評ってのは、声がデカい奴に勝手に作られるもんなんだよ。それは知ってるだろ?先に行くから。」

 

ぐしゃりとボトルを握りつぶした怜央はフィールドへと飛び立つ。残されたラウラも素

 

 

 

 

 

〈まさか今更このような事が起きるなんてな。〉

「すぐ終わらせる、そんでもって俺も一緒にいなくなる。それで全部解決だよ。」

〈お前らしい言葉だ。〉

「なのに…」

 

同日深夜、怜央とファヴはいつも通っている山の空き地に二人でいる。言葉を詰まらせた怜央に、ファヴは訊き返す。

 

〈怜央、どうした。〉

「それなのに、俺は簪さんにこの事を知られるのが怖い。変に勘違いをされたくない。でも、少しくらいは俺の事を理解して欲しくて…。こんな事を思うのは初めてで、どうしたらいいのかわからないんだ。…情けないな、こんなになって。」

〈………怜央、もう更識簪に深入りするのはやめた方がいい。あの人間は、お前の心を…決意を狂わせる。それはお前にとって多大なデメリットを産む筈だ。現にお前は、絶好の機会を自身から放棄した。〉

「ファヴ…?」

〈嫉妬してしまうな、お前が誰かの事を気に掛けるなんて。去年はこのような事はなかったのにな。〉

「………。」

〈…納得できないか?〉

「変化を否定しようとも、その判断材料を持ち合わせてないから。」

〈私はお前の為に動くだけだ。その信頼は崩れる事は無い。たとえ、お前がどのような変化をしようともな。〉

「ごめん。」

〈構わないさ。暫くは向こうも迂闊には動かない筈。だが、織斑千冬にお前が殺意を持っている事は知らされてしまった。要辰巳への道は厳しくなってしまっただろうな。〉

「いいさ、この間の試合でいい事がわかったしね。」

〈無人機を使って、篠ノ之束を逆探知する気か?〉

「幾らISにとっての神だったとしても、人間であるならリソースは有限だし、抜け道は必ずある。それなら、俺はその道に賭ける。」

〈茨の道だぞ。〉

「今までそれで死に損なってきた。今更変わらないよ。でも、これを終えるまでは死ぬつもりはない。俺はその為だけに、ここにいるんだから。」

〈…怜央。〉

「何?」

〈私が言えた事ではないが、多くの人間がお前はまだ生きるべき人間だと思っているのだ。今のお前は、それでも今の覚悟を保ったまま前に進む事ができるのか?〉

「え?」

〈人が来た、少し眠る。〉

「待てファヴ、それはどういう―」

 

怜央は言葉の真意を訊こうとするが、目の前の少女は目を閉じると共にふっと消えてしまう。直前の人が来たという言葉を思い出して周囲の気配を探ると、木の陰に簪が隠れているのを見つけた。

 

「話なら終わったよ。」

「やっぱり、気付いちゃうんだ。」

 

彼女は陰から出てくると、怜央の隣に座る。

 

「また、ISとお話してたの?」

「まあ…そんなところかな。でも、どうしてここを?」

「お姉ちゃんの話を聞いちゃって。聞いた方角を進んだら、ここにいたから。」

「そう。」

 

長い沈黙。簪は怜央に何か言いたいが、切り出す言葉が見つからない。怜央は怜央で沈黙を守っている。どれくらい経ったのかわからない中、やっと簪から話始めた。

 

「ねえ、昨日の話なんだけど…。」

「あれがどうしたの?」

「私ね、本当の事知りたくて…お姉ちゃんに聞いちゃった。本当にあったんだね、地図から消されたっていう地域。」

「…どこまで聞いたの?」

「だいたいのいきさつ全部。あの事件の時、白騎士は何故かワザと特定の住宅地が壊滅するように破片を落とした。でも、政府としては日本発祥のISの”初戦果”がミサイルだけでなく、民間人も入っていたというのは隠したい。だから高額なお金を被災者に渡して、口封じをしたって。」

「それで、俺らは”最初からその場所は存在しなかった”という体で無理矢理引っ越しさせられた。くだらない話だよ。目の前にその一端を担った奴が教師としているのに、俺は復讐すら果たせないんだから。」

「え…!?事件の一端を担ったって、どういう―」

「聞かない方がいいよ。俺みたいに歪んでしかものを見れなくなるから。」

 

簪はこの事には言及をしない。彼女は楯無から別の事も聞いていた。それは、怜央が千冬の事を半殺しにしたこと。今の怜央の言葉も相まって、それは真実だったのだとやっと認識していた。

 

 

『簪ちゃん、もう怜央君とは一緒に居ない方がいいわ。』

『お姉ちゃん、急に何を言うの!?お姉ちゃん、要君と一緒の部屋なんでしょ!?危ない事なんて、そんな事がある筈が…!』

『状況が変わったのよ。彼はずっと、織斑先生に篠ノ之博士、そして私達更識の人間…この3つの派閥への復讐心を隠していた。少し前、織斑先生が急用で自習になったって話、覚えてるでしょ?』

『それがどうしたの!?私が4組だって事、お姉ちゃんも―』

『怜央君はね、織斑先生と二人きりになった時、急に先生に襲い掛かったのよ。ラボに置いてあった打鉄にも、その時の戦闘記録が残っているわ。』

『嘘、そんな事…!』

『そこまで信じられないなら、今ここで音声記録を再生してあげる。』

 

 

だが、彼になんて言えばいいのか簪にはわからなかった。復讐は何も生まないだとか、まだやり直せるといった月並な言葉が彼に届くのだろうか。いや、そもそも私自身は彼が利用するのに都合のいい存在だったのだろうか。どれだけ考えても怜央の思考は自分自身では理解できない。だが、彼はそんな簪の心を読み取るかのように言葉を発する。

 

「そっか、簪さんは全部知ったんだね。」

「な、何の話?」

「隠さないでもわかるよ。俺が()()()()に復讐心を持っていたって事は、いつかバレる事だったろうしね。それに、俺が更識を利用しようとしたのは事実だよ。幻滅したでしょ?」

「でも、何で私達だったの…?」

「俺の父さんが何をしていたのかを知りたかった。一般人の俺じゃあ、父さんの事を探り切るのはどうしても不可能だからね。少なくとも、俺の父さんが何もしてない、ただ巻き添えになったって知りたかった。都合がいいのは解ってる、でも、そう思うしかないんだよ。」

 

怜央は暗い顔になりながらも言葉を続ける。

 

「俺にはもう、俺自身の身を守る事しかできないんだよ。何もしないでも誰かが俺を殺しに来るし、誰も俺の事を守ってくれるような人はいない。そもそも人を信用できない。それなのに、この学校みたいな環境に甘えるしかない。最早自分の命の価値すら薄っぺらくなった、最低な人間なんだから…。」

「…間違ってるよ。」

「何だって?」

「要君の考え、何もかも間違ってるよ!」

「な…」

 

簪は自身の中に湧いてきた怒りを隠さずに怜央に突き出す。

 

「要君って、自分自身の憎しみだけで動いてる。そうやって今まで一度も、他の人からの思いやりとか、あなたへの優しい心を感じ取ろうって思った事がないんでしょ!」

「優しい…心…?」

「あなたのお母さんはまだ生きてるのにその話は一切しない!今までできたであろうお友達の話もしない!自分は独りで辛いはずなのに、ワザと他人から誤解されるような言い方をして、どうしてそこまで自分を傷つけ続けるの!?」

「簪さん、何を言って―」

「ほら、やっぱり!要君は他人の心の先読みができたって、ISに乗れたって、ファフナーを持ってたって、自分の事は何一つ解ってない!どうして自分の命を大事にしようとしないの!?あの時、倒れた時だって、私は本当に心配で…っ、あのまま、借りを作ったままいなくなっちゃうんじゃないかって、私…!」

 

簪は怜央に飛びつき、胸元を握り拳で叩く。

 

怜央には理解できない。

 

何故、自身と敵対するであろう組織に所属する人間が、自分をここまで心配するのか。

何故、泣いているのか。

何故、自分にいなくなって欲しくないのか。

 

〈抱き締めてやれ。〉

「…ファヴ?」

〈それが、一般的な男性が女性にしてやることらしいぞ。〉

 

いつの間にか背後に現れていたファヴに言われ、怜央は恐る恐る簪の背中に腕を回す。その手が触れようとした時、目の前に過去の記憶がフラッシュバックした。

 

 

『俺は何があっても、お前の味方だからな!俺らは友達だ、怜央!』

 

 

フラッシュバックから帰ってくると、彼らの真横には小学生くらいの男子が青いビジョンの姿で立っていた。

 

「何で、お前が…。」

『お前に友達は作れないよ、怜央。』

「………。」

『だって君は、もう僕を殺してるんだから。“人殺し”に友達は作れないよ?』

「わかってるさ、そんなこと…。」

 

怜央は浮かしていた手をだらりと下ろした。

彼の心は、更に乖離していく。

 

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