失われたアルズベリ事変【第一部完】   作:ノイラーテム

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バルトメロイの力

 イギリスのアルズベリで行われている計画は現世的なものだ。

第六魔法を目指す儀式をギリギリまで物理的に行い、最後の最後で神秘方向に切り替える。

 

ゆえに最終段階までは魔術協会も聖堂教会も手出しができない。

仕方なく最強クラスのエージェントを送り込み、用いられている最上級の礼装やら特殊な術式を持ち帰る抗争が練られていた。

 

この間までの話だ。

血の様に赤い月の下、電話のコールが鳴った。

 

「アロー、ムッシュ?」

『ハロー・レディ。何用かね?』

 女子高の王子様ことバルトメロイの転生者は鼻歌交じりに携帯を握った。

ロードともあろうものが現代技術に頼るなどとは言うなかれ。相手は電話で無ければ応じないのだ。興味が湧かなければ居留守だって使うので侮れない。

 

事もあろうにバルトメロイは魔術攻撃が飛び交う赤い夜に、呑気に携帯片手にお話ししている。

 

「単刀直入に行こうヴァンデルシュターム公。アルズベリから手を引いてくれないかな?」

『……それで私に何の得があるのかなロード・バルトメロイ』

 よく伝奇小説ではお偉方が罵りあう光景というものがある。

魔術師は吸血鬼を『人ヒル』と罵り、吸血鬼は人間を『クソの詰まった血袋』などというのだ。

 

しかし用件が交渉であるというならば、最初からそれでは収まるモノも収まるまい。

 

「そちらが殺して欲しくない祖がいるならターゲットから外そう。逆に始末して欲しい相手が居れば白翼の次に狙っても良い」

『ふむ。身内ではないから売っても構わないが……時にエスカルドスの末は元気にしているかね?』

 ヴァレリー・フェルナンド・ヴァンデルシュタームは死徒に置いて祖。

それも二十七祖と呼ばれる大物だ。現代文明が好みな風変りな祖なのでそれほど大きい派閥ではないが、それでも死徒の有力者であることに間違いはない。

 

そのヴァンデルシュタームが唐突に話を変えた。

正確には話を変えたように見える。もしバルトメロイが転生者でなければ首を傾げたであろう。

 

「ああ、彼かい? エルメロイの教室で見かけたよ。貴方と仲が良いのだって? 『彼』も貴方も狙わない、少なくとも私の代では。どうせならば楽しく殺したり殺されたりしたいからね」

『ならばよかろう』

 フラット・エスカルドスには一つの疑惑があった。

祖……それも真祖に転生するのではないかという疑惑だ。一部のモノだけが考察しているヨタ話であるのだが……。

 

古き盟友であるヴァンデルシュタームはそうなると信じていたし、王子様はそうなんじゃないかと想像していた。吸血鬼でしかない死徒と違い星の触覚たる真祖であれば、あの異様な能力も頷けるだろう。

 

『こちらの要望は三つ。一つ目はアルトルージュ一派に思い知らせてやってくれ。次に君の処の仮想世界に一口、もちろんゲームの方だけで良い』

「騎士たちの能力次第だけど出逢えば戦うから承ろう。最後の一つは?」

 二十七祖たちは互いに争わないが、ヴァンデルシュタームには苦い思い出があった。

気合を入れて作成した七つのゴーレムの一つが、祖の中でも有力者たるアルトルージュの一派に破壊されたのだ。以降、彼は表立って戦いはしないがいがみ合っている。アルトルージュは『姫』の紛い物というからというのもあるだろう。

 

それはそれとして後発のカルデアスは一つの仕掛けをしていた。

表世界では電脳空間を使った仮想世界であり、そこを使ったゲームとして公表している。この方法でならばアウトソーシングであちこちの組織に労力を丸投げできるのだ。ウイルスやバックドア対策は面倒だが、アルズベリより先んじるには仕方があるまい。

 

『私の事はフェムと呼んでくれないかな、レディ? 機会があれば一勝負どうかな?』

「承ったムッシュ。その時は仮想世界で魔物ならぬ英霊のトーナメントでもしよう」

 ヴァンデルシュタームは何が気に入ったのか、愛称で呼ぶこと許しカジノに招待した。

転生者であるバルトメロイは賭け事にサッパリ自信が無かったので、エクストラをモデルにした仮想世界でのゲームに花京院の魂を賭けることにする。

 

フェムは愉快な相手だったので、もう少し話して居たいが……。

生憎と『パーティ』が佳境に入ったようで、流石に呑気に通話は難しくなってきた。正確には彼女はともかく部下たちの方に損害が出てしまうだろう。

 

「では佳い夜を」

『では佳い夜を』

 適当な所で話は打ち切り、楽しい会話は終了した。

そして戦場を眺めて部下たちの様子を確認する。

 

 周囲に展開する三十六人の正規メンバーに変動はない。

原作に置いてクロンの楽団と呼ばれ、五十人でありながら『大隊』と呼称する精鋭部隊だ。彼女は質を上げる意味でも、リクルートする手間の問題も合わせて三十六人にシェイプアップしていた。

 

「伊達男は引き揚げた。これでもアルズベリがカルデアスを上回ることが無くなったよ」

「それでこの攻勢でしょうか? 連中も必死ですな」

 会談の最中、戦闘を任せていた副官が報告する。

とはいえ祖が来てるわけでもないのに敗北する弱者が選ばれる訳も無いので、『何もない』との現状報告でしか無かったが。

 

問題があるとすれば、吸血鬼たちが真価を発揮する『赤月』ということだろうか? 赤い月の登る夜には奴らの能力が底上げされるという。

 

「ノルウェーのルヴァレが死神だかエンハウンスだかに討伐されて、祖の候補が居なくなったのもあるんじゃない?」

「ここで功績を上げれば祖に繰り上げてもらえると? ていの良いエサになるだけでしょうに」

 原作に置いてバルトメロイはルヴァレと呼ばれる強大な死徒討伐に赴いた。

そこで『祖を殺す祖』と『死神』と出逢うはずだった。しかしながらこの世界線ではカルデアスに関わっているので運命が変わっている。

 

「だからさ、連中はその辺の詳細を下っ端には聞かせてないのさ。真相は人ヒル共の宰相候補たちだけが知って居れば良いって事なんだろうよ」

「さもありなんといった風情ですな」

 バルトメロイの予測では、死徒側の目的の一つは『闇の六王権』だ。

原作では特に語られていないが、死徒の大元である『朱い月』から受け継いだ血を濃くして特殊能力を奪い合う蟲毒であろうと予測した。聖杯戦争と同じで人数合わせも必要なので、下っ端には正確な情報は不要なのだろう。

 

少なくとも宰相代理として死徒たちを統制する、最大派閥の白翼公トラフィム・オーテンロッセはそう信じていたと思われる。他の祖の反応を見る限り……能力を奪い合うゲームではなく、強制的に融合させるキメラのように見えるのだが。

 

「ともあれ攻勢を強めているのは確かですし、『左翼』を投入しますか?」

「あの子たちは自分の用事以外じゃ動かないでしょ。呼びつけるのも面倒だし、ボクが力を貸そう。普段から使い易い能力でもないし、偶には使わないと」

 三十六人にシェイプアップした楽団を正規メンバーとして、無個性の右翼大隊と呼称。

開いた枠に性格やら出自やら問題のある者たちを集めて、個性重視の左翼大隊としている。元犯罪者や封印指定スレスレの連中はこちらの枠だ。政治取引や恐怖で従えて予備戦力として使っている。

 

だが代価や恐怖で従えていると言っても呼ぶ為の時間がある。

犯罪者は監獄だし時間が惜しい。即座に使える手があるならと、普段は使用しない能力を使用することにした。

 

「……ああ、世界はこんなにも歪だ。足りないモノが多過ぎる」

「ロードが涙を……」

「しっ。魔眼を起動したんだ」

 バルトメロイは自身にはそれほど有用でない魔眼を有していた。

強大な魔術回路の持ち主が有することもあるノウブル・カラーに類するランクだが、能力ランクの問題で『自分には』あまり意味が無いのだ。

 

バルトメロイの視線に歪なモノが混ざり、周囲に漂い始める。

目玉に空気が混じると生じる飛蚊症にも似た動きで、ゆらゆらと、だがしかしその数を多くしていった。

 

「何よりも、正しい世界にボクらが耐えられないのが悲しい……」

「うおっ! クルな……これは。彼方より寄せるエーテルの波が……」

「自意識を保て、流されるなよ」

 クロンの楽団周辺にエーテル流が集まってきた。

魔力の塊が空気として周囲に漂い、オドの中に混ざり始めていく。バルトメロイの魔眼はこのエーテルの流れを操る『導魔の目』だ。半端な魔術師ならば魔力酔いで意識を保てなくなるが、講師級であれば正しく自分の力を強化できた。

 

もっとも……完全に完成したバルトメロイには何の意味も無いのだが。

もし遠坂凛のように宝石に流しこめるような家系魔術を有して居れば、これ以上ない程の相性だっただろう。

 

「バルトメロイ。ご命令を」

「見敵必殺、殲滅戦だ。不慮の事態にはボクがあたる。謡え」

「我らが、ハー・マジェスティの仰せのままに!」

 戦闘面だけならばいずれも講師級の魔術師たち。

無個性で大した能力が無いとも揶揄されるが、真価を発揮するのはここからだ。無個性ゆえに協調し易く、無個性ゆえに主人の強化で幾らでも化ける。

 

そして何より、即座に儀式魔術の集中に入れる速攻性こそが『楽団』と呼ばれる所以であった。

 

「「我らは至上の主の軍隊にて」」

 

「「天に変わりてその空を揺らす腕である」」

 

「「天は我なり、我は天なり、我は号する、走り抜ける天津風」」

 

「「破却せよ」」

 

「「破却せよ」」

 

「「主を阻む敵を破却せよ!」」

 

 テンカンウント・スペルと呼ばれる儀式魔術が輪唱にてあっけなく発動された。

 

 やがて、ソレが訪れた。

大いなる烈風が町の区画そのものを揺るがし始めたのである。

 

瞬間的に発生したハリケーンが時に真空刃を伴って走り抜けていく。

飲み込んだ何もかもを切り裂きながら疾走していく。それは暴風であり、形のない武器の塊であった。

 

瞬間的に発生させたのに高度に制御された術式。もしバルトメロイがこれに文句を付けるとすれば……。

 

「わっぷ。ボクと同じ術とか……も~これじゃあボクが目立てないじゃないか」

 バルトメロイの属性は風。

先んじて使用されれば警戒されてしまうが、そんな事を気にした様子も無かった。もちろん天の主に例えられた事など日常茶飯事過ぎて回数を覚えても居ない。

 

バルトメロイの魔術はこれといって特色を持たないのだ。

だが楽団の主人に相応しいのは同じ無色の個性だからではなく、基礎を極めれば特色など不要と言うランクの高さにあった。

 

『菱理です。逃げ出し始めた一部の死徒が寄宿舎へ』

「人質のつもりかな? それとも駄目元でレアな血の持ち主でも期待したか……まあいいや、ボクが向かうよ。左翼の子が居たよね? 起きてたら迎撃準備だけさせて置いて」

 化野菱理には近くに居るついでに戦場全体を監視させていたのだが……。

どうやらこちらの施設をある程度は掴まれているらしい。嫌がらせの為にアルズベリの近くで事業を始めたことも影響しているのだろう。

 

そして今回狙われているのは、魔術師のタマゴたちの中でも電脳空間に拒否感が無い者たちを放り込んだ学校だ。エルメロイ二世に作らせた教本で勉強させていることもあり、それなりに有望な魔術師の子弟が揃っていた。

 

『そうしますが、寝ていたらどうします?』

「夜這いに行ってパクパクしちゃおうか。その子がメインディッシュで人ヒルが前菜だね」

 クスリと笑いながらバルトメロイは屈伸を始めた。

人間の体力では相当な距離があるが、彼女の前には意味をなさない。風属性は汎用系で移動術式も強化術式も揃っているが、バルトメロイの家系魔術が影響していた。

 

バルトメロイの家系魔術は『万能』である。

もちろんそれは器用貧乏であるとか、中途半端という言葉とは無縁の物だ。何しろ近代魔術の成立前から存在するバルトメロイには、魔術属性に対する『天井』が存在しないのだから。

 

「ザフィケルよ」

 移送を司どる座天使の長の名前。

その一言でありえないほどの魔力を術式に注ぎ込んだ。通常の魔術であれば注ぎこめる閾値が存在するのだが、彼女の術はソレを遥かに超えている。

 

普通、魔術という物は効率が悪くなる上に制御が難しくなる。

火炎による防御や水での攻撃など相性が悪い術が存在する。二倍の魔力を込めて三割増し、三倍で五割、四倍五倍と支払ってようやく二倍というのも珍しくはない。そこで使い易くするために上限値を設けて、簡易発動するのに便利な様になっているのだ。

 

バルトメロイの魔術はそれら近代魔術が発展する前から存在している。

ゆえに天井が存在せず、かといって普通の魔術師の様に数倍の魔力を支払ったら枯渇するようなことも無い。魔術回路の少ないエルメロイ二世が嫉妬するほどの魔力を込めて高速移動を開始した。

 

「いっくよー。子猫ちゃん達、夢を見ながら待っててね♪」

 もちろんそれは単純に普通の魔術師の二倍・三倍という意味ではない。

普通の魔術師の魔力がバケツ数杯だとしたら、優秀な魔術師でプール一杯分。バルトメロイの魔力は石油コンビナートには残念ながら及ばないというレベルであった。

 

そして石油鉱脈ではなくコンビナートというのが肝だ。

魔力を生成し、効率よく運営するという意味でバルトメロイの魔力回路は群を抜いている。自分の魔術で発散する魔力の一部を取り込み直し、再循環させる荒業を平然とこなす。尊き血筋の事をブルーブラッドと呼ぶが、バルトメロイの魔術刻印は黄金比である。まさしく無尽蔵の魔力を持つかのようであった。

 

『直線で来た!? 馬鹿め!』

 町のど真ん中を疾走し、時に屋根を飛び越えて町を横断する。

その姿を発見した死徒たちは迎撃、あるいはバルトメロイだと気が付いて抹殺しようとした。弾丸よりも早く走る飛ばし屋の吸血鬼ならば、今のバルトメロイに追い付くのも瞬間的には難しくない。

 

関節の一部を破壊し、再生しながら迫る吸血鬼たちの群れ。

だがバルトメロイの心は既に寄宿舎で眠る子供たちの物。視線を巡らせながら本命以外……失礼、元本命である祖候補の死徒以外を適当にあしらう事にした。

 

「ラファエルよ。天に六芒輝きたり」

 バルトメロイの魔術は万能で特色を持たない。

だからと言って彼女の魔術に特化した術式が無いではないのだ。前方を守護する天使の名前は速度特化の拡大術式。超高速で編まれた数枚の風羽がそれぞれ一斬で名も無き死徒を片付けるに足る力を持っていた

 

出現したのは都合、十二枚。

天使の翼ではなく二重の六芒星を描いて出現し次々と飛び立っていった。

 

「我が血よ、沸騰せよ! 煮えたぎる血の刃と……グハッ」

「あれほどの速度を維持したままだと! 馬鹿な。速過ぎる!?」

 同時並行で強大な術を行使することは難事である。

しかしながらロード級の魔術師ならば鼻歌交じりに実行してのけるだろう。ましてやバルトメロイであれば仮に重傷を負っていてもやり遂げるに違いない。

 

十二の風羽は一つ一つが魔術師上がりの死徒程度では考えられぬほどの威力で、防ごうとしたモノも防御しようとしたモノも、まとめて葬り去ったのである。

 

「死ね! 雷撃を受けろ!」

「ダメだ。ロード相手に魔術は効き難い。くそ、迎え討て。肉弾戦だ!」

 例えるならば、その戦いはサカサマだった。

まるで人間と吸血鬼の戦いを逆様にしたようだ。ハッキリ言えば誰もが相手になって居ない。

 

死徒が編んだ魔術よりも先にバルトメロイの魔術が炸裂するのはまだいい。

問題なのはバルトメロイには攻撃系の魔術が少しも通用せず、当てられないか当たったとしても無力化されてしまう。逆に死徒は一発でも当たれば重傷、生き残った者も赤い月が出ているから保っているようなものだ。

 

「赤月を選んでこれかい? 面倒だから相手するのはここまでにしようかな」

「舐めやがって!」

 クスリと笑う王子様に吸血鬼が頭にきたらしい。

よせば良いのに真正面から突入して、鬼と呼ばれるほどの剛力で殴り掛かって来たのだ。

 

マッハの速度とマッハの速度がぶつかり合えば、その相対速度はいかばかりか?

 

「君だけを相手にしてられないんだよね。ガブリエルよ! 四囲に五芒は炎を上げたり!」

 後方の守護天使の名前は球形の術式展開。

同時に智天使の長でもあるその名前は、情報系術式の起動式でもあった。

 

半径数kmにおよぶ探知結界を放ちつつ、自分の周囲へ球形の旋風を吹かせて攻性防壁と為す。死徒はそこへ目掛けて突っ込むのだからたまらない。

 

「クソ……が。主よ、おゆるしくださ……」

「見つけた! あいつが君らの上司かい? あ……もう喋れないか。ゴメンね」

 芝刈り機の中に草が突っ込めば運命は一つでしかない。

バルトメロイが逡巡する間に死徒は木っ端微塵に砕け散っていた。血潮を浴びる間もなく全てが吹き散らされていく。

 

「ばっ……化け物……」

「君らが言うなよ君らが。まあ良いや。後は任せた」

『ここは我らにお任せを』

 そうこうする間にクロンの楽団が周辺の掃除を終えた。

その場を任せてバルトメロイは寄宿舎目掛けて突っ走る。もちろん彼女の力量ならばこの距離からでも倒せるが、そこは可愛い子ちゃんの顔を直接見たい以外の理由などはなかった。

 

既に戦っている左翼大隊所属の見習い娘を助けるというか、その子の顔がみたいだけの理由で突っ走ったのだ。

 

「だってこの世界じゃ初めて会うんだもんね。楽しみだなあ」

 そう、左翼大隊に放り込んだイレギュラーは原作に登場する人物である。

転生者が居る時点で完全に原作と一致はしないだろうが、だからこそ違いも含めて気になる存在だ。この点に関してフラットが英雄にあってみたいだけで北米の怪しげな儀式に参加したことを責められまい。

 

超高速で町を駆けながら、視線の端に写った『肉弾戦』をマジマジと眺める。

 

「う~ん。ポテンシャルはともかく経験値はダンチだから仕方ないね。ちょっとだけ助けてあげようか」

 寄宿舎の中で踊る二体のナニカ。

目にも留まらぬ超高速で、あるいは足を止めてのブルファイトで地味に戦い続けている。

 

普通の魔術師であればとっくに死んでいるだろう。新人だから及第点と甘めに点数を付けているが、ソレが甘いのかそれとも苦いのかはもう直ぐ判る。

 

「ミカエルの剣よ!」

 右方の守護天使は常日頃から使う力を示す。

バランスよく練り込まれた魔力は、注ぎ込むだけで威力と射程が幾らでも伸びていく。

 

天へ、天へ、天空へ。

彼方からでも見える真空の剣をその手に作り上げた。もし振り下ろせば寄宿舎ごと吹き飛ばすだろう。コンクリートの建物如きバルトメロイの前には塵にも等しい。

 

「死なないでね子猫ちゃん?」

 まあ大丈夫だと知って居るんだけどさ。

そんな風に無責任な言葉が風に溶けて消えた。

 

しかして寄宿舎には絶叫が木霊する。

うら若き乙女、いわゆるJKの絹を裂くような悲鳴が響き渡った。

 

「ちょーっと! しぬしぬしぬ! 遠野くんと再会する前に死んじゃうってば! シーオーン! 何とかして―!」

『いま手が離せない。自分で何とかしてほしい』

 先ほどまで死徒と乱闘していた少女がハッキリと悲鳴を上げた。

天空より振り下ろされる風の刃を受ければ即死以外ありえない。例えそれが吸血鬼と殴り合えるような猛者であろうともだ。

 

「気狂いめ。自分の施設などお構いなしか。こんな所で『仲間割れ』している余裕はないな。お嬢さん、また逢おう……」

 襲撃犯は『少女』が自分と同じ目的で侵入したライバルだと判断したようだ。

即座に撤退を考慮し後方に飛びずさると、逃げるのではなく一時休戦だと捨て台詞を残して霧と化した。

 

ちなみにこの少女がバルトメロイの百合セクハラに遭うのはもう少し先の事である……。




 と言う訳で戦闘回です。殆どギャクと化していますが……。
原作ではため息交じりに城をぶった斬るレベルなので似たような物。

次回は『フラット君死す!』みたいな感じの話になります。

●バルトメロイの能力
 資料が少なすぎるので、思いついたアイデアを元にしています。

・魔術属性『風』
 万能型でこれといった特色はない。
ただしゲームで言えば普通の魔術師が下級魔術5レベルから上級魔術を覚える……。
というのに対し、バルトメロイは少なくとも10レベル、相性が良い時はは15レベル。
(達成値とか難易度の問題で、拡大倍率がおかしく、まず失敗しない)

・家系魔術の特性『万能』
 効率重視の上限が無い。
火なら威力を上げ易いが、風だと効率悪いから威力上昇が抑え気味……というルールがない。

・魔術刻印『黄金比』
 魔力変換の効率が良く、年代の経過対策もあるという優れ物。
ただし得意とする魔術傾向は存在しないし、埋め込まれた術も少ない。

・魔眼『導魔の目』
 エーテルを操って動かす。
キャス子さんとか神代の魔術師がデフォルトで持っていた能力。
凛とかメルヴィンなら有益だが、頂点であるバルトメロイには意味がない。
魔術の王が持つという、エーテルの形状を変化させる神霊眼の劣化互換。

・クロンの楽団
 50人の講師級魔術師で組まれたユニットだったが、36人にシェイプ。
彼らを右翼大隊として、イレギュラーメンバーを12人で左翼大隊としている。


●参考文献とキャラ
『サイレントメビウスの香津美・リキュール』
『KOGの吹きすさぶ風のゲーニッツ』
『少年魔法士のカルノと勇吹』
『スペクトラルフォースの魔剣ランシュヴァイク・雌』
となっております。
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