「やっぱり良いですね、こうやって二人きりで一緒にいられるのは」
「せやな。まあ、会話は筒抜けやけどなぁ」
今、俺達がいるのは電車の中間運転台の個室スペース。座席はないものの、半ば二人きりの空間を楽しめ、しかもこのスペースは6000系以降の車両では扉をつけられて立ち入り出来ないようになっているので、こうやって入れるのは珍しく、つい入ってしまった。
「それに、なんか車掌になれた気分でちょっと楽しい」
「確かに!」
そんな会話をしていると高級感ある発車メロディーが流れ、ゆっくりと電車が動き出す。
十三までは皆さんお馴染み三複線を走る。最初は神戸線の普通しか並走していなかったが、淀川の鉄橋あたりで京都線の準急も追いついて綺麗に並走して十三に到着。そこからは北上し、住宅街をクネクネと大カーブも交えて走っていく。これこそ、宝塚線が遅い遅いと言われる所以である。梅田を出た時には結構いた乗客も、急行が以北で各駅に停まる豊中から少なくなって、一駅前の川西能勢口を出た時には能勢電乗り換えの乗客も吐き出して、ほぼ貸切状態になって、
『雲雀丘花屋敷〜、雲雀丘花屋敷〜。この電車は当駅止まりです。お忘れ物のないように
お降り下さい・・・』
そのまま終点の雲雀丘花屋敷に到着。ここが香里奈の家の最寄り駅だという。
「ここからはちょっと歩きますよ」
そこからは大体10分ぐらい電柱のない閑静な道を歩いて香里奈の家の前に着く。
「はい、ここが私の家です」
「うわぁ・・・えらいデカいな」
彼女の家は俺が住んでる家の3、4倍ぐらいのデカさの家で、目の前にはトタン屋根の物置、見上げてみると屋上も・・・あれ?そう言えばこの家どっかで見たような・・・
「実はこれでも中ぐらいの方なんですけどね・・・さあ、入りましょうか」
言って香里奈は打ちっぱなしのコンクリートの門をくぐって家へと入っていったので俺もそれに続く。
中に入るとクーラーがガンガン効いていて、リビングに通される。
「ただいまー」
リビングには先に入った香里奈ともう一人、少し容貌が香里奈に似ている50代ぐらいの男性が座っていた。
「・・・あれ?その子はもしかして・・・」
「うん、この人が彼氏の白庭総一さん」
「は、はじめまして、娘さんとお付き合いさせてもらってます、白庭総一言います」
「うむ、良い挨拶や。私は朝潮金次、君のことは香里奈から聞いてるよ。まあ、自分の家やと思ってゆっくりしてってくれ。堅いのは性に合わへんのよ」
「分かりました、ほなトイレ行ってきますね」
〜数分後〜
トイレを済ませた俺はリビングに戻ってくると、
ワァァァァァ!
何やら物凄い歓声が聞こえてくる。何やろうかと先に進んで見てみると・・・
「「突き進め さあ行(ゆ)こう 勝利に向かって 振り抜け 輝け 打て 輝義(てるよし)かっとばせー てーる‼︎!」」
そこにはテレビの前で阪神タイガースのユニフォームを着て、カンフーバットを叩きながら、応援歌を完璧に歌う父娘の姿があった。
「おお、総一君。丁度いい場面なんだよ!一緒に見ないか⁉︎」
「そうですよ、一緒に見ましょう」
俺に気付いて誘ってくる二人。ここで無下に断るのもあれなので、観戦することにする。まあ、俺もこの二人ほどではないが一介の虎党、少し見たくなってきたのだ。
場面は六回の裏。1対1で2アウト2塁でバッターは今季ドラフト1位入団の新人、間藤輝義。
カウントはツーツー。
「いけいけ!」
ピッチャーの須賀がボールを投げ、間藤は・・・
カキィィィィィィン!
快音とともにそれを打ち返す。打球はグングンとレフトへ行き・・・
『入ったぁぁぁぁっ!5番間藤が魅せました!今季16号は勝ち越しツーランホームラン!』
「「「やったぁぁぁぁぁ!」」」
見事、スタンドイン。俺たちは歓喜のあまり抱き合った。
あの後、試合は完全にタイガースの流れになり、試合に勝利。その頃には時間はもう5時を回っていた。
「あ、すいません。これで帰りますね」
「別に夕飯ぐらい食べていってもいいんだぞ?」
「いえ、妹に夕飯を作らないといけないので」
「そうか。じゃあ、いつ来ても構わんからな。また来てくれ」
「はい」
言って俺は家を出ようとするが、
「あ、総一さん」
香里奈に呼び止められたので振り返ると・・・
チュッ♡
「⁉︎」
「また来週♪」
ああもう、可愛いなぁ!
結局俺は顔を赤らめたまま帰ることになり、妹にめっちゃいじられた。やれやれ・・・
今日二話目の投稿でございます。しかも、一番文字数多い。もしかしたら十八話目も今日出来るかも・・・
最近鉄分が欠乏してしまってます。野球に逃げてしまいました。日常回を入れるとどうしてもこうなるんですよね・・・。まあ、仕方ないと長い目で見てもらえると助かります。鉄分も補給していきますので。
ちなみに、香里奈の家のモデルは毎年8月10日になるとガキが集まるあれです。
では、また次回。