グツグツと熱湯が煮え立って行くのを眺め、少しばかりその熱で暖をとる。客商売をやっていてそれでいいのかと言われそうだが、もう冬だし、自分は寒さが苦手なんだからしょうがない。それに、もう準備だって終わってるんだし。いいでしょ。とその文句を言ったであろう居ない仮想の相手に向けて言い訳をしながら客を待っていた。
煮え立ったスープから目を逸らし、今日の朝に出た新聞を見てみれば…昨日、宝鐘海賊団が最近勢いのある若手の海賊団と交戦したという記事が書かれていた。結果は5隻ほどの船が沈んでいく写真を見ればわかる通り、宝鐘海賊団の勝利らしい。写真の中央には、沈んでいく船の中で学園時代の顔見知り同士がキスをしている姿がピックアップされていた。赤い海賊衣装を纏った少女がこちらに目を向けているので、撮られてる事を分かってやってるという事が分かる。…写真の端にサメのフードを着たサメ娘が写っているのは気のせいだろうか。なんだか2つくらいの船は明らかに大砲で開けた大穴じゃない穴が広がっているという事は…もしかすると……。
バサッ
「らっしゃーい」
暖簾をくぐる音が聞こえたので、即座に客商売の常套句であるソレを言う。
集中している時でもすぐに商売モードになるのはそろそろ役に慣れてきたからであろうか。
しかしまあ、匂いから分かってはいたが、いつもの
「大将。今日の一番いいのを頼む」
「ここ、寿司屋じゃないんだけど?」
「そうだったか?前に作ってくれた寿司美味かったんから、寿司屋でもやってんのかと思ったわ」
いつもの出会い頭にする戯れを済ます、コイツと私の恒例行事のようなもので一番最初に出会った頃からそれは変わらない。例え重要な話であった時でもするのだから、正直ペースが狂う。
というか、作った覚えのない寿司の感想を言われたところで特に大きな喜びは無かった。代わりに、わさびが大量に入った寿司でも食わしてやろうかと、古典的な悪戯が思いついた。今度機会があったら試してみよう。もしかしたら、引っかかるかもしれないと淡い期待を抱く。
……少し頭を戻そう。コイツが来たという事は私の
「で?本当は
「
少し意外だと眉を上げ、肩から力を抜く。先月はあれ程仕事があったというのに…信用を失った訳ではないだろうが、少し不安になった。
「なーんだ、今月はもうなくなったの?」
「いんや…そういう訳でもないが…まあ、またお偉方が裏工作しまくってるから依頼は来るだろう。今は一時休戦ってなだけだ。…でもまあ、覚悟はしておけ。多分次の仕事は過去最高って言っても過言じゃない」
前回もそう言ってなかったっけ?と、そう喉まで出かかったが、まあ過去最高なんて何度も塗り替えられるものだし、触れるほどのの事でもないか……と我慢する。しかし、また難しいとなると…今度は本当にやばいって事だ。前回も前回で情報伝達ミスもあったとは言え、死者が半端なかった。企業が本気に取り掛かってるっていう事実の裏付けだろう。
しかしまあ、こちらはしがないフリーの傭兵。アイツらの計画の意図さえつかめていないし、元々この街の住人でもない。本気でヤバいことする前にトンズラするのもアリだ。稼ぎは十分な程にしたし、あまりこの街に居る意味はない気がする。
「じゃあ、そろそろここも閉めなきゃいけないってことかぁ…やっとラーメンの味開発上手く行って好評だったんだけどなぁ」
「まあ、お前がここに居たいってんならまた俺が動くが…今回は街1つ吹っ飛んでもおかしくない規模だ。正直、お前の助けないと俺は死ぬ」
「…それはやだなぁ。てか、この前決めた約束。早速破らないでよ」
「僕は死にましぇーんってやt……すまん。ふざけ過ぎた。ごめんって、本当に、だからそのパイソンしまって下さい。てか、他の客来たらどうするつもりだ」
「次、約束でふざけたら撃つから」
本当は約束なんて陳腐な言葉で片付けたくはない。これは誓約だ。いくらコイツでもこの誓約を蔑ろにするなら私は許さない。
「一応意味合い的には合ってただろう。…俺が死んだらぼたんは死ぬし、ぼたんが死んだら俺も死ぬ。だろ?…今言ってみても狂ってんな」
「それ、客来てたら絶対引かれるから言わないでよ?」
まあ、引かれるどころか一生店に来なくなるだろうけど。というか、客がいないとはいえ、このイカれた約束をこんな外でスッと言えるのだから彼には驚く。私だったらまず言えずに約束と暗喩してはぐらかす。今みたいに。
「そもそもこんな恥ずかしいこと言えねぇよ。お前と二人きりじゃなきゃ」
それを聞いて、ほんの僅かだが、嬉しさで口角が歪んだ。
♢
「はい、ラミィラーメン」
「……冬に冷やし中華っておま……そこに煮え立ってるスープはどうしたスープは」
「追加料金になります」
ニッコリとした笑顔でそう答えると、彼は『このアマッ』と財布から千円札をだすと『熱いやつ頼む』と言ってきた。
毎度!と、その千円札を掠め取った私は即座に器に熱した湯を入れ、スープと混ぜる。その後に麺、ネギ、めんま、チャーシュー、海苔と順に具材を入れ、ごく普通の醤油ラーメンを完成させる。そして、文句を言いつつも素直にラミィラーメンを食べている彼に差し出した。
「温度を気にしなけりゃ、美味いんだよな…この冷やし中華も」
「へい。醤油ラーメン一丁お待ち」
「普通の出されると最初とのギャップに毎度違和感を覚えるのは凄いよな…これを商売上手と言えば良いのか…営業下手と言えば良いのか」
余計なことを言った彼に普通のラーメンを与えるという良心は無くなり、直ぐに悪戯の方向へ走る。
「ポルカにしとく?」
「せめてねねで」
妥協案を無視して私は完成させた醤油ラーメンに花火をぶっ刺した。
すぐに男の怒号と私のゲラ笑いが夜の街に響いた。
♢
Prrrrrr Prrrrrr
彼が食べ終わると同時に携帯の着信音が鳴り響く。余りにタイミングがいいので少し眉を曲げると、彼は私の意図を察したように私の方を向いて頷いた……成る程、早速仕事が来たらしい。まだやるかどうかなんて決めていないが…まあ聞いてからでも遅くはない。周囲に人が居ないか、盗聴されてないか確認し、携帯を開いた。
先にあっちが話したのか、彼の表情に変化があった。
「…ん、
ぴくっと耳が動く。彼の言う会長とはイントネーション的に気合いで人の姿を保っているというあの規格外ドラゴン娘だろう。…次代のドラゴン組合会長候補として名を連ね、
「…そうか、じゃあ、準備は整ったって事でいいんだな?………あぁ。…おう……それじゃ…頼んだ」
Pi
彼がその電話を切ると私に向かい合う。その一風変わった様子から、ただ事ではないと直感が教えてくる。
「最初、次の依頼はないと言っていたが……アレは嘘だ。俺からの依頼がある…今日話すつもりはなかったが…会長の準備が早くて助かった…少し場所を移そう。どこで誰か聞いてるかわかんねぇからな。悪いが今日は俺一人の客で終いにしてくれ」
彼にそう言われるがまま、私は店を閉じた。
♢
誰もいない廃墟を適当に選び、万が一を考えてまた盗聴器の類がないか調べてから会話を切り出した。
「まず、先に話しとこう。この計画は会長の準備が整うまではずっとお前に秘密にしとく内容だった…いや、時期が少しでも遅れたら早急に伝える予定だった。コレを聞けばお前はすぐに動くだろうからな。…あと、ぼたんと俺が協力したところでこの案件は絶対に死ぬ。それを防ぐために今回は秘密にさせてもらった」
私と○○が死ぬ?
「俺たちの雇い主となったプロメアカンパニー。最初はいい金になると金銭目的で依頼をこなしていたわけだが…どうもこのプロメアカンパニーはきな臭くてな、試しに探りを入れてみた。守りが馬鹿みたいに高くて俺のハッキングじゃ無理だったんで、友人の力を借りた。それでも危ない橋だったけどな…。だが、そのお陰でデータが手に入ったよ。そのデータってのが、ここ最近起きてる魔力暴発倒壊事件の犯人が、プロメアカンパニーだったという証拠だ。まあ、俺もこの時はその程度の事か…と落胆したが、付属でこんな情報が出てきた」
○○がポケットから出したボタン型の投影機。ボタンを押すと青いディスプレイの背景と共に文字と資料が浮かび上がってくる。そして、その映し出されたページの一番上には目を見張る文字が並べられていた。
「『天使と悪魔の融合臨床実験』?何これ。出来るわけないじゃん」
「まあ、それを出来るよう神の法則に抗ってんのがプロメアカンパニーだ。お前も知ってると思うが、普通に考えて聖の魔力と邪の魔力は共存できない。もし仮に、天使に無理やり悪魔の魔力をぶち込んだりしたら、互いが拒絶しあって母体の身体組織が壊死して最悪死ぬ。良くて廃人だな。悪魔も同じだ。……性質的には相反するが、互いの種族同士は仲良いんだから不思議なもんだよな…まあ悪魔が契約云々を単なるサービス業に変えてグローバルな社会進出を目指した結果とも言えるが……すまん話が逸れた。この実験をやるには聖の魔力や邪の魔力だけじゃ絶対に足りない。悪魔と天使の本体が絶対に必要になる。そして、その結果がコレだ」
「待って…嘘でしょ?」
目の前に映し出されたのは天使と悪魔が何かの装置に繋がれてその装置から『ナニカ』を抜かれている光景だった。
音は聞こえないが叫び声を上げているんだろう。口が大きく開かれ飛沫が飛んでいる。身体ももがくというよりは暴れている。見える限りの表情では苦痛に満ちた表情をしていて、あまり長くは見ていたくない映像だ。
…やがて、天使の翼は何もなかったように羽が黒ずみながら抜け落ちていき、悪魔の羽は焼き切れていった。
多分抜かれている『ナニカ』からああなっているとは思うが…単なる魔力じゃないだろう。あれは血の色に近かったが液体でもなかった…一体なんだアレは?ソレを抜き取っているこの装置は一体なんなんだ?
そして、その抜き取るの作業を終えたのか…動かない天使と悪魔に何人かの研究員らしき人物達が群がり映像は終わった。
「少し…整理が追いつかない……。あの装置は一体何?何が天使と悪魔から抜き取られているの?そもそもなんで天使と悪魔が捕まってんの?まさか、拉致ったの?あの天使と悪魔を?」
「あの装置はまあ、想像に任せるんなら、半天半魔という新たな種族を作ろうとする装置。そして抜かれてんのは魂か…魔力か…それとも俺たちが知らない悪魔と天使の本質的なものか…。悪魔と天使を拉致ったのは確実だろう…それも、真正面から叩き潰せるほどの曲者だ…プロメアカンパニーの社長。誰か知ってるか?」
「ソレ聞いてくるってことは其奴が拉致ってる犯人ってことでいい?」
「あぁ…。プロメアカンパニーの社長は表向きは人族として存在しているが、実際には人族じゃない。人族に完璧に擬態しているドラゴンだ。それも、今
「あぁー…。そいつが天使や悪魔たちを拉致ってるってことね?」
「正解だ」
「でも、なんで?実質この世界は実質ドラゴン組合が牛耳ってるって言っても過言じゃないぐらいドラゴン組合の手が伸びてるし…会長になれば世界支配したのと同じ意味になんない?それでも満足しないっていうのソイツは?」
「しないからこういうことしてんだろ…目的は分からんが…この案件はどうしても止めたくてな…」
ここで○○の意図が読めた。というか、誰が
だけど、今回会長のタツノコ組が全勢力を注いだとしても相手はドラゴン組合会長の最有力候補……流石に分が悪い。あの規格外ドラゴン娘なら若手最強なぞ打ち破るだろうが…組員はそうじゃないだろう。義理人情に厚い彼女がそれを許すはずも無く、今回は私たちの手を借りたということか……。
「かなたとトワ…捕まってるんでしょ?」
「まあ、ここまでヒント出しとけば流石に読めるか…正解だ。俺が最初にかなたとトワが捕まってる画像見た時はガチで焦ったんだけどな…いや… まあ、その時は実験開始まで2週間後だったから少し余裕を持てたが……。それでもここ最近快眠した試しがない…こりゃ事件解決した後にししろん式膝枕でもご所望しないと無理そうだ」
「今でもいいけど?」
「こんな廃墟で膝枕したら、ししろんの足が汚れるので、やめていただければ」
「じゃ、早めに事件解決しないとね」
「あぁ、実験開始まで残り三日…会長達が来るのは明日だ。そして、作戦決行は明後日。万全の準備を持って早急にかなたとトワを救い出す……ついでに、こんな馬鹿みたいな計画立てて半天半魔なぞ作ろうとしたクラクの野郎の計画は根絶やしにする。あ、勿論
「いや、それめっちゃ危ないじゃん」
ここからでも見えるプロメアカンパニーの総本山が、明後日にはラグナロクの終戦の如く崩壊している様を妄想すると…ほんの僅かに同情するが、私たちの仲間に手を出したんだから当たり前の罰と言えば罰だ。
「ん?」
「どうした?」
「今なんか視界の端で
───赤い鼠がいた様な?」
やっちったぁ………本当は作者が考えていたホロライブ オルタナティブ(パロ)の結構後の章に出てくる話を無理やりししろんとのイチャコラ??話に引っ付けました。
お陰で読む方達は混乱しているでしょうが、いずれ作者自身が描くホロライブ オルタナティブ(パロ)の予告映像か何かだと思えば…なんとなくスーッと入ってくるかもしれません……(読者に理解力を求める駄作者)
因みに一章は学生編から始まります。
名前が未決定なので今のところホロメンの彼氏的相棒的存在の人たちは全員○○で表しているから違和感が凄い。
所々ENメンバーとの関わりを掛けて書き手的に楽しい。あと、最近執筆できてないからリハビリがてら書きましたが…どうだったでしょう?
正直、描いてる時に言葉が出てこなくなってて作者自身は驚いていました。
というか、そろそろししろん×バイオを投稿&余命宣告主人公とホロメンの話を進めなければ!!