【完結】ザコの旅   作:クリス

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「うなぎ、うなぎ、うなぎ……」

 

 リンが歩きながらぼそりとつぶやく

 

 右を見る。うなぎ屋さん。左を見る。うなぎ屋さん。

 

 ここは静岡県浜松市館山寺。気持ちのいい風の吹くのどかな町をボクたちは三人でゆっくりと散策していた。

 

「すごい、うなぎ屋さんばっかりだ」

 

「浜松ってうなぎけっこー有名なんだよ。食べてく?」

 

「いや、無理」

 

 綾乃の言葉にリンが即答する。まあ、普通に考えてそんなもの食べたらお財布が即死しちゃうもんね。

 

 三人でキャンプをしてから一夜明け、なでしこと合流するために佐久米駅に向かっていたボクたち。

 

 その道中、リンがなでしこのおばあちゃん家に持っていくお土産を買いたいと言ったので、綾乃の勧めもあって舘山寺に向かうことにしたのだ。

 

「11時くらいだっけ。なでちゃん来るの」

 

「うん。昨日ラインで言ってた。双葉、今何時?」

 

 腕を出して時計を見ると、二人がボクを挟むように時計を覗き込んでくる。

 

「まだ9時半か。駅まで30分くらいだし、まだ時間あるね」

 

「せっかくだし、いろいろぶらぶらしてこーよ。案内するよー」

 

 こういう時、地元の人がいると本当に心強い。

 

「「おねがいします」」

 

「はいよー」

 

 にへらと笑う綾乃についていく。コツコツと三人の足音が浜松の町に響き渡る。

 

「って言ってもわたしもここあんまし来たことないけどね」

 

「みんなそんなもんじゃない?」

 

 生まれた時から住んでる町でも、意外と知らない場所があったりする。今度一人で南部町でも散歩しようかな。

 

 そんなことを考えながら町を散策する。

 

「なんか、いい雰囲気だね」

 

「わたしも嫌いじゃないな、こういうの」

 

 ボクの言葉にリンがうなずいた。

 

 道幅の狭い道路。蜘蛛の巣みたいに張り巡らされた電柱。ポツンポツンと点在する飲食店や電気屋。

 

 そしてその隙間から覗くスカイブルー

 

 ごちゃごちゃしているのにどこかさっぱりした雰囲気が、浜名湖の気風にマッチしている気がする。

 

 当たり前だけど山梨とはまるで違うな。

 

 見たこともない大自然をバイクとともに駆け抜けるのもいいけど、こういう知らない町を散策するのも旅の醍醐味の一つだと思う。

 

「そういえば、昨日の夜二人でなにしてたの?」

 

「あれ、リン起きてたの?」

 

 ずっと二人で話してたりアニメ見てたりしてたからまったく気がつかなった。なんだ、起きてたなら誘えばよかった。

 

「トイレ行こうと思って外出たら、テントが明るくなってて、二人の影が見えたから。まあ、寒いから寝たけど」

 

「あはは、リンちゃんらしいや」

 

 なでしこ、千明あたりだったら目を輝かせながらずかずか入り込んできそうなものだけど、そこはリンだ。やっぱりブレない。

 

「なんでもないよー お茶飲んだら眠れなくなっちゃって二人でアニメ見てただけ」

 

 綾乃がなんてことないように言った途端、リンの雰囲気が少し変わった。

 

「……ふぅーん」

 

 じとっとしたどこか湿り気のある目でボクたちを睨むリン。

 

「り、リン?」

 

「へぇー 二人でこっそりアニメ楽しんでたんだ。へぇー」

 

 リンが光のない目でムスッとする。あ、これ怒ってるやつだ。

 

「あ、あはは、ごめん」

 

「こ、今度キャンプする時はリンも呼ぶね」

 

「……絶対だからな」

 

 しょうがないなといった感じでリンが肩をすくめる。ちょっと悪いことしちゃったな。今度はリンも絶対誘おう。

 

「アニメか……そんなことしてたなら行けばよかったな」

 

 ちょっとだけ拗ねたようにプイッと顔を背けるリン。

 

 悪いことをしちゃったとは思っているんだけど、なんだか今のリンはいつもよりずっと幼く見えて、ちょっとかわいいと思ってしまった。

 

「ごめんごめん。でも、意外だなー リンちゃんって、初めて会った時はもっとクールな子かと思ってたのに」

 

 ボクも綾乃の言葉にうなずく。初めて会った時は、いい意味でも悪い意味でももっとドライな感じだった。

 

「今のリンちゃんって、志摩リンっていうかしまりんって感じだよねー」

 

「いや、同じだろ」

 

 違うんだなーリン。志摩リンとしまりんは似ているようで全然違うんだよ。

 

「あ、それボクもわかる」

 

 思わぬところで同志が現れた。たぶんこの場になでしこがいたら同じように思ってくれることだろう。

 

「双葉もか。もう勝手にしろよ」

 

 口調こそぶっきらぼうだけど、口元が緩んでいてどう思っているのかすぐわかる。

 

 ボクが変わったみたいに、リンもちょっとずつ変わってきてるのかな。

 

 昔のリンもかっこよくて好きだったけど、今のリンはもっと好きだ。

 

 もっともっと柔らかくなって、ふにゃふにゃしまりんになっちゃえばいいのに。

 

「で、リンちゃんなに買いたいんだっけ」

 

「えっと、しず香ってとこのいちご大福」

 

「あれかー あれおいしいんだよねー」

 

「いちご大福……」

 

 そういえば最近食べてないなあ。苺大福。ボクも買っちゃお。

 

「リン、ボク半分出すから一緒に買おーよ」

 

「え、いいの?」

 

「だってボクもお世話になるしね。あと食べたい」

 

「……そっちが本音か」

 

「ふっふっふ、そこに気がつくか」

 

 そうだ、ついでにうなぎパイも買っていこう。なでしこ、きっとよろこぶだろうな。

 

「ふっ……食べすぎてお昼食べられなくなってもしらないからな」

 

 ボクの言葉にリンがニヤリと笑う。

 

「わたしも買っちゃおーっと」

 

 あ、そうだ。なでしこのおばあちゃんに買っていくなら綾乃の家にも買っていかないとダメだよね。

 

「綾乃のお母さんとお父さんって今日いる?」

 

「正月だしいるけどどうしたの?」

 

「お世話になるし、一応お土産買っておこうって思ってさ」

 

「あ、そんな気使わなくってもいいよ!」

 

「ありがと。でもそういうのはちゃんとしないといけないしさ」

 

「律儀だなー双葉は」

 

 べつに当たり前のことだと思うんだけどなあ。

 

 かしこまりすぎる必要もないだろうけど、それ相応の礼儀は必要だ。

 

「双葉って、そういうところけっこう真面目だよね。家でお母さんとかお父さんと話す時もわたしのこと必ずリンさんって呼ぶし」

 

 リンが言う。意識してなかったけど、思い返してみるとたしかにいつもリンさんって言ってるな。

 

「呼び捨てていいと思うけどな。二人ともそんなのいちいち気にしてないだろうし」

 

「さすがに、家族の前で呼び捨てにするのはちょっと」

 

 咲さんの前でリンのことを呼び捨てにする勇気はボクにはない。

 

 ボクとリンが幼馴染とかっていうならわからなくもないけど、ボクたちはまだ知り合って二ヶ月ちょっとしか経ってないのだ。

 

「わたしはべつに気にしないけどな」

 

 なでしこあたりならリンちゃんって呼ぶんだろうけど、ちゃん付けってなんか慣れないしリンには悪いけど当分はさん付けでいいや。

 

「なんかリンさんって言い方あれみたいだね。お義父さん、リンさんをボクにください! 的な」

 

「ブフォッ!?」

 

 綾乃がいきなりわけのわからないことを言ったせいで、気管に唾が入ってしまう。

 

 うえ、めっちゃ咳でる。

 

「おいやめろ」

 

「い、いきなりなに言うんだよ!」

 

 たしかに言われてみればそういうふうに見えなくも……いや、ないな。

 

「ふひひ」

 

 いたずら成功とでも言いたげに口元を押さえて笑う綾乃。

 

「二人はさーそういうの興味ある?」

 

 ボクたちの視線など意に介さず綾乃が当たり前のようにボクたちじゃ絶対にしないような話題をぶっこんでくる。

 

 さすがなでしこの幼馴染。この程度の視線じゃまったく動じないみたいだ。

 

 野クルでもそういう話題になったことがあったけど、全然考えたことなかったなあ。

 

 まあドヤ顔でバイクが彼氏とか言っちゃうような奴に春が訪れるとは思えないけど。

 

 やめよ、自分で考えてて悲しくなったきた。

 

「ほらほら、言っちゃいなよー」

 

「べつに、興味ないな」

 

 当然のごとくリンは即答。まあリンはキャンプ一筋だもんね。

 

「ボクは──」

 

「双葉はバイクが彼氏だろ」

 

「な、なんでそれ知ってるんだよー!」

 

 なんの脈絡もなく横合いからぶん殴られて顔が一気に熱くなる。

 

 あの黒歴史は三人しか知らないはずなのに!

 

「斉藤から聞いた」

 

「斉藤さーん!」

 

 なんてことをしてくれたんだよー!

 

 あぁ、ボクの知らないところでボクの黒歴史が拡散していく……

 

「わたしもいいかなー 今はやりたいことあるし。ていうか双葉顔真っ赤じゃん」

 

 綾乃のケラケラとした笑い声を聞くと余計に顔が熱くなってくる。

 

「う、うぅ……」

 

 たぶん茹でたこみたいになってるだろう顔を見られないように手で覆う。やばい、思い出したら猛烈に恥ずかしくなってきた。

 

 なんであんなこと言っちゃったんだろボク……

 

「双葉って、本当にビーちゃんのこと大好きだよなー」

 

 綾乃の言葉に小さく顔を覆いながらうなずく。綾乃の言うとおり、ボクはビーちゃんが大好きだ。

 

 錆びついて古ぼけた鉄の塊でしかなかったとしても、あの子はボクにいろんなものをくれた。

 

 ある意味ボクの初めての友達と言ってもいいかもしれない。

 

 でもそれだけが理由じゃない。

 

「だって、あの子に乗ったからボクは綾乃とリンと友達になれたんだもん」

 

 もしあの子がいなかったらボクは綾乃に会うことはなかった。リンと二人でキャンプに行くこともなかった。

 

 なんなら千明とあおいとも知り合うことはなかったかもしれない。

 

 違うバイクに乗ってても同じだったかもしれないけど、ボクの相棒は他ならぬあの子だ。

 

 だから、あの子はボクにとっての大切な一台なのだ。

 

「……じゃあわたしも感謝しないとね」

 

 そう考えると、あの子はボクの恩人と言ってもいいのかもしれない。家帰ったら洗車してあげよ。

 

「そうか、双葉がバイクに乗らなかったら、アヤちゃんとも友達にならなかったかもしれないのか……そう考えると不思議だよな、わたしたちって。浜松と山梨、めっちゃ離れてるのに普通の友達みたいに会ってさ」

 

「「めっちゃ離れてる?」」

 

「その顔やめろ。こっちがおかしいみたいだろ。この距離ガバどもめ」

 

「「ふひひ」」

 

 リン、呆れてるところ悪いけど、ボクたちにとっては褒め言葉みたいなものなんだよ。

 

「リンちゃんも一緒に大阪行く? 浜松からならたったの200キロだよ。この前も日帰りで行ってきたけどすぐだったよ」

 

「西のほうばっかりもあれだし、東のほう行こうよ。千葉とか神奈川とか」

 

「それわたしだけちょっと遠いやつじゃん。ま、いいや。今度行く時誘ってよ」

 

 綾乃はなんか誘わなくても勝手についてきそうだなと思ったのは内緒にしておこう。

 

「うん! とりあえず近場で400キロくらいでいいよね」

 

 綾乃は決定。あとは……

 

「「じー」」

 

「い、行かないぞ!」

 

「え〜リンちゃんも行こーよ。絶対楽しいって〜 ね、双葉」

 

「ねー」

 

 リンに見せつけるように笑いあう。

 

「む、むむむ……」

 

 リンのことを横目でちらりと見ると、目を泳がせて口をぎゅっと閉じてプルプルしていた。

 

 我慢してる。めっちゃ我慢してる。これ、もしかしていけるんじゃない?

 

「わ、わたしはアヤちゃんみたいにいかないからなー!」

 

「「じー」」 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「…………ば、場所による」

 

 ボクたちの勢いに根負けしたのか、リンがボソリとつぶやく。そしてその呟きを聞き逃すボクたちではない。

 

「「やったー!」」

 

 綾乃と二人でハイタッチ。三人でツーリングけってー!

 

「……はぁ、一日で行ける範囲にしろよ」

 

 呆れたように肩をすくめているリンだけど、その口元はたしかに緩んでいた。よかった。リンもまんざらでもないみたいだ。

 

「うーん、1日で行ける範囲だとだいたい半径500キロ圏内……仙台くらいかな」

 

 南だったらどこくらいだろう。やっぱり関西圏かな?

 

「やめろ。まじやめろ」

 

「あはは、冗談だよ」

 

「双葉が言うと冗談に聞こえないんだよ……」

 

 まあちょっと前なら普通に1日で行ってた距離だしね。

 

 旅先でもう次の旅の話をする。やっぱりボクはつくづく旅が好きらしい。

 

 話をしてたらまたビーちゃんに乗りたくなってきた。早く目当ての物買ってなでしこと合流しよう。

 

 ボクはさっぱりした空気が流れる街並みを眺めながらそんなことを考えた。

 

 

 

 

 

「到着っと」

 

 綾乃のあとに続いて、浜名湖佐久米と名付けられた小さな駅の前にビーちゃんを停める。

 

 リーフブルー、ダークブルー、パステルブルー、三色の青が太陽に当てられキラキラと輝く。

 

 エイプとビーノとビーちゃんのエンジンがほぼ同時に切られ、辺りが途端に静まりかえった。

 

「なでちゃんもう来てるかなー」

 

「もう11時だし、来てるでしょ」

 

 ヘルメットを脱ぎながら答える。きっと来たらすぐにわかるんだろうな。だって──

 

「あっ! アヤちゃん!」

 

 閑静な駅前に、聞き覚えのある元気な声が響き渡る。見なくてもわかる。なでしこだ。

 

「リンちゃんと双葉ちゃんも! おーい!」

 

 手をブンブン振り回しながらボクたちに走ってくるなでしこ。

 

 この子は本当にどこに行っても元気いっぱいだ。おかげで見ているこっちも元気が湧いてくる。

 

「なでしこひさしぶりー 元気にしてた?」

 

「えへへ、各務原なでしこ! 今日も元気いっぱいであります!」

 

 嬉しそうに手と手を合わせる綾乃となでしこ。朝早かったはずなのに、なでしこは相変わらず元気いっぱいだ。

 

「いや、二人ともちょっと前に会ったばかりだろ」

 

「あはは」

 

 このやりとり昨日もボクともやったっけ。

 

「えへへ〜」

 

 なでしこがあんまりにも嬉しそうだから、眺めているボクとリンも思わず笑顔になってしまう。

 

「あ、そうだ!」

 

 思い出したように大きな声を出すなでしこ。うん、そうだね。あれやらないとダメだよね。

 

 姿勢を正し四人で円を作る。

 

「「「「あけましておめでとーございます!」」」」

 

 みんなで同時にペコリ。こういうの、一回やってみたかったんだよなー

 

 ボクにとっての正月って一人でテレビ見るだけの日だったしなんか新鮮。

 

「アヤちゃん! リンちゃん! 双葉ちゃん! 今年もよろしくね!」

 

 なでしこがにっこりと笑う。

 

「こっちもよろしくー」

 

 綾乃がにっこりと笑う。

 

「ボクもよろしく」

 

 ボクもにっこりと笑う。

 

「わたしもよろしく」

 

 リンがにっこ……ちょっとだけ口元を緩ませる。

 

「「「じー」」」

 

「な、なんだよ」

 

 いや、だってねー

 

「んー? にっこり顔のリンちゃん見てみたいなーって」

 

 綾乃がボクの心情を代弁するかのようにそう言った。

 

「い、いいから早く行こうよ」

 

 けど、そこは孤高のソロキャンガール。簡単には懐を開かない。

 

「むむむ……」

 

 けど、こっちには対しまりん最終兵器なでしこがいるのだ。

 

「な、なんだよなでし──」

 

「えい」

 

「ひゃっ!」

 

 なでしこがリンのほっぺに手を当てると、聞いたことのないような声がリンの口から漏れた。

 

「な、なななにすんだ!」

 

「だって、こうしたらリンちゃん笑ってくれるかなーって」

 

「だ、だからっていきなり冷えた手当ててくる奴──」

 

「えい」

 

「あ、ちょ、やめ! あはは!」

 

 追い討ちをかけるかのようになでしこがくすぐり攻撃を繰り出すと、リンが大きな声で笑い出した。

 

 すごい。こんな爆笑してるリン初めて見た……

 

「あはは! ちょ、や、やめ! くすぐっ、あははは! こ、このー!」

 

 さすがに我慢の限界が来たのか、反撃するリン。

 

「あ、リンちゃんくすぐったいって〜」

 

「仲いいなー二人とも」

 

「だよねー」

 

 綾乃と一緒に二人がじゃれあっているさまを眺める。うん。仲がいいのはいいこと──

 

「えい」

 

「ひゃっー!」

 

 突然頬に冷たいなにかが突きつけられて変が声がでてしまう。

 

 な、なに今の!? 

 

 周りをキョロキョロ見回すと、綾乃がニヤニヤしながらバイクで冷え切っているだろう人差し指をボクに突きつけていた。

 

「あ、綾乃ー!」

 

「やーいひっかかったー」

 

 やったなこいつー! 仕返しに同じくらい冷え切っているだろう指を綾乃のうなじに押し付ける。

 

「うひゃ!?」

 

「ふはは、冷たかろー!」

 

「やったなこんにゃろー」

 

 すかさずやり返される。あ、やめて! 脇腹やめて!

 

 新年の挨拶が一転して凄惨なくすぐり合いと化す。

 

 駅の向こうで、白いゆりかもめの群れがバサバサと飛び立っていた。

 

「双葉ちゃんもー! えい」

 

 あ、うなじはやめてー!

 

 

 

 

 

「それでなでしこ、ここからおばあちゃん家ってどれくらいあるの?」

 

 しばらく四人でじゃれあったあと、ボクたちはなでしこのおばあちゃん家に向けて歩きはじめた。

 

「歩いて20分くらいだよ」

 

「あ、けっこう近いんだ」

 

「あと一年すればわたしか双葉が後ろに乗せていけたんだけどなー」

 

 たしかにそれだったらわざわざ歩かなくてもものの数分で辿り着ける。

 

 けど、免許取ってまだ一年も経ってないから無理だ。捕まっちゃうしそもそも危ない。

 

「来年までの辛抱だね」

 

 もっとも、ビーちゃんのシートの形じゃ二人乗りは厳しいだろうな。ステップもつけないといけない。

 

 まあその前にパワーが足りなくて坂道すら登れないと思うけど。

 

「大丈夫! 自転車でついてくから!」

 

「あはは、それ無理だって」

 

「そう? わたしよく自転車で原付に追いつくよ」

 

「……マジか」

 

 なでしこが何気なく言ったひと言にボクたちがフリーズする。

 

 原付に追いつく。つまり少なくとも30キロ以上は出していることになるんだけど……

 

 なでしこの体力ってほんとどうなってるんだろ。自転車部とか入ったら優勝しそうだな。

 

「へ? どうしたのみんな」

 

「い、いやべつに……」

 

「あ、あはは」

 

「なでしこはすごいなーって……あ、あはは」

 

 なでしこ……恐ろしい子!

 

「ん? あ、そうだ! 三人ともお昼まだだよね!」

 

「うん、そうだよ」

 

「そういえば、朝コンビニおにぎり食べてから何も食べてないな」

 

「時間もちょうどいいしさ、なでしこのおばあちゃん家寄る前にどっかでお昼にしよーよ」

 

 四人でそんなことを話していると思い出したみたいにお腹が空いてきた。

 

 バイク乗ってるとお腹空いてるのとか喉乾いてるのとか忘れちゃうんだよね。

 

「じゃあ決まりだね! そうだ! すぐそこにおいしいうなぎ屋さんあるから、そこにしよ!」

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「「「う、うなぎ……」」」

 

 うなぎ……それは日本を代表する高級食材の一つ。

 

 古くから日本人に親しまれてきているけど、高すぎて滅多に食べることができないことで有名な、あのうなぎ……

 

「な、なでしこ……うなぎ屋あそこのことだよね。あ、あそこ一番安くて二千円くらいした気が……」

 

 いつも飄々としている綾乃が珍しく口をパクパクしてあわあわしている。

 

「な、なななでしこ……わ、わたし今千円ちょっとしか持ってなくて」

 

 リンも言わずもがな。ていうかなんでそれだけしか持ってないの? さてはどっかで無駄遣いしたな。

 

 って、そんなことはどうでもいいんだよ。

 

「三人とも早く行こー! うっなぎ、うっなぎ〜」

 

 肝心の言い出した張本人はとっくの昔に頭の中がうなぎ一色になっているらしく。それはそれは楽しそうにスキップしている。

 

「ふ、双葉、なでしこの奴止めたほうが……」

 

「そ、そうだよ双葉。な、なでしこのことだからきっと平気で特上とか頼むよ」

 

 ぶるぶる震えながら二人がボクの背中にひっつく。こ、この二人、どさくさに紛れてボクに全部任せる気だ。

 

「……ちなみにいくら?」

 

「前行った時は4000円だった」

 

 oh……

 

 こっそり財布をちらり……残金32,856円。い、今のボクなら、お母さんのお年玉ブーストがかかっているボクなら!

 

「ふっ、綾乃……浜松餃子の借りを返す時が来たみたいだね」

 

 べつにずり落ちてもない眼鏡を指で押し上げる。

 

 押し上げすぎて鼻に食い込んだ。痛い。

 

「ま、まさか双葉本当に……」

 

「ふ、双葉……」

 

 ごくり。綾乃とリンがつばを飲み込む。そう、そのまさかだ。

 

「特上鰻重4000円かける4……合計16000円! ボクのお年玉3万円!」

 

 ええい! どうせあぶく銭だー! パァーっと使ってやるー(涙目)

 

「リン……綾乃……だからそんな顔──」

 

「あ、お金なら出かける前にお父さんが四人分くれたから心配しなくていいよー 三人に存分にうなぎを食らわせてやれー! だって」

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「あ、うん、そっか……ありがとね」

 

 なんて気前の良いお父さんなんだ。帰りにお土産買ってかえらないと。

 

「まあ、その……双葉、気持ちだけ受け取っておくよ」

 

「ありがとねー双葉」

 

 綾乃とリンにぽんぽんと頭を撫でられる。うぅ、二人の優しさが心に染みるよ……

 

「うっなぎ〜 うっなぎ〜」

 

「なでしこー! お店早くいこー!」

 

 でもそんなことよりうな重だぁ!

 

「「うっなぎ〜 うっなぎ〜」」

 

「単純かよ」

 

 うるさいリン。まあいいや。久しぶりにうなぎがたべられるぞー!

 

 冬の舘山寺に、ボクとなでしこの歌がこだまする。

 

 ちなみにうなぎは超おいしかった。

 

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