【完結】ザコの旅   作:クリス

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 ボクは今、窮地に立たされている。

 

「あ、あわ、あわわ」

 

 ど、どうしよ。間違えて声かけちゃった。思いっきりやっほーって言っちゃったよ。

 

「むー……どないしたん? めっちゃガタガタしとるけど」

 

 小さな女の子、たぶん小学校高学年くらいの子がボクをじとーっと見つめる。

 

 やばい、なんか言わないと。

 

「な、なんでもないよー き、今日はいい天気だねー」

 

 うん、なんだろう。もうちょっとましな返事はできなかったんだろうか。

 

「少し曇っとるやろ」

 

 曇ってた。

 

「……そ、そうだねー」

 

 女の子の目がじとっとしたものからもはやどんよりと言うほかないものにかわる。

 

 ま、まずいこのままだと不審者扱いされて……

 

「もしかして……」

 

「ひゃ、ひゃい」

 

「お姉ちゃん、不審者なん?」

 

 あぁ、目がどんより通り越して雨模様になってる!

 

「ち、違うよー! ボク不審者じゃないよー 怪しくないよー」

 

 必死に取り繕うボク。うーん、この惚れ惚れするような圧倒的不審者ムーブ。

 

「女の子は自分のことボクなんて言わんやろ」

 

 ですよねー

 

 ボクもずっと思ってた。だってしょうがないじゃん。癖なんだもん。文句なら小学生のころのボクに言ってほしい。

 

「むむむ、怪しい……」

 

「ま、まって! 全然怪しくないから! ボク普通の女子高生だから!」

 

 小学生相手に、どう考えても不審者にしか聞こえない本気の弁明をする女子高生は、一体どこの誰なのでしょう。

 

 そう、ボクです。

 

「お巡りさん、呼ぶで」

 

 まずい、最後通告来た!

 

「ま、まって、話せばわかるよ! そ、そうだ自己紹介! 自己紹介しよ! ぼ、ボクの名前は山中双葉! 山中湖の山中に双葉町の双葉! って言ってもボクが生まれてすぐ合併でなくなっちゃったけどね!」

 

 今は甲斐市だっけ? って、なに言ってるんだろボク。みんなごめん。ボク一緒に伊豆行けないかも。

 

「うん、知っとるよー」

 

「そっか、よかった…………うん?」

 

 あれ、気のせいかな。今、知ってるって言ってたような。

 

「キョリガバのお姉ちゃんやろ? あおいちゃんからよく聞いとるでー」

 

「あおい……ちゃん?」

 

 あおい……って、あのあおいだよね。

 

 改めて女の子のことを観察する。見覚えのある明るい茶髪、輪郭こそ幼いもののどこかで見たことのある顔だち。

 

 そしてボクを見るまるで子供の落書きみたいなふざけきった目。こんな目をする人を、ボクは一人だけ知っている。

 

「もしかして、あおいの妹さん?」

 

「せやでー! 犬山あかり、よろしゅうな!」

 

 そう言って、女の子が元気に挨拶をした。

 

「そ、そっか」

 

 全身の力がどっと抜けていく。よ、よかった……

 

 妹がいるって前に言ってたもんね。どうりで見間違えるわけだ。ほんとうにそっくりだなあ。

 

「ち、ちなみに不審者っていうのは」

 

「うそやでー 双葉ちゃん写真で見たことあるもん」

 

「あ、うん。そっか」

 

 この子、間違いなくあおいの妹だ。そりゃ、ボクのことくらいあおいから聞いてるか。

 

「にひひ、双葉ちゃんおもろいなー! まって! はなせばわかるー!」

 

「や、やめてー! 黒歴史をほじくり返さないでー!」

 

「なーなーバイクでいろんなとこ行っとるってほんとなん? この前琵琶湖行ったんやろ? ネッシーおった?」

 

「ネッシーはいなかったかなー あ、あはは」

 

 冬だというのに身体中が猛烈に熱くなっていく。小学生相手に必死に弁明して……なにしてるんだろボク。

 

 なつかしいな。この感じ。うん、これだよこれ。このクソザコ感。これでこそボクだよ。いや、なにが?

 

「そ、それでどうしてこんなところにいたの?」

 

 思い出すだけで顔が火が吹きそうになるほどの黒歴史に必死に蓋をして話題を変える。もちろん目線を合わせるのも忘れない。

 

 すると、あかりは明るい表情を一変させ、どこか憂鬱な表情を浮かべた。 

 

「わたしな、新しい漫画買いにそこの本屋さん行ったんやけど……」

 

「けど?」

 

「チャリ、動かなくなってもうた……」

 

 ボクの相槌にあかりが自転車に目を向ける。よく見るとチェーンがギアから完全に外れていた。あかりの言うとおり、これじゃあ走ることはできないだろう。

 

「そっか。大変だったね……」

 

「あおいちゃんもバイトやし、スマホも置いてきてもうたし……ほんまどないしよ……」

 

 不安そうに目を伏せるあかり。きっとさっきまでの態度は空元気だったんだろう。本当はすごい怖かったんだろうな。ボクも昔似たようなことがあった。

 

 旅の帰り道。家までまだ100キロ以上もあるところで自転車のギアが完全に壊れて立ち往生しかけた。

 

 帰る手段が一つしかないのに、肝心の手段が壊れて使えないのは本当に怖いのだ。

 

 あのときは自分でなんとかするしかなかったけど、今のボクなら……

 

「大丈夫だよ。あかりちゃん」

 

「へぇ?」

 

 小さな頭に手を置いて撫でる。いつ調子が悪くなってもいいように、工具一式は常に持ち歩いている。

 

 見たところ、ただ外れているだけみたいだ。この程度ならなんとでもなるだろう。

 

「ちょーっと待っててねー」

 

 サイドバッグの工具ケースからドライバーとレンチを取り出し自転車の前に座り込む。

 

「とりあえずペダルを回してみるか……」

 

 が、動かない。よく見たらチェーンカバーとクランクの間にチェーンが挟まってしまっているみたいだ。

 

「チャリ、直せるん?」

 

「うん、このくらいならすぐ元通りだよ」

 

 ドライバーを突っ込みながらペダルを回し、挟まっていたチェーンを取り出す。

 

 チェーンをクランクに噛み合わせ、後輪ギアも同じようにドライバーを使ってチェーンをはめる。

 

 ついでにレンチを使ってチェーンの弛みも取っておく。自転車のチェーンが外れる原因は、基本的にチェーンの弛みか無理な変速の二つしかない。

 

 そしてこの自転車に変速機はついてない。よって原因は単純にチェーンの劣化だろう。

 

 よし、終わりっと。約3分ってところか。ひさしぶりだから思ったより時間かかっちゃったな。

 

 本当なら注油と清掃もしたいところだけど、あいにくと今は持ってない。

 

「ほら、直ったよー」

 

 試しに後輪を少し持ち上げてペダルを回してみせる。ペダルの回転に合わせて車輪がくるくると景気よく回った。

 

「わぁ! ほんまに直っとる! どうやったん!?」

 

 目をまんまると開いて鼻がぶつかるんじゃないかってくらいの勢いで詰め寄ってくるあかり。年相応で微笑ましい。

 

「昔ちょっとね」

 

「ありがとうなー! キョリガバのお姉ちゃん!」

 

「うん、どういたしまして」

 

 それにしても距離ガバのお姉ちゃんって……あおい、ボクのこと家でどう話してるんだろう。すごい気になる。

 

 まあいいや。そろそろ行こう。ヘルメットを被る。

 

「え、お姉ちゃんもう行っちゃうん?」

 

 ちょっと残念そうにボクを見るあかり。することもないし一緒にいてもいいんだけど、まだブレーキの慣らしが終わってない。

 

「うん。気をつけて帰るんだよ。また自転車で困ったことがあったら呼んでよ。あと、あおいによろしくね」

 

 ビーちゃんに跨りエンジンに火を入れる。プラグを交換したばかりのエンジンが威勢よく回りモクモクと煙を吐き出す。

 

「じゃーねー」

 

「あ、お姉ちゃんちょっとまってーな!」

 

 あかりが自転車のカゴに入れていたコンビニのレジ袋からお菓子の袋を手渡してきた。

 

「前のコンビニでこうてきたお菓子、うちで食べようと思っとったけどあげる!」

 

 受け取る。ピーナッツだった。チョイスが渋い。

 

「くれるの? ありがと」

 

 手袋越しに小さな頭を撫でると嬉しそうに目を細めた。やばい、めっちゃかわいい。ボクにも妹がいたらこんな感じだったのかな。

 

 そりゃ桜さんがなでしこのこと猫可愛がりするわけだ。

 

「チャリ直してくれてほんまありがとうなー!」

 

 キラキラとした目がボクを射抜く。なんか、ちょっと照れるな。ゴーグルしておいて助かった。

 

 クラッチを握って1速に変え、アクセルを煽る。ウィンカー、後方確認。よし。

 

 返事の代わりに敬礼の真似をしてバイクを発進させる。

 

「ほなまたなー!」

 

 ミラーに映る小さな影がいつまでも手を振っていた。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 眼下に広がる甲府盆地を眺めひと息つく。

 

 いつぞやリンと一緒に来た和田峠のみはらし広場で、ボクは一人黄昏にひたっていた。

 

「あかりちゃん、家帰れたかな?」

 

 たしか犬山家って波高島にあったはず。あそこからなら歩いてもすぐに行ける距離だ。きっと大丈夫だろう。

 

「そろそろ帰──」

 

 着信音、電話だ。あおいだった。

 

「もしもし?」

 

『もしもし双葉ちゃん?』

 

 独特のイントネーション。いつも思うけどあおいってなんで関西弁なんだろう。山梨生まれって聞いたんだけどな。

 

「あ、バイト終わったんだ。お疲れー」

 

『おおきになー それでな、今さっき妹から聞いたんやけど、チャリ直してくれたんやって? ほんまありがとうな』

 

「よかった。ちゃんと帰れたんだね」

 

『ふふ、めっちゃ喜んどったで。お姉ちゃんが助けてくれたーって』

 

「ちょっとチェーン外れてたの直しただけだし、気にしなくていいよって言っといて」

 

 あの程度のトラブルなんてちょっと硬い棒があればすぐに直せるものだ。褒められるようなことじゃない。

 

『もう、双葉ちゃんはちいと謙遜しすぎやで。今度ちゃんとお礼するから、待っててな』

 

「ほんとに気にしなくていいのに。けど、わかった」

 

『妹のこと助けてもろうてありがとうな、双葉ちゃん』

 

 混じり気のない純粋な好意。照れくさいけど、すごく嬉しい。

 

「……うん。どうしたしまして」

 

 なにより嬉しいのは、それを素直に受け取れるようになったボク自身の成長だ。本当にみんなには感謝してもしきれない。

 

『そういえば、双葉ちゃん今どこにおるん?』

 

「甲府の和田峠だよ。すごい綺麗だよ。あとで写真送るね」

 

『さっき身延おったばかりなのにもうそないなとこまで行っとるのか……これからどないするん? 夕方やしもう帰るん?」

 

「そうだね。明日からまた学校だし」

 

『そっか……せや! ほなら帰りにわたしん家寄ってかへん? お礼ってほどやないけど夕飯ご馳走するでー』

 

「えー? 気にしなくていいよー」

 

『きーにーしーまーすー 大事な妹助けてもろうたのになにもせんなんて、犬山家の名折れや』

 

「大げさだなー、あおいは」

 

『ちゅうか双葉ちゃん、最近なでしこちゃんとリンちゃんとばっかし遊んでて、全然うちらのこと構ってくれへんやん。わたしだってちょっと寂しいんやでー』

 

 まさかあおいからこんなことを言われるとは思ってなかった。まあなんだかんだ言って千明の次に長い付き合いだしね。

 

『あかりも会いたい会いたいゆうとるし、せやから、な?』

 

 これ、なにをどう言っても無駄だろうな。どうせ夜ご飯の支度もすんでないし、ここはあおいに甘えておこう。

 

「わかったよ。じゃあ帰りに寄るね」

 

『ふふ! 待っとるで! 今夜はお鍋やから楽しみに待っとってな!』

 

「はーい。じゃあね」

 

『あんま遅いと先に食べてまうからなー』

 

「えー」

 

『うそやでー ほな、帰り道気ぃつけてなー』

 

「はーい」

 

 電話を切る。一人の時間が戻ってきた。なんか、大したことしてないのにえらい感謝されちゃったな。

 

 けど、ボクが同じ立場だったら同じように思うだろうし、不思議でもなんでもないのか。

 

 そんなことを思いながらオレンジに染まる街を眺める。

 

 ピコン! ラインだ。

 

綾乃:おっすー

 

双葉:おっすー

 

綾乃:なでしこから聞いたよー 伊豆行くんだってね?

 

双葉:そうだよー

 

綾乃:いいなー 伊豆わたしも行きたいなー

 

双葉:来ればいいじゃん。近所でしょ?

 

綾乃:まあそうなんだけどね。コンビニに定休日はないのですよ。トホホ

 

双葉:あちゃ残念

 

綾乃:と、いうわけで、双葉の遠出について行こうと思います

 

綾乃:どうせ今月もどっか行くんでしょ? 連れてけよこのやろー!

 

双葉:連れてくよこのやろー!

 

綾乃:行き先決まったらよろしくねー

 

綾乃:じゃ、わたしバイトだからこれで

 

 綾乃はいつもこうだ。勝手に人の懐に入り込んできて、勝手に絆を結んでいく。それも固結びで。

 

 まるでどこかの桜色の髪の食欲モンスターみたいだ。こういうところ本当にそっくりだよね。さすが幼馴染。

 

「ちょっと、喉乾いちゃったな」

 

 あおいと電話したからだろうか。水なんて持ってきてないし、麓に降りるまで我慢するしかないか。

 

「お疲れ。はいこれ」

 

 横から差し出されたお茶を受け取る。ちょうどよかった。

 

「うん、ありがとリン…………え?」

 

 なんでボク、ありがとリンなんて言ったんだ? そういえば。このお茶って……横を見る。

 

「双葉……や、やっほー」

 

 リンがボクに向かって手を振っていた。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「え、えぇー!? リン、リンなんで!?」

 

「驚きすぎだろ。ふ、ふふ」

 

 ボクの反応がよほど面白かったのか、口元を押さえてふるふると震えるリン。

 

「え、いや、だって、え? いつからいたの?」

 

「電話してるときから。ていうか、ずっと後ろからビーノで追いかけてたのに気づいてなかったのかよ」

 

「えぇ……」

 

 ミラーはちょくちょく見てたはずなんだけどなあ。

 

「さっき本屋の前の交差点で子供のこと助けてたでしょ。やるじゃん」

 

「あ、見てたんだ」

 

「あの子本屋に来てたんだけどさ、バイト帰りにコンビニ寄ろうとしたら双葉とあの子が一緒にいてちょっと気になって覗いてた」

 

 覗いてたって言うけど、どうせボク一人じゃ手に負えない感じだったら助けに来てくれたんだろうな。

 

「あの子、あおいの妹のあかりっていうんだけどね。自転車のチェーンが外れちゃったみたいで直したんだ」

 

「どうりで見覚えあると思った。そういえば、前に自分でパンク修理してるとか言ってたっけ。自転車も詳しいの?」

 

「それなりには。バイクに乗る前は自転車がメインだったしね。今でも持ってるよ。ロードバイク。今度なでしこも誘ってサイクリングでも行く?」

 

 ずっとバイクばっかりだったから、たまには乗ってあげないとなあ。たぶん体力なくなってるだろうけど。

 

「久しぶりにチャリ乗るのもありかもな……わかった。考えておく」

 

「うん! 楽しみにしてるね。あ、そうだ。ピーナッツ食べる? さっき自転車直したお礼にあかりちゃんからもらったんだ」

 

「なんでピーナッツ?」

 

「さぁ?」

 

 二人で夕焼け空を眺めながらピーナッツを食べる。ほどよく塩気が効いてておいしい。

 

「伊豆、楽しみだね」

 

「双葉はどこ行きたいとかある?」

 

「まだあんまり考えてないけど、峠とか走ってみたいな。前は海沿い走るだけだったからさ」

 

 前と違って今回は時間もたっぷりある。きっと楽しい旅になるにちがいない。

 

「ならさ、西伊豆の高原に原付でも走れる道路あるみたいだし、行ってみようよ」

 

「なにそれめっちゃ楽しそう」

 

「あ、それとお母さんが双葉に峠の下りで前ブレーキは絶対かけるなだってさ。前にそれで落ち葉踏んでこけそうになったんだって」

 

「あれ? 咲さんバイク乗ってるの知ってるの?」

 

「バイクの話してたら勝手に自爆した」

 

「あっ……」

 

 ご愁傷様咲さん。あなたのことは忘れません……いや生きてるけどさ。

 

「今度双葉も話聞いてみなよ。お母さん隠してるつもりみたいだけど、たぶんめっちゃ詳しいと思う」

 

 だろうなあ。なんなら工具とかまだ持ってそうだ。

 

 どうりで本栖湖でガス欠したボクをリンが助けてくれたとき、ガソリン携行缶を持ってたわけだ。

 

 原付レベルで携行缶なんて持ってるわけないから不思議に思ってたけど、そういうことだったのか。

 

「それで、これからどうするの? もう帰るよね。どうせご飯まだでしょ? 家寄ってきなよ」

 

 いつの間にかリンの家に寄るのも当たり前になったよなあ。また咲さんにお菓子持ってかないと。ついでにバイクの話も聞こう。

 

「ありがと。でもこのあとあおいの家に行く予定だからまた今度ね。あかりちゃんがボクに会いたいんだって」

 

 この前のクリキャンであおいが作ってくれたすき焼きはすごくおいしかった。きっと鍋もすごくおいしいに違いない。

 

「お鍋ご馳走してくれるんだって。楽しみだなあ」

 

「……へぇ、ふーん、そっか」

 

 ボクの横でリンが言った。気のせいだろうか、声のトーンがめちゃくちゃ低い。

 

「リン、どうしたの?」

 

 ボクが聞くとリンがプイッと目を逸らした。

 

「もしかして、怒ってる?」

 

 顔を覗き込むと、リンはつまらなさそうに遠くを眺めていた。表情をみるかぎり怒ってるわけじゃなさそうだ。ほんとにどうしたんだろう。

 

「……べつに、拗ねてるだけ」

 

 あ、拗ねてはいるんだ。リンがそんなこと言うなんてちょっと意外。

 

「まあ、うそだけどな」

 

「うそかー」

 

 しばらく無言の時間が続く。

 

 曇っていた空はいつのまにか晴れていて西の空に綺麗な夕日が輝いていた。

 

「……そうだ。双葉」

 

 そうやって二人で夕焼けを眺めていると、リンがボクの名前を呼んだ。

 

「なに、リン」

 

「3月は伊豆行くって決まったわけだけど、今月はどうするの? どうせどっか行くんでしょ?」

 

 と、リンがわかりきったことを聞く。

 

「うん、もちろん。終わりのほうに連休あるしね」

 

「そういえばそうだったな。でも、もろテスト前じゃん。大丈夫なの?」

 

「ふっふっふ、こう見えてもボクは学年順位でいつもトップなのだー」

 

「まじで?」

 

「まじだよ。ってなにその目! さては信じてないなー!」

 

「いや、べつに疑ってないけど。普段の様子見てると……で、どこ行くの?」

 

「それなんだけど、まだ決めてないんだよねー」

 

「そっか、決まったら教えてよ。ついてくから」

 

「え? いいの? めっちゃ遠く行くかもしれないよ」

 

「最近キャンプに付き合わせてばっかりだったし、たまには双葉の旅にもついて行ってみたいなって。行っとくけど、とんでもないところだったら行かないからな」

 

「行かない行かない。ちゃんと常識的な距離だから」

 

 だいたい片道400キロ以内ってところかな。それなら16、7時間くらいでつけるし。

 

「なに一つ安心できねえ……」

 

 ふふふ……リンも早くおいでよ。楽しいよ。距離ガバ。

 

「その顔やめろ。で、どうするの? どうせアヤちゃんも来るんでしょ? 3人でどっか行こうよ」

 

「どうしよっかー」

 

 そう言いながらピーナッツを一粒頬張る。うん、おいしい。

 

 ピーナッツ、ピーナッツか。

 

 あっ、ピーナッツ!

 

 

 

 

 

「そうだ。千葉行こう」

 

 2月。ボクの新しい冒険がまた始まろうとしていた。

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